追記:
続きました
追記2:
本編に合わせタイトルを一時変更
満点の星空が見える。IS学園の沿岸部は灯りとなるものが少なくて、首都圏にありながら山頂のように星が見えていた。
こんな綺麗なものがあると教えてくれたのはあなただった。
あなたは無邪気にはしゃぎながら星と一緒に踊っている。
そんなあなたを追いかけながら私は歩みを進めている。
「ねえ、
あなたは私に呼びかける。
何? っと答えるとあなたは笑みを深くして星空を仰ぎ見た。
星を抱きしめるようにして腕を伸ばし、楽しそうに声を弾ませる。
「これだけ星があるんだから、きっとどこかの星にはボクらと同じように星を見上げてる誰かがいると思わない?」
そう言うあなたの瞳は瞬く星を写して、キラキラと輝いている。
遠い宇宙を見上げるあなたはまるで千年も会えない恋人を見るようにして、じっと見つめている。
そういうあなたの視線が私には送られないことを寂しく思いながら、あなたの見る場所を追うようにして宙を見上げる。
綺麗な星空だ。
プラネタリウムで見られる完全な星空と比べてしまうと人の作った灯りのせいで陰りがある。でもあなたといると見えないはずの存在すらも確かに感じられて、特別な星空だと感じる。
「会いたいなぁ……」
期待するように、諦めがつかないようにあなたは悩みを漏らす。
その誰かもきっと彼と同じように宙を見上げているのだろう。そしてそんな誰かを想像して、感じとってあなたは苦悶をもらしているのだろう。
私には見えないナニカをあなたは確かに見ている。
ねえ、お願い。どうかあなたの横で一緒に星を見る私がいることを忘れないで。
そっと誰にも聞かれることなく、私は星に願いを込めた。
●
風を切る高速の中、白い機影が飛ぶ。場所は太平洋沖数百キロ。日本海と外海の狭間でかすかに視認したそれを追い詰める。
「今度こそ見つけたぜ、
少年、織斑一夏は準音速の中、確かに黄金の姿を捉えて追いかける。そして姿を消した幼なじみの名を叫んだ。
呼びかけに反応するように小さな減速があった。そして見えなかった姿をやっと目で捉える。
それは黄金に輝くISだった。
縮めて『IS』。女性にしか使えない兵器。空を飛び、過剰とも言える兵器を操るそれは世界の縮図を大きく変え、今や世界の中心となっているものだった。
そしてそれは女性にしか使うことができないものだった。
しかし何事にも例外はある。今ここにいる
そして彼が追いかけるのがもう一人の世界唯一。
もう一人の男性操縦者、篠ノ之理多。
黄金の不死鳥を思わせる全身装甲のISに搭乗する彼は行方不明になっていた。正しくは1ヶ月前、夏休み直前に起きた『銀の福音事件』の際に彼は虹の光の残光を残して行方をくらませていた。
そして同時期に世界各国の紛争地帯で起きた黄金のIS目撃例。
黄金のISはその紛争地帯に現れると、その場における武力と呼べるものすべてを無効化しては消える。
漆黒だったはずの色こそ変わっていたものの、形状は彼が操縦していたIS『
世界各国がこれを捕らえようとした。所属不明のIS。捕まえれば各地の紛争地帯を治める力が手に入ると同時に、篠ノ之束博士にしか作れないISのコアと呼ばれる部品を手に入れるチャンスだった。
各国は自国の利益のため、そして理多の級友たちIS学園の面々は彼を連れ戻すため、IS『フェネクス』を捉えるための共同作戦、不死鳥狩りに参加していた。
ISの限界速度によって発生する急激なGに耐えつつも一夏はなんとかフェネクスに追随する。事前に予定していたコースに入り、一夏は無線に連絡を入れる。
そして黄金の影を叩き落とすように斬撃が降ってきた。
飛来したのは紅のIS紅椿。理多の双子の姉である篠ノ之
「バカ理多! みんなに心配をかけて! 早く帰ってこい!」
その呼びかけと同時に放たれた追撃は容易く黄金に避けられた。
しかし避けたことで減速が起きる。
「よし、一夏と箒は予定通りだな。ではB班追撃に入る」
モニターで各機の現在位置を確認していたラウラ・ボーデヴィッヒは予定の座標にことがうまく運んでいるのを確かめ、狙いを定めて過充電していたレールカノンをフェネクスめがけて解き放った。
放たれた弾丸をフェネクスは予見していたように急停止して目の前を素通りさせて回避する。
しかしそれは分かっていたこと。予知能力に近いフェネクスの回避能力を一夏たちは知っている。故にB班の役目は足止めと追い込み。
巨大な水しぶきを上げて海中から三機のISが現れた。
セシリア・オルコットが操る青の『ブルーティアーズ』。
シャルロット・デュノアが操る『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』。
三機は砲門の数に物を言わせて弾幕を張る。しかしその弾幕はフェネクスを撃ち落とすためではない。撃ち落とすのではなくただ追い込む。時折、予定のコースから外れようとするフェネクスに牽制の一撃をラウラが叩き込む。
同時刻のIS学園。不死鳥狩り作戦本部として使われている教室の中、束は空に向かって打ち上がる弾丸の雨をかわすフェネクスを上空の人口衛星から送られる映像で見ていた。
「ふふ、リっちゃん上手いことかわすな〜。でもそれは全部囮。本命は最後に出してこそだよ」
彼女は笑みを深くした。
「よし、予定座標に入った! 頼むぜ、簪!」
作戦内容が記載された地図を見て、今こそと判断した一夏が呼びかけた。
瞬間、空が砕けた。
正しく言えば超加速に耐えきれなかった空間が発生したソニックブームによって大きく振動して光による実像がブレた。
そして空を切り、海上に姿を現した6機めのIS。それはもはやISとは呼べないものだった。通常、自動車ほどの大きさしか持たないはずのIS。しかしそれは大型トラックと比肩して遥かな巨体だった。
まず目に入るのは大型の荷電粒子砲『春雷・改』。ラウラの持つそれよりも5倍ほど大きそれが全体のシルエットから突出していた。さらに12機×16門の巨大ミサイルコンテナ武装『山嵐・改』がその全体像を膨らませていた。その他、大小20もの武装を積んだアンバランスな重武装IS『
音速を優に超える加速の中、簪は空を飛ぶフェネクスを視界に捉える。
「やっと見つけた。やっと会えた。やっと追いついた!」
コンソールを操作し、左右それぞれの操縦桿に力を込めて前に突き出し、さらなる加速と武装のリミッターを解除する。体にのしかかるGの重さを感じながら確かに先行するフェネクスを捉える。
本来、ISには操縦桿など存在しない。PICと呼ばれる補助機能が操縦者の脳波を読み取り操縦を支援するため、そもそも操作自体が必要ない。
しかしフェネクスはこれを乗っ取り、敵対するISを戦わずに無効化する単一仕様機能を持っていた。故に世界で唯一、意図的にPICを排除したマニュアル操作であるこの打鉄弐式のみがフェネクスに近づき、追跡できる機体だった。
一夏たちが入れなかったフェネクスの単一仕様能力の効果範囲に侵入する。本来ISが入れないはずの距離に簪が入った来たことに驚いた仕草を見せるフェネクス。追跡から逃れる様にして再度加速を入れ、さらには常人には耐えられないような複雑な軌道を描いて飛び去ろうとする。
「逃がしはしない! 全門斉射!」
打鉄弐式の武装、そのうちミサイルに関係するもの全てを放つ。12機×16門、合計192発のミサイルがフェネクスめがけて飛んでいく。恐るべきは全てのミサイルがフェネクスが干渉できる自動照準ではなく、簪による手動誘導であること。マッハ8の打鉄を操作しながら同時にミサイルを操作するその並外れた処理能力こそ簪がフェネクスを追跡する役に選ばれた理由だった。
否、それだけではない。能力だけが彼女がここにいことを定めた理由などではない。
「行かないでリタくん! まだあなたと話し足りないことがたくさんあるの!」
悲痛な声が空にこだまする。追いかけても追いかけても距離は一向に縮まろうとはしない。それでも大切な人を取り戻すという執念が少女をさらに高みへと上げていく。
「まだ、あなたに空の向こうになんて行かせない!」
呼び出したコンソールを叩き、遠隔操作のミサイルを操る。無軌道だったそれらは四方八方からフェネクスを囲うように接近し、やがて逃げ場をなくすように命中しようとする。
囲った、逃げ場など存在しない。
瞬間、物理法則が崩壊した。フェネクスは虹の光を纏い、それが大きくなり周囲を虹が覆う。後に残ったのは変わらず在るフェネクスと部品単位にまで分解したミサイル群だった。パーツ単位にまで崩壊したミサイルだったものは推進力を失い、海へ雨となって降り注いだ。
「あれがフェネクスの『
報告は受けて話は聞いていた。目の前で見るまでは簪には誇張された法螺話だと心の中で少なからず思っていた。
しかし現に目撃したことでそれまであった容易な油断は危機感へと変わる。そして否が応でも知った友人が今ある法則の境界を越えた存在に成り果てていることを突きつけられる。
それでも簪は彼を、フェネクスを追う。
「そうやって一人で勝手に理解して、みんなを困らせて。いつも言ってるあなたの悪い癖だよ!」
人を超えてしまった怪物であろうと簪はただの友人として扱う。他の者たちがフェネクスを脅威と見る中、彼女にはそれに搭乗した天真爛漫な少年しか見ていなかった。
ミサイルが無効化され、簪は次の手段に入る。
「本命はいつも最後にとっておくもの!」
コンソールを操作して使い切ったミサイルコンテナをすべて破棄、そして空いた空間から隠し球である武装、大型レーザー砲である『雪花』を呼び出す。
巨大な『春雷・改』よりも更にふた回り大きい砲身、それも二丁装備することよって打鉄そのもののフレームが大きく歪み、軋んだ音を立てる。マッハ8の速度で空中分解などすれば乗っているパイロットの命など一欠片も生存できる余地などない。
しかし簪はそれを承知の上で引き金を躊躇なく握り潰すように押し込んだ。
濁流と形容すべき熱光線が放たれ、砲身を動かすことで斬撃のように光線を振り回す。
「あっ! あぶねえ!」
簪の後方で追随していた一夏に、僅かに熱光線がかすった。ほんの小さくかすっただけのはずなのに白式のシールドエネルギーは3割ほど削られた。そしてそれがなによりも放たれる熱光線の威力を物語っていた。
いかに亜光速で飛べるフェネクスであろうと減速させられた状況では逃げることなど出来るわけもなく、迫る二本の熱光線に飲み込まれる。
「やった! ついに一撃入れたぞ!」
少しづつ置いていかれながらも、なんとか二人に追いつていた一夏と箒は理多を止められる可能性に歓喜の声を上げる。
「いいや、まだだ。よく見ろ!」
しかしそんな歓喜は長くは続かず、濁流のごとき熱光線を浴びているはずなのに撃墜された様子もないことで不審に思った箒が注意を喚起する。そしてその不安は的中した。
放出されていた熱光線が、燃料が底をついたことで出力を失っていく。そして光線が薄くなったことで熱光線にさらされて隠れていたフェネクスの姿が視認できた。
「嘘だろ!」
「残念ながらあれが現実だ!」
一夏が驚愕し、箒も現実に打ちのめされた。
命中したと思われていた熱光線はあろう事か防がれていた。
フェネクスの背部に備え付けられたフェネクスの唯一の装備にして最大の特徴ともいうべき、不死鳥の翼を連想させる推進ユニット兼、シールド『アームド・アーマーDE』が膨張し、変形する事で虹の光を発生させている。
フェネクスに命中するはずだった熱光線は虹の光が生み出した力場によって完全に湾曲し、フェネクスに当たらないように軌道を変えられていた。
「それだって織り込み済みなんだから!」
しかし簪には動揺はない。
むしろこの状況こそが彼女が引き寄せようとしていたものだった。熱光線を放ったまま、追加のブースターを呼び出して装着、一気に距離を詰める。
ついに耐久性に限度が来た打鉄弐式の外部フレームが崩壊した。が、構わず加速する。今ためらってしまえば、もう追いつけることはないと簪は直感していた。
最後の加速を得るために操縦桿を前に出す。
いかに熱光線を弾く力場であろうともそれは物理的な防御力はなく、ついに逃げおおせるフェネクスは打鉄弐式のマニピュレーターその両肩を掴まれた。
強制通信用のケーブルをフェネクスに突き刺し、通信のためのパスを開く。
簪はすがるように呼びかける。
「リタくん! ねぇ、リタくんなんでしょ⁉︎ どうして答えてくれないの、どうして飛び去ってしまうの!」
いくら呼びかけようとも返事はこない。フェネクスは自信を掴む打鉄弐式を振りほどくこともせず、ただ加速を続ける。
「リタくん、どうして……」
呼びかけても答えは来ず、悲哀に涙が頬を伝ってゆく。
その時、心を通り過ぎて行く光があった。忘れもしない、忘れることができないニュータイプによる心の声、理多から伝わる言葉だった。
『泣かないで簪ちゃん。君の声はちゃんと届いているから……。でもゴメンね。今はまだ君の元へは帰れないんだ。まだボクにはやらなくちゃいけないことがあるんだ……』
「みんなを心配させてまでやらなきゃいけないことって何!」
申し訳なさそうに謝る理多の声に簪は痛みをこらえるように問いかける。
しかし理多は答えない。無言のまま二人は加速だけを続けていく。
永遠とも思えた二人の逢瀬を一条の閃光が途切れさせた。
察知したフェネクスが先に動いた。掴みかかったままの打鉄を払いのけ、飛来する熱光線と打鉄の間に立ち、背部の翼を展開して先ほどやったようにして無効化する。
「『
やってきた襲撃者の正体を察した一夏が怒りを声に滲ませる。何もフェネクスを狙っているのは国だけでは無い。彼らのような非合法組織もフェネクスの圧倒的な力を欲していた。遠くには無人機と思われるISが十数機飛行し、フェネクスを狙っている。
そもそも理多がこうなったのはお前らのせいだ!。と心の中で一夏が叫ぶと同時に近接武装である『雪片』を呼び出し、斬りかかろうとすると、追い越すようにしてフェネクスが先行した。
フェネクスは両手を広げ、何度も見せた虹の光を展開すると一帯にいた無人機全てをパーツ単位にまで分解して見せる。それを終え、周囲にもう無人機や脅威が無いのを確認するとこちらを振り返ることもせず飛び去っていった。
「待って、リタくん!」
諦めきれない簪がリタに向かって手を伸ばす。しかし伸ばした手が届くことはなく、虚しく空を切る。なんとか追いかけようと再度操縦桿をつかもうとして箒が制止した。
「落ち着け簪! その機体ではもう追いかけるのは無理だ。それはお前が一番分かっていることだろう!」
言いながら箒は変わり果ててしまった打鉄弐式を見る。脚部はブースターによって発生した熱とGにより融解し、装備していた武装も多くが摩擦熱で焼け焦げ、見える全ての装甲が無残にひしゃげていた。もはや自力で飛ぶことはおろか、箒が紅椿で支えていなければ、誘爆するか自重で崩壊しかねない有り様だった。
フェネクスは再度成層圏に姿を消し、唯一追跡出来る打鉄弐式は飛行不能。誰の目にも作戦は失敗だった。
だがそれがどうした。そんなものは諦める理由にはならない。フェネクスが消えた星空を涙の跡が残る瞳で見上げて誓う。
「あなたを絶対に一人になんてさせない。あなたが見せてくれた宙に必ず追いついて見せる」
変わらず輝く星は宙に瞬いていた。
泣きはしない。あの宙のどこかに必ず探している人がいるから。