ヒュウゥぅぅぅ!すたっ!
またあのクズに理不尽に飛ばされた先は、何やら木々が生い茂った森の中だった。……しかし、変だ。マーリンは一応魔術に関してはほぼ完璧だ、面白がって陣を書き換えた時は別だが。
「フォウフォウ〜(だってアイツだし〜)」
「あ、フォウのこと忘れてた」
「フォウ!?(ひどい!?)」
拗ねたのか両前足で俺の頬をペシペシしてきた。ご、ごめんて…。フォウに叩かれながらも考える。
さて、またまたどうしたもんかな…。行方考えなしで歩こうとした――
その瞬間、こちらに急速接近してくる気配に気づいた。気配は一つ。だがこれは普通の生物が動く速さではない。まるで、『風を纏っているみたいだ』
手に魔力を集中させ、相手が来るのを大人しく待つ。
そして、相手の姿が見えた。―その姿に俺は驚愕した。
「なっ……!」
気配の正体は十代後半ぐらいの人間だった。金髪の髪を後ろに結び、碧の双眼をもつ。青の服装に銀の甲冑を纏い、手には一振りの剣が握られている。そしてその剣は俺が見間違える筈がない。かつてあの少女、我が王が握っていた筈の『聖剣カリバーン』だ。
と、いうことは……!!
しかし、驚愕している俺に金髪の人は唐突に剣を向けて、こちらを攻めてきた。
「ちょっ…!」
その人は止めようとしている俺を無視して斬りかかってくる。しかも速い。くそっ!これじゃ宝具が展開出来ねぇ!
「…なるほど、足は現役のようですね。では腕の方はどうですか!」
カリバーンを切り上げ、切り下げ、一閃と様々な方向から振るってくる。こちらも手に纏っている魔力で皮膚を硬化して受け止める。が、かすり傷が出来て血が一筋流れる。ちっ、やはりオリジナルだと切れ味も違うのかよ…!
「…変わっていませんね。あなたはやはり変わり者、いえ無謀者です。騎士だというのに素手で剣を受け止めるなんて、正気の沙汰じゃありません」
「そうそう変わりませんよ。元々、剣士としての素質はなかったですし。それにどちらかといえば素手でやる方が得意なんで。…それでは貴女に答えて貰います」
俺はひと呼吸して、その人に…彼女に問う。
「貴女は我が王、アーサー陛下なのですか…?」
彼は、否彼女は少し間を空けて、首を横に振り口を開く。
「ブリテン島の王、アーサー・ペンドラゴンはカムランの丘にて叛逆したモードレッド卿によって、死にました。今、ここにいる私はかつてのあなたの王ではありません。……では改めて自己紹介させてもらいます。」
「私は、アルトリア・ペンドラゴン。英霊の座にクラス、『一応』セイバーとしてあなたがいる場に参上しました。あなたにまた会えたことを不本意ながらも、マーリンに感謝してます」
あのクズ野郎…態々アルトリアをこちらに召喚したのか!
ほら、彼女がいれば君もやる気出すでしょ?(キラッ!)
的なニッコリ顔で内心、俺の驚愕顔に大爆笑しているに違いねぇ…。戻ったら覚えてろよ!あの野郎!
と、とりあえず話を戻すか。というか一応って、どういう事だ?
「陛下、一応とはどういうことでしょうか?英霊の座に君臨したということはクラスもセイバーとして完全に定まっているのでは?」
「ええ、マーリンからもそう聞きました。しかし今回は例外となります」
「例外、と申しますと?」
「本来、英霊は下僕(サーヴァント)は主人(マスター)が施した召喚から呼ばれます。しかし今回は例外中の例外。マスターは不在、さらにはサーヴァント単騎で動き回れるという事態。普通ならそのようなことはできません」
「つまり俺、ではなく私と同じ状態だと…?」
「あなたのクラスはあくまで仮の座。まだ定まってはいないので『探索者(シーカー)』、探し求める者という意味で現界したのでしょうね。あと、敬語は不要ですよ。普通にタメ口で結構です。あ、私がアーサー王だとバレたらマズいのでセイバーとお呼びください。…ところでシーカー?」
「な、なんでござ…。コホン、なんだセイバー…?」
厳しめの口調のアルトリアに少し冷や汗が背を流れた。俺、前世で何かしたか…?
「私以外に女は作っていませんか?」
「ブフォア!?」
ツッコミどころ満載の質問に思わず吹いてしまった。いや作ってないぞ!?というよりまるで自分が俺の恋人みたいな言い方はマズい!?特に上司の円卓の騎士たちに聞かれたら…!
「作ってないぞ!?というかそれじゃまるで「私はあなたの恋人です」みたいな誤解される発言になるぞ!」
「何を言うんですか。私はもう王ではありません。一人の恋する女、アルトリア、コホン…セイバーです。さあ、早速接吻を、シーカー!」
「いきなり何を言い出すんだ!?」
なんか付き合う段階をすっ飛ばして一気に接吻と、かブリテンでは女付き合いのなかった俺にはハードルが高過ぎる!とりあえず彼女を落ち着かせないと…。
「落ち着くんだ、セイバー。まだ付き合ってもいない男女がいきなり接吻はマズい。まずは…」
「!そうでした。あなたにまた会えたので少し高揚していたようです」
「そ、そうか。わかってもらえて何より―」
「ランスロットやギネヴィアみたいに体の関係を…」
「ちっがぁぁぁぁう!誰からそんな知識をもらったんだ!?」
「マーリンです」
あの女遊び人めぇぇぇぇ!やはりお前かぁぁぁ!あとあのロクデナシ上司!やはりあの人の部下になったのは間違いだったかもしれない。
…いかん、色々起こりすぎて頭がパンク寸前だ。少し俺も落ち着かないと…!
「そ、その話は今度にして…。ここが何処なのかアルトリアは知っているのか?」
「スルーしましたね。まぁ、いいでしょう。マーリンの話では、ここはニホンという国のクオウチョウという町の林の中です」
ニホンか、なんか懐かしい感じがするなぁ。
「とりあえず林から出るか…」
「そうですね。あ、これを忘れてました」
セイバーから手渡されたのは白いフード付きのコートだった。おい、またかマーリン…。
「マーリンからはそれを着て歩けとのことです。私は自分のコートがあるので。では行きましょうか」
俺とセイバーはコートを羽織って、林の中を出ていくのだった…。