俺ガイル二次作   作:ひきがやもとまち

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少しぶりの「シェイクスピア(偽)」の更新となります。
他の作品も頑張って書いてますので今しばらくお待ちくださいませ。エロも含めて、です。


やはり奉仕部にシェイクスピア(偽)がいるのはまちがっている。第9幕

 遅刻の一件で放課後に小一時間ほど平塚先生から説教を受けた八幡は、帰りしなに複合商業施設マリンピアによって本を購入した後、勉強するためカフェにやってきて見知った顔を見つけてしまったことにより、なし崩し的に自分が呼ばれてもいない勉強会へと参加する羽目になってしまっていた。

 

「じゃあ次はゆきのんが問題出す番ね」

「では、国語から出題。次の慣用句の続きを述べよ」

 

 とは言え、勉強会の参加自体は悪いことではない。何しろ彼らは来年受験生で、しかもテストまで二週間切ってる時期なのだから、むしろ正しい行動と言えるだろう。

 模範的学生による正しい高校二年生の過ごし方と断言しても過言ではない程に。

 

「『風が吹けば』」

「・・・・・・京葉線が止まる?」

 

 ――尤も、動機とやり方が正しいだけで正しい結果が約束してもらえるのなら人の世に苦労はいらないのも正しい真理である。

 今まで勉強してこなかったことに起因する由比ヶ浜結衣の能力不足は、一朝一夕の正しさだけでどうにか出来るほど軽度のものではなかったから・・・・・・。

 

「不正解、正解は『桶屋が儲かる』。次は地理より出題。『千葉県の名産を二つ答えよ』」

「みそピーと、・・・・・・ゆでピー?」

 

 もはや正しいテストの答えより先に、高校という場所の正しい定義について教えてあげるところから始めた方が早いんじゃないかと思えてこなくもなくなってきた答えを雪ノ下に返したとき。

 

 

 ――今日もまた「第三の男」が現れる・・・・・・。

 

 

「おや? こんなところで千葉県横断ウルトラクイズに参加するための勉強会をしておいででしたかな由比ヶ浜殿?」

「違うし! 普通にテストのための勉強会してるだけだし!! って言うか、ニセッチいきなり話しかけないでよ! 変な人に話しかけられたのかと思ってビックリしたじゃん!」

 

 

 横合いから声をかけられ、驚くより先に誤解を解きにくってかかっていった由比ヶ浜を眺めながら八幡は思っていた。

 

 ――由比ヶ浜、最後だけ正しかったんだから訂正する必要なかったぞと。

 

「はっはっは。由比ヶ浜殿は相変わらず変な冗談がお上手ですなぁ。

 先ほどのような問題がテストで出題されるなどと本気で考えて勉強している変な女子高生など現実世界に実在するはずがないではありませんか」

「ぐ!? ・・・ぐぬぬぅぅ・・・・・・」

 

 由比ヶ浜、悔しそうに歯がみ。これには特に雪ノ下雪乃も茶々を入れずに黙ったまま飲み物を飲むだけ。

 シェイクスピア(偽)珍しくも完全無欠な良い意味での正論でした。

 

「あ、安田君。安田君も勉強会に呼ばれたんだね」

 

 由比ヶ浜の正面に座っていた戸塚採加から、明るい声音で彼の本名が呼んでもらえた。

 安田のことを「八幡の友達」と思い込んでいて、八幡がこの場に留まった理由にもなっている彼としては素直に嬉しい気持ちで歓迎しているのであり、他意はない。

 

 ――なかったのだが・・・・・・他意がない発言であることが却って追い詰められてしまう理由になる人物も状況の中には必ずいるものでもある。

 この時の由比ヶ浜がまさにそれだった。

 

「う゛・・・」

「おや、どうされたのですかな由比ヶ浜殿? 何やら顔色が優れないようですが・・・。

 まるで『やっばー、誘ってない人来ちゃったよ、ウッゼーとか言いたいんだけど言うと人間関係的に面倒くさくなるから言えなーい』とか思ってるときの女子高生がするような変な顔色になっておりますが大丈夫ですかな? なんでしたら救急車をお呼びしますぞ?」

「人を傷つけることだけを目的にした質問の仕方するのやめてくれない!? っつか、絶対わざとやってたでしょ!? 今の質問の仕方は絶対に!!」

「はっはっは。由比ヶ浜殿はあいかわらず面白いですなー、はっはっは」

 

 相変わらず言いたい放題なシェイクスピア(偽)。

 基本的にこの男、人が隠そうとしている感情ほど読み取りやすい思考法の持ち主のため、十六年のバカ正直すぎる人生しか送ってきていない由比ヶ浜が付け焼き刃の社交辞令で本音を隠そうとするだけ逆に悪目立ちして見えやすくなるタイプなので、まだ正直に言った方がダメージ少なかったなと比企谷八幡はなんとなくそう思いながらボーッと眺めているだけだった。

 

「「・・・・・・」」

 

 そしてお互い、無言のままで目礼だけして挨拶交わす八幡と安田のボッチ二人。・・・妙に息の合ってそうな二人の関係にちょっとだけ嫉妬した戸塚が八幡の制服の袖を強く握り返すと、八幡は逆の手で安田にだけ見える角度で「グッ!」とサムズアップ。

 

 テーブル下で誰にも見られず行われる精神的賄賂と賄賂と渡し合い・・・・・・。

 一見すると相性良いのか悪いのかよくわからない二人の友好関係は、このようにして保たれていたのであった・・・・・・

 

「それで? 比企谷君だけでなく、安田君も勉強会に呼んでいないのだけど、何か用?」

「雪ノ下、人を傷つけることだけを目的とした質問の仕方だけじゃなくて、副次的な目的として間接的に人を傷つける事実確認の仕方もやめろ」

 

 無情にも雪ノ下雪乃が二人の間に築かれていた、言葉を必要としない利益に基づく友情に割って入り邪魔をしてきて、安田より先に来たときに同じようなこと言われていた八幡から苦情が飛ばされるが無言で無視されてしまう。

 

 彼女からの質問に対して、シェイクスピア(偽)から返答がこれである。

 

「実は我が輩、比企谷殿と一緒に平塚先生から小一時間ほど、三流学園教師ドラマの説教シーンでダラダラ読まれる金八先生のパクリみたいな棒読み発声練習に付き合って差し上げた後、日課である学校内での面白いもの探しをしていたところ偶然にも皆様方がマリンピアのカフェに集まって面白そうなことをやる話を耳にしていた生徒に話を聞かせてもらいまして。

 それで、自分が呼ばれてもいないイベントに参加させていただくため罷り越した次第です! 面白そうでしたので!!」

「・・・・・・」

 

 雪ノ下雪乃、この返しには思わず唇の端が「ヒクッ」とならざるを得なかったがギリギリのところで激発は堪えることに成功した。

 代わりにブリザードの空気を全力で周囲に発散させて由比ヶ浜と八幡と、あと鈍いなりに戸塚のことも怯えさせたのだが肝心要のシェイクスピア(偽)には痛痒すら感じた気配も見つけられることなく

 

「それで? 皆さんおそろいで一体何をやっていらっしゃるのでしょう? 是非とも我が輩に教えていただきたいものですなぁー」

 

 と普通に聞かれる始末。コイツの面の皮はどこまで厚いんだと内心で罵っていたかは判然としないが、それでも一応の礼儀として雪ノ下は答えを教えてやった。

 

「・・・さっき由比ヶ浜さんが言っていたでしょう? 聞こえていなかったの? それとも理解できる知能がなかったのかしら? テストのための勉強会よ」

「・・・・・・本当に面白みもへったくれもない平凡極まる、ただの勉強会に過ぎなかったのですか、この会合・・・これは失礼して申し訳ありませんでしたな。はぁ~~~~・・・・・・」

「・・・・・・(ヒクッ、ヒクッ、ヒクッ)」

 

 

 ・・・そろそろ本気で止めないとヤバそうな気配を放ちだしてきていた雪ノ下雪乃の怒気をよそへ向けるため、なにか適当な口実はないかと周囲を見回す気遣い八幡。

 そんな彼の正しい行いと想いは、とってつけただけの由比ヶ浜のそれと違って天に届く。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

 ――ナイス! さすが妹エンジェル小町ちゃん! お兄ちゃんはお前のことを信じていたぜ!

 

 内心でガッツポーズをとりながら、さも自然に「聞き覚えのある声に呼ばれたけど誰だろう?」的なセリフを口にしながら振り向いた八幡だったが、その表情と動作が途中で凍り付くまで時間はあまりかからなかった。

 

「お、小町。ここで何してん・・・・・・の・・・」

「いや、友達から相談受けてて」

 

 入り口の自動ドアを開いて入店してきた中学校の制服を着たまま校則違反の買い食いしに着た八幡の妹の比企谷小町を見つけたまでは良かったのだが・・・・・・あろうことか彼の妹の隣に見知らぬ男子生徒の姿が一つ。

 

「うっす」

「・・・・・・」

 

 軽く頭を下げて体育会系のノリで挨拶してくる年下の男子中学生を、黙ったままやぶ睨みするだけの比企谷八幡。

 故人曰く『悪魔が人を騙すときは、まず天使の姿で現れる』と言う。天は人の願いを叶えてくれるときには、必ず相応以上の代価を要求してくるものなのである。

 ついでに言えば、『いつの世も偶然で力を手にした者は栄光を手に入れ、そして破壊する』

 

 

 ・・・八幡の前に中学生の姿をとって現れた運命は、果たして天か悪魔か破滅をもたらす偶然の先触れなのか・・・?

 

 

「――これは、面白いことになってくれそうですなぁ。勉強会などという平凡きわまる詰まらないイベントに呼ばれもしないで来たのが、無駄足にならずに済みそうで何よりです」

「・・・・・・(キッ!)」

 

 

 初めて見る八幡の妹の小町と、その隣に立つ男子生徒と、二人を等分に眺めやる八幡の姿を遠巻きに全体像を眺める視点で見つめながらシェイクスピア(偽)がつぶやき、そのつぶやきが聞こえてしまった自分への悪口に関しては地獄耳な雪ノ下がキツい視線で睨みつけるが、あいにくと彼の視線と興味は入り口付近の三人の方に向いてしまっていて、すぐ側にいる雪ノ下の方は既にしてアウトオブ眼中に成り果ててしまっていたので気づいてももらえぬまま、ただ由比ヶ浜と戸塚を怯えさせて抱きしめ合わせるのに貢献した。

 ただそれだけが今回、雪ノ下雪乃が勉強会で立てられた戦果と実績の全てだったことは・・・運が悪かっただけだと言うことにしておこう。そうしないと色々辛そうだったから・・・。

 

 

 

「いやー、どうもぉ。比企谷小町です。兄がいつもお世話になってます」

 

 そうして始まる初対面同士による自己紹介。

 まず一番手は、この中で一番コミュ力高くて物怖じしない上に、人に対してランク付けして対応できる初対面同士の時には「全員同じ畑でとれたカボチャのようなもの」として見ることが可能なハイブリッドぼっちの比企谷小町から。

 

 

「初めまして、クラスメイトの戸塚採加です」

「おっほー! 可愛い人ですね~♪ ねぇ、お兄ちゃん?」

「ん? ああ、そうだな。男だけどな」

「アッハー、またまたご冗談を・・・・・・え? 本当に・・・?」

「ああ、うん・・・ボク、男の子です・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 そして、二番手で小町以上に含むところのない戸塚採加のナチュラルな「こんなに可愛い子が女の子なはずがない」を地で行く男の娘ぶりに唖然とさせられ、その後に続いた二人からは大した衝撃受けずに済んでしまった。

 

 ある意味、一番常識外れで印象深く衝撃を与えまくってくる秘密を抱え持った戸塚が最初に出会った兄以外の高校組だと、他の特殊性は相対的にたいしたことなく写ってしまうのは仕方ないよね、人間だもの。

 

 ――とは言え、物事には限度というものもある。

 

「お初にお目にかかります、比企谷小町どの。我が輩の名は安田と申します。比企谷殿の友人に近い地位を自任している者で御座います。以後、お見知りおきを」

「おぉー、渋いナイスミドルなオジサマな方ですねぇ。ねぇ、お兄ちゃん?」

「ん? ああ、そうだな。同い年でクラスメイトだけどな」

「アッハー、またまたご冗談を・・・・・・え? 本当に・・・?」

「如何にもその通りです! こう見えまして我が輩、ピチピチの高校二年生な男子生徒に御座いますれば、以後よしなに」

「は、はぁ・・・・・・えっとその・・・どぞ、よろしくお願いします・・・?」

 

 さすがの小町もシェイクスピア(偽)のようなタイプとは初めて出会うので、戸塚とは別の意味で衝撃的だったのは間違いない。

 

 なんだか釈然としないものを感じさせられながらであったが、それでも自己紹介が一巡して全員分終わったのでようやく本題をスタートさせられた。

 

 

「あの、川崎大志ッス。比企谷さんとは塾が同じで、姉ちゃんが皆さんと同じで総武校の二年ッス。名前、川崎沙希って言うんですけど・・・・・・」

『・・・川崎沙希・・・? 黒のパンツの君・・・?』

「・・・は? え? 黒のパンツっていったい・・・??」

『気にしないでください、戯れ言です』

「は、はぁ・・・・・・」

 

 今朝あった出来事のせいで変な印象を植え付けられてるメンバーしかいなかったせいで、実の弟さんに変なことを知らせてしまいそうになった年上組は強引に相手の疑問を打ち切らせてしまった。

 血のつながった実の家族なればこそ、絶対に知られたくない秘密というものがあっても良いはずであり、他人が本人の許可も得ぬまま言っていいことでは絶対ない問題も世の中には実在する。

 

 その事実を知っている分だけ、今朝から彼ら奉仕部関係者一同は大志君よりかは大人になっていた。・・・あまり上りたくない大人の階段上らされてしまった高校生たちがここにいる・・・。

 

「それでね、大志君のお姉さんが最近不良化したって言うか、夜とか帰りが遅くてどうしたら元のお姉さんに戻ってくれるかっていう相談を受けてたんだよ」

「・・・そうなったのは、いつ頃からかしら?」

 

 雪ノ下が聞く。

 もしも今日からだったら、間違いなく原因はシェイクスピア(偽)のせいだと断定できる動かぬ状況証拠を握っている彼女ではあったが、さすがに今日の朝に起きたことで最近の帰りを遅くさせることは不可能だろうと彼女でもわかるし、口に出来ない疑問だから口に出さない。絶対自分の方がバカにされるから。彼女はいろいろとメチャクチャながらも頭はいい優等生である。

 

「最近です。総武校いくぐらいッスから、中学んときはスゲー真面目だったし、優しかったッス」

「つまり、比企谷君と同じクラスになってから変わったということね」

「ねぇ、なんで俺が原因であるかのような言い方してんの? 俺は病原菌なの?」

「そんなこと言ってないわ、被害妄想が過ぎるんじゃないの? 比企谷菌」

「言ってるから。菌って超言ってるから」

「噛んだだけよ」

「なるほど! 『失礼、噛みました』という奴ですな雪ノ下殿! 確かに雪ノ下殿が言うセリフとしてピッタリなチョイス! この安田、あらためて貴女のセンスに感服させられました・・・」

「・・・ねぇ、安田君。私の身体のどこを見ながら言ってるのかしら? 私の胸が女子小学生と同じぐらいの大きさしかない貧乳だとでも言いたいのかしら?」

「滅相もない! この安田、女性に対してそのような無礼な言葉を思ったことなど生まれてこの方一度もないことを神の誓って宣誓いたしましょう! 雪ノ下マイマイ殿!!」

「言ってるから。特定の女子小学生キャラクターを示す単語を超言ってるから。誤解すること不可能なレベルで言いまくっているから、言い逃れは不可能なんだけど安田君」

「失礼、噛みました。噛みまみた」

「その噛み方無理だから、不可能だから。仮に可能であっても噛んだだけじゃ説明不可能なレベルでハッキリ言い切ってしまってたから。頭文字がマ行ではじまる言葉以外に共通事項ひとつも存在しなかったから」

「・・・おーい、ゆきのーん。お願いだから戻ってきてー。大志君たちがドン引きしちゃってるよー」

「――ハッ!?」

 

 表面的には何も変わらないまま、シェイクスピア(偽)と自分のバストサイズ談義に没頭してしまっていたせいで、目の前に座る二人の男子女子中学生にドン引きされた白い目つきで見つめられてることにようやく気づくことが出来た雪ノ下雪乃は現実世界へと帰還してきて「コホン」と咳払いを一つ。

 

「・・・もう少し詳しく話を聞かせてもらっても大丈夫かしら? 情報は多いに越したことはないものよ」

「は、はぁ・・・」

 

 誤魔化した。とは、この場にいる誰もが思ったことだけど誰も言わない魔法の言葉。

 言わない代わりとして、由比ヶ浜結衣が親友のため取り繕った風に質問を付け足す。

 

「で、でもさ! 帰りが遅いって言っても何時くらい? 私も結構遅いし」

「それが、五時過ぎとかなんすよ・・・」

 

 大好きな姉の話に戻ってきてくれたので、大志君も素直に由比ヶ浜の仲裁を受け入れて詳しい現状説明を再開させる。

 

「むしろ朝じゃねぇか、それ・・・って言うか普通に早朝って区分けする時間だし。朝練はじまる頃だろ普通に考えて」

「ぐっ!? こ、国語なんて意味さえ伝わりゃそれでいいんス! みんな今のでも普通にわかってくれますから!」

「ゆとりの弊害だな・・・・・・将来の進路ニート確定のガキめ・・・(ボソッ)」

「なんかお兄さん、キツくないッスか!? 俺に対して異常なほどに!?」

「ま、まぁまぁ。大志君も落ち着いて・・・八幡も・・・ね?

 それよりも大志君、ご両親はそのことに対して何も言わないのかな?」

「そ、そうッスね・・・。両親は共働きだし、下に弟と妹がいるんで、あんま姉ちゃんにはうるさく言わないんすよ。

 それに時間も時間なんで滅多に顔合わせないし。たまに顔を合わせても喧嘩しちまうし、俺がなんか言っても『あんたには関係ない』の一点張りで・・・・・・」

 

 大志君は困り果てた様子で肩を落とす。

 そして、付け足す。

 

「まぁ、子供も多いんで結構暮らし的にいっぱいいっぱいなんすよね」

「家庭の事情、ね・・・。どこの家にもあるものね」

「・・・え?」

 

 家族をフォローするようにつぶやかれた大志の言葉を、半ば否定するかのような内容のつぶやきを漏らす雪ノ下雪乃。

 それを聞いたシェイクスピア(偽)の瞳が細められるが、口に出しては何も言わず大志の話がまだ続くようだったので、そちらを聞くため身を傾けた。

 

「それに、それだけじゃないんす。なんか、変なところから姉ちゃん宛に電話かかってきたりするんですよ。エンジェルなんとかっていう、たぶんお店なんですけど・・・店長って言ってたから」

「それの何が変なの、かな?」

「だ、だって、エンジェルっすよ!? もう絶対ヤバい店っすよ!」

「え、全然そんな感じしないけど・・・」

 

 戸塚と由比ヶ浜が首をかしげて、八幡は心の中で大志の思春期男子的な妄想の仕方に深く共鳴しながらも直に口に出すと恥ずかしかったから、理解ある年長者らしい普通の口調で笑顔を浮かべながら慰めてやるだけ。

 

「まぁ、待て落ち着け大志。俺にはすべてわかっている」

「お、お兄さん!」

「ははは、お兄さんって呼ぶな? 殺すぞ?」

 

 男二人がエロスという名の確かな絆を結んでいる傍ら、メニュー表を見つめながら唸っていた最後の男が「う~む・・・」と一声つぶやいて。

 

「残念ですな。この店にはエンゼルフレンチのようなドーナツは、置いていないようです・・・。我が輩けっこう好物だったのですが・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・大志、お前はよくある普通の単語からいったい何を妄想してたんだ? 思春期真っ盛りで性欲にまみれたサル同然の中二男子めが、恥を知れ」

「ちょっ!? お兄さんまで俺を裏切るんですか!?」

「うるさい、寄るな。あっちへ行け。スケベ病が移るじゃないか、大志菌」

「お兄さ――ッん!?」

 

 そして、欲望によって結ばれた偽りの絆を一瞬で間違いだと気づいて破棄した、本物を重要視する比企谷八幡。やはり偽物の絆とか友情はダメである。本物じゃないと・・・ね?

 

 

「わかったわ」

「雪ノ下・・・?」

 

 それまで沈黙したまま皆の意見というか、雑談を聞き流すようにして聞いていた雪ノ下雪乃が決意を込めた声を出して、皆の視線と意識をその身に集中させてくる。

 

「おい、ちょっと待て。何かするつもりなのか? 雪ノ下」

「いいじゃない。川崎大志君は本校の生徒、川崎沙希さんの弟なのでしょう。ましてや、相談内容は彼女自身のこと。奉仕部の仕事の範疇だと私は思うけれど」

 

 もの凄いこじつけの理屈で無理矢理にでも奉仕部の問題にからめようとしてくる雪ノ下に、面倒くさがり屋な八幡はまだ何か言おうとしていたが、妹の小町に肩を突かれ満面の笑みを見せつけられたら両手を挙げて降参するしか道はない。

 

 まったく・・・つくづく姉とか兄とか呼ばれる存在は、いざという時だけ可愛く見せてくる妹に弱い存在なんだと思わずにはいられない・・・・・・八幡にとって今日はそんな一日だった。

 

 

 

 ――ちなみに。

 この男の場合は姉弟いるけど普通に言います。

 

「さすがは雪ノ下殿・・・現代の腐った政治家がごとき詭弁を駆使した職権乱用、他人のプライバシーを侵害する行為の自己正当化ぶり。まさに政治家志望として相応しい、華麗なる屁理屈能力にこの安田、感服いたしました。脱帽の到りです」

「・・・・・・(キッ!!)」

「ところでなのですが。話を蒸し返すようで申し訳なく思い、先ほどは言わなかったのですけれど一段落したようですし、あらためて質問させていただきたいのですが・・・・・・。

 川崎殿が変わったのが、比企谷殿と同じクラスになってからと言うことは、雪ノ下殿は由比ヶ浜殿も容疑者の一人と見なしておられると言うことで宜しいのですかな? どうなのでしょう、由比ヶ浜菌殿」

「ゆきのーん!? 私、病原菌なの!? ゆきんからバリアしても効かないぐらい強力な菌だと思われてたりしたの私って!?」

「・・・お、落ち着きなさい由比ヶ浜さん。誰もそんなこと一言も言ってないでしょう? ちょっと苦手かもしれないと思ってるだけよ。本当よ? 信じてちょうだい由比ヶ浜さん・・・」

「それ女子言葉じゃ同じようなこと言ってるのと変わらないからね! ゆきのーん!!」

「・・・・・・難しいのね、女子言葉って・・・」

 

 

『・・・・・・・・・』

 

 そして再びはじまる高校生組同士による見苦しい限りの言い争い。

 中学生が高校生に対して無条件に抱いてしまう、ご都合主義の幻想をいろいろ木っ端微塵に砕け散らされながら彼ら二人もまた大人の階段を強制的に上らされていく。

 

 自分たち中学三年生も再来年には彼らと同じ土俵に上がり同じ立場に立つことになり、彼らも二年前までは今の自分たちと同じように中学校の制服をまとった中学生だったのだという現実が、彼らの中で年齢に対する盲信をブチ壊しまくりながら蹂躙し続ける。

 

 そして思い知らされるのだ。

 大人には歳を取れば誰だってなれる、などという言葉はご都合主義の妄想に過ぎないのだと。何十年生きようと成長できない奴らは大人になんかなれないのだと。

 

 何もしなくても、何一つ成長しなくても、一年経てば年齢は上がる。歳は取れる。

 二十年間死なないだけで成人として認められて、大人の仲間入りしたことにされてしまうのが大人の社会で現実なのだと思い知らされる。

 

 彼らにとっての今日という日は、それらのことを知りたくもないのに思い知らされてしまった・・・そういう一日だったから・・・・・・

 

 

つづく

 

おまけ『次回で使えるかどうかわからないから今使っとくサキちゃん更生プロジェクト』

 

雪ノ下「考えたのだけど、一番いいのは誰かに矯正されるより川崎さん自身が問題を解決することだと思うの」

八幡「そりゃそうだろうな。・・・で? うちの猫をどうするんだ?」

雪ノ下「アニマルセラピーって知ってる? 動物とふれ合うことを切っ掛けに川崎さんの心優しい部分を引き出すの。彼女の心が動かされれば、きっと拾うはずよ。それぞれの役割を決めたわ。みんな配置についてちょうだい」

八幡「一昔前の番長じゃねぇんだからさぁ・・・」

 

 

・・・しばらくしてから。

 

カマクラ「・・・にゃにゃ?」

雪ノ下「・・・にゅ~、にゃ~・・・」

カマクラ「んにゅ~ん」

雪ノ下「にゃ~・・・♪ にゃ~・・・♪」

 

八幡「・・・・・・何してんの? お前・・・」

雪ノ下「・・・・・・・・・なにが?」

八幡「いや、お前今うちのカマクラに話しかけてて・・・」

雪ノ下「それより貴方には待機命令を出したはずだけど。そんな簡単なこと一つ出来ないのね」

八幡「うっ!?」

雪ノ下「貴方の程度の低さは計算に入れていたつもりだけど、正直ここまでとは思っていなかったわ。小学生以下の脳味噌にはなんて命令すれば伝わるのかしら・・・・・・」

 

安田「やぁやぁ、こんな所におられましたか雪ノ下殿! 少々確認したいことがありましたので司令塔役の貴女がいるはずの場所に行ってみたところ、どういうわけか不在でしたので、もしかしたら口の悪いクール系天才美少女のお約束として猫の前では可愛い女の子らしさを発揮しまくる一昔前のスケバンみたいな展開を晒しているのではないかと思って、やってきたのですが・・・もしかしなくても図星でしたかな!?」

 

雪ノ下「・・・安田君。貴方にも待機命令を出しておいたはずなのだけど、比企谷君と同じでそんな簡単なこと一つ出来なかったのね・・・・・・」

安田「おお、なんとなんと!? まさか恥ずかしいところを見られてしまった自分の恥をなかったことにするためキツい言葉を連発して相手を黙らせようとする毒舌系美少女キャラの王道展開まで見せていただけるとは! まさに! 最近の穿ったラブコメヒロインなんてクソ食らえ!というわけですな!」

雪ノ下「貴方たちの程度の低さは計算に入れていたつもりだけど、正直ここまでとは思っていなかったわ。小学生以下の脳味噌にはなんて命令すれば伝わってくれるのかしらね。困ってしまったわ、私保母さんの資格なんて持っていないのだけど・・・・・・」

 

 

八幡「・・・・・・(雪ノ下。いい加減、気づいてくれ・・・! いくら安田に「それ以上喋れば殺す」と目で語っても、口に出して言わない限り気づかないフリされて延々と言われ続けてしまうコイツの面倒くささに本当にいい加減気づいてくれマジで頼むから!)」

 

 

*注:シェイクスピア(偽)の様なタイプは、コチラの気持ちを勝手に分かってくれて、勝手に配慮してくれる日本人らしい気遣いと解釈変更した『決めつけによる甘やかし精神』を持ち合わせていない人たちのため口に出して言わない限り配慮してもらえないことがあります。むしろ逆にコチラをからかうため逆用してくる場合もありますのでご注意ください。

 ・・・あんま居ないとは思いますけどね、こういうタイプの人って・・・。

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