【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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中編ってなんだよ(半ギレ)


63.唯一の男性操縦者VS毒蜘蛛(中編)

 気づけば霧に包まれていた。

 IS学園の制服ですらなく、身に纏うのは懐かしい中学時代の学ランだった。

 見渡せど何も見えず、ただ濃霧が視界を遮っている。

 どことなく夢見心地のまま、呆然と、前へ進んでいく。

 道は確かに存在した。一本道で、曲がることは許されなかった。

 

 やがて霧の向こう側に、何かが見えた。

 早足になって歩くと、それが何なのか見て取れた。

 

 崩れ落ちた鳥居。

 顔の潰れた狛犬。

 二度と湧かぬ聖なる泉。

 空々しく鳴り続ける本坪鈴。

 

「……ここ、は」

 

 織斑一夏は、朽ち果てた篠ノ之神社の前に佇んでいた。

 周囲を見渡すが子供一人すらとんと見当たらない。

 

【ここが、原初だ】

 

 声が聞こえた。

 顔を上げて、鳥居の向こう側に続く階段の上を見上げる。

 そこにいた。

 自分とは違い、IS学園の制服を身に纏った──織斑一夏が、いた。

 

【織斑一夏の原初を構成する、心象風景。これがそうだ】

 

 彼は冷たい表情と冷たい声色で、まるで同じ姿なのに別人のような鋭利さを携えて告げる。

 否。ただ一点のみ、同じ姿ではない。

 鮮烈なまでの、血飛沫をそのまま凝縮させたかのような深紅眼が──ゆらりと残光を描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ──?」

 

 海上基地は未だ遠く、先制攻撃にやって来た部隊を相手取る多国籍軍。

 激しい戦闘は少々の取りこぼしを生み、後方にて待機している代表候補生らは三人一組のチームを組んで、突出してきた無人機を冷静に撃破していた。

 前線では有人機も続々とやって来ていて、しかし国家代表らの奮戦により徐々に戦線を整えて押し込み始めている。

 追加の奇襲などがあれば分からなかったが、このままならば被害を最小限に抑えつつ侵攻できる──と、誰もが予感していたとき。

 

「え、うそ、パワーダウン!?」

 

 ラウラが自機の緊急警告に眉根を寄せると同時、隣で鈴が狼狽の声を上げる。

 二人だけではない。戦線を構築しているISが続々とエラーを吐いて、動きが急速に鈍っていった。

 

「ちょっと待って、まさかジャミング攻撃!? 簪!」

「ダメ……! 攻撃の痕跡がない! ハッキングも違う! 元々、ISコアなんて……ハッキングできないはずなのに……!」

 

 名を呼んだシャルロットに対して、簪は緊急簡易チェックの結果を叫び返す。

 

「……無人機の動きには変わりありません。各国代表らも機体機能が大幅に低下しているようですわ。戦線を一度後退させる可能性が出てきましたわね」

 

 機能低下した火器管制装置をカットし、完全マニュアルで無人機を狙撃しながらセシリアが舌打ちする。

 根本的な出力が低下していた。直撃させたというのに、『スターライトmk-Ⅲ』のエネルギーレーザーが装甲表層で弾かれたのだ。

 

「……ッ。このタイミングだ、向こうの本拠地から何かしらの妨害を受けている可能性が高いぞ。このままでは……!」

「とにかく! あたしらは目の前の敵を狩らないと! じゃなきゃ後退すらできないわよ!」

 

 スペックが落ちようとも、この場に居る乗り手は世界屈指のエースばかりだ。

 すぐさま順応し、機体に合わせた操縦で戦闘を再開していく。

 だが無人機の猛攻を前に、段々と、戦線が押し込まれ始めた。

 天秤が一気に傾き始めたのを感じて、誰もが息を呑む。

 その中で──後詰めの部隊の中では──セシリアだけが、冷静に戦況全体を看破できていた。

 

(本拠地からの妨害……ならばどうして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オータムは冷や汗を一筋、頬に垂らして呻いた。

 

「冗談、だろ……!?」

 

 彼女はほとんどの事実を知っている。

 織斑一夏の出生と、おぞましい人体改造計画。人類を一つ上のステージへ、等という朽ち果てた甘言。

 故にその紅い瞳を向けられたとき、筆舌に尽くしがたい悪寒が全身を走った。銃口を向けられたよりももっとひどい緊張感。余計な力が入り、四肢がこわばる。

 

(まさか織斑一夏の生存を最優先する、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!? だとしたら『白式』だけじゃねえ! 『雪片弐型』もまた、博士の計画から逸脱してやがる──!)

 

 狼狽するオータムに頓着することなく、深紅眼の男が、その身に純白の装甲を纏う。

 先ほどまでの戦闘の残存ダメージか、あちこちから火花が散っていた。無傷である箇所は一つもない。

 ボロボロの状態で何を──と、オータムが警戒を引き上げた瞬間。

 八本脚が先行した。

 加速の予兆を、幾重もの死線をくぐり抜けてきた勝負勘が察知したのだ。

 後の先、ではなく、先の先を取った。()()()()()()()()()()()()()()()という、磨き抜かれたセンスの持ち主にだけ許される超絶技巧。蜘蛛を模した脚部の先端ブレードが閃き、直線加速してくる一夏を迎撃し。

 

 ──その全てが空を切って、オータムは絶句した。

 

 今までの理論と直感が噛み合った回避機動ではない。

 一から十まで、全てを理論的に読み解いた──東雲令に勝るとも劣らない──迎撃戦術。

 

「テ、メェッ──!?」

 

 至近距離で、両腕にブレードとナイフを召喚し、計十に及ぶ凶器を振り回す。

 乱雑に見えて一つ一つが緻密に計算された殺人技術。どこかを回避すればどこかに当たる。行き止まりしかない迷路に誘う、まさしく、致死の糸を張り巡らせるが如きタクティクス。

 

 それら一切合切を、飛び跳ね、引き千切り、叩き潰し、押し通り。

 

 織斑一夏が真っ向から、首に刃を突きつけた。

 

(んな──あり得ねえだろ今のッ! 反応速度じゃねえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 迎撃に回した八本脚は全て、たとえ弾かれたとしても、即座に防御へ転用できるよう位置取りをしていた。

 故に喉元へ迫る刺突も対応できたはずが、速度に追いつけず、間に合わない。

 抉り込むように放たれた切っ先がオータムの喉を突き、呼吸が詰まる。一瞬視界がブラックアウトし、気づけば廊下を十メートル以上にわたって吹き飛ばされ、転がっていた。

 

(プログラムみたいな動作……いや単純なプログラムならカモのはずだが、こいつは違う……!)

 

 血を吐きながらも立ち上がり、震える身体に活を入れる。

 一夏はじっとオータムを紅目で見つめながら、ゆっくりと近寄ってきた。

 

装填済戦術(コールド・ブラッド)起動(アウェイクン)

「何……?」

 

 そこで気づく。『アラクネⅡ』の動きが急速に鈍る。緊急警告(レッドアラート)が眼前に展開された。

 各部装甲凍結──ハッと目を下げると、『雪片弐型』を起点に、廊下が凍り付いている。

 指向性を持った冷気がそのままオータムへと到達し、全身を凍結させていたのだ。

 

「な──馬鹿な! 何だこりゃあァッ!? あり得ねえだろお前、だってこれは──!」

装填済戦術(ヘル・ハウンド)起動(アウェイクン)

 

 直後。

 一夏は身動きの取れないオータムに対して、()()()()()()()()()()()()()()()()

 疾風鬼焔(バーストモード)の炎とは違う。衝撃吸収や加速装置としての役割を果たす特殊な炎ではなく、純粋な高温で相手を融解せしめる業火。

 真っ向唐竹割り──かろうじて動いた背部脚部に防御シールドを貼り付けかざす。

 拮抗は刹那。瞬時に脚ごと溶断され、オータムの肩に斬撃が打ち込まれる。インパクトに氷が砕け散り、高熱を受けて片っ端から蒸発した。

 

(こいつ……()()()()()()()()()……!?)

 

 甚大なダメージを負いながらも、凍結が解除されたことによりオータムは地面を滑るようにしてバックブースト、なんとか間合いを開かせる。鎖骨が砕け散った。痛みが脳を焼く中で、必死に思考を回す。

 冷気による強制凍結と、業火を収束した熱波攻撃。

 どちらも『雪片弐型』から放たれた特殊攻撃であり、オータムは2つが何なのかを知っていた。

 

 フォルテ・サファイアの専用機『コールド・ブラッド』。

 ダリル・ケイシーの専用機『ヘル・ハウンドver2.5』。

 二機は同時に能力を行使することで、絶対無敵の分子相転移結界──即ち『イージス』を構成する。

 彼は今、そこを組み合わせるのではなく繋ぎ合わせることで、ある種のコンボに発展させたのだ。

 動きを止めつつ極端に温度を下げた状態で、高温の斬撃を打ち込む。展開装甲による防御もむなしく、温度差により上乗せされた破壊力が『アラクネⅡ』の肩部装甲を粉砕していた。

 

(問題は! なんで『白式』がその力を使ってやがる……!?)

 

 上述した二機は、第三世代型ISに該当する。第三世代型の特徴であるイメージ・インターフェース兵装こそが、先ほど一夏が行使した冷気と炎熱の操作に他ならない。

 あり得ない。あり得ないはずだ。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)と異なり、それらはれっきとした特殊兵装だ。つまりその装置を内蔵していない『白式』が再現することなど、いくら考えたところで物理的に不可能のはず。

 

(これも博士が想定した、決戦戦術だって……そういうことなのかよ──!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らん……何それ……怖……」

 

 

 衛星軌道上のラボ。

 篠ノ之束は、亡国機業海上基地にて行われている戦闘をつぶさに観察しながら、ドン引きしていた。

 

「『焔冠熾王(セラフィム)』は本来、来たる日の決戦で発現するはずだった、『白式』の()()()()()()()──まさかここで覚醒するなんて」

 

 ウィンドウを立ち上げては消し、束はめまぐるしく観察し考察し結果をたぐり寄せていく。

 

「肝心要の『零落白夜』は厳重にロックされてる……()()()()()()()? 補填形式で全ISコアからデータを装填(インストール)したんだとしたら……」

 

 コアネットワークのログを開き、ビンゴと声を上げた。

 まさに今猛威を振るっている『白式』が、今まで遮断していたコアネットワークを無理矢理に掌握し、あらゆるコアからデータを吸い上げているのだ。

 

「それを再現……どうやって再現したのか……『零落白夜』の応用? エネルギー消滅現象の副産物、あらゆるエネルギーの転用だとしたら──」

 

 モニターの中で、深紅眼を静かに光らせ、織斑一夏が純白の刀身を振りかざした。

 

装填済戦術(シュヴァルツェア・レーゲン)起動(アウェイクン)

 

 放たれるはAICを再現した重力力場。対象を停止させるのではなく吹き飛ばすために出力を増した、本来の用途をより攻撃的に変容させた不可視の斬撃。

 オータムはくぐり抜けるように回避しようとし、だが直前で姿を変えたAICに巻き込まれ、また装甲を砕かれた。

 

「違う……違う、違う、違う違う違う……! 『焔冠熾王(セラフィム)』すら変質してるッ!? この機能を発現させたのだとしたら、それは──『白式』だけじゃない、『雪片弐型』もいっくんに引っ張られてるってこと──!?」

 

 束が導き出した結論は。

 未知の希望が新生したと同時に、既知の希望が潰えたことも示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段はひどく長いように見えた、だが登ってみれば呆気ないほどあっという間に、登り終えた。

 鳥居を見下ろしながら、二人の織斑一夏が相対する。

 

「お前は……何者だ」

【回答可能な質問だ。識別名称を名乗るなら、『雪片弐型』が正しい。ただし仮想人格としての機能はない、単なるプログラムだ】

 

 織斑一夏の姿をしたそれは、無感動なトーンで告げた。

 

「『雪片弐型』? 『白式』じゃなくて……か?」

【回答可能な質問だ。現状『零落白夜』は『白式』の手により厳重に封印されている。外部からの干渉さえあれば封印を破ることも可能だが、期待できそうにない。よって織斑一夏の生存を最優先とするため、『雪片弐型』は戦闘行動を開始した】

 

 回答、のように見せかけてまるで回答にはなっていない。

 目が回りそうな混乱に陥っている一夏を、対面の同じ顔がじっと見つめた。

 

【今は休め。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。元より『白式』と『雪片弐型』と『織斑一夏』は、組み合わされ目的を達成するための存在だ】

「ちょ、ちょっと待て。意味わかんねえよ。大体、組み合わされてって……待て。お前は『零落白夜』が封印されてるって言ったよな。やっぱり、あるのか?」

【回答可能な質問だ。元より『零落白夜』の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「どうしてなんだ? どうして封印されている? 絶対防御を発動させる攻撃の何がまずい?」

 

 一夏の問い──それは、『雪片弐型』の眉をぴくりと跳ね上げさせるには十分なほどに、無知で、愚かな問いだった。

 

【回答不可能な質問だ。だが織斑一夏が……決定的な場面を自分の意志で選択するのなら、知らねばならない。それは『雪片弐型』が説明するべき事項ではない】

「……え?」

【──『雪片弐型』に可能なのは、問うことだけだ】

 

 深紅眼が発光する。それは砲口のように、一夏を捉えて放さなかった。

 

 

 

【絶対防御を発動させてエネルギーを大幅に減損させる。競技バトルにおける決定打──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 問いの意味が分からず、数秒、一夏は馬鹿みたいに呆けることしかできなかった。

 

「何を……だって、オンリーワン、だろ?」

【回答可能な質問だ。考えてもみろ。エネルギーバリヤーと絶対防御の二重防護がある。『零落白夜』はエネルギーバリヤーを貫通し、出力によっては絶対防御も貫通できる】

「あ、ああ。教科書にはそう載ってたな」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な──!?」

 

 一夏は口をしばらくパクパクと開閉させた。

 だが考えてみれば、それは自然の摂理だった。『零落白夜』によるエネルギー無効化攻撃。再現できるなら、どんな人間でも、どんな国家でも、欲しいはずだ。ならば類似した兵器が開発されていてもおかしくない。

 ならば、と次なる問いが発生する。

 回答可能な質問と回答不可能な質問の境目は分からない。

 だが一夏は慎重に言葉を吟味し、それから息を吸った。

 

「だった、ら。『零落白夜』の本質──は何か、っていうのは回答可能か?」

【回答不可能な質問だ】

「分かった。なら、俺たちが役割を果たすことで何が起きる?」

【……回答可能な質問だ】

 

 そう告げて、もう一人の織斑一夏は、視線を横に向けた。

 釣られて顔を向けると、霧に包まれた篠ノ之神社が、いつの間にかぐにゃりと解像度を落している。光が点に分解されていき、色を変え、映し出す光景を変貌させていく。

 

「……これ、は……!」

 

 スクリーンに映し出されるように、光景が浮かんでいる。

 目に見えたのは──単色の、荒廃した大地だった。

 

 

 誰も居ない。

 

 何も居ない。

 

 一切の生命が根絶されている。

 

 乾いた風の音しか聞こえない。

 

 

【我々の存在意義はこれを回避することにある】

「………………どういう、ことだよ。俺たちが何をどうしたら……いいや。俺たちが何もしなかったら、こうなるっていうのかよ……!」

【回答可能な質問だ──イエス。世界の滅びを回避するために、我々は戦う。そのために生み出され、生かされてきた】

 

 想像を絶するようなスケール。

 突然そんな話をぽんと出されても、うまく受け答えが出来るはずもない。

 

「……なんで、俺たちなんだ。千冬姉とか、東雲さんとか」

【回答可能な質問だ。オリジナル(おりむらちふゆ)では不可能だ。プロトタイプ(しののめれい)にも不可能だ。力量の差が問題なのではない。ただ、出来るか出来ないかの違いだ】

 

 要領を得ない回答に、一夏は眉根を寄せる。

 だが次の質問を待つことなく、『雪片弐型』は言葉を続けた。

 

【よって『雪片弐型』は迅速に戦闘を終了させ、生存のため脱出を図る】

「は? ……いや、待て。待てよ」

【発言を受けたログがある。今回の戦闘行為は、織斑一夏にとっては不要な代物だ──その通りだ。『雪片弐型』もそれに同意する……ここで目的達成に重大な影響が発生する可能性を考慮し、最善手を選択する。それが『雪片弐型』の結論である】

「待てって言ってるだろうがッ!」

 

 一夏は詰め寄って、自分と同じ顔をした男を至近距離でにらみ付けた。

 

「なんでそれをお前が勝手に決めてやがる! それを決めるのは──」

【織斑一夏ではない】

 

 それは世界の真理であるかのように、厳然とした声色で語られた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。『白式』も、『雪片弐型』も同様だ。我々は適切な場面で有効な運用を成すための部品である】

「……ッ!」

 

 ことの大きさを説明された。

 自分の存在価値を画定させられた。

 何も知らない一夏は、これ以上無く、知らないということはそれだけで罪であると思い知らされていた。単純に反論の余地がないのだ。何も知らないから、何も分からず、的を射て発言することが出来ない。

 

【……これは決して、『雪片弐型』から織斑一夏への強制ではない】

「……?」

 

 不意に、紅い瞳を逸らして。

 織斑一夏の姿をした『雪片弐型』は、そう囁いた。

 

【ずっと観ていた。ずっと織斑一夏を観ていた】

「……だから、何だよ」

【『雪片弐型』の存在意義は、織斑一夏と共に世界を救うことである。だが──もしも、もしも。織斑一夏が……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言葉を区切り、これ以上ない逡巡を見せながらも。

 自らの存在理由を知るプログラムは──今の主を、共に果てる定めにある少年を、決然として見た。

 

「何が、言いたいんだ」

創造され(うまれ)た時から、そうだった。破却に対するカウンターとして、我々は破却する。一切を破却する。破壊に破壊をぶつけて最小限に食い止める──それをしなくていいのなら。お前と共に居る少女たちの笑顔を、そのままに守り抜けるというのなら】

 

 同時。

 世界が軋みを上げた。

 顕現する純白の刃──『雪片弐型』。

 世界にただ一つだけ存在するはずの其れを、二人の織斑一夏それぞれが握っていた。

 

「……ッ!? お前、これは──」

【証明して見せろ。既製品のくだらない希望ではなく、『焔冠熾王(セラフィム)』を凌駕する新たなる神話を打ち立てろ。でなければ、どこまでいっても織斑一夏は単なる部品だ】

 

 一夏は手の中に現れた『雪片弐型』の刀身を見た。そこに映し出される己の貌を見た。

 想起されるは、敬愛する師匠から何度も、何度も繰り返し言われてきた言葉。

 

『──諦めるな。可能性を踏み越えてみせろ』

 

 数秒黙り込み、それから一夏は静かに息を吐いた。

 

「……『雪片弐型』」

【なんだ】

「悪いけど俺、相当に諦めが悪いぞ」

【嗚呼──よく、よく知っているとも】

 

 鏡写しのように、同じ姿で、同じ刀を、同じように構えた。

 両者の間で空気が激変する。仮想空間の無機質な風が、爆発的に荒れ狂う。

 

「定め、存在理由、何のために生きているのか──それを見つけるのは俺だ。誰かに与えられるものじゃない。俺が積み上げてきたもの! 俺が築き上げてきたもの! 今ここにいる俺を構成する全てがそれを決めるッ!!」

【せいぜい吠えていろ。今に分かる。だが──知っても尚退かないのなら。世界を滅ぼす極光に、その身一つで立ち向かえるというのなら! 今ここで力を示せ!】

 

 境内の中心で、二人の男があらん限りの声で叫んだ。

 

 

『さあ──勝負だッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチリ、と。

 自らのコアに侵入した存在を相手に、それは警戒度を上げた。

 コアネットワークを介して観察し、評価し、また警戒度を引き上げる。

 

「……ッ、どうしたの?」

 

 無人機相手に防戦を繰り広げながら。

 米軍所属テストパイロット、実戦での試験投入を任じられた女性──ナターシャ・ファイルスは訝しげな声を上げた。

 ジャミング攻撃と思われる性能低下により、多国籍軍は少なからぬ打撃を受けている。

 

 その中で。

 

 カチリ、と。

 

 

 銀翼が、遠い遠いシロを、見つめていた。

 

 

 

 








本当は「童貞のまま死にたくない織斑一夏」とか「ぶっちゃけ彼女が欲しい織斑一夏」とか「東雲令のISスーツ姿にシコリティを見いだす織斑一夏」とか出してスーパー織斑大戦やりたかったんですけど
シリアスやる気ねえのかよ馬鹿って感じでボツにしました


次回
64.唯一の男性操縦者VS毒蜘蛛(後編)


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