強キャラ東雲さん   作:佐遊樹
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頭スカスカ=ハーブちゃん
すしざんまい師匠
しののめん
自称理論派の感覚派

もう蔑称だろこれ


13.クラス代表就任パーティー

「クラス対抗戦(リーグマッチ)が近いので対策を考えようと思う」

 

 一夏は静かにそう切り出した。

 声色には真剣さがにじみ、彼が勝負にかける熱意を表わしている。

 

「訓練をしたから超強くなりました対抗戦は楽勝です、なんていうのは絵空事だ。俺はやっぱり他クラスの代表と比べても格が落ちる。だからこそ、強敵相手に細い勝ち筋を実現させるためには、戦術が必要だ。それを話し合っていきたい」

「それは……そうだとは思うのだが……」

「あのですね一夏さん。多分この会は、そういう気持ちを一度リセットすることも兼ねたものでしてよ」

 

 セシリアは今いる場所、食堂を見渡した。

 一組の生徒らが好きに散らばって和気藹々としている。

 特に目に付くのは、『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれたクソデカ横断幕くんである。

 今日は一年一組が事前に申請して、夕食時の少し後から食堂を貸し切ってお祝いの席を用意していたのだ。

 だというのに、本日の主役というタスキを肩にかけた一夏は大真面目に戦闘のことしか話す気がなかった。

 

「ほら、織斑君ご飯取りに行こうよ!」

「え、あ、まだセシリアに射撃戦の疑問聞いてないんだが……」

 

 クラスメイトに手を引かれていく一夏を見送り、箒は嘆息する。

 どうにも彼女の幼馴染は、集中しすぎて他のものが見えなくなってしまうきらいがあった。

 

「美点でもありますが……適切なリフレッシュ方法も考えてあげた方が良さそうですわね」

「ああ。部屋でもトレーニングばかりしているようだからな。ちょうどいい、セシリアはどうしているんだ?」

「個人的に気に入っているのはバスタイムでしょうか。バラの花びらを敷き詰めるといい香りがしますし、湯の肌当たりも柔らかくなりますわよ」

「お前薔薇風呂に入ってる一夏ってどう思う?」

「……申し訳ありませんでした」

 

 セシリアは頭を下げ、真摯に謝罪した。

 想像しただけでダメージを受けるような光景であった。

 

「ちょっとこれ夢に出てくるかも知れないぞ本当に。どうしてくれるんだ」

「なんというか、自分でも信じられないほど脊髄で喋ってしまいましたわね……」

 

 後悔先に立たずとはよく言ったもので、セシリアはきちんと言葉を発する前にその妥当性を精査しようと決心した。

 かぶりを振って謎のサービスショット――ライトノベルの見開きカラーイラストのようだった――を脳から追い出して、箒は周囲を見渡す。

 

「そういえば、東雲はどこだ?」

「言われてみれば姿が見当たりませんわね……」

 

 きょろきょろと冷徹な雰囲気の美少女を探すが、食堂には居ないようだ。

 そうこうしている間に、肉に野菜にと山盛りになった皿を抱えて、一夏が席に戻ってくる。

 

「ったく、みんな俺をまるで人間火力発電所だと勘違いしてるんじゃないか」

 

 どうやらクラスメイトらに食事をどんどん盛られたらしい。

 それは期待の表れであり、ある種の激励でもある。そのことは分かっているのか、一夏は言葉とは裏腹に表情をほころばせている。

 

「どうせなら二人も食べてくれよ。絶対うまいぜ。この煮物なんて醤油加減が絶妙なのが香りだけで分かる」

「あらあら、一夏さんも料理をたしなまれるのですね。今度是非、お互いの腕を競ってみましょうか」

「場外試合か。いいぜ、受けて立つ。俺は絶対に負けねえ」

 

 織斑一夏はことの重大さに気づかないまま勝負を承知した。

 

「で、東雲さんがいないってみんな言ってたんだけど、知らないか?」

「私たちも探していたんだが、どうにもいないようだな」

 

 そっか、と一夏は寂しそうな表情になった。

 仮にも自分を祝う会である。いやむしろ、こういった場にいないのもらしいといえばらしいが、やはり一抹の寂しさはあった。

 

「あっ」

 

 だがその時、セシリアは一夏の背後を見て声を上げた。

 振り向く。

 

 

 東雲令が颯爽とこちらに歩いてきていた。

 寿司が並んだ寿司下駄を左右に一つずつ持ち、さらに同様に寿司を抱えた食堂のシェフを何名も引き連れて。

 

 

「なんで? なんで? なんで?」

 

 一夏の思考回路は一発でバグった。

 

「当方もここに座っていいだろうか」

 

 三人が使っているテーブルの前に立ち、東雲は普段通りの冷たい表情で問う。

 

「あ、ああ。いいんだが」

「何ですのこれ、あれですか? ダイミョー行列というものですか?」

 

 箒とセシリアもさすがに困惑を隠せていない。

 ずらっと並ぶシェフは十人を超えているだろうか。

 その全員が、手に持っていた寿司をテーブルに並べていく。

 

「就任パーティーである、と通達されていた。当方の認識では、これは慰労会であり、また祝いの席である。ならば寿司を食べないわけにはいくまい。よって当方の伝手で、当方の知る限り最高の寿司を用意した」

 

 一夏は並んだ江戸前の握りを見た。どれも新鮮なネタを使っているのだろう、艶やかな光沢を放っている。

 一夏はそれから箒とセシリアを見た。二人は完全な無表情で、次々と追加されている寿司を見つめていた。

 一夏は最後に東雲を見た。よく――よく見ると。いつもと変わらない表情ではあるのだが、そこはかとなく胸を張っている気がする。この女、誇らしげにしているのだ。

 

「どれほど食べても困らない数を用意した。これは当方からの、立場を掴み取り、また修練に耐えている織斑一夏への労いである。遠慮せず食べて欲しい」

「東雲さん」

 

 できるだけ――本来それは威嚇行動からの派生と言われているが――相手を刺激しないために、柔らかな笑みを顔に貼り付ける。だがさすがに引きつっているのが自分でも分かる。この状況で自然に笑えとか無理に決まっている。

 一夏は錆びた作り笑いを浮かべて、東雲の背後を指さす。

 

「食堂のバイキングがあるんだけど」

「…………」

 

 東雲は振り返って、和洋中と勢揃いの料理たちを見た。

 

「…………………………………………………………」

 

 東雲は顔の向きを戻した。

 

 食堂は静まりかえっている。誰も、一言も発さない。

 空気は完全に凍り、死んでいた。和気藹々としていた空間はもうどこにもない。誰がどう見てもお通夜だった。

 

 しばし無言を貫いた後、東雲はすっとISを起動して、深紅の太刀を一振り引き抜く。

 そしてその柄を一夏に押しつけた。

 

()れ」

 

 一夏は視線で周囲に助けを求めた。

 

「わたくし存じ上げております! クールジャパンの『くっ! 殺せ!』ですわよね今の!」

「セシリア、お前はもう喋るな」

 

 幼馴染とライバルはだめだ。使い物になっていない。

 

「いや、まあ、大丈夫だよ東雲さん。うん、気持ちは嬉しいし。だから死ななくても大丈夫だって」

「殺せ」

「完全に覚悟決まっちゃってんな! そういう覚悟完了しなくていいからァ! ほら、食べるって寿司食べるから!」

 

 やけっぱちの勢いであった。

 一夏はトロの握りを手に取って口に放り込んだ。

 わさびがツンと鼻に抜けて涙が浮かぶ。

 ちょうど泣きたかったから、彼にとってはちょうど良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにあれ」

 

 転校手続きを済ませて早速一夏に会いに行こうとした鈴は、食堂の空気が完全に終わっているのを確認してそっとその場を離れていた。

 

「東雲令が中心にいたわよね……何か空気読めないことしたのかしら。まさか一夏を怒ったとか? マジで何者なのよ、あの祝いの場をどん底にできるって」

 

 さすがにあそこに突っ込む度胸はない。

 明日の朝に教室に行けばいいと考え直して、鈴はよし! と気合いを入れる。

 

「首を洗って待ってなさいよ一夏……! どうせのほほんと腑抜けてるだろうし、ビシバシいくんだから!」

 

 夜空に向かって拳を突き上げてから、鈴は明日が楽しみだと笑みを浮かべて寮に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お祝い会はつつがなく終了した。

 まあ途中で一度完膚なきまでに空気は破壊されたが、よく考えなくてもバイキングに寿司が増えただけなので、みんな笑顔で食べていたのだ。

 

 東雲は無表情のままどんよりオーラを振りまく空気汚染機と化していたが、隣の一夏が必死にフォローした甲斐あって後半は普段通りに戻っていた。

 ちなみに寿司は東雲が一番食べた。というか用意されたうち半分ぐらい一人で食べていた。

 そんだけ食べて何故その体型なんだと箒やセシリアから詰問されていたが、東雲は知らぬ存ぜぬで押し通している。きっと妄想でエネルギーを消費しているのだろう。とんだ無駄遣いだ。魚が可哀想である。

 

「みんな、今日はありがとな!」

 

 お皿を返却口に返しながら、一夏は笑顔でみんなに礼を言った。

 出だしはいまいち祝賀会に集中できていなかったが、寿司の件があってからはきちんと彼も楽しめていた。ある意味ではいいブレイクになったのかもしれない。

 

「ううん、織斑君こそ頑張ってね!」

「デザートフリーパス券よろしくね~」

「応援してるから! すごく……すごく、応援してるからっ!」

 

 激励の言葉。

 一部に込められた、熱意とは異なった、青い熱。それらを感じ取り、箒はむっとし、セシリアは肩をすくめる。

 

「モテる男は大変ですわね」

「……そうだな」

「そして、モテる男を好きになってしまった人も、大変ですわね」

「……何故こちらを見るのだ」

 

 箒は半眼でセシリアを見たが、ご令嬢はどこ吹く風と受け流す。

 一方で、二人の横にいた東雲は立ったまま寿司下駄を持ち、握りを口に放り込んでいた。

 

「むぐむぐ……祝いの席、というものに出席する経験はあまりなかったのだが……もぐ……いい切替になると感じた。はぐ……心機を一転させ、今後の修練に打ち込む理由となるだろう。肩の力を抜く時は肩の力を抜く、此れなるは戦士の心得である。もぐもぐ」

「東雲さん、いいこと言ってくれてるけど、マジで話に集中できねえ。肩の力を抜きすぎて形状崩壊してるぞ。千冬姉かよ」

 

 自分で言って一夏は後悔した。

 すごく――すごく、納得のできる言葉を言ってしまった。これ千冬姉だわ。

 だがまあ、師匠として尊敬できることに変わりはない。新たな一面を知ったところでとりあえずマイナス印象ではなかった。

 

 最後の寿司が彼女の胃に収まったのを確認して、一夏は東雲の口元についた醤油をティッシュで拭き取った。

 東雲は持論の展開と寿司の旨味に集中していて、口を拭われたことに気づいていない。

 セシリアは隣の箒が少し羨ましそうにそれを見ているのに気づいたが、彼女の度量は平原のように大きく海溝のように深かったのでそれを見なかったことにした。

 

「片付けもできれば手伝いたいんだが……」

「いや、気にしなくていいそうだぞ。食堂の方々も、楽しく食事をしてくれたのなら何よりだと言っていた」

 

 そう言われては、親切の押し売りをするつもりもない。

 一夏は食堂の方々にお礼を言ってから、食堂を後にした。

 

「にしても結構食ったな。腹ごなしに散歩でもしないか?」

「私は付き合おう。だが散歩と言いつつランニングするんじゃないぞ」

「わたくしもご一緒いたしますわ」

「当方は失礼する」

 

 食堂の建物を出て、ぬるい風が肌をなでる並木道に出る。

 三人と一人の進行方向はそこで分かたれた。

 

「じゃあ。また明日な」

「……また明日」

 

 織斑一夏は、その時、自分の眼球が飛び出たのではないかと思うぐらいに、目を見開いた。

 東雲は――小さく、胸の前でばいばいと手を振っていた。

 呆気にとられたのは数秒。一夏はすぐさま、同じように――いや、近距離なのに手をブンブンと頭の上で振った。

 

「ああ、また明日!」

 

 大げさだな、と箒たちは呆れながらも、しっかり東雲に手を振っていた。 

 東雲はそれを見て頷き、背を向けて歩いて行く。

 

「だって、また明日って――いいじゃんか。今此処に一緒に居ることの証明、って感じで」

 

 一夏は画像データを開いてそう言った。

 今日の祝い会のラスト、クラス全員で撮った写真である。

 

「そういえば千冬さんの言葉を守っているんだったな」

「織斑先生の?」

 

 首を傾げるセシリアに、一夏は人差し指をピンと立てて語りかける。

 

「『過去に側に誰がいたのか、ちゃんと覚えておけ』ってさ。だから定期的に、写真を撮って思い出を残してるんだ」

「なる、ほど……いい教えですわね」

 

 三人で並んで歩きながら、一夏は今まで撮った写真を思い返す。

 誰かと一緒にいた証。そのつながりが自分を構成している。その積み上げたものは自分の中に生きている。

 だからこそ、過去の自分に見せられるような自分でありたいと、思う。

 だからこそ、未来の自分に見せられるような自分でありたいと、思う。

 

「……一夏さん」

 

 物思いにふけっていた彼の意識が、突然引き戻された。

 名を呼ばれた、だけではない。セシリアの声色は固かった。

 視線の先をたどる。遊歩道の向こう側から、誰かが歩いてきている。

 

 女性。スーツ。見知らぬ顔。

 

(教員、じゃ、ない?)

 

 直感だった。

 彼女はまっすぐ歩いてきて、それから三人に軽く一礼した。

 

「初めまして、織斑一夏さん。私、巻紙礼子と申します。今、お時間よろしいでしょうか」

「あ……は、はい」

 

 箒とセシリアにも会釈して、彼女は名刺入れから一枚の名刺を取り出し、差し出す。

 IS装備開発企業『みつるぎ』――その渉外担当だと名刺には書かれていた。

 

(聞いたことのない企業――)

(学園に入り込めるパイプ――)

 

 その文字列を読み。

 箒とセシリアの思考回路が爆発的に加速した。

 

(――売り込み。それも一夏単独に絞って。話題性か? 入学前から企業の売り込みはあったそうだが、学園に来てまで直接とは相当の気合いだ。だが信頼できる企業か? そもそも何を売り込むつもりだ?)

(政府が立ち入れない経済活動であることを考えれば、そこを突いて、とっかかりに、という思考に至るのは当然ですわね。大企業の売り込みは織斑先生が袖にしたと聞いておりますが、それでも売り込んできていて、ただのスポンサーになるというのはまずありませんわ……武装以外も……例えばそう……()()()()()()()()()()()()()、等も考えられますわね)

 

 箒よりもセシリアの方が、やはり立場上交渉事に慣れている分、一歩踏み込んだ思考を展開していた。

 デュノア社等の既にシェアを握っている企業は無論、一部武装に注力する小規模な研究施設すらこぞって一夏に面会を申し入れ、全てが千冬に突っぱねられている。そういった権謀術数の世界に弟を巻き込みたくないという意思だった。

 

 二人が考え込んだその数秒。

 その間に。

 いっそ無防備なまでに、一夏は名刺を受け取っていた。

 

「あ、どうもありがとうございます。織斑一夏です」

「本日は時間も遅いですし、挨拶に留めさせていただきますね。是非後日、時間を取ってお話できればと思います。その際には弊社のカタログもお見せいたしますので」

「そうですね、楽しみにしておきます。その時はよろしくお願いします」

 

 絶句する箒とセシリアを放置して、話はとんとん拍子に、当たり障りなく進んだ。

 巻紙は深く一礼すると、きびすを返して立ち去っていく。

 

「お……おいッ、一夏!?」

「貴方何を考えてるのですか!?」

 

 二人は器用にも巻紙に聞こえないよう小声で一夏を怒鳴る。

 

「別に、普通だろ。どういう武器があるのか気になるし。もしかしたら『白式』が使えそうなのもあるかもしれない」

「そうじゃなくてですねッ、ああもう! 危険性について考えたりは――」

「――()()()()()()

 

 セシリアはハッとした。

 彼は愛想のいい笑みを浮かべていたが、しかしその瞳はヘビのようにギラついている。

 

「こういうの、全部千冬姉がやってたからな。今まで俺は何も知らないままだった。でも、それじゃだめだ。ちゃんと自分の力で対処できるようにならないと……そうじゃないと、もう、だめだろう」

 

 それに、武器を探したいっていうのも事実だしな、と付け加えて。

 織斑一夏は、内心で姉に謝罪した。

 

(ごめん千冬姉。でも俺はやっぱり――ただ守られてるだけの存在じゃなくて、俺の望む俺でありたいから)

 

 拳を握った。強く強く握った。

 目指す頂は遠く、一歩一歩進むことしかできない。

 それでも立ち止まるわけには行かない。

 

 そんな彼の横顔を、箒はじっと、熱に浮かされたような瞳で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(お寿司おいしかった。おなかいっぱい。寝よ)

 

 東雲令は部屋に帰り、シャワーを浴び、歯を磨いて、そしてベッドに入って0.94秒で就寝した。

 

 

 

 

 

 








す し ざ ん ま い





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