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パープル式部がバズる
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ハーブか何かやっておられる?がバズる
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オリ主がハーブキメてるSSを書いてる俺が煽られた
ほんまキレそう
『ごめんなさい』
『私、馬鹿だ』
『貴方を守るために貴方を危険に晒して』
『本当にごめんなさい』
『でも、どうか、諦めないで』
『残酷で、すごく無責任な言葉だけれど』
『私は信じてるから』
『貴方が立ち上がること。貴方がもう一度、私と共に空を駆けてくれること』
『だって私は、貴方の決して諦めない心を見て目覚めたのだから』
『今はまだ伝えられないけど、言葉も扱えないぐらい未成熟な私だけど』
『それでも私は、どんな時も、貴方の盾にして剣で在り続けるから――――』
事態は収束した。
アリーナでの突発戦闘には箝口令が敷かれた。
無人機という存在しえない敵。
突如アリーナの遮断シールドを無視して現れたアンノウン。
そして、絶対防御を貫通する東雲令の
「……ッ!」
ISスーツを脱ぎ捨て、珍しくその場に放り捨てて。
セシリアはシャワールームの中で、歯を食いしばり、全身全霊で涙をこらえていた。
何も。
何も、できなかった。
立ち入ることすらできなかった。
それ以上に。
(あの時――彼は、一夏さんは、最後まで剣を拾おうとしていた)
トラウマ。心的外傷後ストレス障害。
その最中に放り込まれたとき、人間がどうなるのか、セシリアはよく知っている。
両親を列車事故で亡くし、鉄に押しつぶされた無残な肉塊を見たことのあるセシリアはよく分かっている。
数年は生肉を見ただけで吐き気がした。今でこそだいぶ落ち着いているが、列車事故の救命任務などを命じられた場合には、おそらく何もできない可能性が高い。
(だけど、彼は……戦う意思を、見せた……)
セシリアは理解している。
あの瞬間、彼は自分のライバルとして、半歩先を行ったのだと。
「……織斑、一夏」
シャワールームの壁に、がつんと額をぶつけた。
両手を固く握り、同様に壁に叩きつける。
「――絶対に、絶対に……わたくしは、貴方には負けません……ッ!」
「ねえ、東雲。あの秘剣ってやつ、中国拳法から発想を得てたわよね」
「肯定。気なるものを感じ取ることはできなかったが、非常に興味深い武術であった」
「いや実質使ってるみたいなもんだったけど……」
手早くシャワーを済ませた東雲と鈴は、制服姿でアリーナの廊下を並んで歩いていた。
元より人見知りをしない気質の鈴と、クールな印象はあれど誰に対しても邪険に扱ったりはしない東雲は、驚くほどスムーズに会話を弾ませている。
「何をどう考えたらさ、ああいうの、思いついて実行するわけ?」
「……それは当方に教えを乞うている、という認識でいいのだろうか」
「不愉快ながらそうよ。使えそうなら絶対覚えたいし」
今回の襲撃が一過性のものではない、と鈴は考えていた。
つまり今後もこうした事件が発生する可能性が高い。
故に。
「もう、何もできずに見てるだけとか死んでもごめんだし」
低い声色だった。
握りしめた拳は、今にも爪が肌を突き破ってしまいそうなほど、強く、強く、音を立てている。
「一夏があんな目に遭ってさ。あたし何もできなかった。アンタがいなかったら、本当に……どうにもならなかった。だからありがとう」
ふと歩を止めて、彼女は隣の東雲に頭を下げる。
それを見て東雲は少し目を丸くした。
「……其方、もしかして」
「何よ」
「織斑一夏のことが好きなのか?」
「ブフォッ」
殺人術を編み出して即座に実行した女から恋バナを振られて、鈴は噴き出した。
想定できるわけのないアクロバティック雑談に思考が停止する。
「そうなのか? もしそうなら当方に考えがある」
「ちちち違うし! 確かにいい奴だけど、誰があんなとーへんぼく好きになるもんですか!」
鈴はツンデレ期間を脱却できていなかった。故に助かった。
「とにかく! あれのやり方とか、そこに至った経緯とか教えなさいつってんの!」
「……経緯、か。当方の想定では、あれは織斑千冬に対する切り札、
「…………アンタ、千冬さんを殺す気なの……?」
「不可能である。衝撃を収束させることには成功したが、
「ハーブか何かやってんの?」
鈴の東雲を見る目は、もう檻の中のライオンを見るそれだった。
なんとなくマイナス方面に受け止められていることを察したのか、東雲は咳ばらいを一つ挟む。
「現状、アレを試合で行使するつもりは毛頭ない。また誰かに教えるつもりもない。秘められたるべき剣であり、ある種の秘奥である」
「……それは、そうね」
「ただ、こういった事態が再び発生し、相手が有人機であれば、当方は迷うことなく再び悪の殺人刀と成るだろう」
「……ッ」
鈴は考える。その時、自分は何をしているのだろうか。
自分にできることは、何なんだろうか。
「――当方は織斑千冬に呼び出されている。大丈夫だとは思うが、織斑一夏には、よくやったと声をかけておいてほしい」
「ああ、うん。じゃああたしは男子更衣室行ってくるけど……」
東雲は颯爽と廊下を曲がり、管制室への道を歩き始めている
その背中を見ながら、鈴は少しだけ動きを止めていた。
(……一夏、か)
頭を振って、鈴も彼を迎えるべく、東雲とは反対方向の廊下を進み始めた。
すれ違う生徒の姿はない。全員避難場所に押し込められ、今ちょうど順番に、外に出ている頃合いだろう。
(あいつ、大丈夫かな)
思い返すはアリーナから各々帰っていくとき。
東雲令は無表情だった。
セシリア・オルコットは歯を食いしばっていた。
自分は、泣きそうなのを必死にこらえていた。
けれど。
織斑一夏は何も語らず、俯いたままで。
疲労からだとその時は思ったけれど。
(あの時、前髪の隙間から見えた目――なんか、あれは)
あの忌まわしき誘拐事件の直後のころの。
何もかも投げやりで、全部を捨てても構わないように無気力だったころの。
光を失った瞳に似ていた。
そして鈴はいくつか角を曲がり、男子更衣室に着いて。
中に入って。
呆然と立ち尽くしている箒と、彼女の眼前で蹲って嗚咽を漏らしている一夏を見た。
『――もう大丈夫だ』
光が差したのを覚えている。
深く深く閉ざされた闇の中に、手を差し伸べられたのを覚えている。
それは織斑一夏の、原初の記憶。
『もう大丈夫』『助かったんだ』『怖かったろう』『安心しろ』『すぐ病院へ』『棄権』『二連覇を逃す』『重傷』『発見が遅れ』『何もしなくていい』『ただ生きてくれていただけで』『何もできない』『無力』『仕方ない』『死ね』『汚名』『お前の姉ちゃんを恨め』『胸糞悪い仕事』『無力なガキ』『殺してやる』『もう大丈夫』『誰か』『助けて』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』
その手に救われた自分。
その手にすがるしかなかった自分。
その手をただ待ち続けることしかできなかった自分。
果たして。
救われるような価値が本当にあったのだろうか。
「――何やってんの、水持ってきて!」
光景を見た瞬間に鈴は飛び出していた。
素早く一夏のそばに駆け寄り、背中をなでながら、箒に指示を飛ばす。
「え、あ、ちが、なんで」
「説明は後でするから! ほら一夏、深呼吸して、落ち着いて。落ち着いて」
鈴はそのまま折り曲げられた身体の隙間に腕を差し込んだ。
ぐい、と一夏の上体を起こして、彼の頭を抱きかかえる。
「落ち着いて。落ち着いてね。もう大丈夫だから。もう大丈夫よ。一夏、もう大丈夫」
箒はフリーズしていた。
最初に駆け付けたかった。避難場所からすぐに出られて、まっすぐ男子更衣室へと駆け込んだ。そこに帰ってくるであろう、事態が収拾した以上帰ってくるはずの、一夏を迎えるために。
彼は彼女を無視して洗面台に向かい、突っ伏して嘔吐して、それからずるずると床に跪いて呻き、泣き、声にならない声を上げ始めた。
初めて見るその姿に、箒の思考は完全に止まっていた。
もう一人の幼馴染の叱咤を受けて、手に持っていたボトルがどこへ転がったのかと、慌てて探す。
その間にも鈴は落ちていたタオルを拾い上げて、一夏の頭にかぶせる。
荒い呼吸音。何か、言葉を絞り出そうとしていることだけが分かる。
「大丈夫。一夏、今は休んでいいのよ」
「……………………ぅぁ」
優しい声色で、鈴は彼の耳元でささやいた。
返ってきたうめき声を聞いて、鈴は少し悲しげに、眉を下げた。
落ちていたボトルを拾った箒は、その光景を見て、少し躊躇する。
(――わた、し)
「ごめんね。これ、あたしは知ってたけど……うん、知らないよね。少し休ませてあげるべき時なの」
鈴は箒を一瞥して、そう告げた。
どこまでも、セカンド幼馴染の声は柔らかかった。
「ね、一夏。大丈夫だからね」
「……り、ん」
「うん。あたし、ちゃんと傍にいたげるから。ね?」
「……お、れ。俺……ッ! なんで……! なんで……ッ!」
言葉が続かずとも。
涙を流し吐瀉物の張り付いた唇を動かして言おうとすることは、もう、箒にも鈴にも分かってしまっている。
『なんで――こんなに弱いんだ』
それが痛いほどに伝わって。
箒は愕然として。
鈴は悲しげな表情になった。
「うん……そう、ね。うん……うん。でも、今は、まだ考えなくていいのよ。今は、休みましょう。傷が癒えてから……もう一度その時に、また、歩き出せばいいのよ」
箒には出せないような声で。
箒が知らなかった領域で彼女は一夏を受け止めていて。
それが、ひどくうらやましかった。
薄暗い空間。
浮かんでいる無数のモニターの光だけが、部屋を照らしている。
室内の重力を調整しつつも常に高速で移動し続けるそのラボは、中にいる人間ですら居場所を把握できない天災仕様の隠れ家である。
その隠れ家に物質転送装置で回収されて。
「今回ばかりはほんッッッとに死ぬかと思ったぜ。おいこれ追加報酬もらってもいいレベルだろ」
ジャケットを脱ぎ捨てワイシャツ姿になり、オータムは束の秘密ラボの隅っこに置かれた馬鹿でかいソファーに座り込んだ。
腕を伸ばしてすぐそばの冷蔵庫を開く。雑多に詰め込まれた中身から、分捕るようにしてアルミ缶を引っ張り出した。
「てゆーかさあ、あの絶対防御貫通攻撃はないわな。人間業じゃねーっての」
ぷしゅ、と発泡酒のプルタブを引き開けて、オータムはそのまま中身を口に流し込む。
名前の通り、のどを越していく感触がたまらない。
オータムは安酒が好きだった。
「っぷはぁ……で、今回の成果はどんなもんだよ、ええ?」
つい先ほど、致死の刃をもろに受けて死にかけていた人間とは思えない気楽さ。
だがそれはオータムの経験の蓄積から来る、死線を潜り抜けた後の解放感の発露だった。
こうして適度にガス抜きしなければ、
「…………おい、いち段落付いたし、あんたも飲んだらどうだよ、ええ?」
ソファーの眼前に置かれた薄いテーブルに缶を置いて、オータムはそう声をかける。
部屋の中央、三百六十度全天周囲ウィンドウ全てに目を走らせていた束は、キッと鋭い眼光を飛ばした。
「見てわかんないの? 集中してんの、黙ってて」
「あー……なら、追加報酬だけでも頼むわ」
「金ならいくらでも出すよ」
「馬鹿ちげえよ。私に酌してくれ」
は? と束は口をポカンと開けた。
今この女はなんと言ったのか。ひどく場違いというかまかり間違っても世紀の天災にかける言葉ではなかったというか。
「ほら、報酬を払ってくれねーとストすっぞ。私は美人に目がねえんだよ」
「な、ァッ……!?」
束は突然の口説き文句に動揺して、空ぶった手でいくつかモニターを消してしまった。
「あ、あああああああ!! 何してくれてんのさカス! ビッチ!」
「馬鹿言うな。私は美人としか付き合わねえんだよ。目が高いと言ってくれ」
テーブルに放置されていたグラスを手に取って、オータムはにんまりを唇を吊り上げる。
その表情は淫靡でありながら、同時にいたずらっ子のような無邪気さも孕んでいた。
蜂蜜色をより黄に寄せたような色合いのロングヘアをかき上げて、彼女は空いているソファーを粗雑に叩く。
「こちとら手前の生命張ってきたんだぜ。なんてことはねえだろ。それともあれか? あんたのおもちゃが、私ぐらいの働きできるってか?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
事実――束が作り上げる無人機『ユグドラシルシリーズ』には限界がある。柔軟性はない。即応性もない。シンプルに基本的な性能を極限まで底上げしたからこそ大抵の状況に対応できているというだけで、それ以外の状況に陥ってしまえば対応は難しい。
その点をカバーするためにこそ、
故に束はオータムの存在を極力軽く扱いつつも、致命的な無視だけはできない。
「……ってゆーか、マジで仕事中なんですけどこっち……!」
「なんだよ。私が殺されかけたデータをYouTubeにアップロードしてんのか?」
「ちっがうし! お前が『白式』と接触した際に吸い上げたデータ! 確認できた挙動! 発してた不完全言語! こいつらから今の『白式』の状態を類推してんの!!」
「……へぇ」
軽く聞き流したような声を上げつつも、オータムは内心で束の評価を一段階上げていた。
想定外の連続に見舞われ、急遽手持ちの戦力を投入したものの、更なる想定外に襲われて涙目で敗走した――わけではなかった。
その場で集められる情報すべてを回収し、きちんと次につなげるための手を今考えている。
(天災の人格破綻っぷりは嫌というほど思い知らされたが、なるほど、こいつ天才にできることは一通りできるのか)
よくよく見れば、全天球ウィンドウに映し出されているのは
束の両手両足は残像すら伴うほどに素早く動いていた。その全てを追うことは到底できないが、画面の動きや束の表情から、オータムは多少読み取ることができた。
「……なあ、あんまうまくいってないんだろ?」
「――――あああああああああああああああもう!! 絞れないんですけどおぉっ! どうなってんのこれ!」
予想はドンピシャ。
束はモニターを全部両腕でぶち上げて、ずかずかとソファーに近づいた。
表情には泣きが入っている。まったくもって凄味がない。
「どけ! それは束さんのソファーだ!」
「あーころされかけたからうごけないなー」
「んあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
こいつ叫んでばっかだな、とオータムは思った。
束はガバァとソファーに頭から突っ込んだ。
微動だにしないオータムだったが、彼女の太もものすぐ横で束のウサミミがだらんと力なく垂れている。どうやら本人のテンションと比例するようにシステムが組まれているらしい。
「………………………………………………」
「あー、まあ、計画の進行速度はおいしくねえが、逆に考えな。
「………………………………………………」
「着実に
「………………………………………………」
束は何も答えない。
いやよく見れば小刻みに震えている。
それを確認して、そっとオータムは発泡酒の缶を手に取り、一口飲んだ。
途端だった。
「びえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」
束がすごい勢いで泣き始めた。
「……うるせぇ」
顔をしかめつつ、オータムは缶を軽く振った。
「ほら、嫌なことは酒で忘れちまいな」
「ぐすっ、ひっぐ……嘘だ、酔っぱらった束さんを強引に食べるつもりだ……」
「馬鹿言うな。抵抗できない兎をいじめる趣味はねえよ。大体私は相手を口説くときは誠意をもって真正面から行く。これはただの慰労会みたいなもんさ」
「……ひっぐ……束さん、お酒苦手……」
「あー……しょーがねーな、ノンアルのカクテルならいけんだろ」
腕を伸ばし、再度冷蔵庫を開ける。
中には炭酸水やフルーツジュースがいくらか積まれていた。
「んじゃあ、
「……甘い?」
「時間感覚がとろけちまうぐらいに」
「……じゃあ、飲む」
決まりだな、と軽く笑って、オータムはソファーに座ったまま、手早くオレンジジュースとレモンジュースとパイナップルジュースを混ぜる。レモンの比率を抑えて、酸味を軽くする。
グラスの中で三色の液体が溶け合い、鮮やかな橙色に変化した。
「ほれ、うまいぜ」
「……ありがと」
起き上がった束に、グラスを手渡した。
よほど憔悴しているな、とオータムは思った。素直に礼が返ってくるなんて予想だにしていなかったからだ。
「どうすっかな。じゃあ――世界の存続に」
オータムがアルミ缶を束に突き出す。
グラスの中身を一度見て、そっと束はアルミ缶にかつんとグラスをぶつけた。
「乾杯」
「……かんぱい」
オータムがぐいと一気に発泡酒を飲み下すのを見て、束はそっとカクテルを口に含んだ。
その様子を見ながら、百戦錬磨の美女はニィと笑う。
「そのカクテル、私の髪の色にそっくりだろ」
「ブホォッ」
天災が噴き出したカクテルは、きれいな放物線を描いていた。
2/6追記
よく考えたら第二部完してませんでした(千冬パート書き忘れてた)
これマジ? ほんとゆるして
あと一話だけ追加して、それで第二部完結です……