「あ〜、暇だな。お前もそう思わないか?フォウ?」
「フォウフォウ(うんうん)…」
「だよな〜、この檻(アヴァロン)に入って…えっと…とりあえず、言葉に出来ない程に長い間、ただただダラダラしているんじゃつまらないよな」
俺の隣にいる猫?こと、災厄の獣キャスパリーグ。名前が長いから俺はフォウと呼んでる。その方が楽だし。
「……で、自ら楽園ことアヴァロンに閉じこもって星(せかい)を見ている魔術士(屑)よ。今日は何か面白いもんでも見えたかい?」
俺は、この狭い塔から花園を見渡している人物に声をかけた。その人物は白いフード付きのコートを着て、手にはいかにも「私は魔法使いだ!」的な大きな杖を握っている。
「やれやれ、流石に屑はヒドイんじゃないかな。一応君の恩人なんだよ?僕」
「一応お前が主人で、俺は『パシリ』だろ」
「パシリに使った覚えはないし、そもそもこの花園からは出られないよ。……例外もいるけど、ね」
魔術士(屑)の視線がこちらに向いた。……確かに、俺は『効かない』な。
俺は属に言う『転生者』という類だ。だが転生以前の記憶はなく、ふと目を開けたらブリテン島の村に立っていた。村長は俺にいた理由を追求してこなかった。むしろ村に住まわせてもらうことになって、俺は快く承諾した。 それから数年後、俺がいた村に軍を率いたランスロット卿が来訪して、たまたま声をかけられた。
『お前、私の部下にならないか?』
正直仰天したね。かのランスロット卿にいきなり部下になるかと言われたんだから。まぁ、そのお陰というかせいなのかは知らんが、コイツに会ったわけだし。
「いや〜、これも神の思し召しだね。きっと僕と出会う運命にしてくれたのさ」
「その思し召しのせいで『なにも偉大な事を成し遂げていない』俺を英雄の座に強制的に置いたのはお前だろうが!」
それと何が恩人だ、アホ。ブリテンに住んでいた頃、俺が王宮からの帰り道に道のド真ん中で『女遊び』の帰りで、ましてや『二日酔い』でぶっ倒れているお前をわざわざ自宅まで担いでいって看病したのは俺なんぞ……というより覚えてないよな、お前は。
「理由は前にも話しただろう?君は既にこの『花の魔術士』である僕を看病して助けた。そして僕は君に感謝して、その名誉で僕の友にした。これでもう英雄に相応しいのさ!……本当は君から面白そうな予感がしたからだけどね(ボソッ」
おい後半、ちゃんと聞こえてるぞ……。
コイツとは何ていうか、そう、王宮内で出会った顔見知りだ。俺はアーサー王に仕えた『円卓の騎士』の……まあ、部下だったんだ。
上司の騎士の名はさっき言ったとおりにランスロット卿だ。円卓の騎士の中で最強と謳われた騎士。ただアーサー……もういいや、彼女、アーサー王もといアルトリアからの怒りを買い、不貞を処罰……というところで書類報告に来た俺を見て、涙と鼻水でグチャグチャになった泣き縋り付いた。
いや、「お前も男だからわかるだろう!?」って言われても解るか。俺、女性付き合い…、というより女嫌いだし。ちなみに、この魔術士(屑)と女話となるとランスロット卿とは話が合っていた。俺か?俺は二人のせいでむしろ女が嫌いになった、だからって男の気はサラサラないさらな!?その代わり、侍女たちからは冷たい視線を送られてたけど。あ、アルトリアには詫びに自分に出来ることならと俺が申し出ると
『ではデー…ゴホン、都の見回りを一緒に』
とトマトみたく真っ赤な顔でお願いされた。でも何で顔が赤かったのだろう?風邪だったのか?
まあ、その話はまた今度。さてと…、
「で?『見えた』んだろ?お前にとって面白いっていうやつが」
コイツは屑だが、コイツの『目』は便利だ。なにせ、過去、現在、未来を見通せる優れた目を持っている。
「そうだね。まあ今回は少し環境、というより『世界』が違うね」
「世界?」
「ああ、世界だ。しかもここの人理とはかけ離れた、人外と人間が暮らしていたよ。いや〜、こればっかりは僕でも予想出来なかった!」
「人外?魔獣とか?」
「それも同じだけど、そうだね…。例えば、悪魔、天使に堕天使、さらには神さえも人間、といっても元人間だけど少なからず交流しているのさ!」
へぇ〜、人間が神と交流ねぇ…………、はぁ!?
「おい!それは何の冗談だ!?神と交流だぁ!?その世界の人間はどうなってやがる!」
「正確には『元』人間だ。なんでもその世界に悪魔には人間を悪魔にする代物が存在するらしい」
なんだ、そのギャラハッド卿、いやパーシヴァルだっけ?が求めた聖杯紛いの代物は?しかし悪魔に転族ねぇ……おい、まさかとは思うが!?
「おい、お前まさか俺にその世界に飛べ(行け)と!?」
「そのとーり!しっかり理解できる弟子をもってお兄さんは感動だ!」
「誰が弟子だ!…、ってそうじゃねえ!それならお前が直にいけばいいじゃねえかよ」
「でも君も知っているだろう?僕はこの楽園(アヴァロン)からは自ら幽閉して出られない。でも君の『転生者』としてのスキルを使えば問題ない」
確かに俺にいつの間にかスキルが付与されていたのはわかっている。その中に『渡り人』というスキルが目に映ったが、使ったことはない。
「いや、だが…」
しかもコイツに嘘は通じない。俺と初対面の時だって「君、この世界の人じゃないね?」と耳元で言われたし、どうなってんの?コイツの目と耳は。
「普通だけど?」
「サラッと心を読むんじゃねぇよ!」
「まあまあ、そのお陰でほら、君の真下を見てご覧!転移魔法陣が出来たよ!」
屑の言葉に思わず下を向いたら、今にも発動しそうに発光している魔法陣が描かれていた。っていつの間に!?つか結局こうなんのか!
「フォウ!(連れてって!)」
「フォウ!お前まで!?」
焦ってるうちにフォウが俺の腕の中に収まったと同時に魔法陣の光が益々強くなっていく。
「覚えてやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」
そして、俺は飛ばされ(パシられ)た。