【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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いよいよ終盤ですが更新頻度は今までみたいな連続って感じにはならなさそうです
何故なら、カジノの正装はバニーなので……


Invictus Soldier
67.織斑一夏のパーフェクトぷれぜん教室


 遠く、遠く。

 大分離れたところまで来た。

 見たことのない土地。息を吸うだけで、空気の違いに顔をしかめそうになる。

 だが──世界中から追われる罪人にとって、未だ戦火に包まれている紛争地帯は、身を隠すにはもってこいの場所だった。

 

「フン。どこまで行っても、戦争屋は所詮戦争屋か」

 

 オータムは自嘲するようにぼやいた。

 右手に持つアサルトライフルの銃口はまだ熱を持っていた。

 

「おかげで食い扶持を稼げている。愚か者共にも感謝しなければな」

「愚か者ねえ……」

「──そうだな。最も愚かなのは、私たちだったか」

 

 足下の小石を蹴りながら、マドカは無感情に言い放った。

 転がった小石は盛り上がった地面にぶつかり、力なく止まる。地面──倒れ伏し、息絶えた人間だった。

 

 オータムとマドカは今、紛争地帯で傭兵まがいの仕事をしている。

 ISの起動こそしないが、それでも二人は戦士として無敵だった。苦戦することもなしに、二人だけで敵勢力を壊滅へ追い込んだ。

 敵のキャンプ地だった焼け野原──今はもう廃墟と死骸しかない──でオータムは悠々と煙草に火を付ける。

 

「ちょっとした講義の時間だ」

「?」

 

 オータムは砂まみれの木材に腰を下ろすと、木の棒で地面をひっかいた。

 

「マドカ、お前、時間の流れを図解しろって言ったらどう書く?」

「時間の流れ、か」

 

 考え込みながら木の枝を拾い上げると、マドカは砂漠に一本の直線を引いた。

 それを見てオータムは薄く笑う。

 

「如何にもって回答だな」

「間違っているのか? 時は巻き戻せない……直進する、一本の線だろう」

「大昔は円環だったのさ」

 

 何? と眉根を寄せるマドカの前で、オータムは地面に綺麗な円を描いた。

 

「暦もなかった時代──日は昇り、落ちて、また昇った。花は咲き、散って、また咲いた。時間の流れは繰り返しだった」

「…………」

「よくあるだろ、大昔の遺跡。円柱を円上に並べる儀式場。周期的に移ろう季節、生命の循環……どれもこれも、図解するなら円環だ」

 

 ざっくりとした解説ではあったが、マドカにも内容は理解できた。

 

「なるほどな。それがどうした?」

「今も、円環としての本質は失われちゃいない。むしろ直線っつー認識は人間が勝手に付け加えたものだ」

 

 オータムは鼻を鳴らして、円環を靴の底でもみ消す。

 動作には何の感情もこもっていなかった。

 

「過去を美しいものと讃え、未来は更に輝かしいと扇動し、だが同じことを繰り返し続ける。特に近代以降は最悪だ。人類の歴史は余りにも醜いと子供だって分かる」

「…………」

「亡国機業はその円環が気にくわなくてぶっ壊そうとした。そして私ら以外にも、これをぶっ壊す──つーか、まるごと消し飛ばそうとしてるやつはいる」

「ほう?」

 

 マドカの脳裏にいくつかの選択肢が現れた。

 亡国機業と源流を同じくする暗部の面々か。しかし武力という点において、かつての亡国機業を上回る存在はない。ならば──

 

「篠ノ之束、か?」

「馬鹿。真逆だ」

 

 即答だった。思考してというよりも、完全に条件反射で答えていた。

 面白くなさそうにマドカは顔を背けるが、オータムはそれに気づかないまま、自分が踏みにじった円環を見つめる。

 

「すぐに動くわけじゃねえとは思う。だが水面下ではもう何度もアクションを起こしている。となれば必然、そ(・)れ(・)に(・)対(・)す(・)る(・)カ(・)ウ(・)ン(・)タ(・)ー(・)が(・)発(・)生(・)す(・)る(・)。読み通りなら……そろそろ来るぜ」

「来る? 何がだ」

「織斑一夏のように大切な仲間たちを守るためでもなく。篠ノ之束のように輝く未来を守るためでもなく──」

 

 オータムは乾いた空を見上げた。

 鳥の一匹すら見当たらない絶無の空。しかし彼女の視線は鷹のように鋭かった。

 

「──世界そのものの防衛本能が実体化したみてーな……自(・)然(・)発(・)生(・)の(・)守(・)護(・)者(・)が(・)な(・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎が猛り狂い、夜空を紅く染め上げていた。

 

『ダメだ! チャーリー中隊沈黙! 止められない……ッ!』

『ブラボー3が全火器喪失! アルファ2は補佐に──うわぁっ!?』

 

 通信を怒号と悲鳴が飛び交い、阿鼻叫喚の地獄絵図を現実に再現する。

 米軍機密施設──『地図にない基地(イレイズド)』。

 屈強な軍人が片っ端からなぎ倒され。

 鋼鉄の戦鎧が容赦なしに砕かれていく。

 

「クソが……ッ!」

 

 数秒、意識が遠のいていた。

 愛機にメディチェックを走らせる──絶対防御の過重発動により『ファング・クエイク』は稼働停止。搭乗者『イーリス・コーリング』は身体に深刻なダメージ。

 イーリスは軋む身体を確認して歯噛みした。

 

 ──紛れもない敗北。それも、屈辱的な瞬殺だった。

 

 理由は明白である。今まさにイーリスの眼前で、機密部隊のISが吹き飛ばされた。銀色が視界を横切ったのは刹那。軍用ISのセンサーですら対応が難しい。

 音すら置き去りにしているのではと疑いたくなる超高速機動。

 

 それを為し得るのは、リ(・)ミ(・)ッ(・)タ(・)ー(・)の(・)自(・)主(・)的(・)な(・)解(・)除(・)。

 

 軍用IS故に元々競技用リミッターはかけられていなかったが──もっと本質的な、ISコアそのものに篠ノ之博士が施した機能制限の撤去。

 

『コーリング大尉! 状況は──暴走した『福音』の現状はッ!』

「全然、止められねえ……ッ」

 

 眼前の光景が全てだった。

 精鋭を、米軍屈指の腕っこきを集めたはずだった。合衆国に敵する相手を隠密に排除するエースたち。部隊単位ならば紛うことなく世界最強クラス。

 なのに、子供をあしらうかのように、総掛かりで一蹴されている。

 視界一面を火の海に変えた銀色は、未だ無傷。

 

 ──『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。

 

 イスラエルとの合同開発試作機であり、『イレイズド』所属扱いで極秘に実戦投入も終え、いよいよ公開試験が迫っていた。

 それに向けた、定期的に行われる試験起動──最新鋭の第三世代機の、単なる調整に過ぎないはずだった。

 だが突如として機体が暴走を始めた。

 乗り手であるナターシャ・ファイルスは意識喪失状態。ISコアが管制システムを掌握し、一切の強制終了コマンドを弾いている。

 

(コアネットワークからすら自分を切り離してやがる……ッ! 何が、どうなって……!?)

 

 その時だった。

 加速を止め、目立った抵抗の消えた基地中央で福音が静止して。

 バゴン、と重々しい音が響き、背部ユニットを切り離す(パージ)。

 多方向推進装置(マルチスラスター)と広範囲射撃兵装を兼ねた、背部連結複合型のイメージ・インターフェース兵装──切り札であり代名詞でもあった『銀の鐘(シルバー・ベル)』を自ら捨てた。

 

「……んだ、そりゃ」

 

 頭から血を流しながら、イーリスは呻いた。

 彼女の驚きは、最大の武装を自ら排除したこと──では、ない。

 

「なんなんだよ、それはァッ……!?」

 

 背部の『銀の鐘』を押しのけるようにして、極(・)光(・)が(・)放(・)出(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 無秩序な本流──瞳を灼くような白銀の輝き。

 それは徐々に形を取り、剣のように鋭くなっていく。

 イーリスの『ファング・クエイク』が直接視認により識別名称の変化を感知した。

 

 

 擬似第二形態──『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)・患難仕様(トリビュレーション)』。

 

 

「第二形態移行(セカンド・シフト)だと……ッ!?」

 

 

 声は震えていた。

 今までの戦いは、前座だったのか。片手間のように精鋭部隊を殲滅しておきながら、更に進化するというのか──

 

 

 

「────ま(・)だ(・)、足(・)り(・)な(・)い(・)」

 

 

 

 言葉の出所が眼前の銀色であると、イーリスはそう認識するのに数秒かかった。

 エネルギー体の輝きがさらに増す。単純な光力の上昇だけでなく、数そのものが増えていく。

 先割れし、剣よりも広く大きくなっていき、最後には光の翼を象った。

 

 

 擬似第三形態──『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)・救世仕様(サルヴァトーレ)』。

 

 

 左右六対。

 光の十二枚翼が羽撃(はばた)く。

 表示される武装名称──『銀の皇翼(シルバー・レイ)』。

 

(あの流動エネルギー構成体は──織斑一夏の『疾風鬼焔(バーストモード)』のアレと同性質か……!?)

 

 愛機『ファング・クエイク』が弾き出した観察結果に、イーリスは戦慄する。

 実際に相対したことなどないはずなのに、どこからコピーしたというのか。

 もはや福音は誰も知らない、誰もたどり着いたことのない領域へと踏み込んでいた。

 既知を振りほどき、既存を踏みにじり、眩き道を疾走する。

 

 

 

「『白夜を討つ者(ホワイト・キリング)』──起動(アウェイクン)」

 

 

 

 形態移行(フォームシフト)に非ず。

 稼働時間と戦闘経験の蓄積に連動する、ISコアと機体の同調率上昇、に非ず。

 今起きているのは、ISコア単体による過(・)剰(・)な(・)防(・)衛(・)本(・)能(・)の(・)行(・)使(・)。

 コアネットワークを己より切り離し、『白式・疾風鬼焔』と同じく束の想定から逸脱した、道を踏み外した進化の果て。

 

 

「──私は『零落白夜』を討ち滅ぼす」

 

 

 声はナターシャ・ファイルスのものだった。

 だが落ち着いた普段の声色ではなく、もっと冷たく、無機質で──機(・)械(・)的(・)な(・)発(・)声(・)だった。

 

「世界はまだ滅びには至らない。私(・)がそうさせない。私が世界を守る」

 

 イーリスにも、居合わせた誰にも、言葉の意味は分からなかった。

 ただシンプルに伝わるのは、絶対の意志。

 己の全てを投げ打ってでも成し遂げるという──機械が持つには余りに不釣り合いな、覚悟。

 

「世界を滅ぼす因子は私が滅ぼす。彼(・)女(・)が存命するこの世界を私は守り抜く」

 

 光の翼がはためく。加速の前兆。

 誰も止められないということは、子供でも分かった。

 飛び立つ寸前、イーリスは手を伸ばした。福音は一顧だにしないまま、ただそれを告げた。

 

 

「故に──滅びろ、『零落白夜(おりむらいちか)』」

 

 

 突風が吹いた。ISによる防護も忘れて、イーリスは咄嗟に自分の目を庇った。

 そして恐る恐る手を下げたとき、半壊した基地と、打ちのめされた隊員ら以外には、何も残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園──早朝。

 普段なら個別の自主トレーニングを行っている、よりもずっと早い時間。

 

「一体何の用事なんだろう」

「さーね……ふあ。てか、超眠いんだけど」

 

 欠伸をかみ殺しもしない鈴の様子に、シャルロットは苦笑した。

 学生寮の一階に設置された、勉強会等を目的とする会議室。

 そこに学園一年生の専用機持ち全員が集まっていた。

 

「火急の案件でなければ殺しますわ」

「お前……」

 

 物騒なことを言うセシリアだが、箒はその理由にも頷けるのであまり強く出られない。

 何せ特徴的な縦ロールではなく、今のセシリアは──東雲のようなストレートヘアだったからだ。

 日頃巻いている分、前に下ろした二筋の髪こそ微かにうねりを見せているものの、後ろ髪は重力に引かれるがまま真っ直ぐ地面へと落ちている。

 

「なるほど。朝の支度がなければそのような髪型になるのだな」

「……季節限定SSRっぽいね?」

 

 興味深そうにラウラと簪がしげしげと金髪を観察した。

 不機嫌さを隠そうともせず、セシリアは鼻を鳴らす。

 

「激レアでしてよ。不本意ながら、ですが。まったくこのような髪型など……」

「よく似合っている、と当方は認識する。普段のロールも其方に似合っているが、この髪型も良いのでは?」

 

 ナチュラルに口説き文句を言い放つ東雲に、ンンンンンとうなり、セシリアは顔を背ける。

 こいつ本当に褒め言葉に弱いなと箒は呆れた。

 

「失礼する」

 

 ──その時だった。

 バシュッと軽快な空気音が鳴り、入り口のドアが横にスライドする。

 まず千冬が入ってきたのを見て全員席から立ち上がった。しかし直後に入室した人間を見て、挨拶のために開いた口から、無様に酸素を取りこぼした。

 一分の隙もないダークスーツを身に纏い、眼鏡をかけて。

 完全完璧完膚なきまでに正装姿で、織斑一夏が入室した。

 

『…………ッ!?』

 

 まさかのスーツ姿に、一同思わずたじろぐ。

 東雲は(スーツおりむー……!? 当方の知らないシークレットレア……だと……!?)とまあまあ頭の湧いた感想を抱いていたが、他の面々もどっこいどっこいだ。

 

「お集まりいただきありがとうございます」

 

 同級生相手に何故か敬語で、一夏はキビキビと挨拶した。

 呆気にとられる面々を置き去りにしたまま、彼はコンソールを操作して会議室前方にモニターを投影。恐らく彼が組んだのであろうパワーポイントが表示されていた。

 右半分には一夏の顔が映され、左側には黒の背景と大きな白文字が描かれている。

 

 

 

 

  潰 舐 旧  

  す め 人  

  ぞ て 類  

    る が  

    と ・  

      ・  

      ・  

(このへんに一夏の顔)

 

 

 

 

「待て待て待て待て」

 

 流石に箒が声を上げるも、発表者である唯一の男性操縦者は取り合うことなく口を開く。

 

「えー今回は『織斑一夏の出生の秘密に一同驚愕。その衝撃の内容に涙が止まらない……』というタイトルで発表させてもらうんですけれども」

「馬鹿の作ったパワーポイントか?」

 

 眉間を揉みながら、千冬は愚弟渾身のボケに苦言を呈した。

 知性のかけらも感じられないサムネイルを披露しつつも、一夏の口調に淀みはない。

 そこで箒は気づいた──幼馴染で、彼の気性をよく理解しているからこそ気(・)づ(・)け(・)た(・)──確かに冗談や洒落の類ではある。

 しかし、これは。

 

(わざと、か。本題が深刻、あるいは気後れしているからこそ……自分を律するためにふざけ倒しているのか)

 

 言うなれば一種の開き直りだ。

 痛みや恐れから顔を背けるのではなく、真正面から向き合ったが故の反応。

 極度の緊張がかえって弛緩につながる現象に近いだろう。

 

「……ッ」

 

 箒が居住まいを正したのを見て、他の面々も遅れて椅子に座り直した。

 そもそも画像のインパクトに流されそうになったが──旧人類、織斑一夏の出生の秘密、と決して聞き逃してはならないワードも登場している。

 場の空気が変貌したのを感じ取り、数秒呼吸を止めて。

 それから一夏は、静かに語り始めた。

 

 

 

 この世界の裏側で紡がれてきた、忌むべき歴史。

 人類そのものをアップデートするという神への挑戦。

 いくつもの分流に分かれつつ、現代に連綿と続いたその暗がり。

 

 亡国機業もそのうちの一つだった。

 そして世界の破滅を望む極点であった彼女らとは、対照。

 究極の人類による新世界を夢想した狂人たち。

 

 

 

 ──『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』。

 

 

 

 話を終えて、会議室は沈黙に包まれた。

 一夏の手は震えていた。そして席に座り発表を聞き届けた千冬もまた、生徒らの顔を見渡すのが恐ろしかった。

 人の形をした、限りなく人に近い──ただそれだけの何か。

 皮一枚を剥げばすぐに分かる。全身を構成するナノマシンや強化改造された神経群。最高品質と呼んでもまだ足りない理論値を叩き出す筋繊維。

 

 その梗概を聴いて、少女たちは。

 

 

「だ(・)か(・)ら(・)ど(・)う(・)し(・)た(・)と(・)い(・)う(・)の(・)で(・)す(・)?」

 

 

 最初に声を上げたのはイギリス代表候補生セシリア・オルコットだった。

 彼女はパワーポイントの最中も憮然とした表情で、退屈極まりないことを無言でアピールしていた。

 

「わたくしにとって貴方は倒すべき宿命の相手。それ以上でも以下でもありませんわ」

「……セシリア、お前は……」

「そもそも、それを聞かされて、わたくしと貴方の関係に何の変化があると? まさかとは思いますが貴方を見損なうとでも? そのような疑念そのものが、わたくしへの侮辱と知りなさい!」

 

 一喝だった。

 これ以上なく、一夏にとってはクリティカルな言葉だった。

 彼は感極まったように目尻に涙を浮かべ、だが眼鏡を外してスーツの袖で乱暴に拭い去る。

 

「ああ、ああ……!」

「わたくしだけではありませんわ。他の皆さんも、そうでしてよ」

 

 セシリアはふっと表情を崩し、横の席に座る学友らに視線を向けた。

 つられて一夏もまた、彼女たちを見渡す。

 

「あったりまえじゃない! そんなのどーでもいいわよ。織斑計画出身だから、あたしを助けてくれたわけじゃないでしょ?」

「そうだね。僕も正直、今まで君と一緒にいたことには、何の嘘もないって思うから……それはそれと社会に出てから色々身分が大変そうだし大企業の庇護を受けておくとか真面目に考えておいた方がいいかもね」

「つまり一夏と教官と私は遠い親戚関係……一軒家に三人で住んでも何も間違いではない……?」

「つまり一夏は実質准将だった……?」

 

 後半になるにつれ──というか鈴以外、ロクなリアクションではなかった。

 想定よりカラー強めの反応に頬を引きつらせつつも、セシリアは気を取り直すように咳払いを挟む。

 

「そして箒さんも──箒さん?」

「……あ、ああ……」

 

 最後に隣の箒を見やり、セシリアは眉根を寄せた。

 画面を見つめたまま、篠ノ之箒はほとんど上の空だったのだ。

 

「……箒。何か言いたいことがあれば」

「いや。お前に対してでは、ないんだ──だが。私とお前が、出会ったのは。もしかして……」

 

 セシリアはハッとした──小学校を共にした幼馴染。それは即ち、『織斑計画』が凍結された直後からの付き合い、ということになる。

 そしてこの計画が凍結された理由は。

 

「……そうだ。束が、私たちとお前を、引き合わせた」

 

 今の今まで沈黙していた千冬の言葉。

 箒は押し黙った。

 

「やつを、自然発生の究極の人類を……織斑計画は超えられなかった。束を遺伝子学的アプローチで再現するプランも立ち上げられたが、現代科学では解析することも不可能だった」

「……それはそうでしょうね。姉の強さは、本質的に姉にしか理解できないものなのだと感じます」

 

 うつろな声色。

 箒が何を言いたいのか、もう全員察しがついていた。

 

「言い方を変えます。私が言いたいのは……一夏と千冬さんが、二人きりで生きていくことになったのは、それは姉さんの──」

「──束さんのお(・)か(・)げ(・)だよ」

 

 教壇から降りて。

 眼鏡を胸ポケットに差し込み。

 一夏は箒の両肩に手を置いて、優しく、そう告げた。

 

「……え?」

「束さんが俺とお前を引き合わせてくれた。そうして、今こうしてみんなと出会えるようにしてくれた。俺はそこは、束さんに感謝してるんだ」

 

 顔を上げて呆ける箒に対して、一夏は微笑みを浮かべる。

 

「だから俺は──言い出すのは怖かったけど、本当は自分の中でもう、踏ん切りがついてるんだ」

 

 チラリと視線を逸らす。

 未だ一言も発さない、いいやあえて何も語っていない、尊敬する少女の紅目を見た。

 

「俺は生きていてもいい。俺も千冬姉も生きていていい。生きていたい。おぞましい瀆神の果てに生まれたとしても、千年の呪いが根源だったとしても。それでも──みんなと一緒に生きたい。だってこうして、出会えて、一緒にいるんだから」

 

 部屋に集っている面々を見た。

 好敵手として不敵な笑みを浮かべるセシリア。

 当然でしょと八重歯を見せる鈴。

 一夏を実家に引き込む算段を立てているシャルロット。

 白いマイホームで織斑姉弟との生活にトリップしているラウラ。

 織斑一夏スーパーコーディネーター説のスレを立てている簪。

 無言を貫くのではなく、実は空席に置いた寿司桶から永遠に寿司を食べていた東雲。

 

「……………………」

 

 一緒に生きたいという発言を取り消したくなった。

 だが──そうした反応こそが、ら(・)し(・)い(・)なとも感じた。

 共に過ごした時間は嘘ではない。

 紡いできた絆は決して失われない。

 

 もう自分は空っぽではないと思えるのは、紛れもなく、彼女たちのおかげだ。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 寿司桶を空にして、東雲は手を合わせた。

 マイペースの擬人化みたいな行動に嘆息しながらも、一夏は近寄って頬についたままのご飯粒を取っていく。

 その光景を見て、鈴がゲッと声を上げた。

 

「これ朝ご飯最速で食べて間に合うかどうかってとこじゃない?」

「あー……確かにそうかも」

 

 シャルロットも時刻を確認して顔を青ざめさせる。

 なんだかんだで長話になってしまった。

 千冬に視線を向けるも、遅刻は許さんぞ、と薄く笑いながら言い放たれる。

 

「なら急ぐぞ。食堂の注文にはギリギリ間に合う……簪、聞いているか」

「ラウラちょっと待って。荒らしが来たから手が離せない……日本代表候補生は荒らしなんかには負けない……!」

 

 自分のカミングアウトなど数秒で流れ去り。

 ただいつも通りの光景が底にあって。

 

(……本当に、俺は……みんなに、救われてるんだな)

 

 一夏はそれが無性に嬉しかった。

 感慨深げに相好を崩す彼に対して、箒は控えめに肩を叩いた。

 

「なあ、一夏」

「ん? どうした?」

「お前、着替える時間ないんじゃないか?」

 

 あ、と。

 他ならぬ一夏が声を上げて、全員数秒黙り込んだ。それから半眼になって、もう知らんと歩き始めた。

 

 

 

 その日──織斑一夏は半泣きでスーツのまま授業を受ける羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(スーツ姿ってことはこれ父兄参観の予行練習か!? 夜泣きに続いて将来設計を固めに来るとは、流石鬼剣使い……!)

 

 授業中一秒に五回ぐらい隣を見ながら、東雲は無様な認識能力を晒していた。

 

(確かに当方は日本代表として世界中を飛び回ったり後輩の育成に邁進したりしているだろうからな……ぐへ、ぐへへへへへ……! 支え合い、離れていても常に互いを想い合う間柄……おりむー、それは当方のストライクゾーンに入ってくるよ!)

 

 彼女のキャリアとして決してなくはない未来なのだが、その場合育成される後輩もやはり日に五十回ぐらい撃ち落とされるのであろう。労災認定が下りそうだ。

 

 

(そしてそして! まもなくやってくる臨海学校! この本(インフィニット・ストライプス)によれば、2022年7月。普通の高校生・東雲令、彼女には唯一の男性操縦者・織斑一夏の伴侶となる未来が待っていた。その未来を阻止しに来る変な女の声のアレ。しかし、東雲令は『世界最強の再来』の力を振るい、世界の滅び的な何かを防ぐ。そして、東雲は織斑一夏の唇を奪い、ヴァージンロードへの第一歩を踏み出すわ……おっと先まで読みすぎました)

 

 

 お前の将来設計って、醜くないか?

 

 

 

 

 

 






火孚様より支援絵をいただきましたのであらすじに掲載しております。
イエエエエエエエエイ!
今度はちょっとキュートな感じの東雲さんです!これはメインヒロインの風格が見える見える……
この場を借りて再度お礼を申し上げます。
本当にありがとうございました!




次回
68.最強の水着決戦!(全ギレ)


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