【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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明らかにバレてると思うんですけど第四章超絶苦戦してます
オリ設定とオリ展開だらけになってしまって本当に申し訳ない…


41.魔剣使いVS聖剣(エクスカリバー)

 第一次聖剣奪還(ソード・バッカー)作戦は失敗した。

 現在は第二次作戦に向けて総員でプランを詰めつつ、一体全体どうやってあの兵器を攻略するのかと考えあぐねている。

 

 誰もが思考から、一つの事項を排除していた。

 考えないように、念頭に置かないように、頭の奥底に沈めて見て見ぬ振りをしていた。

 

 セシリアはずっと必死に作戦立案に取り組んだ。

 鈴はぼけっと虚ろな表情でテーブルに敷かれた宙域図を眺めていた。

 ラウラは自分を押し殺して冷徹な軍人として振る舞っていた。

 シャルロットは椅子に座り顔を覆っていた。

 

 アルベールはずっと自分を責めていた。各国政府の圧力をはねのけるべきだったと悔やんでいた。

 ロゼンダは唇を噛み、うつむいたままのシャルロットを見ていた。

 会議は様々な案こそ出たが、一向に進まないままだった。

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之箒は作戦会議室に入ることを許されず、彼が漂っているであろう宇宙を見上げて、ただ祈っていた。

 

(私は……信じることしかできない。一夏、お前は…………きっと、帰ってくるだろう?)

 

 胸の奥には、これ以上ない悲嘆が満ちている。

 それでも彼女は信じる。信じることしかできない。だからこそ信じる。

 ぎゅっと両手を握り、目をつむり。

 

 閉じられた瞼の隙間から、はらりと水滴が落ちる。

 

(まだだ。一夏……お前はまだ、お前の理想へ続く道半ばなんだ。私は見届けたい。お前がいつか、いつか至るべき最果てへ手が届く瞬間を……)

 

 祈りは反転する。

 切なる願いは黒く──否。()()()()染まっていく。

 

(ああ、どうして……それなのに……)

 

 感情は止められない。

 願望はせき止められない。

 バキリと、情愛のブレーキが壊れる音がむなしく響く。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 どうなったというのか。ズブの素人である自分がいたところで何も変わらない。現実は、厳然と立ちはだかる。

 それでもと、理想は叫び続ける。

 

(どうして、私は、彼の隣にいられないのだろう──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスドライバー射出用倉庫。

 第二次作戦に向け、装甲の張り直しや燃料の充填が進められている中、()()()()()()()誰も寄りつかなかった。

 空気が違った。

 世界が違った。

 彼女がそれを聞いてから、彼女の周囲はまるで時空が歪んでいるかのようだった。

 

 作戦室にも入っていない。

 過程を聞くことすらしていない。

 結果を聞いてから、彼女の世界は完全に閉じきってしまっていた。

 

 本来なら箒やセシリアが慰めるべきだったのかもしれない。だが彼女たちも、彼と関係が深すぎた。余裕はなかった。

 そうして東雲令は、ただその事実を受け止めて、自分の中で咀嚼することしかできない。

 

「………………」

 

 大気圏外から回収されたシャトルの傍。

 東雲は完全に放心していた。

 呆然と立ち尽くしたまま、彼女は打ち上げの際に一夏が握っていた固定用グリップを見ている。その目は、光のない、がらんどうなものだった。

 

「………………」

 

 帰ってこなかった。約束をしたのに。

 これからの未来の話を、あんなにも明るくしていた彼は、今ここにはいない。地球のどこにもいない。成層圏の向こう側を漂って、そして、帰ってこれるかも分からない。

 

「………………」

 

 美術館のチケットを、ポケットから取り出した。取り出そうとした。ロクに握れなくて、手から滑り落ちた。

 何かを暗示しているようで嫌だった。どこまでも届くと思っていた手。星すらつかめると思っていたのに。自らの望みを全て自分の力で叶えられると思っていたのに。

 

「………………」

 

 床に落ちたチケットを拾おうとしゃがみこむ。脚から力が抜けて、その場に崩れ落ちてしまう。

 そのまま涙を流すことすらできず、ただうつむいて、息だけをしていた。酸素を取り込むことすらおっくうだった。どうして彼を送り出して、彼をMIAにして、自分はのうのうと生きているのだろうか。

 余りにも痛ましい光景だった。作業員たちは、あえて見て見ぬ振りをした。慰めも、ねぎらいも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………」

 

 思い出せる。彼の笑顔。

 思い出せる。彼の言葉。

 思い出せてしまう──彼と語り合っていた未来。現実になると思っていた。輝かしい幸福が待っていると。

 

「………………」

 

 そうでなくとも、幸福を目指して進むことができると思っていた。

 東雲にとっては初めての体験だった。自分の未来を明確に定め、それに向けて進む。日本代表になるのだろうかと、漠然とした考えしかなかった。いつもそうだった。どこか、常に浮遊感を覚えながら生きてきた。誰かの望む方向に、自然の流れで向かえる方向にと。その結果として今の彼女はいた。

 

 彼が──織斑一夏がそれを変えてくれた。

 

 隣にいてくれると。

 一緒に居たいと。

 そして言葉通りに、いつも共にいてくれた。

 

 

 東雲令はそれを忘れない。

 東雲令はそれを決して忘れない。

 

 

 光だった。

 幸福だった。

 心優しき居場所だった。

 世界を照らし出す純白の流星だった。

 

 

 

 

 

 彼といたからこそ――()()()()()()()()は生まれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 故に。

 もう東雲令という少女は。

 彼がいないから、死んだのだ。

 

 

 

 

「………………」

 

 此処に座するは戦場に吹き荒れる茜色の嵐。

 東雲令ではなく。

 呼ぶべきは『忌むべき十三(アンラック・サーティーン)』、『魔剣使い(ヴォルスンガ・サガ)』、あるいは『疾風怒濤の茜嵐』──人間としての名など必要ない。剣を握る手があれば、自在に駆動する四肢があれば、倒すべき敵を斃す力と技術さえあればそれでいい。

 今はもう、他には、何も要らない。

 

 東雲はチケットを拾ってポケットに入れると、立ち上がった。

 それから歩き出し、シャトル整備倉庫を出る。外はまだ明るかった。そろそろ夕暮れにさしかかろうかという時間、空にまだ星は見えない。

 だが彼女には見えていた。成層圏の向こう側。忌むべき巨大兵器。

 

 

「墓標としては、この上ないな」

 

 

 呟きを聞いた者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦室。

 会議は踊り、されど進まず。

 

「やはり現行の戦力だけでは無理がありますわ。令さんの追加装備の到着を待ちつつ、他国からの救援も要請するべきでしょう」

「目的が『エクスカリバー』の奪還のみならばな。織斑一夏の救出までを想定するのなら、まず一刻も早く作戦を開始しなければ取り返しがつかなくなるぞ」

 

 セシリアの意見にはアルベールが賛同し、ラウラの意見には鈴とシャルロットが賛同している。

 方向性は定まっているが、そこへと向かう過程は違った。

 

「……東雲令の装備がまもなく到着する。その換装だけでも待ってくれ」

「……ッ、それは譲歩する。ただ、換装が終わり次第の出撃が望ましい」

 

 ラウラはドイツ軍人として発言した。アルベールはプロフェッショナルの意見に大きく頷いた。

 

「ならば他のメンバーの出撃準備も始めよう。エネルギーの再充填、装備の新調等……ウチのあらゆる製品を使って良い。むしろ消耗した武器の代替のため、使わざるを得ないだろう。だから──」

「その必要はない」

 

 全員、弾かれたように会議室の入り口を見た。

 長い黒髪が揺れていた。深紅の眼光が閃いて、一同の背筋を死神がなぞったような悪寒が走った。

 

「…………令、さん」

 

 セシリアは言葉に詰まった。うまく息が吸えない。

 雰囲気は別人だった。教室でも、アリーナでも、更には未確認機体と相対した戦場ですら感じたことのない。

 はっきりと視認できるほどの、荒れ狂う激情。

 

「あれは……あれだけは、当方がこの手で破壊する」

「……ッ!」

 

 彼女が告げると同時、アルベールの端末がアラートを鳴らす。

 換装装備の到着だと、誰もが察した。

 東雲令は確かに一人の少女だ。しかし実態として、彼女が戦いの神に愛されているということは、覆しようのない事実である。

 

 天運──戦いにおいて、タイミング等の運が絡む要素全てを味方につける、戦士が持つ上で最上級のスキル。

 それは東雲が望む形ではなく、東雲が勝利するというその事項一点のみにおいて多大な働きを持つ。

 

「これは軍事作戦だ。そんなこと、認めるわけには──」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に、其方の作戦とは関係なしに行動を開始できる。そして……デュノア社には、日本政府から当方の単独行動に対する援助を要求する」

「……ッ! それを認めるとでも!?」

 

 シャルロットは勢いよく父親を見た。そして愕然とした。アルベールは黙って首を横に振っている。それは東雲に対する拒否ではない。

 要求に応じざるを得ないという、政治的な配慮を示すものだった。

 

「令さん……」

 

 セシリアは声をかけようとして、しかしかける言葉を持たないことに気づき、強く唇を噛んだ。

 どこか超然としていた彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。身に纏う激情の揺れは、しかし顔には出ていないのだ。

 

(……貴女は、どうして……)

 

 愛弟子としてかわいがっていた。それは誰が見ても分かる。

 だけど、今の東雲は、感情と行動が連動していない。

 嫌でも感づいてしまう。強者故の、常人とのズレ──ではない。()()()()()()()()()

 

 今、彼女の最大の親友である箒がいれば、もう少し何かが変わったかもしれないと。

 自分にはそれができないという事実が、セシリアはひどく悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャトル発着場。

 大気圏外輸送用シャトル外部にISを身に纏った東雲が取り付けられるのを、一同は眺めていた。

 単独行動ライセンスの発動により、セシリアらの部隊は東雲に三十分遅れての出撃となる。間違いなく、三十分の間に結果の是非は出ていると、誰もが理解していた。

 

 理由は、平時の東雲の強さを知っているというのが一つ。

 もう一つは、『茜星』が換装した、新たなる装備。

 

「『茜星・強襲仕様(パワーフォース)』」

 

 四宮重工から送り込まれた、東雲令の専用換装装備(オートクチュール)

 

「……って、露骨に機動性が下がりそうねアレ」

「まさか時間を遅らせただけでなく、急造品でも送りつけてきたのか?」

 

 鈴とラウラの視線は、一瞬でその装備の特性を見抜いた。

 平時纏う深紅の装甲が増設され、意思伝達で発砲するガンポッドや索敵範囲を広げる円盤状のレドームが取り付けられている。

 さらに背部バインダーが拡張され、太刀も一回り長大な代物に変貌し、破壊力を上乗せする。

 ウェイトが増えたのを補填するためか、新規のショートスラスターが腰と背に加わっていた。

 

「いや。あれは四宮重工が『妨害さえなければ東雲令が勝敗をひっくり返しただろう』と悔しがるほどに、肝いりのオートクチュールだ」

 

 だが彼女たちの背後にいたアルベールが、低い声で告げた。

 

「お父さん、それって……」

「四宮重工……『茜星』、並びにそのベースとなった『明星』を製造した、中堅規模の企業だ。わかりやすいほどに東雲令しか取り柄のない企業だが、その分彼女への理解度は高い」

「ならばあの装備は適正だと?」

 

 セシリアの問いに重々しく頷き、アルベールは無表情のまま各種確認ウィンドウに目を通している東雲を見た。

 

「本来あの『茜星』は、フラグシップモデルとして多種多様なパッケージを運用することを目的に据えた試作機だ。つまるところ……普段の彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な……ッ!?」

 

 その言葉は代表候補生らに少なからぬ衝撃を与えた。

 だが言われてみれば、納得できるポイントはある。あのバインダーも本来は多様な装備を詰めるためのものだ。つまり、あらゆる状況に対応することを前提とした構築に他ならない。

 

「『茜星』は、四宮重工にとっては新作の試運転といったところだろう。それが東雲令の戦闘スタイルときっちりハマっている。故に彼女に自由にさせてやれるし、東雲令もまた、自分のスタイルを崩さずに済む。両者が得をしているということだな」

 

 そうこうしているうちに、東雲が全てのウィンドウをチェックし終えた。

 作業員がマスドライバーの加速用レールにグリーンランプを点す。

 

『タイミングをレイ・シノノメに譲渡します』

「コントロールを確認」

 

 数秒、東雲は目を閉じて黙り込んだ。

 恐ろしいほどの沈黙だった。距離があって、窓を隔てていたのに、アルベールらは濃密な死の予感を嫌でも感じさせられた。

 彼女は本当に『エクスカリバー』を奪還するつもりがあるのだろうかと。弟子の仇のために跡形もなく粉砕してしまうのではないだろうかと、思わず疑念がよぎるほどに。

 

 だが声を出す間もなく。

 世界最強の再来が、開眼した。

 

「東雲令、発進する」

 

 言葉の直後、シャトルが爆発的に加速し、レール上を疾走。

 そのまま真上へ軌道を曲げて。

 

 天と地を貫く柱のように、ミサイル雲だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙空間に到達したシャトルから、東雲は即座に飛び出した。

 弾幕が形成される前に接近しようとして。

 

 

 

Excalibur(あっ君って!) Execute(私を見てた子だよね!)

 

 

 

 一次作戦と同様──否! 更なる長射程から放たれる光の柱!

 東雲はすんでのところで急加速、ギリギリでかすめるに留まった熱線は、それでも彼女の左側増設装甲表面を融解させる。

 

「セカンドシフトしているのだったな……ならば」

 

 太刀を抜かないまま、その身一つで吶喊。

 弾幕が張り巡らされる中に、まっすぐ突っ込む。地上でセシリアたちが悲鳴を上げた──が。

 まるですり抜けるようにして、当たらない。微細な角度調整とAIの自動予測を裏切る軌道が、弾丸の方から避けていると見間違うほどの直線行動を可能にする。

 

「消えろ」

 

 無数の弾幕の、まっただ中。

 突然東雲が静止した。自殺行為──ではない。見る者が見れば分かる。それは次なる加速に備えた溜め。

 砲塔が瞬時に稼働し、東雲を狙おうとして、しかし次の瞬間に彼女の姿はかき消えた。

 増設ブースターが火を噴いた。内側。織斑一夏が到達した弾幕の内部へと、数秒足らずでたどり着き。

 

 振るわれた刃を、『エクスカリバー』の装甲が()()()()()()

 

「……違う」

 

 真っ二つに砕けた刀を宇宙に放り捨て、東雲は一気に加速。追いすがる弾幕を置き去りにしつつ、ガンポッドで迎撃を牽制。同時にバインダーの位置を微調整した。

 平時の通り背後からの抜刀では、やや物足りない。これは対IS戦闘でありつつも、既存の対IS戦闘理論は役立たない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もっと……速くなくていい……込めろ。そう……切り裂くのではなく、叩き潰す感覚……」

 

 背部に展開されていたバインダー計13本。うち11本を翼のように広げつつ、2本を腰へと接続。腰の捻りに載る力を増大させた。

 生み出されるのは速度でなく、爆発的な威力。最効率化された肉体の躍動は、累乗されるようにパワーを跳ね上げさせる。

 

「脱力は不要……力め、速さを捨てろ……インパクトをねじ込み、内側を破砕するのでなく表面からえぐり込むイメージ……」

 

 圧倒されるような弾幕の中を、茜色の流星が突っ切っていく。

 映像で見ている代表候補生も、各国精鋭部隊も、呆然としていた。なんだその機動は──美しい。華麗だ。もはや舞の次元だった。文字通りに、世界が違った。

 だが東雲はブツブツと思考を口に出しながら、虚無の無酸素空間を機械的に駆け抜ける。刻一刻と動作は洗練され、再構築され、更なる高みへと上り詰めていく。

 

「潰す……抉る……粉砕する……()()()()()()()()

 

 今この瞬間に限れば、東雲の思考と動作は連動していない。

 だから、()()()()()()()()()()。自分の動きを確認してから、戦闘理論がついに完成する。

 

 

「底は知れた」

 

 

 増設装甲が基礎フレームに連動してスライド。

 宇宙空間に、血しぶきのような深紅の過剰エネルギーが流れ出す。

 

 

 

「これより撃滅戦術を中断し、破砕戦術を解放、開始する」

 

 

 

 バインダーが回転し、姿勢制御のため手足のような働きを持つ。

 無重力化における微細な動作を保持する複数のアームを、東雲はなんの意識的な切り替えもなしに受け入れた。

 

 

 

「──()()()()

 

 

 

 両手の太刀を重ねた。アタッチメント同士が噛み合い、二振りの刀が一刀に束ねられる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 都合六本。六倍に膨れ上がった質量。

 剣と呼ぶには、切り裂くためのものと呼称するには無理のある厚さ。

 

「一手だ」

 

 東雲は光を失った瞳で、『エクスカリバー』を見据えながら告げる。

 

「一手で沈め。何も残さない。一片たりとも、当方は貴様の存在を認めない……ッ!!」

 

 言葉に裏付けられるのは充填された殺意。

 懸念は正しかった。彼女は『エクスカリバー』の奪還、あるいはエスカリブール・デュノアの救助などまるで考えていない。

 ただ、このガラクタを粉砕する。それだけが念頭にある。

 

 制止の声は届かない。

 東雲は再度急加速し、真っ向から衛星兵器の主砲砲口へと突撃する。

 バチバチと紫電が散り、割れた刀身の隙間でエネルギーが猛り狂う。人間はおろか鋼鉄すら蒸発せしめる、滅びの光を見据えて。

 

 

 

 

 

 

 

「──覇槌:厭離壊苦(おんりえく)

 

 

 

 

 

 

 

 顕現するは全てを粉砕する、雷が如き神の怒り。

 彼女は決して退かなかった。

 いかなる熱量が相手であろうとも、絶対に退かないと決めていた。

 

Excalibur(わー大胆だねー) Execute(抱き留められるかなー)

 

 剣が抜き放たれる。

 親愛を反転させた、大地をも貫く巨大なエネルギーの塊が放出される。

 だがそれよりも東雲の方が疾かった。

 

 

 振るわれた鉄塊が、()()()()()()()()()()

 

 

 ちょうどホームランのように、放たれた光の剣を、東雲の覇槌が真正面から『エクスカリバー』めがけて打ち返した。

 莫大な熱量はそのまま聖剣自身を破滅させる致命打となる。

 刀身が切っ先から蒸発していく。順に光に飲み込まれ、数秒足らずでコアユニットまで浄滅の光は至るだろう。

 

(──当方は、彼に救われていたのだな)

 

 絶技によりはじき返した、その眩い光を見つめながら、東雲は内心で無感動に呟いた。

 勝利とはこんなにもむなしかっただろうか。ずっと前は、ずっとこうだった気がする。でもついこの前までは、違った。彼の前で勝利を収めると誇らしい気持ちになった。今はもう、その歓びはどこにもない。

 胸中に荒れ狂う感情は、表に出ることのないままどす黒く染まっていく。

 

 作戦は成功となった。

 予定を大きく変更して、しかし一切の被害の拡大を許さず、東雲令がそれを成した。

 立派な功績だ。コアユニットの救出は二の次という判断はラウラよりも軍人らしいだろう。地上への無差別砲撃を考慮すれば迅速な破壊に勝るものはない。

 

 そうだ。

 東雲令は激情に流されながらも、そこは理論的に判断できていた。

 

 

 あくまで、理論的に。

 

 

 

 

 

 ────だから、()()()()()()()()使()()()()は、別の決断を下せる。

 

 

 

 

 

「信じてたぜ、()()()なら最速で殺しに来るってなアアアァァァァッッ!!」

 

 

 

 

 

 爆発的な熱風が宇宙を駆けた。

 東雲は、目をこれ以上なく見開いた。地上の面々も同じだった。

 

 打ち返した破滅の光を、突如現れた焔の翼が遮っている。

 

「どっかで一つでも読み違えたら台無しだった……! でも読み勝った……! 我が師は間違いなく単独で来る! そして他の連中は追いつけない! さらに、我が師は最速で『エクスカリバー』をぶっ壊す! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 拮抗は数秒。出力を増した炎翼が、エネルギーの塊をかち上げた。あらぬ方向へ吹き飛ばされたレーザーは、減衰しながら宇宙の彼方へと流れていく。

 それは願いを叶える流れ星──()()()()()

 

「どうです、我が師! 俺の読みは完璧だったでしょう!」

 

 翼の根元。

 たった今突如として顕現した──東雲相手に集中していた『エクスカリバー』に接近・潜伏していたその機体。

 

 

「…………おりむー……」

「いや、そこは我が弟子って言ってくれよ、東雲さん」

 

 

 冗談を飛ばすには明らかに顔色が悪い。脂汗も浮かび、端整な顔立ちは苦痛に歪んでいる。

 傷を負った状態で宇宙空間を孤独にさまよっていたのだ。それでも、信じていたのだ。

 

 だからこそ、織斑一夏はそこにいた。

 

「あ、あぁ…………」

 

 東雲は呻き声に近い声を上げることしかできなかった。

 それでも身体は動く。彼を求めて、動く!

 

「東雲さん──!」

「おりむら、いちか──!」

 

 弾幕の中を、師弟は駆け抜ける。もうこの際に至って、二人にとってはそれを回避することなど児戯に等しい。

 遮るような砲火を掻い潜り、白と茜がぐんぐんと距離を縮めて。

 

『…………ッ!』

 

 互いに手を伸ばした。

 そして、届いた。

 無骨な機械の腕だけど。

 はっきりと結ばれたその手は、確かな温度を感じる気がした。

 つながれた手を見て、一夏は微笑んだ。

 

「ハハッ──ああ、ちょっと自信なかったんだよ」

「……当方が来るか、か」

「違う。俺が本当に今生きてるのか。幽霊なんじゃないかって思ってたんだ。でも違った。だから、良かった……」

「……ふふ、なんだそれは」

 

 絶死の戦場。荒れ狂う弾丸の渦の中で、二人は手をつないだままターンを繰り返して無傷のまま射程外へとくぐり抜ける。

 

「あっ、東雲さんいま笑っただろ」

「当方も、嬉しいときぐらいは笑うさ」

「……そりゃそうか。東雲さんだって人間だしな」

 

 一夏は東雲が微かに口角をつり上げるのを見て、心の底から安堵した。

 あの漆黒の空間から、帰ってこれたのだと。

 

「──と、わりぃ。実は『疾風鬼焔(バーストモード)』の翼を潜伏モードにずっとしてたもんだから、エネルギー残量がかなりやばい」

「委細承知。ならば、速やかに終わらせよう」

 

 二人はそれぞれ手を離した。名残惜しくはなかった。もっと深いところでつながっているという自覚があったから。

 故に純白と深紅の太刀が同時に閃き、その切っ先を『エクスカリバー』へと突きつける。

 

「快適な宇宙(そら)の旅は楽しかったか、おりむー」

「ああ、存分に楽しんだよ、東雲さん」

 

 視線を交わさずとも、次にやるべきことは決まっていた。

 東雲は一夏の願いを優先する。そして一夏は、()()()()()()()を望んでいる。

 だから覇槌はもういらない。

 

「ならここからは戦闘だ。準備はできたか──()()使()()

「……ッ! ああ! 無論だ、できてるぜ──()()使()()!」

 

 師弟ではなく。

 共に肩を並べる、対等な戦友として言葉を交わし。

 二人はまったく同じタイミングで加速し、砲火の中へと再度飛び込んだ──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おりむー生ぎでだ~~~!!!!! よがっだ~~~~~~~!!!!!!)

 

 

 今回ばかりは完敗である。

 東雲令は完全に──メインヒロインそのものだった。

 

 

(……ッ!? 待てよ……今のやばかったくない? 宇宙空間で再会して、手を伸ばして! 届いて! しばらく手をつないだまま一緒に動いてて……!)

 

 

 そうなんです(食い気味)

 本当に今さっきの瞬間、東雲は世界中の誰もが羨むような甘美なシチュエーションをそのまま現実に引っ張り出してきたのだ。

 愛する男と宇宙で再会して、しっかりと密着して宇宙を駆けていたのだ。

 

 

(これって、これって……ッ!)

 

 

 ああ……しっかりトリップしろ。おかわりもいいぞ! 遠慮するな、今までの分も妄想しろ……

 もはや文句のつけようがない。東雲令こそが、ナンバーワン──

 

 

 

 

 

(────なんかインスタ映えしそうだな。撮っときゃ良かった)

 

 

 

 

 

 ああああああああああああああああああああああもうやだあああああああああああああああああああああああああ!!

 

 

 

 










メ イ ン ヒ ロ イ ン ラ ン ド 閉 園





次回
42.聖剣/Mother's Lullaby


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