俺ガイル二次作   作:ひきがやもとまち

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書き直すつもりでいたため、完成してから長らく放置してた代物ですが……他の続きが完成するまでの場繋ぎとして投稿しておこうと思われます。
場合と評価によっては、書き直すってことでお許しを。

あと、久しぶりに【IS学園で幼女(バケモノ)は嗤う。】の筆が乗ることが出来ましたので、更新を急ぎたいものです。もう忘れてる方も多いだろう作品ですけれども…(^-^;


やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。第22話(暫定)

 

 半ば諦めたような表情で黙ったまま自分の班へと戻っていくルミルミを見送ってから、俺たちも自分のベースキャンプに戻ってきて食事をし、平塚先生が番をしてくれていたカレーを食べ終わった後のこと。

 

「ふむ。何か心配事かね?」

 

 シュッと擦るような音がして、平塚先生がクールな横顔のままタバコをくゆらせながら、椅子ではなくテーブルの上に腰を下ろして足を組み替えながら煙をくゆらせつつ、俺たちにそう問いかけてきたのだった。

 って言うか先生。高校教師なんでカンケーないですけど、食事時のマナー最悪の行為ですね。今の座り方そのものが小学校教師だったら問題扱いされるレベルで。

 

「ちょっと、孤立しちゃってる生徒がいたので・・・・・・」

「ねー、可哀想だよねー」

 

 問われた質問に葉山が答え、相槌を打つつもりなのか三浦が当然の如く続けてくる。

 その言葉が俺の心に少々引っかかるものを感じさせられた。

 

 葉山も三浦も問題の本質を理解していない。孤立すること、一人でいることは自体は別にいいんだ。問題なのは、悪意によって孤立させられてることなのだから・・・。

 

 ――とは言え、好きで一人でいることを「孤独」とはあんまり表現しないだろうから、合ってるかもしれないなと思ったので心の中で思うだけで、口に出しては黙っておくことにしたんだけれども。

 自分から一人でいたいから問題ない場合には、「エリートぼっち」と呼ぶのだよ。ソースは俺。今の俺。比企谷八幡、心の名言。

 

「それで、君たちはどうしたい?」

「それは・・・・・・」

 

 平塚先生から更に問われて、皆が一様に黙り込む。

 まぁ普通はそうだろう。学校行事以外の場で先生から「どうしたい?」と問われて、「こうしたいです」とか自分個人の要望を返せるヤツってあんまいねぇし。ついでに言えば教師の側も大抵は嫌がるし。

 

 どうしたい? 別にどうもしたくはない。ただ、その事について話してみたいだけ。大抵のヤツにとって、この手の問題はその程度のスタンスでしか語るものではないのだろう。

 いや正確には、どうにかしてやりたいとは思っているんだろうし、自分が何かやって救えるのならやってやろうってヤツの方が大半なんだろうとも思ってはいる。

 

 ただし。【無理なく負担もかからず大したリスクもなく大金も必要ない範囲でならば】という前提条件付きなだけで。

 自分たちが何かやって苦しんでる他人が救えるのなら、やってやりたいと思ってやれる人間は多いだろうけれど、その為の必要経費が予想よりも多かったりとか、特別な訓練を受ける必要があったりとか、具体的に必要な条件が示された途端に腰が重くなって賛成者の数は激減する。

 10円なり100円程度の小銭までだったなら躊躇わずに募金できてた奴らでさえ、1000円になると腰が引けて、1万円だったら関わる前に回れ右して全力で逃げ出す。

 

 それが俺とか葉山とか三浦とかの一般人レベルが取り組む『何とかしてあげたい気持ち“だけ”ではダメ』な苦しんでる人へ手を差し伸べて上げる行為ってものだと俺は思っている。

 

 もちろん中には本気で取り組んでくれる人もいる。少額の募金だって、何もないより助かってる人は確実にいる。それらを否定しようとは微塵も思わない。

 ただ、今の俺たちがルミルミの話題を出してるのは、そういうものではなかったんだろう。

 何かして上げたいだけで何も出来ない自分たちを自覚しながら、それでも何かして上げたいという“気持ちだけはあること”を声に出して周囲に聞かせてアピールしておきたい。

 

 自分たちには無関係だからと、「人助けなんかやってられるか俺寝るわー」をやることで皆から酷いヤツ扱いされたくはないし、ハブられるのも怖い。

 何もしてやれないけど、何かして上げたいと思ってるだけでも、最初から諦めてるヤツよりかは優しくて人道的で良い奴になれる。優しくない奴を見下して罵倒できる。

 

 要するに、ルミルミたちとやってる内容的には特に変わらなかったのが、今さっきまでの俺たち高校生の会話内容であり、実態なのだった。

 人間、たかが小学校卒業して4年か5年経っただけで、そう大して変われるものでもないだろう。

 高校生活における欺瞞に満ちた青春と、同じ地平線上にあるのが小学生たちがやってる、ああいうもんだ。ソースは小学生時点で捻くれてた今の俺。

 

 

「俺は・・・・・・可能な範囲でなんとかしてあげたいです」

 

 そして、そんな状況下でさえ重々しく閉ざされていた口を開いて、自分の要望を言うことができる葉山は、本当に優しくていい奴なんだと思う。

 何より、発言内容がいい。

 

 具体的なことはなにも言わずに明言を避け、達成目標を口にしないことで言質を取らせることなく、失敗も成功もないから後々の問題にならない発言は、日本の国会だったら模範解答と言えるではないだろうか?

 高校生にして既に、保身的な官僚的答弁を恥ずかしげもなく口に出来る葉山マジパないっス。さすがはクラス内カースト№1リーダー。人気者は失言をしない。

 

 ――とは言え、何事にも例外はいるようでもあり。

 

「可能な範囲で・・・・・・ね」

 

 雪ノ下が嫌みったらしい口調で葉山の発言をオウム返しで呟き返して、葉山は何か思い当たることでもあったのか、ハッとなった表情で相手の顔を見直し、

 

「あなたでは無理よ。そうだったでしょう?」

 

 理由の説明を必要としないほど、確定した事実であるかのように断言する雪ノ下の冷たい言葉に葉山は苦しそうな表情で黙ったままうつむくだけ。

 

 その言葉と対応から見て、さっき葉山がルミルミに話しかけたことを言っているのだろうか?

 ・・・もしくは中学の時にあったとかいう佐川さんとか下田さんとかのチェーンメールで根絶やし実行してた時かも知れないけれども・・・。

 

 あらためて思い出してみたら、雪ノ下ってルミルミ関連の事件で繋がりありそうな気にし続けてる過去って多くね? 今まで聞かされた話だけでも結構ある気がするんだけど・・・俺の部活の部長がセカイ系展開になりやすすぎる件。

 

「やれやれ・・・雪ノ下、君は?」

 

 と、葉山と雪ノ下との間に生じた沈黙の壁に間を持たせるようにして一拍おいた後、平塚先生が今度は雪ノ下に水を向けてくる。

 

「一つ確認します。これは奉仕部の合宿も兼ねていると仰っていましたが、彼女の案件についても活動内容に含まれますか?」

「林間学校のサポートボランティアを部活動の一環としたわけだ。原理原則から言えば、その範疇に入れてもよかろう」

「そうですか。では彼女が助けを求めるなら、あらゆる手段をもって解決に努めます」

 

 と言うことになったらしい。

 林間学校のサポートをボランティアで引き受けたら、相手側の生徒間で生じている問題を解決するため、あらゆる手段を用いることまでが総武高部活動の範疇に入れてしまっていいそうである。

 ・・・・・・スゲぇな、ボランティア・・・。

 内政干渉までありなレベルで、解釈の間口が広すぎてグローバルにまで至れそうな気がしてきたわ・・・。

 

 流石は『持つ者が持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える。それをボランティアと呼ぶ』と言い切ってた部長はものが違う。超強引で上から目線っす。

 

 ――と、思っていたんだけれども

 

「で、助けを求められているのかね?」

「それは・・・・・・わかりません」

 

 いきなり勢いなくなって、相手からハッキリ具体的に言われてないから分かりませんな、官僚的答弁に合わせやがった!

 

 まぁとは言え、確かに俺たちはルミルミから何かをお願いされたわけではない。彼女の意思をハッキリとした形で確認したわけではないのも事実だ。一応はだが。

 ただなぁ・・・・・・。

 

「ゆきのん・・・あの子さ、言いたくても言えないんじゃないかな?」

 

 俺が口を開くより先に、由比ヶ浜が雪ノ下の服の袖をくいくいっと掴んで引っ張ってきながら、躊躇うように自分の見解を述べてきていた。

 

「留美ちゃん言ってたじゃん、“自分も同じ事してた”って・・・。だから自分だけ助けてもらうのは許せないんじゃないかな・・・。みんな多分、そう。

 話しかけたくても、仲良くしたくても、そうできない環境ってあるんだよ・・・・・・」

『・・・・・・・・・』

 

 うつむき加減で囁くような声で語られた由比ヶ浜の言葉が終わると、少しの間沈黙が落ちる。

 誰一人として、由比ヶ浜に対する悪感情を見せる者はいない。苦笑や呆れ、感動。微妙に感情の違いこそあれ、みな彼女の言葉に何かしらのものを感じさせられて、ルミルミの件に関わることで方針は一致していくのが無言の中でも感じさせられていた。

 

 そして俺も思うのだ。由比ヶ浜は本当にスゴいと。俺が女だったら、お前と友達になりたいって思うほどだと。

 

 よし、なら女だったら友達になれたが、男だから友達になれない俺として、由比ヶ浜の後押しぐらいはしてやろう。

 由比ヶ浜は由比ヶ浜のやり方を貫いた。なら次は俺の番だ。

 

「そうだぞ雪ノ下。だいたい俺たち奉仕部って今まで依頼人からハッキリ助け求められた以上のことしか、やったこと一度もなかったじゃねぇか。

 葉山が初めて来た時なんか、「犯人捜しはしたくない。丸く収める方法が知りたい」って頼まれたのに「じゃあ犯人を捜すしかない」って自分の意見優先してたし」

 

「ああ・・・・・・そう言えば、そんなこともあったね・・・色々あって忘れてたけど・・・」

 

「――――コホン」

 

 俺が言った、奉仕部メンバー以外は知らない内輪の事情話を聞かされて、白い目付きで集中されてしまった雪ノ下が咳払いして、

 

「比企谷君。今は鶴見さんの問題について話しているのよ、関係の無い過去の話題を持ち出して場を混乱させるのは止めてもらいたいわね。それに奉仕部内で起きたことを外部の人間に騙り聞かせるのは情報セキュリティの上でも良いこととは決して言えないことだわ、改めてちょうだい」

 

 と、理路整然とした言ってる内容そのものは正しい注意を俺に述べてくる雪ノ下なんだけれども。・・・何故だろう? 周囲からのリアクションがなんか冷たい気がするのだけども・・・。

 誰一人として悪感情と言うほどのものはない。・・・ただ何というか・・・呆れと言うか、微苦笑というか、憐憫と言うべきなのか・・・・・・微妙な態度という点で共通している対応をしつつ。

 小町とか戸塚からだけは、微妙な笑顔を浮かべられるだけで済ませてもらっているという・・・なんというかこう、微妙な状況・・・。

 

 

「あ~、コホン。とりあえず雪ノ下の結論に反対の者はいないということで良いかね?」

 

 場に微妙な空気が漂ってきたからなのか、平塚先生が少し間を開けてから改めて会話に入ってきてくれた。今回は珍しく仲裁役が多いな、平塚先生。

 

 まぁ、とはいえ雪ノ下の結論自体には反対の奴はおそらく誰一人としていないだろう。あくまで“結論には”の但し書きが付くけれども。

 それでも全体の方針そのものは決したと言っていい。平塚先生もそう判断したらしく、「よろしい」と満足したような言葉を、少し気怠さも交えながら声に出す。

 

「では、どうしたらいいか、君たちで考えたまえ。私は寝る」

 

 ふあ、と欠伸を噛み殺すようにしてから席を立ち、顧問の引率用に宛がわれた部屋にでも向かうつもりなのか俺たちに背を向け歩き出す。

 

 ・・・・・・と、その前にだ。

 

「あ、すいません先生。俺からも一つ確認しておきたいことがあるんですけど・・・」

「あぁ? なんだ比企谷、今回の件で必要な事柄なのかね? 私は正直、眠いんだが・・・」

 

 確認しておかなければいけないことがあったため、悪いとは思ったが眠そうな平塚先生を呼び止めさせてもらった。

 いやマジで本当にこれは重要な部分だから、おざなりにできねぇし。俺たちだけで今回の件を解決するため方法考えるのに必要不可欠な情報確認だし。答え次第で選択肢大きく変わりますからね? 本当に・・・。

 

 と言うのも。

 

 

「先ほど先生は、“林間学校のサポートボランティアを部活動の一環とした訳だから、この案件も活動内容の範疇に入れてもいい”と仰っていたわけですけど・・・・・・それって相手側の先生からも許可取ってあるって事でいいんですよね?

 流石にボランティアできてるだけの他校生が、自分たちの部活動のために小学校児童を勝手に備品代わりで使ったとか、後々問題になっても困るんですけど・・・・・・」

 

 

「ゴホンゴホンゴホン!!!! ゴホホ~~~~~~ッン!!!!!」

 

 

 夕暮れ時の山の中に届き渡る、総武高奉仕部名物。平塚先生による現実だとあり得ない誤魔化し咳払いリアルバージョンが県外近くの山中でさえ披露されることが出来ましたとさ。

 

 

「ゴホンゴホンおっほん! えー、あ~・・・それはだな比企谷。

 その点では君たち自身が、別の学校というコミュニティに属する先生方と、敵対するでもなく無視するのでもない、ビジネスライクな上手くやっていく術を身につけていくこともまた、奉仕部に部活動の一環だと言うことだ。分かったな? では解散! 私は寝る!!」

 

 

 強引にそう宣言して、大股にのっしのっしと歩み去って行く平塚先生。

 去りゆく背中には見えない文字で、「止めるな、ツッコミを入れるな、話しかけるな、私が許さん悪即斬!!」と、大きく太字で書かれているような・・・・・・そんな錯覚すら抱いてしまうほど、場所が変わってもいつも通りな平塚先生がそこにいた。

 

 

「―――まっ、とりあえずだ」

 

 黙ったまま去りゆく平塚先生を見送ってすぐ、俺は自分のペースを取り戻すためにも殊更に現在の状況を端的な言葉で言い表して皆に伝えることにして。

 

「俺たちがやったことで何かあった時には、“可能な範囲で何とかしてあげよう”ってぐらいのフォローまでしか平塚先生とか学校側からは期待できないという前提で、どうにかする方法を考えた方がいいみたいだな・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 今度もまた、全員から無言のまま反対の者もいないまま、俺の結論が賛成多数で可決されたことが何も言われずとも伝わってくる、嬉しくない以心伝心意思疎通ができてスゴく嫌だったわ・・・。

 できれば可能な範囲でもいいんで、何かあった時の責任取ること明言しといて欲しかった・・・。

 

 こうして、全会一致でこの問題に「先生からの助けは期待できない」という前提のもとでの対処することが決定されて、話し合いが始められる運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は動き出す――――。

 

 

 

 

「・・・・・・んんっ、・・・八、幡・・・・・・ん」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 割り当てられた同じ部屋で並んで寝てる戸塚からの、狙ってやってるんじゃねぇか?疑惑

待ったなしで眠れそうもない、もし眠れたら頭がおかしいレベルの窮状に陥らされてた俺は、深夜遅くの林間学校用キャンプ場へと散歩に出かけていた。

 

 対処についての話し合いの方は、案の定というか当然と言うべきなのか、あるいは必然か。

 大した意見や計画案も出ないままカオスな方向へと突入していき、最終的には三浦さんと雪ノ下の言い合いのためにルミルミが半ばダシに使われて意地に張り合いが展開される流れとなってケンカ別れに終わり、そうなった後の状況下で二人を放っておいてルミルミの問題話し合うのに集中するのは葉山的にも無理な性格してるのでウヤムヤの内に終了~。

 

 分かってたからいいんだけどさ、こうなることぐらい誰だって・・・。

 いくら可哀想な女の子で、問題解決してあげようと介入すると決めたからって、会ったばかりの初対面に近くて知識も事情も背後関係もなにもかもが当事者たちからの自主申告だけに頼らざるを得ない今の時点で有効な対策どころか、無難な対応策以外が言えるヤツの方が少ないだろう。いたとしても大半はネタっぽいギャグアイデアだろうし。・・・海老名さんとか。

 

 そんな状況下で、俺たちになにが出来るかやっていいのか、そもそも何の選択肢があんのかすら分かっていない現状で話し合ったところで、想定外な新情報が一つ追加されただけで破綻しちまう可能性が高過ぎなのが実情の時点だ。何の役にも立たずに話し合い終わるのが妥当だろう。

 

 そして夜の森の中を歩いてたら。

 

 

 ほー、ほー・・・。

 ざざざ・・・・・・

 ホー・・・、ホー・・・・・・。

 

 

 

 ・・・・・・静寂に包まれた夜の森、スゲぇ怖ぇ・・・・・・。思わず落ちてた小枝を自分で踏み負った音にビビって逃げ出しそうになっちまったじゃねぇか・・・。

 こりゃ遠くまで行くと自殺行為だなと思って、部屋の近くだけをグルリと回るだけで帰るとするかと思っていたところ。

 

「ん?」

 

 どこからともなく鼻歌が聞こえてきた気がしたので、ソッチの方へ歩いて行ってみたところ。

 

 

「・・・・・・♪♪」

 

 林立する木々の間に長い髪を下ろした女の子が立っていた。

 ふんわりとした月明かりに照らされて、白い肌は浮かび上がるように仄かに光を放ち、そよ風が踊るたびに、靡くように髪が舞う。

 

 見た目だけなら妖精じみた彼女は、月光を浴びながら小さな、とても小さな声で歌っていた。

 

「・・・・・・」

 

 なんとなく邪魔しちゃ悪いかと思って来た道を戻ろうとしたところ、やはり暗い夜道で足下見えないとこんなもんなのだろう。

 地面に落ちていた枝を踏み折って音を立ててしまい、その音に気がついたらしい彼女から「・・・・・・誰?」という誰何の声が届けられた。

 

「俺だよ」

「・・・・・・誰?」

「なんで昼間と同じ問いなんだよ、同じ日に二度もやるボケじゃねぇだろそれ。いい加減覚えろよ、自分の部活の部員の顔ぐらい。若年性痴呆症の気でもあるんじゃないのか?」

「―――キッ!!」

 

 首をキョトンと傾げながら、可愛らしく毒舌罵倒をしようとして不発に終わってカウンター食らった雪ノ下雪乃が、夜の帳の向こう側から怖い目付きで睨み付けてきた・・・・・・のだと思うんだけれども。

 如何せん、夜の闇の中だと目付きまではよく見えない。お陰で大して怖くない。闇に包まれてる夜の森の中グッジョブ。

 

「・・・なんだ比企谷君だったのね。こんな時間にどうしたの? 永眠はしっかりとった方がいいわよ」

「いや、こんな時間に永眠してたヤツと鉢合わせしたんだったら逃げろよ。ゾンビじゃねぇか。優しさに見せかけたいのか、自分はゴーストバスターだと言いたいのかハッキリした方がいいと思うぞ? 雪女さん」

「キキッ!!」

「ササッ!!」

 

 再びの視線すれ違い合戦リターンズ! こんな時間に、こんな場所で、どうしてこんな事やってのか不思議になるほど平常運転過ぎる俺たちの日常風景よ・・・。

 

 やがてキツい視線で睨み付けていた雪ノ下が、俺になど興味を失ったのか、あるいは遂に見限られて存在そのものが鬱陶しいと切り捨てられたのか、俺から視線を外すと黙り込んだまま夜空を見上げる。

 

 つられて俺も夜空を見上げる。満天の星空だ。・・・どの星座がどれかなんて名前しか知らねぇから分からんけれども・・・。

 都会よりも周囲に明かりが少なくて星が見えやすくても、見分けが付かないヤツには都会の星と違う物見えてるかどうかさえ分かりようがない。ただ綺麗綺麗と知らない星を表面だけ見て賛美するだけだ。

 このことから考えて、周りの言ってる事に賛成するだけでリア充共は、きっと輝いて見えてるに違いない。やはり、ご都合主義の青春を謳歌するリア充共の未来は暗すぎる。

 

「星でも見てたのか? それとも、月に帰りたくでもなってたのか? 夜更かしは美容に良くないらしいぞ」

「別にそういうわけではないわ。気遣いに見せかけて、人を無理難題で求婚者たちに貢がせたがる女扱いするのは辞めてもらえないかしら?」

 

 相手よりも遠回しな皮肉は、だが残念な事にストレートに正しく伝わってしまったらしく、優しくニッコリ微笑まれてしまって、逆に超怖くなった俺である。

 

 暗い夜の森の中に浮かび上がる、雪ノ下の優しそうな笑顔は、マジ怖い。

 軽くじゃなくて、ヘビーにホラーだわ本当に・・・・・・。

 

「ちょっと三浦さんが突っかかってきてね・・・・・・」

「はぁ」

 

 と、ちょっと曖昧なように見えるだろうお愛想返事を一応返しておく俺。

 正直、「お前からじゃないんだ?」と思ったけど、しゅんと落ち込んだように顔を下向けるの見て本当だったらしい事に気づかされ、慌てて取り繕ったら平凡な返事しかできなくなっちまってたわ。

 

 しかし珍しいな、コイツが誰から突っかかられてきて、自分から突っかかって行った訳じゃなく始まる言い合い展開ってのは。

 何かしら相手の悪口言ってからじゃないと会話が始められない奇病にかかってた、麦わら海賊団のスナイパーの異名返上するときが来たんだろうか?

 

 これでコイツが誰かにやり込められて終わってたなら、完全に汚名ならぬ異名は取り上げちまって構わんのだけれども。

 

「三十分ほどかけて完全論破して、泣かせてしまったわ・・・・・・」

「・・・・・・なるほど。お前らしいな・・・・・・」

「大人げない事をしてしまったわ・・・・・・」

「まぁ、お前らしい結果だよな・・・・・・」

「――あなたも、いい加減に歯に衣を着せることを覚えないと、彼女と同じ結果をたどらせてあげてもよいのだけれど・・・?」

「ササッ!!」

 

 そして今度もまた、眼で責めてくる雪ノ下と逃げる俺。

 

「えーと・・・・・・そ、それで流石に気まずくなって出てきてたのか?」

「・・・・・・ええ。まさか泣いてしまうなんて思っていなかったから・・・。とりあえず由比ヶ浜さんに宥めてもらっているわ。相手があなただったら、そのまま放置していたのだけれど」

「サササッ!!」

 

 またしても逃げる俺。今夜三度目、単時間内での連続記録更新である。超気持ちよくねー。

 ・・・って言うかコイツ、そんなことぐらいで落ち込んでたのかよ。分かるだろ、普通そうなるって。

 

 雪ノ下の性格は、やたらクールに見えながらも勝負事に関しては極度の負けず嫌いで、俺の奉仕部入部の際には平塚先生からの挑発に乗って許可しちまっている程だ。

 

 そんなヤツが、相手が突っかかってきたから応戦しちまったら、相手が負け認めるか、殲滅するまで続けちまうに決まってんだろうに。分かれよ、それぐらい。

 自分の性格っつーか、バトル漫画好き同士で気が合いまくりそうな平塚先生と同類タイプなんだからさぁ。

 類友見てれば分かる事ぐらい察するべきだと俺は思うのだが・・・・・・誰でも他人の事だけは、よく見えるらしいというのは本当のようだった。

 

 そして自分の事ほど、よく見えない。さながら満天の星空に浮かぶ星自身のように。地上の明かりの大小で見えやすかったり見えにくかったりするが、星自身に自分の地表を見下ろす事は永遠に出来ないのだろう。多分だが。

 

「・・・・・・あの子のこと、何とかしなければね」

「誰? ・・・ああ、ルミルミの件でのことか」

 

 雪ノ下が髪を撫でつけたと思ったら、急に話題を変えてきたので一瞬だけ乗り遅れそうになる俺。・・・・・・三浦さんの方はお前自身が泣かせたらしいけど、そっちは他人任せでいいんだな。

 

 さすがは「自分のような女と会話できれば大抵の人間とは会話できる」を、人格更生プログラムとして実行してきた女である。

 泣かされた三浦さんにも「自分のような女に泣かされたら他の女はザコよ。良かったわね」とかの理屈で納得したんだろう。三浦さん、ご愁傷様です、相手が悪かったと思って諦めてくれ。

 

「しかし、知らん相手のために、やけにやる気になってるんだな」

「今までだって、知らない人ばかりだったわ。私は知己の仲だからって手を差し伸べるわけではないもの」

「まぁ、確かに。友達とか知己とかいねぇもんな、俺とかお前って」

「キキキッ!!!」

「ササササッ!!!」

「―――・・・・・・コホン。それに由比ヶ浜さんと、どこか似てる気がしない?」

「そ、そうか?」

 

 慌てて怖い目つきから逃げて、戻ってきたばかりで言われたから全然そんな風には見えなかった第一印象だけで答えてしまった俺だったが―――。

 

 ・・・たしかに、よく考えてみると由比ヶ浜とルミルミは似てる部分が多いことが分かってくる。

 周りに合わせることで自分を守ろうとするところとか、信頼してたらしい友達に色々と自分の秘密話しちまってるところとか。表面的なクールで厳しめの知的そうな言動抜きにしたらソックリな部分しかねぇじゃん。そりゃ似てるわ。

 

「たぶん・・・・・・、由比ヶ浜さんにも、ああいう経験があるんじゃないかと思ったのよ。

 それに・・・・・・たぶん葉山君も、ずっと気にしてる・・・・・・」

 

 ふぅん、とだけ答えて俺は慎重に「まぁ気にはしてるだろうな」という表面的な反応だけを見た回答は避けた。

 

 “ずっと”気にしている、という表現が気になったからだ。流石に今日会ったばかりの相手に使うとしたら些か奇妙で過剰な言葉遣いと言わざるをえない。国語学年3位として、そこは譲れん。

 

「なぁお前、葉山と昔なんかあったの?」

「小学校が同じだけよ。それと、親同士が知り合い。彼の父親が、うちの会社の弁護士をしている。ちなみに母親は医師」

「へぇ」

 

 平凡な返事を返しながら俺は思う。深ぇよ、関係深すぎるよ。もう半分家族じゃねぇか。

 社長と会社の顧問弁護士なんて、どこの推理ドラマの犯人役コンビだよ。『証拠はあるんですか? 名誉毀損で訴えられる覚悟はおありですか』とか犯人の悪徳社長擁護する悪徳弁護士の定番セリフに決まってるヤツじゃん。

 

 しかも、母親は医者。夫と親しい弁護士と、妻の医師。・・・なんか有ったときに強力すぎる味方の利害関係コンビで仲良くなりすぎる姿しか想像できねぇんだけど・・・・・・

 

「しかし家ぐるみの付き合いってのも大変そうだな」

「そうなのでしょうね」

「えらく他人事だな・・・」

「そういった外向きの場に出るのは姉の役割だから。私は代役でしかないの」

「ああ、出涸らしってことか」

「キキッ!!」

「ササッ!!」

「・・・・・・それでも、今日は来られて良かったと思ってはいるの。無理だと思っていたから」

「はぁ? なんで?」

 

 言っている意味がよくわからず、俺は雪ノ下の方を向く。

 ・・・たかが代役扱いでしかない妹にまで、家の事情だなんだが関係して動き縛られるとは思いづらいのだが・・・・・・そう思って言った言葉だったわけだが、相手からの返事はなく、只星空を見上げるだけ。しばらく待ったが返事はなし。

 

「そろそろ戻るわ」

「そうか、じゃあな」

「ええ、おやすみなさい」

 

 結局それだけ言って、俺は問いの答えを求めようとはしなかった。言いたくないことを無理に聞く趣味もないし、正直に答えるとも思えない。

 無理矢理聞いてくる奴には、テキトーな嘘教えて追求交わすのは基本中の基本でしかないことでもある訳だし。

 

 ふと俺は、夜空を見上げる。雪ノ下雪乃が見上げていたのと同じ星空を。

 星々の光は、遙か過去のものだそうだ。幾星霜の時を超えて、昔日の光を飛ばしている。

 

 ――そして思う。

 

 誰もが過去に囚われている。どんなに先に進んだつもりでも、笑い飛ばすことも消し去ることもできず、ただずっと心の片隅に持ち続け、ふとした瞬間に蘇ってきてしまう。

 由比ヶ浜結衣も、葉山隼人も、そしてたぶん、雪ノ下雪乃も。

 

 

「・・・・・・しかし、なんだな」

 

 

 そう言って声に出し、俺はそう思ってしまったが故に抱かざるを得ない感想を呟いて、闇の中に消え去る寸前だった雪ノ下が声に反応し、体はそのままに顔だけを振り返らせてきた姿を視界の端に納めながら、今日の総論を一言の元で口に出して締め括りとすることにした。

 

 

 

「大抵の奴が、代償行為で解決しようとしてるだけだったんだな。今回の依頼って。

 ルミルミの虐め問題の割に、自分の過去話が理由の奴がメンバーの半数ぐらい占めてそうな気がしてきたわ」

 

 

「・・・・・・比企谷君、あなたそろそろ本当に歯に衣を着せられるようにならないと、月のない夜に後ろから刺されても文句を言わせてあげられなくなるわよ・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 誰もが、自分の過去のトラウマ精算したくて、他人の問題に介入したがる話って多いよな。星にまつわる物語とかって特に。

 

 正座の名の由来になってたギリシャ神話の神様って、心理学用語に使われてるのも多かったよなぁーと。

 そんなことを夜空を見上げながら思っていた俺は、やはり捻くれているなと自分でも思う一日の終わりであった。

 

 

 

つづく

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