…エロを書いてて煮詰まって現実逃避という言い方も出来ますが…。
地の文の説明がときおり、妙に下手過ぎになったり面倒くさくなってしまう時がある作者の悪癖。
そんなテンションで書いたため、今話の内容はちょっとコメディータッチっす。
不快になった原作尊重派の読者様方には、ゴメンナサイ…。
六月とは梅雨であり、ローマ神話の女神ユノに由来するJUNEの名でカレンダーには記されている。
ユノはギリシャ神話における主神ゼウスの妻ヘラのことであり、結婚や出産を司る女神であることから六月に結婚する者は女神に祝福されると言われており、俗にジューンブライドの名で現代では親しまれている。
一方でヘラと言えば、嫉妬深さと夫の浮気許さなさでは数ある神話群トップクラスの存在で、神様スキルにランクあったら嫉妬スキルSSSぐらいはいけそうな女神様でもある訳なのだが・・・・・・。
そんな激しく嫉妬深い結婚出産司ってるヤンデレ女神のヘラが守護する六月十七日、日曜日。
梅雨の晴れ間とも呼ぶべき晴天の日に、一身上の都合から部を離れかかっている由比ヶ浜結衣を連れ戻せなくてもいいから今までの感謝を伝えるためのプレゼントを買いに来た奉仕部部長の雪ノ下雪乃と愉快な仲間たち二人という組み合わせは偶然だったのか、はたまた神が人に与えた皮肉すぎる運命によるものか。
現時点でまだ知る者は誰もいない。
ただ一つ言えることは、神に愛された人間ほどベリーハードコースな試練に強制参加させられて死ぬ思いで強くなってきやすい傾向があるってだけである。ヘラクレスとか。
神様に愛されて守護受けられるってのも意外と大変そうですね。頑張ってください。
―――閑話休題。
「ごめんなさいね。休日なのに付き合わせてしまって」
「いえいえ、小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし、雪乃さんとお出かけ楽しみですし~♪」
千葉県南船橋駅から少し歩いた先に存在する東京BAYららぽーとの巨大ビルディング前に、二人の少女たちによる明るい声での挨拶が交わされていた。
一人は奉仕部部長の雪ノ下雪乃であり、今一人は奉仕部メンバー比企谷八幡の妹である比企谷小町。休日と言うことで二人とも私服姿だ。
挨拶交わし合ってる彼女たち二人に、今は看板見て挨拶に参加してないコミュ力低めなボッチ比企谷八幡が加わった三人が、今日の由比ヶ浜結衣誕生日プレゼント購入クエスト攻略を目指すパーティーである。
本来ならば、奉仕部メンバーの内輪問題であるため雪ノ下と八幡だけで買いに来る予定でいたのだが、「自分たち二人だけでは絶対ろくなもんを買わない」という八幡の意見に不満を表しながらではあったが雪ノ下が反論できなかったことで今回の仕儀に相成ったという言うまでもないネタばらしである。
東京BAYららぽーとは、千葉の高校生がデートスポットによく使うと噂されている県下最大のレジャースポットであり、八幡のようなボッチたちには無縁の場所であり、要するに人がゴミのように集まってきて混雑している場所だった。
「おお、まさに! 『苦難と災厄よ、膨れ上がれ! 炎よ燃えろ、釜よ煮えたぎれ!!』・・・とでも叫びたくなるほど、アントニーに容易く操作される凡人たちが犇めいている場所ですな。
罪深き都市ソドムとゴモラも斯くやというほどに、一時の快楽のため未来を売り飛ばしそうで結構なことですハッハッハ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
要するに、高校生カップルだったらデートスポットによく使うと「噂」されれば勝手に集まってくる、灯に惹かれる蛾の群れみたいな凡人リア充どもが一番嫌いな、遠慮容赦なくアンチ発言を響き良すぎな大声で叫べるコイツにとっても無縁になってほしくて仕方がない場所でもあったという次第。
「・・・安田君。小町さんと百歩以上譲って比企谷君はともかく、私はあなたまで呼んだ覚えはないのだけれど?」
冷たいブリザードを宿した声と瞳で睨み付けながら、だが頭痛を感じているらしい眉間を押さえる仕草をしながら雪ノ下雪乃が眉の端をピクピク痙攣させながら問うてくる相手は、言うまでもなく世界史に残るべき大文豪!――のバッタ物であるシェイクスピア(偽)こと安田である。
休日だというのに、わざわざ制服姿のままでデートスポットまできていて、しかも呼ばれてないのに一番最初に到着してたという徹底ぶり。ウザさという点では学校一の嫌われ者の座が、もし八幡に奪われる日がこようとも揺らぐことは決してないであろう絶対王者としての貫禄を醸し出しまくっている男であった。無駄にではあるが。
「おお、奉仕部の女帝よ。そんな悲しいことを仰らないで頂きたい。我が輩と世界的大作家にとって、作品こそが人生! その言葉はまさに我が人格否定に等しい!!」
身振り手振り交えまくった大仰な仕草と、芝居がかりまくった口調で、それでいて妙に似合ってて違和感ないから性質が悪いセリフとの組み合わせでシェイクスピア(偽)は雪ノ下からの非難を込めた問いかけに、答えになっているのかいないのかよく分からない返事を返して「・・・?」と相手の頭上に疑問符を浮かべさせる。
「つまり―――このような面白おかしいことが起こりそうなシチュエーションとメンツが集まったイベントを我が輩が見物し損ねて物語に書き起こせないなど拷問にも等しい苦行!
なので呼ばれてませんが、来てしまいました! 暇でしたので! 面白そうでしたので!!」
「・・・・・・」
しかも、自分の予測した相手の動機は予想通りだったのに、相手からの返答内容が予測の斜め上いかれたせいで、それ以上の反論が封じられてしまって忌々しそうな目で睨み付けれるだけが精一杯にされてしまう始末。
来た理由説明が、帰れと言う返し言葉への先制返答も兼ねているという、シェイクスピア(偽)的ウィットに富んだ英国紳士風のブラックユーモアジョークであった。
「はは・・・・・・相変わらず安田さんは安田さんしてるみたいで、よかったですねぇ~。小町も嬉しいですよ、そしてぶっちゃけウザいです」
「ハッハッハ! 小町殿もご壮健そうで何より! 相変わらず兄である比企谷殿には、朝のモーニング下着を見せつけておられるのですグワハッ!?」
兄の友人みたいなもんであるが故、家にも遊びに来たことがあるというか勝手に来てしまったことがある経験故に赤の他人よりかは親しい小町から、乙女の秘事を公衆の面前で大声でバラす馬鹿への赤面腹パン制裁をぶちかました後。
「――よし、余計な時間も使わされたところで、そろそろプレゼント買いに行くとしよう。
となると効率重視で回るべきだろうな。俺こっち回るから、小町はこの奥の方を――」
「ストップです☆」
今まで黙ったまま案内板を見るため身体を向け続けていた八幡が、振り返りながら手早く小声で指示を出し、さっさとこの場から退散するため段取りを整えようとするのを小町が腕力にものを言わせて兄の指さす先を指し示していた指そのものを「グギッ!」と握り混んで「ゴギッ!!」と鈍い音を響かせる。
・・・余談だが、今の今まで八幡が黙ったまま案内板だけ見続けていたのは「俺はこの人たちと何の関係もないデートスポットと無縁な場違いボッチですよ」と無言のアピールをし続けていたのが理由だったりもする。
リスクリターンの計算には部活顧問からも冷血部長からも信頼厚き奉仕部下っ端部員一号さんは今日も平常運行そうで何よりである。
「はぁ~、まったくお兄ちゃんは分かってないなぁ~、まったくもう~」
「ぐぉぉ・・・っ、なんだよって言うか、指超痛ぇし、あと後ろ通りかかったガキに変な人たちの一員として見られちまってたし・・・」
「お兄ちゃんも、乗ろうとする寸前だった雪乃さんも、そのナチュラルに単独行動取ろうとするのやめましょうよ。せっかくなので皆で回りませんか? その方がアドバイスし合えるしお得です♪」
あざといポーズと可愛らしい笑顔で、兄の苦情スルーをなかったことにして、敬語使って話しかける相手の雪ノ下だけに提案することで、王さえ落とせば残りは追従する方針を実行してくるハイブリッドボッチという名の、ボッチの割にはコミュ力高い世渡り上手術を披露しつつ、雪ノ下の先手さえも取ってしまい。
「それはそうかもしれないけれど、それだと回りきれないんじゃないかしら?」
「大丈夫です! 小町の見立てだと結衣さんの趣味的には、ここの辺りを押さえておけば問題ないと思います!」
そう言い切って指さす先にあった案内板に書き記されているフロアの一帯には、若い女の子向けのアクセサリーショップや服飾店、靴下専門店やキッチン雑貨など、たしかに由比ヶ浜結衣の誕生日プレゼントに送るのであれば外れの少ない店舗が軒を連ねており、少なくとも一つか二つ前のフロアにある「工具店」や「特殊ドライバー専門店」などの男性向け商店や、どっちの客層を狙って出店したのか全く分かりそうもない一帯まで網羅するよりかは効率的で正しいチョイスだったことは疑いない。
ただ如何せん。「この辺り」という表現は、あまりにも広義の解釈が可能すぎて誤解を招く恐れがあるため、今少し厳密に範囲を絞った方が良かったかもしれない。
特に、この男がいる時と場所においては・・・・・・
「ふ~む、なになに? 『ランジェリーショップ・ジャッシーン』ですか。成る程、小町殿が比企谷殿に日頃より見せつけておられる下着類もこの店で買っておられるから勧めグホハァッ!?」
そして、事実であっても年頃乙女の恥じらう気持ち的に言ってはいけない真実を語ってしまう男は本日二度目の宙を舞い、八幡もまた本日二度目の案内板を見続ける他人のフリと化す。
そして思う。
―――やはり俺の青春ラブコメ的イベントにシェイクスピア(偽)がいると間違いしか起きそうにねぇ―――
と。
そして、その予測は遠からず実現することとなる。外れてくれて良かったんだけれども、むしろ外れてくれた方が良かったんだけれども。
得てして、そういう予感の方が的中しやすい神々の皮肉な愛情に満たされている人の運命とは、そういうものであった。
そして案の定というか、当然の結果と言うべきなのか、性悪作家みたいなヤツの期待通りにと言いたくないけど言うべきなのか。
順調に初っぱなから、面白おかしく混迷しながら由比ヶ浜結衣のプレゼント選びの買い物という悲喜劇が開幕する羽目になる・・・・・・。
第1幕
「小町ー、この辺りでいいんだよな・・・・・・って、あれ? いねぇ」
まず最初の出来事として、先導役だった比企谷小町の失踪から始まる。
「なぁ、雪ノ下。安田でもいいんだけど、小町見なかったか?」
「そういえば見かけてないわね・・・・・・。安田君も知らない場合には、携帯にかけてみたら?」
「ああ、小町殿でしたら先ほどご自身が指さす先を雪ノ下殿が見て、比企谷殿がそっぽ向かれて逆方向を眺めておられるときに、双方の死角を縫うようにして気づかれぬようコソコソと脱出していっておられましたぞ?
何やらお二方に察知されたくない理由でもあるような逃げ方でしたので、携帯はやめておいた方がよろしいかと」
「・・・・・・いや、見てたんだったら止めろよ。あるいはせめて俺に言えよ俺に。
自分から皆で回りましょうって言っておいて率先して単独行動する妹の頭も残念だが、それを知ってて見て見ぬフリする知り合いみたいなもんのボッチ仲間でしかないクラスメイトの頭が、妹以上に残念なことになっていたとは・・・・・・知り合いみたいなもんのボッチ仲間でしかないクラスメイトとして、ちょっと以上にショックだぞオイ」
「はっはっは、面目ない。サーセン、という奴ですな」
「こういうときだけ片言の現代語使うな。普段から時代がかった中世風みたいな喋り方してるくせに」
八幡と雪ノ下だけでは碌なプレゼント選ぶことが出来そうにないからと呼ばれた人選だったのだが、フロア指定だけして姿をくらまされ半端に役割こなして退場。
残りは碌なプレゼントを絶対選べないメンツだけで誕生日プレゼント選びをする羽目になってしまった訳である。
第二幕
「んっ、んんんぅ! ・・・俺そんなに不審かなぁ・・・?」
「どうやら、このエリアだと男性の一人客は警戒されるようね」
「俺がここにいても出来ることはないって事か・・・俺あっちの方にいる――」
「待ちなさい。私のセンスに任せるつもり? 自慢ではないけれど、私は一般の女子高生と離れた価値基準を持っているのよ?
・・・だからその、手伝ってもらえると助かるのだけれど」
「・・・・・・自覚はあったんだな」
プレゼント購入企画の立案者であり実行者でもある雪ノ下雪乃本人自身による戦力外宣言。たしかに自慢ではない。むしろ恥じるべきことだと断言できるだろう。
特に、一般の女子高生基準への理解度という分野では「男子高校生である比企谷八幡の方が自分よりは上だ」と堂々と宣言してしまっている自分を恥じる気持ちがなさそうな部分は救いがたいと言えるだろう。
「でも俺、店の中は入れないしな・・・・・・あと俺も自慢じゃないが女子にプレゼンして惨敗した覚えはあっても、プレゼント買ったことなんてないぞ? この分野では、お前以上に戦力外な自覚があるんだが?」
「問題を自覚してもなお変わろうとしないのね貴方は・・・ハァ。でも、この際仕方ないわね。あまり距離を開けないようにしてちょうだい。
つまり、今日一日に限り恋人のように振る舞うことを許可するということよ」
「スゲー上から目線だな・・・・・・」
そして、自分自身が有する「一般の女子高生基準から見たセンスのなさ」を補わせて誕生日プレゼントを買うためだけに、ここまでの醜態を晒して堂々とした立ち居振る舞いを続けられる奉仕部部長の雪ノ下雪乃女史。
果たして彼女には、プライドというものがないのだろうか? 上から目線の女帝っぽい恋人として振る舞っても、ただの小娘として生きた十数年の日々は消せはしない。
まさに! 『恋人も狂人も頭が沸騰している』という名言通りの人物だったと言えるのではないだろうか? やはり歴史的大作家の書いた本は素晴ら――
「・・・ところで、安田君。貴方が先ほどから書き続けている、そのメモ帳を少しだけ私に見せてもらってもいいかしら? 大丈夫よ、何事も問題がなければすぐに返してあげるから。さぁ早く」
「はっはっは、ですがお断りいたしましょう雪ノ下殿。世界的大作家の記した名著も、我が輩のような一流の作家志望のネタ帳も、中身は炎上しているものだと相場が決まっていますのでなぁはっはっは」
「・・・もうその返答の時点で答えを言っちまってるようなものだけどな・・・って言うか速ぇコイツら・・・距離を開けすぎずに付いてく方の身にもなってもらいたいのだが・・・っ」
終幕として、夕日ではなくショッピングモールの奥へ奥へと早足で逃げていく者の逃走劇と、早足で追撃し続ける追っ手の追跡劇と、追っ手の恋人役にされてしまったため恋人の後を必死に追いかけなければいけなくなったボッチ男の悲劇。
三つの物語が複雑に交差して絡み合い、やがて全ての物語は集約され、エンディングへと到達していくことになる―――ッ!!!
「はぁ、はぁ・・・やっと追いつけたわ・・・疲れた。恋人やれって言った奴が置いていくなよ、頭の残念な妹じゃねぇんだからさ・・・・・・」
「・・・悪かったわよ。でも意外ね、正直に言って貴方はてっきり嫌がると思っていたから」
「いや、特に断る理由もなかったからさ・・・少なくとも引き受けたときにはの話としてだが・・・・・・つーか、お前はイヤじゃないのかよ?」
「別に構わないわよ。知り合いに見られているわけでもないし、周囲に他人しかいない状況なら勘違いされて風評被害に遭う心配もな―――」
「おや? あそこの店で椅子に座ってペットのトリミングをしてもらう順番を待ってる方は、もしかしなくても由比ヶ浜殿の姿では?」
「―――っ!?」
『ふぇッ!? ゆ、ゆきのん!? そしてヒッキー!?』
挙げ句の果てに、心眼レベルに達してるんじゃないかというぐらいには無駄に鋭すぎる観察眼によって、今の時点で見つけてはいけない相手の姿を遙か遠くの店の中に見つけ出してしまい、「他人になら見られてもいい」けれど「知り合いに見られて噂とかされたら恥ずかしいし~」的な乙女チック理由によって恋人役に任じたばかりの相手から「ビクッ!」となって大急ぎで距離を置こうと遠のいてゆく雪ノ下雪乃部長。
「あれ~? 雪乃ちゃーん?」
「――ヒッ!? ね、姉さん・・・っ!?」
「アハッ☆ やっぱり雪乃ちゃんだぁ~♪」
そしてトドメとして、知り合いでもなければ他人でもないけど、身内の家族という一番見られたくない関係性の人に、一番見られたくない演技をしてくれるよう頼んだばかりのクラスメイト男子といる光景を見られてしまうという三連続コンボ。
今日は間違いなく、雪ノ下雪乃にとって最悪の日であり、六月を守護する女神ヘラの祝福じゃなくて呪い受けまくってるか、もしくは愛されるあまり試練与えられまくってるかのどちらかとしか思いようのない最悪に次ぐ最悪の連続。
つくづく神様に愛された人間というのは、碌な目に遭わないものである。本当に・・・・・・。
「え、あれ!? ヒッキーとゆきのんっ!? なんで一緒なの・・・ってあ、や、やっぱいい! 大丈夫! なんでもなーい! 休みの日に二人で出かけたら、そんなの決まってるよね~!えへへ、えへへ・・・・・・」
「・・・あっれ~? 雪乃ちゃ~ん、そういうことだったのー? 初めて会った男の子たちだけど、二人はいつから付き合ってるんですか~? そしてヒッキー君っていうのは、どっちの男の子のことなのかな~? ホラホラ、言っちゃえよ~♡」
「いえ、だから違・・・ただの同級――――ひっ!? い、犬が・・・っ!?」
「あ、サブレ! ごめん忘れてたーっ!?」
そして雪ノ下限定で破滅をもたらす地獄の悪魔が、「ワンワンワン!」と勢いよく尻尾を振りまくりながら八幡の方へと突進してきて、今日一日限定の恋人だから距離をあんまり開けずに歩いてた雪ノ下も斜線上には入ってしまって万事休す。
普段だったら冷静に対処して、ブリザードの弁舌で問答無用で強引に切り抜けることも可能だったかもしれないが、事ここに至っては彼女に残された選択肢は一つだけ。
「ひ、比企谷くん逃げ―――プレゼントを買いに行く途中だったから急ぐわよっ! 念のため言っておくけれど、これは戦略的撤退であって現状からの逃げではないわっ。変な誤解だけはしないでちょうだい、さぁ早く!」
「え、あ、ちょっと、俺の意思はって、おい押すな! 痛い痛い痛いって! 指以外も含めて今日一番今が痛いっ!?」
「はっはっは! 相変わらず奉仕部はいつも愉快痛快な青春しておりますなぁ~、うんうん良きかな良きかなハッハッハ♪」
こうして、今の悩みが解決できない理由や問題の原因とかを自覚できてはいるのだけれど、解決のために必要な能力が―――主に誤魔化し話術とか、犬を恐れる心の克服とか―――が足りてなかったこと等の理由によって、今の現状から逃げ出すしかない自分と、普段のクール然とした昨日までの過去の自分を全面肯定しまくりながら、事実上の全力逃走を意味する戦略的撤退を全速力で断行して走り去っていく雪ノ下雪乃と他二名。
そして、残された者たちが抱く想いとしては。
「ゆきのん・・・・・・プレゼントを買いに行く途中だったって、やっぱり・・・・・・(ギュッ)」
「んっふふ~♪ 面白そうな男の子見つけちゃった~☆ 何かの役に立ってくれたらいいんだけど~」
乙女チックな表情と仕草で、乙女チックな凄い誤解を加速させていく由比ヶ浜結衣と。
誰もが妹よりも自分の方に注目するのが当たり前だったせいで、名前すら名乗れていないモブキャラ臭満載のイメージしか持たれなかったであろう初登場の仕方をした雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃。
前者は明日が休み明け月曜日なので多分問題ないが、学校も学年も年齢も離れてるから次に出会えるまでが遠そうな後者の方は、果たして八幡たちに覚えておいてもらえるのだろうか?
誰にとっても予想外なハプニング連続で始まって、今日一番のハプニング連続しまくりで終わりを告げた六月十七日、梅雨の晴れ間の日曜日にやってきた由比ヶ浜結衣への誕生日プレゼント選びの買い物。
はたして、初期の目的を覚えている人間は参加者の中でどれだけ残った状態で完結できたのであろうか?
それは多くの物語の中で、物語中盤まで旅立ちの目的を覚えている主人公がどれ程いるかと問うのと同じぐらいに分からない。
余談になるが、由比ヶ浜結衣への誕生日プレゼントであるエプロン自体は今日中にきちんと購入できたことだけは確かである。
たとえ今買えなかったとしても、今日中に買えたのなら、六月日曜の買い物で買えたことにはなる。
だが日本語の妙というものを、雪ノ下雪乃嬢が実感したかどうかまでは誰にも分かりようがない、幕間劇でのみ語られるべき物語となるであろう――――。
第一部 完
「う~~~ん、完結した! 第一話完! だがしかし。主役は我が輩が演じたかったですなぁ~」
「お前の脳内エピローグじゃねぇか。知らねぇよ、いやマジで本気の本当に・・・あと、陽乃さんって誰? 知り合いの人?」
―――やはり奉仕部にシェイクスピア(偽)がいると、俺のまちがいだらけの青春ラブコメはまちがえ易くなる。
つづく