書き直す前のは削除しましたが、データは手元に残してますので興味ある方は仰ってくださいませ。
イケメンがやってきた。
放課後に部員だけでダベっていた『けいおん部』もとい奉仕部の部室に、リア充イケメン代表の葉山隼人が依頼をしに訪れたのである。
驚天動地だ。明日は雨か雪が降るに違いない。もしくは雲一つない晴れだろうな。
晴れってなんか脳天気っぽくて、頭ん中スッカラカンなイメージあるから。
「こんな時間に悪い、ちょっとお願いがあってさ。
いやー、なかなか部活から抜けさせてもらえなくて。試験前は部活休みになっちゃうから、どうしても今日のうちにメニューをこなしておきたかったっぽい。ごめんな」
「能書きはいいわ」
快活に話し出そうとしてたイケメン男子に、雪ノ下はぴしゃりと言い切る。
「何か用があるからここへ来たのでしょう? 葉山隼人君」
「ああ、そうだった。奉仕部ってここでいいんだよね? 平塚先生に、悩み相談するならここだって言われてきたんだけど・・・・・・」
心なしかいつもより刺々しかった雪ノ下からの冷たい反応に怯むことなく笑顔を浮かべ、何故だか窓から爽やかな風が吹き込んでくる中で葉山隼人は喋り続ける。
え、何こいつ。真なる風の紋章の継承者なの? ・・・アイツってたしか最終的に世界守るため国一つ生け贄に捧げさせようとするキャラだったよなー、たしか。余談だけどさ。
「実は、これなんだけどさ・・・」
そう言って葉山はおもむろに携帯電話を取りだして、カチカチと素早くボタンを操作してメール画面に移行してから、何故かそれを俺の方に見せてくる。
いや、お前に話しかけてたの雪ノ下、雪ノ下。お前の正面にいるのも雪ノ下だし、この部の部長も責任者も雪ノ下だから。俺ただの入部させられてから一ヶ月も経ってない新入部員ですから。マジ勘弁してください葉山さん、運動部のエースでしょうが。年功序列の秩序守れ。
「あ、変なメール・・・」
横からひょいと覗き込んできた由比ヶ浜がそう言った。手のひらサイズの画面を三人顔寄せ合って見下ろしている俺たちの方が変だと思ったことは言わない方がいいんだろう。
あと狭いけど、いい匂いがして困っている状況が終わるの名残惜しかったのは秘密だ。
・・・それは怪文書とも呼べない、稚拙な内容のメールだった。
『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』
『大和は三股かけている最低最悪の屑野郎』
『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』
とか言う感じに特定の三人を指定して誹謗中傷するメールばかりが、いくつものアドレスから書かれまくってる内容だ。
「チェーンメール、ね」
「これが出回ってから、なんかクラスの雰囲気が悪くてさ。それに友達のことを悪く書かれていれば腹も立つし。止めたいんだよね、こういうのって。やっぱりあんまり気持ちいいもんじゃないからさ」
雪ノ下が口を開いて“その類いのメール”に付けられた名前を呼び、葉山も正体のわからない悪意にうんざりした顔でそう言う。
まぁ、顔の見えない悪意ほど恐ろしいものはないからな。どこの誰が犯人で、誰が犯人じゃないなんて誰にもわからないし、相談した相手が実は真犯人でしたーなんてことも普通にあり得そうだし。誰が信じられて、誰が信じられないのか悩み迷わされるのは間違いなく怖かろう。
その点、俺は問題ない。疑うべき人間も、信じるべきか迷う人間も周りに一人もいないからな。むしろ俺の存在に周囲が気づいてないまである。
やっぱりボッチが最強。誰もいないから、誰を信じてもいいのか悩まなくて済む。傷つけるべき友達がいないボッチこそ真の平和主義者。ラブ・アンド・ピースだ。誰か早く本気でノーベル平和賞授与してくれ。潰して換金してPSPソフトが買いたいから。
「あ、でも犯人捜しがしたいんじゃないんだ。丸く収める方法を知りたい。頼めるかな?」
「・・・つまり、事態の収拾を図ればいいのね?」
「うん、まぁそういうことだね」
「では、犯人を捜すしかないわね」
「うん、よろし、え!? あれ、なんでそうなるの?」
前後の文脈を無視したかのような雪ノ下の言葉に葉山は一瞬驚いた顔を見せてから、取り繕った微笑みで穏やかに雪ノ下の意図を問う。
「チェーンメール・・・・・・。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の名前も出さず、ただ傷つけるためだけに誹謗中傷の限りを尽くす。止めるならその大本を根絶やしにしないと効果がないわ。ソースは私」
「また、お前の実体験かよ・・・」
「しかも、根絶やしにしちゃったんだ・・・」
何でコイツはそこまでして自分の地雷原晒したがるんだよ・・・しかも二つ続けて。剛毅そうに見えるけど、後の奴も決して武勇伝じゃないからな? 普通に人として人間関係の中で言わない方がいい地雷だからな?
てゆーか、他人の不幸自慢なんか聞かされても反応に困るし、気を使うスキル持たないボッチなりに気を使わざるを得なくなるから本気でやめてくんないかな。いや、マジなお願いとして・・・。
――しかし、それにしても。
「なんか、お前の中学って流行最先端だな。俺んとこはそんなんなかったぞ」
「・・・それはあなたがメールアドレス聞かれなかっただけでしょう」
「いや? 俺も中学校でクラス替えのときにメール聞かれたから、女子とメールくらいしてたぞ?」
ゴトッ。
なぜか俺の話を横で盗み聞いていたらしい由比ヶ浜が、メールの内容が自分に送られてきたのと同じかどうか確認するため手にしていた携帯電話を床に取り落とし、驚愕の表情を浮かべていた。
「嘘・・・・・・」
「いや、あの・・・結衣? それ、俺の携帯なんだけど・・・。
落としたの拾ったりはしてくれないのかな・・・?」
なんか葉山が地味にダメージ受けてるっぽいのが視界に映ったけど、俺には関係ない事情っぽいし無視しても大丈夫だろ。たぶんだけど。
「・・・って、あ!? ゴメン葉山君! 今拾うね! や、ヒッキーが女子とっていうのが想像できなくて・・・」
「ばっかお前。俺なんてなぁ、クラス替えでみんながアドレス交換してるときに空気読んでみんなに合わせて携帯取り出してキョロキョロしてたら、いきなり俺と目が合って外してくれなくなった女子がいたから仕方なく愛想笑いを返してやっただけなのに、ソイツなに勘違いしたんだか『・・・あ、じゃ、じゃあ、こ、交換しよっか?』って、小さな親切大きなお世話で声かけられてきたんだぜ。
こっちは女子からしたらメアド聞きたくなる要素0なこと承知の上で現実から身を引いて合わせてやってただけなのに、いい迷惑だぜ。まったく、これだから現実を見てない女ってのは困るよな。自己満足の優しさなんて大きなお世話だっつーの。
ほっとけバーローって言いたくなったよ本当に。本心をひた隠しにして取り繕うコナン君風の口調でな」
「卑屈さが天元突破していて逆に図々しすぎる!? しかも、理由が悲しい上に性格が下衆で言ってる内容は最低最悪だ!?」
「斬新すぎる一般論解釈ね・・・・・・本当にヒキペディアを作ったら売れるんじゃないかと、一瞬だけだけど錯覚してしまいそうになってしまったわ・・・・・・」
なぜだか雪ノ下は呆れと畏怖を含んだ微妙すぎる様子でそう応じ、ふぁさっと肩にかかった髪を払う。
由比ヶ浜はいつもどおり吠えてただけだとな。犬みたいに。具体的にはチワワみたいな感じで「キャンキャン!」と。・・・意外と似合っていて可愛いかもしれないなイヌヶ浜・・・。
「とにかく、そんな人間は確実に滅ぼすべきだわ。それが私の流儀。
私は犯人を捜すわ。一言いうだけでぱったり止むと思う。その後どうするかはあなたの裁量に任せる。それで構わないかしら?」
「・・・あ、ああ。それでいいよ」
観念したように葉山が雪ノ下の提案に許可を出す。
実際、俺も基本的には雪ノ下と同意見ではある。普通に考えたらメアドをわざわざ変えて送ってきてるんだし、自分の正体がバレたくない事情があって、それがバレそうになった時点でやめるのが普通だ。
・・・まぁ、他の可能性もあるから一概に犯人を見つけるだけでいいとは言い切れんのだけど、その前に一応確認しておくべき事がある。
「でも、それだと依頼をこなしたことにならないんじゃないのか? 葉山の依頼って犯人捜しじゃない上に、丸く収めることなんだろ? 犯人探し出して『真犯人はお前だ!』とか直接本人だけにでも言っちまったらメチャクチャ角が立たないか?」
「あら。比企谷君は聞いていなかったのかしら? 先ほど本人に解決方法を説明して、きちんと許可を取ったばかりじゃないの。つまりこれは葉山隼人君公認の元でおこなわれる内部調査よ。合法だわ」
「そうか・・・そう言えばそうだな。この場合は後でなにが起きても許可出した葉山の責任で全部悪いってことになるんだよな。――悪い、考えごとしてたせいでお前の話ちゃんと聞き取れてなかったみたいだわ。今後気をつける」
「ええ、気をつけてちょうだい。私の話を聞き逃して許してあげるのは今回限りにしてあげるつもりだから」
「・・・・・・うん? え、あれ!? なんか衝撃で茫然自失してる間に、俺犯人よりも悪い奴にされちゃってないかな!? ねえ!? ねえ!?」
葉山がなんか騒ぎ出してるけど、別に問題はない。言質は取ってあるし、証人も複数いる。詐欺に引っかかってもサインした方が悪いになるのが日本の法秩序というものだ。俺は模範的日本のボッチ学生として法律を守って、法律に俺を守らせる気満々だぜ。
「メールが送られ始めたのはいつからかしら?」
「え!? あ、えっと・・・先週末からだよな? 結衣」
狼狽える葉山に、雪ノ下が冷たい声で冷水ぶっかけて頭冷やさせて質問して答えをもらう。
「先週末から突然始まったわけね。由比ヶ浜さん、葉山君。先週末クラスで何かあった?」
「特に、なかったと思うけどな」
「うん・・・いつも通り、だったね」
「一応聞くけれど比企谷君、あなたは?」
「一応ってなんだ・・・・・・俺はこれでも普通に答え知ってんだぞ・・・・・・」
『えっ!? 本当に!?』
由比ヶ浜問い葉山が俺の言葉に驚き、雪ノ下は不審げな表情で見つめてくるのみ。信用ねぇなー、あるわけない関係性だけどさ。
俺も葉山たちと同じクラスだけど、俺とあいつら二人とじゃ同じ現象でも見ている位置取りと視点が異なる。俺だからこそ気づける部分ってのもたまにはあるんだよ。
「昨日あっただろ、職場見学の話。多分あのグループ分けするって話が原因だ」
「・・・うわ、言われてみたらそれだ。グループ分けのせいだよ・・・」
人の顔色を窺うのが日常の由比ヶ浜も気づいたらしい。
「「・・・・・・??」」
だが、こういうことには縁がない葉山と、そうしたことに興味のない雪ノ下は不思議そうに彼女を見つめるだけだ。
「いやー。こういうイベントごとのグループ分けは、その後の関係性に関わるからね。ナイーブになる人もいるんだよ・・・」
「職場見学は三人一組だからな。四人から一人だけは確実にハブになる。まぁ、外れないように誰か蹴落とそうとするのが一般的だよな・・・」
由比ヶ浜の説明に俺が補足を付け加えると、それを聞いた雪ノ下が結論を出す。
「・・・では、その三人の中から犯人がいるとみてまず間違いないわね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
そして、珍しく葉山が声を荒げて結論に割って入ってくる。
「俺はあいつらの中に犯人がいるなんて思いたくない。それに、三人それぞれを悪く言うメールなんだぜ? あいつらは違うんじゃないのか?」
「はっ、馬鹿かお前は。そんなの自分に疑いがかからないようにするための常套手段じゃねぇか。無実を証明するのに何の役にも立たねぇよ」
もっとも、俺ならあえて誰か一人だけ悪く言わないでそいつに罪がかぶるように仕向けるが・・・それだけだと不完全なんだよな。
「・・・ただ、その三人の中に犯人がいるって決めつけるのは早計だって言う主張には賛成だ。どう考えても容疑者を絞るには証拠が足りなすぎている」
「ヒキタニ君・・・っ! 君ってヤツはやっぱり・・・っ」
「どうせだったらクラス全員、もしくは学年全体、最悪の場合は学校外まで範囲を広げて考えるのが普通の判断ってもんだろう。
葉山のグループから一人減るだけだと割り込む余地はないが、二人減れば今まで輪の中に入れてもらえなかった連中も入れるし、入れるメンバーが二人いるかもしれないなら葉山グループ崩壊のため手を組むことだってできるだろう。
学校一のリア充グループを妬んで嫌がらせするのも悪くないし、ほとんど面識のない赤の他人のクラスの奴が自分の教室の問題でイラついてたから八つ当たりに便乗したって線もあり得る。
そもそも何だって、学校内限定で犯人捜しなんかしようと思うんだ? 普通、反撃を受けたくない奴なら手が届かない遙か遠くから一方的にチクチク責めまくるのが基本中の基本だろ? 候補を身内に絞りすぎてるんだよ。
よくあるご都合主義の推理ドラマじゃねぇんだから、真犯人が犯行現場のすぐ近くに居続けてくれるほど親切なわけねぇだろうがアホらしい。
敵が同じで利害も一致していて、蹴落として代わりに座れるかもしれない椅子は三つもある・・・これだけ好条件がそろっていれば呉越同舟ぐらい起きたっておかしくない。
一人はみんなのために、みんなは一人のために三人だけを犠牲にするため協力し合う・・・はっ。これが世間で言うところの麗しい友情ってもんなんだろ?」
『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』
俺が今回のことで懸念していた最悪のケースの想定を長広舌で解説し終えると、三人は俺のことを何とも言い様のない独特な表情と瞳で見つめてきて。
「ヒッキー、すこぶる最低だ・・・・・・」
「失礼な。離間の策といえ、離間の策と。劉備の軍師だった諸葛亮孔明も使った歴史ある伝統的な内輪もめの誘発方法だぞ? 俺が好きで調べて詳しくなるのは当たり前のことじゃねぇか」
「それが理由!? 今回のことでヒッキーが無駄に冴え渡りまくってたのってそんな悲しすぎる上に最低過ぎる理由だったの!? ヒドい! ヒドいよヒッキー! 最低最低さいてーい!!」
何とでも言うがいい。
所詮、俺には最初から最後まで関わることの出来ない、俺のクラス内で起きてる人間関係のゴタゴタ問題に過ぎないんだからな・・・・・・。
つづく