0話なんていらねえんだよ!
評価の一言欄とか誤字報告とか全部見てます(今のところ誤字報告のうち2件は意図的な表現だったので反映していません。申し訳ありませんが、ご了承ください)
本当にありがたい限りやで
アンチヘイトっぽい言葉が出てきますけどまったくそういうつもりではないです(平身低頭)
一年一組クラス代表の座を射止めたのは、結局織斑一夏だった。
あの勝負を通してセシリアが彼を認めた。
また一夏も、他薦ではなく改めて自薦を行った。
その理由として、彼が新たに知ったクラス代表の仕事がある。
(クラス代表対抗戦……要するに、実力者と鎬を削りまくれる絶好の実戦ってことだ。逃すわけにはいかねえ……!)
戦意を滾らせる彼の隣で、箒は嬉しそうに微笑み、セシリアはそうでなくてはと獰猛な笑みを浮かべ、東雲は無表情だった。
決め手となった自薦にクラス全員が異議なしと唱え、晴れて織斑一夏が、一組代表に任ぜられたのである。
「織斑、クラス代表には多くの雑務も存在する。いいんだな?」
「メリットとデメリットを比較して、自分にとってこれ以上ない恵まれた役職だと判断しました。問題ありません」
そう凜々しく告げる弟の姿に、千冬は寂しげに笑った。
クラスからの信任を得て、つまりはこの教室の中心人物となることが確約されているというのに、彼の瞳には揺るぎない意思が宿っている。それは入学直後の姿からはまるで想像できない――変身した姿だった。
「気負いすぎるな、というアドバイスは無用だな。まったく、知らんうちに成長しおって……」
寂しさを感じた。ほんの少しだけ。
自分の後ろをついてくる弟はもういなくて。
ただ前を向いて邁進する一人の男が、そこにいたのだから。
だが寂しさを打ち消して有り余る――身内の成長への歓喜も感じていた。
「よし、ならば一夏。私と東雲で訓練メニューを考えた。身体が十分回復してから始めよう」
「篠ノ之箒の考案した、武道をベースにした内容の鍛錬は非常に参考になった。今の織斑一夏をさらなる高みへ導くために、よりよいメニューになったと当方は自負している」
問答を終えて正式にクラス代表となった一夏を、幼馴染と師匠が迎える。
二人の言葉に、一夏はギラついた眼光をもって応えた。
「ありがたい。でも、訓練は今日からでいいぞ。十分動けるようになってるからな」
「いや無理だろうそれは」
「さすがに無理でしてよ」
「当方は可能だと思うが……」
頬に湿布を貼り、腕に包帯を巻いた男の言葉である。
箒と、いつの間にかいたセシリアの二人は首を横に振った。
「ん、セシリアも訓練に参加するのか?」
「共にメニューを受けるという訳にはいきませんが、参考になると見込みました。また、一夏さんの武器ではロングレンジを得意とする相手への対策が急務ですわ。仮想敵としてわたくし、相応の価値があると思いましてよ」
彼女の言葉に、一夏と箒は、東雲の様子をうかがった。
「ありがたい。当方は歓迎する」
彼女がそう言うならば問題ないだろう。
そうして四人によって、一組の訓練チームが形成された。時には他の生徒らも織り交ぜ、一年間にわたりIS学園一年一組の名をとどろかせ続けた驚異のチーム。
東雲は感情を露わにせず、しかし決然とした声色で一夏に語る。
「当方が、其方をさらなる高みへと導いてみせる」
そして翌日の放課後――
「が、ハァッ……!?」
衝撃をまともに受け、身体がきりもみ回転し、空中から一気に地上へ叩き落とされた。
墜落と同時、骨格そのものが軋む音。神経が悲鳴を上げている。数秒、意識が遠のいた。
ISのエネルギーバリヤーはある程度の衝撃なら遮断できるものの、セシリアの狙撃が直撃した際のように、ダメージを殺しきれない場合はある。
たった今一夏が浴びた攻撃は、的確にエネルギーバリヤーを貫通し、操縦者本人へダメージを与えていた。
口の中に入った砂を吐き捨てると、どうやら口内を切ったらしく血が混じっている。
それを見て、一夏は呻きながら立ち上がった。
前を見た――アリーナのプログラムが立ち上げた自動攻撃機能付きのターゲットたち。数は二十を超えていたが、精度は残念な意味で比にならない。先の決闘と比べればあまりに生ぬるい。
それらが放つ銃撃は投影されたダミーの弾丸であり、受けたところでエネルギーの数値が自動的に減るだけ。
だがそのターゲットたちを率いるようにして。
制服姿でIS用アサルトライフルを構え、首を傾げ不思議そうにしている東雲令が、アリーナの地面に佇んでいる。
アリーナの自動攻撃を避けつつ、東雲の銃撃も防ぐ。
ただそれだけの訓練。
一夏はこれで計十六度目の墜落だった。カスタマイズされた大口径アサルトライフルから放たれるは強い衝撃を与えることに重きを置いた徹甲弾。
「当方には、今の被弾は理解し難い」
「…………ッ!!」
東雲の深紅の瞳は冷たかった。
思わず拳を握り、歯を食いしばった。
直撃を受けた際の機動を反芻し、何故攻撃を当てられたのか分析する。
(縦の動きはそこそこできてた……横へ移動した瞬間を狙われた。左へのサイドブーストが甘かった……! 感覚操作である以上、右利きの俺が左側を疎かにするなんて当たり前、当たり前の欠点を俺は放置していたんだ……! クソッ! どんだけヌルけりゃ気が済むんだ、織斑一夏ッ! 気合いを入れ直せッ!)
強く、鋭い眼光を東雲に向けて、一夏は声を絞り出した。
「大丈夫……です……! もう一回……お願いします……ッ!」
(なんでこれに当たってんの??)
東雲令は内心で首を傾げていた。
(当たる理由がよくわかんない……でも本人はなんか反省したっぽいし、別にいい……のか……? にしてもなんでこれに当たってんだ……)
見える。見えすぎる。一夏の視線、というよりは意識の先。
逸れたら撃つ。隙があれば撃つ。当たると思ったら撃つ。その繰り返しだけで彼は十六度叩き落とされている。
(ん~あの時って、予測回避が一時的にできるようになってただけなのかなあ。まあそれなら鍛えれば常にできるようになるってことだし、しばらくはこれ続行かな……ほら! こっちを見なさい! こっちを……ハァハァ……すごく真剣に……見なさい……!!)
一夏は極めて真剣に攻撃を回避しようと空を駆け抜け。
東雲も極めて真剣な感じで訓練をしていた。
絶対噛み合わない方がいいのに、二人の行動はすごく噛み合っていた。
「苛烈だな」
ついに一夏の墜落が四十の大台を目前としたのを見て、箒は嘆息した。
「あ、あの……止めなくてもよろしいのですか……?」
「あらかじめ言い含められている。それにまあ、武道をたしなんでいた身としては、あれしきで音を上げていてはならん。
ウォーミングアップとしてセシリアは一夏をBT兵器で包囲し適当に撃ちまくり、今は『打鉄』を身にまとう箒相手に、『インターセプター』を握って近接戦闘の訓練を行っていた。
横目に一夏の訓練の様子を窺っていたが……セシリアが思わず頬を引きつらせる程度には、それは厳しい鍛錬だった。
そうこうしているうちに、一夏が四十回目の砂煙を上げた。
「――今日は終了である」
「……ッ! まだ、まだやれます……ッ!」
「却下する。当方の目を誤魔化せると思わない方がいい。現状の織斑一夏ではこれ以上訓練を続行したところで意味はない。休息を取り訓練内容を反芻する時間が必要である」
「ぐっ……!」
言い返せなかった。身体へのダメージは重なり、いまも足がふらついている。
東雲はその黒髪に汚れ一つなく、また汗の一滴も見せていない。
「アリーナ出入り口で集合。当方たちも向かう」
「わかり、ました」
「……それと……何故、敬語……?」
東雲は首を傾げて一夏の顔を覗き込んだ。
「え、いやまあ、先生みたいなもんだし、教えを受けている間はそっちの方が気合いが入るっていうか」
「……其方のモチベーションに関わる問題ならば構わない」
ここで一夏がほんの僅かに東雲の眉が下がっていることに気づいたら事態は変わっていたかもしれないが、既に無様な訓練内容から反省点を洗い出し始めていたので、無理な話であった。
足を引きずるようにしてアリーナから立ち去っていく一夏の背中を見送り、ふとセシリアが口火を切る。
「あの、東雲さん。
瞬時加速――ISの高速機動において屈指の難易度を誇る、しかし代表的なテクニックだ。
一度放出したエネルギーを再度取り込み、爆発的な推力を得て加速するという原理であるが、タイミングや角度の調整には巧緻極まる技量が求められる。
セシリアの見立てでは、一夏ならばモノにできるだろうと予測できた。
近接戦闘に主眼を置く彼の戦闘スタイルにおいて必須と言ってもいい技術である、が。
「当方の予測では、現段階で瞬時加速を教えた場合、織斑一夏はそれを
東雲はにべもなく斬り捨てた。
その言い草に、思わず箒は首を傾げる。
「な、なあセシリア。瞬時加速というのは……その、認識するも何も、文字通りの切り札ではないのか?」
「難しいところですわね」
箒の疑問に、セシリアは腕を組んで眉根を寄せる。
「使いどころを誤らなければ相手の懐へ飛び込むことも可能ですが……アレはあくまで直線的な加速です。その使いどころを誤らない、という前提が、相手の技量が高ければ高いほど難しくなります」
もちろん段階的に加速する、あるいは専用のスラスターで連打することで多角的に迫るなどの解決策はある、とセシリアは補足した上で。
「ですがそれも、今の一夏さんと『白式』では難しいかもしれません。そういう意味では、東雲さんの考えにも一理ありますわね」
「なるほど……ちなみに、タラレバで申し訳ないのだが……参考がてら、先日の決闘でもし一夏が瞬時加速を覚えていた場合、どうなったと思う?」
「恐らくカモでしたわ」
即答――箒は思わず目を白黒させた。
セシリアは腕を組んだまま、軽く肩をすくめた。
「だって直線加速などされたら、わたくし、
「……あそこまで迫れたのは、一夏の素人加減すらプラスに働いていたから……!」
「それを言い訳にするつもりはありません。彼はあの時、わたくしの包囲陣を打ち破ってみせました。これは揺るがぬ事実です。ですが二度目はありません……彼の癖も段々見えてきました、リベンジマッチが楽しみですわ」
これが、代表候補生。
篠ノ之箒は改めて戦慄する。
そして、幼馴染が目指す高みの険しさを、震えるほどに実感した。
(……それでも、一夏。私は……)
どこまででも付き合ってみせると、決意を新たにして。
箒は拳を強く握った。
そして東雲たち三人がアリーナを去り。
シャワーを浴びて制服に着替え直し、一夏が待って居るであろうアリーナの出入り口にたどり着いたとき。
――見慣れない水色の髪の少女が、彼にやたらくっついてるのを見た。
「は?」
箒は普通にキレそうになった。
なんだその距離感は。身体がほとんど押しつけられていて、二つの丘がぐにゃりと形を変えているのが分かる。
壁に追い詰められた格好の一夏は、顔を真っ赤にしてしどろもどろになっていた。なんだその顔は。何を普通にドギマギしている。
背中に一瞬炎を浮かび上がらせ、しかし箒は慌てて冷静さを取り戻す。
「あれは……」
セシリアはその少女を、正確にはリボンの色を見て上級生だと判断した。
だがその身体つき――並大抵の実力者ではないのが分かる。
少なくとも、自分より格下はあり得ない。むしろ、格上の立ち振る舞いすら透けて見えた。
狙撃手としての冷徹な瞳が、相手に対して警鐘を鳴らす。
「…………」
そして東雲は――足早に、まっすぐに、一夏と少女へ向かって歩き出した。
『え……!?』
思わぬスピードの行動に、思わず箒とセシリアが疑問の声を上げる。
そこで一夏と少女が、三人に気づいた。
「あ、東雲さん、えっと――」
「織斑一夏から離れろ」
絶句。
普段から物言いはさっぱりしている彼女だったが。
ここまで直球で、誰かに釘を刺すことなんて、なかった。
「あらあら、世界最強の再来ちゃんのご機嫌を損ねちゃったかな~」
だが少女はどこ吹く風と受け流し、手に持った扇子で東雲をぱたぱたと扇ぎ始めた。
誰がどう見ても――喧嘩を売っている。
思わず一夏は仲裁に入ろうとし。
「妹と違って無意味にひねくれているな。仮面がなければ人前にまともに立てないのか、其方は」
驚愕に驚愕が、重なった。
ビクっと、名前も知らぬ上級生の頬が引きつるのが見えた。
先ほどまでの飄々とした態度。一夏が離れてくださいと頼んでも受け流していた、あの雰囲気が歪んでいる。
つまり――東雲の言葉がクリティカルヒットしたのだ。
「……ふふ。そういえば同じ代表候補生のよしみで、簪ちゃんと仲良くしてくれてるんだっけ……」
「自分の芯を持った強い子である。当方は彼女のことを高く評価している」
世間話のように見えて、間近に居る一夏は痛いほどにその重圧を感じていた。
(なん、だ、これ……!? なんでいきなりバチバチになってんだ!?)
理解不能の急展開だった。
目を白黒させることしかできない中で。
「それで、織斑一夏に何の用か、
『――――ッ!?』
一同口をぽかんと開けた。
国家、代表。つまりは代表候補生としての試練をくぐり抜け、一国の最強戦力と扱われるまでに至った、豪傑。
それが、ここにいる少女。
「あらやだ。
「当方は肩書きに興味がない」
「そ。でも事実として私は学園最強なの。だからこうして、織斑一夏君の指導役を買って出たのよ」
「な……ッ!?」
箒はそこで愕然とした。
指導役を買って出る、それも国家代表が。
これはまたとない幸運であり、天からの恵みにも等しい僥倖だ。
「……なるほど。最初の試練ですわね」
だというのにセシリアは低い声で呟き。
「…………」
東雲はその鋭い気迫を楯無にぶつけている。
なんだか修羅場っぽいなと現実逃避しかけていたが、一夏はすんでのところで冷静な思考を取り戻した。
(え、えーと。俺はこの更識先輩に、突然指導するって言われて。国家代表だからありがたいけど、今は東雲さんに教えを請うているとこで、まだそのレベルにはないって断って、でもしつこく勧誘されてて)
現状を整理し、彼はふと思い至る。
(待て――待て。俺の指導役に、日本の代表候補生と、ロシアの国家代表が名乗りを上げた、だと――!?)
もとより頭の回転自体は速い一夏は、事情を理解した。
これは――国家間闘争と言って差し支えない場面である。
(今これ、ロシアと日本が、
そう。
更識楯無は先日の決闘を観戦し、織斑一夏はモノになると確信した。
唯一ISを起動できる男子とは別の、IS乗りとしての価値。
本来別個に評価されるべき二つのバリューは、しかし相乗効果をもたらすと容易に予想できる。
その旨を伝えた結果、ロシア本国から彼と距離を詰めておけと命令を受け、こうして勧誘に来たのである。
「さすがに国家代表が教えてあげるなんて、これを逃したらまたとない機会だと思うんだけどな~」
「……ッ」
言葉の説得力は、先ほど東雲が否定した肩書きの価値が証明している。
そう、またとない天運。己の渇望しているものが向こうから転がり込んできたかのような、裏の事情さえ理解しなければ、一夏を中心に世界が回っているかのような事態だ。
楯無は黙り込んだ一夏を一瞥して、それから東雲にするりと視線を流した。
「というわけで、織斑一夏君の指導役のポジションを、私にくれないかな?」
「断る」
東雲が即答すると同時に、楯無はパチンと扇子を閉じた。
そりゃそうだよね、と呟く。
折角手に入れた、貴重な男性IS乗りとのパイプを手放すわけがない。
言葉とは裏腹に、日本代表候補生という肩書きに東雲令は縛られていると、楯無は嘲笑した。
(イチャイチャタイムを譲るわけないでしょバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアカッ!!)
イチャイチャタイムとは。
次回初オリ主TUEEEなんですけど
結構槍使いって予想されてたらしく
なんだか申し訳ないです
普通に剣使います
普通に
あっそうだ(唐突)
よく考えたら『其方』ってルビ振ってなかったんですけど
皆さん読み方は自由でいいと思います
僕は『そのほう』って想定してるんですけど正直『そちら』とか『そなた』とかもアリなんで
ここは好きな読み方をしていただけると助かります
投げっぱなしで本当に申し訳ないです