【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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70.巨乳VS貧乳(後編)

「へえ。多少は策を講じるかと思ったけど……東雲ちゃんらしいわね。真っ向から行ったわ」

「………………」

「戦略的な工夫は皆無。となると恐らく──()()()()()()()()()()()つもりなんでしょう。それがどこまで通用するか。私たちで見定めさせてもらおうじゃない」

「…………ない……」

「……一夏君? どうしたの? いーちーかーくーん?」

「……さしたる興味は……ない……」

「あっこれ結構ショック受けてる感じ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 戦場特有の、嫌に粘っこい空気が肌に絡みつく。

 にもかかわらず口の中はカラカラになっていて、鈴は身体が極度の緊張状態に在ることを自覚していた。

 

「セシリア」

「分かっていますわ」

 

 健在である残り二基のビットを切り離しつつ、セシリアが呼びかけに応じる。

 当然の帰結。

 一時的に両者は手を結んだ。

 狙いはただ一つ、東雲令の撃破。

 

「かかってこい、代表候補生」

 

 両手に握る深紅の太刀の切っ先を下げたまま、自然体で東雲が告げる。

 

「吠え面かかせてやるわよ!」

「わたくしの前に跪きなさいッ!」

 

 叫びを上げると同時、鈴が突貫し、それを援護するようにBT兵器がレーザーを放つ。

 東雲は左右へのサイドブーストで射撃を潜り抜け、迫り来る鈴に太刀を突きつける。

 

(力勝負に持ち込めば、勝機はある!)

 

 鈴の類い希な直感は告げていた。読み合いや駆け引きが絡み、戦術の妙を問われるような状況になれば、勝ち目はない。だがそうでない状態ならば、可能性はゼロじゃない。

 問題はその土俵にどうやって東雲を引きずり出すか──

 

()()()

「──ッ!?」

 

 いなされるか、すかされるかと予想していた斬撃。

 だが東雲は真っ向から青竜刀を見据え、真正面から刃を振るった。

 鋼鉄と鋼鉄が激突し、火花を散らす。馬力がモノをいう鍔迫り合いの格好。

 

「どうした? 其方の力が最大限に発揮される場面だろう?」

「あんた、一体何を考えて……ッ」

「何を驚いている。出し尽くせ。絞り出せ。当方は其の全てを乗り越え、ねじ伏せる。でなければ意味がない……!」

 

 刃が噛み合い、悲鳴を上げていた。

 スペックの上では『甲龍』が圧倒的だ。負ける理由はない。

 ──だというのに。

 

()()()()()()ッ!? どうして──いいえ、これは!?)

 

 見れば東雲の太刀は、上から打ち下ろすような角度で『双天牙月』に噛んでいた。

 これではいくら加速しても、上から押さえ込まれるだけだ。

 

「鈴さん離脱を!」

 

 セシリアがビットの銃口で東雲を狙い澄ましながら叫ぶ。

 一も二もなく、鈴は即座に後ろへ飛び退いた。

 だが距離を取ったはずなのに──眼前に、東雲の深紅眼が迫っていた。

 

「ッ!?」

 

 後ろへの加速を読み、まったく同じ速度、まったく同じタイミングで東雲が追走する。彼我の距離は一ミリたりとも変わっていない。

 左右へ揺さぶりをかけてもフェイントを看破され振り払えない。セシリアの援護を封じるための超密着状態。

 

(まずい、これじゃあセシリアが撃てない! 引き下がろうにも全部読まれてる──!)

 

 振るわれる深紅の太刀を青竜刀で防ぎながら、鈴は歯噛みした。

 たった数十秒の駆け引き。それだけなのに、隔絶した差が立ちはだかっている。

 鈴は腹を決めた。

 

「もういいッ! セシリア──()()()()()()()()ッ!!」

「……ッ!」

 

 臨時のパートナーの叫びに、淑女が一瞬呼吸を詰まらせる。

 だが直後には、その碧眼に焔が宿った。

 

「期待に応えないわけには、いきませんね!」

 

 保持するスナイパーライフルとビットに信号を伝達。

 起き上がった銃口が東雲に照準(レティクル)を定め──発砲(トリガー)

 鈴の剣戟を掻い潜り、狙い過たず、太刀を振り上げた東雲の手首にレーザーが直撃。太刀を一本吹き飛ばした。

 

大当たり(Jackpot)!」

 

 ぐらりと、東雲の身体が傾いだ。

 

「そこォッ!」

 

 絶好のチャンス。手首のしなりだけで青竜刀を反転させ、鈴が一気呵成に攻め込む。

 次の太刀を抜刀させる暇など与えない──破壊の嵐そのものとなって、東雲の身体を押し込んでいく。

 

「なるほど。今の直撃は痛いな」

 

 残った太刀を両手で握り、東雲は『双天牙月』の連撃をいなし、すかし、躱す。反撃の糸口すら見つからない。

 ダメージこそ発生していないが、確かに鈴の猛攻は東雲を封じていた。

 その状況を『天眼』が見逃すはずもない。

 

「今です!」

「──()()()()ッ!」

 

 セシリアが指示を出すと同時。

 極光が、東雲に向けて伸びた。

 

(……ッ! 聖剣の解放モーションを攻撃に組み込んだ……!?)

 

 鈴の驚嘆は当然のものだった。

 まったく予期せぬ別方向。到着して機をうかがっていたフランス代表候補生、シャルロット・デュノア。

 近接戦闘用ブレードの刀身がレーザー発振器に転じ、空を両断するほどの大剣が顕現する。

 

 

「『再誕の疾き光よ、宇宙に永久に咲き誇れ(エクスカリバー・フロウレイゾン)』ッッ!!」

 

 

 無防備な東雲の背中めがけて、聖剣が殺到し。

 

「──いい剣に仕上げたな、シャルロットちゃん」

 

 攻め込んでいたはずの鈴が弾かれた。

 膝をバネにした至近距離でのパリイ。攻撃が瞬時に無力化され、身体ごと吹き飛ばされる。

 勢いのままに抜刀しつつ反転──東雲と聖剣が向かい合った。

 

「乱戦においても、一対一においても猛威を振るうだろう──だが見誤るな」

 

 突き出した深紅の太刀。

 全てを蒸発させ、粒子単位で操作可能な聖剣が、()()()()()()()()()()

 

「な──!?」

「障害物──当方の防御をすり抜けるよう設定していただろう? 防御を自動で判別するのではなく、其方の戦術予測によってだ──()()()()()()()()()()()()()()()()。身体を滑り込ませれば、聖剣の中を突っ切ることは容易い」

 

 冗談ではない──鋼鉄すら瞬時に融解せしめる超火力の光の剣。

 東雲は文字通りに、光の中を泳ぐようにして直進している!

 

「何!? 何!? 何なの!? 溶岩水泳部よりヒドイよこれ!」

 

 シャルロットが悲鳴を上げた。さすがに客席も絶句している。

 それ大抵の敵を一撃で落とせる、文字通りの必殺技なんですけど。

 慌ててシャルロットが聖剣の放出をキャンセルした途端に急加速。

 眼前に現れた東雲は、既に太刀を振り上げていた。

 

「──仕舞いだな」

 

 すれ違いざまの一閃。

 それが競技用エネルギーを削りきった。

 

「ぐっ……ごめん──」

 

 力尽きる間際、シャルロットは最後の力を振り絞り、全武装を展開した。

 銃火器や実体シールドがアリーナ中にばらまかれる。味方チームに使用許諾(アンロック)済みだ。

 

「これで撃破ポイントは0.5か。世知辛い話だ」

 

 アリーナの大型モニターに表示される獲得ポイントを見て、東雲は嘆息する。

 砕け散った太刀を放り捨てると、次の得物を抜刀。

 

「だがペースとしては上々だな。──次は、誰だ?」

 

 鬼神の如き瞳。

 視線がかち合い、セシリアは射すくめられる。

 だが鈴はちらりと背後を、距離を置いている簪に視線をやると、意を決したように息を吐く。

 

「──じゃあ名乗り上げようかしら。いい加減、あんたに泥を塗りたいとこだったのよ」

「そうか。何を見せてくれる?」

()()()()()()()()()()

 

 言うや否やだった。

 その場でにらみ合っていた三者、セシリアと鈴と東雲の身体がギシリと動きを止めた。

 

(な──これは、AICの広範囲使用ッ!?)

 

 たった一瞬だった。

 範囲の広さ、静止させる対象の多さ故に、絶対の結界は一瞬しか効力を発揮できない。

 挙げ句の果てにはチームメイトである鈴すら巻き込んでいる。

 何の意味があるのか──それは貧乳チームのメンバーを確認すれば、容易に想像できた。

 

「一瞬で十分──ッ!!」

 

 裂帛の叫びと同時、簪が背部マルチラックのミサイルポットを全門解放。

 計64に及ぶ特殊炸裂弾頭ミサイルが火を噴いた。

 

「ほう、自分ごと──」

「それだけじゃない!」

 

 当然東雲もセシリアも、迅速にAICを破って退避を始めた。

 だが鈴は迷うことなく東雲に追いすがる。

 

「あんたを撃破して1ポイント。残った2vs2で一機落とせば、それだけで勝ちが確定する──何が何でもここで死になさい、東雲令ィィィッ!」

 

 ミサイルが次々と着弾して、仮想のジャングルが吹き飛ばされていく。

 大地がめくれ上がり、木々が根元から宙に舞った。

 

(これほどの火力……ッ! 中央の二人はおろか、わたくしですら退避が間に合わない!?)

「セシリア! とにかく離脱しろ! 私が受け止めるッ!」

 

 チームメイトの声。

 ラウラを一騎打ちで引きつけていた箒が、装甲を半壊させながらも駆けつけている。

 なりふり構わず加速して離脱したセシリアを、箒が両腕で抱き留めた。同時に全ての展開装甲を急加速スラスターに役割切替(ロールチェンジ)。即座に火を入れ、現行ISの中でも最大出力、最高速度で絶死の修羅場から飛び退いた。

 

「恐るべき破壊力だな。恐れ入るぞ」

「……取り柄だから、ね」

 

 AICによる縫い付けと、『山嵐』による絨毯爆撃。

 何人たりとも逃れられぬ圧殺フィールドを形成するに至った。

 

 しかし。

 

 

 

「──悪くない判断だった。当方をここで潰すという意志が感じられる、良い作戦だった」

 

 

 

 凄絶な声が聞こえた。

 幻聴であってくれと誰もが願った。引きつった顔で、恐る恐る簪は立ちこめる煙を見やった。

 

「だが些か不足しているぞ。当方を仕留めたいのなら火力も、技量も、集中も、まだ足りていない。()()()と感じることもなかった──」

 

 黒煙を刃が吹き散らした。

 顕れた『世界最強の再来』の姿に、一点の曇りなし。あれほどの衝撃、爆発、威力を受けても尚──無傷。

 理由は単純明快。

 東雲の右手に喉を掴まれている、全身の装甲が砕け散った、鈴の姿。

 

「あん、たねえ……なんでわざわざ、こんなッ……」

「確かに本来ならば、当方一人でも回避しきれる攻撃だった。しかし──()()()()()()()()()?」

 

 衝撃を受け流しつつも、適度に鈴を盾としてしのぐ。

 無傷のまま一方的に相手のエネルギーだけが削られ、こうして死に体のカモを仕上げた。

 

「鈴、其方が悪い。当方より胸が小さいのに、果敢に挑んできたのは評価するが……」

「ほとんど変わらないでしょ(笑)」

「喋るな殺すぞ」

 

 介錯するように、東雲が一閃。

 それだけで鈴のシールドエネルギーは尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

「ワオ、これでしっかり撃破ポイントは1。こうなると俄然、東雲ちゃんが有利なのよねー」

「そうですね……」

 

 モニターに表示される東雲の獲得ポイントが、0.5から1へと移り変わる。

 客席が歓声とも悲鳴ともつかない声に染まった。

 一般白ギャル生徒は『まだだ……まだ篠ノ之箒は""死""んじゃいない……!』と鼻を尖らせている。

 その中で、一夏と楯無は冷静に会話をしていた。

 

()()()()()()、あの子」

「……ええ」

 

 指し示している相手は、同じだった。

 戦場の中心。舞うように飛び、流れるように斬る。鉄火場にしては現実味のない、流麗な戦闘機動。

 

 例えばの話。

 織斑一夏は戦士として強くなるほどに、無駄をそぎ落とし、格上相手に奇策奇術を用いて打ち勝ってきた。

 事実として彼が修めた切り札は、人にあらざる剣術と箒に称されている。

 奇しくも──その出生を合わせて考えれば、『鬼剣』という言葉はこれ以上なく一夏に相応しい。

 

「ずっと、ずっと先を行ってます。あんなに強かったのに、それでもまだ、俺たち以上のスピードで進化してる……」

「おねーさんも負けてられない……とは思うんだけど、あの子は正直異常ね」

 

 楯無が広げた扇子には『疾風怒濤』と書かれていた。

 かつては東雲の戦闘を指す言葉であったが、学園において親しい友人であれば別の印象を抱くだろう。それ即ち、成長速度である。

 

「次元が違うっていうのに変わりはありません。機械みたいに精確な動きだって健在だ。だけど……東雲さんは変わった」

「もしかして自覚がないのかしら? ()()()()()()()()()()()()

 

 え? と一夏は口をぽかんと開けて呆けた。

 その様子がおかしかったのか、楯無は扇子で口元を隠しクスクスと笑う。

 

「超絶技巧も、戦闘理論もそのままに。彼女は前よりずっとスマートな戦いをするようになったわ。取れる選択肢が増えたっていうのもあるけど、何よりも精神性が変わったのね」

 

 楯無の指摘は正鵠を射ていた。

 心構えが変わった。ただ順接のまま、当然の帰結として勝利に手を伸ばすのではなく。

 東雲令は、ハッキリと勝ちを狙いに行くようになった。

 

 戦場をかけ、自分以外に平等に死を振りまく姿はまさに死神。

 だが鬼や悪魔と呼ぶには、彼女は余りに美しかった。

 故にその在り方は魔性の存在ではなく、殺戮マシーンでもない。

 

 今の東雲は──姫神(きしん)である。

 

 

 

 

 

 

 

 これで一人ずつ戦力が失われた。残る戦力は同数。

 巨乳チームは篠ノ之箒とセシリア・オルコット。どちらも損耗大。

 貧乳チームはラウラ・ボーデヴィッヒと更識簪。簪は比較的損耗小。

 東雲チームは──いつも通りだ。

 

「どうするセシリア。勝ちを狙うなら──」

「そろそろポイントを稼がなければなりません。ですが……」

 

 戦場を見渡す。

 貧乳チーム、東雲チーム、どちらもほとんど同じ距離。

 片方に仕掛ければ、即座に乱戦となるだろう。

 

「動かないか。ならば此方から往くぞ」

 

 発言と同時、『世界最強の再来』が動く。

 咄嗟にラウラは置き去りにしていた大型レールカノンを()()()()。元より自分の装備、いかほどに離れていても呼び出せない道理はない。

 

「沈めェッ!」

 

 砲口を見据えて。

 東雲は加速しながら、転がっていたデュノア社製実体シールドを蹴り上げた。

 右手でそれを掴むと、前に突き出す。放たれたレールカノンが直撃し、炎が噴き上がり鉄片が散った。

 黒い煙の中に東雲の姿が消える。

 

(撃墜判定は出ていない。ならば仕掛けてくる──)

 

 油断なく構えていた。いつでも対応できるように準備していた。

 ()()()()()()

 気づけば眼前に、紅い切っ先が迫っていた。

 

「う、ぁ──ッ!?」

 

 悲鳴ともつかない声を上げながらも、咄嗟にプラズマ手刀を振るい吹き飛ばす。

 簡単に弾くことが出来た。そこに東雲はいなかったからだ。

 ラウラが防いだのは、振るわれた太刀ではなく、()()()()()()()()()()

 

(え?)

 

 全くの別方向──ラウラの真横に黒髪がなびいている。

 

「眼の良さが命取りだったな」

 

 知覚することすら出来ないまま。

 深紅の刃がラウラを一閃した。ブザーが鳴り、東雲の獲得ポイントが1.5となる。

 

「……ッ! 箒さん!」

「分かっている!」

 

 もう後がなくなった。東雲と簪を自分たちで撃破する以外、勝ちの目はない。

 ──『天眼』起動、同時に偏光射撃(フレキシブル)稼働!

 蒼天色の装甲を身に纏い、少女の瞳が戦場を滑らかに切り裂く。

 

「簡単に避けられるなどと思わないことです──!」

「確かに回避は困難だ。しかし、当てただけで満足しているようではまだまだ甘い」

 

 セシリアは瞠目した。

 偏光射撃を用いた多角的波状攻撃。

 しかし東雲は一歩も動いていなかった。ただその場に佇み、深紅の太刀を手首のスナップだけで操っている。

 切っ先は円を描き、刀身が踊る。撃ち込まれるレーザー悉くを撃ち落としながら、東雲は緩やかにセシリアへ歩み寄った。

 

(そん、な、これは……ッ!?)

「鍛錬の発露故か、或いは本能的なものか……其方は人体の弱点や人間の死角をよく突いている。防がねば一撃で痛打になるポイントをよく狙えている。()()()()()()()()()()

「は、はァッ──?」

「それに当方の身体には無駄な被弾箇所がない。戦闘理論に基づいて洗練された身体と言ってもらおう。だから当たらない」

「いやそれは違うと思います」

 

 何を言っているのか分からない。

 セシリアの脳裏がクエスチョンマークに埋め尽くされる。

 

「──私を忘れてもらっては困るぞ、令ィィィィッ!!」

 

 箒が雄叫びと共に刃を振りかざす。

 ビットに気を配りながら東雲が相対する、が。

 

「令、援護する! そのまま突っ込んで──!」

 

 セシリアにとって何度目の驚愕か。

 あり得ない。

 その選択肢はあり得ない。

 何故今になって、簪が東雲と組む。

 

「簪さんッ、貴女……ッ!?」

「最後まで、勝ちを狙いに行かせてもらうね……! それに、元々令は、貧乳チームみたいなものだし……! 私より令の方が貧乳チームだし……!」

「聞こえてるぞかんちゃん! 当方は貧乳じゃないが?」

「いい加減現実を見て──!」

 

 荷電粒子砲の連射。慌ててビットを躍動させ、砲撃を潜り抜けた。

 援護のないまま箒が東雲と激突する。

 

 

()()()()──清流よ、妖刀へ反転しろ」

「迎え撃つ──()()()()

 

 

 顕現するは能動的なカウンター。

 東雲の一挙一動を織り込み、すり抜ける斬撃が放たれる。

 

「──ほう、成程」

 

 箒の一閃。防ごうとして、東雲は即座に切り返した。視認した斬撃とはまるで別方向から飛んでくる攻撃を、精確に撃ち落とす。

 

「まだまだ──!」

 

 腕を振るうたびに速度が上がっていく。アクセルを踏んだまま、箒の猛攻が密度を爆発的に増大させた。

 攻撃を視認しても、異なる角度から撃ち込まれる。なんとか対応しつつも東雲は完成度の高さに驚嘆していた。

 

「さすがは篠ノ之流か。当方の目でも追うのがやっととは」

「ギアをあと3つはあげさせてもらうぞ、令ッ!」

「委細承知──ならば当方も然るべき手段で迎撃しよう」

 

 言葉と同時。

 東雲が()()()()()()

 

「……ッ!? 妖刀:唯識真如(ゆいしきしんにょ)──!」

 

 至近距離の剣戟中とは思えない暴挙。

 滑らかに必殺の剣技を放つ体勢へ移行しつつ、箒は剣の銘を叫んだ。

 

 

 

「──魔剣・(あらた)悲想転窮(ひそうてんきゅう)

 

 

 

 鉄が、しゃらんと鳴り響いた。

 交錯する身体。東雲の後ろに抜けて、だが箒の握っていた太刀が砕け散る。

 

「……ッ!?」

(はや)かった──が、当方の方が疾い。やはり胸が無駄に大きいと速度が落ちるのでは?」

 

 全身に撃ち込まれた斬撃が、箒の呼吸を詰まらせた。

 篠ノ之流から派生し、術理をねじ曲げた外道の技巧同士の対決だった。

 敵の防御姿勢を予期して振るった箒。防御など考えずに、ただ瞳を閉じ、感覚的に察知した攻撃へカウンターを合わせた東雲。

 

「いただき……!」

 

 振り向いた東雲がトドメを刺す前に、『紅椿』を簪の荷電粒子砲が貫いた。

 ブザーが鳴り、箒のエネルギーがゼロになったことを告げる。

 

「む。今のは……」

「次が来るよ、令……!」

 

 東雲が何か言う前に簪はセシリアに向かっていった。

 何か引っかかるモノを感じつつも、東雲は簪を追いかけて『ブルー・ティアーズ』に接近する。

 

 

 

 

 

 さしものセシリアも、東雲を含めた2vs1ではなすすべがなかった。

 

「……連携がお上手ですこと……! 神に見放された者同士、仲間意識ですか!?」

「……あの三人より、私の方が大きいけどね……」

 

 薙刀に肩部装甲を粉砕され、エネルギーがゼロになる。

 セシリアは自分を見下ろす簪に対してそう吐き捨てたが、日本代表候補生は取り合わない。

 

「これで最後は当方と其方だな」

「……うん」

 

 チームロワイヤルはいよいよ最終盤。

 客席が沸く中、一夏はモニターに表示されるポイントを見て『ん? あれ? これまさか……?』と首を傾げていた。

 

「成長したな。先ほどから動きを見ていたが、見違えた」

「ありがとう……みんなと一緒に、強く、なれたから」

「当方は嬉しく思う。共に切磋琢磨する相手の成長を歓迎する。だが勝負は譲れない」

 

 まだ太刀の残存数には余裕があった。

 バインダーから二刀を引き抜く。深紅の切っ先を簪に突きつけた。

 

「──()()()()。当方は四手で勝利する」

「……四手、か。私、三手防げるんだね」

 

 数字に嘘はつけない。

 可視化された自分を成長を実感して、簪は嬉しそうに微笑む。

 

「何を喜ぶ。当方の勝利は絶対だ。三手防げることを喜ぶのではなく、四手で死ぬことを悔いるべきだ」

「そう、だね。でも……今は別に良いかな」

「?」

 

 機体に指示を出し、簪が何かウィンドウを立ち上げた。

 

「何が良いのだ?」

()()()()()()()()()()()……だから……降伏(リザイン)するね

「えっ」

 

 簪が手元のウィンドウのボタンを押した。

 ビーッ、と脱落のサイレンが鳴り響く。

 リザイン時にはどのチームにもポイントが振り分けられない。最後まで残ったのは東雲だ。

 しかし、しかし──この試合においての勝利条件は『最後まで立っていること』ではない。

 

 結果。

 巨乳チーム、撃破ポイント0。

 東雲チーム、撃破ポイント1.5。

 貧乳チーム、撃破ポイント2。

 

「最後まで、勝ちを狙うっていうのは、本当……正確に言えば、最後の最後に勝ちを狙う、感じだけど……」

 

 数字は嘘をつかない。

 嘘をつくのは、数字を使う人間だ。

 簪は東雲の獲得ポイントが半分と設定された段階でこの展開を狙っていた。

 0.5の端数。後は自分を狩れば東雲の勝利という段階で降伏すれば──それが最後の一手となる。

 

 

 

()()()()……私の一手で、私たちの勝ち」

 

 

 

 告げて。

 簪は唖然としている東雲に対して、ピースサインを突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハッ! 本当に令を出し抜くなんて! 簪、あんたサイコーよ! でも所々であたしらディスってたの覚えておきなさいよ」

「眼鏡は、伊達じゃないから……」

 

 安全地帯で待機していた鈴が飛び出し、簪に組み付いて背中をバシバシと叩いた。

 簪の返しを聞き、鈴に遅れてやって来たラウラが首を傾げる。

 

「む? 度数が入っていたのか、その眼鏡?」

「……今のは、日本の言い回しでね。私が上手いことを言おうとしたとかじゃ、ない。決してない。信じて」

「なるほどな。それはそれとして所々で私たちをディスっていたのは覚えておけ」

 

 貧乳チームが勝利を分かち合う。

 それを見ながら、巨乳チームは重い息をこぼした。

 

「なんだか僕ら……結局は0ポイントだったね……」

「ううむ。個々の動きは悪くなかったと思うのだが、食い合わせが悪かったと言うべきか、策謀に乗り切れなかったというか……」

 

 振り返っても何か致命的なミスをしたとは言い難い。しかし結果は結果だ。

 シャルロットと箒が肩を落とす横。

 

「ああああああああああああああああああああああ!! なんですのこのブザマな負け試合はッ!?!?!? あああああぁあぁあぁぁあああぁあぁぁぁあ…………!!!!」

 

 仮想現実投影の終了したアリーナの地面に横たわり。

 四肢をジタバタさせ、全身で屈辱を表現しているセシリアがいた。

 他にも客席で一般白ギャル生徒が暴徒と化したりはしていたが、アリーナで一番キレているのは、間違いなくセシリアだ。

 

「アッッッッッッッタマにきますわ! 納得がいきませんわッ!! ぷんぷん! 次はチームじゃなくてバトルロワイヤルでやりましょう! 全員射殺します!!」

「セシリア、擬音は可愛いのに発言が可愛くないぞお前」

 

 やるかたない憤懣を銃に装填しようとする淑女を、箒がなだめる。

 明暗のハッキリと分かたれたその場所の、明とも暗とも言えない中途半端な地点で。

 

 

 

「え? え? ……………………え?

 

 

 

 東雲はFXで有り金全部溶かす人の顔になっていた。

 

 







次々回で海に行けそうです
夏が終わるんだが?(困惑)

8/25追記
次々回の次で海に行きます(土下座)

次回
71.待ち人来たるその日まで


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