ラディッツくん成長日記
○月×日
見事俺を見つけられたラディッツくんにご褒美をあげたよ。
山盛りのコンビニ弁当を食べて美味い美味いって泣いてたよ。
△月□日
ラディッツくんと組み手をしたよ。
俺も実戦経験が必要だなーと思ってやってみたんだけど、戦闘力差があるとどうにもならないね。
またラディッツくんが死にかけたので気をわけてあげたよ。後は勝手にしろ。
……この台詞めちゃくちゃ格好良くない?
好き。
☆月♪日
日記書くの面倒くさくなってきた。
つまらん。書くのやーめた。
そろそろお休みもおしまいだ。
アイドル稼業再開しなくちゃ。
◆
「おはようございます」
「あ、おはようございます、ナシコちゃ……ん……?」
ラディッツを連れ立って事務所にやってきた俺は、巨躯の男を呆然と見上げるタニシさんに彼の事を紹介した。
付き人兼ボディーガード兼雑用係のラディッツです。こないだスカウトしました。
ちなみに黒いシャツに灰色の長ズボンを穿いてます。コーディネートは俺。
センッスあるなぁ~。
いやあ、アイドル稼業で忙しいからさあ、家の事やってくれる人が欲しかったんだよねぇ。
ハウスキーパーさんとか雇うにも、俺コミュ障だから不安で不安で……それで、悪人となら普通に話せるのを思い出したんだよね。
でも馬鹿正直に悪人を家に連れ込んだら貞操の危機だ。
起きたら女にされてたとかやだよそんなの。考えるだけで身震いしてしまう。
いや女にはなってるけど、そういう意味じゃなくって。
とにかく、そこでラディッツに白羽の矢が立ったというわけ。
彼は純粋な悪人だ。
けど、この地球で過ごせばマイルドな性格になるんじゃないかな、と思った次第でありまして。
同じく純正サイヤ人かつ血が濃いベジータ王子だって、地球で過ごすうちに穏やかになっていったしね。
「はあ、どうも。私は彼女を担当しております、タニシという者で……え、同棲してるんですか!?」
「ラディッツだ」
ラディッツ君空気読もうね。今タニシさん俺に質問してたから名乗っても聞こえてないと思うよ。
それで、同棲……ああ、そっか。世間から見るとそんな感じになるのか。
しまったなあ、ラディッツは雑用係にしようって考えで一杯だったから、男だとかそういうのは頭になかったや。
「あっ、だ、大丈夫、です。その、彼は、し、信頼できる人、なので……」
「本当に大丈夫なんですか? その……あんまり優しそうな人には見えないというか……」
タニシさんの心配はもっともだ。ラディッツは悪人面してるもんね。うん。そこが格好良いのだ。
でももう既に、結構丸くなってきてるんだぜ? 今も自分を悪く言われたのに、腕組んで不満そうにしてるだけで怒ったり手を出したりしないし。
悪い事したら相応の罰を与えるかんね、って最初に言ったのが効いてるのかも。
「ほら、ラディッツ。改めてタニシさんにご挨拶して」
「ちっ、さっきしただろうが。……わかったわかった」
口答えするのでツンツンと脇腹をつっつけば、観念したように腕を解いて、「ラディッツだ」、とタニシさんに会釈した。良い子良い子。
その礼儀正しい対応に「これはどうもご丁寧に」、とタニシさんも安心したみたい。
『ラディッツさん』と呼んで普通に接してくれるようになった。
今日は各種レッスンの後にラジオの収録があった。
待ってるだけじゃ退屈だろうから、ラディッツにも色々手伝わせたりした。
タオル用意させたり飲み物用意させたり、あと一緒にダンスレッスンしたり。
これ、意外と体鍛えられるよ。だからラディッツも一緒にやろうぜ。
何? 恥ずかしい? ……恥ずかしがってるのが見たいからやるのだ。
世にも珍しい、アイドルやってるラディッツを見れるのはどの宇宙を見渡しても俺だけだろうな。うへへ。
それから、街を案内した。
せっかく雑用頼める人できたんだから、宅配はやめてラディッツにお買い物を頼もうと思ったのだ。
逃げられないよう腕に引っ付いてあっちにこっちに引っ張り回す。通貨を教えて実際駄菓子なんかを買ったりして、まったりした時間を過ごした。
口数少なくついてくるラディッツは完璧な付き人と化していた。
はあ……これからのめくるめくぐーたら生活を思うと毎日がうきうきワールドだな。
「……アイドルとかいうやつをやってる時のお前……いや、なんでもない」
……?
なんか言ったかね、ラディッツ君や。
なんも言ってない? ほんとかな。
なんかムカつく目で俺を見ていたので脛を蹴ってやった。
足抱えてぴょんぴょん飛び跳ねてるのが面白かった(悪ガキ並の感想)。
◆
我が家にブルマさんがやってきた。
てっきり宅配の人だと思ってたからラディッツに行かせてごろごろしてたのに、彼女が来てたとは……おかげでだらしない格好してるの見られちゃった。恥ずかし。大慌てでよそ行きの服に着替えて軽く化粧をして、ああもう大人の女ってのは七面倒くさい。はやくロリボディを取り戻したい。
「それもこれも全部ラディッツのせいである。お前おやつ抜きな」
「え」
なんだ? 何か言いたそうだな?
良いんだぞ言っても。代わりに晩御飯がどうなるかわからんがな……。
ふっふっふ、我が家のお財布は俺が握っているのだ。ラディッツは俺に逆らえんというわけだ。
さ、ぼさーっとしてないでブルマさんにお茶を用意してあげなさい。ほら、行った行った。
なに? 貴様がやればよかろう?
おお? 俺この家の主なんですけど? いいの? 逆らっちゃうの?
しっぽにぎにぎ。
ラディッツはへたれた。
よし、行って来い。
「ね、ねぇ、あれってもしかして……」
「あっ」
……ブルマさんにラディッツがサイヤ人だというのがばれた。
というかそれ以前に彼女は直接ラディッツを見てるんだったな。
「説明しなさいよ! なんで孫君殺したやつがあんたの家にいんの?」
「え、えーっと、そのお……えへっ」
「笑って誤魔化そうとしない!」
ダンッと机を叩いて立ち上がるブルマさん。
ひええっ。相変わらずブルマさん怖い。
そりゃあ、彼女にとってラディッツは友人を殺した極悪人だ。
でもでも、今のラディッツは単なる俺の同居人だし。悟空さん直接的に殺したのはピッコロだし。
ぶ、ブルマさんだって未来じゃ同じくらい極悪人のベジータを家に住まわせて、挙句結婚しちゃうんだから文句言わないでほしいな!
というわけでカクカクシカジカ、今は良い子ちゃんですよ、ペットみたいなもんです、かわいい奴ですよ、とある事ない事必死に話した結果、おぼんを抱えて戻って来たラディッツを睨みつけたブルマさんは、まあいいわ、と溜め息を吐いた。
おお、案外あっさり……。
「あ、おいし。あんたお茶淹れるの上手いわねー」
「……チッ」
「おかしいなー、なんか舌打ちみたいなのが聞こえた気がするなあー」
「ぐぬぬ……! ど、どうも」
うんうん、ラディッツは礼儀をわきまえた良い子である。これで上下関係にうるさいビルス様が来ても安心だね。
それで、ブルマさんに今日なんで急に家に来たのかと聞けば、前にブリーフ博士に頼んだ重力室の開発の目処が立ったと言う。
どこに設置するのかの相談をするには直接見るのが早いし、ついでに顔を合わせてお喋りしようと思ってブルマさんが来たんだって。
なんで電話しないんだろなーと疑問に思っていれば、見透かしたように「あんた電話苦手じゃないの」と言われた。え、いやー、そうだけどぉ。
電話するのもされるのも嫌い。コール音嫌い。誰かと話さなくちゃいけないって緊張で胃が痛くなるのだ。
じゃメールならいんじゃない? ってーとそーでもない。
相手がブルマさんだろうとタニシさんだろうと返信するのには多大な精神力が必要で億劫なのだ。
その点、俺の予定を把握しているらしいブルマさんのこの突撃訪問は理にかなってるんだな。急に来られちゃ逃げ場がない。いや、逃げないけど。逃げた事バレたら怖いし……。
いやでも、本来ならこっちから出向くべき場面なのに、ブルマさん来ちゃうんだもんなあ。フットワーク軽すぎるよ。
俺の事を考えてくれてるのがよく伝わるので、ほんと、頭が上がんない。
「あらそう? じゃ、今度のパーティにゲストとして来てよ」
「え」
ブルマさんのためならなんでもしますよーって伝えたら、そんなお願いをされた。
もちろんお仕事として、報酬もしっかり払うと彼女は言ってくれたけど、違う、そうじゃない。
……俺は心の底から震え上がった……恐ろしさと絶望に涙さえ流した……これはいつもの事であった……。
アイドルとしての自分を押し出せないパーティだの撮影だのは苦手なのだ。
おだてるのが上手いカメラマンさんとかがいる時は例外的に平気なんだけど。
「あー、そんなに嫌なら、無理強いはしないけど」
「や、やります……! やらせてください……お願いします……っ!」
それはそれとしてブルマさんの頼みは断れない。
彼女には良くしてもらってるんだから、こういう時くらい恩を返してあげたいのだ。
俺なんかが行くだけでそれがかなうのならお安い御用と笑わなきゃなんだけど、体も心も拒否反応でまくってて本当に震えが止まらない。武者震いってやつだぜ……!
「これじゃあ私が悪者みたいじゃないの、まったく……」
溜め息をつくブルマさんだけど、その顔は、俺を安心させるような柔らかな表情だった。
うー、震えが収まってきた。ぐしぐしと目元を拭って、なんとか微笑む。
大丈夫、俺の分の仙豆はいりません……絶対に勝ちます!
「勝負とかじゃないんだけどなー」
あ、ブルマさん、苦笑いに代わった。
だだだ、だいじょ、大丈夫です! ちゃんとお外ではシャキッとしますから!
変な事も言いません! お口にチャックです、えへへ……。
「……あのね、やめなさいよね、不意打ちは」
コトンとカップを置いたブルマさんは、目元を手で覆って俯いたかと思えばぷるぷると震えてそう言った。
あんまり意味がよくわかんないんだけど、聞き返す事はできないので、両頬に当てていた指をそうっと下ろして、固まりそうな笑顔を解して神妙そうな顔にしておいた。
"笑って乗り切れ大作戦"が実行できない時は、"うんうんわかってますよ大変だね大作戦"をやるに限るのだ。
無事復活したブルマさんは、しかし俺の顔を見ると胡乱気な目つきになったので、この作戦は失敗だったかもしれない。
とか、そんな一悶着があって。
とりあえずお庭(てきとうに決めた範囲を環境破壊して平地にした場所)をラディッツに掃除させて、そこに重力室を置いてもらうようお頼みした。
開発が完了したらホイポイカプセルに入れて持って来てくれるって。楽しみだなー。
「ああそうそう、ちゃんと詳しい話聞きたいし、予定空けといてよね」
……わー、ブルマさんとデートの約束だー。た、楽しみ、だなー……。
うう……。
◆
ここ最近の俺のアイドル活動は週休二日制である。
もはや人気は揺るぎのないものになっていて、だからせっせこ働く必要なんてないのだ。
こないだドラマの撮影も終わったので落ち着いてるし、夜はお家に帰ってきてラディッツで遊ぶ事もできるくらい穏やかな日々を過ごしている。
「今日から本格的な修行を始めていくぞ」
「ああ」
お休みの日に、ラディッツを山中の開けた場所に連れ出して新しい修行を始める事に。
これまでも組手だとか筋トレとかイメトレとか色々やってきたけど、俺が最も力をいれてやっていた修行法は中々実施できていなかったので、明日が休みの今日、やってしまう事にしたのだ。
……そう、この修行、かなり体を苛める方法を取るので、次の日にめっちゃ響くのだ。
でも強くなれる実感が最も湧くこの修行法が一番好きなので、時間が取れて嬉しい。
あああと、この修行をするにあたって他に目的がある。
……もしかしたら、今日死ぬことになるかも、みたいな感じの。
「きっとこれは俺よりサイヤ人の方が向いてると思うから、全力で取り組むんだぞ」
「わかったからさっさと始めろ」
腕を組んで仁王立ちするラディッツが顎で先を促すのに、俺は得意になって何度も頷いた。
うんうん、意欲的でよろしい。ラディッツには超サイヤ人に留まらず、超サイヤ人ブルーにまでなってもらうつもりだからね。向上心が必要不可欠だ。
そこら辺の心配はいらなそうだな。
「まず、優しい気を近くに待機させる」
てきとーな方へ手を向けて丸い気を放ち、滞空させれば、彼はぴくっと眉を動かした。
なあに? え、優しい気が何かわからない?
ふむ……じゃあまずはそれができるようになろうか。
「具体的に教えるつもりはないのか?」
「えー、いつも感覚でやってるからなあ。こう、なんか、あったけぇ……って感じの……元気?」
「……もういい。自分で掴む」
あれ? 今の説明、結構確信を突いてた気がするんだけど。
なんで伝わらないかなあ。ラディッツだからかな?
という訳で数時間、「それ駄目」「全然なっちゃない」「ただの光弾じゃん」「掃除しとけよ」「繰気弾じゃん」「違う違う、もっと自分の中の元気さをね」と指導し、日が暮れ始めてようやっとラディッツは綺麗な気を作り出す事に成功した。
「そうそう、それそれ。いつも俺がラディッツに分け与えてる感じの暖かい気」
「! きっ、貴様それを最初から言え!!」
「えー? なんでだよ」
肩で息をするラディッツを労ってタオルを差し出せば、彼はなぜか憤慨して俺の手からタオルを奪い、乱暴に顔を拭った。
もー、意味わかんないところで怒るんだから。
それとも、そう言えばわかったのかな? 暖かい気がなんなのか。
「じゃあ、次の段階に進むぞ」
「……ああ、頼む」
差し出したスポーツドリンクを飲むラディッツに「見ててね」と話してから、空を見上げ、天に手を伸ばす。
「ずあっ!」
「!!」
そこから放出された光線は、言うなればフルパワーエネルギー波だ。
放出に放出を続け、体の中がすっからかんになりそうなくらいで気を操り、光線の先端を反転させて自分へ向ける。
すかさず両腕を広げ、全力で気を纏って受け止める構えに入る。
目の前に光が迫った。
「うっ、く!」
一瞬聞こえた激しい風の唸り以降、真っ白な光があるだけで音も感覚もない世界に入る。
それは数秒もせず終わり、後には気力を使い果たし、体もボロボロの俺が残るって寸法だ。
ただ、これをやると瀕死になるので、次の日までの僅かな回復じゃお仕事がし辛くなるのだ。
怪我くらい治せるけど、動きがぎこちなくなるし、ダンスなんかしたら体中痛くて泣きそうになる。
この修行をするならできれば次の日は一日休養をとれる日がいいな。あ、仙豆があれば一時間おきにできるかも。今度カリン塔行こう。
「けほっ……あ、う」
必死に自らの気を手繰り寄せ、待機させていた優しい気を自分自身にわける。
そうすれば、体中を襲っていた痛みがほんの少し和らぎ、体を動かせるようになった。
といっても、しばらくは立ち上がれそうにないかもだけど……。
「ヒッ……あ、あ」
見よ、これぞナシコ流修行法、名付けて「お手軽! 体も気も極限まで酷使しちゃおうトレーニング」である!
と言おうとして、喉が酷く痛むのに掠れた声しか出なかった。
やだ、恥ずかしい。
ちなみにこの修行法の弊害である服がボロボロになる事だけど、バーゲンで買った安いシャツを着てるのでOK、肌着も下着も数枚纏めて数百ゼニーのクソダサ仕様だから見られたって恥ずかしくない。パーペキな予防だぜ。
「ぬ……むぅ……! くそっ……ぐぐ……」
「はっ、はー、はー……?」
なんかラディッツが組んだ腕を解いたり戻したり、俺を見下ろしたり目を逸らしたりと凄い挙動不審なんですけど。
はっまさか、性欲がうっすいサイヤ人の癖にナシコちゃんの体で欲情してしまったというのか!?
……なんてね。
険しい顔をして俺を見下ろしてるラディッツを見ればその内心で何考えてるのかくらい俺でもわかる。
『ここでトドメを刺せば……!』『いやしかし、それでは強くなれない』『だがこの女からは逃れられる……!』みたいなこと考えてるんでしょう。
どうする? 殺す? 殺しちゃう?
……と、かるーく考えてる俺だけど、内心すっごくドキドキしてる。
死ぬのが怖いのはもちろん、僅かな時間とはいえ寝食を共にしたラディッツが俺を殺す事を選択した場合の精神的ショックは計り知れないだろうし、秘かにもし自分が事故とかで死んだらドラゴンボールで甦らせてもらえるようブルマさんに頼み込んであるとはいえ、死後の事を考えると不安でしょうがない。
でも、これからも俺はラディッツのように誰がしかを仲間に引き入れたいし、これはそのための試験のようなものだ。
悪い奴を勧誘しても、裏切られたんじゃ意味がない。
一緒に生活して情をわかせたり、仲間意識を作ったりして殺し殺されの関係から解放されなくては。
ラディッツが俺を殺すなら、俺に悪人を仲間にする能力はないって事で今後……があるかは知らないが、今後は控えてひっそりやる。
でももし、ラディッツが躊躇うのなら……あ、今まさにかなり逡巡してるみたいだけど、それは俺を殺した時のメリットデメリットを考えての事で、情があるかはわかんないな。
それでも躊躇ってくれるのなら、今後も上手くやってけると自信を持てる。
「……チッ。無茶な事しやがる」
「ぁ……あはっ」
結局ラディッツは俺に手の平を差し向け、しかし光弾を放つ事もなくそのまま屈んで俺を支え起こしてくれた。
やった、やった。ラディッツの懐柔に真の意味で成功した気がする。
「ころ、さない、の?」
傍の木まで運んでくれた彼に問いかければ、心底心外だ、と言わんばかりの表情をされた。
「俺達サイヤ人がいくら仲間意識が低いとはいえ、弱っている仲間をいきなり殺したりはせん」
「さっきは、迷ってた、のに?」
「ぐっ! ……あ、あれは日頃の仕返しをしようかどうかを……をっ!?」
「へぇ……あとで、覚えてろよ?」
そんな事考えてたんだー、と思いつつ微笑んでやれば、ラディッツはウッと息を詰まらせた後に、小声で「ぢぎしょお」と呟いた。
ぷっ。なにそれ、言うの癖になっちゃったの?
「はあー。うん、結構、体動くようになってきたかな」
「そ、そのようだな。……だが、なぜこんな無茶をする?」
「なぜって、そりゃ当然強くなるためだよ」
ちょっとずつ回復してきた体を動かして確かめる。さすが、タフなボディだ。本当に俺地球人なのかな?
「宇宙にはフリーザより強い奴がたくさんいる。今のままで慢心してたら足下すくわれるぞ?」
「そいつらと戦う事になる訳でもあるまいに」
「ふっ……わかってないなあ」
未来を知っている俺だからこそ、先を見据えて自分を苛め抜けるけど、未来を知らない彼には俺の行動は不可解に映るのだろう。
そんな彼には、この言葉をプレゼントしてやる。
「俺は勝つために強くなろうとしてるんじゃなくて、誰にも負けないために強くなろうとしてるんだ」
「負けないためだと?」
それは勝つためとどう違うんだ、と問いかけてくるラディッツに笑みを返す。
いちいち説明するのも面倒だ。後は自分で勝手に想像しやがれ。
「さ、次はラディッツの番だ。ほれ、さっさとやらんと俺がかめはめ波をお見舞いするぞ」
「ま、待て! やる! やるからよせっ!」
立ち上がろうとする俺の両肩を押さえて必死に幹に押し付けたラディッツは、素早く立ち上がると俺を真似て優しい気を待機させ、空を見上げた。
さっきの焦ったり戸惑ったりした顔じゃなくて、この真剣な表情は結構格好良いなって思う。
……悪人面だけど、それはそれで良さがあるのだ。ふへへ。
それに、そのうち穏やかな顔になるんじゃないかなーと思っている。ベジータみたいに、ちょっとだけ険がとれるような感じで。
こないだそれを確信させる顔をしてた。
とびきり甘いアイスを口に含んだ時のなんとも言えない情けない表情は、ふふっ。今思い出してもかわいかった。
………………。
「おい、はよせーや」
「ぐっ、い、言われずとも今やろうとしていた!」
嘘こけ。ずーっと空見上げて躊躇してただけじゃんか。
しかし俺が声をかけたのをきっかけに、ええいクソッタレ! と妙な掛け声とともに空へ光線を放った。
気功波はそのまま空の彼方に消えていく。
……光線、ちょっとしか曲がってなかったけど……そっか、ラディッツは曲がる光線撃てないのか……。
「……ナシコよ」
「……ふふっ」
たらー、と頬に汗を伝わせながら恐る恐るといった様子でこっちを見るラディッツ君に、とびっきりのアイドルスマイルを向けてやれば、ほっと息を吐いた。
「波っ」
「ぎゃっ!?」
なけなしの気力を振り絞った気弾をバチッと受けたラディッツは、ゴミクズみたいな体勢で地面に横たわった。
まったく、世話の焼ける奴だ。
立ち上がり、よろけつつも近寄って行って、直接体に触れて気をわけてやれば、はっ! と目を見開いて体を起こす。
「き、貴様ぁ!」
「んぁっ、ちょ、ちょっと、痛いんだけど」
完全な不意打ちでやったのがよっぽど頭にきたのか、がっしりと二の腕辺りを掴まれるのに思わず変な声が出てしまった。やべぇ、くっそ恥ずかしい。
が、せっかくナシコちゃんが悩殺ボイスを発したというのにラディッツは歯を噛みしめて怒りを押し殺そうとしているだけで反応なし。
それはそれで、こう、もやもやするというか……なんか反応が欲しくなるんだよなあ。
「そう怒るなよ。自分の気探ってみろ。気の総量が跳ね上がったのを感じられるはずだ」
俺の言葉にむっと口を引き結んだラディッツは、両の拳を握りしめて地面に目を落とした。
……やがて、顔をあげる。
「わからん」
「……ああ、そう」
後で家にあるスカウターで計る事にして、この場はラディッツに気のコントロールを教える事にした。
まずそれができなきゃ話にならないけど、あんまり頭になかったなあ……反省。
TIPS
・お手軽! 体も気も極限まで酷使しちゃおうトレーニング
サイヤ人の優秀な戦士、かのバーダックも行っていたともっぱらのウワサな修行法……?
ナシコには微塵も効果がない。
やるだけ無駄である。