久しぶりの更新を今年中にしておきたかったので先行して出させていただきました。完成急ぎます。
中間試験と職場見学という、相反はしないけど邪魔にはなりそうなイベントが続く日の目前まで迫っていた、ある日の朝に起きた出来事である。
「え、えーと・・・、ち、違うんですよ・・・。重役出勤って言葉があるじゃないですか? エリート思考の強い俺は、今から重役になったときのために・・・」
「君の志望は専業主夫だろうが。働いたら負けとまで言っていたな」
俺は小町のせいで二度寝して遅刻してしまい、平塚先生に怒られないため言い訳しなきゃならなくなっていた。ルール無用の熱血少年漫画好きなのに、平塚先生は頭が固い。
「え? 会社の重役って、家では専業主夫みたいなものでしょう?
友達と遊びに行った奥さんが作り置きしてった冷蔵庫のチャーハンをレンジでチンして夕飯にして、子供が書いた小学校の作文に『僕はお父さんが嫌いです、大嫌いです』とか書かれているのを見つけて一人ひろい家の居間で涙目になってる現代日本でよくいる孤独中年みたいな家では粗大ゴミ扱いされてる人たち。
勉強と競争ばっかして、成績しか評価しない親と教師の目だけを意識しながら生きてきたから重役になれたオッサンなんて、そんなもんでしょ? 普通に考えて」
「お前は日本中で夜遅くまで働いているお父さんに全力で土下座してこ―――ッい!!!」
「ぐはぁっ!?」
いつも通りワンパンチでリングならぬ教室の床に沈められ、痛みでのたうち回る俺。
頭は固い女教師だけど、少年漫画は好きな平塚先生は『問題起きたら拳で解決』というスタンスだけは採用してきているらしい。・・・やっぱ理不尽だ・・・。あと、誰か保健室つれてって下さい・・・ポンポン痛いっス・・・。
「・・・ん? ――まったく、このクラスは問題児が多くてたまらんな」
・・・?? なんか痛みで腹押さえている頭上から平塚先生の変な発言が聞こえてきた気がしたのだが・・・俺以外にも遅刻者がいたの? だとしたら、なんでソイツは殴られてないの? 俺みたいに。やっぱ理不尽だった。
「川崎沙希。君も重役出勤かね?」
「・・・・・・」
ふっと微笑むように平塚先生に声をかけられながらも、相手は返事をすることなく頭を軽く下げた気配だけ感じさせてから教室内を進んで歩いて行く。
そして、やはり殴られない。理不尽にもほどがある。というか普通に、差別というか依怙贔屓だろう。
そしてソイツは倒れ込んでいる俺の側を通り過ぎ、そのまま自分の席へと向かおうとする。
――そのとき。
王道ラブコメのイタズラな風は吹いてないけど、角度的に重く垂れ下がった暗幕が取り払われるかのように運命的な偶然によって、俺はそれを目にする幸運を授けられた。
恋でも故意でもなく、事故である。まごう事なき作為なき偶然の産物によって、俺は男子が夢を託した一枚の布を未来永劫焼き付ける幸運を手に入れることが出来ただけである。
だが、あえて言おう。事件ではなく、事故であると。それでも俺はやってない。
「・・・・・・黒のレース、だと?」
そして俺は、あまりにも完璧すぎる偶然の幸運に感謝するあまり、ついつい感動を言葉にして口走ってしまうミスを犯した。いかん、これではまるで俺が意図的に覗いた変態であることを自白したかのように誤解を招いてしまう。・・・まぁ、誤解は解けないもんだし別にいっか。誤解されたままでも別になんの害もねぇし・・・。
そんな風に俺が割り切っていたとき、席へと向かったと思っていた川崎がその場に立ち尽くし、ゆらりと振り返った姿勢で俺を見ていた。
「・・・・・・バカじゃないの?」
蹴るでも殴るでもなく、川崎沙希はそう言って羞恥に顔を染めるでなく、怒りで顔を赤らめるでなく。まるで興味がないといった風に、ただ、くだらない、と。
いや、そう言われても。
「バカと言われてもな・・・普通気になるだろ? 二年前まで中学生のガキだった女子高生が履く下着の柄じゃねぇぞソレ。なにか? お前は、背伸びして早く大人になりたい思春期で反抗期な年頃とか、そういうヤツらの一種なのか?」
「~~っ!!! うっさいバカアホ間抜け! いっぺん死んでこい!!」
「ぐはぁぁっ!?」
一度通り過ぎてったのにわざわざ戻ってきて俺を蹴りまくってから、あらためて自分の席へ戻っていく川崎沙希・・・。なぜだ・・・? 何故そんな無意味で無駄な理不尽すぎるリアクション、を・・・・・・?
平塚先生に続いて、クラスメイトの名前今日初めて知った女子にまで理不尽な暴力を振るわれて今度こそ本当に床に沈められた俺は、なぜだか最初の加害者である平塚先生によって保健室に運ばれて手当てされることになる。
自分が暴力振るった相手でも、他人から暴力振るわれたら助けてくれる平塚先生の理不尽すぎる優しさも俺にはさっぱり理解できそうにない・・・・・・。
「比企谷・・・君は本気で、人の心理を読み取ることには長けているのに、感情は理解してないよなぁ、本当に・・・・・・」
しかも、なんかよく分からないアドバイスまでもらっちまったし。今この場で言うことなのかね? この台詞って。やっぱり彼女たちの思ってることは俺には理解できそうにもない。
理不尽すぎるからな。平和主義者なボッチの俺には暴力で伝える人の感情なんて理解できそうにありません。まる。
――んで、放課後。
帰りしなに夏期講習の資料集めをしてから勉強でもしようと思って、複合商業施設マリンピアのカフェにやってきた俺は、探してもいないのに見知った顔を見つけてしまった。
「じゃあ次はゆきのんが問題出す番ね」
「では国語から出題。次の慣用句の続きを述べよ。『風が吹けば』
「う~ん・・・・・・京葉線が止まる?」
雪ノ下と由比ヶ浜が千葉県横断ウルトラクイズをやっていた。あと、クイズやってる二人の前に戸塚を見つけた。戸塚だけを見つけられたらよかったのだけれど、先に声が聞こえてきたのは由比ヶ浜で、由比ヶ浜の声を追っていった先に見つけたのが戸塚の姿だったから仕方がない。受け入れざるを得ない現実というヤツだろう。悲しいけど、これが現実なんだよな。
「正解は、『桶屋が儲かる』。次は地理より出題。千葉の名産を二つ答えよ」
「みそピーと、・・・・・・ゆでピー?」
「落花生しかねぇのかよ、この県には・・・」
「うわぁ!?」
しまった。つい由比ヶ浜の間違いにツッコんでしまったせいで、出直そうかと思っていた選択肢が消滅してしまった。我ながら自分の千葉県愛が恨めしい。
「・・・なんだ、ヒッキーか。いきなり変な人に話しかけられたかと思った・・・」
「由比ヶ浜、失礼な言い方をするんじゃない。変な質問に変な答えを返していた変な女子高生に変な人呼ばわりされた挙げ句、変な声だして驚かれた俺の立場がなくなるじゃねぇか」
「それ、私の立場がなくなってるよね!? 人を傷つけることだけを目的とした事実指摘とかやめてくれない!? ヒッキー本当キモイ! マジキモイ!!」
由比ヶ浜に大袈裟なリアクションで騒がれていると、戸塚がこちらに振り向いて晴れ晴れとした笑顔を浮かべてくれた。癒やされるな。守ってやりたい、この笑顔。
「八幡っ! 八幡も勉強会に呼ばれてたんだね!」
「う゛っ・・・、うぅぅ・・・」
微笑みながら戸塚が発した一言に、由比ヶ浜が『やっばー。誘ってない人来ちゃったー』みたいな気まずい顔にわかりやすく変貌している。
なんとなく、小学校の時のクラスメイトの誕生日会を思い出す光景だ。
呼ばれてないのにプレゼント持たずにいって、飯だけ食ってから帰ってやった、俺の分だけチキン用意してなかった眠り姫の親父さんみたいなクラスメイト男子の泣きそうな顔はザマーミロだったな本当に。
「比企谷くんは勉強会に呼んでいないのだけど、何か用?」
「人を傷つけることだけを目的とした事実確認はやめろ、雪ノ下。これは勉強会であって、千葉県横断ウルトラクイズの会場と勘違いして参加してしまっていた由比ヶ浜に失礼じゃないか」
「それ、ヒッキーだよね!? ヒッキーのことだよね!? 私のこと傷つけることだけを目的として事実をあえて間違えて指摘してるの、間違いなくゆきのんじゃなくてヒッキーの方だよね!? ヒッキーマジキモイ! 超キモーイ!!!」
「・・・・・・ごめんなさい、由比ヶ浜さん。あなたを傷つけるつもりはなかったのだけど、結果的にヒドいことを言ってしまって・・・反省しているわ」
「ゆきのん!? そこは謝らないでいいところだよね!? 嘘でもいいからフォローしてくれた方が誠意が伝わる場面だったよね!? なんか今日の二人とも、あたしに対して超キツいような気がするんだけど気のせいかな!?」
*なんか今そういう気分にでもなっているのか、毒のある言葉が冴えてる気がしますので急いで書かせていただいたのですけど、八幡らしさは減ってるかもしれません。
読んで不快になった方がおられましたら申し訳ございません。悪気はないのですが、そういう性格になってる今の作者みたいでして…。