俺ガイル二次作   作:ひきがやもとまち

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他の作品も書いてたのですが、自分流の一人称視点での書き方を練習するため今作を優先して完成させました。他のもネタは出来てますので順次更新を目指すつもりです。

また、今話の内容は自分の捻くれ理論を練習し直すため原作よりオリジナルに寄り過ぎてしまったと反省中。次はもう少し気を付けますね。


やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。第19話

 太宰治の「走れメロス」を読んで 二年C組 比企谷八幡

 

【太宰治の『走れメロス』は、絶対的にぼっちの為のリア充アンチ小説だ。

 この作品の本質は決して友を心配して走る主人公の友情などではない。もっと切実とした人間不信の物語であり、個と社会という名の世界との隔絶を描いた物語であり、そこに一片の救いさえ与えてやれば美談のように思われる、世の真理を描いた物語でもある。

 同じ場所で、同じ苦労を共有することになるとしても、今の時点で共有してない問題だったら友のことでも他人事と思って昼頃までプラプラして遊んでしまえる。

 結果を共有していても『共有してる』と思っていない間は、そいつの中では他人事にしかなることはない。

 明治から百余年。それだけの時間が経とうとも未だにこの物語が読まれ続け、そして美談のように誤解する者が後を絶たないのは、それこそが人間の本質であるからだろう。

 最後に夏目漱石の「こころ」から引用して、この言葉で締めくくりたい。

 

“鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざと言う間際に急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。だから油断が出来ないんです”

 

 自分たちの見たい美談しか見ようとせず、聞きたいセリフしか耳に通らない、自覚なき悪人へと変わるリア充共は悪だ。太宰治は時代を超えて、それを我々に教えてくれている。

 結論を言おう。青春を謳歌するリア充どもよ―――砕け散れ】

 

 

 

「う、うわぁ・・・・・・お兄ちゃん、これはない。これはないよ・・・・・・」

 

 小さな呻き声をかき消すように、ガタガタと扇風機が音を立てて首を振っている。

 

「お兄ちゃんがアレなのはわかってたし、目と同じぐらい性根も昔から腐った魚みたいに腐ってたことは知ってたけど・・・・・・この作文はないわー。・・・・・・ないわー」

「うるせ、お前が作文写させてっつったんだろーが。嫌なら見んな、あと声に出して読むな」

 

 小町に思いっきり否定された悲しみと、昔書いたものを見られる恥ずかしさで俺は原稿用紙をひったくった。こうして年齢上がってから読み直されてみると、自分の文章力がまだまだだった中学時代を思い出させられる。

 小難しい単語を並べれば頭が良さそうに見えるんじゃないかという、どこぞの売れない作家が考えそうなこすっからい思考が見透かせてしまって赤面する思いに駆られて・・・・・・って、あれ?

 なんか少し前にも似たようなこと思ってた気がしなくもない・・・?

 

 

 ――そんなやり取りをこなしてから、数日が経過していた。

 既に7月も終わり、外ではアブラゼミが大合唱する声が朝からうるさく響き続けている。

 小町が夏休みの宿題を集中して終わらせるため部屋にこもり、俺はリビングでソファに沈み込みながら携帯ゲーム機で遊んでいた。

 

 夏休みが始まって二週間足らず。

 俺の生活は例年の夏休みとなんら変わらず、昼まで寝るかゲームするか、「ペット百科」と「夏休み子供アニメフェスタ」を観て、思い出したように書店に出かけて、そして勉強。

 模範的なエリートぼっち生活、俺はこの暮らしぶりを大いに気に入っている。

 そんな風に充実した長期休暇ライフを満喫していたら、携帯が鳴った。

 

『ユーガット・メール』

 

 アマゾンの発送かなと思いながら画面を見たら、メールが一通。

 差出人は――平塚先生。

 それを確認した瞬間、俺はメール画面を閉じていた。休みの日に担任教師からの連絡など受けて喜ぶ学生など実在しない。面倒ごとに巻き込まれて折角の休みを潰されないためにも知らぬ存ぜぬだ。戦略的撤退以外には他に道はない。

 

 ―――そう思っていた時期が、俺にもありました・・・。

 

 

『ユーガット・メール。ユーガット・メール。ユーガット・メール。ユーガット・メール・ユーガットメー・・・・・・・・・』

 

 

 怖ッ!? なにこれ怖い!! すっごい短時間に集中してメールが来まくるんですけど!?

 あまりにもしつこく、何度も何度も続けて届くのでおそるおそるメールを開いてみたところ、フォルダの一番上の最新メールの内容は。

 

 

 差出人:平塚静

 題名「平塚です。メール確認したられ んらくをください」

 本文「比企谷くん、夏休み中の奉仕部の活動について至急連絡を取りたいです。折り返し連絡をくださ い」

   「もしかしてまだ寝てますか(笑)」

   「先ほどから何度かメールや電話をしています。本当は見ているんじゃないですか」 

   「ねぇ、見てるんでしょう?」

   「でんわ でろ」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 俺は担任教師で、美人で巨乳で条件良いのに結婚できてないまま二十代後半の女性が、なぜか結婚できないでいる理由の一端を雄弁に自白しまくってるメール内容について、無言のままノーコメントを貫くことで筋と自分の立場を遵守し、素直な気持ちでなかったことにしてゲームへと戻ってきていた。

 

 身内ってほど親しくはないけど、親交のある知人女性のイメージ的にはあんまり合わないギャップ属性を知っちゃったときって、なんか居心地悪いよね。だから何も見なかったことにしてしまう。

 

 ぶつかるでもなく、無視する訳でもない。・・・俺は何も見てないのだ、何も知らないのである。

 メールの履歴開いてる点については、「間違って押しただけで中身見てない」とか「開いた瞬間にアマゾン届いて忘れてた」とか返しておけば、ひとまずは大丈夫だろう。

 たとえバレたとしても、証拠はない。証拠なしでも体罰は与えてくる人の気もしなくもないけど、その場合はどーせ何やっても相手次第で殴られるから同じにしかなれん。無駄な抵抗をボッチはしないものなのである。ソースは、ぼっちエリートで熟練者の俺。

 

 そんな感じで、正しくて真面目な間違いのない夏休みぼっちライフを今後も継続していくための工作を終えた直後のこと。

 

「あーっ、夏休みの宿題終わったーッ☆

 お兄ちゃ~ん♪ 小町はスッゴく頑張って勉強しましたー」

 

 小町が二階にある自室から、下着の上に俺のお下がりTシャツだけ着た姿で下りてきていた。

 ・・・なんでもいいんだが、コイツは兄と家で二人きりの時はいっつもパンツ見られること前提の服しか着てるとこあんま見たことない気がするな・・・。

 まさかとは思うんだけど、誘ってないよね? いくら妹のパンツなんて布きれ同然とか言い切っちゃう兄キャラポジションでも、相手が美少女の場合には十八禁展開になってる作品なんかも多いから保証できる自信はないぞ? 大抵のソレ系セリフを言ってる兄キャラって妹が性的興味の対象ってのがほとんどだったし・・・・・・。

 

「お疲れい」

「がんばった小町には~、自分へのご褒美があってもいいと思うので~す」

 

 そして、丸の内のOLみたいなこと言い出す俺の女子中学生な妹。

 この言い草と、同棲してる恋人同士みたいな格好とが合わさると、なんかヤバい展開にしかいけそうない気がしてきたので、敢えて気づかないフリして平凡ツッコミで返す兄妹同士なボケやり取り。

 

「まぁ、そうだなぁ。いいんじゃないか? 別に。

 頑張ったご褒美を、“自分で自分にあげるだけ”なら俺も別に反対はしないぞ。むしろ賛成するまである。金がかからないところが尚良い。財布に400円しかない今の懐事情的には尚更に」

「額少なッ!? あと、その捻くれ論理は予測してなかった! 解釈の幅が限定されすぎな受け取られ方されちゃうのは、小町的に結構ポイント低い返しだったよ!?」

 

 自分の失言を逆用されて驚愕したらしい小町だったが、流石に不利を悟ったらしく「と~に~か~く!」と子供がワガママ通す時みたいに腕をバタつかせながら叫ぶことで有耶無耶にするハイブリットぼっちコミュニケーション術を披露してから、

 

「頑張った小町には、ご褒美が必要です! だからお兄ちゃんは小町と一緒に千葉に行かないといけないのです!

 別にものが欲しいんじゃなくて、お兄ちゃんと出かけられればそれでいいそれで十分っていう、ささやかで兄思いな妹らしいお願い事を要求してるだけなんだから、お兄ちゃんにはお兄ちゃん的ポイントを高めるため応える義務があると思うんだよね! 小町的に高いポイントを手に入れるために!!」

「あざとすぎるし、露骨すぎるだろソレ・・・・・・千葉でなにするか知らんが、一緒に行くぐらいなら別にいいぞ」

「おお! ありがとう! じゃあお兄ちゃんも動きやすい格好に着替えてねー♪」

 

 そういう事になったので、妙に大荷物な準備をしてきた小町に引っ張られる形で、軽装の上に荷物が少なく、懐の中身はもっと少ない400円しか入っていない財布だけを尻ポケットに押し込みながら

 

「よーし! レッツ・ゴー♪ ち~ば♪ ちばちばち~ばちば~♪♪」

 

 と、妙なオリジナル千葉ソングを歌いながら上機嫌に家を出発していく妹の浮かれ騒ぐ姿を前にして、苦笑と肩竦めを同時に行った俺は・・・・・・ふと、一番重要な聞いておくべきことを思いだして、背後からリビングを出て行こうとしていた寸前の小町の背中に声をかける。

 

「ああ、そういや小町。千葉まで行くための電車代に金貸してくれ。片道ならともかく、往復で考えると400円じゃちと辛い気がするからな」

「・・・うわぁー・・・小町、ここまで嬉しくない頑張ったご褒美としての千葉行きは想像の埒外だったなぁー・・・」

 

 白けるように、呻くように、まるで実の兄をゴミでも見るかのような瞳で見下ろされながら、俺の今日の一日は始まりを迎えたのだった。

 

 

 

 

「さて・・・・・・、電話に出なかった言い訳を聞こうか。比企谷八幡」

 

 ――そして早速、帰りたくなったし終わらせたくなってしまった。

 小町に連れられて最寄り駅までやってくると、電車ではなくバスロータリーの方へと案内されて、そこで待っていたのがメリハリ効いたボディラインに、たくし上げられた裾を結んだ黒Tシャツ、デニムのホットパンツに登山靴みたいなスニーカー。長い黒髪ポニーテールに纏めてカーキ色のキャップ被ってサングラスしている平塚先生だったからである・・・。

 

「まぁ、最初からまともな言い訳など期待していないがな。事件や事故に巻き込まれていないか、以前のこともあるから少し心配していたのだよ」

「・・・・・・いや、そうは言いますがね先生・・・・・・・・・」

 

 俺は思わず、駅まで肩代わりして持ってきてやっていた小町の荷物をガタッと音建てながら地面に落としてしまうほど脱力させられながら弱々しい声で言い訳というか反論というかなんちゅーかだけでも返すことにして、

 

「普段から結婚関連のネタで過剰反応されてるクラス担任の若い女性教師から、休日に何度も何度も短時間でヤンデレみたいなメールを貰って、恐怖心に駆られてた彼女いない歴=年齢の思春期真っ盛り男子高校生としては、そっち方面の犯罪に巻き込まれないか心配して電話の電源OFFにしておくのはストーカー予防として間違ってない対応だったと思うんですが・・・・・・・・・最近そういう事件に巻き込まれる事例が多い時代ですし」

「――ゴホン! ゴホンゴホンゴホン!! ゴホホホホーッン!!!!!」

 

 先生、朝っぱらから全力出して咳き誤魔化し。今日も元気に平常運行そうで何よりである。おかげで俺の方は普段以上にテンションをダダ下がらされてしまったけれども・・・。

 って言うか、何。この人の完全武装っぷりは・・・・・・動きやすい服とだけ言われてTシャツにジーンズ、上に羽織るシャツだけ適当に見繕ってきた俺とでは休日の過ごし方の本気度が違いすぎて、見てるだけで引きそうなんですが、比企谷だけに。・・・八幡的に8点ぐらいしか上手くねぇー・・・。

 

「ゴホン! ま、まぁ無事ならそれで結構。色々と手を回して、君の妹に連絡が取れたので私も一安心だ」

「・・・いや、俺を追い込むため部活と関係ない中学生の妹にまで手を回して、知らぬ間に巻き込まれてた兄としては不安で仕方ない度が上がっちまっただけなんですが・・・」

「ゴホンゴホンゴホンごほほほほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッん!!!」

 

 もはや必殺技使うときに技名叫ぶみたいな勢いになってきた平塚先生。

 メール内容といい、安否確認の仕方といい、怖い・・・。

 しかも、それでいて悪い結果に終わった場合のことは、あんまし考えないまま始めちまってる負の実績がありすぎるのが別の意味でもっと怖い・・・・・・この人が条件良いのに結婚できない理由の一端は、やっぱり性格面だけでなくスペック面での残念な部分も関係してるんだろうなと思わされてしまって、八幡的に少し引く。具体的には引き返せなくなる人生の墓場ラインから80000歩ほど。

 

「まぁ、いい加減慣れたんでいいんですけど・・・・・・なんか用ッスか? 俺これから妹と千葉に―――」

「千葉に行くんだ。まだメール見てなかったのか?」

「はぁ?」

 

 先生の言葉に、俺は思わずポケットから携帯取り出して電源入れ直してから中身を再確認。あっ、ほんとだ。最初の頃に届いたメールにはちゃんと書いてある。だいぶ下の方だけれども。

 

「すんません、先生。届けられた中で最初に開いたメールが、ヤンデレめいた内容で始まってたせいで怖くて速攻で電源切っちゃってて確認遅れましたわ」

「ごッほぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!」

 

 もはや咳きするときに睨み付けまで同時にされてしまうレベルになってきてしまったか・・・日本の学校特有の『空気読んで意訳しろ感』がスゲーなオイ。

 ただ、いくら求められてもボッチに空気読む機能あるエアコン並の高性能は発揮できないんですが・・・。コミュ力落としてボッチ力上げた局地専用ボッチの共感能力の低さは伊達じゃない。

 

「あ、やっと来た。ヒッキー、遅いし!」

 

 そんなこんなしてたら背後から声がかかって、振り返ると由比ヶ浜がコンビニ袋片手に立っていた。

 やたらピンク色なサンバイザーに、それ生地足りてねぇだろと言いたくなるような裾が短いTシャツとホットパンツ。

 夏を遊び尽くすために生まれたような格好だ。平塚先生の本気ファッションと比べて、ファッション本気感が由比ヶ浜って感じで物凄い。

 

「お前らもいんのか・・・・・・って、部活動扱いだったんだから当然か」

「?? そりゃ部活だもん。いて当然でしょ? 小町ちゃんから聞いて来たんじゃないの?」

 

 けろりとした顔で由比ヶ浜に言われて、小町の方をチラッと見返したら目逸らされて「結衣さんっ!やっはろー!」と逃げられてしまった。

 ・・・なるほど。事態は見えてきたな、後は簡単だ。平塚先生が俺を部活に誘い出そうとして無視しまくったから由比ヶ浜に連絡して、そこから更に小町へと連絡。

 伝言ゲームの結果、「ほう・れん・そう」が出来なさそうなノリとテンションの由比ヶ浜の言葉を、意訳能力高いハイブリッドぼっちの小町が自己流解釈して、俺には誤解させるような部分しか情報流さずに連れ出すため取捨選択しやがったという流れだな。

 

 くそっ! 卑怯だぞ! 小町に誘われたらウキウキ気分で出かけてしまうパンツ丸出し妹への兄としての愛情を利用するなんて! まんまと情報操作に引っかかってエリートぼっちが夏休み中に外出ちまったじゃねぇか! 休みの日は休むためにあるものだと言うのに!

 

「小町ちゃん、やっはろー!」

「雪乃さんもっ! やっはろー!」

「やっ・・・・・・こんにちは、小町さん」

 

 そして、由比ヶ浜の後ろに隠れるようにして突っ立っていた雪ノ下にも微笑みかける。

 天使のような小悪魔の笑顔に、思わず雪ノ下も同じ挨拶を返しそうになってしまい、ギリギリで気づいて我に返って普通の挨拶だけ返して、終わった後に物凄い速度で顔が真っ赤になり、横で由比ヶ浜に笑われていた。

 

 恐るべし、小町のハイブリットぼっち流その場に適応するコミュ力の高さ。

 場を支配する雰囲気を作り出し、下の方の地位にいながら実際に先導してるのは小町な辺りにニュータイプ的な新人類能力を感じさせられる。

 ・・・アイツらも結局は自分たち主導で、指揮官を傀儡にして戦っていく連中だったからなぁー。まぁ下手なヤツに指揮されるよりはマシなんだろうけど、社会に適応して下にいながら支配しちまう能力の高さはギレンっぽくもあったけれども。

 

「小町も呼んでもらって嬉しいです!」

「ゆきのんのお陰なんだよ~。あたしもゆきのんから連絡もらったんだけど、小町ちゃんも呼ぼうって先生に頼んでくれたみたいで」

 

 ――って、違ったんかい。正しい順番だと、平塚先生→雪ノ下→由比ヶ浜→小町→俺という情報伝達の順番だったのか。奉仕部内における序列が順番で示されていて分かり易い並びじゃねぇかオイ。

 しかも、順序としては間違ってないところが非難しづらくて、逆に困る・・・。

 

 部活顧問→部長→部長が電話できる唯一の相手、もしくは連絡先知ってる唯一の部員。順序とか順番とか知らないまま空気だけ読んでヒエラルキーの上に属せるコミュ力高い葉山グループのメンバー。そして最後に俺。

 

 完璧だ・・・。ボッチ力高いメンバーばっかしか上にいない弱小部活動らしい低性能っぷりが無駄に効率よく機能しちまっている・・・。平塚先生が作り上げた社会に適応できない捻くれ者の隔離病棟in奉仕部は今日も平常運行なようで何よりッス。

 

 ・・・いや待て。あるいは、ここまで計算した上で平塚先生が部長である雪ノ下だけに連絡していた可能性もなくはないのか・・・?

 考えてみたら、部長の癖して部員たちの連絡先はおろか一番仲の良いメンバーの誕生日すら知らないほどコミュ力低い責任者だけに重要事項の連絡たのむなんて有り得ねぇもんな。

 

 そうなると、やはり親父から聞かされて育った猫を被って男をたぶらかす優しい女の子特有の欺しテクニックを平塚先生も会得してた可能性だって無きにしも非ず―――

 

「はちまーんっ!」

「あ、戸塚さーんっ。やっはろー!」

「うん。やっはろー」

 

 と思ってたら戸塚が来た。その結果として振り出しに戻ってしまって解らなくなっちまった。

 え、何このメンツ。どういう理屈と流れと順序と選考基準で集められたメンバーなの?

 っつか、奉仕部の活動なのに他部活動の部長と、学校関係者ですらない中学生が人数の半数近くを占めちゃってるんですけど、それは?

 

 いや、俺としては可愛い戸塚が来てくれる分には嬉しいんだけどね? 目の保養になるし、あと雪ノ下と違って優しいし。ただ平塚先生の思惑と、事の黒幕がいるのかどうか解らなくなったってだけで。

 

 ・・・存外いつもの、ノリと勢いでその場で決める行動方針パターンの一環でしかなかったのかもしれないなぁー・・・。

 小町が呼ばれてるのだって、『俺が総武校の生徒で、俺の妹で、相談した内容が俺に連絡つかないから伝えて』だから奉仕部の仕事の範疇とか言い切って他人のプライバシーあさりに私情むき出しで精出しまくってた部長が火元責任者務めてる部活であること考えたら今更だしな。

 

 奉仕部の部長と顧問が主観的判断で、仕事内容を間違っている感が凄すぎる上に怖すぎる・・・。

 この調子でいくと、もしかしなくてもあと一人・・・。

 

「材木座は?」

「・・・・・・誰?」

「彼にも声はかけたが、劇闘がどうのコミケがどうの締め切りがどうのと断られてしまった」

 

 念のため聞いたら、雪ノ下にきょとんと首を捻られて、平塚先生からは思い出したように説明を受けられた。・・・一応、呼ばれてはいたんだな材木座も・・・。

 頭数としか思えないヤツにまで声かかってた時点で、計算とかそう言うのはなさそうだなーと、今回の一件についても始まる前から色々と諦めがついてしまった俺である。

 

 って言うか雪ノ下よ。お前、最初の頃に俺以外の全校生徒の名前と顔は覚えてるみたいなこと言ってなかったっけ? 記憶曖昧になってきたせいで、あんま覚えてないんだけれども。

 あんだけ珍しい名字と奇抜な格好のヤツ覚えてないのに、その他大勢は覚えてるってどんだけだよ。普通に引くわ、お前の偏りすぎてる記憶の序列判定基準には。

 

「では、行こう。早く乗り込みたまえ」

 

 平塚先生に号令をかけられ、今更集まってしまって全員集合してから帰るという道もなく。

 選択肢を与えられなかった俺にとっての奉仕部内での日常パート的な流れとして、先生の背後に止めていたワンボックスカーに乗り込み、一路今回の目的地らしい千葉へと向かって俺たち奉仕部メンバーは県境を越え、ここからなら国道14号の方へ出るのが早くなる道へと進みはじめ・・・・・・って、あれ? 行かねぇの?

 なぜだか千葉へ向かっているはずの平塚先生が運転している車は、インターチェンジに向かって、高速道路へと入ってしまっている。

 

「あの、先生。千葉駅行くのに、なんで高速のるんですか?」

「逆に聞こう。一体いつから千葉駅に向かうと錯覚していた?」

「いや、錯覚もなにも“千葉に行く”としか聞かされてなかったんで、千葉に行くための場所として千葉駅と言っただけだったんスけど・・・」

「・・・ゴホン! たしかに千葉県民にとって千葉へ行くと言われたら、普通は千葉駅の方だと思い込んでしまうものだが・・・・・・」

 

 わざわざタネの割れた叙述トリックの説明をしてくれるところに、平塚先生の残念ながらも良い人な部分が垣間見えた気がして、けっこう美人なのに結婚できない理由の一端も同時に見えてしまうところが逆に悲しい。

 

 

「だが残念! 千葉村でした! まさに外道!!」

「・・・なんスか・・・? そのアレなテンションの答え方は・・・・・・」

 

 

 思わせぶりな態度で自分から言い出したネタって、たとえバレても途中から引っ込みつかなくなってノリと勢いで押し通しちゃうときって偶にあるよね。

 ・・・お見合いの時とかに、同じ事やってなきゃいいんだけど・・・・・・ここら辺も多分、先生が条件良いのに結婚できない理由にって、結構多いな先生の結婚できなかった理由になりそうな部分。

 やはり俺の間違って入ってしまった部活動の顧問も間違っている。・・・そういう宣伝文句が間違いばっかの隔離病棟にはお似合いなのかもしれないなぁー・・・。

 

 

 

 

 

 そうして到着した先の、山の中にあるキャンプ場みたいな場所『千葉村』

 名前聞いたときから、どっかで聞いた覚えがあると思ってたんだが、さっきようやく思い出したわ。

 たしか中学のときに自然教室で行ったことある、千葉市の保養施設・・・だったけか? たしか。あんま覚えてねぇけれども。

 

 しかも到着してから先生の指示通り荷物下ろしてたら、もう一台ワンボックスカーがやってきて四人の男女を下ろしていってしまい、その四人にも覚えたいわけでは決してなかったが、忘れることが決して出来ない許されない最上位カーストの連中と同じような顔したメンツだった訳で。

 

「・・・・・・葉山?」

「やぁ、ヒキタニくん」

 

 例によって例の如く、なぜだか奉仕部と最も縁遠い存在のはずなのに妙に縁が深すぎるイケメンリア充代表の葉山隼人と、葉山にベッタリの三浦。それに取り巻きから二名が加わって4名。いつものメンツから今回は仲間はずれにされたボッチは、たしか二人か。

 

 えっと・・・名前はなんだったかなアイツら二人って・・・たしかえっと、前にどっかで誰かが分かり易く言ってたような・・・・・・そうだ! 思い・・・出したっ!

 

「今日はいつもの二人はいないのか?

 あの『冷静で人の話を良く聞いてくれて、ゆっくりマイペースで人を安心させるけど反応が鈍くて優柔不断なイイ奴』と、『人懐っこくていつも誰かの味方をしてくれる気のイイ性格だが人の顔色をうかがう風見鶏なイイ奴』の男子二人組。

 この前お前と雪ノ下が、そういう評価下されてた覚えがある連中は」

「いや、ヒキタニくん! ゴッチャにしないでくれないかな!? それ雪ノ下さんとボクからの評価が混ざって、どっちも同じ意見のように聞こえちゃう言い方になってるからね!?」

「そうなのか? お前も反対はしなかったと記憶してたんだが・・・・・・俺の記憶はまちがっていたのか?」

「い、いや、たしかに言ったには言った記憶がボクにもあるんだけど・・・・・・しかしっ!!」

 

 と、しょうもないストレス発散用に覚えておいた一発ネタに使い終えて、名前そのものは思い出せなかった葉山の取り巻き二人のことは水に流し(葉山の仲間たちから葉山を見る目が少し冷たくなったが内輪揉めは好きなので問題なし)

 普通の俺は話を進めることにした。

 

 人の名前は覚えなくても、人の悪口は良く覚えている。人間の「こころ」ってのはそんなもんだと、捻くれ者の俺は堅く信じる。

 

 

 

「実は、なぜだか私が校長から地域の奉仕活動の監督を押しつけられてしまってな・・・。そこで奉仕部の合宿も兼ねて君たちを連れてきて、林間学校のサポートスタッフとして働いてもらうことになった訳だ。

 ――葉山たちに関しては、人手が足らなそうだったから形式上の問題として、内申点をエサに掲示板で募集をかけていたら予想外に集まってしまったというわけだ」

 

 平塚先生から、葉山たちには聞こえないよう後半のは小声での説明を受けさせてもらえた俺たち。

 

「だが、これも良い機会だろう。君たちは別のコミュニティと上手くやる術を身につけた方がいい」

「無理じゃないですかね? あの辺と仲良くするなんて」

「違うよ。仲良くする必要はない、“上手くやれ”と言っているのさ。

 『敵対』でも『無視』でもない、サラッと無難にやり過ごす術を身につけたまえ。

 それが社会に適応すると言うことさ」

「なるほど」

 

 この平塚先生の言葉には、俺も深く納得させられて素直に感銘を受けることができた。

 確かに、『敵対』とか『無視』とか『贔屓』とか『特別扱い』とかって叩かれやすい行為のトップ10ぐらいには位置する時代だもんな。

 『上手くやる』って優しい言葉に言い方変えて、そういう風に見えるよう無視したり敵対したり事実上の贔屓や特別扱いする方法は学んどいた方が役に立つかもしれない。

 それが社会に適応することだと言い切って見せた平塚先生のニヒルな微笑みが、いつにも増して捻くれ者っぽくて俺は深く感銘して共感を得られたのだった。

 

 ・・・・・・ただ一つだけ問題点があるとすれば、それは・・・・・・

 

 

「でも、先生。奉仕部の合宿という割には大本の部活動より外部参加者グループの方が多数派な上に、こっちの方は他の体育会系部活動の部長と、中学生合わせてようやく人数で上に立てるって、上手くやれる術を学べる難易度がやたと高い気がするんですけれども・・・・・・。

 下手しなくても、『長いものに巻かれて黙り込んで陰口言う処世術』しか学べないで終わる可能性が高すぎる状況なのではと・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・それも一つの処世術であり、社会適応の仕方の一つであり、そこの所を上手く工夫して乗り切る術を学ぶのが今回の合宿の目的である。

 励めよ、少年少女の学生諸君たち」

 

 

 なんか、そういう事になってしまった。

 つくづく善人であっても、故あれば寝返り悪人へと変貌する人間を信じるなかれ。

 信じれば裏切られ、昨日の友になった敵は明日には敵に戻る。インスタントな絆や人間関係なんて、その程度のもの。

 

 

 改めて思う。

 自らを取り巻く環境のすべてを肯定的に捉えて、どんな一般的な解釈も社会通念もねじ曲げて見せながらも決してそれを認めようとはしない、ご都合主義によって青春を謳歌する愚か者たちよ。―――砕け散れ。

 

 

つづく

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