アレマリ回の後編です……久しぶりの投稿で内容が変になっていないか心配ですが、温かい目で読んでいただけると助かります(^◇^;)
「中尉から離れろ! ソレスタルビーイング!!」
マリー……ピーリスの救助に来たセルゲイがアレルヤに銃を向けたことで、その場の空気が緊迫したものへと変わる。
(と、兎に角、アレルヤさんを守らないと……!)
テントの影から様子を見ていたツナは、アレルヤを守る為にハイパー化しようとするが……
「ま、待ってください、大佐!」
「マリー!?」
(マリーさん!?)
それよりも先にマリーがアレルヤを庇うように、セルゲイの拳銃の射線上に立つ。
「中尉、何故ソレスタルビーイングであるその男を庇う!?」
「彼、アレルヤは私にとって大切な人です。それに……今の私は大佐の知っているソーマ・ピーリス中尉ではありません」
「っ! それは、一体どう言うことだ……!?」
「実は……」
マリーは自身のことやアレルヤとの関係……隠されていた超人機関の真実を全てセルゲイに話した。
拳銃を下ろさずにマリーの話を聞いたセルゲイは、眉間に皺を寄せていた。
「人格を上から書き換えただと……!?」
「そうです、今の私はソーマ・ピーリスではありません……マリー、マリー・パーファシーです」
「マリー……それが中尉の本当の名か……超人機関は、そのようなことまで……!」
(あの人……)
ツナはカタロンのような反連邦主義者達への弾圧や虐殺をするアロウズや、非人道的な実験でアレルヤやマリーのような超兵を生み出して戦わせようとする超人機関の話を聞き、この世界の軍隊やその軍隊を認めている地球連邦、さらにはそこに所属する者達に対して正直悪いイメージしか持っていなかった……だがマリーに非道な行為をした超人機関に少なからず怒りを覚えるセルゲイの姿を見て、彼が良識のある軍人だと認識を改めていた。
だがセルゲイが未だにアレルヤに銃口を向けている以上、ツナはまだセルゲイに気を許す訳にいかなかった。
一方で、アレルヤがマリーを庇うように前へ出る。
「マリーは優しい女の子です。人を殺めるような子じゃない……だから、貴方にマリーは渡せない」
「アレルヤ……」
「…………」
アレルヤは銃口を向けられながらも毅然とした態度にセルゲイにそう言い放つ。
セルゲイがマリーを救助に来たことはアレルヤもわかっている……だが、その対象は『マリー・パーファシー』では無く、『ソーマ・ピーリス』だ。
「連邦やアロウズに戻ったら、彼女はまた超兵として扱われる……そんなこと、二度とさせない!」
マリーを取り戻して、戦場から引き離したい……それがアレルヤにとっての戦う理由であり、決して譲れるものでは無かった。
アレルヤのその言葉を聞いたセルゲイは不服そうに唇を歪める。
「だが、君はソレスタルビーイングだ。君といても中尉は戦いに巻き込まれる」
「そんなことはしません!」
「テロリストの言うことを信じるほど私は愚かではない!」
「信じてください!」
「私は君の……いや、君達の馬鹿げた行いによって多くの同胞、部下を失っている……その恨み、忘れた訳ではない!」
「っ……それでも……それでも、僕はマリーを戦場から救い出すって決めたんだ! 何があってもマリーは渡さない!」
「それはこちらの台詞だ! 君が中尉のかつての友人とは言え、ソレスタルビーイングの人間である以上、中尉を任せる訳にはいかん!」
「アレルヤ……大佐……」
同じ人を想っているにも関わらず、何処までも平行線なアレルヤとセルゲイ。
自身を巡って口論する2人にマリーは悲しそうな表情を浮かべていた。
一方で、アレルヤ達の様子を遠巻きから見守っていたツナはと言うと……
「…………はあ〜……」
先程の緊張した様子とは違い、何処か呆れた様子で溜息を吐いていた。
そして、ツナは……
ボウッ!!
ハイパー化して、両腕のXグローブの炎を逆噴射して目に止まらぬ速さで移動すると……
げ・ん・こ・つ!×2
「いだあっ!?」
「ぐふぅっ!?」
「アレルヤ、大佐!?」
アレルヤとセルゲイの脳天に拳骨をお見舞いし、2人を地面へと叩き伏せた。
「い、痛っ、今のは……え"っ!?」
「い、一体、何が起きて……ん"っ!?」
痛む頭を押さえながら起きたアレルヤとセルゲイの視線に入ったのは……
ゴゴゴゴゴ……!
「あんたら2人とも、いい加減にしろ……!」
鬼の形相を浮かべ、額の大空の炎を猛々しく燃え上がらせ、絶対零度の視線をアレルヤとセルゲイに向けながら腕を組み、仁王立ちしながら空に浮いているツナの姿であった。
どうやらツナは『一番大切なこと』をわかっていないアレルヤとセルゲイに怒っている様だ。
「「つ、ツナ君!?」」
「こ、子供だと!? 君は一体……!?」
「今は俺のことはどうだって良い。それよりもさっきから黙って聞いていれば……『お義父さん、娘さんを僕にください!』、『誰がお義父さんだ!? 貴様なんぞに娘さんはやらん!』的な会話をしてるのかあんたらは!? 聞いているこっちが恥ずかしい!///」
「「な、何を言ってる(んだ/のかね)君は!?」」
「…………///」
ツナのとんでもない発言に対してアレルヤとセルゲイは仰天し、マリーに至っては湯気が出るほど顔を真っ赤にしていた(笑)
ツナは一度咳払いをし、先程の怒りを収めて冷静な様子で話を続ける。
「んんっ!……2人ともマリーを大切に想うあまり、大切なことをわかっていない」
「大切なこと……?」
「それは、一体……?」
「アレルヤのマリーを戦いから遠ざけたい気持ち、そしてそっちの大佐のマリーを信用できない相手に任せたくない気持ちはどちらも理解できる……だけど、肝心のマリーの気持ちを蔑ろにするのはどうなんだ?」
「「っ!」」
「2人がマリーを想ってあれこれ言っても、どうしたいかを決めるのは彼女自身だ。彼女が自分の意志で決めて選んだことなら、何があっても後悔しない筈だ」
「「…………」」
「ツナ君……」
ツナの言う通り、アレルヤとセルゲイがマリーを想ってあれこれ言っても、どのような道を歩むかはマリー自身が選ぶこと……例えそれがマリーにとって過酷な道であっても、彼女自身の意志で選んだことなら尊重するべきである。
ツナのその言葉によって、自分達の間違いに気付いたアレルヤとセルゲイはマリーに謝罪する。
「ごめん、マリー……」
「すまない、中尉……」
「ううん、良いの……アレルヤと大佐が私のことを大切に想ってくれていることは、十分にわかっているから……だからこそ、私自身の『答え』をちゃんと言わないといけないわね」
マリーは聖母のような笑みを浮かべながら2人を許し、自身の『答え』を言おうと一旦深呼吸をするが、それでも何処か不安そうであった。
そんなマリーの様子に気付いたツナは優しく声をかける。
「大丈夫だ、どんな答えでも2人は納得してくれる……マリーは自分の気持ちを正直に言えば良い」
「……ええ。ありがとう、ツナ君……」
ツナの言葉で後押しされたマリーは真っ直ぐにセルゲイに視線を向け、自身の正直な気持ちを口に出す。
「スミノルフ大佐……貴方がソーマ・ピーリスを対ガンダム戦だけに徴用し、他の作戦に参加させなかったこと……そして娘のように接し、娘として迎え入れようとしてくれたこと……感謝しています……それでも、私ーーマリー・パーファシーは、アレルヤと一緒にいたい……超人機関にいた頃、五感を失って脳量子波でしか会話できない孤独だった私に、彼はいつも話しかけてくれた……そんな彼を、私は……愛しているから……」
「マリー……」
近くにいるアレルヤの手を握りながら、彼と共にいたいと言う想いを口にしたマリー。
その答えを聞いたアレルヤはマリーの想いに応えるべく、彼女の手を握り返しながら視線をセルゲイに真っ直ぐ向け、自身の決意を口にする。
「スミノルフ大佐……貴方がソレスタルビーイングの人間である僕を、貴方の仲間や部下の命を奪った相手を信用できないのは理解できます……それでも僕はマリーと一緒にいたい、離れ離れになんてなりたくない……例えマリーを戦いに巻き込んでしまったとしても、僕に名前と生きる意味を与えてくれた彼女を、僕は絶対に守り抜いてみせます!」
「アレルヤ……!」
アレルヤはマリーと共にいたいと言う正直な想いを口にし、何があっても彼女を守り抜くと言う覚悟をセルゲイに示す。
アレルヤとマリーの答えを聞いたセルゲイは……
「……そうか……」
柔らかな笑みを浮かべると同時に、拳銃の銃口を上に向けると……
パアンッ!!
「「っ!?」」
「……」
空に向かって発砲した。
セルゲイの不可解な行動にアレルヤとマリーが驚く一方で、ツナは超直感で彼のその行為の意味を察したのか冷静に見守っていた。
そして、セルゲイは拳銃をホルスターに戻すと……
「たった今、ソーマ・ピーリス中尉は名誉の戦死を遂げた。上層部に報告すべく、帰投する」
「っ!」
「大佐……!」
アレルヤとマリーの互いを想う気持ちを……アレルヤにマリーを……大切な存在であるピーリスを託すことを認めたセルゲイは、最愛の娘(ピーリス)への最後の贈り物とも言える言葉を口にするのだった。
元々セルゲイはアレルヤを撃つつもりなど無かった……恨みが無いと言えば嘘になるが、短い会話の中でピーリス……マリーがアレルヤをどれほど大切に想っているのかを知ったし、同様にアレルヤがマリーをどれほど大切に思っているかのかも知った。
それにアレルヤの言った『マリー(ピーリス)を二度と争いに巻き込まない』と言う思いはセルゲイと同じであった……彼女を悲しませたくないと言う思いも。
だからこそセルゲイは拳銃を向け、厳しい言葉を投げてでもアレルヤのマリー(ピーリス)を守る覚悟が本物か試したかったのだ……あまりに回りくど過ぎた上にマリー(ピーリス)の気持ちを蔑ろにしてしまい、ツナの拳骨を食らう羽目になってしまったが。
そしてセルゲイはアレルヤの覚悟を認め、アレルヤを信じてマリー(ピーリス)を託すことを決めたのだ……だが、セルゲイがアレルヤが信じたのにはもう1つ大きな『理由』があった。
「……そう言えば、礼を言ってなかったな」
「え?」
「5年前の低軌道ステーションの事故……救助活動に参加してくれたこと、感謝する……」
「! もしかして、貴方はあの時の……!」
「フッ、覚えていてくれたとはな……やっと礼が言えて良かった」
そう、5年前の低軌道ステーションで起きた事故……アレルヤのもう1つの人格である『ハレルヤ・ハプティズム』の脳量子波に怯え、錯乱したピーリスが引き起こした事故の際、アレルヤはミッションを放棄して救助活動に参加したのだ。
セルゲイはその時のことを今でも恩を感じており、数年来伝えることができなかった謝辞をアレルヤに言うことができて満足そうであった。
セルゲイは帰投する為、GN-X IIIに搭乗しようとしたが……1つだけ気掛かりなことがあり、足を止める。
「ところで先程から気になっていたのだが……そこの少年」
「ん?」
「空に浮いていると言い、その額に宿る妙な炎と言い、君がただの子供では無いのは見てわかる。君は一体何者なのかね?」
「…………」
「す、スミノルフ大佐、彼は……!」
先程自身とアレルヤの口論を(物理的に)仲裁した少年ーーツナのことであった。
ただの子供と片付けるには、ツナはあまりに異質過ぎる……それが気になって仕方ないセルゲイはツナに何者なのかを問う。
セルゲイの問いに、ツナのことを地球連邦に知られる訳にいかないアレルヤは身を固くし、どう説明すれば良いか悩んでいると……
「……俺の名は沢田綱吉、この世界とは違う世界から来た人間だ」
「つ、ツナ君!?」
「えっ!?」
「ち、違う世界の人間だと……!?」
何を思ったのか肝心のツナがあっさりとバラしてしまい、アレルヤは仰天する。
違う世界から来た人間と言う単語に、マリーとセルゲイは信じられないとばかりに驚きの表情を浮かべる中、ツナはさらに話を続ける。
「そして、今は……」
ボウッ!!
ツナはリングに炎を灯し……
「このガンダムーーダブルオーフレイマーのパイロットとして、ソレスタルビーイングの皆と一緒に戦っている」
彼のガンダムであるダブルオーフレイマーXを展開する。
「なっ!? このガンダムは、紅の二個付き!?」
「と言うことは……ツナ君が、紅の二個付きのパイロット……!?」
ツナが紅の二個付きことダブルオーフレイマーXのパイロットであることに、セルゲイとマリーは驚きを隠せなかった。
特にマリーは人格がピーリスであった時に一度戦闘したことがあるので、その衝撃は大きかった。
「つ、ツナ君、どうして……!?」
「……スミノルフ大佐に隠し事はできないと感じた。それに……大佐に話しても大丈夫だと思ったから、正直に話すことにしたんだ」
「だからって……!」
「わかっている、簡単に話して良いことじゃないのは俺自身よくわかっている……でも、大佐相手に嘘はつきたくない」
いくらセルゲイが良識ある軍人とは言え、簡単に話して良い訳では無いのはツナ自身よくわかっている……それでもツナはセルゲイ相手に嘘はつきたくない気持ちが強く、質問されたことに対してだけでも正直に話すことにしたのだ。
一方、ツナがガンダムのパイロットであることを知ったセルゲイは一瞬アレルヤ達ソレスタルビーイングに憤りを覚えそうになるが、早合点してはいけないとすぐに冷静になると……
「君が異世界の人間で、紅の二個付きーーガンダムのパイロットであることが本当のことだとして……異世界の人間である君が何故ソレスタルビーイングと共に戦っている? まさかとは思うが、ソレスタルビーイングの紛争根絶と言う理念に魅入られでもしたのかね?」
さらなる問いとして、異世界の人間であるツナが何故ソレスタルビーイングと共に戦っているのかを聞く。
ツナのような年齢の子供は様々なことに影響を受けやすい。
もしツナがソレスタルビーイングの紛争根絶と言う理念に魅入られているとしたら、セルゲイは何としても止めなければならない。
年端も行かない子供が覚悟も無しに死と隣り合わせの戦場にいること……ましてやテロリスト同然であるソレスタルビーイングと行動を共にすることは、絶対に間違っている。
そんな思いを抱えたセルゲイの問いに対して、ツナは……
「…………」
シュウウウ……
空から地面へと降り立つと同時にハイパー化を解除し、視線をセルゲイに向ける。
「っ!(先程とは違って弱々しい雰囲気だが、彼の瞳から真っ直ぐで強い意志を感じる……!)」
先程までの歴戦の戦士のような雰囲気が消え、今は弱々しく頼りない印象へと変わったことにセルゲイは内心驚く。
だが、それでもツナの瞳には真っ直ぐで強い意志が宿っているのを感じていた。
そして、ツナは自身の戦う理由をセルゲイに語る……かつてフェルトに語った時と同じように。
「……俺は紛争根絶とか世界の平和とか、そう言う大層な理由で戦っていません……俺自身がアレルヤさん達トレミーの皆を死なせたくない、守りたいと思うから戦うんです! 誰よりも平和な世界を望んでいて……異世界から来た俺を助けてくれて……俺を戦いに巻き込まないように気遣ってくれて……戦うことを選んだ俺のことを心配してくれる、温かくて心優しい人達を、アロウズみたいな歪んだ連中の犠牲になんかさせない! 例えトレミーの皆を守ることが間違いだったとしても……世界中の人間を敵に回すことになったとしても、この人達を守る為に戦わなかったら死んでも死に切れない!」
「「っ!」」
「ツナ君……」
ツナの世界を敵に回してでもプトレマイオスクルーの皆を守りたい、死なせたくないと言う純粋で強い覚悟と温かな優しさが秘められた彼の戦う理由に、セルゲイとマリーは目を見開き、アレルヤはツナの優しさが嬉しかったのか目から少しばかり涙を浮かべていた。
そして、ツナの戦う理由を聞いたセルゲイとマリーは……
(何という少年だ、これほど純粋で強い覚悟で戦っていたとは……それに、こうやって直に話しているからこそわかる……この子が幾つもの死線を乗り越えて来たことを……!)
(凄い……なんて優しくて強い子なの……ソーマ・ピーリスが、アロウズが彼に勝てないのも納得だわ……)
ツナが純粋で心優しく、強い覚悟を持った少年であると……そして、幾つもの死線を乗り越えて来たことを。
だからこそわかる……アロウズが彼に勝てないことを、ツナがソレスタルビーイングに強制的に戦わされている訳ではない、自分の意志で戦っていることを……
それを確認したセルゲイは……
「フッ、そうか……君が自分の意志でソレスタルビーイングと共に戦っているのは、よくわかった……その純粋で真っ直ぐな心、強い覚悟をいつまでも忘れないでいて欲しい……そして、大切なものを守り抜くのだぞ」
「スミノルフ大佐……はい!」
ツナの覚悟を認め、本来なら敵である筈の彼に強い激励の言葉をかけるのだった。
「アレルヤ君、そして綱吉君……ピーリスのことを、どうかよろしく頼む……」
「はい、マリーは必ず守り抜いてみせます……!」
「俺も、マリーさんを守ります……アレルヤさんの大切な人であるマリーさんは、もう俺の守るべき人ですから……」
「ありがとう……では、私はそろそろ失礼するよ」
言うことを全て伝え、最早何も言うことは無いと思ったセルゲイはGN-X IIIへ向かうが……
「スミノルフ大佐!」
マリーの呼ぶ声に足を止める……そして、セルゲイは彼女に背を向けたまま応える。
「……何だ?」
「……最後に、貴方にどうしても伝えなければならないことがあります……私の中にいるソーマ・ピーリスがこう言っています……『貴方の娘に、なりたかった』と……」
「っ!」
マリーの中にいるピーリスの言葉を聞いたセルゲイの顔が僅かに上がる。
彼は逡巡していた……このまま顔を合わせず去ることもできるが、これが最後だと思うとどうしても抗いがたかった。
ここまで来て、これで別れなのだ……それぐらいの我儘は、許されるのではないだろうか……?
そして、セルゲイは……
「……そうか、その言葉だけで十分だ」
柔らかな笑みを浮かべながら振り向き、マリーにそう答えた。
彼の視線の先にいるマリーは雨で顔をぐちゃぐちゃに濡らし、泣くのを堪えるかのように顔を歪めていたが……
「……大佐!」
それも程なく決壊し、マリーは弾かれたようにセルゲイに駆け寄り、彼に強く抱き着いた。
セルゲイはそれを柔らかく受け止め、躊躇いながらも恐る恐るマリーの体に腕を回し、彼女の美しく長い銀髪を優しく撫でた……親子になりきれなかった2人の、最初で最後の抱擁であった。
「生きてくれ……生き続けてくれ……彼と、幸せにな……」
それだけ言うと、セルゲイはマリーの両肩に手を置き、彼女の体をそっと離した。
マリーも素直に従い、腕を解いて一歩下がると、掌を相手に相手に向ける人革連式の敬礼をして見せた。
「今までありがとうございました、大佐……!」
「うむ」
セルゲイも人革連式の敬礼で応えた。
その後セルゲイは今度こそ振り返ること無くGN-X IIIのコクピットに乗り込み、ハッチを閉めると機体を浮上させ、そのまま飛び去って行く。
機体の操縦を手動から自動操縦に切り替えた後、セルゲイの脳裏にピーリスとの出会いから、彼女と過ごした思い出が蘇っては消えて行く。
彼女との思い出は全て覚えている、忘れる必要など無い……ただ、心の片隅にそっとしまって置くだけだ……マリーがピーリスと言う名を忘れたくないと言っていたことも……
「……ピーリス……」
モニターが夜空だけを映すコクピットの中で、セルゲイは静かにピーリスの名を呟くのだった……
セルゲイのGN-X IIIが遠くへ消え去った後も、マリーは敬礼を解こうとしない。
身じろぎもせず雨に打たれている彼女に、アレルヤは近づいて行った。
「マリー……」
マリーは泣いていた……空を見上げたままの両目からは幾筋もの涙が頬を伝い落ちている……寒さとは違う震えが彼女を支配していた。
そんな彼女を見たアレルヤは、改めて自身がセルゲイに託されたものの大きさを実感する。
だからこそ、彼はセルゲイに言った『マリーを二度と争いに巻き込まない』と言う約束を果たすつもりだ……勿論、セルゲイがマリーに言い残した『生き続けてくれ』、『彼と幸せに』と言う願いも……
アレルヤはマリーの体を後ろからそっと抱き締め、敬礼したままの彼女の手を握り、頬を寄せる。
「……ありがとう、生きていてくれて……ありがとう、こんな僕に……生き甲斐をくれて……」
「……アレルヤ……」
マリーは体を振り向かせ、アレルヤの胸に顔を埋める。
アレルヤは彼女の体を強く抱き締めた……腕の中で泣いているマリーを守りたいと、二度と手放さないと、愛おしいと思いながら……
そんなアレルヤとマリーの様子を見ていたツナは……
(……邪魔すると悪いし、辺りに敵がいないか見て来ようかな……///)
2人の雰囲気に気を利かせたのか、または気恥ずかしく感じたからなのか、アレルヤ達に気付かれないようダブルオーフレイマーXをリングに仕舞い、ハイパー化すると周囲に敵がいないか見回りに向かうのだった。
ツナが去った後、アレルヤ達はセルゲイのGN-X IIIから送られた光通信によって居場所を特定したロックオンのケルディムによって救助された。
因みに、ロックオンのアレルヤ発見の連絡と同時に伝えた『アレルヤの彼女も一緒だ』と言う悪戯心を発露させた報せでプトレマイオス2のブリッジ内が騒ぎになったり、一旦補給でプトレマイオス2に戻っていた刹那がアレルヤの無事を聞いて安心したように柔らかな笑みを浮かべたのを見た沙慈が意外とばかりに驚くと言う一幕があったり、ツナがアレルヤ達に気を利かせることばかりに意識が言ってプトレマイオス2にアレルヤを発見したことの連絡をするのを忘れてスメラギやフェルトに怒られると言うのがあったりしたのは余談である(苦笑)
アレルヤを無事に見つけて一安心なツナであったが……彼はこの後世界の歪みである敵と遭遇することになるとは、この時知る由も無かった……
To Be Continue……
次回はツナがイノベイドに遭遇します。
次回も応援よろしくお願いしますm(_ _)m