俺ガイル二次作   作:ひきがやもとまち

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やはり奉仕部にシェイクスピア(偽)がいるのはまちがっている。第3幕

 部長兼部員が一名ずつという弱小って言うか、超零細部活動だった『奉仕部』に、比企谷八幡と由比ヶ浜結衣とシェイクスピア(偽)が加わって一気に四倍まで人員が膨れ上がり、にわかに活気づいてきたある日の事。

 

 

 比企谷八幡とシェイクスピア(偽)は、連れ立って『奉仕部』の部室へ向かっていた。

 

「ふ~ん♪ ふ~ん♪ ふふふ~~っん♪」

「・・・・・・」

 

 鼻歌を歌いながら楽しそうに歩むシェイクスピア(偽)と、少しだけ離れて距離と角度を置くことにより、微妙な間柄である事をさり気なく強調しながら歩みゆく八幡。

 今さらではあるが、この二人は友達という訳ではなくて同じクラスのボッチ仲間であり、ボッチ仲間でしかない。

 つまりは周囲が好きな奴らと“だけ”一緒にいるために、入ってきてもらっては困る部外者同士なのである。だから必然的にクラス内では同じグループとして行動する事を強要されざるを得ないのだ。

 

 言うなれば、『一緒にペア組んで仲いいと誤解されたら迷惑だしぃ・・・』な感じの存在なのである。

 特にシェイクスピア(偽)こと安田は、つまらない凡人以外は皆大好きな人間像なので『都合の悪い存在を排斥して楽園に閉じこもりたがる愚者のエゴは道化として見ていて飽きない』からと、他のグループに笑顔で乱入しては引っかき回して痛いところを突きまくってくるので迷惑極まりないのだ。

 

 臭いものには蓋をと言うように、耳に痛いこと言い出す輩は言われても心が痛まない奴に押しつけてしまって自分たちは被害を免れよう・・・それが八幡の所属する総武高校2年F組生徒達のやり方だった。

 

 ・・・尤も。一緒にいて一番面白く興味深いのは八幡しかいないので、最終的にこの組み合わせで落ち着くのは解りきってた、同じような愚者ばかりの2年F組メンツの中では当然の結果だなと、シェイクスピア(偽)は歯牙にもかけていなかったが。

 

 

「――おや? あれは・・・」

「ん? ・・・何してんだ、アイツら・・・」

 

 二人が部室に――正確を期するなら部室前の入り口に到着すると、そこには部屋の主であるはずの部長殿と、まだ入部届も出してないのに平然と居座り続けている豪胆な女子生徒である由比ヶ浜結衣の二人が、愛する我が家とも言うべき奉仕部の部室を怖々とした態度でソッとのぞき込んでいた。

 顔をそろえて教室内を覗き込みながら、後方にお尻を突き出すポーズで美少女が二人・・・見ようによってはかなりイケないシチュエーションを想像してしまえそうな状況だったが、八幡もシェイクスピア(偽)もボッチという空気読める紳士種族だったため敢えてその点はツッコむことなく冷静に指摘するだけにとどめておいた。

 

「何してんの?」

「ひゃうっ!」

 

 八幡から声をかけられた二人は可愛らしい悲鳴を上げて、身体をビクビクビクゥッ!っと、跳ねさせてから振り返り、背後に居たのが知り合い二人だった事に安堵した表情になる。

 

「比企谷くん・・・。び、びっくりした・・・」

「驚いたのは俺のほうだよ・・・」

 

 八幡苦言。実際、当たり前の事聞いたら学校一の才女で美少女がエロかわいい悲鳴を上げてビクビクゥっというエロい反応で返してきたのに、別の場所を激しく反応させることなく平然と返してあげられたジェントルマン精神をもっと褒めてやるべきだ、ノブレス・オブリージュとかいうイギリス貴族っぽい精神を大事にするならば。

 

 ・・・・・・と、安田が思ったかどうかまでは定かではない。

 

 

「いきなり声をかけないでもらえるかしら?」

 

 不機嫌そうな表情で睨み付けてくる雪ノ下雪乃。

 そして、そんな雪ノ下を『面白そうなモノ見つけた!』とばかりにニヤつきながら見つめ返してくるシェイクスピア(偽)。

 

「ハッハッハ、これは異な事をおっしゃる。貴女は人に話しかける時『今から話しかけても驚きませんか? 平気ですか?』と、いちいち確認を取ってから話しかけるのがノブレス・オブリージュに基ずく持つ者の使命だとでも思っていらっしゃるのですかな?」

「・・・・・・」

「おおっと、失礼。この場合、持つ者は声をかけられて驚き騒いで醜態をさらした貴女であって、普通に話しかける時の話題として有り触れている言葉『何してるの?』を言っただけの『持たざる者』比企谷八幡殿の方ではなかったですなぁ-、ハッハッハッ!」

「・・・・・・・・・(キッ)」

 

 不機嫌そう等という生易しいレベルではなくなってきた雪ノ下の表情を見て、これは柄じゃないけど仲裁してやるべきかと、八幡は判断せざるを得なくされる。

 空気読めるボッチ思想の持ち主は、自分と異なり『空気読めるけど無視する系ボッチ』といると意外なほどに良い意味での活躍が増えざるを得ない効果を発揮してしまう特異な存在だった。

 蛇という生き物は、隣にライオンが立ってるだけで驚異と見なされにくくなる存在である。

 

「いきなり声かけたのは悪かったよ。で、何してんの?」

 

 八幡が改めて尋ねると由比ヶ浜結衣が、先ほどと同じく部室の扉をわずかに開いてそうっと覗き込む、先ほどと同じエロいポーズで答えてくれた。

 

「部室に不審人物がいるの」

「不審人物なのはお前らだ」

「いいから。そういうのはいいから。中に入って様子を見てきてくれるかしら」

「おや? 怖いのですかな? 奉仕部部長で、この部屋の主殿?」

 

 部長らしく命令したら、部長としての尊厳に関わる指摘をされてムッとした表情になった雪ノ下雪乃が負けず嫌いを発揮して、本当に不審者がいるのかも知れない部室内に一人で入っていこうとしたから、慌てて八幡は二人の前に立つと慎重に扉を開いて中へと入っていく。

 なんだかんだ言いつつもマジ紳士な八幡さん。マジリスペクトっす。

 

 

「・・・・・・」

 

 んで、その勇気あるボッチ青少年比企谷八幡くんがソーッと扉を開けて覗いた先にある教室で目にした光景とは。

 

 バサバサバサバサァッ!!

 

 一陣の風と、その風に煽られた何かが舞い散る音が響いてきた。

 扉を開いた瞬間に潮風が吹き抜けて、教室内に置いてあったプリントを撒き散らした音だ。

 それはちょうど時代遅れなシルクハットから鳩が飛び出す手品にも似た古臭さと、芝居がかって捻りのない有り触れた格好良い登場シーンを演出する紙吹雪のような白っぽさで教室内を満たし、白ける一歩手前の白い世界の中で佇む一人の男の存在意義を言葉よりも雄弁に語ろうとするかのようであった。

 

「クククッ、まさかこんなところで出会うとは驚いたな。――待ちわびたぞ。比企谷八幡!」

「いえ、我が輩です。お久しぶりですな、剣豪将軍材木座義輝殿。お元気そうで何よりです」

「・・・・・・・・・」

 

 途中で相手の正体に気がついて選手交代しておいた八幡と入れ替わるようにして教室内に入ってきていたシェイクスピア(偽)が気楽に片手をあげて挨拶を返して相手は硬直し、続く言葉を用意していたのに言えなくなったのか「いや、あの、えーと・・・」と、意味のない単語を並べ立てるだけのマシーンと化す。

 

「ねぇ、比企谷くん。・・・・・・アレは、何?」

 

 不機嫌と言うよりかは不快感を露わにしながら雪ノ下が八幡に問いを投げかける。先ほどビクつかされていた相手が大したことないヘタレだと解ったので却ってイラついているのだ。

 基本、負けず嫌いで侮辱にはより以上の侮辱で返すことが多い彼女は、シェイクスピア(偽)と出会って以来言い返された時の対応が下手だという弱点を露呈させられ自覚もさせられ苛立つ要素が増してきている。

 今回のような不慮の事態にまで弱いと言う事を知られてしまったのだから、その原因を作った男がヘタレの小男だった等という真実はそうそう簡単に受け入れられるものでは決してなかった。

 

「あいつは材木座。・・・・・・体育の時間、俺とペア組んでる奴だよ」

 

 八幡が正直に答える。実際、それ以上でもそれ以下でもない存在だったから、他に言い様もなかったのだ。

 総武校の体育は三クラス合同でおこなわれ、1クラスに一人はいるはみ出しボッチのうち二人まではペアを組む事が可能になる計算になる。その二人が材木座と八幡だったというだけのこと。

 ちなみに残る一人のペアはシェイクスピア(偽)F組だけは1クラスに二人もボッチが居たから押しつけられてしまった名もなきボッチに合唱。

 

 雪ノ下は八幡から材木座に関する説明を聞かされ、納得したように頷いてからこう言った。

 

「類は友を呼ぶと言う奴ね」

「ですな。さすがは類友だと顧問の先生から見られて、同じ隔離部屋に放り込まれた代表殿。言葉の厚みと説得力が違いますな」

「・・・・・・(キッ!)」

「あわわわ・・・」

 

 シェイクスピア(偽)が評して、雪ノ下から睨まれる。

 先日、職員室において平塚先生から『君たちはひねくれてる』『隔離病棟』と言ったような趣旨の言葉を言われたのを覚えていたらしい。

 雪ノ下には初耳の事だったので不本意すぎる言われようだが、言ったのは平塚先生なのでシェイクスピア(偽)には何も釈明する権利と自由がない。せいぜい平塚先生が奉仕部全体を評して言った言葉を思い出しながら伝えるのが関の山だ。

 

「・・・やっぱり平塚先生とは一度、話し合いをおこなう必要があるみたいね・・・」

 

 眼からハイライトを消した瞳でそうつぶやく雪ノ下。

 部長の個人的人間関係のいざこざに巻き込まれても面白くないと感じたシェイクスピア(偽)はアッサリと話題を転じて材木座に話しかける。

 

「それがよろしいでしょうな。――それで、剣豪将軍材木座義輝殿。本日は如何なご用で我らが居城、奉仕部の部室へといらっしゃったのですかな?」

「ムハハハハ、とんと失念しておった。時に八幡よ。奉仕部とはここでいいのか?」

「なぜ俺に聞く? つか、今安田が言ってただろうが。ここが奉仕部だって」

「む、ムハハハ、いや失敬。平成の世の空気は我が存命の頃より空気の伝導率が悪いらしくてな。むは、ムハハ、ムハハハハ」

「おお、これは失敬! 聞こえづらかったようですな。では、もう一度お伝えしますからよくお聞きくだされ剣豪将軍材木座義輝殿! よろしいですかな? この部室は奉仕部の――」

「むは、むは、ムハハハハハ――っ!」

 

 妙な笑い方で誤魔化しながら、必死にアイコンタクトを八幡に送る材木座義輝。

 意味するところは「タステケ」。

 

 ・・・当然ながら助けてやる義理など、体育でペア組まされてるだけの八幡にあるはずなかった・・・。

 

 溜息付きたそうなゲンナリした顔で二人を見ていると、雪ノ下が彼に「比企谷くん、ちょっと」と声をかけてきた。

 

「さっきから気になっていたのだけれど。なんなの? あの安田くんが彼を呼ぶ時に使っている剣豪将軍って?」

「あれは中二病だ」

「ちゅーに病?」

 

 雪ノ下が首をかしげて八幡を見る。レアな仕草と、可愛らしい唇の動きに学園一の美少女という外見的評価だけは間違いでない事を改めて実感させられていると、聞き耳を立てていたらしい由比ヶ浜結衣も話しに入ってきて問うてくる。

 

「病気なの?」

「別にマジで病気なわけじゃない。スラングみたいなもんだと思ってくれりゃいい」

 

 そうして始まる八幡の中二病講座。

 マンガやアニメ、ゲームなどに出てくる能力、不思議な力に憧れを抱いて自分にもそうした力があるかのように振る舞う中学二年生ぐらいの男子がかかりやすい痛々しい一連の言動を指す言葉。

 そうした特殊能力を持つためには必然的に、今の自分がそれらを使える理由設定が必要となり、伝説の戦士の生まれ変わりや神に選ばれた戦士とか特務機関のエージェントだったり、「普通の学生は世を忍ぶ仮の姿! しかしてその正体は!」とかの設定を成立するための行動を普段からおこなう必要も出てきてしまうのだ。

 

 つまり―――

 

「我が輩のような者のことですな!」

 

 同じく聞き耳立ててたらしい(もしくはただの地獄耳か)シェイクスピア(偽)が、凄くいい笑顔で言ってくるのを八幡は頭痛を覚えながらも肯定してやる。

 

「・・・自分から自白する奴は珍しいが、まぁ概ねそうだ。安田みたいな奴の事を中二病、もしくは厨二病と呼んでいる」

 

 それから付け加えるように、それをする理由についても一応言うだけ言っておく。

 

「なぜそんなことをするかと言えば、カッコイイからだ。少なくともアレやってる奴らは、自分の言動をカッコイイと信じている」

「意味わかんない・・・・・・」

 

 心底から気持ち悪そうに「うぇっ」と嫌な感じに口を開けながら呟きを漏らす由比ヶ浜。

 代表例というか極端な例と言うべきなのか、シェイクスピア(偽)を普段から見慣れていた雪ノ下にとっては理由が説明されただけで一定の理解はできたようだったが、一般人に近い感性を持ち、奉仕部に関わりだしたのが一番遅い由比ヶ浜結衣にはまだ耐性が出来ていなかったようである。

 

 ――が、そんな事はシェイクスピア(偽)にとって然したる重要事ではない。彼にとって大切なのは、人生という舞台上で役割を演じて生きる登場人物達、その言動とセリフと言い回し、および矛盾を突く事それ自体にあるのだから。

 

「はてさて、それはどうですかな由比ヶ浜殿。あなたもまた周囲によく見られるためキャラを演じている事に変わりありますまい。

 ましてや気になる男子に手作りクッキーを作って渡したいなど、今時珍しいピュアな乙女心の持ち主であるのに校則を破ってまでスカートをミニスカにして、胸をチラ見させるファッションビッチを演じている貴女になら彼と私の気持ちが解るはず!!」

「ビッチって言うなし! ファッションビッチってなんだし! あと、クッキーの話を今ここで第三者がいるのに蒸し返さないで欲しいんだけど!? それから、こっち見るなドスケベ!」

「ハッハッハ! 今さら手で隠しても普段から見えそうで見えない長さの、多分ちょっとは見られていたであろう短すぎるスカート丈の記憶は消せませんぞ!」

「・・・ううう・・・我の考えた剣豪将軍という名はカッコイイはずだ、そのはずだ・・・。なのに何故? 何故実際に呼ばれてみるとこうまで恥ずかしく感じられて仕方がないのだ・・・? 我の前世設定に異名の部分だけ変更加えた方がいいかな・・・?」

 

 

 なかなかに混沌としてきた奉仕部の部室。

 結局、いつも通りに八幡が仕切り直して材木座からの依頼を聞き、直筆の私小説を読んで感想を聞かせてくれとの事だったので翌日までに読んできてやり三者三様の感想を述べた後、シェイクスピアが評してこう言った。

 

 

「そもそもラノベのラの字すら知らない素人に――具体的には技名につける当て字は全然関係ないのが基本と言う事すら知らないド素人の雪ノ下殿とかから酷評されたぐらいで精神的ショックを受けてるようでは、到底プロでやっていけるメンタルは貴方にないのではないですかな?」

 

 

 ―――こうして、アマチュアライトノベル作家・材木座義輝の作家人生は終わりを告げられたのだった・・・・・・。

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