本当は葉山の所まで書くつもりだったんですけど、原作見たら別けられてたから今作でも別けてみた次第です。
「・・・は? 今なんと仰いましたか比企谷殿?」
目をパチクリさせながらシェイクスピア(偽)が問いをぶつけた。
「いや、何ってお前さ・・・」
八幡、十八番であるひねくれ理論を開陳し始めるが今日に限って切れ味が良くない。
然もあろう。今日の彼はいつもと違って驚天動地な案件を持参してきたのだ。普段通りに過ごせなど、そっちの方が無理難題と称すべき難事とも言える。
曰く、『テニス部の子にスカウトされたから部活変えていい?』である。
弱小の体育会系部活動から「君なら即戦力になれる」と声をかけられたらしい。
員数合わせ目的による部員集めの定番文句な気もするが、それを言ってきた相手は八幡曰く「スゴくかわいくて嘘ついてるようには見えない“男子生徒”」だったとのことだから、シェイクスピア(偽)としては彼の将来の方が遥かに気になる重大事件な気がしてならない。薔薇は薔薇で需要はあるのだが、八幡の見た目ではどうなのかなーと、百合も薔薇もイケる生粋の乱読家の彼は思うだけであった。
「無理ね」
「いや無理って。雪ノ下、お前さー」
「無理なものは無理よ」
対して、八幡が現在所属している部活動『奉仕部』部長の雪ノ下雪乃はにべもない。
「あなたに集団行動ができるとでも思っているの? あなたみたいな生き物、受け入れてもらえるはずがないでしょう?」
「うぐっ・・・・・・」
「そうですよ、比企谷殿」
シェイクスピア(偽)も部長の意見に賛同するが、その言葉が示す方向性は少しだけ・・・いや、かなり違っていた。
「そもそも、そんなこと部長に言ってどうするつもりだったのです? 奉仕部に強制入部させたのも、未だやめられずに留まり続けざるを得なくされているのも平塚女史による鉄拳制裁を恐れた故なのでありましょう?
日がな半日イスに座って本読むだけで、たまにやってくる客人に無礼千万な屁理屈を垂れるしか能のないスペックだけ美人の部長に了承を得たところで、そんなもの平塚先生が「否」と言ったら終わりの空手形同然です。いちいち求める価値などないではありませんか、馬鹿臭い」
「・・・・・・(キッ!)」
そしていつも通りに始まるシェイクスピア(偽)の暴言と、雪ノ下の睨み付け。もう年中行事とかしてきたので八幡も由比ヶ浜でさえ気にしなくなってきた普段通りの日常風景。
「・・・あなただったら話は別かもしれないけどね、安田君。あなたという共通の敵を得たテニス部が一致団結することはありえるかもしれないし、それがもたらす効果は比企谷君より毒性の強いあなたの方が上なのかもしれない」
「お褒めいただき恐縮ですな、雪ノ下嫌われ者部長殿」
「・・・もっとも、排除するための努力をするだけで、それが自身の向上に向けられることはないの。解決にはならないわ。ソースは私」
「なるほど。ご自分が役立たずにしかなれなかった過去の恥をさらして、後進が間違った道を選ばないよう指導されていたわけでしたか。さすがは雪ノ下奉仕部部長殿、集団心理を理解して皆の邪魔にならぬよう部室に引きこもっている聡明さには頭が下がる思いであります」
「・・・・・・(キィッ!!)」
・・・とは言え、そろそろ止めた方がいいかもなー、とか思い始めた丁度その時。
「やっはろー!」
部室の扉がガララと音を立てて開き、雪ノ下とは対照的に相も変わらずアホっぽい挨拶と微笑みを湛えた由比ヶ浜結衣が乱入してきたので、二人のやり取りは今日はここまで。
「あ、比企谷くんっ!」
「戸塚か・・・」
「おや、お知り合いですかな? 比企谷殿。由比ヶ浜殿も」
シェイクスピア(偽)が驚くのも無理はない。今日の由比ヶ浜は一人で部室に来たのではなく、ツレを連れてきていて、その彼だか彼女だか性別不明な同級生とおぼしき生徒が八幡の名を呼び、ボッチマイスターを自認する八幡もまた相手の名を呼んで見せたのだから驚くなという方が無理な話であろう。
「やー、ほらなんてーの? あたしも奉仕部の一員じゃん? だから、ちょっとは働こうと思ってたわけ。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」
由比ヶ浜結衣が自慢げに、大きめの胸をボインと張りながら言う。
非常に鼻高々と手柄顔な彼女だったが、部長としての雪ノ下雪乃は冷淡だった。冷淡というか冷静だったと言うべきかもしれないけども。
「由比ヶ浜さん」
「ゆきのん、お礼とかそういうの全然いいから。部員として当たり前のことしただけだから」
「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど・・・・・・」
「違うんだっ!?」
「ええ。入部届をもらってないし、顧問の承認もないから部員ではないわね」
違うんだ。よく分からないうちに部員にされちゃってるパターンじゃなかったんだ。
・・・いいなー・・・。
と、無理矢理入らされた奉仕部から逃げ出すためテニス部への移籍をダシに使おうとした八幡が思ったかどうか定かではない。
「書くよ! 入部届くらい何枚でも書くよっ! 仲間に入れてよっ!」
ほとんど涙目になりながら由比ヶ浜結衣はルーズリーフに丸っこい文字で「にゅうぶとどけ」と書き始めるのだが。
それを見てシェイクスピア(偽)は、ふと思う。
「そう言えば我々って入部届とか、部活動を始めるのに必要な手続きを一つでもしておりましたかな? なんと言いましょうか、それら諸々を平塚先生の『君らに拒否権はない』で流してしまった気が今更ながらしてきたのですが?」
「まぁ、逆に言えばそれらのことを俺らにやらせたくなかったかもしれないな。書類は学校の方で受理されるわけで、平塚先生個人の意思でどうにかできるもんとも思えないし・・・」
「なるほど。学校に否と言われたら、平塚先生のほうにこそ『拒否権はない』訳ですか。
ドラマの熱血教師主人公と違って現実の教師は地方公務員なので世知辛いものですな」
「はいっ、出来たっ! これで私も奉仕部の仲間だよね! ね!? ね!? そうなんだよねぇっ!?」
ひねくれた男たちによる擦れた内容の会話が交わされている横で、擦れてなくて純真無垢な幼稚園児並みのピュアさを維持している女子高生、由比ヶ浜結衣が雄叫びを上げて「にゅうぶとどけ」を提出する。
・・・こんなもんが入部手続きに役立つとは思えんが、それを指摘しないのは後で自分が代筆しておいてやるからと言う雪ノ下部長の優しさによるものなのか、それともやっぱり奉仕部なんて部活動は実在しない名ばかりのボッチサナトリウムでしかなかったのか。
「いいでしょう。戸塚くん、あなたの依頼を受けるわ」
それは分からないが、とにかく今回の依頼人「戸塚採加」の依頼は受理されることが決定された。
「あなたのテニスの技術向上を助ければいいのよね?」
「は、はい、そうです。ぼ、ぼくがうまくなれば、みんな一緒に頑張ってくれる、と思う」
そう言う話になったらしい。
なんと言うか、「スポーツ漫画のノリだなぁ」と思わなくもないのだが、所詮は雪ノ下雪乃もジャンプ大好き平塚先生お気に入りの人材なのを鑑みると、まぁこんなものなのだろう多分だけど。
「まぁ、手伝うのはいいんだけどさ。どうやんだよ?」
「何でもかんでも聞いてあげて力を貸すばかりがいいとは限らないわ。昔から言うでしょ? 『獅子は我が子を千尋の谷に突き落として殺す』って。
だから、死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かしら?」
「いや、依頼人を殺しちゃダメだろ。・・・あと、そのやり方古臭すぎるし・・・。昭和のスポ根漫画かよ・・・」
「ですな。それこそ現代の野球部コーチが部員にその方針で指導を行うとしたら、自分が目障りだと感じている部員を排除するための嫌がらせ目的としか思えません。
あと、何の解決アイデアにもなってないですし、バカでも思いつける平々凡々なアイデアもどきでしかありませんし」
「・・・・・・(キキィィッ!!)」
ちょっと微笑み混じりでいい感じに言ってみた台詞に、正論ツッコミ返されて怒り顔へと変貌させる雪ノ下雪乃。
「・・・冗談よ」
と、取り繕うに言い添えるが、色々と手遅れだった感のあるやり取りだった。
「戸塚くんは放課後はテニス部の練習があるのよね? では、昼休みに特訓をしましょう。コートに集合でいいかしら?」
「りょーかい!」
結局は妥当で普通な案に落ち着いたらしい雪ノ下の方針に従い、奉仕部の面々は戸塚採加のテニス技術向上のため昼休みのテニスコートに集まる運びとなったのであった。
「それって、・・・・・・・・・俺も?」
「当然。どうせお昼休みに予定なんてないのでしょう?
・・・・・・こうしてボッチたちは、リア充と邂逅するフラグを立てる――――。
つづく