剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました。

 ヴェドゴニアのお陰でこちら側に筆が走ったので、対魔忍に投稿です。

 この分量を二日とか、ニトロ作品の力は偉大です。


日記7冊目

 東京の地下300メートルに築かれた魔界都市ヨミハラ。

 

 直下に魔界の門を孕むこの街はノマドを中心とした魔界勢力の一大拠点であり、日本にとっては東京キングダムに並んで首都という急所に突き付けられた刃であった。

 

 ヨミハラの大半を占める歓楽街から少し離れると、かなりの敷地面積を持つ庭付きの洋館が建っている。

 

 ここは闇の歓楽施設『グリードハウス』の主である天堂数馬の所有する別荘兼研究所である。

 

 天堂は人間でありながら魔族と結託して数々の闇商売に手を染めている異端者であり、人身売買や移植用臓器の密売、人体改造による奴隷販売など、手広く商売をしている。

 

 その辣腕ぶりから闇の住人に知らない者はなく、政府高官なども顧客に名を連ねており、背後には “中華連合” の存在が噂されている人物だ。

 

 芸術家を気取るこの男は、実益と己が歪んだ性癖を満たす為に魔界医療を基にした人体改造の研究施設を所有している。

 

 そんな天堂の邸宅の寝室に置かれたベッドの上で、心願寺紅は生まれたままの姿で横たわっていた。

 

 事の始まりは潜入任務であった。

 

 東京キングダムの高級バーで行われる天堂の闇取引、その現場を押さえると同時に天堂を誅殺。

 

 相手側から奴の販路や臓器や人身売買市場の実態を探る事が目的だった。

 

 しかし、この任務の際に紅は天堂が仕掛けた罠に堕ちてしまう。

 

 裏切ったのは紅と政府との連絡役を担っていた苫利礼一郎という政府直属機関のエージェントだ。

 

 この苫利という男、元は心願寺配下の下忍だったのだが、ふうまが反乱に失敗し没落すると見るやすぐに主流派に鞍替えし、その伝手によって今の立場に落ち着いたという経歴を持つ。

 

 そのうだつの上がらない風貌とやる気の感じられない態度から、紅やその従者である槇島あやめは自らの家を裏切った事も相まって彼を見下していた。

 

 苫利が魔に寝返ったのは、その鬱憤を晴らすのもあったのだろう。

 

 内通者の存在に加えて気を失ったあやめを人質に取られたことにより、紅は従者の命と引き換えに降伏。

 

 天堂によってこの場所へと連れてこられたというワケだ。

 

「さて、本格的な調教の前にその身体を味わわせてもらうとしよう。あのバーでは手付程度にしか楽しめなかったからな」

 

 身に着けていた高級スーツを脱ぎ、褐色の肌を晒す天堂。

 

 苫利の策で娼婦として潜入していた紅は、酒に混ぜた『ハレルヤ』を飲まされたうえに天堂の手により辱めを受けていた。

 

 ヴァンパイアハーフとしての強靭さで大抵の毒物には耐性を持つ紅だが、飲んでしまった魔薬の効果は未だ続いており、内側から火を焚かれたように火照った身体は主の意思とは無関係に更なる快楽を求めていた。

 

 人質と魔薬。

 

 二つの縛鎖で動きが取れない紅は、せめてもの抵抗として自身に手を伸ばしてくる天堂を睨みつける。

 

 そんな物などどこ吹く風と、天堂は固く閉じられた紅の足を開こうと彼女の両ひざに手を掛けた。

 

 一糸纏わぬ己の最後の一線を護ろうと必死に力を籠める紅。

 

 しかし、魔薬の効果によって満足に力が入らない身体では抵抗することもできず、ジリジリと両足は開いていく。

 

 絶望の淵に立たされた紅の脳裏に過ったのは、こんな自分を受け入れてくれた数少ない人々だった。

 

 母の望まぬ子どもであった自分を助け、育ててくれた祖父。

 

 周りと違って自分を普通の子として接してくれた二車の奥さまや宗家の執事達。

 

 そして一緒に遊んだ子供達。

 

 自分の事を姉と呼んで慕ってくれた蛇子に、些細な物から大仕掛けまで様々な悪戯を共に仕掛けた骸佐。

 

 そして、自分を恐れずに手を差し伸べてくれた最初の友達、小太郎。

 

 紅とて対魔忍である。

 

 この生き方をしている以上は清い身体のままではいられないと覚悟していた。

 

 しかし、いざそれが現実のものとなると胸の奥から湧き出る恐怖が抑えられなかった。

 

 嫌だ…嫌だ……嫌だッ!!

 

(助けて、小太郎!!)

 

 ぎゅっと瞑った眼尻から涙が零れ落ちた瞬間───

 

「我が炎の贄となれ……!」

 

 謎の奇声と共に風を裂く音が響いた。

 

 紅が目を開けると同時に天堂の身体は頭頂部から縦に両断され、その背後には両眼を真紅に輝かせた謎の仮面に黒ずくめの少年の姿があった。

 

 

 

 

 いやはや、危なかった。

 

 女王の情報を信じてヨミハラに忍び込むまではよかったが、そっから下手人である天堂の別荘を探すのに手間取ってしまった。

 

 やり手の闇ブローカーとはいえホームタウンであるヨミハラなら警戒も薄くなると思っていたのだが、こっちでも野郎の隠ぺい工作は半端無かった。

 

 お陰で、ここに辿り着くまでに十人以上もブチ殺すハメになったじゃないか。

 

 案の定紅姉は直視できない格好だったので、視界に収めないように注意しながら着ていた防弾防刃コートを渡す。

 

 さっきまで感極まった紅姉に思いっきり抱き着かれていた事は、仮面を付けていたから胸に直接触れなかったのでチャラにしてもらいたい。

 

「仕事着なんで匂うかもしれんけど、我慢してくれ」

 

「ありがとう……」

 

 素早く着込んで前を閉めてくれたおかげで、ようやく見れる格好になった紅姉。

 

 しかし俺が着たら裾が膝辺りに来るコートが、彼女に掛かると太ももが半分隠れるかどうかにしかなっていない。

 

 さっきのハグの事といい、圧倒的なタッパの差が涙を誘う。

 

 いや、諦めるな。

 

 俺はまだ中1、成長期はまだ先だ。

 

 希望はある。

 

「助けに来てくれたのは素直にうれしいが、その妙な仮面は何なんだ?」

 

「妙な仮面とは失礼な。これは由緒正しき逸品なんだぞ」

 

「そうなのか? 何か不気味な気配がするんだが……」

 

「そうか? けっこう便利なんだけどな、内蔵ギミックもいっぱいだし。例えばホラ、目の部分が赤く光ったり」

 

「たしかに光ってるな」

 

「付けていると身体がポカポカ温まって、カイロ要らずだし」

 

「それは便利かも……」

 

「あとは、世界の全てを焼き尽くせるかのような全能感を得た……ような気になれる」

 

「気になるだけなのか……。ところで、天堂を討つ時に妙な事を言っていたな。あれってなんなんだ?」

 

「いや。この仮面を付けてるとたまに妙な事を口走ることがあるんだ。無意味に言葉の前に『クク』って笑いたくなったり、無性に『オオオ……オフェリア……!』って叫びたくなったりな」

 

「呪われてるんじゃないのか、それ」

 

「何をおっしゃる、このマスクは北欧の英雄シグルドが付けていたものだぞ。呪われるなんてこと、あるはずが……」

 

 いや、待てよ。

 

 あの英雄って、ヤンデレと化したワルキューレに刺されて死んだんじゃなかったっけ?

 

 それにこの仮面ってノイ婆ちゃんの店で500円だったしなぁ。

 

 英雄の持ち物がワンコイン……。

 

「…………後で封印しとくか」

 

 猛烈に嫌な予感がしたので、シグルドマスクは今回でお役御免となる事に決定した。

 

 あ、気を付けとかないと銀零がまた欲しがるかもしれないな。

 

 あの子、『兄様の仮面が欲しい』って言って、なんでか知らんけど使用済みの奴を持っていくんだよなぁ。

 

 別にコレクションでも何でもないからあげるのは問題ないんだけど、いい加減お下がりばかりだと兄としては気が引ける。

 

 あれだけ興味を示しているのなら、新品をプレゼントしてもいいかもしれん。

 

「さて、与太話はこの辺にして脱出するぞ、紅姉」

 

「待ってくれ、小太郎! あやめが奴等の手に堕ちているんだ!!」

 

「苫利とかいう元下忍の役人崩れだろ。そっちは骸佐と権左の兄ィが行ってくれてるから大丈夫だ」

 

 俺がそう声を掛けると、ほっと安堵の表情を浮かべた紅姉はコートの裾を引っ張りながら立ち上がる。

 

 未遂とはいえあんなことがあったのだから、出来る事なら気持ちが落ち着くまでゆっくりさせてやりたい。

 

 しかし俺達がいる場所は地下300mに位置するヨミハラだ。

 

 この件がノマドに知れて地上への昇降機を封鎖されては、脱出は不可能になってしまう。

 

 天堂の脱ぎ捨てた服から財布やら携帯やらを回収して移動を開始しようとしたところ、俺達が立っている場所から反対の位置にある扉の向こうから気配を感じた。

 

 木製のドアが軋みを上げながら開かれると、照明の届かない薄闇の中から現れたのは赤紫色の髪をした12、3歳くらいの女の子だ。

 

「もう帰っちゃうんだ、お姉ちゃん」

 

 言葉と共にコテリと首を傾げる少女。

 

「君はいったい……君も天堂に捕らわれていたのか?」

 

 闇ブローカーの住処には似つかわしくないあどけない少女の登場に、紅姉は困惑の表情を浮かべながらも彼女に歩み寄ろうとする。

 

 だが、俺は手を前に出してそれを留めた。

 

「どうしたんだ、小太郎」

 

「良く見ろ、紅姉。あれは人間じゃない。それに───」

 

「つまんない。コイツ、もう壊れちゃったんだ。せっかく、ふぇりがお姉ちゃんで遊ぼうと思ってたのに」

 

 身体の内容物で白いシーツを赤黒く染める天堂だったモノを見つけ、そう吐き捨てる少女。

 

 その視線はゴミ溜めに蠢く虫けらを見るように無慈悲なものだ。

 

「あのガキ、性根は腸の底まで腐りきってる。あれならグールやゾンビの方がまだまだ健康的だ」

 

「ふふ……ひどいこと言うね」

 

 口を突く言葉とは裏腹に、奴が浮かべているのは笑顔と言うには邪悪過ぎる表情だ。

 

「でも、そっちも人の事言えないよね。君から漂う血の匂い、物凄いよ。───君はふぇりなんかより、いっぱいいっぱい殺してる。身体も、中身も、ううん。魂まで血塗れだもん」

 

「ふざけた事を言うな!! 小太郎は優しい奴だ! 先代の負債を背負って、みんなの為に必死に頑張っている。……お前の言うような奴なんかじゃない!!」

 

「きゃははははははははははっ! おねえちゃん、何にもわかってない! その子は隠してるんだよ! 本当の自分をぐるぐる巻きに閉じ込めて人間のフリをしてるだけ! 本当は私達と同じ化け物だもん。───そうだよね?」

 

 紅姉の怒りの声を狂笑で跳ねのけた女の言葉に、俺は答えを返さなかった。

 

 別に答えに窮したわけじゃない。

 

 答える必要を感じなかっただけだ。

 

 こっちの内面を見透かされたのには思うところが無いワケじゃないが、肯定でも否定でも相手に情報が渡る事になる。

 

 なら、無視してしまうのが一番だろう。

 

「ふふっ。本当はお姉ちゃんを壊れるまで虐めようと思ってたんだけど、ふぇり、君の事が気に入っちゃった。だから今日は見逃してあげる。次に会うときは、邪魔なモノをぜーんぶ外した本当の君と殺し合いたいな」

 

 そう言うと女は踵を返して、先ほど入って来た扉の方へ向かう。

 

 そうして奴が扉を開けると同時に、俺は手にしていた刀を自身の背後に突き出した。

 

 風切り音とそれに遅れて伝わる肉を断つ感覚。

 

 女から顔を背けないように視線を巡らせれば、紅姉の背後には禍々しい大鎌を振り上げた奴と同じ姿をした少女が、こちらの切っ先に胸を貫かれていた。

 

 ドッペルゲンガーか、それとも分身の術か。

 

 なんにせよ、下らない小細工だ。

 

「紅姉、頭を下げろ」

 

 こちらの声に一瞬遅れて前にかがむ紅姉。

 

 その頭の紙一重を奔った剣閃は驚愕の表情のまま少女の首を断ち斬った。

 

 鎌の重さによって仰向けに倒れた身体に一拍子遅れて首が落ちると、少女の身体は黒い影となって姿を消した。

 

「すごい、すごーい! このままお姉ちゃんと一緒に死んだら面白くないと思ってたんだ!」

 

 すでに部屋を出ていた女は、閉まりかけた扉の隙間から紅い眼を爛爛と輝かせてこちらを見ていた。

 

「ふぇりはフェリシアっていうの。次は君を殺すか、ふぇりの物にするからね」

 

 その言葉を残して扉は完全に閉じた。

 

 後に残った何とも言えない沈黙の中、紅姉は戸惑いを隠せない様子で口を開く。

 

「小太郎。あれはいったい何だったんだ?」

 

「さてな。分かるのはあの女がタチの悪い化け物だって事だけだ。それより急ぐぞ。いい加減脱出しないと拙い」

 

 紅姉は何か言いたそうな顔をしていたが、急かしてやるとそれを飲み込んで走り出した。

 

 屋敷の周辺に集まる人外の気配からすると、ここが包囲されるのは時間の問題だ。

 

 フェリシアとかいう女に時間をかけ過ぎたのは否めないが、無視していた場合はさらに面倒な事になっているような気がするので対処的には間違いないのだろう。

 

 俺達が目指したのは屋敷の出口ではなく、地下にあるガレージだ。

 

 紅姉が魔薬を打たれている為に、普段の半分も実力を発揮できていない状態である。

 

 こんな紅姉を連れての正面突破は、さしもの俺としても少々厳しい。

 

 なので、ここは一つ天堂のコレクションの中から足を頂こうというワケだ。

 

 奴は闇ブローカーとして巨万の富を築き上げている。

 

 保身の事も考えて、防弾仕様の車両くらいは用意している事だろう。

 

 そうして地下にある駐車場に辿り着いたワケだが、立ち並ぶ高級車はどれもこれも包囲を突破するには心許ない。

 

 防弾ガラスを使用しているようなのでマシンガンの弾程度なら何とかなるだろうが、ライフルやRPGを持ち出されたら耐えられそうにないのだ。

 

 馬力はあってもアメ車特有のガタイのデカさ故に的になる可能性は高いし、これから走るヨミハラの歓楽街の入り組んだ道にはどうしても向かない。

 

「小太郎。私は車の運転なんてできないんだが、いったいどうするんだ?」

 

「俺は出来るから心配しなさんな」

 

 不安そうに問いかける紅姉に『任せなさい』と胸を叩いてみせる。

 

 前世では空飛ぶ車『ストラト・ヴィーグル』まで運転してのけたのだ、地面を走る車程度どうとでもなる。

 

 そうやって物色すること数分、4輪に見切りを付けて二輪の方に向かった先で俺は面白いモノを見つけた。

 

「へぇ、いいもん持ってんじゃねーか」

 

 思わぬ掘り出し物に、仮面の中で我知らず口元が吊り上がる。

 

 その時浮かべていた笑顔は後にふうまの間で『悪鬼スマイル』と呼ばれるようになるのだが、今のオレには預かり知れない事であった。

 

 

 

 

 その単眼から放たれる閃光は眼前の暗闇の悉くを暴き出し、全身に伝わる内燃機関の震動は獲物を待ち望む猟犬を思わせる。

 

 駐車場の天井から降り注ぐ照明によって鋭く光る、流水タッピングによって加工された分厚いチタン合金の牙。

 

 そして車体に取り付けられたホルスターには様々な武器が血肉を喰らうのを今や遅しと待ち構えている。

 

「さて、ぶっ飛ばすとするか!」

 

「小太郎! 大丈夫なんだろうな! 本当に運転できるんだろうな!?」

 

 背後で半泣きになりながら俺の背中にしがみ付く紅姉。

 

 コートを頭から被るように言っていたので、今やケツ丸出しでございます。

 

 本気で申し訳ないのだが、衣類を物色する暇が無かったのだから仕方がない。

 

 天堂の服着ろって言ったら死んでも嫌って返って来るし、俺にしがみ付いてる間は前は見えないと思うから勘弁してほしい。

 

「心配するなよ、紅姉。俺は過去に空飛ぶ車を運転した事がある男だ」

 

「そんなの何処にあるんだ!? というか、免許! 免許は持ってるのか!?」

 

「ははは、馬鹿だなぁ。───無免に決まってんだろ」

 

 その言葉と同時にアクセルを吹かせると防弾仕様の特殊硬化ゴムで出来たタイヤが地面を噛み、俺達は弾かれたように加速する。

 

「ひゃあああああああああああっ!?」

 

「黙ってないと舌噛むぞ!」

 

 地上へ続く上り坂のスロープを猛スピードで走破しながら、俺は手にしたリモコンを操作する。

 

 鈍い音と共に上がっていく眼前のシャッター。

 

 さすが金持ち、普通のシャッターと違って駆動音が段違いに少ない。

 

 とはいえ、こんなモノが動いたのだから外にいる連中が気づかないワケがない。

 

 包囲網を突破するには、減速せずに一気に駆け抜けるしかない。

 

 エンジンの唸りと共に加速した車体は、スロープという僅かな距離で280キロまで加速している。

 

 出口目前でさらにアクセルを吹かすと俺達が跨る漆黒の獣は紙一重のタイミングでシャッターを潜り、弾丸のような速度で外へと飛び出した。

 

 こいつが最初に食らい付いた獲物は俺達の前方にいたオークだった。

 

 飛び出してきたモノが何かも分からないままに真正面から突撃を食らったそいつは、身体の半分を食い千切られて紫色の血と共に地面に叩きつけられた。

 

「なんだ、今のは! ただ轢いただけなのに、上半身と下半身が泣き別れに……ッ!?」

 

「フロントに付いてるバンパーファングの所為だよ! 今のコイツは時速三百キロで走る一トン強のギロチンの刃だからな! そんなの食らったら大体はああなるさ!!」 

 

「なんて物騒なバイクなんだ!!」

 

 後ろで騒いでる紅姉に答えを返しながら俺はさらにアクセルを開く。

 

 突然の惨劇に集まっていたノマドの傭兵やオーク達は瞬時に事態の把握が出来ないようだったが、コイツの前ではその隙は命取りとなる。

 

 猛る様なマシンの咆哮と共にさらに加速した漆黒の獣は、車体前方に取り付けられたバンパーファングで次々と獲物を喰い殺す。

 

 胴体の左半分、腰から下、胸から下、右半身の大半、俺達の前に立ちはだかる者はオーク・魔族・人間など種族に限らずその肉を奪われた。

 

 獲物の中には半ばパニックになりながらも引き金を引くことに成功した奴もいるが、吐き出した弾丸は防弾仕様のセラミックカウルや防弾処理が施された硬化タイヤに全て弾かれてチタン合金の牙の餌食となるだけだ。

 

 屋敷から出たわずかな間で十数人もの魔族やオークを噛み殺し、いとも容易く包囲網を食い破った怪物。

 

 その名は『GSX-Desmodus』という。

 

 スズキ・GSX1300Rハヤブサをベースに過剰改造を施した吸血鬼用の戦闘バイクで、3000CCツインターボとニトロチャージャーによって8秒で300km/hへと加速する超加速重視のモンスターマシンである。

 

 調整していたPCからデータを拝見したところ、このマシンはエドウィン・ブラックへの献上品として製作されていたらしい。

 

 あのエドウィン・ブラックが武器ゴテゴテの改造バイクに乗るなんて想像しがたいのだが、奴がコレを欲しがる理由もちゃんとあったりする。

 

 実はこのデスモドゥス、2代目なのだ。

 

 初代は十数年前、とある吸血殲鬼と呼ばれるハンターが乗りこなしていたらしい。

 

 その吸血殲鬼は単身デスモドゥスを駆って吸血鬼を信奉する異端者たちの組織を壊滅。

 

 立ちはだかる吸血鬼三銃士と呼ばれる実力者を葬り去り、囚われていた2000年の時を生きる吸血鬼の女王を助け出し、彼女と共に姿を消したとか何とか。

 

 エドウィン・ブラックはこの逸話に興味を持ったようで、天堂へデスモドゥスの再現を依頼。

 

 出来上がったのがコイツというワケだ。

 

「こ……小太郎。街に入ったんだから、スピードを落としてもいいんじゃないか?」

 

「できれば脱出口へ急ぎたいんだが、市街地だし無理に速度を出して事故ったら元も子もないか。OK、200キロくらいにおさえるわ」

 

「全然下がってない!!」

 

 さて現状の俺達だが、奇襲まがいの特攻が功を奏したようで追っ手が掛かる事無くヨミハラの歓楽街へと飛び込むことが出来た。

 

 幸先がいいのは確かなのだが、紅姉の言う通りドラッグレース用のマシン並のスペックを誇るデスモドゥスはじゃじゃ馬だ。

 

 露店や娼館、酒屋が立ち並ぶ歓楽街の入り組んだ道には少々向いていない。

 

 減速できれば問題は解決するのだが、生憎とこちとら追われる身なのでそういうワケにも行かない。

 

 方々に迷惑を掛けながらも疾走していると、案の定ノマドからの追っ手が姿を現した。

 

 こちらがバイクに乗っているのを聞き及んでいたのか、相手は小回りの利くオフロード仕様の二輪に乗ったオークの一団だ。

 

 バイクを駆り手には斧やこん棒を持つ奴等の姿は世紀末のモヒカン共を彷彿とさせる。

 

「来るぞ、小太郎!」

 

「あいよ!」

 

 かなり速度を落としているこちらを挟むようにして左右から迫るオーク共。

 

「ヒャッハーーー! 狩りの時間だぁぁぁぁ!!」

 

「ガキは殺せ! 女は犯せぇぇぇぇぇっ!!」

 

 物凄く頭の悪い掛け声と共に、奴等は得物を振りかぶる。

 

 奴等が武器をぶん廻すのにタイミングを合わせてブレーキを掛けると、急速に速度を落とした俺の車体は後方へと下がっていき、目標を失ったアホ共の武器は互いの顔面にジャストミートした。

 

「うわっ、モロに顔面に入ってる」

 

「やっぱりアホだな、あいつ等」

 

 血しぶきを巻き上げながら、バイク共々地面に激突する前方のオーク二名。

 

 他の奴等が第一陣の見事な失敗に唖然としている間に、俺はタンク横に付けられたホルスターから武器を引き抜いた。

 

『レイジングブル・マキシカスタム』

 

 世界最強と言われるハンドガン『レイジングブル454マグナム』に更なる強化を施した化け物銃である。

 

 片手でハンドルを支えると同時に、内勁を込める事で銃を構える腕を強化。

 

 素早く前方を走るオーク共の頭部にポイントすると、間髪入れずに引き金を引いた。

 

 銃口とその下に取り付けられたマズルブレーキが炎を吐き出し、放たれた弾丸は次々とオークの頭蓋を食い破ってその脳髄に食らい付く。  

 

 4連続で放った弾丸は全て命中。

 

 頭部を粉砕されたオーク共は、縺れるように転倒して一緒くたに爆発した。

 

 オークの遺体を燃料として燃え盛る炎の脇を駆け抜けながら、俺は銃を放った腕を振って痺れを取っていた。

 

 いやはや、大した反動である。

 

 世界最強の名は伊達ではないという事か。

 

「大丈夫か、小太郎?」

 

「平気、平気。ちょっと反動の強い銃だったから痺れただけ」

 

「小太郎は銃器の使い方を知っていたんだな」

 

「この仕事やってる以上はな。とくに俺は忍術が使えないから、剣だけで渡っていくってのは難しかったんだよ」

 

「そうか」

 

 俺の言葉にバツが悪そうに小さな声を出す紅姉。

 

 『目抜け』の事で地雷踏んだと思ってるみたいだけど、それ勘違いだから。

 

 そもそも、俺がバイクの運転や銃器の扱いに精通してるのって、前世で嫌というほど使ってからだし。

 

 今生に入ってからは、剣一筋なのでチャカの類はほとんど使ってません。

 

 そう考えると俺って10年以上のブランクがあるのに、200キロで走るバイクの上から4連続ヘッドショットを決めたんだな。

 

 もしかしたら、射撃の方にも才能があるのかもしれん。

 

「ところで、小太郎。さっきの奴らは追っ手なんだろうか?」

 

「さて、もしかしたら歓楽街を拠点にした部隊なのかもしれん。そうなるとチンタラ走ってるワケにはいかないな」

 

「グズグズしていたら、天堂の屋敷から来た追撃隊と街の部隊に挟撃される危険性があるか」

 

「そう言う事。飛ばすからしっかり掴まってろよ!」

 

 ハンドル中央に備え付けられた液晶モニターに映る地図に目を走らせた後、俺はアクセルを開けた。

 

 咆哮と共に加速するデスモドゥス。

 

 店の備品を吹っ飛ばし、商品をぶちまけ、さらには女に襲い掛かろうとしたオークを食い殺す。

 

 そんな感じで更に方々に迷惑を掛けながら疾走する事、約十分。

 

 ようやく目的の場所、地上とヨミハラ間の物資の運搬を一手に引き受ける搬入カーゴの入り口が見えて来た。

 

 ヨミハラは地下300メートルに築かれてはいるが、その物資の消費量は大都市に引けを取らない。

 

 だから、それだけの物資を地上から運搬する為の施設が必要になるワケだ。

 

 その為ヨミハラでは人員出入り用のエレベーターとは別に、物資の積載量を増加させたリフト型を採用している。

 

 そのリフト用の通路である坂道こそが俺達の脱出ルートというわけだ。

 

「こちらL1。L2、L3聞こえるか?」

 

 人目に付かないように物陰の近くで一旦停止して仮面の内側に付けたインカムに発信すると、少しのノイズを挟んで返信が返って来る。

 

『こちらL2。L1進捗具合はどうだ?』

 

「目標の確保に成功、現在はルート1に向けて移動中。そちらはどうか?」

 

『こちらも目標の確保に成功した』

 

『こちら、L3。ネズミに関しては心願寺の爺様のところに送ってます。爺様、大層な怒りっぷりでしたから、今頃ナマスにされてるんじゃないですかね』

 

 L2・骸佐に続いてL3・権左の兄ィからも報告が来た。

 

 目標は言うまでもなく、紅姉と槇島あやめ。

 

 ネズミというのは裏切り者の苫利の事である。

 

 というか、今回の件で一番ブチキレてる爺様のところに送るとか味方ながら酷い。

 

 絶対に楽な死に方させてもらえないだろうな。

 

「そちらの状況は了解した。これよりルート1より脱出する」

 

『了解した。こちらも話は付いている、気をつけて上がって来い』

 

『それじゃ上で待ってますんで、終わったら美味いモノでも食いましょうや』 

 

 事前の打ち合わせ通りに事が進んでいるのを確認して、俺はインカムのスイッチを切った。

 

「今のは?」

 

「骸佐と権左兄ィだよ。槇島の救出と苫利の捕縛は無事に終わったらしい」 

 

「そうか、よかった……」

 

「二人はこのまま俺達の脱出のサポートに付く事になってる」

 

「それは心強い。なら、失敗はできないな」

 

「そういうこった。しっかり掴まってろよ」 

 

 そう言うと紅姉は慌てて俺の腰に手をまわした。

 

 しっかりとしがみ付かれる感触を確認して、俺は再度デスモドゥスを発進させる。

 

 100キロそこそこの速度を保ちつつ搬入口に近づいてみると、案の定というべきかリフトのシャッターの前には多くの人や車両の影が見えた。

 

「あれは……ッ!」

 

「やっぱりこの街の部隊も動いてたか。こっちのルートを探っていれば、脱出場所だって自ずとわかるもんな」 

 

 カウル越しに見えるノマドの部隊、その陣頭指揮を執っているのは魔界騎士のイングリッドだ。

 

「来たな、ブラック様の領地を荒らす虫けらめ! 総員、撃ち方用意ッ!!」

 

 エンジン音からこちらの存在に気付いたのか、イングリッドの号令に合わせて手にした銃器を構える兵隊共。

 

 ライフルにグレネードランチャー、さらにはミニガンまで。

 

 メインの道路を避けていた為に、現在俺達が通っている道はかなり狭い。

 

 これだけの火器の十字砲火を喰らえば、いかにデスモドゥスといえど耐えられはしない。

 

 かといって、狭い直進の路地では逃げ道がないのも確かだ。

 

 距離が近づく度に次々と銃口がこちらを捉え、イングリッドを始めとしたひり付く様な殺『意』に思わず口元が吊り上がる。

 

 そうして彼我の距離が100mを切った瞬間、聞こえるはずの無い撃鉄を起こす音を耳にしたような感覚に俺は行動を起こした。

 

 思考に掛ける時間は刹那。

 

 決断を下した俺はゆっくりとハンドルを左に切り、前輪を壁に乗せた。

 

 イングリッドの号令の下、ノマドの兵達が引き金を絞るのとこちらがアクセルを全開にするのは同時だった。

 

 デスモドゥスに搭載された3000CCツインターボとニトロチャージャー。

 

 この走る凶器に8秒という短期間で時速300キロもの速度を与える心臓部は、今回も主の無茶に応えてみせた。

 

 漆黒の獣の両足は聳え立つコンクリートをしっかりと捉え、通り過ぎる横殴りの鉛玉の雨をしり目に咆哮と共に路地裏を挟む住宅の壁面を疾走したのだ。

 

 このあまりにも理不尽な光景にノマドの兵士は勿論、指揮官であるイングリッドまでもが唖然と口を開けていた。

 

 その隙に俺はデスモドゥスの側面に括りつけていた円柱状の物に手を伸ばした。

 

 肩に担いで所定の操作をすれば折りたたまれていたスコープ兼設定ディスプレイが立ち上がり、筒先を覆っていた安全装置の解除と共にその砲口が露になる。

 

 一時的な道路と化していた壁面が切れ、車体が宙に投げ出されるのとこちらのセッティングが終了するのは同時だった。

 

「そら! 熱々のローストチキンになりな!!」

 

 宙を蹴って傾いた車体を水平に戻すと同時に、俺は未だ自失から帰っていないノマドの兵に向けて引き金を引いた。

 

 円柱───ロケットランチャーの後部排気口から高温のガスが噴き出すと同時に砲口から飛び出すロケット弾。

 

 それはこちらの指示した通り、展開する迎撃部隊の中央へ向けて宙を駆けていく。

 

 あちら側は俺が披露した曲乗りから我に返っておらず、このまま行けばこの一発は壊滅的なダメージとなるだろう。

 

 だが、奴等の中にもそうはさせじと動く者がいた。

 

 部隊の指揮官であるイングリッドだ。

 

 この状況では指示を出しても間に合わないと判断したのだろう、奴は飛来するロケット弾を面に愛剣を構えて待ち構えていたのだ。

 

 おそらくは着弾寸前に弾頭を切断するか、もしくは斬り落とすと同時に奴の炎熱操作で爆炎に干渉して被害を最小限に抑えるつもりだったのだろう。

 

 だが、その考えは甘い。

 

 ロケット弾が刃圏へと侵入しイングリッドが下段から刃を跳ね上げようとした瞬間、轟音と共にそれは紅蓮の炎へと姿を変えた。

 

 炎は衝撃波と砕けた鋼の破片を伴って、ノマドの兵隊たちを次々とその赤い舌で舐め取っていく。

 

 そして、炎に晒された場所からは一拍子置いて火薬の弾ける音と共に次々と苦悶の声が上がって来た。

 

 高温の炎に炙られた事で、奴等が持ってきていた弾薬が暴発したのだ。

 

 ライフルはもちろん、ガトリングガンなんて物騒な代物を用意していたんだ。

 

 奴等が貯め込んでいた弾薬は相当なものだろう。

 

 それが次々に暴発しているとすれば、あそこ一帯はまさに地獄だろうな。

 

 しかし、天堂の奴は本当に良い趣味をしている。

 

 まさか未だ市場に出回っていない米連の試作兵器まで手に入れているとは思わなかった。

 

 こいつの優れたところは、ロケット弾に内蔵された各種センサーによって時間・飛距離・対人センサー感知と爆発のタイミングを選べることだ。

 

 今回、俺が選択したのは対人感知。

 

 一度剣を合わせた事で奴が炎を操る事は知っていたので、今のようなケースならば率先して迎撃してくるだろうと読んでいたのだ。

 

 その結果は御覧の通り。

 

 こちらの乾坤一擲の一撃は搬入口の包囲に風穴を開ける事に成功した。

 

 後は地上に降りると同時にフルスロットルで搬入口へと飛び込むだけなのだが、そうは問屋が卸してくれないらしい。

 

 眼下にある爆炎の中心地、消えかけていた炎を食い尽くすかのように黒炎が吹き上がる。

 

 そしてそこから飛び出してくる人影があった。

 

 言うまでもない、イングリッドだ。

 

「貴様等ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 怒号と共に勢いを増す炎と共に、愛剣を振りかぶりながらこちらに突っ込んでくる魔界騎士。

 

 武具がホルスターに収まっている以上、このタイミングでは迎撃は間に合わない。

 

 振るわれた黒い刀身がデスモドゥスの車体へと迫る中、俺は思い切り足を蹴り抜いた。

 

 次の瞬間に起こった事は、おそらくイングリッドには理解できなかっただろう。

 

 自由落下に任せるしかないはずの1トンを超える鉄の塊が、まるで羽毛のように上へと舞い上がったのだから。

 

 防弾カウルごと俺達を両断するはずの一撃は黒い火の粉を残して虚しく空を切る。

 

 足元を過る熱を感じながらアクセルを全開にすると、デスモドゥスの後輪はあるはずの無い地面を踏みしめる。

 

 そして弾丸の如く加速した我が相棒は、その牙で呆然としている魔界騎士の脇腹を食い千切った。

 

 けたたましい音と共にデスモドゥスの両足がアスファルトを削る。

 

 なんとか反動を殺して着地に成功すると、それに一拍子遅れて赤紫という魔族特有の血飛沫をあげてイングリッドが地面に叩きつけられる。

 

 あのタイミングで急所を外したのは称賛に値するが、腹の半ばまでを吹き飛ばされては戦うことはできまい。

 

 さて、今の現象に就いてだがマジックの種は軽身功である。

 

 軽身功は氣功術の一つで、練り上げた内勁によって己が重みを限りなく0にするというもの。

 

 これを極めた者はその身を重力の枷から外し、砂粒一つを足場に飛ぶ事を可能とする。

 

 俺はこの軽身功をデスモドゥスに施す事で、あの瞬間に宙を漂っていた塵を足場に跳躍したというわけだ。

 

 氣功術は術者の体内のみに作用すると思われているようだが、それは大きな間違いだ。

 

 術者が触れている者にその内勁を通す事で、器物にその恩恵を与えることもまた勁功の奥義のひとつなのである。

 

 さらに言えば、俺は斬撃を放つ際は常に刀に内勁を込める。

 

 数打ちの日本刀にできるのだ、バイクといえど相棒たるデスモドゥスに込められないワケがない。

 

 そも軽身功で重量が生み出す反動を軽減していなければ、中学生の身で吸血鬼用に調整された化け物バイクをここまで乗りこなすなんてできはしない。

 

「お…おのれ……」

 

「エドウィン・ブラックに伝えといてくれよ。こんな派手なバイクはおっさんには似合わん。だから、俺が有効利用してやるってな!!」

 

 血ヘドと共に怨嗟の声を地面に零す敗残の騎士に、そう言い放って俺はアクセルを開ける。

 

 先ほどの惨劇をなんとか生き残ったノマドの残党が放つ銃弾を、『意』を読むことで何とか躱しながら進んでいくと、何度目かの加速と共に近づいてくる搬入リフトの隔壁。

 

 奴らから聞こえてくる叫びからすると、リフトの制御装置はさっきの爆発で破壊されたようだが、俺は構わずに速度を上げていく。

 

 もはや停止は間に合わない速度で隔壁へと突っ込む俺に、『自爆しやがった!』と囃し立てるノマドの兵達。

 

 しかし、奴らの期待は叶うことはない。

 

 こちらの接近を察知したかの様に、重い音を立てて隔壁が持ち上がったからだ。

 

 人一人分ほどが通れる高さまで開いた隙間を頭上スレスレで潜り抜けると再び隔壁は音を立てて閉まり、動き出したカーゴの上にデスモドゥスを停車させた俺はインカムを再び起動させる。

 

「ナイスタイミングだ、骸佐」

 

『当たり前だろ。こっちはしっかり見てたんだからよ』

 

『東京側からリフトの制御を奪う手は成功ですな』

 

「ああ。女王がリフトの仕様書を送ってくれて助かったぜ」

 

 今回の救出劇を始めるに当たって、カーラ女王から幾つかの資料がふうま宗家に送られてきた。

 

 その中にヨミハラと東京をつなぐ物資搬入用リフトの仕様書も存在していたのだ。

 

 このリフトはヨミハラの流通の生命線と言えるもので、当然安全対策や緊急時の対応措置も複数存在する。

 

 その一つが地上と地下の双方でリフトが操作できるというモノだ。

 

 これは魔界都市であるヨミハラの治安はお世辞にも良好とはいえない事から、何らかのトラブルで地下側のリフトの操作設備が破壊される可能性を考慮してのセーフティなのだが、ここに一つ絡繰りが仕込まれていた。 

 地上と地下の双方の操作装置が生きている場合、リフトは東京側を優先するようになっているのである。

 

 これはおそらく魔界勢力からリフト建造を押し付けられた日本政府が残した嫌がらせ、もしくは反逆のための布石なのだろう。

 

 今回はそれを利用させてもらったわけだ。

 

『ところで小太郎。お前、そのバイクはなんだよ』

 

「俺の相棒のデスモドゥスだ。エドウィン・ブラックからパクッた、発進から8秒で300キロに加速する走るギロチン」

 

『なにそれコワい』

 

『それって人間が走らせたら、一瞬でジャムになりませんか?』

 

「そりゃあ吸血鬼用だからな。それを乗りこなすのが、ライダーの醍醐味じゃねーか」

 

『いや、お前対魔忍だろうが』

 

「何を言うか、俺は剣士だぞ。所属が対魔忍なだけで忍者になった覚えはない」

 

『ウチのトップが一番忍の自覚が無い件』

 

『しかたねーよ、小太郎だし。で、その馬鹿バイクどうすんだ?』

 

「馬鹿バイクゆーな。持って帰るにきまってるだろ、もう俺の愛車なんだから」

 

『無免な上に過剰改造、さらに車検も無し。サツに見つかったら逮捕待ったなしですな』

 

『車体も血糊ベッタリなうえに銃刀法違反のオマケ付きだからな。未成年だっつてもそうそう簡単には出てこれないぞ』

 

「愚か野郎どもめ、法なんて破る為にあるんだよ。300キロでかっ飛ばせば、サツなんて追いつける訳がない」

 

『なんて奴だ、思考がアウトロー過ぎる』

 

『奥様に通報しました』

 

「すんませんっした!!」

 

 通信越しなのに思わず頭を下げて、俺は通信を切った。

 

 途中から完全に雑談になっていたが、そこはいつもの事なので気にしない。

 

 というか、さすがの俺もコイツに乗って東京を走るほど無謀ではない。

 

 上に着いたら災禍姉さんに回収用の車両を回してもらうつもりだ。

 

 それよりも今の俺には早急に手を付けねばならない事がある。

 

「なあ紅姉、俺が悪かったよ。そうだよな、コートの中に何も着てないのに前を開けて300キロで走り回ったら、そりゃあお腹も冷えるよな。その上にあんな無茶苦茶な運転したんだから、そうなっても仕方ないって」

 

「……ヒッ、くれない……もらしちゃった……。こたろうのまえなのに………」

 

 ヤベぇ。

 

 なんでか知らないけど、幼児退行までしてやがる。 

 

 たしかに弟分の前で粗相したのはショックだろうけど、そこまでダメージ受けるか!?

 

「OK、落ち着け紅姉。これは事故だ! 俺は誰にも言わんし、紅姉はなにも悪くない。悪いのは全部俺だから、まずは泣き止んでくれ!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁん! おじいさまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「うおおっ! 勘弁してくれ!」

 

 

 

 

 こんな感じで無事(?)に紅姉の救出に成功したわけだが、この後については語ることはそう多くない

 

 結局紅姉が泣き止まなかったので骸佐達との祝勝会は中止となり、単車運搬用のトラックに乗ってきた災禍姉さんと合流した俺達は紅姉を送っていくこととなった。

 

 孫娘が無事に帰って来た事に関して爺様からは土下座せんばかりの勢いで感謝されたのだが、一方で未だグズっていた紅姉を引き取った槇島からはビームが出るかのようなメンチを切られるハメになった。

 

 別に威張るつもりはないけどさ、俺ってお前等の頭領なんですがねぇ。

 

 そのあと家に帰ってデスモドゥスのシートを掃除した訳だが、密着状態だった為にズボンのケツと太腿にも被害は及んでいた。

 

 おかげで出迎えた際に抱き着いてきた銀零も汚れてしまい、お詫びも兼ねて一緒に風呂に入る事に。

 

 こちらから離れる際、銀零が『別のメスの匂いがする』とか言っていたのは、きっと幻聴に違いない。

 

 ともかく、色々とあってさすがに疲れた。

 

 明日も問題は山積みなんだし、今日はゆっくりと休むことにしよう。




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