新しいことにも挑戦してみたくなったので、今回は話にだいぶ改造が施されてしまいました。原作尊重派の方はお控えくださいませ。
――そんなこんなで、雪ノ下雪乃が戸塚彩加の依頼を受諾した翌日から彼の強化訓練がはじまっていた。
「ブラスティー・サンドロック(岩砂閃波)!!!!」
・・・途中、何故かは知らねどゲストキャラとして仮加入にしてきた材木座義輝を加え、奉仕部メンバー+依頼者一人にオマケ一体という人数だけは相応の数にまで膨れ上がった一行はグラウンドの一角にあるテニスコートを占拠し、日々苦しい訓練を続けていたのである。
「んっ・・・・・・くっ、ふぅ、はぁ」
「うぅ、くっ・・・・・・んあっ、はぁはぁ、んん」
「八幡・・・なぜだろうな。我は今、とても穏やかな気分だ・・・」
「奇遇だな。俺も同じだ」
「ですなぁ~。いやはや、眼福眼福。日本風に表現すれば『絶景かな』って所でしょうか?」
「・・・・・・あなたたちも運動してその煩悩を振り払ったら?」
「ふ、ふむ。訓練を欠かさぬのは戦士の心得。どおれ、我もやるとするか!」
「だ、だな。運動不足は怖いもんな、糖尿とか痛風とか、あーあと肝硬変とかなっ!」
だだだだ―――っ!!
・・・煩悩にまみれながらも罪悪感を感じる正常さを持った二人が去った後、雪ノ下は傍らに立つ笑顔の鉄仮面を見上げてブリザードの視線で一撫でする。
「――あなたはご一緒しなくてもいいのかしら? 安田君。私にはあなたこそが他の誰より世俗にまみれた煩悩を払うべき愚者の最たる存在に見えるのだけど?」
「はっはっは、謹んでご辞退いたしましょう。なにしろ我が輩は見ての通り、減らず口と他人を論評する以外に何の取り柄もないボッチですからな。苦手な運動科目など端から捨てておりましてね。一切全く興味ございません故」
「自分の問題点を自覚しているのに更生しようとは思わないのね。あなたのそういう弱さを肯定してしまう部分、私は嫌いだわ」
「ええ、我が輩なんの役にも立たない社会的に変わらないとまずいレベルのボッチ学生ですが、それが何か?」
「・・・・・・っ(キッ!!)」
相変わらず対極の思想にある二人の論客は意見が交わることなくぶつかり合い、それを見ていた比企谷八幡は蚊帳の外の第三者意見として総評をつぶやき捨てる。
「・・・まぁ、言うだけで何もしないところは似た者同士なんだけどな・・・」
――こうして、指示するだけで自分では体を動かさない奉仕部部長による指導の下、テニス部員1名+奉仕部メンバー2名+αが特訓して強くなる日々が過ぎていった。
関係あるかないか知らないけれど、テニスというのは試合に参加する一人だけを強くすれば全体のチーム力まで向上するスポーツなのだろうか? 是非にも専門家から意見を聞いてみたいものである。
そんなある日のこと。
「・・・まだ、やるつもりなの?」
雪ノ下雪乃がフェンスに寄りかかりながら戸塚彩加に問いかける。
「うん・・・・・・、みんな付き合ってくれるから、もう少し頑張りたいし」
「・・・そう・・・」
彼は転んで擦り剥いた膝の痛みを堪えて立ち上がり、健気に微笑みながら答えを返す。
雪ノ下の指示により、適当にそこらで転がってるボールを放り投げては戸塚に必死で食らいつかせるという特訓の末に生じてしまった名誉の負傷であった。
ま、もっとも。
「まだも何も、基礎的な体力トレーニングを適当な期間やらせた後にボール追いかけさせてるだけで劇的な変化を求めるコーチの方がスポ根漫画の読み過ぎとしか思えないのですけどなぁ」
「・・・まぁなー。一日でつけられる筋肉量なんて決まっているんだし、いくらきついトレーニングやらせたところで人体の限界は超えられんだろ普通の人間には。・・・まぁ、本気でスーパーサイヤ人を目指せとか言うなら話は別かもしれんけども」
「・・・・・・(キッ!!)」
科学スポーツ理論に基づく、ひねくれボッチ二人の言葉に気を悪くしたのか雪ノ下は「由比ヶ浜さん、後は頼むわね」と言い残して何処かへ去って行ってしまった。
残された戸塚が不安げな表情でぽつりと漏らす。
「なんか、いつまで経っても上手くならないし、怒らせるようなこと、言っちゃった、かな?」
「それはないと思うよー。ゆきのん、頼ってくる人を見捨てたりしないもん。・・・むしろ、怒らせるようなこと言っちゃってたのは――」
「まぁな。お前の木炭作りに託けた毒味に付き合うぐらいだからな」
「ですなー。尤も見捨てられないだけで結果が出るかどうかは当人たち自身の努力に依存しているタイプではありますが。たとえば未だにハート型の木炭作ってくる元依頼者とか」
「アンタたちが原因だよ!? ヒッキーとニセッチがゆきのんの悪口ばっか言ってるからゆきのん怒っちゃったじゃん! どうしてくれんのさ!?
あと、さっきのわたしに言った言葉はどういう意味だぁ!?」
由比ヶ浜が全力でツッコミというか、苦情の非難をそこらに転がってるボールを投げつけまくることで加害者二名にぶつけまくってくるが、悲しいかな優しすぎる性格が災いして大して痛くない。
――余談だが、『ニセッチ』とは安田ことシェイクスピア(偽)に付けられた由比ヶ浜流ネーミング術のあだ名である。
「なんか胡散臭いから」という、至極もっともながら身も蓋もない命名理由で名付けられたそれを「いやはや全くもってその通りですな!」と、呼ばれる本人自身が大いに気に入り絶賛したことにより定着化してしまった。当然ながら呼ぶ側も呼ばれる側も当人たち二人だけしか存在しない。さすがに失礼すぎるからと八幡や雪ノ下さえ敬遠した名前を今日も由比ヶ浜結衣は悪意もなく大声でグラウンド中に遠慮なく響かせている
痛みなき説教で人が過ちを改めることはほとんど期待できないという現実を知らぬ平和ボケした日本人的女子高生の代表格由比ヶ浜結衣がひとしきり苦情を放ち終えたときのこと。
――横合いから、嵐のような一団が現れたのだ・・・・・・
「あー、テニスじゃーん」
あっけらかんとした華やかな女声が、不意に轟く。
大して大きくない声量だったが、通りやすい声をしていたことと、妙に舌っ足らずで相手を見下した感が混じっている悪意なき無邪気さが人々の心にわずかなササクレを生じさせてしまっていたからかもしれない。
その女生徒の言葉は実際よりも大きく響いて聞こえ、言ってる内容以上の悪印象を耳にした相手にもたらしてしまっていた。
金髪縦ロールに、花魁も斯くやと言われんばかりな着崩した制服スタイル。スカートに至っては丈が短すぎて、見せる用のパンツを履いてなかった場合には「ただの痴女か露出狂だろう」と決めつけてしまってよいレベルの長さしかない。
「ねぇー、あーしらもここで遊んでいい?」
横柄な態度で、だが意図的な悪意までは感じさせない声で言ってくる彼女の名は三浦優美子。
八幡やシェイクスピア(偽)由比ヶ浜のクラスの最上位カーストにおける中心人物、女性側トップであり、男性側トップは今彼女の隣にいる成績優秀スポーツ万能の優男、葉山隼人だ。
校則に抵触しない程度まで脱色した明るい髪色と爽やかな言動、まぶしい笑顔が特徴的な美少年である
性格は別として、この二人が並ぶと画的に華があり、格下だと自覚させられてる側の人間たちとしては無条件で萎縮させられやすい。
戸塚は見た目の良さでは負けていないものの、華やかさという一点においては完敗してるので気圧されざるを得ない。
「み、三浦さん。僕たちは別に遊んでいるわけじゃなくて・・・」
「え~? 何? 聞こえないんだけど~?」
「・・・・・・」
大声に慣れた三浦としては本当に聞き取りづらかっただけなのだけど、高圧的な物言いにも慣れてしまっているのが災いして彼女の言動は平均値がキツ目に設定されている。戸塚のように気の弱い生徒にしてみたら怒られているようにしか感じられない口調と声音を自然体で発揮してしまう悪癖がある。
「あー、悪いんだけど、ここは戸塚が許可とって使ってるものだから他の人は無理なんだ・・・」
見るに見かねた八幡が口を差し挟もうとするが、自分の我が儘が通って当たり前の環境で生活し、口答えしてくる者がほとんどいない生活を送ってきた三浦には一顧だにしてもらえない。
「はぁ~? アンタも使ってんじゃん」
「いや、俺は練習に付き合ってて業務委託つーか、アウトソーシングなんだよ」
「はぁ~? なに意味分かんないこと言ってんの? キモイんだけど」
露骨なまでに八幡の言葉に嫌悪感を表した表情で三浦は彼を罵る。
このときの彼女には大した悪意も害意もなかったが、罪悪感や自分の言っている言葉が相手にどれだけ不快なものかを考える意思も持ち合わせていない。
言うなれば彼女は障害の少ない人生を、他人が自ら退いてくれることで歩んできた人間であり、自分が正しいと信じた理屈に疑問というものを抱くことがあまりなく、他人の心情に配慮しないわけではないのだが自分基準でしか見ようとしない性格の持ち主なのである。
ハッキリ言って、自己満足で凝り固まっているのが三浦優美子という悪意なき暴君タイプの少女が持つ側面的な特徴であり、その弊害が今の現状をもたらしてしまっていたとも言えるだろう。
――もっとも、今この場においてそれは最悪に分類される性格でもあった訳なのだが。
「おや? これは異な事をおっしゃられる。確か三浦殿も県下有数の進学校である我らが総武校生徒の一員であると記憶しておりましたが、これは我が輩の記憶違いでしたかな?
アウトソーシングも業務委託も、今時中学生でさえ知ってて当たり前の知らない奴はバカと言われて然るべき単語なのですがな?」
シェイクスピア(偽)の乱入である。
基本的に相手が自主的に退いてくれるからこそ楽な道を歩めている優美子のようなタイプは、八幡のように『こいつは言っても無駄な奴だ』と諦めてくれる相手が一番楽をさせてくれるありがたい相手であり、シェイクスピア(偽)のように嬉々として絡んでくるタイプとは相性がすこぶる悪い。
その点において彼女は雪ノ下雪乃と被害者仲間になれたかもしれないが、敵を排除するだけで互いに向上しようとはしないような気もするから無意味かもしれない。あくまで雪ノ下雪乃の持論を信じればの話ではあるけれども。
「なっ・・・!? ば、バッカじゃないの!? 知ってるわよ! 知らないわけないじゃん! 知ってるに決まってんじゃん! ただアンタらを試しただけだってことも解らないの!? アンタの方こそバカなんじゃないの!?」
案の定、安っぽい挑発を安っぽい挑発だと気づくことなく本気で噛みついてくる三浦優美子。良くも悪くも素直すぎる性格の持ち主なのである。
「あーし、英語だってペラペラだから! 全然バカとは真逆の人間だから!
たとえば! バ!・・・ばーむくぅへん?」
「・・・優美子、それはドイツで生まれたお菓子の名前だと思うよ・・・?」
「しかも今なら日本のスーパーでも手に入りそうですな、150円かそこらの値段で。
あと、商品名は基本カタカナだけで書かれているのではないかと愚考いたします」
「う、うっさいし! 意味分かんないし、あーしもう知らない! 勝手にすれば!?」
そう叫んで真っ赤な顔色をしたままそっぽを向き、携帯を取りだして弄り始める優美子。
嫌なことがあると携帯に逃避して引き籠もろうとする現代日本人の典型タイプだが、今の場合に限って言えば非常にありがたい対応だ。
正直、彼女が会話に加わり続けても失言を続けるばかりで墓穴を掘りまくるだけだろうと、葉山でさえ思ってる。黙っていれば今以上に恥じかいて傷つくこともないのだから、彼女のためにも一番マシな結果だろうと、葉山隼人は仕方なしにそう結論づけざるを得なかった。
何事も短期間で足りない部分を補わせることはできないのである。優美子の学力を今からシェクスピア(偽)に合わせろというのも酷すぎる言い草だったから・・・。
「まぁまぁ、そうケンカ腰にならなくてもさ。
みんなでやった方が楽しいだろうし、そういうことでいいんじゃないかな?」
曖昧な笑顔で彼はそう言い、一般論という名の無難な落とし所を提出した。
深くほじくり返したところで誰の腹も痛みしか覚えない不毛すぎるやり取りは有耶無耶にしてしまうのが一番いいと、彼自身はそう思い善意で提案した内容だったのである。
であるが、しかし―――
「みんなって誰だよ・・・。かーちゃんに『みんな持ってるよぉー』って物ねだるときに言うみんなかよ・・・。誰だよそいつら・・・。友達いないからそんな言い訳使えたことねぇよ・・・」
「あ、いや。そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。・・・なんか、ごめんな? その、悩んでるなら俺でよければ相談乗るからさ」
なぜか、別の場所に埋まってた黒歴史という名の地雷を盛大に掘り起こしてしまう結果となってしまった。
嘘の親切心から出た言葉ではなかったけど、正直『このタイミングで言うのは控えてほしかった・・・』とも思ってしまう葉山隼人、サッカー部エース17歳。♂。
「葉山、お前の優しさは嬉しい。お前の性格がいいのはよくわかった。そして、サッカー部のエースだ。その上お顔までよろしいじゃないですか。さぞや女性におモテになられるんでしょうなぁ」
「い、いきなりなんだよ・・・」
「そんないろいろと持ってるお前が、何も持ってない俺からテニスコートまで奪う気なの? 人として恥ずかしいと思わないの?」
「そのとおりだっ! 葉山某! 貴様のしていることは人倫に悖る最低の行動だ! 侵略だ! 略奪だ! 復讐するは我にありっ!」
「ふ、二人が加わると卑屈さと鬱陶しさが追加で倍増されて、いろいろと余計に悪化して見えてきちゃったよ・・・」
八幡が己の正義を元に葉山を褒め殺しにして材木座が叫び、由比ヶ浜が意気消沈する。
味方同士で対照的な奉仕部メンバーが和気藹々している中、一発のテニスボールがその雰囲気を台無しにしてブチ壊す。
パコン!
「ねー、隼人ぉ。あーし、いい加減テニスしたいんだけど?」
三浦優美子だ。しばらく放置されてたおかげでテンションが回復して前線に復帰してきてしまった。
「んー、じゃあこうしよう」
三浦の戦線復帰で焦った葉山は、さらなる妥協案の提示を決意した。
「部外者同士、俺とヒキタニ君で勝負する。勝った方が今後休みはここを使えるってことで」
「え? えぇと・・・」
「もちろん、練習にも付き合う。強い奴と練習した方が戸塚のためにもなるし、みんなも楽しめる。いいかな?」
「何それ、超楽しそう! あ、じゃあいっそ混合ダブルスにすればいいじゃん。うっそやだあーし頭いいんだけど~」
一見しただけなら一分の隙もない完璧なロジックに見える葉山の意見に三浦が賛同して、さらにルールが彼らの有利に作用するよう働きかけられてしまう。
八幡としても、嫌な流れであることは自覚していたが、場の流れを作られてしまうと彼のようなヒール役を演じることで流れに一石投じるタイプは対処が難しくなる。
だが、しかし。
今この場にはもう一人ひねくれボッチが参戦していることを彼らは一時的に失念してしまっていた。その油断こそが場の帰趨を決めてしまうなどとは想像せぬままに・・・。
「ふむ? では貴方方はテニス部の強化に力を貸して下さると仰られますので?」
シェイクスピア(偽)である。彼に対する答えは慎重に選ばないと厄介なことになることは、先ほどのやり取りだけで十分に理解した葉山隼人は慎重に言葉を吟味してから口の端に乗せる。
「ああ、もちろんだよ。休みには戸塚以外のテニス部員がコートを使うときだってあるだろうし、その時には俺たちも可能な限り練習に付き合って彼らが強くなるのに協力してやりたいと思ってる」
「はて? 我が輩の聞き違いかもしれませんが、先ほどあなたの隣の女性が確か『このテニスコートで遊んでいきたい』という趣旨の発言をしてらしたように記憶しておりますが・・・違ってましたかな?」
「・・・それは言葉のアヤだよ、安田君。優美子だって別にテニス部の練習を邪魔してまで遊びに使いたいと言ったわけじゃないさ。俺だって彼女と同じだ。本気でテニス部には協力してやりたいと思ってる。これは嘘じゃない。本気の言葉だよ」
「本心からテニス部の強化に協力して差し上げたいと望んでいる・・・それが貴方方の相違と受け取ってよろしいですかな?」
「ああ、それで間違っていない。俺たちは本気で戸塚たちテニス部に協力してやりたいと心から思ってる」
「でしたら―――」
“言質を取った”シェイクスピア(偽)が、悪意0パーセントで善意百パーセントしかない超嬉しそうで楽しそうな満面の笑みを浮かべて一枚の紙切れを制服の内ポケットから取り出すと、恭しい態度で葉山たちの前に差し出しながらこう述べたのであった。
「これにサインと署名をお願いいたします」
「・・・は? えっと安田君、これは一体・・・」
「無論、テニス部への入部届ですが、それが何か?」
『・・・・・・・・・・・・』
悪意など一切感じられない、純粋すぎる疑問の眼差しを向けられて葉山たちは顔を引きつらせ、大きく一歩を退いた。
その退いた一歩にシェイクスピア(偽)が二歩踏み込んで、親切面した笑顔のまま胡散臭さ百パーセントの口調で彼らを徹底的に追い詰めにかかり始める。
「おや、どうされたのですかな葉山殿? 先ほどあなた自身が仰っていたではありませんか。『自分たちは本気でテニス部強化に力添えしたく思っている』と。
ならばテニス部に入部してテニス部員となり、戦力アップに超貢献しまくることこそ、皆のための人の道という物ではありませんか。違いますかな葉山殿?」
「い、いや・・・。それ言い出したら君たちだってテニス部へ入部することに・・・」
「何を仰っているのです? 我々はキチンと誠実に依頼を遂行していただけの身でしかありません。
『戸塚殿から頼まれた、戸塚殿のテニス技術を向上させてほしい』という依頼を受諾した奉仕部として部活動に励んでいただけの集団に過ぎぬ身なのですよ。葉山殿たちのように部活動でもない休み時間を個人的に活用したテニス部への協力という本当の意味でのボランティア精神には程遠い!
単なる部活動でしかない我々奉仕部メンバーと! あなたがた善意の協力者である葉山グループと! どちらの方がテニス部全体にとって! 皆にとって! 楽しくて役に立つ存在になり得るか! 火を見るより明らかではありませんか! 違いますか皆様方!?」
シェイクスピア(偽)が、いつの間にか集まってきていた周囲のギャラリーたちに扇動するよう訴えかける。
詭弁である。言いがかりである。完全に論点のすり替えである。
とは言え、屁理屈であろうと詭弁であろうと場の流れで正論と受け取ってしまった大多数派を形成できれば認識となり、正しい意見として認知されるようになってしまう。
これもまた、言葉の持つ曖昧さを利用した錯覚によるマジックだった。
『・・・おい、どう思うよ? アイツらと葉山たちと、どっちの方がテニス部に入ってほしいと思う?』
『聞くまでもあるのか? 誰がどう見たって葉山たちだろ。普通の奴なら誰だってそう判断する』
『だな。それが当たり前の良識的判断って奴だ』
――この様に、当事者意識の少ないお客様気分の野次馬たちを巻き込んでしまえば数の差など容易に覆すことが出来てしまうものなのだから。
「みんなーっ! 葉山隼人がテニス部に入って大活躍して『イケメン王子』とかニュースで話題になるところが見たくはないかーっ!?」
『HA・YA・TO! フゥ! HA・YA・TO! フゥ!』
「ちょ、え、な、お、お前らぁっ!?」
大いに慌てまくる、みんなの大人気者葉山隼人君。誰一人傷つけないでこの場を乗り切るのはメチャクチャ大変だと思われるが、是非とも頑張ってほしいものである。
「さて、戸塚殿。我々はお邪魔虫のようですし、場所を変えて練習しましょうか? なぁに、基礎代謝を上げるトレーニングぐらいテニスコートでなくてもどこでだろうと問題なくこなせますよ」
主役が交代して脇役に降板させられてしまったシェイクスピア(偽)が楽屋裏である、脇役たちの溜まり場に戻ってきてケロリと言ってのけた言葉を聞かされ、一同は一様に顔を引きつらせる。
が、反論自体は返ってこない。すでに自分たちが部外者になってしまっていることに、全員が雰囲気で気づかされていたからである。
それでも人がよくて心優しい戸塚彩加は背後を振り返りながら、気にしまくった声で懸念を口にする。
「う、うん・・・。でも、いいのかなぁ、本当にあのまま放置して行っちゃっても・・・」
「私もすごく後ろ髪ひかれまくってる思いなんだけど・・・?」
由比ヶ浜も同調して戸塚に味方するも、今度は八幡がシェイクスピアの弁護に回って、勢力差は二対二。
「しょうがないんじゃねぇの? つか、今さら俺らが行ったところでどうにもならないだろうし、いない子扱いされて無視されるだけだろ。ほっとけほっとけ。
内輪ノリで内輪もめとか大好物すぎるもん、やめさせるのは勿体なすぎるだけだから」
「それが理由!? ヒッキー最低! 理由が最低過ぎる上に性格が下衆過ぎてるよ!!」
「う、うぅん・・・でも確かにあれならテニス部に損はないし、あんなことあった場所に二度と関わろうとしないだろうから、結果的にはよかったのかも・・・?」
戸塚までもがシェイクスピア(偽)の話術に拐かされかけてるのを視界に納めた八幡が、猛然とした勢いで前言を翻し反対の論陣を張ってギャアギャア騒ぎまくりながら賑やかに奉仕部部室へことの顛末を報告しに戻っていくと。
ガララ。
「あ(着替え中、背中向けてパンツ丸出しゆきのん)」
『あ(居るとは思ってたけど制服姿以外見たことないから着替えてると思ってなかった面々)』
今日の雪ノ下さんは厄日だったみたいですね・・・・・・
つづく
*書き忘れてナァナァにしてたのですが指摘を受けたので補足させてください。
雪ノ下さんは救急箱を取りに行った足で、着替えもしようとしてました。
あの場において制服姿だったのが部外者を除くと責任者である自分だけな状況に数日前から嫌味を言われていた行間の話の影響です。
指摘を受けるまで説明の必要性に気付けなくて申し訳ございませんでした。