1998年 9月中旬
俺がゾンビと遭遇した事件以来、特に変わったことはなく普通に勤務を続けることが出来ていた。だが、その一方で警察署内では様々な変化が起きていた。具体的には扉の鍵がトランプのマークを象ったものに一部変更されていたり、防火シャッターが増えていたりと、どう考えても不便ではある。
そして、いつも通り出勤すると何やら他の所は忙しそうにしていた。
「おはよう、これは一体なんの騒ぎだ?」
「おはようございます、今日は有名なアメフトチームがスタジアムで試合をする日ですからね、その警備に出る人達が準備しているんですよ」
受付の女の子に事情を聞いてそう言えばそんなこともあったなと思い出していた。そんな彼らを後目に見ながら自分の事務所へといって、自分の仕事へと向き合う。
ふと気がつくと時刻はお昼を過ぎようとしていた。売店へと向かい、昼食を買うと休憩室でテレビを見ながら食べているとたまたまチャンネルはそのアメフトの試合を流していた。
「何が面白いのかねぇ」
「あれ、先輩はアメフト嫌いですか?」
「嫌いと言うよりは、興味が無いな」
たまたま近くにいたアーノルドと話をしながらお昼を食べていると何やら試合が止まったようだ。
「あれ……どうしたんですかね」
「さぁな、だが穏やかではなさそうだ」
俺は残りの昼食を掻き込んだと同時にサイレンが鳴った。これは緊急招集の合図だ。
「えっ!?警報!?」
「ただ事じゃないらしいな」
俺とアーノルドは急いで事務所へと戻るのだった。事務所に戻ると緊張の面持ちのやつもいれば、面倒くさそうな表情を浮かべているやつなど、様々な表情のやつがいた。
「諸君、たったいまスタジアムにて暴徒が暴れだしたの報告があり既に何人かが負傷している。そこで何人かを支援で回せとのお達しが出た」
課長がそう言うとあからさまに何人かが舌打ちをしたが残念なことに真っ先に指名されていた。そして俺とアーノルドは残留という形で事務所で待機というお触書が出た。
「それにしても……暴徒って珍しいですね」
「まぁな、国民的スポーツのアメフトでおおかた、好きなチームが負けそうだったから暴れたという魂胆だろうな」
そんなことを考えながら、俺は相棒である『H&K USP』を丁寧に手入れしていた。
「先輩、また銃の手入れしてるんですか」
「暇だからな」
そう言いながらパーツパーツを手入れしていると今度は血相を変えて課長が入ってきた。
「スタジアムに行った連中に死傷者が出たらしい……!」
その報告に俺だけでなくほかの連中も思わず顔を見合わせるような反応を浮かべていた。話の要約としては、スタジアムの暴徒に襲われて、3名が死亡、47人が重傷を負ったらしい。けが人はラクーン病院に収容されたようだ。
「そして何でも……暴漢は銃で撃っても怯みもしなかったと……」
最後のその報告に俺は2ヶ月前のゾンビを思い出していた。もしそれが本当ならば非常に厄介なことになるだろうと。
「おまけに洋館事件で帰ってきた連中はほとんど休暇で居ないし」
クリス、ジル、バリーの3人は休暇でどこかへとバカンスに行ってるみたいで定期的に届く手紙には楽しそうな写真が添付されていた。
俺は俺で、ラクーン病院へと車を走らせていた。理由としてはとても簡単で負傷したヤツらから話を聞くためだ。
ラクーン病院にたどり着くと中はまるで野戦病院のように慌ただしくしていた。これじゃあ、話も聞けそうにない。そう思って踵を返して外に出ようとすると先に到着していたアーノルドが俺の腕を引いた。
「先輩、やっぱり暴漢は……」
アーノルドのその先の言葉は容易に想像がついた。
「……それだけ知れれば上々だ」
俺とアーノルドは車に乗って病院を後にするのだった。
1998年9月23日
その日は少しばかりどんよりとした朝だった。俺は目を覚ますとふと悪寒を感じていつも以上に出勤の準備を念入りにするのだった。そして、出勤すると何やら周りがとても騒がしい。
「ジャックさん!何してるんですか!?」
「何って、普通に出勤だが……」
「既に緊急事態宣言がかかってますよ!?直ちに事務所に行ってください!」
言われるがままに事務所に行くとほとんどの人員が出払っていた。
「ジャック!今までどこにいたんだ!?とにかく行くぞ!」
なんの事情も聞かずに課長に連れていかれてパトカーに乗ると猛スピードでどこかへと向かっていく。
「課長、どこに向かっているんですか?」
「どこってお前……大人数の暴漢がスタジタムから来てるんだよ!」
「暴漢……?」
そして、現場にたどり着いたのかパトカーが止まり、降りるとそこには大量のバリケードと警察隊が陣地を組んで待ち構えていた。おまけに、その周囲はピリピリとした空気が漂っており嫌な雰囲気を感じる。
「ジャックも武器を受け取って用意をするんだ」
「……はぁ」
やむなく、俺は警官隊の武器庫からMP5を拝借するとマガジンを5つほど腰のポーチへと入れて準備をする。
「……課長、そんなにやばい案件なんですか?」
「ヤバいも何もとんでもないことになってるぞ」
そう言う課長はM700を借りたらしく零点規正をしながら現状を説明してくれた。どうやら、この前のスタジアムの暴漢がゆっくりと市内へ向けて来ているらしい。なんでもその数がとんでもないようでこのようにバリケードを作ったとの事だ。
「……なるほど」
「そういう事だ」
すると周りの警官たちがざわめき出した。
「おい……!見てみろよ……!」
「なんなんだよ……!」
その周りの声に合わせて指さす方向を見るとそこには大量のゾンビの群れがあった。その数はとても数えきれない。
「有効射程に入ったやつは撃てぇ!」
警官隊の長と思わしき人物が号令をかけるとスナイパーライフルを持ったやつが先制攻撃を仕掛けるも、発砲する数よりも圧倒的なまでに数が多く、まるで効いていないようにも見える。
「狙うなら頭を狙え!!」
近くにいた警官にはそういうも一介のしがない警官が言ったところで伝達するはずもなく、無駄弾を次々と使っていくだけだった。
「課長!ここは無理です!早急に逃げるべきですよ!」
リロードするタイミングで俺は課長に直談判をするも課長は聞く耳も持たずにゾンビへと発砲を続ける。
「あぁ、クソ!!」
サブマシンガンの有効射程ではないため俺はパトカーへと戻り車のエンジンを付けるといつでも発進できるようにして持ち場へとつく。ゆっくりと、だが確実にゾンビ達は近づいてきてついにサブマシンガンの射程圏内に入った。
「撃てぇ!!」
ほとんどの連中がトリガーを引き周囲には発砲音が鳴り響く。俺はセレクターを単発にして1発1発をゾンビの頭に叩き込むも、9mm弾では威力が足りないのかなかなか倒れてくれない。そうしている間にも距離が近づいてくる。
「課長!逃げますよ!」
俺は早めに見限って課長の首根っこを掴むとパトカーへと引っ張ろうとするが、振り払われてしまった。
「何をするんだ!」
「あんたここで死にたいのか!!」
俺はたまらず叫ぶも彼我との距離は残り20メートルまで近づいていた。なかなか倒れない相手に撤退を視野に入れ始めたのか、逃げようとするやつが現れるも数が数なだけに逃げ遅れる人物もいるわけで、ついに警官隊の末端にゾンビがたどり着いた。
「うわぁぁ!やめろぉぉ!!ぁぁぁぁああああ!!!!!」
何かを咀嚼するような音と絶叫が聞こえてきて周囲がパニックになった。その隙を乗じて俺は無理やり課長をパトカーに乗せるとそのまま運転席へと飛び込み、急発進する。
「……な、なんなんだ……!!」
「あれがゾンビですよ、課長」
「お前はなんでそんなに落ち着いているんだ!?」
「報告書で上げたじゃないですか、
そう言うと課長は黙り込んでしまった。そしてしばらく運転して警察署にたどり着くと半ば放心状態の課長は無言で降りてそのまま事務所へと向かっていった。俺も自分の事務所へと向かうとそこにはアーノルドが疲れ切った表情で座っていた。
「どうした、そんなに疲れきって」
「……先輩……先輩はいつもこんな気持ちだったんですか?」
「どういうことだ?」
「……誰も信じてくれずに否定されることですよ……」
「なんだそんなことか。別に俺はなんにも気にしてないからな」
俺は溜息をつきながら椅子へと座り、借用していたMP5のマガジンから9mm弾を抜き始める。
「そうなんですか……?」
「ああ、他人がどうなろうがどうでもいいしな」
「……先輩ってとてもドライなんですね」
「そうか?身近なやつだけ助けられればそれでいいしな」
弾丸を抜きながらそう言うと、机の引き出しから一枚の写真をアーノルドへと渡す。
「これは?」
「俺が守れなかったものだ」
そこには、彼女だった人物と俺が幸せそうに写っているものだ。
「俺は、あの日彼女を守れなかった。だから、俺が守りたいものを守れるように努力したのさ」
「……だからあんなに大会とかで優勝とかしたりするんですね」
「そんなのはほんの過程にしか過ぎないさ」
最後の1発を抜くとその弾丸をUSPのマガジンへと詰めていく。
「よし、これで準備よしと」
詰めたマガジンを自分のホルスターベルトに差し込み、腰にはUSPを装備する。
「……先輩、なんでそんなにたくさん弾を持ってるんですか?」
「いつ弾丸の供給が無くなるか分からないからな」
そう言って引き出しを開けると、そこには9mmだけでなく、45口径の弾や50口径の弾、そして12ゲージの弾などを敷き詰めるかのように入っている。
「……先輩、何してるんですか」
「こういう時に備えていたのさ」
俺はそう言うと自分の車へと向かった。後ろからはアーノルドがちゃっかり着いてきていた。車にたどり着くとトランクからデザートイーグルを取り出して左のホルスターにしまい、ベネリM3を背負ってベルトで固定すると、アーノルドへ振りむく。
アーノルドは一周まわって引いているようで心做しか距離が開いているような気がした。
「…………まぁいい……」
「あ、せ、先輩冗談ですよ!」
ひとまずもう一度事務所へと戻ることにした。
少しばかり歴史の流れとは違いますが、楽しんでいただければ幸いです。