元号が変わって令和へとなりました。これからも亀更新ではありますがよろしくお願いします。
事務所に戻った俺たちを待っていたのはげっそりとやせこけた課長の姿だった。
「お前ら……署長からの指示だ。なんでもテロを警戒して弾薬を散らばらせるらしいから手伝えだと」
「……テロと言うよりは既にウイルス災害なんだけどな」
どうにも署長の指示が的確ではないことに疑問を抱きながらもその作業をするために地下の弾薬庫へと向かうのだった。まだまだほかの署員は余裕を持って言われた通りに指示に従っていたが、俺はこの指示にやはり納得がいっていなかった。
「先輩どうしたんですか?」
「……こんなことをすれば万が一があった時に弾薬の確保が難しくなると思ってな」
「まぁ確かにそうですが、裏を返せばここが占拠されても対処はできますよ?」
「それはそうだが……ここが占拠されるっていうのは身内からの裏切りしかないんだけれどな」
弾薬庫のセキュリティ的にはカードーキーの管理者とパスワードの二重管理がされており署員はパスワードこそ知ってはいれど、カードーキーは管理者立ち会いでしか開けられないようになっている。
ひとまず弾丸を台車に載せると、署内のあらゆる所に運んでいく。待合室や、資料室はもちろんのこと、物置や美術品倉庫などにまで置くのはやりすぎなような気もした。
「ふぅ……これで終わりか」
気がつくと既に時刻は朝になっており決して浅くない疲労が体に残っていた。本当は家に帰りたいが、なんでも緊急事態宣言のせいで署内で待機するようになっていて帰りたくても帰れなかった。仕方なく、署内のシャワー室でシャワーを浴びて仮眠室で仮眠とることにする。
何時間か寝ていたところで俺は体を揺さぶられる感覚で目を覚ます。そこにはアーノルドが必死な表情を浮かべていた。
「先輩ッ!大変です!署内にゾンビが……!」
その言葉に俺は跳ね起きて急いで現場へと向かう。
警察署は広大な美術館を改造したもので外柵というものが少しばかり遠いところにあり、その外柵にゾンビ共がしがみついている状況のようだ。
「既に何ヶ所かは柵を超えてきたゾンビが居るようで……対処はしているらしいのですが」
「ちっ……もうここまで来るとバリケードを作って侵入を防ぐしかないな」
周りの警官たちもバリケードの素材を持ってくるためにパトカーや突入用のボックスカーなどを持ってきていた。俺もその作業に加わっているとどうやら柵を超えてきたゾンビが現れたようで警官隊が必至に抵抗していた。
「頭を撃てば止まるぞ!」
そう言うと俺は抵抗している警官隊を援護するようにUSPを抜くと2発立て続けに頭を撃ち、崩れ落ちるゾンビを後目に油断なく次の相手へと構える。
「急げ、モタモタすると間に合わんぞ」
「は、はいっ」
俺は柵を越えようとするゾンビの腕や頭を撃ち、丁重にお断りを続けているとどうやらバリケードが完成したらしい。
「よし、撤退するぞ!」
指揮官が号令をかけるとぞろぞろと署内へと撤収を始める。俺とアーノルドは殿を務めるも特に何事もなく無事に帰りつくことができた。
「使った弾薬はマガジン1つか……」
事務所に戻るとすぐに弾薬を補充するとコーヒーを入れて休憩する。その隣でアーノルドは落ち着かない様子でソワソワしていた。
「どうしたアーノルド」
「先輩……俺は怖いんです、いつ死ぬかもわからないし、あいつらと対峙して引き金を引けるかも……」
そんなことを言うアーノルドに対して俺は肩に手をおいた。
「それが普通の感情だ。だが、判断だけは誤るな。戦ってもいいし逃げてもいい……けれど死ぬことだけは絶対にダメだ」
「先輩……」
その言葉にアーノルドは少しばかり表情が明るくなり俺もほっとしたのだった。その後も何度か、招集がかかりその度に戦闘を繰り返すも、戦果は芳しくなく着々と警官の数は減っていたのだった。
1998年9月25日
度重なるゾンビとの戦闘に警官は徐々に数を減らしていた。それに追い打ちをかけるように負傷して死んだ警官がゾンビとなって甦り、さらに状況は悪化していた。
その一方で、警察署の中では何者かによる妨害行為なのか、外部との連絡が一切取れなくなり支援を求めるのは絶望的な状況になっていた。
「諸君、我々は今窮地に立たされている。度重なる戦闘で負傷者は増え、弾薬もそこが見え始めた。そこでだ、これから我々は散らばった弾薬を回収し、この警察署からの脱出を考える」
会議室で開かれている作戦会議。それは今署内に残っている生存者を救出し、警察署、ひいてはラクーンシティからの脱出を試みるための内容だった。周りの警官もかなり数は減ってきており、疲労の色も濃い。
「それで、散らばった弾薬を探す組と生存者を救出する組に別れる訳だが……ジャックとアーノルドの2人で署内を回ってくれ」
「まぁそれが賢明な判断だろうな」
既に戦える奴らは食われたか、怪我をしていて動けないかの2択だ。周りにいる連中も臆病風に吹かれて自分の命を大事にしてきた連中ばかりだった。
「マービンも大変だな」
「そう言うなよ、それにこっちにはエリオットとデビットもいる、なんとかなるさ」
今名前の上がった3人はそれぞれが優秀な署員だ。彼らに任せていれば何も問題はないだろう。
「何かあったら連絡しろ」
「もちろんだとも」
俺はマービンから通信機を受け取るとアーノルドを引き連れて会議室を出るのだった。会議室を出ると外は暗く、月明かりもそんなにない暗い景色が広がっている。
「先輩……」
「大丈夫だ、お前の手に持っているのは一級品だろ?」
俺は事前にバリーからもらっていたS.T.A.R.S.に配給されている『サムライエッジ』をアーノルドへと渡していた。
「そいつの信頼性は折り紙付きだぜ、あとは自分を信じろよ。背中に背負っているランチャーもな」
アーノルドの背中には中折式のグレネードランチャーがあり対応する弾薬も火炎弾と榴弾をそれぞれ5発ずつ持たせてある。
「というわけで、探索へと出かけようじゃないか」
ひとまずは屋上へと向かうためにホール経由で反対側へと向かうことにしたのだった。会議室から出て資料室の面する廊下を歩くと外に面する窓からは、遠くで上がる火の手で照らされた建物などがみえる。
「……外はとんでもないことになってますね」
「まぁしょうがないだろうな、恐らくこの分だと都市機能も麻痺してるだろうしな」
そんなことを話しながら奥の扉を開けて待合室へと入る。待合室には何人かの民間人が不安な様子で座っていたり寝ていたりしている。
「ひとまずこの待合室がセーフゾーンっていうわけですか……」
「ここまで生存者を連れてくればいいんだろうな」
生存者たちを後にしてホールへの扉を開ける。ホールに出ると巨大な女神像にちらっと目を向けるとその横を通り2階へと上がっていく。
「この女神像の下に地下に続く通路があるらしいですよ?」
「わざわざこんな大掛かりな仕掛けを作らなくてもいいと思うんだがね」
おまけに仕掛けの解き方を分からない署員もいるようで本当に管理が行き届いてないなと感じるのだった。ホールを抜けて待合室を抜けると美術品倉庫前の廊下へと出る。ここからひとまず屋上へと向かうのだが、なんとなく嫌な予感がして、念のためにUSPを抜く。
屋上へと続く扉を開けるとそこには多数のゾンビが階段からゆっくりと上がってきていた。
「おいおい……冗談だろ?」
「これはっ……!」
あまりにも数が多く、この先を探索するのは困難だと判断すると踵を返して廊下へと戻り近くにあった木材で扉を封鎖すると別のルートで署内を回ることにした。
「あんな大群に囲まれたら一溜りもないな」
「……けれどいずれはあいつらが……」
「恐らくはそうなるだろうな」
俺達は美術品倉庫の前を通り反対側の方へと移動する。その通路は署長室へと続いているがそこは無視して1階へと移動する。
1階に降りると宿直室が面した通路に出るがそこにもゾンビが2体ほどたむろしていた。幸いにして向こうはまだ気づいておらず、ひとまずは宿直室へと入ってみる。中は特に変わった様子もなく、奥の所へ移動するとベッドの上に手帳のようなものが置いてあった。
「えっと……なんだこれ、チェスの話か……」
中には親しくなった老人とチェスをしたが勝てずじまいだった内容が書かれていた。とりあえずその手帳をポケットへとしまい、廊下へともどる。
「いいか、極力弾は使わずに行くぞ」
そういうと俺はまずゾンビの後ろへと忍び寄るとそのまま首に手をかけて勢いよく首の骨を折りそのまま壁へと押し出す。物音に気づいたゾンビがこちらに振り向きにじりよってくるが、掴まれる前にその腹へとミドルキックを繰り出して、よろけさせると流れるように反対の足で側頭部を蹴り抜く。勢いの乗った蹴りを食らうと壁へと叩きつけられて動かなくなった。
「いやおかしくないですか?」
「何がだ?」
「なんで体術でゾンビを完封できるんですか」
「こんなの当たり前だろ」
俺はよくわからない疑問を持っているアーノルドに不思議な顔をしながら廊下を進んでいくのだった。
リメイク版をベースに物語は進んでいきますので、マップなどは間違っているところもあるとは思いますが、寛容な目で見守ってください。