翌日の放課後、部室に集まっていた。
夏凜が十数種類のサプリやら健康食品やらを部室に持ち込んでいた。
「な、なんか沢山ある…」
「三好まだサプリ漁りしてんのか…」
机の上に置かれた大量のサプリを見て楓が呆れぎみに言う。
「いや、まぁ」
楓の言葉に気恥しそうに夏凜が答える。
「と、とにかく喉に良い食べ物とサプリよ!」
そういうとサプリの説明を始める。
「マグネシウムやリンゴ酢は肺にいいから声が出やすくなる。ビタミンは血行を良くして喉を健康に保つ。コエンザイムは喉の筋肉の活動を助けオリーブオイルとハチミツも喉に良い」
と、夏凜はペラペラペラペラと解説する。
「夏凜ちゃんは健康食品女王だね!」
「夏凜は「健康の為なろ死んでもいい」って言いそうなタイプね」
「さあ、樹これを全種類飲んでみて」
そう言って樹に飲むように促す。
「全種類って多すぎじゃ?夏凜でも無理でしょ!?」
「さすがの三好さんでもねぇ…?」
上級生組が夏凜をあおり始める。
「いいわよお手本を見せてあげるわ!」
それに乗せられてサプリを大量に摂取する。
すると、青い顔をして夏凜がトイレにかけていく。
「あ、出てった」
そして、少し時間が経って夏凜がおぼつかない足取りで部室に戻ってくる。
「サプリは一つか二つで十分よ」
死にそうな声で夏凜は言う。
そして、サプリを少し飲み樹は歌ってみる。
「多分喉よりも緊張をどうにかしないといけないと思うが…」
「じゃあ、つぎは緊張を和らげるサプリ持ってくるわ!」
「やっぱりサプリなんですか!?」
その夜、楓は風の家で夕飯をご馳走になっていた。
「ごちそうさまー、さすが風だなうまかったよ」
「ありがと、樹ー風呂入ってー」
風は樹に風呂に入るように促す。
「はーい」
そして、着替えを持って風呂場に行く。
その様子を見て楓は腰を上げる。
「じゃ、今日はもう戻るよ」
「あ、ちょっと待って楓」
それを、風が引き止める。
「なに?」
「いや、これまで戦闘のときあまり手を出さないでくれてありがとね。おかげで皆が感覚をつかめたから」
それに、楓は首を振って否定する。
「いや、あれは大赦から言われたから。ホントは殺したくて殺したくてかなり抑えてたよ」
「それでもよ、それでもありがとう。これからもよろしくね」
その風の反応に少し嬉しそうな顔をする。
「ああ、これからもよろしくな風」
すると、風呂場から歌が聞こえてくる。
「お、樹の声か」
風が風呂場に向かう。
「やっぱり樹一人で歌うとうまいじゃん」
「おっ、お姉ちゃん!?聞いてたの!?」
「リビングまで聞こえてたわよー。樹はもっと自信をもっていいのに、ちゃんとできる子なんだから」
その風の言葉に樹は恥ずかしくなって顔までお湯につかる。
―小学生のころ、知らない大人たちが家にやってきたことがあった。私はお姉ちゃんの背中に隠れているだけで、あとでお姉ちゃんはお父さんとお母さんが死んじゃったって教えてくれた。あの日からずっとお姉ちゃんは私のお姉ちゃんでお母さんでもあって…。ずっとお姉ちゃんの背中が一番安心できる場所で、お姉ちゃんがいれば何だってできるよ。でも、私ひとりじゃ。―
―お姉ちゃんは勇者部のことをずっと一人で抱え込んでた。もし私が、お姉ちゃんの後ろに隠れている私じゃなくて、隣を歩いて行ける私だったら。―
「…つき、樹」
「…ん」
朝、風が樹を起こす。
「樹起きなさーい!着替えここ置いとくから、顔洗ってきなさいよー」
そして朝食を食べていると、風がまだ完全には覚醒していない樹の髪を梳かす。
「ちょっと動かないで……よしっ、今日もかわいいぞ!」
すると、樹がすこしうつむく。
「元気ないね、どした?」
「あのね、お姉ちゃん…ありがとう」
「なに?急に」
「なんとなく、言いたくなったの…家のこと、勇者部のこと、お姉ちゃんにばっかり大変なことさせて」
風は少し柔らかい表情で言う。
「そんなのあたしなりに理由があるからね」
「理由?」
「ま、まぁ、簡単にいえば世界の平和を守るため、かな?」
すると、笑顔で言う。
「だって勇者だしね!」
「でも、それは…」
樹が反論しようとするが、風が言う。
「なんだっていいんだよ、どんな理由でもそれでがんばれるなら」
そんな言葉に樹はハッとする。
「…どんなどんな理由でも…」
「さっ、早く食べて学校に行くよ」
―だったら私は、今まで全部お姉ちゃんについていっただけ。理由なんてなにもない―
放課後、勇者部は子猫の引き取りに二班に分かれて行っていた。
友奈、夏凜、東郷の三人は目的地の近くに来ていた。
「…この住所どこよ?」
「あっちね」
東郷が目的地の方向を指差す。
「わ、分かってたわよまだこのあたりの地理に慣れてないだけよ」
そこで、友奈がある提案をする。
「東郷さん夏凜ちゃん、ちょっと協力して欲しいことがあるんだ」
一方、楓、風、樹の班は目的地についていた。
「―ここね、すいませーん、讃州中学勇者部でーす」
インターホンを押して、話す。
「子猫を引き取りに来ましたー」
すると、家の中から、声が聞こえてきた。
「絶対ヤダ!この子を誰かにあげるなんて」
「でもね、うちでは飼えないのよ」
その言葉に、楓は少し頭を抱える。
「あー、ここの子は納得してなかったのか」
「あちゃー、もっとよく確認しておけばよかった」
すると、楓が風に言う。
「とりあえず、説得しよう風一緒にきて」
「あの家のお母さん子猫のこと考えなおしてくれてよかったね」
「そうだね…」
樹が続けて言う。
「ケンカにもならなかったしお姉ちゃんと楓さんのおかげだね」
「…ごめんね、樹」
すると、風が急に謝る。
「なんで謝るの?」
「…樹を勇者部なんて大変なことに巻き込んじゃったから」
風はそこで一度言葉を切ると続ける。
「さっきの子、お母さんに泣いて反対してたでしょ?樹を勇者部に入れろって大赦に命令されたとき、アタシやめてって言えばよかった。さっきの子みたいに泣いてでも…。そしたら樹は勇者にならないで普通に…」
「何言ってるのお姉ちゃん!」
その、風の言葉を樹がさえぎって話す。
「お姉ちゃんはまちがってないよ。私、うれしいんだ。守られるだけじゃなくてお姉ちゃんと楓さんと…みんなと一緒に戦えることが」
「ありがと」
「どういたしまして」
風は笑いながら言う。
「…樹ったら、なんか偉そう」
(とりあえず、風もちょっと吹っ切れたみたいだね)
「さて、部室に戻ったら樹は歌の練習だよ」
「忘れてた!」
翌日、樹の歌のテスト当日。
樹の番がきた。
「次は犬吠埼さん」
樹は、教室の前方の教壇の前に立つ。
(大丈夫、昨日だってちゃんと練習したんだし)
「始めますよ」
先生の声に、教科書を開く。
(あ…やっぱり…)
すると、開いた教科書から一枚の紙が落ちた。
「す、すみませ…」
その紙を開いて見ると、その紙には勇者部の皆のコメントが書かれていた。
―テストが終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう。 友奈―
―周りの人はみんなカボチャ。 東郷―
―気合よ―
―樹は歌がうまい!自信を持って! 楓―
―周りの目なんて気にしない!お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから。 風―
夏凜だけ少しそっけないが、この紙をみて樹は少し微笑む。
「犬吠埼さん、大丈夫ですか?」
「はいっ」
少し気が楽になった樹は元気に返事をする。
(私は皆と一緒にいる…)
先生のピアノに合わせて樹は歌いだす。
(勇者としてだって、この歌だって)
その日の放課後。
「―樹ちゃん、歌のテストうまくいったかな?」
その友奈のつぶやきに風が答える。
「大丈夫よ、あの子はあたしの自慢の妹なんだから」
すると、部室の扉を開けて樹が入って来た。
「樹ちゃん、どうだった?」
樹は扉を閉め、振り返りながらピースで答える。
「バッチリでした!」
その声を聴いて、部員の皆が喜ぶ。
「やったやったー」
「きっとみんなをカボチャと思ったのが良かったのね」
樹が一人一人とハイタッチする。
「夏凜さんもありがとうございます!」
「私は別に、その」
そして、最後にみんなで万歳する。
「「「「「「やったー!」」」」」」
その日の帰り、犬吠埼姉妹と楓の三人で帰っていると、樹が口を開く。
「あのね、お姉ちゃん、楓さん」
そう言うと少しためて樹は言う。
「私、やりたいことができたよ」
「なになに?将来の夢でもできた?お姉ちゃんにも教えてよ」
風が詳しく訊く。
「…秘密」
「誰にも教えないからさぁ」
楓も尋ねる。
「だめです、恥ずかしいから」
「そんなー、残念」
「…でも、いつか教えますね?」
樹は笑顔で言った。
久しぶりに3000文字超えた気がする。