#コンパス 短編集   作:ダンディー

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相部屋の話(コクリコとグスタフ)

「えーっと………」

 

 二年ほど前から、このコンパス世界に招かれた青年、リュウト。コンパス世界の根幹を管理しているvoidoll とともに各世界から招かれた者たちが集うゲストハウスの管理していた。

 よく気が効くということで慕われていた彼だが、今回はとびっきりのミスをやらかしてしまい、全員に迷惑をかけることになってしまった。

 

「この度は、俺が勝手に機材を触ってしまって」

「御託はいい。早く話せ」

 

 いつもは丁寧な口調で優しく語りかてくるアダムが、今日ばかりはトゲのある言葉で詰問してくる。そのことが余計にそのあとの言葉を詰まらせる。

 

「……きょ、今日から、一部屋に、二人……入ってもらいます……」

 

 その瞬間、様々な感情が込められた声がゲストハウスに木霊した。

 

 

 

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パターン1

『コクリコとグスタフ』

 

 

 

 誰と同じ部屋になるのか。それについて個々で決めさせると混乱の元になるということで、厳正なるくじ引きで決めることにした。

 

 そのうちの一つの部屋では、肌の色が悪い一番小柄な少女と、人間には似つかわしくない機材を取り付けた一番大柄な男がいた。

 

「………」

 

 それ故に、グスタフは口を開かなかった。元々話すこともなく、話そうという気もないが、話すとしても話題がない。

 

「ん〜……ん〜……」

 

 対するコクリコは、ほとんど話したことのない大男相手にどうしたら良いかわからず、子供が知らない大人に対面した時のように緊張しているようだった。

 これからバトルがあるなら、それを口実に今すぐ部屋から出て行くのだが、コクリコはまだゲストハウスの構造を完全には理解しておらず、グスタフは力と引き換えに体を蝕む装置をつけているため、迂闊に一人歩きをするわけにはいかない。

 

「………」

「ん〜………」

 

 コクリコの困ったような声と、グスタフの呼吸器のような装置から聞こえる音。視覚的にも聴覚的にもミスマッチな空間であるが、少なくとも数日はこの二人が一つの部屋で過ごすことになる。

 

「……おい」

 

 あまりの沈黙に耐えかねたのか、グスタフが先に口を開いた。

 というのも、コクリコ自身はただの少女であるが、戦闘中はただ眠っている。その間は何か霊的な存在が動かしているとしか思えないような動きで戦っていることが気になったからである。

 実際その力は強力で、戦闘慣れしている屈強なグスタフですら押されることがある。

 

「なぁに? おじさん」

「……お前は、何故戦う?」

「ふぇ? たたかう?」

 

 首をかしげるコクリコに、グスタフは訝しんだ。

 初めてコクリコと戦った時、何か霊的な存在を従わせて戦っているとばかり思っていたが、どうも違うらしい。

 

「まあ良い。……その人形、随分と大切そうに持っているな」

「これはね〜、おたんじょうびぷれぜんとでもらったの! コクリコのいちばんたいせつなおにんぎょうさんだよ♪」

 

 そう言って、ぎゅっとウサギのようなぬいぐるみを抱きしめる。その動作は年頃の少女としてとても可愛らしいものであるが、グスタフには理解できないものであった。

 加えて、絶えずコクリコ以外の視線を感じることに違和感を感じていた。今この部屋に『目』があるのは、グスタフとコクリコを除いて、件のぬいぐるみだけである。つまり、そのぬいぐるみこそが霊的な存在の憑依先と考えて間違いはなさそうである。

 

「……奇妙なものだな」

「え? きみょう?」

「おかしいと言ったんだ。その人形は明らかにおかしい」

「む〜! おかしくないもんっ! コクリコのたからものだもん!」

 

 グスタフの言葉が気に障ったのか、コクリコは頬を膨らませてそっぽを向いた。

 正直どうでも良かったが、もしこのままコクリコを怒らせたままにしておくと、今のことを他の者に話しかねない。そして話した相手によっては、グスタフへ文句を言いに来ることになるだろう。

 そうした面倒を推定できてしまったため、盛大なため息を吐きながら謝罪することにした。

 

「気を悪くしたらスマン。悪気はない」

「む〜……」

 

 少しは怒りを収めたようだが、まだまだ矛を収める気はない様子。どうしようかと考えた時、ふと他のメンバーのことを思い出した。

 ある時、マルコスがお菓子でリリカの機嫌を取っていた。

 手持ちに何かないかと探って見ると、この部屋がもともと食料庫だったこともあり、運び出し忘れた大袋のキャンディーがあった。味は………ラズベリー味。コクリコの口に合うかはわからないが、ないもないよりはマシだろう。

 

「これをやろう」

「うわっ!?」

 

 コクリコに向かって袋を投げる。正直どうかと思ったが、直接触れた時に自身の毒が伝染する可能性を考えれば、最適な方法である。

 

「あ〜! これ、まりあおねぇさんにもらったことある〜! おいしかったなぁ〜♪」

「ならば丁度良い。全部くれてやる」

「ほんとうにいいの!?」

「ああ。だからもう機嫌を直せ」

「うん! おじさんって、みためはこわいけど、やさしいんだね!」

 

 見た目は余計だ、と内心思いながら、グスタフはベッドから窓の外を見る。そこではアタリときららが競争しており、何人かが観戦している。実に呑気なものである。

 

「はぁ……」

 

 戦場で戦っていた自分が、なんでこんな場所にいるんだ。そんなことを思いながらも、このコンパス世界を憎からず思っている。本当は平穏など望んでいなかったが、こういった生活も良いかもしれないと、わずかに頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、コクリコが『おじさんって、ほんとはすごくやさしいんだ〜♪』と言い回ったことにより、他のメンバーからいじられたのは別の話。


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