具体的な改稿内容としては、『八幡がサキサキちゃんを論破したときの本心』についてです。小町と自転車を二人乗りして変える途中のシーンに付け足してあります。
一度読んで頂いた方にはご面倒をおかけしますが、改稿前の文章に不満を感じておららて方は読み返していただけるとありがたく思います。
もちろん、読み返さなくても次の話には何ら影響はありませんので無視して頂いても結構です。
あたし、川崎沙希が同級生でクラスメイトで、たまたま教室が同じだっただけの比企谷って男子生徒に脅迫されて、朝っぱらからイヤイヤやってきた場所は朝五時過ぎて人気がまばらすぎる時間帯のマックだった。
て言っても、あたしは寝ないでバイトしてたんだけどさ。バイト終わって学校始まるまでの数少ない仮眠時間に何の用があってこんなところに呼び出したんだか・・・・・・。
そんな風にけだるい気持ちで甘く想定していた時間があたしにもあったわ。具体的には今さっきまで。
「大志・・・・・・、あんたこんな時間に何してんの」
マックで待ってた比企谷の隣の席に、あたしの弟で中学生の川崎大志が座っていたのを見た瞬間にあたしの余裕は消し飛んでしまって、場所と時間帯に配慮して大声だして怒鳴ったりしないのが精一杯になってしまった。
どう考えても、受験を考えなきゃいけない中学生が飲食店にいていい時間帯じゃない。それは、あたし自身だってよく分かっていることだった。
「それ、こっちのセリフだよ。姉ちゃん、こんな時間まで何やってんだよ」
「・・・あんたには関係ないでしょ」
突っぱねるようにして会話を断ち切ろうとするあたし。
言いたくない理由で始めてるバイトだし、何よりあたし自身もリスクを承知の上でやっていることだから・・・。だけど大志は違うんだから、同じに考えていいはずがない。
「まぁ確かに一理あるよなぁ、どちらにも・・・・・・」
大志の隣に座っている比企谷が、腐った目でどっか遠くを見つめながら他人事みたいな口調で言ってくるのが聞こえて、思わずあたしは相手を睨み付けてやってから、
「女子高生が制服姿で早朝のマックに姿晒すなんて、警官に見られたら補導されるのはお前だけだぞ川崎。もう少しドレスコードっつーか、TPOを弁えた格好をしてきてくれ。こっちが逆に困ってるから、現在進行形で今この瞬間に・・・・・・」
「ぐ・・・っ」
――思わず視線をそらして反論の声を飲み込まざるを得ないことを言われてしまった・・・っ。
いつも睡眠時間短いから、そのまま学校に行けるようにバイト先まで持って行っていた制服だったけど、これからは着替える時間はもう少し遅くした方がいいみたいね・・・。
今、挙動不審気味に周囲の視線を気にしまくって辺りを見回してる気持ち悪い目の男を見て、あたしは心の底からそう思っていた。
「ま、それはそれとしてだ。――川崎、なんでお前が働いていたのか、金が必要だったか当ててやるよ」
「・・・・・・っ」
不意打ちで口に出された本題に、あたしは目つきを鋭くして相手を強く睨み付けなおして、集まってた他の連中・・・雪ノ下と由比ヶ浜と大志と――なんか知らない見たことない中学生っぽい女の子たちも、比企谷の言葉に興味津々といった感じの眼差しを向けている。
たかが他人事に、ここまで興味持てるなんて、つくづくお節介な奴らよねまったく・・・。
「大志、お前が中三になってから何か変わったことは?」
「え、えっと・・・・・・塾に通い始めたことくらいっすかね?」
大志は他にもいろいろ思い出そうとして頭抱えてたけど、思いついたのはこれだけだったらしい。ニアピンだけど外れだ。これなら答えには行き着けるはずがない。そう高をくくっていたんだけど・・・・・・
「なるほど、弟さんの学費のために・・・・・・」
「・・・いや、違うだろ。って言うかねーだろ今時、弟が高校に通うための学費を同じ学生の姉ちゃんがバイトして稼ぐなんて、いつの時代の苦学生だよ・・・昭和ぐらいか?」
「失礼だし! 金八先生とかに失礼だし! この前、再放送見たらスゴくいい話で感動できたんだよ!?」
「まぁ、由比ヶ浜の昭和思考は置いておくとしてだ」
「だからあたしはショーワじゃないってば!? あと、ショーワって何年何月何曜日のことなの!? 教えてゆきのん!!」
「由比ヶ浜さん・・・・・・お願いだから、今だけは黙っててちょうだい。本当にお願い・・・」
「・・・・・・はい・・・」
いきなり変な漫才を見せつけられて空気を和まされてしまったんだけど・・・なに? コイツらっていつもこんなバカなことばっかりやってんの?
「4月から塾に通えている時点で、川崎家では大志の学費については解決しているんだ。入学費も教材費も入塾する時点で払い終えてなきゃ通えない場所だからな。もともと川崎家の中で、その出費は織り込み済みだったんだろう」
「なるほど・・・、そういうことね」
比企谷の話を聞いて雪ノ下に、全てを理解されてしまったのか同情めいた視線を向けられて少しだけ腹が立ちそうになったけど・・・まぁ、想像自体はたぶん大体あってる。
「学費が必要なのは、弟さんだけではないものね」
――そう、あたしたちが通う総武校は進学校だ。生徒の大半が大学進学を希望して、また実際に進学していく。
高校二年生のこの時期から受験を意識するヤツだって少なくないし、夏期講習について真剣に考えるヤツもいる。・・・あたしみたいにね。
で、真剣に考えた結果として、あたしにはいいとこの大学に進学するためにも、夏期講習を受けるためにも家には金が足りてなかった・・・って簡単な話よね・・・。
そして、そんな話を知ってしまったら単純バカでお人好しな、あたしの大事な弟はどう思ってしまうのかと言えば。
「姉ちゃん・・・・・・。お、俺が塾行ってるから・・・・・・」
「・・・・・・・・・だから、あんたは知らなくていいって言ったじゃん」
あたしは大きく溜息を吐いてから、慰めるように大志に言ってやって頭をぽんと叩いてあげた。
「あたし、大学行くつもりだし。そのことで親にも大志にも迷惑かけたくないから。だから・・・やっぱりバイトはやめられないよ」
後半は雪ノ下たちに向けて鋭い声で言ってやりながら宣言することで、大志を黙らせ他の部外者たちにもはっきりとした決意を見せつけてやった。
悪いことなのはわかっているけど、こうするしか他に高校生が学費稼いでおく手段なんてなかったから、だから―――
「あのー、ちょっといいですかねー?」
と、そこへ周囲の沈黙を破って比企谷の隣で大志とは逆の席に座っていた、なんか見たことない名前知らない女の子が挙手しながら声を差し挟んできた。
「何?」
かなり、ぶっきらぼうな口調で言ってやって喧嘩腰に見えるようにしたんだけど、相手の方は「にこにこ」笑ったまま受け流して、まるで効いた様子がない。・・・つくづく変な上にやっかいな連中だった。
「やー。うちも両親共働きなんですけどねー、それで小さい頃の小町、家帰ると誰もいないんですよ。ただいまーって言っても誰も応えてくれなくて」
「誰もいないはずの自宅の中から、応え返ってきても怖いだけだけどな。――木霊ですか? いえ泥棒です。もしくは幼女誘拐目的の変質者です」
「あー、うん。お兄ちゃんはちょっと黙っててね。――今、ピンポイントでドタマ来て小町ちょっとだけ怒りポイント堪っちゃってるから♪」
にこにこにっこり、先程あたしに向けたのと表面上は同じなのに中身に全く違うナニカが混じった笑顔で、自分で兄と呼んだ比企谷を見つめる小町って言うらしい女の子。
コイツらって兄妹だったんだ・・・見た目は全然似てないし、中身も全く別物っぽく見えるけど、明らかに面倒くささが共通してそうで比企谷の妹って感じのする子だわ。割と本気で本当に。
「それで、そんな家に帰るのが嫌になっちゃって小町、五日間ほど家出をしたんですよ。そしたら両親じゃなくてお兄ちゃんが迎えに来て。
で、それ以来兄は小町よりも早く帰るようになったんですよ。それで兄には感謝してるんですねー」
・・・世の中もまだまだ捨てたもんじゃない、いい兄がいるもんだなと思わされてたら比企谷だった。
あたしは先程より少しだけだけど比企谷に対して親近感めいたものを感じてしまい、こういう話に弱そうな由比ヶ浜は瞳を潤ませて彼を見ている。
――ただし、雪ノ下と当の本人だけは冷静だった。
「早く帰ってくるのは、その頃から比企谷君に友達がいなかったからでしょう?」
「おい、人の過去に失礼な決めつけをするんじゃない。俺は友達がいたとしても、家に早く帰るほうを選んでいた子供の頃からのエリートぼっちだぞ。
友達づきあいとか、相手の勝手な言い分とか都合に振り回されて我慢させられてばっかで、なんか面倒くさそうじゃねーか」
「・・・・・・その意見には一理認めるべき部分がなくもないわね」
「ゆきのんまで肯定しちゃうの!? いい話だったのが台無しになるにも程があるよ!?」
とんでもないオチが待っていた。やっぱり比企谷兄は性質が悪い・・・。
「あー、いえ、それらは重々承知なんで最初からどうでもいい部分だったんですけど、こういった方がお兄ちゃんの印象も良くなって人間関係構築にも貢献して、小町的にもポイント高いかなーって思ったから言ってみただけでして」
そして妹の方まで、しれっとした顔で平然と言ってのける。
由比ヶ浜が思わずげんなりとした表情になって、『・・・やっぱヒッキーの妹だね』と呟く声が聞こえた。あたしも概ね同感だ、やっぱり比企谷兄妹は妹の方も性質が悪い。
「・・・で? 結局、何が言いたいわけ?」
関係ない話を聞かされて、兄妹漫才まで延々と見せられ続けていい加減イライラしてきたあたしが、イラ立った気持ちを正直に声に込めて詰問したけど、相手は変わらず笑みを崩さないまま、あたしと真正面から向き合ってくる。
「まぁ、つまりですね。沙希さんが家族に迷惑かけたくないのと同じように、大志君だって沙希さんには迷惑かけたくないんですよ-? その辺わかってもらえると下の子的には嬉しいかなーって」
「・・・・・・」
・・・不覚にも、相手の言葉になにも言い返せなくなって沈黙させられたのは、今度はあたしの番だった・・・。
「・・・・・・まぁ、俺もそんな感じ」
そして大志が顔を赤くしながら、ぼそっと付け足すように言った言葉がトドメとなった・・・。
正直、そこまで考えが至らなかったのは不覚だったと思う・・・。自分のことで頭がいっぱいで、大志の気持ちを決めつけていた部分があるのは今になってから、ようやく解ることだったから、あの小町って子に教えられたことだったから・・・。
だけど・・・・・・それでも、学費の問題までは・・・・・・。
「川崎。一つ、と言うか幾つかお前の主張のなかで間違っていた部分を指摘してやろう」
と、比企谷がいきなりダメ出しをしてきたから、思わず気分を壊されたあたしはかっとなって相手を睨み付けて、そして!!
「一つ。相手に迷惑かけないも何も、他人に相談もちかけちまうほど心配させてた時点で迷惑かけまくってたこと確定だ。この時点で矛盾している」
――即座に目線をそらして、うつむかざるを得なくされてしまった・・・。
なんて嫌なタイミングで事実明かしてくんのよコイツは!? もっと早くに言っときなさいよねそういう言葉は! 気づいてなかったあたしが恥ずかしいじゃないの!?
「二つ。塾に使うのか大学行くのに使うのかは知らんけど、他の進学希望な同級生たちが夏期講習はじめてる時期に、通うための学費稼ぎ始めてる時点で遅すぎる。周りが塾行って勉強してるなかで一人だけバイトしてたら落ちるだろ、普通に入試試験で。そして受験費用が無駄になる」
「ぐ・・・、あ・・・っ」
思わず、くらりと来させられてしまった・・・。何という盲点・・・そこまでは考えてなかったわ!
「三つ。深夜に勉強せずにバイトして、遅刻して学校に行くような生活続けて寝不足になってたら在学中の時点で成績下がって落ちこぼれかねない。
始めてから数ヶ月までは我慢できても、睡眠時間削って我慢し続けてたら無理が出てきて体調壊して、そりゃ成績も落ちるだろ普通に考えて」
「ぐ・・・、ふぅ・・・・・・っ」
これもまた盲点の一つだった・・・。確かに今のところ大丈夫だし平気だから気にしてなかったけど、この生活を満額満たすまで後数ヶ月続けることを考えた場合に耐えられるかどうかは別として、勉強と成績に影響与えないでいられる自信は流石のあたしも・・・・・・ない!
「四つ。家の事情で仕方ないとはいえ、深夜バイトで遅刻登校が当たり前になったら内申悪くなって受験に響く。
俺たちが通っているのは高校で、しかも進学校だ。通っている生徒全員を進学させられればいい中学校教師共とは違って、受かった後に問題を起こしそうな生徒の内申まで偽ってやろうと思えるお優しい教師様はたぶんいねぇよ」
「ふ・・・、ぐふぅ・・・・・・」
そこもまた、考えていなかったポイントだった・・・。中学校から高校までは内申なんて、その程度のものだと思っていたけど、いい大学狙うんだったら当然のように影響してくるものだった・・・ウッカリしてた!
「五つ。・・・お前、この前パンツ見ちまったときの態度の時点で普通だったらアウトだったぞ? 相手が平塚先生だったから良かったものの、教師相手にあんな態度とってたら相手次第じゃ評価がどんだけ下げられてたか解ったもんじゃなかった。
オマケに帰りしなに、結婚がどうとか年齢がどうとかも言いまくっちまってたからな・・・自分とこの教師が優しいからって、あんまし調子づいて他の先生たちにも同じ基準求めるのは学校を甘く見すぎだと思うが?」
「ぐ・・・・・・・・・ふぅ・・・・・・・・・」
ガクリと、思わずあたしは立っていられなくなって床に手をついてしまった・・・・・・。
なんて言うことだ・・・あたしは他の奴らより苦労しているから色々と解っているつもりになっていたけど・・・・・・こんなに簡単で当たり前のことを見落としてしまっていたなんて!!
「な、なんか川崎さん、かわいそうだね・・・守ってあげないのゆきのん?」
「・・・・・・今回のことは仕方がないわ、由比ヶ浜さん。全部彼女の自業自得だかr――」
「あっ! そう言えばヒッキーから聞いたんだけど、ゆきのん奉仕部にヒッキーが入るとき、平塚先生相手にいろいろ言ってあぷぅっ!?」
・・・・・・なにやら視界の隅で、キャットファイトっぽいものが始まってた様な気がしたけど、今のあたしはそんなのを気にしていられる気持ちになれなかったから、ただ俯いて打ちひしがれて、明日から学費溜める手段をどうしようかと悩みながら迷いながら、間違いかもしれない道を模索していると・・・・・・。
「それらのことを踏まえた上で聞いておきたいんだが……川崎」
頭上の比企谷から、声がかけられた。
「お前さ、スカラシップって知ってるか?」
・・・・・・川崎兄妹との話が終わった朝五時半の空気は、まだ肌寒く、欠伸混じりに遠ざかる二人の兄妹を見送る俺の息も白い煙となってすぐに消えていく。
「きょうだいって、ああいうものなのかしらね・・・・・・」
朝靄のなかで、俺たち比企谷兄妹の隣に立って二人を見送っていた雪ノ下がぽつりと漏らすのが聞こえた。
「どうだろうな。結構人によりけりじゃねぇのかな。一番近い他人って言い方もできるし、親兄弟で骨肉の争いって歴史の授業でもよく出てくるし。現代でも遺産相続とかでさ」
「おおーい、今その話題を出すのはNGだよお兄ちゃん。雰囲気ぶち壊しにも程があるから、ピンポイント過ぎるから。
たまに本気で腹立たしくなって殴ってやろうかって思えるのがお兄ちゃんの言い方なんだから、こういうときぐらい我慢してあげると小町的にポイント高い~♪」
・・・ほらな? ニコニコ笑いながら笑顔で兄を脅迫してくる妹もここにいるし。昔からよく言ってる小町ポイントがなんなのか、未だによく分かったことないし。そんなもんじゃねぇの? 兄妹なんて。
血が繋がってるだけで全部理解できるんだったらエスパーだし、違っていても、たまに本気でイラッとするときがあっても一緒に居続けてしまってる。
逆に、たいした理由もなく嫌いあって兄妹だって世の中にはわんさかいるだろうし、一概に「こういうのが兄妹だ」って定義づけできるほど分かり易いものでもないと思うがな。
「一番近い、他人・・・・・・。そうね。それはとてもよくわかるわ」
雪ノ下は頷き、そしてそのまま顔を上げずに、由比ヶ浜が「ゆきのん?」と怪訝に思ったのかそっと顔を覗き込もうとした瞬間に、ぱっと顔を上げて彼女に向かって微笑みかける。
「さ、私たちも一度帰りましょうか。後三時間もすれば登校時間だし」
「う、うん・・・・・・」
雪ノ下の反応に、由比ヶ浜は釈然としない表情を浮かべたが、すぐに頷いて肩にかけたバッグを背負い直す。
よく分からんが、「本当に他人だったら今よりは仲良くなれたかもしれない兄妹もいる」って言葉は言わん方がいい状況なんだろうな、小町ポイントをこれ以上失いたくない兄としては。
と言う訳なので、俺も家へと帰るために自転車の鍵を外して、小町に向かって声をかける。
「そうだな。おい小町、起きろ。そろそろ帰るぞ」
「うぅ~ん・・・・・・もう食べられないよお兄ちゃーん・・・・・・」
先程とは打って変わって、弱々しい寝言みたいな返事をしてくる小町。
まぁ無理もない、さっきのは随分と無理して言ってたからな。妹に無理させちまった兄としては、多少は優しい言葉をかけてやるぐらいは許される範囲の甘やかしだろう。
「朝っぱらからビッグマック二個も食うからだ。自業自得だ。胃もたれてないで、早く後ろに乗れ。置いていくぞ」
「・・・うぅ~・・・。小町は悪くないもん、朝マックが中学生の懐には優しすぎる値段設定なのが悪いんだもん・・・・・・」
恨み言を言いながらノロノロとした動作で、俺の後ろのサドルに尻を乗せて両手を前に乗った俺の腰に回して固定したのを確認し、では出発。
負傷者を乗せているので、いつもより安全運転で兄は自宅に向かって運転手をしてやっておりま~す。
「二人乗りはあまり感心しないけれど・・・。また事故に遭ったりはしないようにね」
「ああ、そっちこそ気をつけて帰れよ。背中とか、まだ暗いから」
「・・・・・・・どういう意味かしら比企谷くん。帰る前にちょっとだけ話し合いを――」
「それじゃあなー」
そう返して、俺は止まることなく自転車のサドルを漕ぎ続ける。
他人に対してはルールを守ることも要求して、ルール違反には裁きを与え、自分がルール違反をするときには理屈をごねる雪ノ下と朝っぱら不毛な言い合いをしたくはない。
自他共にひねくれている俺のモットーは、『逃げるは恥だが役に立つ』だ。
「はぁ・・・・・・、お兄ちゃんはほんと言い方がダメダメだなぁ。こんなことならさっき無闇に褒めるんじゃなかったよ」
「いや、さっきのは全然褒めてなかっただろ。最終的にお前がいい子になって小町ポイント高くしてただけだっただろ。・・・しかもだいたい捏造だったし・・・。
よくあんな作り話で騙せたな、協力する方がヒヤヒヤもんだったぞ」
「・・・うん、正直小町もちょっと焦りながら言ってたわ・・・。小学生に五日間の家出は無理あったかなーって。せめて三日に――ウップ」
「おい、待て、吐くな。お前の位置、現在位置は俺の背中!!」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら俺たち兄妹が乗った自転車は、国道十四号線と交わる直線をゆっくり進んでいく。
―――川崎に言ったことも含めて、どこまで本当かは俺にもウソ過去話捏造した小町にだって判らない。学校側の判断なんて生徒たちに教えてもらえるはずがない。
だが今回、大志から相談を受けて奉仕部として引き受けた依頼内容は『姉の深夜バイトをやめさせること』であって、『川崎家の経済状況の改善』も『学校側に推薦入試制度を正しく実行させること』も含まれていなかった。
だから引き受けた依頼を解決した。それだけだ。頼まれてない上に、自分で引き受けると決めた訳でもない問題まで背負い込んでやる義理はないし、切りもない。テキトーなところで割り切る方がいいに決まっている。
小町は、その口実を提供して、俺はそれに乗っかった。嘘は吐いていないし、本当に自分が考えている学校側がしそうな対応を言っただけ。
知らない事を、決めつけだけで語るのはウソにならないって言うか、雪ノ下が毎日やってることだし。部長が範を示して部員と、その家族がそれに倣う。…普通だろ? だから悪いのは社会という名の世界であって、俺も小町も悪くない。
…そういう解決の仕方が今回の依頼の顛末だったから、こう言う締まりのない終わり方が相応しい。
そんな事をつらつらと考えながら二つ目の信号町をしていたときに、通り一本を挟んだベーカリーから香ばしい臭いが漂ってきて、先程マックで腹が膨れていた小町が食欲とは異なる別の記憶巣を刺激されたらしく「あ、そーだ」と呟いてから俺に背中から声をかけてきて。
「でもさー、よかったね。ちゃんと会えて」
「あ? なんのことだ?」
脈絡もない発言内容に、俺が眉をひそめて尋ね返すと、小町は思い出話をするかのように数日前に語った世間話を今更のようにブリ返してきて、それで――――
「ほら、お菓子の人だよ。この前小町がお兄ちゃんの自転車に乗せてもらって学校に送ってもらったときに話したじゃん。
お兄ちゃんが交通事故に遭った後に、ワンちゃんの飼い主さんがうちにお礼にきて、お菓子もらっておいしかったって話。もしかして忘れちゃってたの? ヒドいな~、ちゃんとお礼言い換えしてあげなきゃだめだよ?
お兄ちゃん、骨折ったおかげで結衣さんみたいな可愛い人と知り合えたわけなんだし、プラスマイナスで考えたら結果的にはプラスの方が振り幅大きくなってるみたいだし! いやー、よかったね~♪」
「あー、まぁ、そうだな・・・・・・」
背中にしがみついているからこそ、俺の出した答えと決断に気づくことなく小町は上機嫌に鼻歌を歌って、「・・・ウップ」と時々えづいてまた歌い出す。
そして俺は沈黙したまま自転車を漕ぎ続け・・・・・・やがて、その日を迎える。
かねてから計画されていた、職場見学の日。
「由比ヶ浜は、優しいよな。俺のことなら気にする必要ないぞ。
お前んちの犬、助けたのは偶然だし。あの事故がなくても俺、多分じゃなく間違いなくボッチだったし。お前が気に病む必要、まったくなし。
悪いな、逆に変な気遣わせたみたいで。でもこれからはもう気にしなくていい。
気にして優しくしてんなら、そんなのはやめろ」
こうして、ひねくれた俺も選択肢を選びまちがえる・・・・・・。
つづく
注:原作と同じ最後のセリフですが、今作のヒッキーはひねくれてるため意味合いが微妙に変化したセリフとなっております。詳しくは次回冒頭で!!