【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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56.世界最強の再来VS日本代表(前編)

 IS学園第2アリーナ。東雲令と日本代表による模擬戦。

 屈指のIS乗りと名高い『疾風怒濤の茜嵐』と『疾風迅雷の濡羽姫』による、世界の頂に最も近いバトル。

 その決着が今まさにつかんとしていた。

 

「──九手、死ねぇ日本代表ッ!!」

「死ぬのはそっちなのです」

 

 

 えっ。

 

 最後の一撃をくれてやろうとした東雲が凍り付く。

 黄金の雷をまき散らしながら。

 結末をひっくり返す致死の居合いが、東雲めがけて放たれた。

 

 

 

  l________________

〈   To Be Continued   Xl 

  l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 ──東雲の脳内でアコギのイントロにうねりまくったベースがインしたところで。

 時は少し巻き戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管制室に一夏たちが入れば、既に二つのISがアリーナ中央に佇んでいた。

 大型モニターに映されるその光景を見ながら、セシリアとシャルロットが自分のデバイスを起動してメモを取る準備を始めた。

 一夏もメモシステムを起動させようとしたが、やめた。感覚的な察知だった──多分、そんなことをしている余裕がない。

 

「……両者共に準備完了。アナウンスをお願いします」

「分かった」

 

 水色の髪のオペレーターの言葉に、千冬が頷く。

 やたら聞き覚えのある声だなと一夏が顔を向ければ、席に座っているのは簪だった。

 

「って、簪。いないと思ったらこっちにいたのか」

「……先生たちの一部が、本国に呼び出されてて……人手が足りないから、手伝ってるの」

 

 教員用のインカムを外して、簪はオペレーター席から立ち上がる。

 横一列に並び来賓用の椅子に座る一夏らを見渡して、簪は唸った。

 

「席がない」

「ああ確かに……空いてるとしたら俺の膝とかか?」

 

 一夏はおどけるように言った。隣でセシリアがこいつ正気かよと両眼をカッ開いてまじまじと彼の横顔を見つめる。

 だがしかし。その提案を受けて、簪は数秒考え込み。

 

「分かった」

「は?」

 

 ぽすん、と一夏の膝の上に腰を下ろした。

 

『!?!!?!!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!!?!!?!!?』

 

 箒、鈴、シャルロット、ラウラが声にならない悲鳴を上げた。

 目を丸くして言葉を失う一夏と、両手で顔を覆うセシリア──この場において正気を保っている人間の割合ががくんと減った。SAN値チェック失敗である。

 

「ちょ、ちょっと簪、お前……」

「……冗談。思ったより恥ずかしかった……

 

 頬を紅くして、そそくさと簪は一夏の上から退いた。

 無論他の女子らは般若のような表情でその背中を見ていた。

 何今の。彼女か? 同棲している彼氏と彼女か? 

 極めて不愉快であると箒鈴シャルロットが表情で訴えた。

 

「……試合を始めるぞ」

 

 背後でちょっとした地獄が広がったことを察知して、千冬は呆れかえりながらアリーナにアナウンスする。

 選手──否。戦士二名が頷いた。

 

『当方は問題ありません。既に魔剣は完了しています』

『私もなのです。()()()()()()()斬り捨てるのみです』

 

 戦意は十分。観客が息を呑む。

 簪がオペレーター用の席を転がして一夏の隣に置いて座った(シャルロットとの間に割って入る形になり、シャルロットは笑顔で額に青筋をビキバキと浮かべていた)のを確認して、千冬は管制室のコンソールに指を置く。

 ボタンを押せば、アリーナの大型モニターがカウントを始める。

 

 同時──日本代表が身に纏う漆黒の専用機が、甲高い奇っ怪な音を奏でた。

 

「……ッ? 今のは……」

 

 一夏の感覚が何か違和感を捉えた。

 見れば箒も訝しげに眉をひそめている。他の面々は、それがあって当然だといわんばかりに顔色を変えていなかった。

 

(見た目に変化があったわけじゃない……装甲の変質? いやもっとこう……落ち着け……あの感じを引き出せれば……)

 

 意識を集中させる。思考回路が数倍に増えるような、認識できるようなレイヤーが増えていくような没入感。

 頭の奥底に甲高いノイズを響かせながらも、一夏はモニター越しに拾える情報全てを精査していく。

 

(何かが変わった……戦闘用に何かを切り替えた……違う。切り替えてない。元からあったものが変質したわけじゃない。()()()()()()()? 不可視の……それでいて戦闘用の……!)

 

 両眼が紅く染まっていく。能動的に引き出した情報受信・処理能力。

 それを活用し、一夏は自らの手で結論を導いた。

 

「──磁力を、身に纏ってるのか……!」

 

 解説無しに言葉を発した彼に、周囲がぎょっとする。

 その刹那に試合が始まった。

 先手を取ったのは意外にも東雲。一歩踏み込めば音を置き去りにし、二歩踏み込めば間合いの内。三歩踏むとき、既に両手には刃が握られている。

 

(な……()()()()()()()()()()()……!?)

 

 相手の動きを読み切ってからの反転攻勢で勝負を決するのが、彼女が保有する戦闘理論──即ち魔剣である。

 だが開始のブザーが鳴ると同時に、東雲は最速で距離を詰め剣を振るっていた。

 代表も腰元から刀を抜刀し、表情を変えることなく、小刻みに位置や角度を調整しつつ東雲の攻撃を受け止めた。

 後ろへ下がりつつポジショニングの妙で攻撃の勢いを削ぐ代表と、攻めきれない東雲。

 構図は、東雲を知る者からすれば信じられない代物だった。

 

「……これ、真剣勝負じゃなくてパフォーマンスでやってるのか……?」

「違う……令は、代表相手だと最初から攻め込むよ」

 

 思わず一夏は問うが、それを簪が即座に否定する。

 そして。

 

「正確には……攻め込まざるを得ない。だって、()()()()()()()()()()()()

『──!?』

 

 簪の言葉に一同は言葉を失った。

 しかしどこかで納得している自分がいるのも、一夏は自覚していた。

 

 超攻撃的なスタイル故に、東雲令は勘違いされることが多い。

 刀を次々と使い捨てていく絶え間ない連撃。

 防戦に追い込み、そして防御を真正面から撃ち抜く猛攻。

 しかし──しかし。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

(そうだ。東雲さんの本質は戦闘の趨勢全てを読み切る戦闘理論。魔剣っていうのはそういうものだ。連続攻撃はあくまで副産物……!)

 

 つまり東雲の攻撃は、日本代表を攻勢に入らせないための──()()

 一太刀一太刀が並のIS乗りを八つ裂きにする、絶死の牽制!

 

『……濡羽姫殿、また腕を上げましたね……』

『整備の方々に感謝せねばならないのです。『電磁加速(マグネット・ブースト)』の理論値を底上げしてくれたのでありますから……!』

 

 火花散る攻防戦の中、二人は他愛ない会話を交わしていた。

 聞き慣れない言葉を受けて、一夏は首を傾げる。

 

「──電磁加速(マグネット・ブースト)……?」

「そう。日本代表の専用機『宵明(よいあかり)』が有する、第三世代型の加速システム」

 

 従来の瞬時加速(イグニッション・ブースト)は一度外部に放出したエネルギーを再度取り込み、アフターバーナーの要領で追加推力に変換するテクニックだ。

 タイミングや角度調整に高度な技巧を求められる、上級者用の加速技術。

 簪はその前提を確認してから、説明を続ける。

 

「一夏の……炸裂瞬時加速(バースト・イグニッション)は、ネーミングこそ瞬時加速を元にしてるけど、まったくの別物……そして代表の電磁加速も、そこは同じ。『打鉄』の後継機は私が担当して、今の代表はまったく新しい技術のテスターになった。そしてその技術を活用して代表の座に上り詰めた……」

 

 試合を見れば、やはり東雲の斬撃は通用していない。

 受け止める際に芯を外されているのだ。だが、剣術において上回られている、という感じではない。

 

「……その、なんだ。もしかして、さっきから動きが変なのって、それか?」

「……そう、だけど」

 

 ()()()()()()()、と初見で気づけるIS乗りがどれほどいるだろうか──

 簪はその言葉を飲み込み、彼と同じようにモニターへ顔を向けた。

 

 濡羽姫は微細な位置取りの変化で東雲の攻撃を鈍らせていた。微かに剣筋が傾いでしまい、そこを刀身で弾かれる。やっていることは、先日の決勝戦で鈴がやっていた防御術と同じだ。

 しかし精度は段違いである。何せ、鈴は一夏の攻勢を殺し、代表は東雲の攻勢を殺しているのだ。

 

「鈴はPICで滑るように動いてた……だけど、代表は何か違う」

「そーね。あたしの方が動きは滑らかなはず。だけど濡羽姫の方が圧倒的に鋭いわ」

 

 曲線を描くことなく、代表はあくまで直線的な移動に徹している。

 それはおかしいのだ。なぜなら慣性作用のみで戦闘機動を行う場合、どこかしらで必ず曲線を描いて移動する必要が生まれる。直線のみでは直角に曲がる際の減速を捉えられるからだ。

 

「代表……濡羽姫、か。あの直線軌道が──」

「ええ。日本代表最大の武器である『電磁加速(マグネット・ブースト)』──アレはいわば、自身を弾丸とした電磁加速砲(レールガン)なのですわ」

 

 セシリアの言葉に、一夏は得心が行った。

 なるほど磁力を身に纏っているのはそれか。鉄を打ち出す推力を、自らが移動する際の加速に転じさせているのだ。

 

「それだけじゃないわよ。自分を守り、攻撃を減衰させる電磁バリアとしての役割もあるわ」

「生半可な攻撃じゃ、届く前にねじ曲げられるね」

 

 鈴とシャルロットの補足を受けて、やっと一夏は日本代表に抱いた違和感を解消できた。

 

(電磁バリアによる防護、そしてその磁力を利用した直線加速! それが日本代表の戦闘理論か……!)

 

 モニターを見た。東雲の猛攻を、濡羽姫は涼しい顔で受け流している。

 自分ならそろそろじり貧になる──巧緻極まる連続攻撃を読み解き、一夏はそう判断した。

 しかし濡羽姫の挙動に──淀みなど一切なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつも通りでありますな。『強襲仕様(パワーフォース)』の実戦データを元に、いよいよ『茜星』の最終調整が成されていると聞いたのありますが」

「肯定。しかしまだ未完成です──恐らく()()()()()()()()にギリギリ間に合うかと」

「嗚呼……東雲代表候補生もでありますか」

 

 避けきれない斬撃が、互いのエネルギーをじりじりと削っていく。

 両者既に、エネルギー残量は五割を切っていた。

 そんな熾烈な剣戟の最中で。

 ふと、日本代表は気遣うような声色を出した。

 

「──心配ご無用。当方の力は、学園ではなく戦場においてこそ最大の働きを発揮すると理解しています」

「そうでありますか」

 

 東雲の振るう剣を弾いて、代表は表情を引き締め直した。

 磁力で自分の身体を叩き、細かい直線加速を重ねていく。常人ではあっという間に眼を回すだろう。だが東雲ははっきりと、己が斬るべき相手を見据えていた。

 

「ええ。当方の存在価値は敵を斬ることで確かなものになる。それは今この瞬間も同じです、故に──」

 

 微かな間を置いて、空気が激変する。

 東雲の視線が滑らかに日本代表を貫いた。

 

これより迎撃戦術を中断し、撃滅戦術を開始する

 

 連撃を中断し、東雲が一気に距離を取った。

 背部バックパックが分離し、独立したバインダー群が回転し抜刀位置に置かれる。

 ついに来るかと、代表が刀を持つ手に力を込めた。

 

 

 

「──()()()()

 

 

 

 誰もが息を呑んだ。

 均衡が破られる。瞬きをすることすら許されない。

 ここから一息に結末まで疾走すると、全員が確信した。まさしく頂点を争う決戦に、幕が引かれると。

 

 己の心拍音すら邪魔に感じる静謐の中。

 いつも通りの自然体で、東雲は絶死のカウントを口にする。

 

 

 

 

 

「当方は──九手で勝利する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(その胸、引き千切ってやる……!!)

 

 猟奇殺人はご遠慮ください……

 

 






スクロール特殊タグの実装、マジで冒頭のあれしか思いつかなかった
運営さんごめんなさい



次回
57.世界最強の再来VS日本代表(後編)


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