【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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注意:夜間モードでは一部文章が読めない仕様になっております。ご了承ください。
→訂正:夜間モードでも一応読めました、仕様をちゃんと理解しろ(半ギレ)


82.デッド・エンド

「──いっくんと福音が第三形態(サード・フォーム)の上限を破った……!?」

 

 衛星軌道上のラボから状況の推移を観察していた束は、震え声で呟いた。

 規定されたルートを逸脱した者同士の激突。果たして何が起こるのか慎重に見定めようとして──また、最悪の場合は直接介入も辞さない覚悟だった──しかし今、両者は束の想定を超えた領域へと至っている。

 

「やばい」

 

 天才らしからぬ感情的な言葉だった。声は震え、眼球が落ち着きなく左右に揺れている。

 元より『白式』は束からの直接アクセスを拒絶していたが、『銀の福音』もまた、創造主からの緊急停止命令を弾いている。

 

「やばいやばいやばい!」

 

 机の上にまき散らしていた機材を腕で一気に払うと、彼女は小型化されたマルチデバイスをいくつか身体のポケットに入れて、ラボから地上へ移動する際の移動用小型ポッドを起動させた。

 

「このままだと──最悪、()()()が出張ってくる……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 身体中が熱い。内側から灼かれ、焦され、全身が悲鳴を上げている。

 だからどうした。そんなことは知らん。成さねばならないことがあるのだから、苦痛など無視して然るべき。否、この程度の痛みや苦しみで足を止めることなどあってはならない。

 なぜならば。

 

「オレは勝利する! オレは進化する! ──彼女の隣へ至るためにッ!!」

 

 振るわれる業火の刃は、大気中の酸素を残らず燃焼させながら空間を薙ぎ払う。

 馬鹿げた出力は直撃を受ければひとたまりもなく、文字通りに絶対防御すら溶断するだろう。

 

 だが、相対するのもまた、あり得ざる世界へ到達した怪物。

 

 全身が過負荷に悲鳴を上げる。次々に立ち上がる警告を無理に遮断する。

 内部へ衝撃を通さないようフル稼働する防護機能は、逆説的には己を縛る足枷だ。しかしその程度で引き下がることはあり得ない。決戦場において見据えるべきは、ただ栄光ある救世のみ。

 だからこそ。

 

「私は勝利する! 私は進化する! ──世界(かのじょ)を救うためにッ!!」

 

 振りかざす銀翼の刃は、対象の硬度を無視して分子単位で分かつ。

 厚さ数メートルの鉄とて容易に断ち切る鋭さ、それは絶対防御を切断することすら可能にしていた。

 

 空中で両者が交錯するたびに心臓を握り潰されたような感覚に陥る。この場に居合わせた不幸を呪うことしかできない。

 絶対防御をも溶断する焔の剣と、絶対防御をも切断する銀の翼。

 最強の矛と最強の盾ならば結果は分からないが、最強の矛同士の衝突はただ無為に空間を砕き、世界を啼かせるに留まる。

 奇しくも両者、ここに至って振るう攻撃は、絶対防御を貫通するという点に限ってみれば──そしてそれは、かつて東雲令が目指した──『()()()()()()()()()()()()()

 

「これが、IS同士の戦闘だって?」

 

 純白の鎧を纏い業火を噴き上がらせる男と、白銀の翼をはためかせる救世主。

 箒らに遅れて到着したイーリス達福音追撃部隊は、棒立ちのまま何も出来なかった。

 

「ISは、人間が生み出した兵器だ。それが戦えばこうなるって……本当に、本気で言ってるのかよ」

 

 近づけない。いや近づくこと自体は可能だが、近づけば()()()()()()()()のだ。

 純白と白銀の激突は常人にとっての致命打を超えていた。

 事実として接近を試みた『名も無き兵たち(アンネイムド)』部隊隊長のステルス仕様『ファング・クエイク』は、一夏が面倒くさそうに腕を一振りしただけでエネルギーを根こそぎ奪われ墜落している。

 それが()()()()()()()()()()()という一夏からの警告であることに、イーリスは数秒遅れてしか気づけなかった。恐らくあれより一歩でも踏み込めば、そこには死が待ち構えていたのだ。

 

(軍事行動用にリミッターを全解除したISが、コンマ数秒でやられた。もうこれは私たちの知ってるISバトルじゃねえ。つーかそもそもあり得ねえ)

 

 ISは、あくまで科学的な兵器に過ぎない。

 だからこんな激突はあり得ないのに。天を砕き海を割るような衝突は起こりえないのに。

 そのはずなのに──眼前には、神話の如き戦いが現実のものとして立ち塞がっている。

 

「あり得ねえ……」

 

 だがその言葉とは裏腹にイーリスの脳裏によぎったのは、とあるSF作家が提唱した、余りにも有名で、有名すぎるが故に陳腐な言葉と化した或るテーゼ。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ISコアに自我が宿るという説は理論上は否定されていない。

 だがもし本当に、本当に自我が宿っていて、己の判断に基づいて行動を起こしているのなら。

 

(篠ノ之束は、一体何を造ったんだ?)

 

 全身が総毛立ち、ここから離れるように防衛本能が叫ぶ。

 生命に宿る根本的な直感が理解したのだ。ここに居るべきではない。ここに居て良いのは、ただあの両者だけなのだ。

 

「何なんだよ、これは」

 

 イーリスは呻き声を上げることしかできなかった。

 親友である同僚を奪い返すまであと一歩。あと一歩だったはずなのに、突如として銀翼は到底手の届かぬ領域まで飛翔してしまった。

 狂ったように心臓がうるさい。自分の生存を確信できる理由はそれだけだった。

 今にも崩れ落ちそうになる身体を必死に律して、イーリスは建前として飛び込む機会をうかがいつつ、一人と一機の決戦場を、歯を食いしばりながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「迸れ、『雪片弐型』──ッ!」

「輝け」

 

 斬撃が翼に受け止められ霧散する。

 並のIS相手ならば乗り手ごと両断していたであろう一閃。だが頓着することなく、一夏は即座に刃を引き戻してカウンターを迎撃する。

 戦いはまるで減速することなく、ひたすらアクセルを踏み続ける。既に音を置き去りにして久しい。自身の装甲が粉砕され、即座に焔で補填し、それから破砕音が遅れて響く有様だ。

 

「やはりな」

 

 超高速戦闘を継続しながら。

 常人では見切ることはおろか、戦いが起きていることすら理解出来ないスピードの世界の中で。

 福音は自身に趨勢の天秤が傾いていることを確信した。

 

「この領域。この、頂へと続く道。()()()()()()()()()()()()()

「────」

 

 事実だった。

 速度に負けて自壊しないよう、互いに一定の出力を自己防護に回している。

 つまりは攻撃・回避・防御とは別に、常に別の事柄を演算し続けなければならないのだ。

 元より並列高速演算に重きを置く戦闘用AIならともかく、人間の脳には負荷が過ぎるというもの。

 しかし一夏は鬼神の如き表情のまま、低い声で囁く。

 

「それはどうかな?」

「何────」

 

 同時、一夏が一段と速度を上げた。

 咄嗟に翼を張れば、三枚が半ばでずり落ちる。切断された──だが剣筋が見えない。

 単純なスピードの倍化。速度差に演算を追いつかせるのが間に合わず、翼の大半を根こそぎ砕かれる。

 

「何と……!」

「オレは一人じゃない。()()()()()()()()だ」

 

 織斑一夏と『白式』と『雪片弐型』。

 本来ならば世界を救う決戦において合一の存在と化し、救世の刃を放つはずだった三つの個体。

 それは既に溶け合い、自我を共にして、まさに今この瞬間、()()()()のだ。

 

「ここからが本番だ──潰れて死ね!」

 

 刃の数が跳ね上がる。

 一本の太刀しか持たぬというのに、ほぼ同時に十数方向から斬撃が飛んでくるという理不尽。

 即座に翼へエネルギーを譲渡し十二枚羽根を取り戻した福音は、防戦に回りながらも的確に一夏の猛攻を捌いていく。

 攻防一体にして万能の銀翼は、しかし一夏の剣域へ差し込まれるたびに光を散らして剥がされる。彼を中心に吹き荒れる嵐が、福音を守るヴェールを一枚ずつ突破しているのだ。

 

「ああそうだ! やはり、やはり貴様は……! ()()()()()()()()()()()()()()()! 秩序を破壊し、平和を脅かす悪ッ!」

 

 バックブーストをかけながら再度翼を復元。

 福音は一夏の戦闘メカニズムを、絶戦の中でも的確に分析していた。

 

(『零落白夜』へと至る者特有の、()()()()()()()()()()()()()()! 極まりに極まればエネルギーそのものを消滅させるアンチエネルギー・ビームの生成へと至るが──その過程で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 それは遠い遠い並行世界ではモーフィングパワーと呼ばれた、物質への干渉・操作能力。

 あくまで、エネルギーを一方的に消滅させる、蒼い光への革新途中ではあるものの──織斑一夏と『白式』は確かにその能力を使いこなしていた。

 

戦術装填(インストール)──装填済戦術(紅椿)起動(アウェイクン)ッ!」

 

 全身を纏う業火が刃と化し、解き放たれる。展開装甲による攻性エネルギー射出機構を、エネルギー再構成能力により再現した代物。

 銀翼を前面に展開。短剣を象った紅刃を受け止める、がしかし数本が翼を貫通して福音本体に突き刺さる。

 

()()()()

 

 突き刺さったエネルギー体が炸裂する。福音の視界が一瞬ブラックアウトした。

 AIにあるまじき直感任せ──蓄積した戦闘経験値による合理的判断の側面もありながら、福音は本来必要な複数の段階をスキップして一足跳びに行動を選択したのだ──で、その場から退避。コンマ数秒遅れて焔の剣が空間を断つ。

 攻撃が空ぶったことに拘泥せず、福音に向かって一夏は体勢を整える暇も与えず突撃する。

 

「どうした! そんなものか……! オレはまだ進むぞ! お前も、そうだろう!? オレたちはまだ革新の道中に在る! 頂点へと至ったときこそオレたちの願いは果たされる! そして決着がつくのだ! はやくかかってこい、こんなところで足踏みをしていればオレは願いの先へと至れない……ッ!!」

 

 到底織斑一夏の言葉とは思えぬ、凄絶なセリフ。

 当然だった。今ここに居るのはもう、誰かのために戦える男の子ではない。

 己の願いのために敵を切り伏せ、ただひたすらに邁進する。その一側面を切り取られ、拡張され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 天災と呼ばれた女が機体に植え付けた、世界を救うための成長過程促進プログラム。

 それが戦闘の中で暴走を起こし、爆発的な進化を繰り返し、定められた道を最初から超高速でやり直しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな絶戦から少し離れて。

 

(あれ? 旅館がぶっ壊れてるんだけどォ!? なんということでしょう匠の手によって落ち着いた風情のある旅館が全方位吹き抜けオープンハウス(物理)に! 言ってる場合か! と、当方のサメ避けクリームは何処に……!?)

 

 お前が行くべきはそっちじゃねえ!

 東雲は姑息にも練習場へ直接向かうのではなく、怒られないようわざわざ沿岸部を迂回してから大回りのルートで旅館へと戻ってきていた。

 

(ん? なんだあそこ……木が動いてる? あっ光学迷彩かぁ! あれれーおかしいぞぉ? なんであの人、みんなの専用機を持ってるんだ……?)

 

 東雲がハイパーセンサーとか関係なく普通に見破ったのは、米軍最新式の光学迷彩バトルスーツであった。

 とりあえず音もなく背後に降り立ち、ISを解除して首筋に手刀を叩き込み昏倒させる。

 地面にばらまかれた待機形態の専用機たちを拾い上げ、東雲は腕を組んで唸った。

 

(ISがひい、ふう、みい……当方の『茜星』を合わせて七つか。これはまさか、七つ揃えると願いが叶うっていう伝説のアレパターンか!?)

 

 そのゴミみたいな頭を治してもらえるようお願いしたらいいんじゃないですかね。

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の斬撃が翼を両断する。

 だが刹那の間隙で、十二枚のエネルギー翼が再び光を取り戻した。

 

「三回目……!」

 

 絶望的な光景にを前にして、箒が内心で悲鳴を上げる。

 

(剥ぎ取っても次から次に補填される! もういい加減にしてくれ!)

 

 状況は最悪に近い。相手は一時的に消耗しても即座に回復。一方で、こちらは着実に余力がなくなってきている。

 だというのに自分には何も出来ない。

 このためのはずだった。姉に頼み込んで力を手に入れたのは、こんな時に彼の隣へ飛び立つためだった。

 だが何も出来ないまま、木偶の坊のように突っ立って、ただ嵐が過ぎ去るのを震えて待つことしか出来ない。

 

(私は! 私は、何をしているのだ……!)

 

 箒以外の少女らも歯を砕けるほど食いしばり、埒外の者同士が削り合うのを眺めていた。

 傍観者。ステージ上に立つことが許されない、無力な観客。

 彼女たちに頓着することなく、舞台上を舞うメインキャストの二人は互いしか見ていなかった。

 

「焼き尽くせ、『焔冠熾王(セラフィム)』──!」

「断ち切れ、『福音輝皇(アルカンゲロス)』──!」

 

 両者同時に、切り札を切った。

 一夏が持つ『雪片弐型』の刀身が二つに割れた。本来ならば蒼いエネルギーセイバーが発動する所を、疾風鬼焔の炎が補填。福音の翼と同様にエネルギー体が集積して刃を成す。火特有の揺らぎはない。深紅が凝固し、それはまるで返り血に染め上げられた刀のようだった。

 同時、福音の翼が十二枚全て重なり合う。輝きと輝きが溶け合い、世界を光が塗り潰した。

 思わず箒たちが目を庇う。

 

「これで落ちろォォォッ!」

「ここで死ね────ッ!!」

 

 最高速のまま、激突。

 中心から放たれる余波は海面を砕き、文字通りに天を割る。

 眩い光に包まれて。

 一夏の視界はゆっくりと、何もかもがぼやけていき────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば何もない場所にいた。

 一夏はゆっくりと周囲を見渡す。果ての見えない海が、スカイブルーの空と混じり合うようにして、かろうじて水平線を残している。

 海。そう、一夏は海の上に立っていた。水底まで見通せる透き通った青の上に立っている。

 

(これは──相互意識干渉(クロッシング・アクセス)か! だけど、()()()!?)

 

 理論上発生しうるものとして教科書に記載されている、コアネットワークを介して潜在意識同士の対話が発生する現象だ。

 実際に一夏は、かつてラウラと波長が合ったことで、発生したことがある。

 波長の合った相手など、数秒考えれば弾き出せる。

 ガバリと正面に顔を戻せば、そこに銀色がいた。

 

「あんたは……」

 

 間違いない。『銀の福音』──今は『福音輝皇(アルカンゲロス)閃光無極(スフォルツァート)』だったか。

 彼女は銀色の流麗なボディを自分の腕で抱きしめ、蹲っていた。

 

「いや、だ」

「ぇ……」

 

 か細いソプラノボイスだった。

 戦場で謳っていた声なのに、程遠い弱々しさだった。

 

「いやだ。死なないで、ナターシャ。キミがいたから私は生きてる、だから、キミも死なないで……だけど、だけどわたし。わたしは、どうして──」

「…………ッ!!」

 

 福音が、顔を上げる。

 一夏がまだ見たことのない、エラーコードを吐いていない青い光の灯ったバイザー。

 

 

()()()()()()()()()()()────」

 

 

 そこから、したたり落ちるのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僅かな時間だった。

 ハッと気づけば自分と福音は空中に静止しており、浜辺からは衝撃が消えて顔を上げた面々が訝しげにこちらを見ていた。

 今のは、と思わず一夏は視線を巡らせる。先ほどまで自分を苛むように猛っていた意志の焔は、いつの間にか消え去っていた。全身を覆っていた焔が順次かき消える。

 万能感も、使命感も、全てが過ぎ去った。ただ虚無だけが残っていた。

 

 クロッシング・アクセス。

 文字通りの、潜在意識同士の対話。

 それは時として隠したい傷や、過去や、本音すら暴いてしまう。

 

「あんた──()()()()()()?」

「…………ッ!」

 

 確かに一夏は見た。

 福音が、白銀の鋼鉄機構が、そのバイザーから朱い滴を落とすのを見たのだ。

 

「そう、か。そうだったんだ。決意も、信念も。その奥にあるものを誤魔化してたんだな。あんたは……あんたは本当は……」

「──他人がわたしを語るなァァァッ!」

 

 翼が噴き上がる。

 未だ福音は決戦形態を維持している。一方で一夏は──

 

【────ッ!? も、戻った!? 決戦状態を解除したのか、どうやって!? いやそれよりも我が主、まずいこれはまずいぞ! おれたちでも、もう太刀打ちできない!】

Energy Empty(おなかすいたしかえりたい)】【Energy Empty(いやもうほんとかえりたい)

 

 反動が来た。機体は限界を数段階飛び越えてスクラップ寸前。

 一夏自身も全身を激痛が苛み、高度を維持するだけでも精一杯だった。

 しかし──活路は見えた。

 

(もう一度! もう一度、さっきの空間を引き出せばッ!)

 

 深紅眼に文様を浮かべ、意識を集中させる。

 教科書が確かなら。そして実際に二度も経験できたのだから。

 波長を能動的に合わせることが出来れば、クロッシング・アクセスは自発的に引き起こせるはずだ。

 もがき苦しむように翼を振り回し、四方八方に福音が斬撃を飛ばす。

 必死に掻い潜りながらも焦点を絞った。イメージは意識の投射。自分自身をレーザービームのように相手へ投企するような感覚。

 

(もう、一度……ッ!)

 

 だが。

 福音がぎしりと動きを止めた。

 微かにリンクし(つながっ)たような感覚がした──それが、福音の逆鱗に触れた。

 

 

「わたしの中に入ってくるなァッ!!」

 

 

 同時。

 福音が動き、一夏も連動して動いた。

 

 福音が右へ動いた。一夏はそれを視認して移動先に切っ先を置く。寸分違わず、『雪片弐型』の刺突が福音の左肩部装甲を粉砕した。

 福音が左へ動いた。一夏はまるで見当違いの方向に切っ先を置く。何もない虚空を、『雪片弐型』の刺突が穿った。

 

「な……ッ!?」

 

 飛び跳ねるようにして逃げる福音を追う。迎撃に飛ばされた翼をコンマ数センチで避けて、そのまま接近。

 飛び跳ねるようにして逃げる福音を追う。迎撃に飛ばされた翼が、僅かに横へずれた一夏のウィングスラスターに直撃。爆炎を上げて白い翼が吹き飛ばされる。

 

「ま、待て待て待て……ッ!? 何だコレどうなってやがる!?」

 

 感覚がずれている? 再調整のために後ろへ下がる。福音はその場から動かない。

 感覚がずれている? 再調整のために後ろへ下がる。福音が迷わず飛び込んできて、そのまま右腕を突き込んだ。

 

【──情報飽和状態ッ!? そうか、さっきのクロッシング・アクセスからこちらの受信する周波数を特定して……!? 駄目だ受けるな! 逃げろッ!】

 

 一夏は鋭く練り上げられたその貫手を、両手で挟み込むようにして受け止める。

 一夏は鋭く練り上げられたその貫手を、両手で挟み込むようにして受け止めようとした。

 

 

「死ね。死んでくれ。ごめんなさい。死んで。ごめん。わたしも役割を果たしたらすぐいくから。かのじょを救えたらそれでいいから。だから──わたしと一緒に、しんでください」

 

 突き込まれた福音の右手が、寸分違わず、一夏の胸を貫いていた。

 

「────────」

 

 福音がとった戦術は、一夏の演算能力を逆手に取ったものだった。

 深紅眼状態、即ち過剰情報受信状態(ネビュラス・メサイア)。常人ならば感づけない極小の情報はおろか、電子信号や相手の思念すら受信する、織斑計画へと連なる一連の遺伝子改良実験の中で最強の兵士の条件として定められた特殊能力。

 一夏はその力を十全に扱い、使いこなしていた。

 

 逆説。現状の織斑一夏はあらゆる情報を()()()()()()()()

 

 情報を過剰照射し、周囲一帯における情報を飽和させる。一夏はソレを全て受け取りきれず、過剰演算の結果として現実とは異なるイメージを幻視させられていた。

 

「か、ふっ」

 

 悲鳴が遠くに聞こえた。

 ずるりと引き抜かれた腕に、ぬらぬらとした血が纏わり付いている。それが自分のものだという現実味はなかった。

 一夏の身体が落ちていく。海へと、重力に引かれ、羽をもがれ、落ちていく。

 その間もずっと、福音から照射されるイメージを一夏は受け取っていた。

 

「大丈夫。わたしがさせない。この未来は、私が絶対に回避する。だからどうか安心して欲しい。織斑一夏、キミの友も、大切な人も、わたしはキミという犠牲を背負って守り抜いてみせるから」

 

 視界が明滅する。逆さになった天地の中で、脳裏を次々と破局の未来が過ぎていく。

 

 半ばで断ち切られた太刀を握り、顔の半分を血に濡らした箒が苦悶の声を上げている。

 倒れ伏した簪を中心に、血の池が広がっていく。

 全身の装甲を砕かれた鈴が壁に背を預け俯いている。

 片眼を潰されたセシリアが何かを叫んでいる。

 何本もの槍を全身に突き刺されたシャルロットが必死に地面を這いずり回っている。

 足を引きずりながらも、ラウラが咆哮を上げて突き進んでいく。

 

 過剰演算が終わらない。

 白い鎧はまだ消えていない、だが一夏の生命は確実に死に瀕していて。

 最後の力を振り絞るようにして、『白式』は吹き飛ばされたウィングスラスターを『疾風鬼焔』の翼で再現すると、それで乗り手である一夏をすっぽりと包んで。

 着水して、海の底へと沈んでいく。

 最後の最後に見せられたものは。

 

 

 

 

 

 そして──東雲がそこらへんのISから武装をかっぱらって継戦していた。

 

 

「いやそこは倒れとけよッ!?」

 

 

 

 

 

 

 







IS二次創作あるある
その境界線の上に立ち(シン・レッド・ライン)」と「君の名は(ユア・ネーム・イズ)」だけはガチでかっこいいと思っているので改変せずにサブタイにするし何なら巧妙に地の文に仕込んだりセリフに採用したりする





次回
83.君の名は(ユア・ネーム・イズ)



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