本当だったら今回で川崎さんの話を完結まで持っていきたかったのですが、作者自身が疲れてしまいましたので切りのいい所までで止めてあります。最近は疲れやすいですので、次は頑張りたいと思っております。
「では、始めましょう」
一昨日のファミレスで出会った小町の同級生男子だとかいう大志から相談を受けた翌日から、俺たち奉仕部メンバーは雪ノ下部長指揮の下で川崎沙希更生プログラムをスタートさせた訳だったのだが。
――ただ、その前に一応、最低限度の確認として。
「雪ノ下、質問って言うか、確認したいことがあるんだけど聞いてもいいか?」
「どうぞ、比企谷君。発言を許可します。たとえ貴方の意見だろうと何かしらの参考になる要素が含まれていないとは限らないものね。発言者に罪はあっても発言の内容自体に罪はないわ」
「・・・前振りなげぇなオイ・・・まぁ何時ものことだからそれは良いとして置いとくとして。念のために確認しておくぞ?
仮に俺たちが調べた結果、川崎が本当に“若い女の子だから色々とその”なバイトをやってた証拠を掴んじまった場合は、どうする気でいるんだ? 警察か学校にでも報告するのか? それとも握り潰して本人が改めるなら今回は不問で片を付けるのか、どっちでないにせよ最終的な着地地点は決めた上でスタートの音頭をとっているんだよな?」
「・・・・・・・・・」
俺からの質問に雪ノ下の時間は少しの間だけ停止していたように見えたのは錯覚だったと、俺は心底から信じたい。主に俺の社会的身の安全の保障問題的な理由によって。
雪ノ下はしばらくのあいだ黙り込み、沈思黙考してから考えを纏めたように口を開くと。
「――少し考えたのだけれど、一番いいのは川崎さん自身が自分の問題を解決することだと思うのよ。自分の力で立ち直ったほうがリスクも少ないし、リバウンドもほとんどないわ」
聞かなかったことにする道を選びやがったコイツ! 見切り発車前提の身辺調査開始かよ! 旅行先で偶然巻き込まれた殺人事件の調査に乗り出す推理ドラマの名探偵も真っ青なスタートだな!
後半になってから『知らない方が良かったのかも知れない・・・』とか言い出しても知らねぇぞ本当に・・・。
「まぁそりゃそうなんだろうけどな」
――とは言え、それもまた奉仕部では何時ものことだ。割り切ろう。割り切って考えよう。そうしないと胃に穴が空きかねん。
それに雪ノ下自身が間違っていたとしても、今言っていた発言内容自体は正当なものだろう。間違っちゃいない。
不良に限らないが、自分の行いを他人にあれこれ言われるのはやはり腹立たしいものだし、そうした苦言を呈してきたのが親しい人だったなら反発心を抱いてしまう。赤の他人から部活動の一環として正論説教されるなら尚更だ。
・・・丁度、目の前で部長自ら範を示してくれたわけだし、意見の内容自体には異論の出る余地は微塵も残されてなかったし・・・・・・。
「で、具体的な方法論はどうすんだ?」
「アニマルセラピーって知ってる?」
こうして俺たち奉仕部メンバーは、普段と変わらぬ無表情な真顔でのたまってくれた雪ノ下部長による一見まともそうだけど実際にやってみたら『コレ考えた奴アホなんじゃねぇのか?』と本気で悩んでしまいそうな意見から川崎沙希の更生プログラムと迷走をスタートさせた。
その内容はあまりにもアホすぎる内訳になってしまったので割愛させてもらえるとありがたい。正直、思い出すに耐えない内容の意見ばかりだったからな・・・・・・。
そもそもにおいて川崎が深夜バイトしていて、その理由も川崎自身に問題があって、それは他人に強制されるよりも自力で解決したほうがリスクの少なくなる類いの問題だ、っていう前提全てが雪ノ下と独断と偏見に基づく彼女の経験則以外になんの根拠も持たない決めつけに近い代物ばかりだったのだから当然の結果と言えばそれまでなのだけれども。
結局、俺たちの更生プログラムはスタートしただけで何の成果も上げられないまま数日が過ぎ。
事態が改善するのは、小町経由で大志から連絡とタレ込みがあった数日後まで待つことになる。
プルルル♪ プルルルルル♪
・・・・・・カチッ。
「俺はお前のお兄さんじゃねぇ」
『――は? ちょ、なに言ってんの?』
「いや、なんとなく。こういう時のシチュエーションで妹を持つ兄キャラだったら、こういうセリフを返事として言うべきなのかなと思っただけだ。特に意味はない」
『・・・またバカ兄的なことを・・・そんなバカな愚行より、お兄ちゃんッ。なんか大志君のお姉ちゃんに、変なお店から電話がかかってきたんだって!』
という感じに伝わってきた、大志の姉の川崎沙希がバイトしている変な店“かもしれない店舗”の店名。
しょーじき、そういう情報は最初に言えよと思わなくもないのだが。覚えてなかったみたいだし仕方がないんだろう、多分だが。
千葉市内に年齢偽ってバイトしたらヤバそうな店が何店舗あるのか詳しくは知らないけれど。受験生が年齢偽ってバイトしてる時点で全部ヤバい店に該当しそうな気もしたけれど。
それでもまぁ、思い出せなかったみたいだし忘れちまってたって言うなら仕方がないと諦めるしかないんだろう。多分だけれども。
「つまり、エンジェルなんとかというお店の店長から、電話があったという事ね?」
「ああ。姉ちゃんの件で依頼受けてから数日経って、ようやく思い出した割には半端な思い出し方の情報だけどな。
で、調べてみたら千葉市内でエンジェルと名のつく店で、朝方まで営業してるいのは二店舗しかないらしい。半端なタレ込み情報でも調べられる数の店しかなかった千葉はやはり偉大だと思い知らされたよ」
「・・・・・・比企谷君、怒りを半端に偽装しようとするのはおやめなさい。却って露骨な嫌味と皮肉にしかならないから・・・」
――とりあえずは、そんな感じの経緯を経て手に入れられた情報を元に調査した千葉市内に二軒ある『エンジェルと名のつく店』の内、どちらかで川崎がバイトしてる可能性が高くなったので俺たちは現場に急行。
一件目は例によって例の如くヒドすぎる内容の内訳だったので割愛させてもらって。そして最後に残ったのが、ここ。
「ホテル・ロイヤルオークラの最上階に位置するバー『エンジェル・ラダー天使の階』か・・・。
なんか薬でラリって、心を空の彼方まで飛ばしてそうな感じのする店名だよな」
「その発想はなかったよ!? ヒッキー、大志君とは真逆の方向に天使とかエンジェルとかの言葉から連想するものがヒドすぎるよ!!」
ホテル内にある待ち合わせ場所で再会した早々に、由比ヶ浜から怒られてしまった。
失礼な奴だ、天使で階段って言ったら天国だから客はみんな死んでるんじゃないのか、とか言わなかっただけでも学生の範疇を逸脱しない言動だったと俺個人は自分を高く自己評価していたというのに。自己満足的な意味でだけだけれども。
「それよか、この服! ゆきのんの家、こんな服いくつもあって! しかも一人暮らしだよ! マジでゆきのん何者!?」
「大袈裟ね。こういうのは、たまに着る機会があるから持っているだけよ」
由比ヶ浜がややはしゃいだように言っていて、雪ノ下はいつも通りクールに返している。
この店『エンジェルラダーあの世、天国』もとい、『天使の階』はドレスコードってのがあって、それなりの服装をしてないと入店拒否をされるらしく、俺たちはそれぞれ家に戻って適当そうなのを見繕ってきてから待ち合わせ場所で再度合流したという訳だった。
今聞かされた話からすると、由比ヶ浜が着てきたのは雪ノ下からの借り物らしい。
首回りが大きく開けられた深紅のドレスは流麗な線を描いていて、そのまま人魚のようなフォルムを形作っている。
アップに纏められた髪と、白く覗くうなじが艶めかしくて、発言のレベルが低いから由比ヶ浜だと丸分かりだけど取り澄ましてたら、いい匂いのする美人のお姉さんとしか思えなかっただろう程度には似合っていた。
対して雪ノ下の方は、漆黒のドレスを纏った歴然たる美女風のファッションだ。
膝丈よりも上のフレアスカートは足の長さを見せつけてきており、一つの纏められて緩やかに蒔かれながら胸元へと垂らされた、極上のシルクじみた長い黒髪が宝飾品のように闇の光のように輝いている。
誰かと間違いようなどない、厳然とした雪ノ下雪乃がそこに居た。
「ああ、エロい格好だからな。高校生が持ってる物だとは、とても思えん。たまに着る機会もあるって言ってたし、やっぱお前どっかの金持ちの愛人だったとか極道やマフィアのボスの情婦だとか言う設定は――――ウソです、冗談ですごめんなさい。流石に今回のは言い過ぎただったと途中で自覚しましたんで殴るのだけは勘弁してくださ、ゴハァッ!?」
・・・結局、口は災いの元で殴られてしまったか・・・しかも二発も。雪ノ下の方は解らなくもないし、まぁ自分でも言いすぎだったと反省している部分もないではないのだが。
なんで由比ヶ浜にまで殴られたのかは、流石によく分からん。使い古されて手垢のつきすぎた言い様だが、やはり女心は難しいものらしい。
「さぁ、行きましょうか」
そう言って、雪ノ下がエレベーターのボタンを押す。
俺たち奉仕部にとっての川崎沙希更生プログラムは、こうして本番がスタートする・・・。
まぁ、逆に言えば今までの数日間分が前座扱いで、本番は今夜から明日の朝辺りまでで終わっちまうイベントだったって事でもあるんだけれども。
現時点での俺は、その事実を知る術はないので知らない。
全てを知ってる神様視点の評価軸と、現在進行形で今を生きる当事者たちの主観的評価が異なっているのは普通のことではあるのだが。
・・・何故だかいっつも奉仕部だと、前座の長さと関係なさが半端じゃないよーな気がするのは気のせいなんだろーか・・・?
飛ばさないと、本気でやってられないんだけど、本当に・・・。
つづく