陽乃さんのシーンが書き終われませんでした……最近どうも下手ですよね、こういう所…。
梅雨の晴れ間と呼ぶべき晴天の日曜日。
由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行くため、雪ノ下と出かける当日になった。
「ごめんなさいね。休日なのに付き合わせてしまって」
「いえいえ。小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし、雪ノ下さんとお出かけ楽しみですし~♪」
・・・日曜の朝っぱらから元気いっぱいの小町も一緒に着いてきてもらうことになっていたけれども。あるいは休日の朝だからこそ元気なのか? ・・・休みの日ぐらい休めよ、マジで本当に・・・。
まぁ、人選そのものは賢明な判断ではあるだろう。俺と雪ノ下の二人で由比ヶ浜の誕生日プレゼント探し回っても碌な結果にならないのは目に見えている。
今までなら由比ヶ浜に頼るべきイベントなのだが、今回はその由比ヶ浜のために誕生日プレゼントを買いに行くんだから本人を頼る訳にもいかない。サプライズは当人には当日まで知らせないからこそサプライズたり得るのだから当然だな。
とは言え、そうなると交友関係の狭い(つーより他にいるのか?)雪ノ下が当てに出来るのは小町くらいしかいないし、俺もいない。しいて言えば戸塚だけど・・・あいつは男だウンヌンっての以前に由比ヶ浜にも伝わっちまいそうって事もあるので今回はパス。ウソ下手そうだし、誤魔化すのも下手そうな奴だからなぁ・・・。
「雪乃さんは、もう何を買うか決めたんですか?」
「・・・・・・いえ、いろいろと見ていたのだけど私にはちょっとよく分からなくて」
その小町が雪ノ下に話しかけて答えをもらっている声が聞こえてくる。
由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買うために今日の俺たちがやってきたのは、みんな大好き東京BAYららぽーとである。様々なショップが入っており、映画館もあればイベントスポットもあるという県下最大のレジャースポットにしてデートスポット。
つまりは当然のように、俺には無縁の場所だ。みんな大好きな場所にボッチの居場所はどこにもない。皆の中に入れないし入らないからボッチ認定されてるんだから当たり前なんだけどな。
「それに私、友人から誕生日プレゼントもらったことないから・・・」
「ふぅ、お前はほんとアレだな。俺なんてあれだぜ、ちゃんともらったことあるぜ?」
「え? 嘘でしょう?」
少しだけ陰鬱そうな表情をして雪ノ下がこぼし、それを聞いた小町もちょっと物憂げな顔で黙り込み、なんと言っていいか分からない沈黙が場に落ちてしまって困っているようだったから俺が助け船のために話題を提供。
「嘘じゃねぇよ。今さらお前にそんな見栄張っても意味ないだろ?」
「それもそうね・・・・・・。軽率な発言だったわ。ごめんなさい。疑ってばかりではいけないわよね。これからはあなたのクズっぷりにだけは全幅の信頼を寄せることにするわ」
「まったくだ、雪ノ下。前々からお前の決めつけばかりで、人を見る目のなさには困らされていたからな。もう少し他人だけじゃなく自分のことも疑うことも覚えてくれないと役に立たない。せっかくの機会なんだし、よく反省するんだぞ?」
「・・・・・・比企谷君、私の言葉を褒め言葉だと勘違いして、今なら何を言っても許されると思っているとしたら、それは大きな間違いなのだと思い知らされる結果になるのだけど・・・?」
「よ、よーし! そろそろ行こうぜ、効率重視で行こう。俺こっち回るから~」
ブリザードを宿した瞳で睨み付けてくる、いつもの雪ノ下さんに復帰してもらえたところで俺もいつものヒッキーに戻ってステルスヒッキー展開。全力で逃げに走る方針に転換。ボッチは平和主義者で争いは嫌い、だから逃げます。
・・・なので勘違いした訳じゃないですから、怖い目つきで睨まないで。雪ノ下さん超怖いっス・・・。
「・・・釈然としないのだけど・・・まぁ、いいでしょう。今日だけは許してあげる。私が反対側を受け持つから、真面目にプレゼントを探すことで挽回しなさい」
「じゃあ、小町はこの奥の方を――」
「ストップです☆」
ゴギリ。
誤魔化しのためにも案内板を指さしながら役割分担してた俺の人差し指を、小町が笑顔のまま力込めて握って「クキッ」と言うか「ゴギリ」と折った。
・・・いやあの、超痛かったんですけど、確信犯ですよね今のって・・・? 絶対に黙ったままタイミング見計らって、いいところ掻っ攫っていってたよね? 今のタイミングだと絶対に・・・。
「お兄ちゃんも雪乃さんも、そのナチュラルに単独行動取ろうとするのやめましょうよ。折角なのでみんなで回りませんか? その方がアドバイスし合えるし、お得です」
「けれど、それだと回りきれないんじゃないかしら・・・・・・」
「大丈夫です! 小町の見立てだと結衣さんの趣味的には、ここの辺りを押さえておけば問題ないと思います!」
首をかしげながらの雪ノ下からの質問に対して、小町が自信満々かつ演出過剰な動作で案内板の指さした先には、一階部分の奥の方にある「ジャッシーン」とか「リサリサ」とかクトゥルー神話みたいな店名だけど若い女の子向けの店舗が並んでいる一帯が記されてあった。
若い女の子たちのネーミングセンスは分からなくなったが、由比ヶ浜の誕生日プレゼントを探すならここだけ見ればいいという小町の主張は分かった。確かに由比ヶ浜が喜びそうな物は、ここだけ見れば事足りるだろう。
実用書とか置いてある書店コーナーとか行っても絶対あいつ直ぐ読まなくなるだろうからな。絶対に。
「って言うか、お兄ちゃんと雪ノ下さんで単独行動して誕生日プレゼント探しても悩むだけで決められないと思います。
どれがいいのか分からないまま時間だけ過ぎちゃってタイムアップして、『絶対いつか役に立つから』って理由で高級文房具とか買っちゃいかねない雰囲気が雪ノ下さんにもありますし」
「「・・・・・・」」
反論しようのない妹からの完全無欠な正論指摘によって、俺たちは普通に団体行動しながら若い女の子向けの商品を扱っているコーナーに向かうことに方針を決定した。
「小町、この辺りでいいんだよな? ・・・・・・って、あれ? いねぇし・・・」
そして言い出しっぺが気づいたらいなくなってるパターンを実演してくれる、半端にコミュニケーション能力高いハイブリッドぼっちな我が妹の比企谷小町ちゃん。
これだから! 知り合いとか友達多いコミュ力高い奴ってのはこれだから・・・!
トゥルルル・・・♪
『はいは~い?』
とりあえず携帯に電話。ボッチには無縁な場所で一人ぼっち同士を二人だけで置いていかれた奴らの辛さを少しは考えろ!とか思いながら小声で詰問開始。人多い人混みで目立つのは、ちょっと・・・。
「お前今どこにいんだよ?」
『え? あー、小町買いたい物いろいろあるから、スッカリ忘れてたよ』
「“みんなで回りましょう”とか言ったのはお前だろうが。妹の頭がここまで残念なことになっていたとは・・・・・・お兄ちゃん、ちょっとショックだよ」
『・・・・・・ハァ~~・・・。お兄ちゃんにわかれっていう方が無理かぁー・・・』
これ見よがしに電話の向こうから、物すっごい馬鹿にした感じの溜息が聞こえてきた。
『まぁ、いいや! 小町、あと五時間くらいかかりそうだし、なんなら一人で帰るから、後は二人で頑張って!』
「え!? いや、ちょ、ちょっと待てって!!」
相手からの反応に俺は慌てる。大いに慌てる。慌てざるを得ない!
えぇーい、くそッ! こうなったら取り繕っている余裕はない! 妹の前だからと兄の威厳だの何だのと言ってる場合ではなくなっちまった! 選ぶ時だ! その選択をきっと悔やむと知っていても、今の俺はその道を選ぶしかない・・・っ!!
「そういう余計な気遣いいらねぇから!? ほんとやめて一生のお願い! コミュ障ボッチの男女二人で、こんな場所に取り残されて俺たちに真面なプレゼント選びなんかができるとお前は本当に思っている訳じゃないんだろう小町!? だからここは・・・戻ってこい! いや、戻って来て下さい小町さん!!」
『・・・・・・お兄ちゃん。卑屈なのを受け入れてるのもいいんだけど、少しぐらいはプライド持とう? 人として最低限の気遣いより先に、人として最低限のプライドさえ失ってきてるように小町には見えてるんだよ・・・?』
電話口の向こう側から、声だけで兄を虫ケラを見る目で見下ろしている妹の冷ややかな視線が見えたように錯覚させられるほど、ナニカを失望しきって諦めたような声音で告げられたが構いやしない。今日の俺は・・・・・・妹に土下座して済ませられる問題だったら靴でも舐める覚悟は出来ているのだから!
『まぁ、そんなお兄ちゃんだから小町のお兄ちゃんなんだけど・・・・・・いい加減、妹として妹離れできるようになってほしいので、小町は泣く泣くお兄ちゃんを千尋のららぽに置いていきます!!』
超楽しそうな声で、泣く泣く見捨てる選択を選ばれてしまった兄の俺です。
『じゃ、もう切るよー。お兄ちゃん、頑張って!』
「あ、オイッ!?」
そして相手の勝手に出した答えによって、向こうから一方的に通話の終わりを告げられて電話切られたのも兄の俺です。・・・つくづく入らぬ気遣いをしてくる優しい女の子は嫌いだと、心の底から確信させられた瞬間だったな・・・いつもの事ではあるけれども。
俺は溜息を吐いてから携帯をしまうと、小声で叫ぶために少しだけ離れていた雪ノ下の元まで戻ってくる。
「小町さん、どうしたって?」
「ああいや・・・何か買いたい物があるらしい。で、あとは丸投げされた」
パンダのぬいぐるみの手を握ってフニャフニャ音出して遊んでたっぽい雪ノ下の背後から近づいてって話しかけたら質問で返され、仕方なしに小町が口にした口実を答えるしかなくなってしまう。
まさか妹に荒療治として雪ノ下と一緒に置いておかれたとは言えないし・・・ってゆうか、よくよく考えてみたら雪ノ下も試練扱いされてるから結構失礼な扱い評価を受けてるっぽいな。小町の中では俺たち二人とも平等に。
「そう。流石にこれだけの品があると、ついつい見入ってしまう物もあるわよね。休日につき合わせているのだし、文句が言えた義理でもないわね。後は私たちでなんとかしましょう」
と言い切りつつも、今さっきまで触っていた目つきの悪いパンダ人形を購入してからプレゼント探しを再開する辺り、雪ノ下は雪ノ下でごまかして深く追求されたくない部分でもあるようだったし、利害損得による利益の共有ってことで俺も納得すべき所でもあるのだろう。致し方ないから受け入れるとしよう。
物買うのに頑張るも何もないけど、ボッチ二人での買い物とかいう高難易度クエストは頑張らないと達成できそうにないからな・・・・・・こんなところで仲間割れしてたらマジで一歩も先へ進めそうにねぇ・・・・・・。
こうして、みんな大好きのデートスポットに二人ぼっちで置いていかれた俺と雪ノ下による由比ヶ浜の誕生日プレゼント選びであったが、思いのほか作業自体はスムーズに進んでくれて、難関と呼べそうなものは一番最初の重要拠点のみ。
「あの、お客様・・・・・・。何かお探しですか?」
「あ、いや、その・・・・・・すいません」
パステルとビビットが入り交じった色彩の空間である、若い女の子向けの服屋やらアクセサリーショップやらが立ち並んでいる『みんな』の中でも特に見た目選別に拘りまくってそうな人たち御用達っぽい店舗が密集している一帯に、俺みたいな部外者ボッチが紛れ込んでる時点で異分子確定してしまっており。
異端排除に動き出してくる『みんなの中の一人の店員さん』から作り笑顔と白い目を向けられて、あからさまに【お茶漬けでもどうですか?】と京都風の出て行け宣言と似たような事言われた気分にさせられて帰る訳にも行かず、どうしようかと悩んでいたところ。
「はぁ・・・この際、仕方がないわ。あまり距離を開けないようにしてちょうだい」
「は? 距離?」
「言わなければわからないの? つまり、今日一日に限り、恋人のように振る舞うことを許可する、ということよ」
という解決方法で問題は解決された。この時点で今日潜らされる予定だった試練の大部分はクリアーできていたらしく、それ以降は存外スンナリと何事もなくスルーできてしまった。ジェンダーの壁の問題が超ブ厚くて怖すぎる件。
「んじゃ、それを採用ってことで」
「・・・意外ね。貴方はてっきり嫌がると思ったのだけれど・・・」
「あ? 嫌に決まってるだろ。お前の恋人なんて真っ平ゴメンだが、この状況だと他に手がない。背に腹は代えられねぇだろう。仕方なくだ」
「・・・・・・物凄い上から目線での了承ね。今日一日だけは許してあげるけど、明日からは覚悟しておいてね? 比企谷君。うふふふ・・・・・・」
と、怖い笑顔で怖い宣言をされてきた雪ノ下さんはもっと怖かったから、まぁ別にいいかと割り切った件。世の中で見かける男女カップルなんて中身は意外とこんなもんかもしれなかった。
「いや、事務用品選んでんじゃないんだから、耐久性とかで服選んでたら一生決まらんと思うのだが・・・・・・」
「・・・仕方がないじゃない。材質や縫製ぐらいでしか判断がつかないのよ・・・」
「服屋に来てんだから、普通に由比ヶ浜が着たら似合いそうだとお前が思ったもん買えばいいだけなんじゃねぇの? 俺も他の判断基準を知らねぇだけだけども」
「なるほど・・・。そういうことね」
というやり取りの末に、雪ノ下が送る誕生日プレゼントはエプロンに決定したらしい。
自分用の黒猫が描かれてるのも一緒に持って行って、レジで会計済ませて、これで今日の買い物イベント終了~。
・・・・・・とか思っていた、そんな時だった。
「あれー? 雪乃ちゃん? やっぱり雪乃ちゃんだー!」
と、背後から雪ノ下によく似た整った顔立ちの年上美人さんが明るい声で話しかけてきて、俺と【彼女】と初遭遇することになったのは―――
「姉さん・・・・・・」
振り返って相手を見た雪ノ下が、さっきまでとは打って変わって慄然とした様子でつぶやき、手にしたぬいぐるみをギュッと強く抱きしめて肩を強張らせる。
「うふ♪」
艶やかな黒髪、きめ細かく透き通るような白い肌、整った顔立ち。
輝きを放つような類い希なる容姿は清楚さを漂わせながらも、人懐っこい笑みのおかげで華やかさが加わっていたとんでもない美人。
それが、
「雪乃ちゃんの姉、陽乃です♪ あなたお名前は?」
雪ノ下雪乃の完璧すぎる姉、雪ノ下陽乃さんとの運命かなんか的な出会いを果たした瞬間だったのだ・・・・・・。
「はぁ・・・・・・比企谷です」
「比企谷君ね。うん、よろしく♪」
にっこりと微笑む、完璧すぎるその笑顔。
まるで氷付けになった相手の心さえ溶かしてしまえる陽の光みたいな名前通りのイメージを持つ笑顔と・・・・・・・・・全然笑っているようには見えない瞳。
それを見た瞬間に感じた違和感の正体を、ひねくれ者らしい表現使って言い表すなら、こうなるのだろう。
―――完璧すぎて仮面っぽい笑顔だな・・・・・・と。
仮面は傷つかない。何を言っても言われても仮面が言われたことなら気にならない。
誰が見ても、誰にとっても完璧で裏表のない輝かんばかりに笑顔の浮かべられる人っていうのは、誰に対しても平等に優しく“してあげる”のが出来てる人。
だから、誰に対しても優しい笑顔にしか見えない笑顔を浮かべられる。
だからこその、【微笑みの鉄仮面】
それが俺が陽乃さんに抱いた最初の印象であり・・・・・・後にそれを知られてメッチャ怒られることになる衝撃的な最初の出会いが、これでありましたとさ。
ボッチの青春ラブコメは、めでたくなし、めでたくなし・・・。
つづく
注:なんかヒロインっぽい終わり方になってしまいましたが、別に陽乃さんをヒロインにする予定とかは今のところありません。
・・・・・・単にそこまで先を考えてないだけですけれども(苦笑い)