すっかり忘れていたが、小学生にもテストはある。あってしまったのだ。
オレはテストが嫌いだ。前世ではいつも中の下ぐらいの成績だったし、数学に限っては最底辺で、テストの後は決まってクラスメイトから煽られる可哀想な男子校生だったのだ。
しかも、高校では定期テストだったが小学校では不定期に行われるせいで、テスト勉強なんてたまったもんじゃない。
さすがに魂の年齢が16歳のオレは前世の記憶もあるおかげで小学校のテストぐらいは楽勝だが、問題は葵である。キューティクルマイシスターが勉強しているところなぞ見たことがないのでとても心配であるが、小学校一年生のテストなんて楽勝だろう。三葉家は代々頭が良いのだから、テストが返ってきたら葵を褒めちぎりに行こう。
慢心せずして何が姉か!
そんな事を思っていたらキューティクルリトルマイシスターがを阿鼻叫喚な点数を取って泡を吹いていたのはまた別のお話。
時は流れてテスト終了一週間後。
この頃やつれて見えた担任の教師が、ドクターストップがかかり一年ほど仕事を休むそうだ。それに伴い、新しい教師が一年だけ我々のクラスを担当することになったらしい。
「先生って大変なんだねー」
「大丈夫かなぁ?」
「頑張らなきゃね」
「学校の先生にはなりたくないな」
最後の方に先生が聞いたら悲しみそうな声が聞こえたけど心配されてるようでよかったね、先生。オレが前世にいた男子校なんて「先生が変わる」って事態になったら、クラス中が狂喜乱舞して半裸で踊り出すやつが出てくるぜ。多分。
閑話休題。いつまでも前世の記憶に思いを馳せている場合じゃない。
葵が手持ち無沙汰でヒマそうな顔をしていたので話しかけてみた。
「葵、新しい先生はどんな人なんだ?」
「さぁ?まだ見てないから分からないけどかなり若い新人の先生らしいよー…」
葵は気の無さそうに言った。
お姉ちゃんもうちょっとそういう事に興味持ってほしいなー?
というかお姉ちゃんめっちゃ新しい教師に興味あるんだけどなー?
チキショー、情報収集なんてやってられっか!
その新人先生の顔を直に拝んで話聞くまで全体像を掴めないのは慎重派のオレには結構キツイ。
できることならみんなから話を聞いて情報をもっと集めたかったのだが、どうやら今日初めて教鞭をとるようで、誰も何も知らなかった。
1人で悶々としていると、教室の扉が開き、例の新人教師殿がご入室なさった。
確かに若い。10代後半と言われても疑わないような容姿だ。さらに、結構な美人だ。男子校なら喜ばれそうな容姿だな、とオレは思った。
しかし──────────
オレはピンときた、ピンときてしまったのだ。
アレはめんどくさい女のような気がする。そんなめんどくさい女特有のオーラを振り撒いているのだ。前世のオレなら一目見て逃げ出すぐらいのめんどくさい女オーラを纏ったその女は、教壇に立ったものの、何もせずじっとしていた。みんなが静かになった頃にようやく口を開いた。
「みなさんが静かになるのに3分かかりました。35人分の3分を無駄にしています。」
そんな前時代的な、前世ですら聞いた事のないような決まり文句を発した後、にっこりと笑ってこう付け加えた。
「冗談です。こんな事を言うような人にロクな人はいませんから。」
おっとぉ、オレのめんどくさい女センサーは正しかったようだ。オレのめんどくさい女レーダーは的中率100%だったし当たり前だけどね。
こんなめんどくさい女には絶対に関わりたくないし話をしたくもないね!こわいねぇ!
しかしまぁ、随分懐かしく聞こえるような気がするのは気のせいだろうか。
新人教師殿は黒板いっぱいに自分の名前を小学生にもわかるように、平仮名で書きながら自己紹介を初めた。
「私の名前は九条梓苑(しおん)です。みなさん、一年だけの期間ですがよろしくお願いします。」
おいおいおい、冗談はよしてくれよ。
その教壇には新人教師殿改め、九条梓苑──────────つまり、オレの前世での妹が立っていた。
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