…捻くれの方を書き始めた時点で判り切ってはいたのですが…原作での今話の件は私の書き方に向いてなさすぎますよね…早めに終わらせて遊戯部の一件に移りたくて仕方がない心境の作者ひきがやもとまちでありましたとさ…。
青春とは嘘かもしれず、悪なのかもしれない。
青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺き、自らを取り巻く環境の全てを肯定的に捉え、どんな一般的な解釈も社会通念もを捻じ曲げ、嘘も秘密も罪科も失敗さえもをスパイスとして変換することを可能としてくれる万能の願望器。ご都合主義絶賛の免罪符。それこそが青春の正体であるのかも知れない・・・・・・。
まぁ結局、これらの前振りによって何が言いたいのかと言うならば。
「――比企谷くん。あなた、由比ヶ浜さんと何かあったの?」
「いや。別になにも」
「何もなかったら、由比ヶ浜さんが来なくなったりしないと思うのだけど」
奉仕部メンバーである由比ヶ浜結衣が、八幡と交わした先日の会話内容による『青春的な理由』によって部活動のズル休みを取り繕いながら続けて一週間が過ぎようとしていた・・・という事だけである。
「喧嘩でもしたの?」
「いや、してない。・・・と思うが・・・」
八幡が雪ノ下に問われた質問に即答しながらも、途中で僅かに言い淀む。
彼としては由比ヶ浜に対しても雪ノ下に対しても他の誰に対しても、嘘を吐いてはいない。
当然だろう。彼としては自分の行動と選択を「選択肢として間違ってはいないはずだ」と信じており、むしろ人間関係的には正しい行動だったと思ってもいる。
だが、「喧嘩だったか否か?」という点では判断がついていない。何事にも判定基準というものは必須である。
何を以て喧嘩とするかの定義づけがされていない状態で、自らの行いを「喧嘩だった」と自信なしに断言するなら嘘になり、「喧嘩ではなかった」と自信なく言い切るのもまた嘘になる。
言葉の言い方を変えるという行いは、斯くも難しい。その難しさ故に、このとき彼ら二人によるコミュニケーション結論も
「だいたい喧嘩なんて元々それなりに近しい連中がする事だろ? だからあれは喧嘩っつーより・・・」
「・・・・・・諍い、とか?」
「ああ、それは近いけど、ちょっと違うと思う。当たらずとも遠からずって感じか」
「じゃあ戦争?」
「当たってないし、遠くなったな」
「なら、殲滅戦」
「話聞いてた? 遠くなったよ?」
「では、・・・・・・“すれ違い”という奴かしらね」
「ああ、そんな感じだな」
「そう。なら仕方ないわね」
・・・という形に落ち着かざるを得ない。
何故なら、雪ノ下雪乃裁判長ご自身も喧嘩の経験はごく少なく、近しい人間関係の所有数は先日来から部室に来なくなったままの新入部員一名以外だと実姉と実母と実父ぐらいとしか深いお付き合いをした事がないボッチ同士の身なのだから。
要するに、雪ノ下の側にも「それが喧嘩なのかどうか判別できる基準」を持ってはいないのだ。
「戦争」なら喧嘩だ。間違いない。「殲滅戦」なら敵を倒す覚悟決めて戦ってるから喧嘩の最終局面だろう。分かり易くていい。
だが、「諍いレベルなら喧嘩か否か?」では判定が付けづらく、「すれ違い」はそもそも自分自身が解決できた例しがない。あるんだったら今ほどコミュニケーション下手にはなっておるまい。
結局のところ、「近しい誰かと付き合った経験少なすぎて喧嘩した事あまりない者同士」で、その行為が喧嘩だったかどうかを議論しても結論なんて出せる訳もなく、仮に出せたとしても確信が持てないから行動に結びつかせる事もできはしない。
経験少ない初心者とは得てして、そういうものである。確かに、これは「仕方がない」――
「まぁ、こういうのはあれだろ。一期一会ってヤツだな。出会いがあれば別れもある」
「素敵な言葉のはずなのに、あなたが使うと後ろ向きな意味でしか捉えられないわね・・・」
雪ノ下は呆れたように言いながらも、相手の考えそのものには反対ではなかったらしく、自嘲気味に笑いながら続く言葉で賛意を示す。いちいち最初の返答では批判的な言葉を言わなければならないのは、麦わら海賊団の狙撃手と同じで奇病が発症しやすい体質なだけだろう、おそらくはだが。
「けれど・・・、確かに人と人との繋がりなんて案外あっけないものよね。些細なことで簡単に壊れてしまう――」
「だが、些細なことで結ばれもするのだよ、雪ノ下。まだ諦めるような時間じゃない」
と、そのとき部室の扉が開いて平塚教諭が現れて格好良く聞こえるセリフのようなものを口にしながらも、実際には古い漫画の定番セリフをパクってるだけの材木座風な登場の仕方で乱入してきて、いつも通りノックをすることもない。
あと、いつも通りタイミングよすぎる登場の仕方に、「実はいつも廊下で聞き耳立てたままタイミング見計らっているのではないか?」という疑惑が一層増したには増していたのだけれども、それを疑ってる唯一の部員が今日はまだ来てないので部長はそこまで気にしていない。
・・・もう一人の方は疑ってはいるけどリスクリターン計算に定評がある人物なので口にしない。このようにして奉仕部内での人間関係は保たれてきたが、今そのバランスに亀裂が走ったことで調停役が強制参加してこざるを得なくなったというのが此度の状況だった。
「ふむ。由比ヶ浜が部室に来なくなってから、もう一週間か・・・。今の君たちなら自らの力でどうにかすると思っていたのだが・・・。まさかここまで重傷だとは、さすがだな」
「あの、先生・・・・・・。なんか用があったんじゃ」
「ああ、それだ比企谷。以前、君には言ったな。例の勝負の件だ。今日は新たなルールの発表に来た」
ズカズカとした足取りで入ってきて、八幡たちの隣に腰を下ろして露骨に溜息を吐いてみせる部活顧問に、「ウゼ~・・・」とか思ってそうな表情を浮かべながらお愛想気味に八幡が問うてきた質問に対して平塚先生は気にした様子もなく、いつも通りの元気そうな笑顔を浮かべながら腕を組み、仁王立ちになって十分なため時間を作った後。
「君たちには、殺し合いをしてもらいます!」
と、自分が流させてていた沈黙を破壊するように厳かな口調で、またしてもパクリ台詞で宣言した直後のこと。
バンッ!!!
「いよいよ壮大なる開幕の刻なのですな!?
英雄たちが覇を競い、野蛮極まる殺し合いが始まるのですな!?」
・・・・・・一番古い漫画のお約束が通じないヤツが到着する刻が来てしまった!
せっかく午後最後の授業の担当だったから掃除当番とか押しつけて事態を面倒くさくするヤツの到着を遅らせてたのに、最高のタイミング待ってたせいか否かは判別基準持てないながらも、結果論として最悪のタイミングで登場してくる直前に平塚先生が出てきてしまってた!!
「捻くれボッチの黒陣営と、頭空っぽ故の明るい真っ赤な太陽の如き赤陣営とに分かれて行われる壮大なる、その戦い・・・・・・この安田、精一杯見守らせて戴きますのでご安心ください平塚教諭殿!!」
「いや、参加しろよお前も!? 部員だぞ! 自分が奉仕部に参加している一人だってことを時々忘れてないかお前って本当に!?」
新たに乱入してきたシェイクスピア(偽)こと安田の、あまりと言えばあまりな発言を聞かされて平塚先生は思わず盛大なツッコミを返してしまうことになるのだが。
生憎と、この男にとってその程度のツッコミは想定の範囲内に収まる程度の初心者向けでしかない展開だったらしい。
「もちろん覚えておりますとも、奉仕部影の女帝よ。ですが我が輩、崩れかけた人間関係の修復とか、ありふれた人情ドラマによくある三流お涙ちょうだい三文芝居とかは滅法苦手でして。
彼の歴史に名を残せし偉大なる大作家の著作にもこうあります。
『神々は我々を人間にするために適当な欠点を与えてくるものです』」
――適当じゃねぇだろ、明らかに人として致命的すぎるレベルの欠点だろと八幡は、もしかしなくても雪ノ下も指摘したいと思ったけど我慢する道を正しい選択肢として選んでいた顧問以外の奉仕部部員たち。
実際に彼の言うとおり、シェイクスピア(偽)はおおよそ“調停”という行為には全く向いていない型のボッチであり、不利な戦況や一方的に叩かれてる状況を面白おかしい物語に仕立て直すためにメチャクチャにぶっ壊してしまうのには役立ってくれても、壊れかけたものを直すときには役に立つヤツだとは到底思えない。
むしろ下手しなくても、ハッピーエンドの喜びを見た瞬間には、悲劇的な終わり方をするバッドエンドも見てみたくなったからとかの理由で、栄光手にする寸前に破滅させて絶望するような展開をもたらしてきそうで怖い気さえする。
本当に英雄たちが覇を競い合う殺し合い戦争だったならいざ知らず、学生同士の人間関係のもつれ程度の諍いでそれやられたら洒落にならん。ここは素直に彼の悪意に満ちた善意を受け取って傍観者に徹してもらうのが一番正しい選択肢だと、雪ノ下も八幡もたぶん思ってた。
「ん。んんっ。とにかくだ! 簡単に言うとこれからはバトルロワイヤルルールを適用するということだ。三つ巴のバトルこそ長期化するバトル漫画の王道だからな」
「バトルロワイヤル・・・? 二人だけで?」
場を仕切り直すように、今までの流れをなかったことにかの如くの、平塚先生が大きく咳を吐いて見せてから再開された話題に八幡が一応ながらもツッコミ返事をして、その反応の中で「二人だけ」の部分に雪ノ下が強い反発を込めた瞳で視線を動かすのを等分に眺めやりながら、安田が反応したのは次のセリフを言い終わられるのを待ってからのこと。
「必要なら新入部員を勧誘しても構わない。由比ヶ浜はもう来ないようだしな~、彼女にはそれなりに期待していたのだが・・・はぁ」
「――先生、由比ヶ浜さんは別に辞めたわけでは……」
「来ないのなら同じだよ。やる気がない者に構ってやるのは義務教育まで、意思なき者は去る他ない。幽霊部員など私は必要としていない」
「・・・・・・」
そう返されてしまうと、「本人に本気でやる気があるのか否か?」に最大価値を認めている雪ノ下としては黙りこまらされざるを得えなくなり。
「あ、あの~・・・俺、やる気も意思もないんで去ってもいいですか・・・?」
「・・・・・・にっこり(バキボキ♪)」
「・・・・・・・・・ですよねー・・・・・・」
自分の前言と矛盾する部分については、言葉には出さずに無言のまま脅迫して自主的に黙らせる選択肢を選ばせることで「矛盾した発言は言っていない状況」を作り出させる、正義のバトルもの主人公がよくやる正しさの貫き方を実践してみせる平塚先生。
自己の信じる正義の味方キャラの正義理論と方法論をパクるというか、参考にして現実に応用している彼女はある意味で正しくバトル漫画から学べている良い読者だったと言えないこともなかったかも知れない。
だが、この時ばかりは状況が、相手が、空気読めないヤツが混じっていて、お約束をお約束展開として守ってくれなかったことが不幸だったと表現するより他にない。
「なんとなんと! いやはや三十年近く前のドラマに出てくる課長キャラ的お約束セリフを実際に聞ける日が来ようとは!
まさに! 「やる気がないならお前はクビだ、明日から会社に来なくていい」と委ねられてもない人事権を行使する学校の人事システムなど糞食らえ!というヤツですな!!」
「んっ! んんんんんぅッ!!! き、君たちは何か勘違いをしていないかね!?」
勤め先の人事システムを話題に持ち出されて、慌てて自身の越権行為を咳して誤魔化し、相手にツッコむ隙を与えさせないまま次の議題を振ることで話題をシフトさせる大人の処世術を披露しつつ居住まいを正す。
「ここは君たちの仲良しクラブではない。青春ごっこならよそでやりたまえ。私が君たち奉仕部に課したのは自己改革だ。ぬるま湯に浸かって自分を騙すことではない」
「・・・・・・」
そう言い切られてしまうと、ぬるま湯嫌いで青春嫌いの二人の部員たちには反論する余地がなく、残る一名は反論する余地があったとしても言うか言わざるかを自己判断と自分の基準だけで決めてしまうため、逆に他人の平塚先生には判断ができない。
―――余談だが、平塚静先生が顧問を務めている部活動の部室を訪れるのは、つい先日まで毎日のように来ていた由比ヶ浜唯より遥かに少なく、なんか用事があった時しか来ようとはせず、来ても直ぐ帰ってしまう事がほとんどである。
が、余談である。物語本筋には一切関係してこないのであしからず。
「奉仕部は遊びではないよ。れっきとした総武高校の部活動だ。そして君たちも知っての通り、やる気がない者に構ってやるのは義務教育までだ。意思なき者は去る他ない。
しかし由比ヶ浜のおかげで、部員が増えると活動が活発化することはわかった。もう一人いた方がバランス的に良いということだろうな。・・・中和剤的な意味合いとしても・・・。
いい機会だし、君たちは月曜日までにもう一人、やる気と意思を持った者を確保して人員補充してきたまえ」
「お、横暴だ・・・・・・」
「心外だな。私なりの優しさのつもりなのだがね」
「どこがだよ・・・・・・」
「わからないなら、それでいいさ。では今日の部活はこれまで。さあ、人員を確保する手段でも考えたまえ」
「平塚先生、一つ確認しますが“人員補充をすればいい”のですよね?
「その通りだよ、雪ノ下。健闘を祈る」
話はそれで終わりとばかりに平塚先生は席を立ち、八幡と雪ノ下を部室から追い出すようにして、せき立てるように鞄ごと廊下にぺいっと投げ捨てて扉にも鍵をかけて自分は格好良く背を向けて去って行こうとしたようとした―――その瞬間に。
「なるほど・・・平塚先生のお気持ち、大変よくわかりました・・・」
至極真面目くさった表情を浮かべ、二本の両手で三人同時には押し出すことが人の身には叶わなかったせいで後回しにせざるを得なくなってた、遅れて到着したから席離れてた安田ことシェイクスピア(偽)が、重々しい口調で平塚先生の思いを代弁して差し上げようと作家らしい翻訳家精神を刺激させられてしまった。その結果として。
「要するに―――
『ノンビリ茶しばいてないでとっとと由比ヶ浜結衣を迎えに行きなさい。どうせ結論出てんだろうがアアン? 発破かけてやるから早く行け』という意思表示を、婉曲的かつ自主的に理解した結果のように本人たちには思わせられるように仕向けながらも、実際にはかなり露骨に本心を示しまくって構いまくっちゃってる自分の気持ちを周囲の同僚に知られて噂になっちゃうと恥ずかしいし外聞あるし~、権限あっても使えないリアル教師として立派そうなこと言って格好付けたい気持ちもあるし~、そういう大人の事情を意訳した作品大好き♡
・・・・・・的な意味合いこそ、此度の金八先生的猿芝居に隠された平塚先生から我われ奉仕部への依頼内容というわけですな!?」
「大人の隠そうとした気持ちを分かるだけで、意訳できない子供の理屈なんて大っ嫌いだーっ!! 早く出てけ――――!!!!」
・・・・・・と、閉めたばかりの扉の鍵を開けて自分が入って「ぴしゃん!」と音高く閉め直すと内側から鍵をかけ直し、自分が顧問を務める部室に引きこもってしまわれた。・・・しばらくの間は出ててきてくれないかも知れない・・・。
「・・・おい、どうすんだコレ。仮に新しい新入部員の勧誘に成功しても、部室に入れてくれるかどうか判んなくなっちまったんだが・・・」
「・・・さぁ? 誰かを誘って部に入ってもらったことなんて一度もないからわからないわ」
「考えてみると、ヒドすぎる部活動だなオイ。って言うかどこら辺が、れっきとした部活動だったんだ? 部活らしいこと今まで一度でもしてるとこ見たことねぇんだけど俺って・・・」
「そもそも顧問の身でありながら、使っている部の名前も出させず、自分が使用を進めた一部生徒にしか存在を知らせぬまま、入部を許可したメンバーと相性が悪い新入部員が加わる恐れのある新人勧誘をさせたことがないにも関わらず、『仲良しクラブではない』と断言できてしまう、その精神構造が理解不能ですな」
ボロクソに言われてしまったものの、自分から部室の中に引きこもる道を選んでしまった平塚先生には、耳を塞いで目をつむるぐらいしか逃げ場はなく、実際にやってるかどうかは別として自分の発言と今まで行ってきた行動の結果が希望してたのと違うものでも責任を取らされなきゃいけないのが人間として生きるという行為なので致し方がない。
まぁ、それは平塚先生が解決すべき彼女自身の心の問題であるから置いとくしかないとして。
「でも、新しい部員として入ってくれそうな人に心当たりならあるわ?」
「由比ヶ浜殿の再勧誘ですな?」
「・・・・・・ええ。そうよ」
八幡が、意図的にか無意識にか「誰?戸塚か?」と聞こうとして口を開いた瞬間に、ズズイと後ろから出てきて結論から持って行かれてしまって八幡は発言を制されて、持って回った言い方で婉曲に仲直り話を持ちかけようとした素直じゃない捻くれ雪ノ下さんが悔しそうに下唇をかみしめながら、「今はそれどころではない」と心の中で踏ん切りを付け。
「由比ヶ浜って・・・だって、辞めるんでそ?」
「ハッハッハ、これは比企谷殿らしからぬご冗談を。一度辞めた者なら、もう一度入り直せばいいだけのこと。
世の政治家や責任者やらなど、不祥事起こして引責辞任しておきながら、恥ずかしげもなく舞い戻ってきて同じ地位に就き、また同じようなスキャンダルを起こすことなど珍しくない世の中です。
トップがやっている行いを見て、下の者が模倣して見習ってはいけない道理が、この世界のどこにありましょうや?」
「なるほど・・・言われてみれば、たしかにどいつもこいつも偉そうな奴らは皆やってるな・・・。雪ノ下、今回は俺が間違っていたようだ。すまなかったと謝っておく」
「・・・・・・・・・・・・・・・分かってくれれば、説明の手間が省けるから良いのだけど・・・」
正しい解決方法がわからない者に答えを与えてやる機会を奪われ、ついでに言えば家が地方議員程度の下の方とはいえ政治家ではある雪ノ下さんが多少の不快感を込めた態度と視線で応じてくれながらも、言ってること自体には間違いがなかったので責任者云々の部分にはノーコメントにして方法論にだけ賛成してやってから。
「話はわかったが・・・けど、簡単に戻ってくるか? 離れていったら、そのまんまってのが普通だぞ」
「戻るか、戻ってこぬかは由比ヶ浜殿の思い悩むべき問題ではないですかな? 我らが決めるべきは再勧誘に行くか否かのみ。彼の大作家が記した有名な名言にもあるではないですか。
『生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ』」
「・・・・・・・・・」
自分が言おうとした言葉よりも良い言葉を、自分よりも良い声と口調で先に言われまくってしまうため、雪ノ下さんとしては具体的な方法論しか口に出来ない現状が今日の奉仕部的風景な模様。
「六月十八日、なんの日か知ってる?」
「・・・・・・いいや?」
「由比ヶ浜さんの誕生日よ。――たぶん。アドレスに『0618』って入っていたから」
「たぶんってことは、直接確認したことはないんだな?」
「う・・・っ」
「流石のコミュニケーション能力――うっ!?」
「・・・・・・・・・」
いつもの冷たく鋭い瞳で相手を自主的に黙らせてから、『だから誕生日のお祝いを』とか『これまでのお礼』とか『今後は奉仕部に来なくなっても感謝は伝えたい』とかの理由付けをした上で、八幡に向かって恥ずかしそうに頬を赤らめ俯きながら――
「・・・ねぇ、比企谷くん・・・。その・・・あ、あの・・・・・・つ、付き合ってくれないかしら・・・?」
「・・・・・・・・・はぁ?」
と、年頃男子を誤解させる定番お願いの仕方を作為もなくナチュラルに実践して見せることで了承を取り付けて、次の休みの日に『由比ヶ浜さんに再入部してもらうための贈り物攻勢作戦』の実行決定と人員確保が完了したところで、今日の奉仕部部活動は終わりを迎える。
「いや、皆様お待たせしました。急に会話から外れてしまい、失礼しました」
「お、おう。なんか静かになってたと思ってたが、何かしてたのか?」
「いえいえ、少しばかり確認作業のため連絡を取っておりまして・・・ああ、そうそう。雪ノ下殿、ご安心頂きたい。
先ほど貴女がしておられた推測は合っていたようですぞ。今携帯で確認をしておきましたので大丈夫です」
「確認って・・・貴女まさか由比ヶ浜さんに直接問いただしたんじゃ・・・っ」
「いえいえ、まさかまさか。そこまで空気読めないKYな奴だと思われるのは流石に心外の極みというものです。
だいいち我が輩、由比ヶ浜殿から携帯の番号教えてもらっていないですので物理的に不可能ですし」
「・・・・・・え?」
思わず、このまえ携帯番号とアドレス教えてもらっちゃってた八幡が少し意外そうな声を上げて、ポケットから携帯取り出して見下ろしてして、やがてそっとしまい直して何も言わない。
――そう、これはただの優しさ。優しい女の子は誰にでも優しくて皆に公平。
安田は、アレだ。シェイクスピア(偽)だから。だから教えてもらってないだけだから。だから由比ヶ浜は普通に優しい女の子で、俺は別に特別じゃない――
そんな言い訳を心の中で八幡がしてたかどうかは、声に出さない限り他人たちには判別しようがないけれども。
一つだけ確かなことは、安田が今の情報を誰に聞いて確かめたか、それを教えてくれた者との連絡先をいつ手に入れたのか。
本人自身がこれから大声で自白してくれる内容だけが、唯一真実であると判別できる確かな情報の全てと言って過言ではない。
「なにしろ―――葉山殿に確認しましたからな!
彼ならば何を聞いたところで、余計な気を回しこそすれ他人の人間関係を壊す恐れのあることには関われますまい!
メンバーの個人情報全てを持つリーダーでありながらガードが甘く、悪意に対しては絶対死守でも善意に対しては内側からの無血開城をよしとし、依頼主からの信頼を裏切って友人を選ぶことのできない優柔不断などっち付かずな決断力のなさも、こういう時には便利でよろしい」
「「・・・・・・・・・・・・」」
「いやー、この前の職場見学の時に一度は同じグループの仲間として入れそうなところを、人数上限で葉山殿が困ってらしたので我が輩の方から退いて差し上げたところ却って恐縮させてしまいましたので、『いつか何かで返してくれれば良い』と連絡先を教えていただきまして。丁度良いので使ってみようかと。
いやはや、無償の人助けボランティアというものは、やはりしておくものです。こういう場面で役立つコネが得られますからな」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
色々と台無しにしてくれやがった奴から、計画の根底だけは間違いがないことを保証してもらえたおかげで、納得しきれない曖昧な気持ちを胸に抱えたまま下校時刻になったので帰路につくしかなくなってしまった奉仕部メンバー、退部保留中の一人除くは帰路へと付き。
途中までは道同じな八幡とシェイクスピア(偽)は、なんとはなしに無言のまま帰り道を途中まで一緒になった別れ際。
「・・・・・・お前は、上手くいくと思うか?」
八幡から一言だけ、今回の件で友人みたいな奴に向かって聞いておこうと思ったことだけ聞いてみた。
対して相手からは、自信満々な口調で「上手くいきますとも。ええ、確実にです」と太鼓判を押されてしまい、かえって混乱させられる。
彼でなくとも、ここまで自信満々で成功を保証されてしまうと逆に不安と不信をかき立てられるのが普通の人間心理というものなので、八幡としては問わずにはいられない。
「何故そこまで成功を確信できるのか?」―――と。
対してシェイクスピア(偽)からの、腕組みしながら尊重な口調で語られた理由説明は以下のようなものだった・・・・・・。
「いえ、普通に考えて引き留め工作の時に、賄賂ではなく『誕生日プレゼントとして賄賂を贈られ』、今後は来なくなっても『今までの感謝の気持ちだけは伝えたい』と渡されたお礼の品を受け取ってしまい、剰え相手には作為も狙ってやったのでもない無作為な雪ノ下殿だったのでは、ヘタレ気味な由比ヶ浜殿では戻ってくる以外の選択肢は他にないのではと思われましたのでな。ですので大丈夫だろうなと」
「なる・・・ほど・・・・・・」
なんか色々と台無しになったような気分にはさせられながらも、少なくとも由比ヶ浜が奉仕部に戻ってくる前提で今後のスケジュールを立てて良いことだけは確実っぽいことだけはわかったので、『せっかく買い物に行くんだし自分もプレゼントぐらい買ってやるか。誤解されないように誕生日プレゼントではなしで』・・・と思いながら道別れたので一人で家に帰った後。
改めて、思う。
――やはり学生同士の青春ラブコメっぽい展開にシェイクスピア(偽)っぽい奴が混じってるのは間違ってるな・・・・・・と。
つづく