ようこそ幻想の園へ~現代魔女の幻想入り~   作:せせらぎ

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書きかけの途中経過です。お目汚しを失礼いたします。


0章
プロローグ  日常から


私は普通になりたい。

私もみんなと一緒にカフェで笑いあいたい。

私は…(けい)魔弓(まゆ)は…普通の女の子になりたいと願っていた。

 

 

 

 

………………

 

 

「魔弓ちゃん、どうしたの?何か私の顔に変なものでもついているかな?」

 

「へ⁉あ、ごめん!ちょっと考え事してただけで、何もないよ?あぁ落ちちゃった…」

 

 

時計の針がてっぺんを回ったころ、お昼過ぎの女子高校の一教室。少女たちの笑い声渦巻く喧騒の中で二人の少女は静かに、礼儀よく木製の箱に敷き詰められた冷凍食品を頬張っていた。彼女、教室の一番隅にあたる後ろ窓際に凛と座す少女〈加賀優香〉は魔弓の友人の1人である。 そして彼女の目の前で虚空を心ここにあらずで見つめている少女、〈慧魔弓〉はその一声で我に返り膝の上に置かれていた小汚いノートを床に落としてしまう。座りながらそれを拾い上げると机の横にかけている自身のカバンへ滑り込ませて食事を再開する。魔弓、彼女は不意に目線を窓の外へ移し弁当箱の最後の一口を口内へ放り込み、しっかりと咀嚼する。それをじっくりと見ていた優香はにっこりとほほ笑むと

 

「良かった、いつも通りの魔弓ちゃんだね。私は今から生徒会活動があるからもう行くけど屋上行っちゃだめだからね?今日は風紀委員が見回りする日だから」

 

それだけ魔弓へ伝えると弁当箱を優香自身の机の上に置き、教室を後にした。魔弓は手をひらりひらりと振り優香を見送る。相変わらず窓の外へ視線を向けていつも変わり映えしない風景を眺めていた……つもりだった。違和感があった。小さな小さな違和感いつも見ていなければ気づかないような本当に小さな違和感。この学校〈聖ドランフィオナ女学院〉の南校舎から臨む風景は、青々とした山が大きく聳えその麓には幾らかの豪邸が立ち並ぶ。この学院は所謂お嬢様学校と言われていて両親が名のある資産家だったり、祖先が土地や力のある人だったりと様々な理由でこの女学院へ通っている者たちがいるのだが、本来その豪邸の裏にある山には何も建設されていないどころか神社すらなかったと魔弓は記憶していた。しかしどうだろう、その山の頂上付近には随分と寂れて掃除もされていないので枯れ葉まみれになっていた。

 

「あんな建物は確かなかったはずだけど…それに境内にいるあの人は…?洋風のドレスなんか来てあんなところで何をしているんだろう」

 

その神社の境内には紫色の洋風なドレスを着こみ、片手にはやはりまた紫の日傘を持ちきれいな金髪を風に揺らして優雅に立っていた……こちら、つまり魔弓に背を向けて。建物自体は劣化してはいなく掃除がされていないといった印象があるだけであるが、もちろんそのようなところに洋風なドレスを着た女性が立っているのは似合わないのである。到底あちらからこちらを見るのは不可能なほどの距離、普通の人間ではまず神社があるかどうかすら怪しいラインである。しかしその女性は振り返り魔弓の眼を見据えてほほ笑む。そしてその整った顔で微笑みながら

 

『こちらへおいで、あなたを歓迎するわ』

 

「え?あの人この距離で私のことを…見えているの?なんで…?私でさえ身体強化(フィジカルマジック)していなければ視認すらできないのに、私にしゃべりかけたの……?あの人と話をしなければいけない気がする」

 

そう言うが早いか、魔弓は自分のカバンを机からひったくり机の中に仕舞ってあった分厚く古びた本だけを持ち出し小走りで教室を後にする。廊下を走り、階段を駆け下り、靴箱から靴を放り出し室内用シューズを靴箱へ突っ込み庭へ走る。美しい庭を駆け抜け3メートル以上もある銀の鉄門を”飛び越え”神社がある山へ向かって速度を上げて走り向かう。

いつの間にか魔弓の服装は上品な女学院制服ではなくなり、黒と青を基調とした私服に着替えられていた。学校用の指定カバンもいつの間にかなく手ぶらの状態で軽快に、自動車や自転車を軽々抜き去り山の獣道へ差し掛かる。しかしその手前で速度を落とし、じきに立ち止まり山頂を見上げる。

 

「どうしよう、きっと私みたいに普通じゃない人だろうから私が宙に浮いてても何も思ったり言ったりしなさそうだろうけど…もしほかの人に見られたら……また、ここからほかのところへ移らなきゃいけないかな…けどさすがにこの山道を駆けるにはちょっとめんどくさいなぁ。いいや隠匿系の術式も使っちゃお」

 

魔弓の体がふわりと宙に浮く、足が地面から離れる。次第に彼女の全身が薄くなっていき、木々を超えるほどの高さに到達するころには一目では、遠目からではわからないほどには透けた存在になっているだろう。これは彼女が得意とする隠匿の術式である。魔女や魔導士、それに準ずるモノは自身の行いを見られることを極端に嫌ったり見られてはいけないことを行ったりする場合がある。そういったときにこの術式はとても便利であり重宝されるのだ。空中浮遊の術式もとても扱いやすく現代人が欲しがる異能や技である。理論でいえばとても簡単な術式ではあるのだがこれがまた実は複雑な術式であり、初級魔法や中級魔法といった簡易な魔法よりも難易度が高く上級魔法に属するものである。次第に魔弓は高度と速度を上げていきその山の山頂を目指す。視界の片隅には午後の授業が始まっている女学院が見えほんの少しの罪悪感が心の隅に芽生える。友人の優香にくらい一言言っておけばよかったと後悔しつつ目標にしている神社へ目線を定める。

 

「お待ちしていましたわ慧 魔弓さん。貴女ならきっと来てくださると思いました」

 

「名前まで…それに隠匿の術式まで一瞬で見破られるなんて。貴女は何者なんですか…?」

 

「わたくしの名前は八雲(やくも)(ゆかり) 、とある土地の地主をしているものです。貴女のことを知っているのもそのちんけな術式に惑わされなかったのも、まずは貴女のことをあなた自身から聞かなければいけません」

 

境内に降り立った魔弓を待っていたのは先ほど教室から目が合った女性だった。彼女はまっすぐと隠匿の術式で存在が希薄になっているはずの魔弓をしっかりと見据えて、ドレスの端を持ち軽く会釈をする。無駄だとわかると同時に隠匿の術式を解除して境内にしっかりと足をつけて、魔弓も紫と名乗った女性へ目線を向ける。

 

「私のことを、ね。全て知っているような態度と目、立ち振る舞いや言動ですがそれでも聞かなければいけないんですか?私の口から直接。私は今正直に言って困惑してますよ。だってこんな状況あります?10㎞以上離れた位置にある場所からまっすぐにこちらの眼を見てこちらにおいでと言われ、私の名前を知り見たこともないようなきらびやかな衣装に身を包んだ女性が今まで存在していなかった寂れた神社に立っているんですよ?それに私が魔術…魔法を使っていることに驚きもしないどころかそれを軽くdisってくれちゃって。私は状況の説明が欲しいのですけれど」

 

「ふふ、常識にとらわれてはいけませんわ。まだこちらではそれが常識でも今にわかります。それに私は自分からしっかり名乗りましてよ?」

 

「………私は慧 魔弓です、先ほど八雲さんが仰ったとおりです。父は魔導士で母は一般の人。現在2人はイギリスの魔道教会で魔導士として生活しています。私も父の血を継ぎ魔術が使える体質で、父の書斎をあさり父の努力の結晶である魔術書を読み独学で魔法や魔術を学びました。それ以外はごく普通の…」

 

「嘘ね。たしかにそこまでは貴女の言う通り魔女として現代を生きる人ならざるものですけれど、もう一つ隠していることがなくて?」

 

「八雲さん貴女どこまで私のことを知っているんですか…?ええ、まあ確かに行ってない重要なことが一つありますね。しかしこればかりは誰にも信じてもらうことはできないし、証明のしようがないんですよ。別世界に行ったことがある、神隠しにあったことがあるなんて流石の八雲さんでも信じることはできないと思いますよ」

 

笑った。いや、嗤ったというべきだろうか。八雲紫はその言葉を聞き嗤い笑った。そしていつの間にか彼女の手のひらにはこぶし大ほどの麻の袋に入った何かが乗っていた。いつ取り出したのか見えなかったし、あんなものを入れる収納スペースがあのドレスにあるとは思えない。しかし魔弓はそんな些細なことよりもその麻袋に自然を釘付けにされた。

 

「もし、その世界にもう一度行くことができその世界の賢者…創設者が私だと言ったら?貴女の父を…両親を葬ったのも私だとしたら?」

 

「そんなこと信じられ…なんでその包みを⁉それは父が自分に何かあった時のために父の書斎に隠していた包み…なぜそれを持っているの!!」

 

「その殺気、とてもぞくぞくしますわ。真実を貴女自身の目で確かめてみるといいですわ。この包みをわたくしから奪ってね…ふふ」

 

「私の両親に…何をしたぁああ!」

 

叫んだ魔弓は後方3mほどの位置に跳躍しながら左手のひらを紫に向ける。手のひら位の円状の文字が赤色で展開されて、もう一回り、さらにもう一回りと展開されていき地に足をつけるころには1mほどの魔法陣が魔弓の眼前に完成していた。

 

「あらわたくしに魔術を使うつもりかしら?両親の仇?それともただ不愉快だから?危ないわね……正当防衛しなければいけないかしら?」

 

「私のお父様とお母様に何をしたの!5秒時間をあげる、手を上にあげ何をしたか事実のみを話しなさい」

 

「そうしなかったら…?」

 

「赤魔法!フラム・ファルナ!」

 

赤く輝いた魔法陣から九つの火球が生成され紫へ向けて放出される。サッカーボール大ほどの大きさの火球は様々な軌道をえがき紫へ着弾し、爆発による小規模な爆風と砂ぼこりが辺りを襲いその威力を物語る。幸い神社への影響はなく境内へ散りばめられていた落ち葉をほとんど焼き尽くす程度で済んでいた。しかし魔弓は左手同様右手もその砂ぼこりの中心へ向け、今度は澄んだ水色の魔法陣を生成する。簡単なスペルを唱えるとその魔法陣へ向けて両腕をさらに伸ばし力を籠める、するとどうだろう今度は火球ではなく水で鎖をかたどった先端に鋭利な刃物状のものを5本生成する。左手をおろし右手でその鎖たちへ向かい指を指し呟いた。

 

「青魔法、イデアム・クローザー。彼女を捕縛せよ」

 

途端に液体で作られた鎖は一斉に土煙の中へ飛び込み何かを捕らえる。魔弓は土煙を一瞥して吹き飛ばし、その捕らえたものをキッと睨みつける。そこには美しい紫色の日傘を広げ優雅に笑う八雲紫がいた。雅なドレスにはほんの少しの汚れもなく、よもや焦げ付いていたりなど微塵もしなかった。あの火球を九つまともに直撃して鋭利な鎖に捕らえられても尚無傷で魔弓に向かって微笑みかけているのだ。恐怖や狂気などちっぽけなものに思えるような妙な気持が魔弓の心に広がっていた。

 

なぜ何ともない?

 

今までで一番の魔出力でのフラム・ファルナだったはずだ。無理な回避行動からの術式展開型魔法だったとはいえ相当な熱量と破壊力を持っていたはずだ。

彼女は人間ではない?あの洋服はただの布ではない?私の両親は?なぜ父の小包を?なぜ私のことを?

 

 

 

 

 

なぜ、私が異世界へ神隠しにあったことを知っている?

 

 

 

 

 

それは恐怖なんかよりももっと恐ろしいものであった。魔女であり、研究熱心であり、何よりも彼女自身が探求心旺盛だったのもあるのだろう。興味や疑問が恐怖や凶器に勝(まさ)ってしまったのだ。好奇心は猫を殺す、というがこういった実践では何よりも恐怖を優先しなければいけない。最も魔弓はこういった戦闘経験や攻撃型魔法をヒトに向けて最大出力で放ったことも無くましてや外で魔術を使うこと自体が珍しいほどだった。それもそうだろう、いかに現代に生まれた魔女だったとしても希少な存在。魔法の撃ち合いや命がけの戦いなんて経験はないに等しい。唯一、昔異世界で女の子を守るため強大な影に魔法を撃ったきりであった。

 

「八雲紫さん、貴女は何者なの。本当は私の両親に何をしたの?何が目的なの?なぜ私のことを知っているの?なんで……私の存在を拒絶しないの?」

 

「それは今あなたの目の前にいる正体不明の少女を戦闘不能にしてから口を割らせるのが早いのではなくて?」

 

「それでいいのであればそうさせてもらうわ。久しぶりに外で、大義名分を得て魔術を使えるんだもの。人気のない山の頂(いただき)で、人目を気にせず、自分の実力を…これまでの研究の成果を!そしてお父様たちに何をしたか吐かせる!赤魔法!フラム・ウェサァース」

 

「久しぶりの弾幕ごっこね、楽しくなりそうだわ。幻巣【飛行虫ネスト】」

 

魔弓は不敵に笑うとどこからともなく分厚い古びた本を取り出し適当なページを開く。そのページに右手を添え紫を見据えてスペルを唱える、すると紫の足元に2m弱ほどの魔法陣が描かれて赤く輝くとともに蒸気を噴射して大きな火柱を生成する。圧倒的熱量で紫を飲み込んだかと思われたが間一髪のところで、まるで狙っていたかのように分かっていたかのように後ろへ下がって見せる。いつの間にか鎖を引きちぎったのか魔弓には目視できなかったがそれも束の間八雲紫の背後には気味の悪い空間が広がっていた。正確には空間がそこだけ裂けて、謎の空間が広がっていると称した方が正しいだろうか。その空間の裂け目からは白く輝き尾を引く虫のようなものが無数に高速で飛び出してゆき、火柱をよけ魔弓へ向かってかくかくと不思議な軌道で迫る。火柱と蒸気により反応が遅れた魔弓は身体を捻りいくつかの弾をぎりぎりで回避して地を蹴り上空へ逃げる。もう一度紫へ向けて手のひらをかざして魔術式を組みなおし、展開し火球を生み出す準備を開始しているところ…紫の姿が地上になかった。もちろん魔術式を組みなおすときに集中はするが彼女から目を離した瞬間なんて存在しない。

 

「死んでしまったらごめんなさいね。廃線【ぶらり廃駅下車の旅】」

 

「いつの間に後ろに⁉身体強化(フィジカルマジック)、魔術防壁多重展開!」

 

声をたどり後ろへ振り向く。空間の亀裂に腰かけた紫がそこにいた。彼女の隣には気味の悪い目がたくさんある空間の裂け目が口大きく開けていた。何か聴こえる、よく日常でも聞く音だった。とっさに攻撃魔法術式の展開を中断して全魔出力を自身の身体強化と衝撃吸収用の魔術防壁へ回す。しかし完全に展開をし終わるころには音の正体が眼前に迫っていた。これは無事では済まないと、悟った魔弓は少しでも衝撃を和らげるために宙を蹴り地面に向かって急降下する。大きく避けた空間からは”電車”がこちらへもう突進してきていた。急降下の努力も虚しく電車の正面に体をたたきつけられて地面と車両にとてつもない勢いで叩きつけられる。

 

「私じゃなければ本当にぺしゃんこになっていましたよ、殺人ですが?」

 

「今あなたは生きているじゃない。選択にもしもなんてないのですわ」

 

「展開!全魔力魔術回路へ!黒魔法!ゼロセル!」

 

ケロっと片手で車両を持ち上げて砂埃だらけになりながら地面を這ってクレーターを上がってくる。空を見上げて未だ優雅に空中へ腰かける紫が見える。しっかりと足を地につけ両手を紫へ向ける。魔弓と紫の周りに黒く輝く魔法陣が幾つも幾つも展開される。かなりの範囲に展開されていて二人を取り囲むように。

 

「さあ!フィニッシュよ、未完成だけどこの場所でなら!」

 

「集中砲火かしら?これだけの魔術式を多重展開するだけの魔力、知識、技量、才能があっても宝の持ち腐れというものね。はぁ…少し期待外れでしたわね」

 

「魔力弾10つ生成、術式発動!」

 

魔弓の掛け声とともに浮遊していた光球が様々な方向へ飛び去って行く、がしかし黒色に輝く魔法陣へ近づくとくるりと反転してまた別の方向へ速度を増して飛び回る。紫はそれをみてくすくすと笑い腰かけていた空間の亀裂が消えその空中()へとどまる……いや、浮遊しようとしたのだろう。後ろの魔法陣へ引き寄せられていく。表情が崩れる。魔法陣に触れた瞬間紫の体は弾かれて予期せぬ方向へ飛ばされていく。その過程で一発の魔力弾が紫へ高速で迫るが、空間を裂きその中へ消えていくがすぐにまた別の場所でまるで吐き出されたように飛び出してくる。

 

「まだまだ未熟じゃないの、何がそっちでも通用する…よ。まあ及第点といったところでしょう。終わりにしましょう」

 

彼女は静かにつぶやくと指を鳴らす、それと同時に数多あった魔法陣が一つ残らず消えてしまった。光球も跡形もなくなくなり、魔法陣が生み出していた重力の波ですらも消えていたのだった。

 

「え…?消えちゃった…?」

 

呆然と立ち尽くす魔弓をよそに紫は左腕で空間を裂き、気味の悪い空間を出現させてその中に左手を突っ込む。魔弓の背後に、紫の左手が現れ彼女の首筋に極小さな紫のエネルギー弾を撃ち込む。小さな衝撃が彼女の脳を揺らし意識を刈り取る…………


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