俺ガイル二次作   作:ひきがやもとまち

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出来たばかりの最新話です。思っていたより纏めて出すと言う行為は疲れるのだと思い知りました。今後は投稿の仕方についてもう少し考える必要性が出てきそうですね。


やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。第4話

 動物は基本、群れるものである。

 肉食獣にはヒエラルキーがあり、ボスになれなければ死ぬまでストレスを抱え続ける。草食動物も天敵の襲撃で仲間を犠牲にして生き続けることにジレンマを感じているはずだ。

 

 だが、我々人間は肉食獣でもなければ草食動物でもない。社会的動物である。群れることで外敵から身を守ると称して階級社会を形成し、外には侵略による拡張を、内側には少数派への弾圧に狂奔するようになるのは人類史における歴史の必然なのは言うまでもない。

 

 このように群れとは個にとってなんら意味をもたらさないのだ。

 ならば私は決して群れることのないクマの道を選ぶ。クマとは一頭で生きていくことに何の不安も感じていない孤高の動物だ。しかも冬眠が出来る。なんと素晴らしいことか。

 次に生まれ変わるなら、私は絶対クマになりたい。

 

 

「・・・クマ絶賛だな・・・」

 

 国語教師の平塚先生が俺の作文を読み上げて、苛立たしそうな目つきで睨み付けてきた。・・・あれ? なんかデジャブ?

 

 今は俺が奉仕部とやら言う、人助けでも願い事を変えるのでもなく、『願い事の叶え方だけ教えます』的活動内容のよくわからん部活動に強制入部させられてから数日後の昼休み。

 先生に呼ばれて職員室に来てみたら、授業の宿題で提出させられた作文を平塚先生に大声で読み上げられるという・・・やっぱデジャブなんじゃねこれ? ・・・な最中である。

 

「それはそうと先生って、現国の教師だったんじゃ? この作文書いて提出したのは生物の授業だったと記憶してるんですけど、違ってましたっけ?」

「私は生活指導だ。故に生物の先生に丸投げされたんだ」

「はぁ、なるほど」

 

 ――つまり。

 

「職務放棄したあげくに、まだ二十代で教員としては若造の部類に入る平塚先生に押しつけてサボっている、と。さすがに生活指導なんていう面倒くさいだけで実益のない役職を押しつけられて断ることの出来ない日本の学校の年功序列具合はすさまじいですね」

「ゴホンゴホン!」

 

 先生、咳払いで誤魔化す。まぁ、職員室で教職員が率直な思いを答えられる類いの質問でもなかったし、俺ももう少しは自重して嘘つくのも必要なんだろう。空気読めるボッチとして生きていくならば。

 

「ウォッホン。・・・で? これのどこが野生動物の生態だ?」

「野生動物の群れ社会に対する強烈なアンチテーゼです」

 

 わざとらしくも仕切り直してきた平塚先生に付き合って、俺も適当に答えを合わせておく。

 

「屁理屈はやめろ・・・まるで君は群れることを罪悪のように言うがなぁー」

 

 こめかみに指先を添えて「嘆かわしい」とでも言うかのごとくポーズをとる平塚先生であるのだが、しかし。

 

「と言われましても、群れの序列から来る強権発動で入りたくもなかった奉仕部なんて群れに入れられたばかりの身としましては、入部を強制してきた側から群れ社会を肯定するよう促されることに多少思うところがあるのですが?」

「ゴホンゴホンゴホン!!」

 

 本日二度目の咳払いごまかし発動。今日は先生もずいぶんとハイペースだなぁ。・・・やっぱりタバコ吸いすぎて肺を病んできてるんじゃないのか?

 

「こほん。・・・時に、この前の依頼者は上手くいったのか?」

 

 またしても誤魔化し。とは言え俺も問い詰めたかった訳でもないので普通に話に応じることにする。

 

「はぁ、まぁ。本人は納得したみたいなんで」

 

 俺はこの前の依頼者、『由比ヶ浜結衣』というアホっぽい女子女子した女子らしい女の子のことを思い出しながら、そう答える。

 彼女が奉仕部に持ち込んできた依頼は『気になる人に手作りクッキーを渡したいけど作れないから教えて欲しい』というものだった。

 途中でクッキーが毒物になったり、ジョイフル本田で売ってる木炭になったり、ボランティアで教えていた側が突然キレて依頼者に説教かましたりと言ったハプニングが発生したりはしたけれども。

 

 それでも依頼自体は完遂したといえるのだろう。奉仕部とやらの活動内容と理念に照らし合わせて考えるのなら間違いなく。

 

「そもそも由比ヶ浜が奉仕部に持ち込んできた依頼は『クッキーを作れないから作り方を教えて欲しい』であって、作り方を教えるところまでが雪ノ下が言ってた『飢えた人に魚の捕り方を教えるのがボランティアの精神』ですからねぇ。

 作れるようになるかどうかも、作った物を相手に渡して喜んでもらえたかどうかも依頼内容とは関係のない、依頼者の努力次第な部分です。そういう意味では頼まれた依頼自体は完遂しましたよ、間違いようもなく絶対に」

「・・・君の屁理屈は奉仕部に入ってから磨きがかかって、天元突破してきたなおい・・・」

 

 言われて俺は黙り込む。事実を事実として嘘偽りなく伝えただけなのに、屁理屈と言われてしまったのではどう答えればいいのか分からなくなってしまう。

 俺としては広義的な解釈が可能な曖昧な表現でお茶を濁すよりかは正確に意味が伝わって良いと思えるのだが。

 

 とは言え相手が嫌がっているのを無理してまで続けたいと思えるほどこだわりがある話題でもない。さっさと割り切って次の話題にシフトしてしまうべきだろう。今度は俺から話を振ってみるのも悪くない。

 

「そういえば先生が言ってた勝負って、どうなってるんですか?」

 

 どちらの奉仕の方が上か!とかいう、エロゲみたいな例のアレ。

 それについて話題を出すと平塚先生は「ああ、あれかぁ!」と嬉しそうな笑顔で答えてきてくれるのだが・・・先生、その答え方は言われるまで完全に忘れてたときに使うものなんですけども・・・?

 

「勝敗の裁定は、私が独断と偏見で下すから安心しろ。ここんとこにしまってある」

 

 ポンと、もしくはボインと自分の豊かに突き出た胸を叩いて請け負ってみせる平塚先生。

 一見すると頼りになりそうな仕草と台詞なんだけど・・・・・・。

 

「でもそれだと勝負自体が成立しなくなりませんか? 勝負の結果がどうあろうと裁定者の平塚先生の気分で勝敗が決まるんでしたら競い合うこと自体に意味がない。

 むしろ素直に最初から平塚先生に気に入られるための『おべっか対決』とでもした方が良かったのでは? 実質的には変わりない気がしますけども?」

「ゴホンゴホンゴホン!!」

 

 またしても咳。いい加減辛くなってきたんだけどな、されるのも、誤魔化されたフリして見て見ぬフリしてあげるのも。

 

「と、ところで君から見て雪ノ下雪乃はどう映る?」

「変人です」

 

 単刀直入に思ったことを素直に答えた。素直すぎて却って曖昧な受け取り方ができるようになってしまったので、もう少し具体的な説明を付け加えておこうと思う。

 

「もう少し具体的に表現するなら、自分から嫌な奴を演じたがる変な奴でしょうかね。

 奉仕部なんて他人に頼られてなんぼの部活動の部長をやっていながら、いざ客が来ると毒を言いまくらないと気が済まない性格をしていて、本当の人助けが云々と言いながら依頼人に上から目線で説教ばかりを口にしたがる。言ってることとやってることと自分のいる場所と現在の状況が全部バラバラです。変人の他に表現しようがありませんよ」

 

 俺から見た雪ノ下雪乃像を聞かされた平塚先生は「そうか・・・」と、少しだけ悲しそうな顔でつぶやいて。

 

「非常に優秀な生徒ではあるんだが・・・ま、持つ者は持つ者でそれなりの苦悩があるのだよ。本当はとても優しい子だ。優しくて往々にして正しい。ただ、世の中が優しくなくて、正しくないからなぁ。さぞ生き辛かろう」

 

 ・・・矛盾しているようではあったが、なんとなく分かる表現でもあった。

 少なくとも俺的には共感できる趣旨の言葉が多く混じり合っている。

 

 

 ただし。いくつか問題点を挙げるとするならば。

 

「世の中が正しくない中で、雪ノ下が正しいのなら、普通に正しくないと言うことになるのでは? 社会的正義とか道徳って、世の中の大多数派が共有しているもののことであって、多数派に入れなかった少数派の意見のことじゃないと習った覚えがあるんですけども・・・」

「ぶっ!?」

「あと、世の中が間違っていて、彼女の方が正しいってそれ『間違ってるのは俺じゃない! 世界の方だ!』な厨二理論の変化系でしかないような気がするのは俺だけですか?」

「・・・君たちはと言うか、特に君はひねくれまくっているから、上手く社会に適応できそうもないところがホントの本気で心配になってきたよ。いやマジな話として・・・。だから一カ所に集めて治療してあげたくなるんだよなぁー・・・」

「県民の税金で運営されてる県立高校の空き教室をサナトリウム代わりに私的利用するのはやめてもらいたいんですが・・・・・・」

「・・・・・・お前は! お前という奴だけは・・・・・・!!」

 

 なぜだか理解不能な理由で滾り出す平塚先生。

 結局、今日あったことと言えばこれくらい。

 俺の選択肢を間違えまくった末から始まる高校生活は、こうして無為に過ぎ去っていくのであった。

 

つづく


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