剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 対魔忍RPG、キャラをレベル100にするのは苦行だと改めて知った。

 辛い。

 本年ももう少し、紅ゲットにはクリスマスとお正月に運気を駆けるしかないと思います。

 今回のイベントのレイドボスがお腹いっぱいの作者より。


日記5冊目

◆〇月◆日(雨)

 

 

 忙しい時というのは時間の流れも速く感じるものである。

 

 前回の日記から早一年、これまで色々な事があった。

 

 アサ子さんは『米田静子』と名を改め、整形手術後はじっちゃんの病院で業務補助をしながら看護士を目指している。

 

 先月の末に高等学校卒業程度認定試験に合格したそうで、今月半ばには専門学校の入試が控えているとか。

 

 あんな生活から脱却して少ししか経っていないのに、よく頑張るものである。

 

 あと、権左の兄ィが静子さんと付き合い始めたという情報も小耳に挟んだ。

 

 聞いた時には本気で驚いたものだが、遊びではなく結婚を前提にした真剣交際ということなので、こちらとしても口を挟むつもりは無い。

 

 日頃世話になっている身としては、二人の関係が上手くいくことを願うばかりである。

 

 さて、今日は6回目のふうま一党の会合があったのだが、ここで俺はみんなからお叱りを受ける事になってしまった。

 

 原因はこの一年余りにおける俺の東京キングダムでの活動にある。

 

 約一年前に立ち合ったアスラ(なにがし)は魔界でも名の知れた剣豪だったらしく、奴を倒したことで俺の存在は日本にある魔界都市と魔界本土に知れ渡ってしまった。

 

 それを切っ掛けとして魔界に引っ込んでいた武闘派達が、次々と人間界に進出してくるようになったのだ。

 

 目的は勿論、魔界における伝説の剣士の後継なんて妙な属性が張り付いた俺の首。

 

 今思えばこの時点であの仮面を封印すればよかったのだが、任務の度に喧嘩を売られるあの雰囲気は心地良かったのと実戦の勘を研ぎ澄ますチャンスとあって、俺もノリノリで向かってくる奴等を次々と薙ぎ倒してしまったのである。

 

 覚えてる限りだと魔族の剣士のキシリア・オズワルドに二枚の盾の自動防御とレイピアの使い手である魔界騎士カルメア。

 

 剣をへし折ったら一気にヘタレた自称『嵐騎』のリーナ、あとは黒炎の魔剣使いイングリッド。

 

 あの時は歯応えのある立ち合いとガンガン上がる剣腕に『最高にハイって奴だーー!!』になっていたので、後のことなどまったく考えてなかった。

 

 こうして東京有数のムジュラーとして俺の存在は順調に魔界の武闘派ランキングを駆け上がる事となり、それに比例するようにヨミハラや東京キングダムに流入するバトルジャンキー共の数が激増。

 

 かつては人魔の欲望が渦巻く暗黒の歓楽街で鳴らした両都市は、今や段平片手に闊歩(かっぽ)する馬鹿どもが所かまわず斬り合いをおっぱじめる修羅の国へと変貌してしまった。

 

 ああいう奴等は弱い者いじめをしないので観光目的の堅気の衆や非戦闘員に実害はないが、少しでも腕に覚えがある奴を見ると『目が合った』なんてチンピラみたいな理由で斬りかかる習性を持つ。

 

 そんな脳筋ヒャッハー共の煽りをモロに受けたのが、米連・対魔忍・ノマドの戦闘員たちだ。

 

 任務中だろうとプライベートだろうと、相手の都合などお構いなし。

 

 『俺の名は○○! もう一戦()るか!!』てな感じで、喧嘩を売りまくってくるのである。

 

 こんなアホみたいな奇行がそこら中で起こっているのだから堪らない。

 

 幸い、ふうまの人員に被害を受けた者はいなかったが、上記三勢力には結構な数の死傷者が出る事となった。

 

 そんな状況に事態を重く見た彼等の上層部は、原因である仮面の剣士の討伐を決定。

 

 それを聞きつけたヒャッハー共がさらにチョッカイをかけるようになり、事態は加速度的に混迷を深める事となったのだ。

 

 さて、今回は反省の意味も込めて、録音していた会話をダイジェストで書いていこうと思う。

 

「さて、若様。此度の元凶である仮面の剣士、それが貴方であるという骸佐の言は本当でしょうか?」

 

「おのれ、骸佐め。俺の右腕でありながら裏切ったか」

 

「み、右腕…………。くっ、上手い事を言って煙に巻こうとしてもそうは行かねえからな! つうか小太郎! お前、何仮面の剣士として名前売ってんだよ!? 売るならふうまで売れよ!」

 

「いや、忍が正体ばらしたら(まず)いだろ。だから仮面被ってんだけど」

 

「しかし若様、今回の一件はいささかヤンチャが過ぎますのぅ」

 

「心願寺殿の言うとおり。主流派の老人たちも『魔界の大物が日本に踏み込んだ』と、血眼(ちまなこ)で行方を追っておるのですぞ?」

 

「俺としてはこの面を(ゆず)ってくれた人の言葉を信じて、魔界の武闘派とパイプができればと思ってたんだが……」

 

「パイプを作るって、片っ端からぶった斬ってたら意味ねーだろ」

 

「人を殺人狂みたいに言うな。戦意喪失した相手は見逃してるし、邪魔が入って逃がした奴だっておるわい」

 

「若様、あなたはそうやって何人の魔族を殺してきたのですか?」

 

「100人から先は覚えてない!!」

 

「羅将ハン乙」

 

「若様! 骸佐!! 権左!!!」

 

「「「サーセン」」」

 

「御館様に反省の色が見えないようですし……各々方、ほとぼりが冷めるまで例の仮面を没収という事でどうでしょうか?」

 

「我々としてはほとぼりが冷めるまでとは言わず、永年没収でいいと思うのだが」

 

「待ってくれ、時子姉! あと甚内さんも! それは俺のライフワーク! ライフワーーーク!!」

 

「斬り合いがライフワークってどうなんだ……」

 

「というか、忍術に目覚めていないのにここまで強い方が問題でしょう」

 

「権左、それ今更」

 

「若様はふうまの頭領たる自覚を今一度お確かめください。貴方にもしもの事があれば、ふうまは終わりなのですよ?」

 

「正直すまんかった。ちょっとはしゃぎ過ぎました」

 

「ならば、没収という事で構わんな。では災禍よ、例の仮面を所定の場所に封印せよ」

 

「御意」

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 と言う訳で、残念だがムジュラーとしての活動は自粛(じしゅく)せざるを得なくなった。

 

 東京キングダムにはまだまだ魔界の強豪が集まってきているのに、勿体ないことこの上ない。

 

 こういう時、頭首の座ってのは窮屈だと思う。

 

 ただの下忍だったら抜けるなり、上の命令をブッチして好き勝手するなりできるのに……。

 

 とはいえ、銀零の事もあるし次の春には俺も中学生だ、短絡的思考は控えるべきか。

 

 ほとぼりが冷めれば、またあの仮面も戻ってくるだろうし。

 

 当面は日替わり仮面で頑張ろうと思います。

 

 

◆▲月◆▽日(くもり)

 

 

 ようやく厄介事の処理が済んだので、日記に書こうと思う。

 

 切っ掛けは主流派経由で政府から降りてきた任務で、内容は『カーラ・クロムウェル』という女吸血鬼の暗殺。

 

 日本に拠点を持っている魔界勢力の大物を消す任務は対魔忍にとって珍しくないので、何時も通り遂行の前段階として相手の情報を洗っていると妙な事に気が付いた。

 

 このカーラという吸血鬼、どこぞにある吸血鬼の王国の女王で親人間派だというのである。

 

 一緒に情報を精査してくれた災禍姉さん曰く、この国は百年前に人間と相互不干渉の条約を取り決めており、それを違反する者は容赦なく排除されるのだとか。

 

 事実、彼女は吸血鬼の血液を原料にした媚薬の流通と人身売買を行っていた犯罪組織を撲滅し、組織のトップだった叔父を自らの手で抹殺している。

 

 そんな人間と吸血鬼の関係悪化を防ごうとしている彼女に何故抹殺命令が下ったのか?

 

 その裏には大物政治家とノマドとの癒着があった。

 

 エドウィン・ブラック自らかそれとも幹部の独断かは不明だが、複数のダミー会社を経由してノマドから振り込まれた多額の政治献金の見返りとして、その政治家にカーラ女王の暗殺が依頼されたのだ。

 

 どうもブラックも例の条約の違反者として粛清対象となっているようで、彼女は人間の吸血鬼ハンターと手を組んでノマドの施設をいくつか壊滅させているようだ。

 

 今回の依頼もそういった経緯で出されたものだろう。

 

 話を戻すが、献金に目が眩んだ政治家は半ばごり押しのような形で公安へと依頼通りの命令を発信。

 

 如何に山本が有能でも上からの決定を突っぱねる事など出来るわけもなく、話は対魔忍へと下ってしまった。

 

 日本に蔓延(はびこ)る魔を討つのが対魔忍の役目ではあるが、今回の任務は種族が違うとはいえ国際問題である。

 

 さらに言えばこの女王、陰陽寮を祖とする日本で指折りの退魔結界の大家である上原家の当主や日本最強のヴァンパイアハンターと知りあいなのだ。

 

 そういうワケなので仮に暗殺に成功しても穏便に済むはずがない。

 

 大物政治家としては形式上公安の第三セクションに所属しているとはいえ、イリーガルな集団である対魔忍をトカゲの尻尾とする気満々だったし、海千山千の輩である老人共だってその思惑は掴んでいた。

 

 だからこそ奴らは俺を指定してきたのだ。

 

 今回の依頼の成否にかかわらず、事が問題となった時点で更なるトカゲの尻尾とするために。

 

 以前に反乱を起こした前科があるふうまなら、政治家の甘言に乗って暴走したと言ってしまえば説得力も充分だろう。

 

 クソッタレこの上ない依頼だが、経緯はどうあれ正式な指令なのでブッチは出来ない。

 

 さらに言えば、成功しようと失敗しようとスケープゴートとして責任をなすり付けられる事が確定している為、放置していれば破滅まっしぐらである。

 

 窮地に立たされたこちらが生き残るには、今回の件で派遣される全ての刺客を事前に排除して女王に襲撃を悟られないようにするか、もしくはターゲットを味方につけるしかない。

 

 そんなワケで俺が選んだのは後者である。

 

 指定された襲撃ポイントに向かったところ、ターゲットが現れるとすぐにノマドのエージェントが女王達に襲い掛かった。

 

 万が一の時の為に戦力査定として観戦していたが、流石は吸血鬼の女王である。

 

 己の影から次々と使い魔を召喚する物量攻撃は、ノマドの私兵である魔族やオーク達を容易く蹴散らしていた。

 

 護衛の女の方も相当な腕で、こちらも影すら掴ませずに襲撃者達を次々に倒していく。

 

 動きからして正規の騎士ではなく暗殺等々を任務とする部隊の出なのだろうが、得物がチェーンソーなのはギャグの類だと思いたい。

 

 こちらとしては思わぬ事態ではあるが、対魔忍に下される魔族の暗殺任務ではこの手のトラブルは珍しくない。

 

 ウチのターゲットにされる奴は大体が裏社会の大物なので、方々から恨みを買っている場合が多いからだ

 

 なので、こういった場合に対魔忍が選ぶ行動は決まっている。

 

 双方が疲弊するまで戦わせて漁夫の利を得るのである。

 

 そのセオリーに(のっと)って辺りに漂う消しきれなかった気配を辿ってみれば、案の定待機している対魔忍の一団を見つけた。

 

 奴らは井河派に属する暗部。

 

 抜け忍の抹殺から他流の要人抹殺等々、江戸時代に井河が伊賀と名乗っていた頃から綿々と続く汚れ仕事専門の裏方部隊である。

 

 名目上は井河の当主であるアサギの下に付いている事になっているが、実際に奴らの実権を握っているのは老人会の面々だ。

 

 並の上忍よりも数段腕が立つうえに対魔忍キラーである奴等を動かしたという事は、老人達は女王諸共俺も消すつもりだったのだろう。

 

 女王の亡骸と共にふうまの頭領たる俺の死体まであったなら、残された皆は言い逃れようが無いからな。

 

 もっともそんな思惑に乗ってやる義理などこちらには全く無いので、こちらの接近にも気づかずにがん首並べていた暗部の皆様はサクッと処理させてもらった。

 

 圏境を修めた俺は人間を始めとする生物を標的にした暗殺の成功率がすこぶる高い。

 

 女王達の戦闘が終わりを迎える少し前にバックスタッブで暗部連中の首を刎ねた俺は、刺客たちを血の海に沈めた彼女達の前に降り立った。

 

 暗部の奴らの生首を土産にして、だ。

 

 こちらを警戒する彼女への自己紹介もそこそこに俺は彼女達に取引を持ち掛けた。

 

 証拠付きで今回の襲撃事件の全貌を明かす代わりに、撃退にはふうまの助力があったと証言してもらおうというのである。

 

 調べたところ、カーラ女王は人間界の地位としては北欧の王国の貴族にして親善大使という職に就いていたりする。

 

 未遂とはいえそんな彼女に害が及ぼうとした本件は国家規模のスキャンダルであり、金銭欲しさにそれを主導した事が明るみに出れば如何に大物政治家と言えど切られるのは確実だ。

 

 そうなれば公安を通じて奴が下した今回の命令は無効。

 

 むしろ暗殺命令に疑念を抱いた我等対魔忍が、逆に護衛として人員を派遣したとすれば累も及ばないという算段だ。

 

 これに関しては当人よりも護衛官の方が難色を示した。

 

 まあ、ウチが女王をマトに掛けていたのは事実なので、こっちの都合がいい風に語れと言われれば護衛としてはしかめっ面の一つも浮かべたくもなるだろう。

 

 その辺は生首になった暗部がどういった連中かというのを説明し、この件に加担した上層部の力が確実に削がれたと語る事で溜飲を下げさせた。

 

 粗方の事を語り終え、証拠と首謀者の名を代価に条件を呑むかを再度問うたところ、カーラ女王から意外な申し出があった。

 

 なんとこちらの実力が見たいので、彼女の護衛官であるマリカ・クリシュナというねーちゃんと戦えと言うのだ。

 

 曰く『そちらの話に乗る以上、私達と君は共犯者。もしもに備えてその力量を確認したいのよ』との事。

 

 なるほど、そう言われてはこちらも断るわけにはいかない。

 

 そういうワケで一戦交えて来たのだが、手合わせ自体は数合得物を合わせただけで終わった。

 

 というのも、三合ほどで相手の癖を読み取った俺が次合で相手のチェーンソーを叩き斬ったからだ。

 

 というか、何故あんな物を得物に選んだのだろうか?

 

 音はデカいわ、大きくて取り回しは悪いわ、さらにはチェーン一つズレただけで使い物にならなくなる不安定ぶりだ。

 

 ルーン文字で強化保護されていたらしいが、それなら普通の剣を使った方が何倍も便利だろうに。

 

 なんか護衛官が『そんな馬鹿な……』とか言いながら呆然としていたが、あえて見ない事にした。

 

 弁償とか言われても、ウチにはそんな金はありません。

 

 てな感じで、無事と言っていい物か迷うところだが手合わせも終わった。

 

 アカレンジャーの面を被った俺の顔をしげしげと見つめた女王は、小さく笑った後でこちらの案を受け入れてくれた。

 

 むこうが提案を呑んでくれたのならば後は話は早い。

 

 証拠品と共に日本側の首謀者である政治家の名を受け取った二人は現場を後にし、俺は迎えを依頼した災禍姉さんと合流した後で暗部の遺体を回収して引き上げたワケだ。

 

 はてさて、あの女王様はいったいどんな手を打ってくれるのやら。

 

 魔術的誓約を交わしたので裏切られる可能性は低いと思うが、むこうの行動如何によっては国外逃亡も視野に入れんとな。

 

 

◆▲月◆〇日(快晴)

 

 

 毎月恒例の老人共の全裸吊るし上げ会に行ってきたでござる。

 

 いやぁ、今回は風当たりが強かった。

 

 奴等、こっちが命令を無視してカーラ女王暗殺を(くつがえ)してやったのが余程腹に据えかねたようだ。

 

 ジジイがポロっと零した失言によると、あの大物政治家は百地(ももち)家のパトロンだったらしいしな。

 

 百地と言えば百地丹波が有名な服部と並ぶ伊賀の大家の一つ。

 

 なるほど、あんな依頼を受けようとするワケである。

 

 あと、暗部を殺ったのは俺だってバレてたけど、それについては責められなかった。

 

 何故なら、カーラ女王が記者会見でこう説明したからである。

 

『先日日本を視察した際、私は何者かの私兵と思われる武装集団の襲撃を受けました。その時、私の傍には護衛官が一人しかおらず絶体絶命の状態だったのです。もうダメかと覚悟を決めた時、天の助けが私達に(もたら)されました。日本の公安に所属する忍者部隊が助けに来てくれたのです。彼等は我が身を顧みずに私を護ろうと奮戦し、少年隊員一人を残して殉職してしまいました。私は彼等の犠牲に哀悼の意を表すると共に、その献身を生涯忘れることはないでしょう』

 

 親善大使としての彼女の発言は、『日本はNINJYA部隊を持っている』という諸外国に蔓延するフィクション系忍者のイメージもあって瞬く間に拡散。

 

 殉職した面々と俺こと少年隊員はあっという間に世界的な英雄に祭り上げられてしまった。

 

 取引が成立した後、忍者らしい恰好をさせられて暗部の死体と一緒に写真撮られたけど、まさかこういう使い方をするとは思わんかった。

 

 ノマドの私兵は銃器で武装してたのに暗部連中は全員斬首で死んでるとか、そういう類のツッコミはないんすね。

 

 この茶番劇の結果、老人達は公的に俺を処罰することが出来なくなった。

 

 何故なら公的に暗部は公安の依頼により女王保護の為に派遣された事になり、彼等は護衛任務の末に殉職したという事になってしまったからだ。

 

 当然、政治家が打診した女王暗殺の依頼は公安の時点で逆手に取られた事になっているし、俺の命令違反も同時に消えてしまっている。

 

 つまり、俺は公的にはな~んも悪い事をしていないワケである。

 

 さらに女王は会見の際にふうまの名前をガッツリと出しており、世間的には忍者集団=ふうま。

 

 ふうま=戦国時代に北条家に仕えた『風魔忍軍』であるというイメージが植え付けられている。

 

 裏の存在である対魔忍がこうも表に出るのは褒められた事ではないが、今回の首謀者が日本の政治家であるのもあって政府が女王の口を塞げなかったのだから仕方がない。

 

 対魔忍に関する裁量は主流派の老人達に任されているとはいえ、この状況ではふうまに対して手を出すことは躊躇(ためら)われるだろう。

 

 何せ、今の時代SNSやブログに動画サイトと個人の声を世界に発信する術は溢れている。

 

 下手に処罰や不当な扱いをして、ふうまの人間がその窮状を世間に発信すれば、対魔忍を管轄している公安は世界中から叩かれる事になる。

 

 そうなっては老人会もただでは済まないというワケだ。

 

 それでも老人共は厭味ったらしく『同胞である暗部の死についてどう思うのか』と質問してきたので、俺は当時の事をありのままに答えておいた。

 

『彼等は勇敢な対魔忍でした。護衛対象が襲われているのに動く事なく、「いい女だな。動けなくなったらノマドの奴らを始末して一発ヤるか!」と股座をおっ起てるほどに! 私はそんな彼等を死んでも尊敬したくありません!』と。

 

 耳の遠い彼等の為に元気いっぱいに声を出したのだが、この答えを聞いた百地のご隠居が真っ赤な顔で倒れてしまった。

 

 歳を取ると血管がもろくなるので、急な血圧の上昇は脳梗塞などの原因となる事が多いそうだ。

 

 若い身ではあるが、健康には気を使いたいものである。

 

 結局、救急車を呼ぶ騒ぎとなったことで会議はそのまま終了と相成った。

 

 あと帰りにまたアサギと会ったのだが、やりすぎなので自重するようにと(たしな)められてしまった。

 

 確かに今回は対魔忍やふうまの表世界への露呈や暗部殺しと、少々はっちゃけ過ぎた自覚はある。

 

 しかし、その原因ってトカゲの尻尾としてこっちを消そうとしてたそっちの老人にあるんですけどね。

 

 最強の対魔忍の名が偽りでないのなら、早いこと実権を握ってほしいもんだ。

 

 

◆〇月▽日(晴れ)

 

 

 過日のNINJYAフィーバーで、またしても八将からお叱りを受けたダメ頭首の小太郎です。

 

 状況やトカゲの尻尾切りを食らいそうになっていた事を説明するとみんな分かってくれたのだが、主流派とふうまの軋轢緩和というコウモリ的立場をお願いしている紫藤の甚内殿は『いい加減、加減を覚えてください! 若様が動いたら1か0しかないじゃないですか!!』とマジ泣きしていた。

 

 『男はな、1だけ憶えときゃあ生きていけんだよ』という名言が頭を過ったものの、胃の辺りを押さえて呻く彼にこの言葉を言うのは(はばか)られたので素直に謝る事に。

 

 正直すまんかったって台詞、少し前にも言ったような気がするなぁ。

 

 さて、今日は珍しくOFF日である。

 

 まあ、この頃は例の騒動もあって老人達も俺に任務をまわさないようになってきたから、遠慮なく学問に打ち込むことが出来る。

 

 因みにもうじき中学生な我が身だが、学校には通っていない。

 

 義務教育の勉学は自宅で出来る苦悶式である。

 

 そんな感じでカリカリ問題集を解いていると、扉の向こうから銀零と災禍姉さんの声が聞こえて来た。

 

 鷹揚の無い声で我が妹は問う。

 

『ぎんれい、あにさまとけっこんできるの?』と。

 

 うん、聞いてて思わずほっこりしてしまった。

 

 これはあれだ、小さな女の子にありがちな『パパと結婚する!』と言うものだろう。

 

 いやはや、銀零もここまで情緒が回復したんだなぁ。

 

 と、感慨深く思っていると災禍姉さんが思わぬ返しをしてくれやがりました。

 

『そうですね……。弾正の暴走でふうま宗家の人間も数少なくなりました。血を残すという意味合いでも、銀零は若様と婚姻し子を成す必要があるかもしれません』

 

 それを聞いた瞬間、口に含んでいた緑茶を吹き出した俺は悪くない。

 

 災禍姉さん、子供の戯言にマジレスはダメだろう。

 

 つーか、子を成すなんて生々しい事を小さい子に言うのは止めてもらいたい。

 

 銀零も銀零で真に受けて『ぎんれい、あにさまのこどもうむ。そうしたら、あにさまとずっといっしょ』とか言っていたし。

 

 いや、勘弁してください。

 

 あのケダモノ丸出しのクソ親父じゃないんだから、妹に欲情するとか俺には無理です。

 

 裏の家業だから確約できないけど、将来的には普通に嫁さん貰って普通の家庭を作るつもりだから!

 

 一夫多妻も妾も絶対にNO!

 

 近親相姦とかもっての外だっつーの!!

 

 とはいえ、こうやって慕ってくれるのも小学生くらいまでだと思う。

 

 女の子の成長は早いから、中学に入ったら『兄貴の服と一緒に洗濯しないでよ、キモい!』とか文句を言う様になるだろうし。

 

 そういう心を抉る言葉が出るまでは、あの子を甘やかすのもいいんじゃないかと思うのですよ。

 

 取りあえず、災禍姉さんは叱っておきました。

 

 

 

 

「マリカ、シヴァの具合はどうかしら?」

 

 東京にある某国大使館の中、自身に割り当てられた執務室の椅子に腰かけたカーラ・クロムウェルは己が騎士に声をかけた。

 

「問題ありません。二日ほどあれば修復は完了すると報告を受けております」

 

 真っ直ぐに立ったまま身動ぎもせずに答えを返す吸血鬼の女王を守護する騎士マリカ・クリシュナ。

 

 その言葉に主は真紅の目を丸くする。

 

「随分と早いわね。刀身の部分を完全に両断されていたのに」

 

「断面が信じられない程に滑らかだった為、予備パーツを取り寄せる必要はなく溶接し再度鍛ち直せば使用できるそうです。ただ、ルーンの加護に関しては本国に帰らねば……」

 

「それについては問題ないわ。アミダハラのノイ・イーズレーンが修復の依頼を受けてくれたから」

 

「あの大魔術師が、ですか?」

 

 いつも表情を崩さないマリカが目を丸くしている姿に、カーラはイタズラが成功した子供のように笑みを浮かべてみせる。

 

「ええ。魔界でも指折りの腕を持つ彼女なら、以前と変わらないレベルの加護を与えてくれるはずよ」

 

「ありがとうございます、カーラ様」

 

「気にしないで。貴女は私の近衛、この身を護る最後の騎士よ。その矛と盾を整えるのは主の責務だもの。ところで、あの少年の事……どう思う?」

 

 話題を切り替えた主の言葉にマリカの表情が険しさを増す。

 

「ふうま小太郎ですね。……正直言って恐ろしい相手です。剣の冴えもそうですが、彼が姿を現すまで私はその気配を掴めませんでしたから」

 

 悔しさを滲ませるマリカにカーラは小さく息を付く。

 

「暗殺騎士団出身で『死神』と言われた貴女が察知できないなんて、流石は伝説の魔剣士の後継と言われる事はあるわね」

 

「……カーラ様、今何と?」

 

「彼は少し前まで巷を騒がせていた仮面の剣士よ。ノイも認めていたから間違いないわ」

 

 カーラの言葉にマリカは思わず息を呑んだ。

 

 仮面の剣士はここ一年余りの間に魔界中に名を轟かせた剣豪だ。

 

 魔界に伝わる伝説の魔剣士の所持していたという仮面を付け、名立たる魔界騎士や剣士たちを次々と打ち破ってきた。

 

 噂では主の宿敵であるエドウィン・ブラックの右腕、黒炎の魔界騎士イングリッドも辛酸を嘗めさせられたと聞く。

 

 彼が姿を見せなくなる一月ほど前まで、その首を狙う猛者や自身の配下に欲しがる有力者などで魔界の扉は飽和状態だったのだ。

 

「……なるほど。彼が仮面の剣士だとすれば、あの剣の鋭さは納得がいきます」

 

「でも驚いたわ。魔界を震撼させた益荒男があんな小さな人間の子供だっただなんて」

 

「まったくです。人は見かけによらないとはこの事でしょう」

 

 全く同じタイミングでため息をつく主従。

 

 その様子にどんよりとした空気が部屋に立ち込め始めるが、それを払拭するかのようにカーラは勢いよく顔を上げる。

 

「でも、今に思えばあの事件は運が良かったと言えるわね。なにせ、仮面の剣士に貸しを作ることが出来たんだから」

 

「そうですね。ですが、彼はこの国に属する退魔組織の一員です。そうそうコンタクトが取れるものではないのでは?」

 

「そうでもないみたいよ。北江にもらった情報だと、彼の率いるふうまは組織の中でもあまり良い位置にいないらしいの」

 

「それはどういう事なのでしょう?」

 

「7年ほど前に先代、彼の父親が反逆に失敗したのを切っ掛けにして低迷しているようね。構成員は主流派に一兵卒のような扱いを受けているし、彼も上層部に命を狙われているみたいよ」

 

「それは……」

 

 カーラの説明にマリカは言葉を詰まらせる。

 

 王家を支える血筋に産まれ騎士として仕えて来た彼女にとって、所属する組織から常に命を狙われている状況など想像も付かなかったからだ。

 

「彼自身一族の復興に動いているようだけど難しいでしょうね。7年前の凋落までふうまは組織の最大勢力だった。そのふうまから実権をもぎ取った現派閥が、彼等の再興を許すとは思えないもの」

 

「では、このまま不当な地位のまま使い潰されると?」

 

「上が変わらない限りはそうなるでしょうね。だからこそ、私達が動くのよ」

 

 その美貌に小悪魔染みた笑みを浮かべる主にマリカは小さく息を吐く。

 

 ああいう顔をしたカーラは突拍子もない事を仕出かす事が多いからだ。

 

「『人・物に関わらず、価値は正当に評価されるべき』と言うのが私のモットー。そして彼はこんなところで燻っていていい人材じゃないわ。魔界に名を轟かせる大剣豪、私は彼こそがエドウィン・ブラックを討つ鍵になると思っている」

 

「あのブラックを、ですか?」

 

「大魔術師ノイ・イーズレーンがあの仮面を託すほどの者だもの、その可能性は十二分にあるわ。だからこそ私は彼を手に入れる。あの剣は人と吸血鬼の融和、そしてそこから始まる人魔の平和の為に振るわれるべきよ」

 

「承知しました。私も全力でお手伝い致します」

 

 己が騎士が跪く中、女王に相応しい覇気を纏ったカーラの視線は五車の里の方角をしっかりと見据えていた。

 

 

 

 おまけ

 

 ぎんれいにっき

 

 おほしさまがきれいなひ

 

 

 きょう、テレビできょうだいはけっこんできないっていってた。

 

 それがほんとうだと、ぎんれいはあにさまとけっこんできないことになる。

 

 うそだとおもいたいけど、テレビのいってることはほんとがおおい。

 

 ひとりでかんがえてもこたえはでない。

 

 どうしてか、あにさまにききたいとはおもわなかった。

 

 だから、さいかにきいてみた。

 

 そしたら、むつかしいことばがいっぱいでよくわからなかったけど、うちはとくべつだからあにさまとけっこんしてもいいんだって。

 

 あと、いっぱいこどもをうまないといけないから、ほかにもおよめさんがいるっていってた。

 

 そういえば、あにさまとぎんれい、ときこはおとうさんはいっしょでもおかあさんがちがう。

 

 …………だめ。

 

 あにさまのおよめさんはぎんれいだけ。

 

 ぎんれいがいっぱいこどもうむから、ほかのおよめさんはいらない。

 

 だから、ときこはおよめさんになっちゃだめ。

 

 でも、ぎんれいはちっちゃいから、このままだとときこがさきにおよめさんになるかも……。

 

 どうにかしないといけない。

 

 メルモちゃんのあめだま、おちてないかな?

 




災禍「計画通り(ニヤリ)」
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