俺ガイル二次作   作:ひきがやもとまち

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特に他意はないのですが、昨日一晩かけて次話が書けたのは何故か今作でしたので予定外ですが更新してみました。
作者自身が小学校時代にイヤな思いでしかないから恨み入ってるせいかもしれませんね。
他の作品の更新も急ぎます。


やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。第21話

 俺たち奉仕部が出張活動にきている小学生たちの臨海学校での夕食は、広場でカレーということだった。

 キャンプと言えばカレーだ。むしろカレーという存在そのものが、小学生キャンプの材料と言っても過言ではない程に。

 なにしろ、闇鍋にナニぶち込んでも最終的にカレールーを投入してやれば、大体全部がカレーの味と臭いに押しつぶされて、個人の趣味趣向や創意工夫に意味を無くさせることが可能になるからだ。

 生徒たちに順位をつけず、みんな仲良く同率一位が一番で、犯人捜しは悪いこと精神を重視する日本の小学校における偽善的道徳教育方針に基づくチョイスとしては、こういう場でのキャンプでカレー以外が選ばれる可能性はほとんどあるまい。

 

「ではまず最初に、私が手本を見せよう」

 

 そう言って、今までどこ行ってたのか不明な平塚先生によるデモンストレーションが行われ、教師たち用の火を手慣れた仕草であっさりと、ニヒルな笑みを浮かべながら着火させる手腕を披露してくれた。

 

「ざっと、こんなところだな」

「なんかめちゃくちゃ手慣れてますね。大学時代にアウトドア系のサークル入ってた経験でもあったんですか?」

「ほう? よく分かったな、これでも大学時代はサークルでバーベキューをしたものさ」

 

 くわえタバコを火に近づけて着火させ、顔を離してすぱーと一息吐きながら平塚先生は少し遠い目をして格好付けながらそう言って、

 

「私が火をつけている間、カップルたちがイチャコライチャコラ・・・・・・ちっ。気分が悪くなった。

 ――男子は火の準備、女子は食材を取りに行きたまえ」

 

 途端にイヤな過去でも思い出したらしく、格好つけてた顔つきを格好悪い負け女みたいな表情に一変させた後、あらためて周囲で作業を見物しながらワイキャイ騒いでた小学生たちに指示を出して「ハーイ」と元気よく返事させながら男女別々にバラけた行動をとるよう指示を出してくれる。

 

 おそらく先生が大学生だった頃にアウトドアキャンプが流行っていて若い男女に人気があったから、先生も出会いを求めてサークルに入会してみたものの、着火作業とか野外活動とかの作業が面白くてスキルアップに没頭している間に残りのメンバー同士だけがくっついてしまって自分一人あぶれた者になってしまった過去体験でもあるのだろう。

 挙げ句その後に『私たちが付き合うようになれたのは静が皆の分までキャンプの作業やってくれたおかげ。感謝してる』とか言われながら奢られてしまって自棄食いする展開が待ってたりとか。

 

 ・・・・・・なんか現在の学校風景から容易に想像できてしまう過去の先生の黒歴史を連想した後だと、この流れで男女を引き離すのを見せられても自然な流れのように思えてしまうから不思議だな・・・。

 何らの証拠もない妄想なのに、何故だかすんなり納得できてしまっている俺がいる・・・。

 

 まぁ一先ず、場を去って行った平塚先生は置いておくとしてカレー作りである。

 

 

「まあ、小学六年生の野外炊飯であることを考えれば、妥当なメニューね」

「まあ、そうな。実際の家カレーだと作る人によって個性出るから微妙だけどな。

 母ちゃんの作るカレーなんかだと色々入ってるし、厚揚げとか」

 

 雪ノ下が由比ヶ浜と並んでニンジンを切り分けながら、学校側のメニュー選択を評価しているのか、小学生児童の平均的調理スキルの低さを見下してるのか判別が難しい言い方で誰にとも無く語ってきた声が聞こえたので、俺としては無難な返答として「自分ちではどうしてる?」系の話題を返しておく。

 

「あるある、ちくわとか入ってるベ? ちくわとか入れるってシーフードかよっつーの」

「お、おう・・・」

 

 そして何故だかいきなり戸部から話に乗っかってこられたので、意外すぎて碌な返しができなかった。だが戸部は、別に気にした風もなく話しかけてきてくれる。

 俺と会話するなんて、コイツも実はいい奴なのかも知れない。あんまり気安くするから友達なのかと思っちまうところだった。

 

 ・・・だが知っている。それが優しさだと言うことを。

 俺に優しい人間は、他の人にはもっと優しくて、その事実をつい忘れてしまいそうになる。真実は残酷だというなら、きっと嘘は優しいのだろう。だから優しさは嘘だ。

 

 と言うわけで戸部の優しさは嘘で、実はいい奴なのも残酷な真実なので今後は二度と期待しないよう二度と話しかけるのは止めとこう。訓練されたボッチは二度も同じ手に引っかからない。

 優しくても、優しくなくても、俺は男が・・・・・・嫌いだ。

 どーせ葉山グループの一員で、リア充の一人でもある事だし。 

 

 ・・・って言うか、『騒ぐだけしか能がないお調子者』とかの雪ノ下評価が、全然役に立たなかったな、コイツって・・・。

 むしろ葉山が言ってた『ノリのいいムードメーカーで積極的に動いてくれる、いい奴』の方が現実に則してる気がしてきたわ。

 遅まきながら葉山の評価の方が正しかったことが立証されちまった現状。葉山スマン、あのチェーンメール事件の時にはお前の方が正しかった。あと誤審した雪ノ下裁判長を誰か責任取らせて更迭して下さい。

 

「でもママカレーって、そういうのあるよね。こないだも変な葉っぱ入っててさ。うちのママ、結構ボーッとしてることあるからなー」

「・・・由比ヶ浜さん。その入っていた葉っぱって、ローリエだったんじゃないかしら?」

「え? なにそれ? ロリエ?」

「あん? ヒッチコック監督の傑作ホラー映画のタイトルがどうかしたか?」

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 まぁ、そんな感じで作業は進み、なんとなくの分担でも何とかなってしまう程度には初心者向けの集団作業であるカレー作りは下ごしらえも大体終わって、俺たちがやるべき分の作業はなくなってしまった頃のこと。

 

「暇なら見回って手伝いでもするかね?」

「いえ。俺は自宅警備員として、この火をあらゆる危険から死守する義務がある身ですから遠慮しておきます」

 

 言外に「私はごめんだが」と言うニュアンスを滲ませながら平塚先生が言ってきた言葉に対して、打てば響く即座の返答によって俺はこういう時のために用意しておいた『対平塚カウンター言葉兵器二十四号』を迎撃に向かわせて撃墜に成功させる。・・・ふっ、戦いの勝敗は性能ではなく日頃からの備えが決めるんですよ平塚先生―――

 

「い・い・か・ら・行・けッ!!!」

「・・・・・・・・・はい」

 

 だが結局、勝っても負けても運命は変えられない、言葉で言うこと聞かせられなければ力に訴え出る平塚先生流ジャイアニズム教育によって持ち場を追い出されてしまい、一人流浪の旅に出るボッチの俺。

 無駄な抵抗はやはり、無駄でしかなかったようではある。最初から無理だろうとは思ってたから別にいーんだけれども。

 

「まぁ、小学生と話す機会なんてそうそうないし・・・行こうか?」

 

 葉山も結構乗り気なようで、そういうことになったようだ。

 ところで葉山、そこで自主選択に任せて俺たち奉仕部と自分たち「内申点加点してもらえる」って聞いてきたグループを別けようとするのは、過去の雪ノ下さんへの恨みが入ってませんか? 大丈夫ですか?

 悪いのは雪ノ下主犯だけなので、責任はソッチに。俺たち下っ端部員を巻き込まないで下さい、マジお願い。

 

 ともあれ俺たちは、守るべき職場を追いやられた警備員としてテキトーにそこいらを邪魔にならないよう遠くから見守る形で見回りを始める。いや俺だけがそのやり方でステルスヒッキー使ってるだけなんだけれども。

 葉山たちは小学生に囲まれながら和気藹々とやっている。・・・だが俺は知っている。それが偽りの「みんな仲良く」だと言うことを・・・。

 

 小学生たちという生き物は、大人を、社会を、上級生を下級生を、あるいは同じクラスの同級生クラスメイトさえ含めて自分と、自分に媚びへつらうため優しい言葉を吐いてくれる友達以外の全てを見下しきって生きている、一番世の中を舐め腐って悪意に満ちた年齢なのである。

 

 昨日の晩飯のときに家族で見たテレビの内容を聞きかじった話とかを根拠にして、分かったような事ばっか言いたがるんだよな、小学生って。ソースは俺。特に小4の頃の俺。

 なんかクラスのあだ名で「ヒキガエル」から始まって、気づいたら「比企」が取れて、両生類の種族名を笑顔で連呼してる変な集団になっちまってたから内心で見下しちまわざるをえんかったわ・・・。

 

『おお、カエル~。もう帰るのかよ、ダッハッハ!!』

 

 って、親父ギャグかよ。ダジャレかよ、面白くねぇよ。

 小四にして既に四十路オヤジ並みのセンスにまで老化していた奴らを見れば、そりゃ誰だって精神面老成して捻くれるわ。いやマジで本当に。

 

 あるいは、そこまでのバカと出会わなくとも似たような経験をして、既にある程度は小学生という生き物が持つ醜さを知っている子がいるかも知れない。

 

 例えば―――そこで一人だけ輪から弾かれて芋洗いしている、存在感の薄い長い黒髪の少女とか。

 

 

「カレー、好き?」

 

 鶴見留美。さっき葉山がハブられてるのを見つけて声を掛けて名前を聞き出すナチュラルナンパテクを披露してた女の子が、また一人きりで作業してたので、また葉山が声を掛けて、

 

「・・・・・・はぁ」

 

 そして雪ノ下が、また異論ありげな溜息を吐きに来てた。

 ――って言うかコイツ、いっつもボッチの俺の元まで溜息吐きにくるか皮肉言いにくるけど、実は俺と同じぐらい周囲からハブられてる捻くれ仲間なんじゃないかなって、最近思うようになってたのは秘密だ。

 

 とは言え、言いたいこと自体はよく分かるし、賛成でもある。

 ボッチに声をかける時は、あくまで秘密裏に、密かにやるべきだ。晒し者にならないように最大限の配慮をする必要がある。

 

「・・・・・・別に。カレーに興味ないし」

 

 冷静さを装いながら留美は素っ気なく葉山からの言葉に答えて、その場を離れる。

 いい答えだった。この場は戦略的撤退しか他に手がない。

 

 留美という小学生が、今日会ったばかりの高校生の中でも特に目立つ葉山に話しかけられることで、より彼女の特殊性が強調され一人ぼっちという特殊性が引き立たされてしまうことになる。

 

 周囲から見下されている存在が、高く評価されている者から声をかけられた時に、好意的に答えれば「チョーシ乗ってる」と思われ、「立場を思い知らせてやる」となる。

 逆に、すげなく答えてあしらえば「何様チョーシ乗ってる」となり、「やっぱ立場思い知らせてやる」となる。

 

 どっちを選んでも精神的リンチという名の私的制裁を受ける未来が確定するのだから、手詰まりになった留美には逃げる以外に選択の余地がなかった訳である。

 

 って言うか、そういう役目こそ戸部にやらせろ戸部に。アイツだったら話しかけられて好意的に返しても誰も気にせんから。むしろ「お似合い」だなんだと囃し立てるだけで、逆に同情的な優しさ示してくる可能性も出てくるから。

 

 しょせんは僻み根性と見栄で、「話しかけたくても話しかけられない相手に話しかけてもらえるなんてムカつく!キーッ!思い知らせて差し上げますわ!」で虐めているコンプレックス塗れの小学生思考なんて、そんなものだ。ソースは俺。特に小三の頃の以下略。

 

「じゃあ折角だし、隠し味入れるか。何か入れたい物ある人?」

『はい! はい!! はーいっ!!』

「はいっ! あたしフルーツがいいと思う! 桃とか!!」

 

 葉山が留美の去って行った場を取りなすように言ってやった言葉に、元気よく応じて答えてる奴がいる。

 ・・・・・・高校生の由比ヶ浜が・・・・・・。

 せっかく葉山から与えてやった「カッコいいお兄さんにいいとこ見せてポイント稼ごう」の機会を台無しにしてくれやがって・・・。

 って言うか、アイツはアイツで「周囲の顔色読んで人に合わせてばっかり」じゃなかったんかい・・・。登場当初のキャラ設定崩壊が著しすぎんだろ、これがラブコメだったらの話として。

 

「あいつ、バカか・・・」

「ほんと、バカばっか・・・」

「ん?」

 

 思わず溢れ出た悪態に、そっとささやく声で賛成する言葉が聞こえたので横に目を向けると、鶴見留美がフェンスに寄りかかりながら片足曲げて立っていた。

 ・・・よし、これから鶴見留美のあだ名はルミルミに決めよう。ソースは花の名前がついた恋愛脳艦長の宇宙戦艦オペレーター。

 

「まぁ、世の中大概そうだ。早めに気づいてよかったな」

「あなたもその、大概でしょう」

「ああ。その大概にいちいち突っかかってきたがる物好きな一人もな」

「・・・・・・(キッ!!)」

「・・・・・・・・・(ササッ!!)」

 

 俺がルミルミの言葉に返して、即座に雪ノ下が割り込んできたのを逆返しして、怖い目で睨んできた瞬間に視線を逸らして見てないフリをする。

 ふふふ・・・これぞ俺が編み出した対雪ノ下の怖い目対策スルーヒッキー。怖い目で睨まれても、目を見なければ怖くな――やっぱ怖いです。背中が冷たい、もう少し改善の余地ありだなこりゃ流石にちょっと・・・。

 

「あー・・・こほん。あまり俺を舐めるな、雪ノ下。俺は大概とか、その他大勢の中の一人にさえ、『これからチーム別けするから班組め~』とか教師に強制されない限りは入れたくないオーラを発散されまくられるほどのボッチ業界の逸材だぞ俺は」

「そんなことをそこまで誇らしげに言えるのは、あなたぐらいでしょうね間違いなく絶対に・・・。呆れるのを通り越して軽蔑さえも通り過ぎて、侮蔑するわ」

 

 通り越して出した答えを、更に通り過ぎて別の結論に至るレベルだったらしい。

 呆れるを通り越したら、尊敬すると思うのだが普通なら・・・・・・でも、呆れるのを超えて尊敬するってのも考えてみたら、よく分からん理屈だな。何を尊敬してるんだ?

 天元突破したバカさ加減とか、常識外れな楽天思考とかだろうか? ・・・やっぱ侮蔑してんじゃねぇか、合ってるよ。雪ノ下の評価で間違ってねぇよ。正しすぎてツッコむ気も失せるわ。だからスルー。

 

「――名前」

「・・・あ? 名前がなんだって?」

 

 雪ノ下との恒例コントが一段落したと思った瞬間、ルミルミから声がかかって意図を図りかねた。

 名前? 名前がどうかしたっけか? コイツは鶴見留美であだ名はルミルミで合ってるよな? 俺が勝手につけたあだ名だけれども。

 

「名前を聞いてんの。普通さっきので伝わるでしょ」

「あ~・・・・・・」

 

 するとルミルミから不機嫌さを露わにして高圧的に言い返してきたので、そういやコイツは俺たちの名前知らないまま、俺たちだけ相手の名前知ってたんだったっけか。

 葉山からナンパされてるところを偶然、出歯亀して盗み聞いたから知ってただけなんだけれども・・・。

 

「・・・・・・人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るものよ」

 

 それに対して雪ノ下が、危険なほどに鋭い視線になって切り返してくる声が聞こえてきた。

 睨む、というより射殺すと言った方が正確なぐらいの目付きで、子供相手にでも手心を加えるつもりがない事が分かったのか、逆に留美の方が気まずげに視線を逸らすほどだ。

 

 ・・・ただ、この立ち位置の違いで「自分と相手は違うわ」と線引きするため、怖い目付きで睨み付けて脅すのは、過去の出歯亀してプライベート情報入手しちゃってる自分を誤魔化す意図入ってませんか? 大丈夫ですか? 雪ノ下裁判長・・・・・・。

 

「・・・・・・鶴見留美」

「そう、私は雪ノ下雪乃。そこのは・・・・・・ヒキ―――」

「比企谷八幡だ。ソッチの人の言うことは気にしなくていい。悪口を言ってから会話を始めないと死んでしまう奇病にかかってるだけなんだ。麦わら海賊団みたいに」

「・・・・・・(キッ!!!)」

「・・・・・・・・・(サササッ!!!!)」

 

 雪ノ下の脅しが功を奏したのか、お互い今はじめて名前を名乗り合った者同士になったところで、対等な立場での話し合いスタート。いや良かった良かった、公平が一番差別反対。――だから結果オーライで許して雪ノ下さん、目が怖すぎるッス・・・。

 

「で、こっちのバカっぽいのが・・・・・・馬、馬・・・・・・由比ヶ浜だ」

「なに?なに? どったの? ――って言うか今ヒッキー、わたしのこと思いっきり馬鹿って呼ぼうとしてなかった!?」

「気のせいだろう」

 

 そして、ついでとして近くまで来ていた由比ヶ浜のことも指さして紹介しといてやった。

 決して、あのままだとユキダルマさんが放つブリザードな視線で、心までユキダルマの刑に処されそうだったのが怖かったわけではない。断じてない。いや、ちょっとだけ怖いけれども。

 

「あ、そうそうそうだった。あなたは鶴見、留美ちゃんだよね? あたし由比ヶ浜結衣ね。よろしく」

 

 遅まきながら由比ヶ浜もルミルミに気づいて挨拶するものの、相手は頷くに留めて直視すらしない。

 前屈みになりながら、名乗ったせいかもしれない。

 ツルペタでもプライド的には三浦さん並みの小学生女子にとって、由比ヶ浜のバカっぽい性格と胸のサイズは、見下せる理由が減って都合が悪かろう。

 

 そういう事情があるのか無いのか分からんけど、ルミルミは足下の辺りを見ながら途切れ途切れに口を開く。

 

「なんか、そっちの二人は違う感じがする。あのへんの人たちと」

 

 彼女の言葉は主語が曖昧なせいで分かりづらいが、おそらく俺と雪ノ下の二人を、あの辺の葉山グループたちと違う種類の人間だと言いたかったのだろう。

 まぁ、小学生の使う表現なんてそんなものだ。基本的に語彙が乏しくて国語が苦手なヤツが多い。文系学年3位の俺が言うんだから間違いない。ソースは小学生時代の俺。

 

「私も違うの。あのへんと」

 

 自分自身から宣言することでナニカを確かめるかのように、ルミルミはゆっくりと言葉を噛みしめるように言い切った。

 その言葉には、聞いていた由比ヶ浜の顔つきを真剣なものに変えるほどの力を持つ言い方だった。

 

「違うって、なにが?」

「みんなガキなんだもん。

 まぁ、その中で結構うまく立ち回ってたと思うんだけど、なんかそういうの下らないからやめた。

 だから別に、一人でもいいかなって」

 

 なんかどっかで聞いたようなこと言い出すルミルミ。ソースは今さっきまでの心の中の俺。

 

「で、でも小学校のときの友達とか思い出って大事だと思うな」

「別に思い出とかいらない・・・・・・中学入れば、余所から来た人と友達になればいいし・・・」

 

 ルミルミはそう言ってから、ソッと顔を上げて空を見上げる。

 ようやく日が落ちてきて、星が点々と瞬き始めた、墨汁を流しかけたような藍色の空。

 

 その瞳は遠い悲しみに曇ってはいるものの、それと同時に綺麗な希望を宿してもいるようだった。

 おそらく鶴見留美は、まだ信じているのだ。期待している。新しい環境になれば楽しくやれると希望を持っているのだ。

 あるいは、ただ信じたいだけかもしれないし、期待していると思いたいだけかも知れない。本当は既に知っている現実を認めたくないだけなのかも知れない。

 そんな希望などありはしないという残酷で正しすぎる現実を・・・・・・。

 

「残念だけど、そうはならないわ」

 

 そして、そんな幻想は幻想に過ぎないと、ハッキリ断言するのが雪ノ下雪乃という女の子だ。

 

「あなたの仲間外れにしている子も、同じ中学に進学するのでしょう? なら同じ事が起きるだけよ。

 今度はその『余所から来た人』とやらも一緒になって・・・あなたもそれくらいのこと、分かっているのではなくて?」

「・・・やっぱり、そうなんだ・・・・・・」

 

 じっと恨みがましい視線で雪ノ下を見上げていたルミルミは、曖昧な表現を使わず冷然と言い放った相手の言葉に、やがて項垂れ諦めの言葉を小さく漏らす。

 

「ほんと、バカみたいな事してた・・・・・・誰かをハブるのは何回かあって、けどそのうち終わるし、そしたらまた話したりする。マイブームみたいなものだったの。いつも誰かが言い出して、なんとなく皆そういう雰囲気になる・・・。

 それで仲良くて、結構話したりする子がハブにされてね・・・私もちょっと距離置いてたけど・・・・・・そんな事してたら、いつの間にか私がそうなってた・・・。

 別になにかした訳じゃないのに・・・私、その子と結構いろんなこと喋っちゃったてから・・・・・・中学でも、こんな風になっちゃうのかな・・・・・・」

 

 自嘲気味に語られるルミルミの言葉。あるいは告解。

 昨日まで友人だったはずの人間が、次の日には自分の秘密をネタにして、誰かの笑いを取って人気を得る。信頼して秘密の相談をしたはずが、それが今度は自分を攻撃する要素になる。

 

 ―――鋳型に入れられたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間です。それが、いざという間際に急に悪人に変わるんだから恐ろしい。

 

 ふと、そんな一説が頭をよぎった。

 作り付けの悪人などいない。誰もが自分も他人も善良であると疑わない、今まで通りの生活が続く限りは。

 だが人は、自分の利益が他人に犯されそうになると容易に掌を返して牙を剥いてくるものだ。自分を傷つけてきたから、悪意的に攻撃してきてるに違いないと決めつけて反撃を開始する。

 人は誰だって、自分の方が悪だと思いたくはない。

 

「悪いのは相手だ。都合がいいときだけ友人面して、都合が悪くなれば勝手な理由で勝手なことを言い出す。自分は悪くない」

 

 ・・・そういう風に思い込むことで、自分は被害者だと信じたがる生き物なのである。

 自分の中で反転した世界における、悪を断罪するがために正義の刃を振るって、個人情報を漏洩させまくる。

 自分だけでやれば単なる情報漏洩でも、徒党を組んでやれば「皆のため」になる。

 

 それが周知の事実であるかのように触れ回り、認識を捏造し、教室のクラスという狭い社会の一般認識として作り上げれば、それが皆で守るべき「他の人に合わせないと断罪されるルール」になる。

 

 その閉じきった世界の中で、次は自分の順番かも知れないと不安に怯えさせてしまえば、誰も巻き込まれることを恐れて真実を語り庇おうとはしない。

 むしろ恐怖から逃れるため先に生け贄を提供して自分をターゲットから外すため獲物を物色し合い、「皆は一人のために、皆で一人を犠牲にして盛り上がる小学生社会」を形作っていく。

 

 終わらない連鎖が、こうして始まる。

 それが現代虐めのプロセスというものなのだろう。

 

 

「まぁ、ものは考えようでもあるけどな。中学になったらクラス内の誰かが新しい機器を親に買い与えてもらって、他のヤツにも真似して出回り全員共有するようになったなら、ソイツを利用して手番を自分から次のヤツか犯人共に押しつけてやるのも可能になる訳だし。

 ・・・・・・たとえば、チェーンメールとか。

 自分も自作自演で批判対象に加えとけば、犯人候補に挙がりづらくする事もできるし。

 万引き疑惑とか、喝上げとか三股とかラフプレーで勝った試合とか、でっち上げの証拠写真と一緒に拡散してたら、口さがない連中が勝手に吊し上げてくれるモンなんだよな、ああいうのって・・・・・・」

 

 

「それどっかで聞いた!? 具体的にはわたしたちのグループにメッチャ嫌な雰囲気ばらまいてた嫌な思い出として、スッゴく記憶に残ってる最低最悪な方法だってユキノン言ってた気がするんだけど!?」

「・・・・・・ちぇーんめーる・・・? 何それ? どういう風にや―――」

「――鶴見さんは聞かなくていいのよ。あんな、自分の名前も出さずに人の尊厳を踏みにじり、ただ傷つけるためだけに誹謗中傷の限りを尽くす、悪意を発散させるのが悪意とは限らないところが最低の行為のやり方なんて、小学生はまだ知らなくていいのよ。

 ――と言うより、もしやったら排除するわ私が。絶対に、大本であるあなたを根絶やしにすることによって・・・・・・(ゴゴゴゴ・・・・・・)」

「わ、分かり・・・ました。やりませんし、聞きま・・・・・・せん・・・・・・(ビクビク・・・)」

 

 

 こうして、俺たち奉仕部と鶴見留美のファーストインプレッションは終わり、彼女の抱える問題解決のため選べる手段が、初っぱなから消え失せた状態で対策会議へと移行することになっていく。

 

 この時点で、この手段を使っておけば良かったとも言えるかも知れないが・・・・・・まだ中学入学まで結構あるからなぁー・・・。

 今すぐの即効性求める方法としては無効なため、この方法が用いられなかったことは恐らく正しいのだろう。

 

 

 俺は、誰かの尊厳を犠牲にして築き上げた仲良しこよしの偽善グループの友情ゴッコをぶっ壊すために、犯人共の尊厳を踏みにじって生け贄にしてボッチに堕とすことを躊躇わない。

 

 それがボッチである殊に誇りを持つエリートボッチな捻くれ者の俺流、まちがった青春防衛法法である。

 まちがってるので、間違ってもマネせんよーに。

 

 

 

つづく

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