前回のハルノンさん回が不完全燃焼でしたので、やり直すよりむしろ流用して描いてみました。せせら笑いしながらでも楽しんで頂けたら嬉しいのですが…。
雪ノ下雪乃、通称ゆきのん(由比ヶ浜命名)の姉、雪ノ下陽乃さんだから通称はるのんさん(今さっき俺がテキトーに命名)との嵐のような邂逅と別れイベントを経て、ようやく紆余曲折あった由比ヶ浜の誕生日プレゼント探しなんていうボッチの俺には無縁であるべきリア充イベントが終わった。
・・・・・・と言い切ってはみたものの。実際には終わっていなかったり、まだもう少しだけ続くんじゃ!なんて事はよくある話である。
もともと当事者の都合だけで未来スケジュール組めたら苦労ねぇし、予定したことが予定通り進むなんて滅多にない幸運なのが現実の世の中ってもんだからな。俺にとって終わりを迎えたイベントだろうと、他人の都合で勝手に続けさせられちまうなんてのは現実だとよくあることだ。
正しい青春ラブコメイベントだったら終わってたはずの定番イベントであればあるほど、俺の捻くれた青春ラブコメだったら間違ってからじゃないと終われない。そういう宿命の元に俺は生まれている。
だって、捻くれてるからな。ひねくれ者が正しく青春を終えるんだったら、その正しさは捻くれた終わり方じゃないと正しく適用できてねぇ。日本語は意外と難しい。
「はぁ・・・・・・。馬鹿な理由ね。姉もまさか、そんな理由で気づかれたなんて思ってもいないでしょうね」
俺が陽乃さんの擬態に騙されなかった理由を説明したところ、雪ノ下からは呆れ返られてしまった訳だが。
・・・まぁ、そういう反応になるだろうな。だって根拠が材木座だし。普通の反応じゃね? 俺でも多分こういう反応返すだろうなと予測できるから腹を立てる理由さえ思い浮かばねぇ・・・。
だから、とりあえずは理由がそれだけって訳じゃないことも伝えておく。
「それにさ、お前と顔が似てるのに、笑った顔が全然違うだろ」
「っ・・・・・・、馬鹿な理由ね」
俺が言うと一瞬だけ雪ノ下を言葉を詰まらせ、よそを向く。
別に嘘も誤魔化しもお世辞を言ってやったわけでもない。俺は本物の笑顔を知っている。媚びたり、騙したり、誤魔化したりしない本物の笑顔をだ。
・・・たとえば、ひねくれ者で全然素直じゃないツンデレな奴が時折見せる笑顔とかさ・・・。
コイツが笑顔見せる回数と、陽乃さんの笑顔見た回数とを比較して、浮かべた顔が似てるってだけで同じだと思えるヤツいたら数字見ろと言いたいわ。さっきの数分だけでコイツと過ごしてきた今までの一、二ヶ月分ぐらいアッサリ超えちまってたんだからな。
人は人に嘘を吐くことはあっても、数字は人に吐かないし吐けない。
人が嘘吐くのに数字を使うことがあるだけであることを、文系得意で理数系苦手な俺はよく知っている。・・・中学時代の陰湿な数学教師のテストを俺は忘れない。あの性悪ジジイ、いつか後ろから誰かに刺されて、俺の手を汚すことなく死んで欲しいと嘘偽りなく誤魔化しもせず、お世辞も言う気なしに俺は思う。
あえて正直に心の中だけで言おう、数字を使いたがる奴は大抵クズであると。・・・理系だと順位逆転する立場の偏見だけどな・・・。
そんな風に思って、雪ノ下が復帰してくるまでの退屈しのぎをしていたところ。
やがて雪ノ下は普段と変わらぬ少し冷めた表情に戻った状態で、くるりと振り返り。
「・・・・・・帰りましょうか」
小さな声でそう言って、俺もうなずいて立ち上がろうとした、その瞬間。
――ワンッ! ワンワンッ! ハッハッハッ!! アンアンアンッ!!
一匹の犬が、猫まっしぐらな勢いで俺たちの方へと走ってくるのが見えた。犬なのに猫まっしぐらである。
まぁ韻を踏んでる言い方してるように見えるだけで、実際には犬がまっしぐらなのは普通のことだから猫の方の言い回しを使うしかなかっただけではあるのだが。
どちらにしろ、俺は家で猫を飼ってはいるが猫か犬かと聞かれたら、どちらかと言えば犬派なので特に気にしない。噛まれなきゃいい。狂犬病に感染させられなければそれでいい。
飼い犬はかわいく、人間様の手を噛みついてくる恩知らずな犬はかわいくない。基本です。
――が、どこにでも例外というのはいるらしく。
「い・・・犬が・・・・・・っ」
立ち上がったばかりだった雪ノ下が、顔に恐怖の色を浮かべて後ずさり、立ち上がったばかりだったベンチの土台にぶつかって体勢を崩し、ベンチに尻餅をつきながら振り出しに戻ってきて俺の隣にへたり込み。
「・・・・・・」
そして俺は雪ノ下の無様な醜態を、他人事のように他人事として冷静に見物中。
いやだって他人事だし。どっちかと言えば犬派の俺に、犬が怖い人の気持ちなんてわかんねぇし。こういう時どう言えばいいのかなんて、ボッチの俺に判ってたらボッチじゃねぇだろうし。
もしここで正直に思った言葉の、「猫っぽい雪ノ下は猫だから犬から逃げ回り、犬と猿は本当は仲がいい」とかの感想言ったら余計にこじれるだけだったろうからな。
ひねくれボッチが他人と関わろうとせず、空気読んで自分から距離おいてるのには理由と正当性があるもんです。だから無理やりボッチを人の輪の中に連れ込もうとする善意の押し売りは辞めましょうと、標語でも書いてポスターに貼って啓蒙運動したい俺ってマジガンジー。ノーベル平和賞はよう。
「ひ、比企谷君・・・っ」
――ワンッ! ワンワン! アオォ~~ッン!!!
「・・・ひぅっ!?」
まっしぐらに近づいて助走つけた末に大ジャンプして、飛びかかっていった先は怯えきった雪ノ下の顔・・・・・・ではなくて、俺の胸元。
「え? 俺なの?」
飛びかかってきたと言うより、飛びついてきたって方が正確になりそうな勢いで俺の胸元まで大ジャンプしてそいつをキャッチし、宙ぶらりんな姿勢で持ち上げてみたけど尻尾ブンブン振りまくってるし、鼻突き出して匂い嗅ぎまくってるし、舌伸ばして舐めたそうにしてくるしで・・・・・・なんかよく判らんがコイツ、めちゃくちゃ俺に懐いてないか・・・?
俺は飼い犬を雇えるほどの金持ってた覚えはないし、餌欲しいならむしろ雪ノ下に尻尾を振るべきだと思うのだが・・・。
「おい、お前。飼い主どうした? 放し飼い・・・じゃないんだろうな流石に・・・」
いくらペットコーナーが近くにあるとはいえ、様々な業種の入ったレジャースポットの中で放し飼いはできねぇだろうし、飼い主の利用客がデパートの中で自分のペットを放し飼いはもっとねぇだろうし。もし出来たら、そいつ誰だよ。雪ノ下の上位互換版か? それだと陽乃さんになるから、あんま条件は変わらないか・・・・・・。
――ク~ンッ♪ ク~ンッ♪ ハッハッハッ!!!
そうこうしている内に、犬は腹を晒して寝転がって服従のポーズを取り始める。
それによって確信した。コイツは放し飼いじゃない、飼い犬だと。
どう見たって、自然界で生き残れるほどの野生を残してるようには見えん。人に依存して養ってもらわないと生きていくことも出来なくなった文字通りの飼い犬だ。俺が愛して来世にと望む熊とは対照的な生き物である。
だからコイツは放し飼いされてない飼い犬で、飼い主に甘やかされて育てられたリア充犬だ。俺のリア充には近寄るなレーダーが感知しているから絶対である。間違いない。
「あ・・・。この犬って――」
「・・・ごめんなさーい! うちのサブレがご迷惑を~っ」
と、俺が犬相手にしょうもない連想ゲームをしていたところで雪ノ下が何かに気づいて声を上げ、遠くから飼い主さんが駆けつけてきたらしく、スゴい勢いで尻尾を振って媚びを売ってくる飼い犬を抱き上げようと近づいてくるのが見えた。
犬を甘やかせる金持ちリア充の割には、若い外見の飼い主だった。
頭の右側に纏められたお団子髪がわさっと揺れて、後ろからだとパンツ見えてんじゃないかってぐらい丈が超短かめのショートパンツに、胸元を押し上げてる「LOVE」のTシャツ、LOVEの綴りで「♡」になってる「V」部分がチャームポイントだ。
・・・よし、韜晦して気づかないフリするのも、嘘吐くのも誤魔化すのも辞めて現実を受け入れよう。
「あら、由比ヶ浜さん」
「・・・へ? ゆ、ゆきのん?」
由比ヶ浜だった。
こんな相変わらず校則違反っぽいお色気ファッションをナチュラルに着こなしている如何にも女子高生って感じのファッションしてる奴を俺は他に知らない。少なくとも今のところはではあるが。
「え。え。あれ? ヒッキー? と、ゆきのん?」
「うす」
「あ。う、うん・・・」
由比ヶ浜が俺と雪ノ下を交互に見て混乱してたので、俺は努めていつも通り冷静そうに挨拶をして落ち着かせてやってから・・・・・・微妙な沈黙が訪れてしまうしかない・・・。
「「・・・・・・」」
・・・うおお・・・これ、やりづれぇ・・・・・・。ただでさえ捻くれボッチで女の子との会話苦手なのに、このシチュエーションだと何話していいんだかマジ分からん。
何故なら俺たちは今、由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに来ていて、それは奉仕部の部員として再入部してもらうための勧誘活動も兼ねて行う予定のものらしい。
計画立案者は雪ノ下、プレゼント買って渡す実行役も雪ノ下、由比ヶ浜への感謝を伝えたいらしいのも雪ノ下。
んで、俺はボッチ生活長いせいで誕生日プレゼントに何あげたら喜ばれるか分からない雪ノ下さんが頼りになる妹の小町ちゃんへの連絡役。
・・・これで俺から先になにを言えと・・・?
今の立ち位置だと、なに言っていいのかさえ分かんねぇんだけれども・・・。
挙げ句の果てに、それら集積によって出来上がった結果なのかどうか知らんが、
「あ、あー。えっと・・・・・・ゆきのんとヒッキーはなんで一緒なの?」
「「なんでって・・・別に・・・」」
――ハモっちまったじゃねぇかよ・・・。明らかに同じ言葉を異口同音に言った理由が違うこと間違いなしな俺と雪ノ下の二人が結果論的にハモっちまったじゃねぇかよ・・・。
互いに全然同じ条件を共有できてないってのに、息合いすぎだろ俺たち・・・。
「あ、やっぱいい! いい、大丈夫。なんでもない・・・。休みの日に二人で出かけてたら、そんなの決まってるよね」
しかも、その結果として精一杯目を細めて強張る笑みを作って掠れ気味に声を出す由比ヶ浜までもが追加されるという負のコンボ。
「そっか・・・なんで気づかなかったかな―、あたし。空気読むのだけが取り柄なのに・・・・・・えへ、へ・・・」
明らかにコイツ、何か変な勘違いをしてるとしか思えねぇよな絶対に・・・。
たとえば、俺と雪ノ下が付き合ってるとか、そういう感じの。
まぁ、ちょっと考えれば、そんなことはありえない誇大妄想だとすぐにわかるし、「俺たち別に付き合ってないから」とか言い出すのは自意識過剰っぽくて俺の美学に反する。
誤解は誤解。真実ではない。ならそれを俺自身が知っていればいい。誰に何を思われても構わない。いつも誤解を解こうとすればするほど悪い方向に進むだけだったし諦めてもいる。だから、その誤解事態はどうでもいい。
あと余計な余談だけど、取り柄って割にはコイツが一度でも空気読めて正しい対応と解釈できてた記憶って一度もねぇんだけれども。
「じゃ、じゃあ、あたしもう行くから・・・・・・」
「ちょいストップだ、由比ヶ浜」
そして由比ヶ浜は顔を伏せたまま、足下に転がっていたコイツの飼い犬のサブローだかハトサブレだかいう名前の犬を抱きかかえて立ち去ろうとしてたのか、床に転がったままの犬へと両手を伸ばして抱きかかえようとした瞬間に。
ごきり、と。
犬に伸ばそうとしていた由比ヶ浜の右手の人差し指を掴んで、変な方向にくきっ曲げて制止する俺。
「・・・・・・~~~ッ」
「お前な、そのナチュラルに独り合点して行動するのはやめろよ。せめて俺たちの見解も聞いてからいけ。その方が後でフォローとかしなくて済むからお得だ。主に俺が」
「ソッチ!? 女の子が目の前でうずくまって指抑えて涙ぐませといて最初に言うことがそれなの!? もっと別に言うことあるよね普通!? 謝るとか謝るとか謝るとかさァッ!? 超指痛かったんだけどぉー!?」
「気にするな。俺も今さっきやられたばかりだが怒らなかったし、相手も謝らなかった。だからお前も気にしなくて大丈夫だ」
「コレ今さっきやられたばかりなの!? なんで泣いてないのヒッキーは!? 超指痛かったんだけど! 超指痛かっただけど!! 超指痛かったんだけどーッ!?」
「おーい、雪ノ下。俺たちの話も聞いてくれるみたいだぞー」
「ガン無視された!? 指折れて泣かされた女の子なのにガン無視されちゃってる!?」
背中から由比ヶ浜が騒がしく色々言ってきているが、まぁそれは出会った頃から今も変わってない由比ヶ浜の個性であり真実みたいなものだからな。
デメリット部分も尊重して無視してやるとして、ほいバトンタッチ。雪ノ下選手に交代です。
俺はどう誤解されようと構わんし気にならんけど、雪ノ下は「たとえ今後は奉仕部に来なくなっても感謝は伝えたいから」とかの理由で今日の買い物に俺を連れてきて、「一般の女子高生基準と離れた価値基準の持ち主だから手伝え」とかなんとか言われてた気がするし、引き受けた以上は俺にできることをやるだけだろう。
正々堂々、真っ正面から卑屈に最低に陰湿に・・・・・・とか言われそうなやり方になっちまったが、俺にはこんなやり方しか選べない。
こんなやり方だと、問題の解決はできないが、問題の解消はできる。主に痛みで気持ちの問題とか気にしてる余裕なくなってくれたみたいだし、結果的にはOK。許容範囲内だ。
ぶっちゃけ・・・・・・これ以上、面倒事が長続きして休日明けまで持ち越されるの超イヤです。今日中に全部解決に持ってくためなら、シリアスムードだってブッ壊す。それが俺の選んだ道だ。
「比企谷くん・・・・・・あなたって人はどこまで・・・」
そして結果的に雪ノ下から、ゴミでも見るようなと言うよりも比企谷菌でも見下すような視線で見つめられるという結末と評価を与えられちまうという訳なのだが・・・・・・。ヒールは俺の役割だからいいんだよ。そういう事にしておこう。
「はぁ~・・・・・・。それでは、由比ヶ浜さん。私たちのことで話があるから、月曜日、部室に来てくれるかしら?」
「・・・・・・あー、あはは・・・あんまり、聞きたくない、かも・・・。その、今さら聞いてもどうしようもないっていうか、手も足も出ないっていうか・・・」
「私、こういう性格だから、うまく伝えられなかったのだけれど。・・・・・・あなたにはきちんと話しておきたいと思っているわ」
「・・・・・・ん」
俺に対しては呆れたような溜息を吐いてから、由比ヶ浜に対しては真摯な態度で向き直って始められた会話は、意外なことに声音は柔らかく困ったように笑いながらも明確な拒絶を示す由比ヶ浜の態度によって怯みを覚えたらしい雪ノ下が、なんとか踏みとどまって了承を勝ち取ることができたという形で幕を閉じ。
「ちなみにだが、由比ヶ浜。俺と小町、比企谷家兄妹の間では相手にどーしても聞き入れて欲しい話があるときには、相手のために脅迫も恐喝も辞さないってのが毎度のパターンになっててな?」
「・・・・・・・・・うん。・・・って、え!? 脅迫された!? 今あたし脅迫されてなかった!? 月曜日に部室に行かなかった場合、あたし一体どうなっちゃうの!?」
気にするな、由比ヶ浜。せいぜい小町流のお願い聞いてもらいたい拒否権はなしコミュニーケーション術ヒッキーバージョンを味あわされるだから気にしなくていい。・・・などと俺は言わないし思わない。
ただ相手がそう思うかもしれないなとは思ったが、それは誤解だ。真実ではない。ならその真実は俺だけが知っていればよく、誰に何を思われても構わない。誤解を解こうとしても悪い方向にしか進んだことないから、最初から解こうとしないでファイナルアンサーだ。
そして後日、総武高校にある奉仕部の部室内に「だまされたー!?」という由比ヶ浜の魂の叫び声が轟くことになるわけだが・・・・・・少なくとも由比ヶ浜と俺との間に蟠ってた擦れ違いによる悪影響はなくなって、元の奉仕部の日常が戻ってきたことだけは確かなので由としておく。
由比ヶ浜からも雪ノ下からも余計にらまれるようになったが、元から捻くれボッチの俺にとってはそれでいい。
捻くれボッチに青春ラブコメ的お約束イベントなんて必要ない。
なぜなら青春とは嘘であり、悪なのだから。
つまり、正しい青春ラブコメとは間違っている。・・・今日の出来事を経て到達した、比企谷八幡、ひねくれ者らしい心の結論。
つづく