『昔々ある所に勇者がいました、勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するために旅を続けています。
そしてついに勇者は魔王の城に辿り着きましたました。
「やっとここまで辿り着いたぞ魔王!もう悪いことはやめるんだ!」
「わしを怖がって悪者扱いを始めたのは村人達の方ではないか」
「だからといって嫌がらせはよくない、話し合えば分かるよ!」
「話し合えばまた悪者にされる!」』
今、僕達勇者部は保育園で人形劇をしています。
(結城は役に入りすぎてそろそろ何かしでかすかもな…)
『「君を悪者になんかしない!」バンッ』
(はぁ、やっぱりやった…)
「しまった…」
「はわわわ、風先輩どうしよう…」
「でも子供達に当たらなくて良かったぁ〜」
「うぅ〜んと…『勇者キーック!』」
『「ちょ、おまっ、話し合おうってさっき!」
「い、言っても聞かないから!」』
「何言ってんの!?台本通りなら聞くわよ!」
(あ〜もうダメだカオスになってきた…)
そこでナレーションをしていた東郷が小さい手旗を取り出し子供達を扇動し始める。
「みんな!一緒に勇者を応援しよう!」
「「「がーんばれ!がーんばれ!」」」
『「ぐぅぅ、みんなの声援がわしを弱らせるぅ〜」
「今だ!勇者パーンチ!」』
そして、風のアドリブに合わせて友奈がパンチを繰り出す。
(ていうか、今の結構本気のパンチじゃなかったか…?)
『というわけで、みんなの力で魔王は改心し祖国は守られました。
「みんなのおかげだよ!」』
「「「万歳ー!万歳ー!」」」
と、こんな感じで部活として校外活動をしている僕達、3年で部長の犬吠埼風、3年の唯一の男部員の僕伊吹楓、2年でムードメーカーの結城友奈、同じく2年で結城の親友の東郷美森、1年で風の妹の犬吠埼樹の5人は、みんなのためになることを勇んで行うクラブ、「讃州中学勇者部」だ。
翌日、授業が終わり風と共に勇者部の部室へ向かう。
「いや、昨日は危なかったな」
「ホントよ、怪我がなくて良かったわ…」
部室の扉を開けて中に入る。
「や、樹ちゃん」
「あ、楓さん、こんにちは!」
「まだ友奈と東郷は来てないのね」
「まぁ、もうすぐ来るんじゃないか?」
そう話していると、扉が開き話の2人が入ってきた。
「こんにちは!友奈、東郷入りまーす!」
(噂をすれば影だな…)
「風先輩!昨日の人形劇大成功でしたね!」
「いやいやいや!あれのどこが大成功だよ!東郷のフォローで何とかなったから良いものの…」
「そうね、いろいろギリギリだったわよ…いや、むしろNG…」
「うぅ、二人ともひどい…」
まぁ、仕方ないだろう、あの後3年2人で謝りに行ったんだから。
「でもみんな喜んでくれたし結果オーライ!勇者はくよくよしててもしょうがない!」
「友奈さんは底抜けにポジティブですよね」
「じゃあ、今日のミーティング始めるわよー」
そして風はみんなを集めると子猫の写真を数枚取り出した。
「うわぁー、可愛いー!」
「未解決の飼い主探し依頼がどっさり残ってるわ」
「た、たくさん来たね…」
「ということで、今日から飼い主探し強化月間にするわよ!」
そこで風はビシッと東郷を指さし
「東郷、ホームページの強化は任せた!」
「了解です、携帯からもアクセス出来るようにモバイル版も作ります」
指名された東郷は、もはや定位置となっているパソコンの前に移動するともの凄いスピードでキーボードを叩き始める。
取り残された4人は別にやれることを考える。
「私たちは…」
「どうしましょう…」
「海岸掃除で聞いてみれば?」
「それだぁ!」
2人に勢いよく指をさされてちょっとたじろいでしまった。
「出来ました!」
そうこうしているうちに東郷はホームページの強化が終わったらしく、敬礼して伝えてくる。
「はっや!」
「さすが東郷ねぇ」
(東郷って普段何してるんだろう…)
少し東郷が怖くなった。
部活帰りに5人でかめやによった。ほとんどいつものルーティンと化しているが。
「ところでさ、文化祭の出し物のことなんだけど」
そう風が3杯目のうどんの出汁を飲み干しながら言い出す。
(まぁ、そういう僕も3杯目だけど)
「もうそんな話?」
「夏休み入る前にいろいろ決めておきたいんだよね、やっぱり準備が大事でしょ」
「確かに常に有事に備える事は大切です」
(まぁ、至極その通りなんだけど、有事って東郷ってちょっと変な子だよな)
そして風が樹をワシワシと撫でながら。
「去年はバタバタしててなにも出来なかったからね。それに今年は猫の手と男手が入った訳だし」
「私!?」
みんなが出し物を考えている。
(僕はそういう事を考えるのはパスでっと)
「すみません、おかわりください。」
「あっ、ずるいわよ楓!私もお願いします。」
「二人とも4杯目!?」
「ごめんごめん、話し合い途切れたなで、案出た?」
僕と風のおかわりで逸れた話題を元に戻す。
「せっかくだから一生に残るものがいいよね」
「私たちの活動をスライドで上映とか?」
「甘い」
風がにべもなく一蹴する。
「ふぇぇ」
「娯楽性のないものに大衆はなびかないものですからね」
「で、楓には何かないの?」
「ゴブッ」
届いたおかわりのうどんを啜っていると、風から話題を向けられむせる。
「い、いやぁ、俺が考えると化石の発掘とかになるぞ…」
「いや、さすがにないわ」
やっぱり風に一蹴される。
「まぁいいや、これ宿題それぞれ考えること、楓も考えるのよ!」
「えぇぇ…」
僕と風が食べ終わったタイミングでかめやを出る。
かめやの前で東郷を迎えにきた車に乗る2人と別れ、風と樹と帰路につく。
「二人ともぉ、夕飯何作ろうか」
「うーん、そうだなぁ」
「て、二人ともまだ食べるの!?」
そこで、誰かの着信音がなる。
「あ、ちょっとごめん」
「あ、僕もだ」
風の携帯と楓の携帯が同時になっていた。
楓に送られてきたメールには、
―犬吠埼班の可能性がほぼ確定。
用心するように―
と送られてきた。
「お姉ちゃん?」
樹の声に風のほうを見ると、風は深刻な表情をしていた。
「風、どうかしたのか」
「あ、ううん、なんでもない」
誤魔化すようようにいうと、唐突に言い始めた。
「ねぇ、二人とも私に隠し事があったらどうする?」
「えっと、どうした?」
「例えばね、甲州勝沼で援軍が来ないのに戦えーっていわなきゃいけなかったとして」
「近藤勇か」
風が意味をつかみづらいことを言う。
「いきなりどうしたの?」
「あはは、なんでもない」
笑って誤魔化す。
(これは何かあるな)
「ついて行くよ、何があっても」
「そうだな、みんな隠し事くらい1つはあるだろ、気にするな」
「二人ともありがと」
「変なお姉ちゃん」
タイミングよく、みんなに着信がくる。
「あ、友奈から」
「また面白画像かなぁ」
部活に入った時に風に入れさせられたSNSアプリを起動する。
「そうそう当たるものじゃないわよね…」
風が呟いたその言葉が何故か耳に残った。
翌日、数学の授業中、僕と風の携帯から設定した覚えのない音が鳴り出した。
「犬吠埼さん、伊吹くん。授業中は電源を切っておいてください」
「あ、はい。すみません。あれ?電源切ったはずなんだけど…」
すると、なにか変な感覚がする。
「あれ?みんな?」
「あ、楓も動けるの!?」
僕と風以外は動きを止めていて、風と顔を見合わせる。
「まさか!?」
叫んで、風が教室を飛び出す。
もう、感じることは無いと思っていた感覚に、呆然としていると、突然白い光に世界が飲み込まれた。
こっからが難しいなぁ、、、