剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました、最新話更新です。

 公式の若様の右目が予想以上にヤバそうなのを見て、そうそうに潰した事にガタブルしております。

 まあ、右目を生かして超パワーを手にしてもウチの剣キチなら『攻撃』コマンドしかしないでしょうし、宝の持ち腐れになるのは確定なんですが。

 とりあえずアサギ3のイベントも回収したし、次はどうしていこうかな……


日記45冊目

 浩介君の護送を弥右衛門に任せて、俺達は虜囚の探索を続ける事にした。

 

 打ち合わせ通りなら俺達の陽動として、自衛軍が正面から侵攻を開始しているはずだ。  

 

 情報収集の為とはいえ、浩介君の件では想定より時間を食ってしまった。

 

 ここから先は巻きで行こうと心に決めたのだが、物事と言うのは想定通りに行かないモノである

 

「よくがんばったわね、紫。もう心配はいらないわ」 

 

「ああ……アサギ様」

 

 なんか、いるはずの無いアラサーの姿が見えるんですが。

 

 あと名無しの権兵衛の横に転がってる眼鏡を掛けたミンチ肉は恐らくは桐生なのだろう。

 

 あのザマから察するに名無しの権兵衛の命を守る兼神田旅団の兵士に凌辱されない為、さらには尋問と言う名の大義名分で存分にエロい事が出来るからむこうに付いたんだろうなぁ。

 

 で、ノリノリで調教してるところをアサギに見つかって制裁されたと。

 

 全部状況からの推測なのに、物凄く当たってる気がするわ。

 

『なあ小太郎。なんであのオバハン、こんな所にいるんだ?』

 

『あ~、仲間を助けに来たんじゃね。引退したからって、この状態を見過ごせる奴じゃないし』

 

 口寄せで問いかけてきた骸佐に返しながら、俺は周辺に目を走らせる。

 

 現状ここにいるのはアサギと名無しの権兵衛、そして俺達のみ。

 

 他にあるのは頭の中身を地面にブチまけた虜囚の成れの果てが数体、そして股間のブツをさらしたまま無様にくたばった兵士共の屍だけだ。

 

 邪魔者がいないのは助かるが問題はアサギをどうするかだ。

 

 現頭領のさくらが井河は動かない事を公言している以上、あそこにいるアラサーは作戦上の異物でしかない。

 

 こういった任務だと不審人物の処遇というのは大体決まっている。

 

 捕えてから尋問で情報を抜くか、その余裕が無ければ抹殺するかだ。

 

 とはいえ相手は腐っても対魔忍最強、どう処理しても手間と時間が掛かり過ぎる。

 

 となれば───

 

『こちら救出班。司令部、どうぞ』

 

『こちら司令部。救出班、どうぞ』

 

 仮面の中に仕込んだ消音機能付きのインカムに呼びかけると、タイムラグ無しで作戦司令部へとつながる。

 

『現在、五車学園監獄内にて五車内部の反抗勢力と思われる人物を発見。該当者は井河忍軍元頭領である井河アサギ。こちらとしては救出作業の協力を求めるべきと考える。───どうぞ』

 

『了解した。作戦遂行に問題がなければ、キミの判断に任せる。───どうぞ』

 

『了解、では彼女と連携を図る。以上、救出班』 

 

 ……これでお上の連中に対する言い訳は立った。

 

 ヤツを放っておいて自衛軍の邪魔になった日には、俺達にまで飛び火する恐れがあるからな。

 

 組織で動くんだから、報・連・相やこういった手回しはしっかりしないと後で手痛いしっぺ返しを食らう事になる。

 

『小太郎。なんでアサギの奴を庇うんだ? 作戦上の不法侵入者として上げればいいじゃねーか』

 

『骸佐君や。同じ業界の人間のやらかしは、同業他社の評判にも影響が及ぶのが世の常なのだよ。今後の事を考えるなら、多少庇ってもアサギの奴に首輪をつけるのが上策なのさ』 

 

 任務に失敗した女対魔忍の『いつもの』で、そういうのは嫌と言うほど見てるだろうと続けると、骸佐は苦虫を噛み潰した顔になる。

 

『そういう事なら仕方ねぇな。俺も『新人対魔忍在籍してます』って書かれた風俗のHPに見るたびに、この仕事イヤになるし』

 

『俺なんかソフトからマニアックまでプレイの現場を見てるから、もう悟りを開いちゃったよ』

 

 アンダーグラウンドな世界で対魔忍が『公営オ●ホ』と呼ばれている事実は伊達ではないのだ。 

 

『ともかく司令部の許可は取れた。奴らと接触するぞ』

 

 最近形になって来た複数人に対応できる気配遮断用呪術、『摩利支天隠形法』を解くと即座にアサギが反応を示す。

 

「誰だ!?」

 

「私ですよ、アサギ殿」

 

 素早く忍者刀を構えたアサギは、俺達の姿を見ると警戒を緩める。

 

 もっとも名無しの権兵衛の方は苦々しい表情を隠しもしないが。

 

 つーか、公然の秘密とはいえこの状況は井河にとってヤバいんじゃなかろうか。

 

 死んだという名目の八津妹の生存を俺に見られているのだから。

 

「ふうま殿。人質奪還に動いていたのは貴方達だったのね」

 

「ええ。ところでアサギ殿はどうしてここに? 当代のさくら殿からは主流派は動かないと聞いていたのですが」

 

「アサギ様は私達が囚われていると聞いて助けに来て下さったのだ! そんな事も分からんのか!?」

 

 何故かアサギに代わって口を出す名無しの権兵衛。

 

 つーか、威張るのなら胸と股間のピアスを取ってからにしろよ、見苦しい。 

 

「アサギ殿。そこにいるのはまさか八津紫ですか?」

 

 どうも反省してなさそうなのでアサギに水を向けてみると、奴の顏はみるみる内に悪くなっていく。

 

「ば……バカを言うな! 死んだ紫がここにいるワケがなかろう!!」

 

「じゃあ誰だよ、お前」

 

 骸佐のツッコミに名無しの権兵衛は一瞬だけ怯んだあと、声高にこう言い放った。

 

「───そうだ! 私は愛子、八津愛子! 紫の双子の妹だ!!」   

 

 言い訳としては最低の部類の言葉を放つ名無しの権兵衛に、思わずチベスナ顏になる俺と骸佐。

 

 つーか、今思いついただろソレ。

 

「ゴホンッ! 今はそんな事を言及している場合じゃないわ。もうすぐここに敵が現れるはずよ」

 

 強引に話題を反らそうとするアサギ……って、ちょっと待てや。

 

「どういう事だ、井河殿。自衛軍の陽動があるからここへの潜入はバレてないはずだが?」

 

「私が奴等の包囲網を正面突破してここまで来たもの」 

 

「「お前、なにやってんの!?」」

 

 シレっとトンデモない事をほざくアサギに思わずツッコむ俺と骸佐。

 

 コイツ、マジで最悪だ。

 

 どうせ浩介君が心配で暴走したんだろうけど、忍者なんだから少しは忍べよ!!

 

『いたぞ、こっちだ!』

 

『井河アサギだけじゃない!? 他にも侵入者がいるぞ!!』

 

『おい、神田大佐に連絡だ!』

 

『わかった!!』

 

 こちらの叫びも虚しく、上からワラワラと降りてくる4体の機械化歩兵。

 

 奴等の纏っているのは虎の子の『雷電』だ。

 

 あのオモチャとは一度刃を合わせた事があるが、装甲強度はかなりのモノで反応速度も並の対魔忍を凌駕していた。

 

 全身汚い汁塗れの名無しの権兵衛は戦力にならんから、このメンツで倒せるのは俺と骸佐、それとアサギくらいだ。

 

 現状ではどうやっても一体余ってしまう。

 

 さて、どうしたものか……。

 

「ふむふむ……OK」

 

 腰に差した愛刀の柄に手をやりながら頭を高速回転させていると、背後で小さく鹿之助君の声がした。

 

 それに続いてパチリと何かが弾けるような音がしたその瞬間───

 

『なんだ……ばわっ!?』

 

『べっ!?』

 

『あろっ!?』

 

『おろあっ!?』

 

 眼前の雷電達が次々と爆散したのだ。

 

 思わず背後に目をやれば、立てた人差し指を口元に持ってきながら笑う鹿之助君の姿。

 

 何をやったかは分からんが、これが骸佐が作戦前に言おうとしていた『雷電』対策なのだろう。

 

 詳細については後で確認するとして、敵に気付かれた以上は退路を塞がれる前に撤退せねばならん。

 

「よし。増援が来る前に引き上げるぞ」

 

「まって! コウ君がまだ見つかってないの!」

 

 案の定、待ったをかけてくるアサギ。

 

 引退したからって、いくら何でも私情に走りすぎではなかろうか。

 

「浩介君改め浩子(ひろこ)ちゃんならこっちで回収した。男としては色々な意味で絶望的だが命は無事だ」

 

「浩子ちゃんって……いったいどういう意味なの!?」

 

「詳しい事はここを出た後で桐生に聞いてくれ」 

 

「おい! このザマが見えないのか!? これ以上、そのメスゴリラに何かされたらいくら俺でも死んで───ぐへぇっ!?」

 

「誰がメスゴリラかしら? それとコウ君に何をしたのか、洗いざらい喋ってもらうわよ」  

 

 やはり生きていた桐生だがこの短期間では頭部しか復元できなかったようで、アサギに踏まれても頸椎を尻尾のように動かす事しかできない。

 

 いくら命を救うためとはいえ、他人の旦那を性転換させてしまったんだ。

 

 その釈明くらいは自分で行うべきだろう。

 

 つーか、お前等。

 

 ジャレてないでサッサと撤退せんかい。

 

 

 

 

◎月■◎日

 

 

 神田旅団殲滅作戦から1日が経った。

 

 自衛軍の奮闘によって五車の里を占拠していたテロリストは頭目の神田大佐を始めとして、その大半が戦死。

 

 わずかに残った人員も国家反逆罪で御用となった。

 

 五車の里の被害に関してだが、あそこは主流派の拠点であると同時に彼等が生活を送る一つの街だ。

 

 なので非戦闘員の住人たちが奴等の非道の犠牲になる事は避けられず、死傷者はかなりの数になってしまった。

 

 その中には井河の下にいた時に世話になった商店の大将なんかもいたので、こちらとしても見舞金を出しておいた。

 

 金額は十分とは言えないが、少しでも彼等の慰めになればと思う。

 

 次に井河衆に関してだが、今回の本拠地占領に対して責任を求めない事に決まった。

 

 そもそも反国家分裂法を発布する前に俺が朝田を始末した事もあって、神田旅団の襲撃は主流派からしてみれば晴天の霹靂だった。

 

 さくらを含めて主流派の殆どが自衛軍を味方と見ていた以上、テロリストへと堕ちたという情報も無い中では対応が後手に回るのは仕方がない。

 

 仮にも諜報機関なら、そういった情報を握っておくべきだという意見はもちろんあった。

 

 しかし今回の件に関しては仕掛け人が自国の首相であるうえに、神田旅団はその情報が表に出る前には侵攻の布陣を済ませていたのだ。

 

 それで被害を小さくしろと言うのはいくら何でも無茶ぶりだろう。

 

 山本長官の援護射撃もあって主流派の位置づけは現状維持という形に落ち着いた。

 

 それとアサギの独断に関してだが、これは無かったことになった。

 

 理由としては今後のさくら体制に悪影響しか及ぼさないからだ。

 

 就任当初からアサギの後継として、さくらは周囲に疑問符を持たれている。

 

 そこに来てこの騒ぎだ。

 

 本件での両者の行動の差は、さくらの支持を致命的なまでに落下させかねない。

 

 もちろん、さくらが取った行動は間違っていない。

 

 頭が抑えられてしまえば、よほど用意周到でない限り組織を待っているのは瓦解だけだ。

 

 ならば機密情報と共に脱出するのは当然と言える。

 

 しかしアサギのアホが暴走したせいで、その理論が通らなくなってしまった。

 

 当人としては自分の男や身内を助ける為にやった事でも、事情を知らない他の者の目には全く違って映るものだ。

 

 非常時に逃げるだけしかできなかった新頭領と、単独で里に潜入して仲間を救い出した元頭領。

 

 これに『最強の対魔忍』というブランドまで付いてしまえば、部下がどちらを選ぶかなど考えるまでもないだろう。

 

 事情が事情なので強く言うべきではないかもしれんが、自分の妹の足をぶっこ抜く勢いで引っ張ってどうするのか?

 

 ぶっちゃけ、現状におけるさくらの最大の敵は『対魔忍最強にして優秀な姉』というお前の評判なんですが。

 

 ここまで説明すると浩介君可愛さにテンパっていたアサギも、自分の行動の影響を理解してくれた。

 

 本来ならさらに『公務の実行による立ち入り禁止地区への不法侵入及び救出作戦妨害』というガチの罪状が付くんだが、そこは庇った手前もあるので追及するのは止めておいた。

 

 そんなワケで公式にはアサギは山本長官と引退の打ち合わせをした後、産婦人科で検診を受けていた事になる。

 

 まあ当人も『名無しの権兵衛』改め、自称『八津愛子』や浩介君の為に無茶をやったんだし、今更手柄など求めまい。

 

 何より今は浩子ちゃんを男に戻すことに必死で、そんな事は眼中にないだろうからな。

 

 自衛軍も零細忍者集団の内輪事情なんぞ興味ないだろうから、あとは関係者がお口をチャックすれば問題なしである。

 

 あと雷電達が突然『あべしっ!?』した件だが、当事者の鹿之助君から実にシャレにならない事を聞いた。

 

 あの時、鹿之助君は電波信号を使って、機密保持の為に機体へ備わっていた強制自爆装置を遠隔起動させたそうだ。

 

 雷電は日本の国防を担う最新鋭のパワードスーツである。

 

 敵勢力による鹵獲や悪用などを防ぐ為、当然ストッパーとしてそういう機構が組み込まれてる。

 

 では、その為のコードを鹿之助君はどこで入手したのか?

 

 その答えは、作戦準備中の自衛軍にあった。

 

 彼は自衛軍が万が一に備えて、所属する雷電に模擬的に飛ばしていた信号の波長をこっそり解読したらしい。

 

 そして俺達を発見した際に交信していた無線の周波数をハックして、奴等の機体に起爆信号を送ったと。

 

 さて、ここまでの間にいったい幾つ鹿之助君が殺されるに足る理由が有ったろうか?

 

 彼の能力がバレたらスカウトにしろ抹殺にしろ、世界中の軍事組織からウチが袋叩きになるのは間違いない。

 

 取り合えず、鹿之助君には『死にたくなかったら絶対に今回知った事は口外にするな』と脅しをかけておいた。

 

 功績を欲している彼には悪いが『雷電の自爆コード知ってるんだぜ!』なんて口を滑らせたら、その時点で日本政府の特級抹殺対象へ躍り出ることになる。

 

 こんなところで潰すには、彼の才能は惜しすぎる。

 

 ゆくゆくはふうま衆のサイバー担当を担って貰わねば。

 

 最後に統括としてだが、目立った手柄は無かったものの自衛軍ともコネが出来たし神田旅団という厄介な集団も始末できた。

 

 拠点を押さえられた割には主流派の被害も甚大ではなかった事を思えば、今回の任務は割とうまく行ったのではないだろうか。

 

 なんにせよ俺達の役目はここまでだ。

 

 あとは帝や政治家に任せるとしよう。

 

 

◎月☆△日

 

 

 今日は銀零が新しい友達を連れてきた。

 

 何気にコミュ障な妹が龍ちゃん以外に誰かを連れてくるのは初めての事。

 

 少し楽しみに待っていると、襲い掛かかってくるチビ共の後に現れたのは銀髪の大人しい女の子。

 

 彼女の名は天宮紫水。

 

 宗家の下忍を務めている天宮家の一人娘だ。

 

 天宮の名で思い出したが、彼女とは弾正が反乱起こす前に一回会った事がある。

 

 あのちんまい赤ん坊が随分と大きくなったものである。

 

 どうも彼女は読書が好きなようで、銀零と龍ちゃんが暴れまわっている間、手にした本を読んでいた。

 

 タイトルを見ると『子供向け日本神話』と書いてあった。

 

 まあ、この家業をしていると神話生物とちょくちょく遭遇する場合もある。

 

 予習的な意味でも幼い時からそういう本を読むのはいい事だ。

 

 縁が続けば将来的に愚妹や龍ちゃんとチームを組むことだってあるだろうし。

 

 その時は是非とも脳筋二人組の手綱を握る頭脳担当になってほしい物である。

 

 ところで、彼女は何故俺の事を『お館君』と呼ぶのだろうか?

 

 今は子供だし、将来的にもTPOを弁えてくれるなら別に良いのだが、何とも特徴的な呼称である。

 

 

◎月☆■日

 

 

 今日は日頃頑張る自分へのご褒美として、東京キングダムにぶらりとやってきた。

 

 久々に感じる退廃的な空気とそれに見合う治安の悪さに、当方ワクテカが止まりません。

 

 あれだ、遠慮なくぶった斬れる相手っていいよね。

 

 某『若さってなんだ!』な宇宙刑事のセル面を付けてヒャッハーしていると、黒地に葉脈のような赤い筋が入った甲冑を付けた丸腰の女が現れた。

 

 奴はサハール・スレイヴという魔剣の精霊で、己に相応しい担い手を探して放浪しているらしい。

 

 こういう騒動の常なのだが、何故か目を付けられて『汝が我が主にふさわしいかどうか試すとしよう。耐え切れなんだときは、汝の周りの人間すべてから血を啜り取ってくれるがな』なんてセリフと共に襲い掛かって来た。

 

 奴の踏み込みは並の魔族など比較にならないほどの速度で、両手の爪は鋼板も容易く引き裂ける程の鋭さを誇っていた。

 

 襲い掛かってくる際のセリフからすれば血液操作、もしくは吸血の技能もあるのだろう。

 

 だが惜しむらくはその動きに無駄があり過ぎる事だろう。

 

 魔剣の精霊というのなら自身を手にしていた主の動きを覚えていてもおかしくないのだが、その動きは獣人等と同じく身体能力頼りで技術の研鑽というモノが感じられない。

 

 奴が大上段から振り下ろしてきた左の手刀を躱し、二手目となる右の薙ぎ払いを波濤任櫂で受け流すと、俺はその勢いのままに奴の身体を逆袈裟に斬り上げた。

 

 果し合いという事で手加減はしなかったのだが、この一刀は致命には至らなかった。

 

 外見は人間に似ていても奴は魔剣の精霊、刃が通った瞬間に妙に硬い感触が伝わって来たのも当然だろう。

 

 ムラマサなら両断できたかもしれんが、手にあったのは訓練場からくすねてきた下忍用の数打ちの剣……

 

 いや、得物の所為にするのはやめよう。

 

 奴を断てなかったのは我が身の未熟故だ。

 

 こんな事を考えていると、左腹から右肩へと一直線に走る傷を見た奴は通りに響き渡る程の声で大笑いし始めたのだ。

 

『まさかそんな鈍らで我が身に傷を付けるとは! やっと見つけたぞ、我を所有するに値する者を……! 汝を主と認め、汝のために、この力を振るうことを誓おうぞ!』

 

 妙なテンションで突然契約を求めてきたのだが、こんなヤバい街頭キャッチに引っ掛かるほどバカではない。

 

 キッパリとお断りしたところ、やじ馬だった剣客っぽい魔族から『それを断るなんてトンデモない!』とクレームが付いた。

 

 なんでもこのサハール・スレイヴの本体は魔界でも指折りの魔剣らしい。

 

 当人(当刃?)も『何故だ!? 汝にはすでに心を通わせた武器があるというのか!』と涙目で詰め寄ってくる。

 

 彼女の言葉を聞いて頭に浮かんだのはムラマサだったが、生憎と持ち主に全裸を強要する変態刀などと心を通わせた覚えはない。

 

 そう思うと目の前にある魔剣の方がマシかなと考えなおした俺は、とりあえずキープとして奴をお持ち帰りする事にした。

 

 その際、自分の処遇について文句を言ってきたので『普段から名刀を使っていては修行にならない。お前を抜くのは相応しい強敵を相手にした時だ』と言ったらアッサリと納得した。

 

 魔界の名剣のクセにチョロいなコイツ。

 

 ちなみにやじ馬達には『コスモポリス・ギャリバン』と名乗っておいたので、身バレする恐れはないと思われる。

 

 そんなワケで新しい武器も手に入った事だし、気が向いたら使ってやろうと思う。

 

 もちろん水分吸収とか妙ちくりんな機能は無しで。

 

   


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