TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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引き続きラディッツ視点


第十三話 VSナッパ! ~瞬殺! 驚異の最下級戦士ラディッツ~

「来たぞーーッッ!!」

「!」

「くっ!」

 

 

 荒野地帯まで飛べば、俺達の接近を感知したのだろう、いつか戦った緑色の……マジュニアだったかが真っ先に声を発した。周りにいる地球人共も構えを取る。俺はその前へ下り立った。

 

「きっ、きさまは……!」

「久し振りだな、などと挨拶をしている余裕はないぞ」

「あ、ああ……あの人、ぴ、ピッコロさんとお父さんが倒したんじゃ……!?」

「来るサイヤ人は二人って話だったはずだ……!」

 

 そう言って驚いているのはカカロットのガキだけじゃない。他の奴らも困惑し、戸惑い、慄いている。三つ目のハゲが口を開くのを最後に視線を切り、背後の空を見上げれば、ちょうどナッパとベジータの野郎がやって来た。

 空中で一度止まり、悠々と地面に下り立つ。

 

「チィッ、やはり生きていやがったか……さ、最悪の展開だぜ」

「はは……おれ、今日こそ死んじゃうのかな。ちくしょう……」

「サイヤ人が三人か……武者震いがしてきたぜ」

 

「なるほど? ここを貴様の墓場に選んだ、と言う訳か」

 

 俺がここに来たのは、単純に都から離れて被害が出ないようにするために強い気がある場所を選んだというだけだ。

 ……悔しいが、俺一人じゃあっという間にやられてしまう可能性もある。こんな奴らでもいる方がマシだろう。

 

「へっへっへ……さあて、どう料理してやろうかな」

 

 ナッパが腰を落として構えたが……ベジータの方は腕を組んで見物と洒落込むつもりらしい。舐めやがって……!

 だが、その油断が命取りになるのだ。

 

「念のために聞くが……きさまら、ここへいったい何しに来た」

「ほう? こんな所にナメック星人がいるとは」

「三つ目人までいやがるぜ。うん? 辺境の惑星なんだよな? ここは」

「ナメック星人には魔法みたいな不思議な力を使える奴がいると聞いた事がある……。どんな願いも叶えられるという願い玉の存在は本当だったか……」

「ナメック星だけじゃなくこの星にもあるのはそのためだったって訳かい」

 

 願い玉……?

 聞いた覚えがあるな。……おそらくナシコが口にしていた。

 もう化粧したくない、子供に戻りたい、好き勝手に遊び回りたい、天使になりたい、という願いを叶えるとはただの愚痴や妄言だと思っていたが……そうか、本当にその気だったのか……呆れた奴だ。

 

「ナメック……星人……?」

「ピッコロ……お前、宇宙人だったのか?」

「天さん?」

「いや、俺は三つ目があるだけの普通の人間だ」

 

 背後で交わされるやり取りに段々と苛立ちが増してきた。暢気に喋っている場合ではないはずだ!

 今はマジュニア……いや、ピッコロとかいう野郎が宇宙人かどうか、三つ目人がなんなのかなどどうでもいいはずだ。

 

「俺がここへ来たのはたまたまだ。だが居合わせた以上、貴様らも戦力に数えさせてもらうぞ」

「なんだと……? おい、お前はあいつらの仲間じゃないのか?」

「仲間ならばとっくに貴様らを葬っているわ、阿呆が」

「アホだとぉ!」

 

 長い髪の男の下らん質問に答えてやれば、どういう訳か怒り始めた。沸点の低い奴だ。それでよく今まで生きてこられたな。多少おちょくられた程度でいちいち反抗しては命がいくつあっても足りんぞ?

 

「戦闘力……ナメック星人が1300、チビのハゲが1120、チビのガキが990、三つ目が1200、ロンゲが1100、白いチビが890……どいつもこいつも雑魚ばかりだぜ」

「やはりラディッツの戦闘力は6000か……この短期間でどうやってそこまで腕を上げた?」

「さてな。貴様らが思うほど、この星の連中は軟弱ではないという事だ」

 

 特にナシコとかいうアイドルは馬鹿みたいな戦闘力を持ってやがるんだ。それを知って驚いたこいつらの顔を見てみたいが……生憎あいつは仕事中だ。邪魔はできん。

 

「おい、ナッパ」

「ん? あ、ああ」

 

 俺達が自在に戦闘力を操れる事を知っていたベジータは、ナッパにスカウターを外させ、自身もまたスカウターを外した。

 正しい判断だ。スカウターがあるとどうしても頼りきりになるからな。そうするといちいち反応が遅れて手痛い攻撃を受ける事になる。気を探る技術を身に着けた方がよっぽど役に立つ。

 

「お、おい。あのラディッツって奴、どうしてかおれ達に協力してくれるみたいだぜ……!」

「単なる目的の合致だろう。なんらかの理由でサイヤ人同士で諍いがあり……決裂した。その巻き添えを食ってるようなもんだ」

「地球じゃなく他所でやって欲しいもんだぜ……」

 

 さて……後ろにいるこいつらは、ナシコの頼みの対象に入るのか?

 

 圧倒的な戦闘力を前にした恐怖を誤魔化すためか、やたらと口数多く言葉を交わす地球人共の下まで地を蹴って後退する。息を呑む気配を気にせず、その間もベジータ達からは目を逸らさない。ナッパの野郎はともかく、ベジータの方が動き出せば、おそらく一撃で決着がつく。見て、感じてさえいれば避けられるはずだ。

 前を向いたまま小声で語りかける。

 

「貴様ら、よく聞け。あのハゲ頭の方に全員で全力でかかるんだ。チビの方は今はいないものと思え」

「チッ、何を指図していやがる。俺はきさまの手下になったつもりはないぞ」

「黙って言う事を聞け! ……あのハゲはかなりタフな奴だ。生半可な攻撃じゃダメージが通る事はない。限界まで高めた気を思い切りぶつけるんだ」

「お、おい、待てよ。そうやっておれ達を騙して攻撃しようって魂胆じゃないだろうな?」

「なんだと!」

 

 ちぃっ、この俺が作戦を提示してやっているというのに、ピッコロとかいう奴もチビハゲ野郎もちっとも従う素振りを見せやがらねえ。

 何故だ。仮にナシコが命令すれば、きっとこいつらは従うはずだ。俺がそうであるように。

 ナシコと俺で何が違うというのだ!?

 

「くっくっく……貴様らに期待した俺がお間抜けだったって訳だ……。それならば、俺一人でナッパの野郎を片付けるまでだ!」

「ほお、誰が誰を片付けるってんだ? え? 弱虫ラディッツさんよお」

 

 思う通りに動かない地球人共に、そいつらをあてにしていた自分への怒りが上乗せされて思わず声を荒げれば、単細胞のナッパが青筋を浮かせて気を高め始めた。

 フルパワーになどさせるか!

 

「うおおお!!」

 

 両拳を握りしめ、一息に気を解放する。奴が完全にフルパワーになるより先にこっちがMAXパワーだ!

 高めた気をそのままに、構え、飛び出す。

 

「!」

 

 奴が目を見開くのが見えた。

 馬鹿め、自ら隙を晒しやがって!

 さらにスピード上げ、背後へと回り込む俺の動きに明らかについてこれていない。

 

「食らえい!」

「おごっ!?」

 

 渾身の両肘を首裏へ叩き付ければ、油断していた奴はあっさりと地球人共の方へ吹き飛び、無様に地面を滑っていった。

 

「ぐ、あっ!?」

 

 勢い良く立ち上がって振り返った奴の形相ときたら、近くにベジータが控えているというのに笑いがこみ上げてきやがる。

 

「どうしたんだ、エリートさんよ……そんなに驚いた顔をして」

「お、おのれ~! ど、どうなってやがる!」

 

 ……よし、よし。

 ナッパをブッ飛ばした事で自分自身のパワーを、強さを、やっと現実として認識できた。

 今まではただ修行をし、ナシコに足だけであしらわれるだけの日々だったからな……それも雑誌を読んだりゲームをしたりと片手間に……数字が大きくなっても実感がわかなかった。

 それが今、ようやく馴染んできたぜ……。

 

「調子に乗るなあ!」

 

 腕を振り上げて突進してきた奴の動きもはっきりと目で捉えられる。フン、気を探るまでもない。怒って動きが単調になってやがるな。

 目の前に到達したナッパがかなりの気を籠めた腕を振り下ろし、俺の体を斜めに引き裂いた。

 

「おらっ、どうだ――おっ!?」

「馬鹿め、まんまと引っ掛かりおって!!」

 

 腕を組んで悠々と立つ俺の残像を捉えて得意気な顔をしていたナッパを背後から蹴りつけ、再び地面におねんねさせてやった。はっはっは、爽快だ! あのナッパをこうまでコケにできるとはな!

 

「あ……ああ……!」

「な、なんて事だ……あの大柄なサイヤ人も凄まじいが、孫が倒したというあのサイヤ人は、も、もっと凄い気を発している……!」

「ふっふっふ、俺は超一流の戦士だ」

 

 外野の歓声に気を良くして芝居(しばい)がかった台詞を吐いてしまった。

 なるほど、これは気分が良いな。ナシコの奴がアイドルモードではああまでハイになる理由の一端がわかった気がするぜ。

 

「こぉっ、このっ、こ、この俺様が! ら、ラディッツ如きにぃ~!!」

「おっと」

 

 戦闘服から欠片を零しながら立ち上がったナッパは、今にも血管がぶちぎれそうなほどの怒りを露わにしていた。纏う気が揺らめきたち、地面が揺れている。かつての俺なら恐れを抱かずにはいられなかっただろうが……もはや戦闘力に倍近い差があっては、恐怖心など微塵もない。

 そして叫びながらの突進はやはり容易く避ける事が出来た。

 空振った事でさらに怒りのボルテージを上げる奴の背後に下り立ち、嘲り笑う。

 

「何がエリートだ。単純な攻撃ばかりしおってからに」

「な、なんだとぉ!?」

「見本を見せてやろうか? ええ?」

 

 言うが早いか、腕を組んだままナッパの眼前に移動してやれば、奴は大袈裟に仰け反って驚きを露わにした。おいおい、腹ががら空きだぞ。

 

「ご、おっ……!」

 

 腹にめり込ませた拳は戦闘服を突き破って奴の肌にまで達した。

 が、これだけでは大きなダメージは与えられていないだろう。

 数値だけでは計れない異常なタフさがナッパにはあった。

 だからこそ、決着をつけるには最大まで溜めた気を撃ち出し、二度と立ち上がれないよう粉々に吹き飛ばすしかない。

 

「そうらっ!」

「ぎゃっ!」

 

 横へ蹴り飛ばし、奴が体勢を整えないうちに腰を落として構えを取る。

 今のところ俺の唯一の溜め技だ。最大出力でお見舞いしてやる!

 

「か……」

 

 円を描くように回した手を右の腰へ移動させ、

 

「め……」

 

 向かい合わせた手の内に体中の気を集めていく。

 

「ああっ! ま、まさかっ」

「か、かめはめ波か!? 馬鹿な、なぜサイヤ人があの技を!」

「は……」

 

 集中がいるために周りの音はあまり入ってこないが、辛うじて聞き取れた会話から察するに……やはりそうか。この技はカカロットの使っていた技か。

 ナシコが自慢げに教えて来た時は奴オリジナルの技かと思っていたが、奴が技を考える頭を持っているとは思えん。よく思い出してみればすぐにわかる事だった。

 

「め……!」

 

 気の球体が手の平の間に生まれ、光り輝く。

 最大まで解放した俺の戦闘力を集中させたものだ、数値でいうならば軽く1万は越えているだろう。

 こいつでくたばれ!

 

「波ーーーーっっ!!」

「!」

 

 すでに立ち上がっていたナッパは、しかし避ける素振りは見せなかった。両腕を広げて受け止める体勢。

 馬鹿が、素直に避ければ良かったものを!

 

「ごおおっ! こっ、こんなものォ!! おおあ!!」

 

 直撃し、両腕で俺の全エネルギーを抱くようにして押し留めたナッパは、苦しげな声をあげてどんどん後退している。顔を背けさせられ、体は仰け反り、明らかに押し負けている。

 だが、あと一押しが足りない! くそっ、フルパワーだぞこっちは!?

 

「かめはめ波ーーっ!!」

「どどん波!!」

「魔閃光ーーっ!!」

「ずああっ!!」

 

 そこへ地球人共からの援護が入った。

 

「おごっ、おごおおおお!!?」

 

 全員が全員溜め技を放てば、ナッパの野郎が光線に呑み込まれるのは当然の流れだ。

 もはや光線を受け止める事もできずに流され、顔も身体も捩れて吹き飛ばされていく。

 だが残念ながら、粉々にしてやろうという目的は達成できなかった。

 

「が……ぁ……」

「!」

「な、なんてヤローだ……! あ、あれだけの攻撃を受けてまだ生きてやがる!」

「だから言っただろう、奴はことのほかタフだぞ、と」

 

 この場にいる全員の全力の一撃を受け、それでも形を保ち、二本の足で立てているのは称賛に値するだろう。

 だが戦闘服は消し飛び、体中焼け焦げて歯を食いしばっているナッパはもはや誰が見ても戦える体ではない。ベジータもそう判断したのだろう、不快そうに舌打ちをしやがった。

 

 やがて重々しい音をたてて前のめりに倒れ伏した奴を見て、俺は勝利を確信して長い溜め息を吐きだした。同時、地球人共がささやかな歓声をあげる。

 

「やった……! あ、あいつ、恐ろしい奴だったけど……どうやら倒せたみたいだ!」

「油断するな! 奴より強い気を持つサイヤ人がまだ残っているのを忘れるなよ……それに、まだ奴は死んじゃあいない」

 

 ハゲのチビ……クリリンと呼ばれていた地球人とピッコロが話している間に、それぞれがその二人の回りに集まってきた。

 

「僅かだが、まだ気が残っている……」

「トドメを刺すべきだっていうのか?」

「おい。さっきは何故俺に合わせた?」

 

 三つ目とロンゲの会話に割り込み、俺はどうしても疑問に感じた部分をそれぞれにぶつけてみた。

 最初に指示した時は誰一人従おうとしなかった癖に、あの土壇場でどうして最大まで溜めたエネルギー波を撃つ事が出来た?

 あらかじめ放とうと思っていなければできなかった芸当のはずだ。

 答えたのは、クリリンとカカロットのガキだった。

 

「あれは……なんつーか、かめはめ波を見てたらさ、おれもやんなきゃって思って……」

「ぼ、ぼくもです。なんでか、お、お父さんを思い出して……」

「……よくわからんな」

 

 なんとなく、だのカカロットを思い出して、だの、いまいちはっきりとしない理由だ。

 それに、溜め技を放てた事への疑問を解消できていない……と思ったが、そうか。俺のかめはめ波は撃つのにかなり時間がかかる。それこそ蹴り飛ばしたナッパが復帰してしまうくらい。これは俺が不慣れなためだ。

 おそらく、元々この技を使える地球人共の方が熟練しているために、最大パワーの同時発射となったのだろう。

 

「うわあっ!?」

 

 俺達の間に巨体が突っ込んできたのはその時だった。

 一人納得していた俺はぎょっと目を見開いてそれが何かを確認し、二度驚く事となる。

 

「なっ!? ナッパの野郎、まだ生きていやがったのか!?」

 

 肩を半ば地面に埋めて、左右に割れた地球人共の間に倒れているのは、動けないように見えたはずのナッパだった。

 

「ち、違う! あいつだ! あっちのサイヤ人が投げてきたんだ!」

「なに、ベジータが!?」

 

 言うが早いか凄まじい気を感じ、ベジータを見るよりその場からの離脱を優先した。

 次の瞬間、太い光線が俺達の間を突き抜けた!

 うおお! なんという気の大きさだ!!

 

「動けないサイヤ人など、必要ない」

「ぐっ……くそったれ……!」

 

 充分距離が取れていたはずの体にビリビリとした衝撃が走るのに悪態をつく。

 し、しかもあれは……た、溜めた気ではなかった!

 ほ、ほんの気軽に放ったというのか! あれを……!!

 

「な、なんてやつだ……! じ、自分の仲間ごと、け、消し飛ばしやがった!」

「餃子! 餃子はどこだ!?」

「ま、まさか今のに巻き込まれちまったんじゃ……!?」

 

 上手く避けたと思っていた地球人共が動揺の声を上げるのに冷たい汗が背を流れる。

 手早くナッパの野郎を始末できたと思ったら、誰か傷でも負ったか、いや、死んだのか!?

 

「冗談じゃないぜ……! 未来のファン候補を死なせたとあっちゃ、俺がどやされちまうだろう!」

 

 そう言いつつも、先程共に必殺の一撃を放った、いわば仲間をみすみす死なせたとあっては俺のプライドに傷がつく、と辺りを見回す。

 気を探って探してみても、あのチャオズとかいう白いチビの気配はどこにもない。

 だが三つ目人が何かに気付いたのかはっとして顔を上げた。

 

「やめろ餃子……やめるんだ! ――違う!! ばれているぞーーッッ!!!!」

「フッフ、そういう事だ。そー、れ!」

 

 ベジータが背後の空へと二本指を差し向けた瞬間、青空の中に爆発が生まれた。

 なんだ!? 何をしやがったんだ奴は!

 

「チャ、餃子ーーーーー!!!」

 

 広がる黒煙の中からパラパラと落ちて来る何かの欠片に、それがチャオズと呼ばれていたガキの僅かな残骸なのだと察してしまった。

 

「おおおおおお!!」

 

 絞り出すような慟哭が響く。不味い、あの三つ目、一人で突っ込むつもりだ!

 

「ええい貴様ら、続けーっ!!」

「ちくしょぉおお!!」

「うあ、あ、ああ……!」

 

 ! カカロットのガキ、何を突っ立ってやがる!

 ちぃ、気にしてる暇はない。

 突進する三つ目を追って俺達は一斉にベジータへと殺到した。

 

 

 

 

「――少しは楽しめたぜ」

 

 ――結果は、全滅だった。

 

 まず三つ目が腹を貫かれて後ろへ放られた。

 動揺が走る地球人共を前に、しかし三つ目はそれだけで終わろうとせず、ベジータの野郎の尻尾を引っ掴んで握り締めた!

 

 地球人共の間に『チャンスだ!』という認識が生まれた時には、三つ目は尻尾を掴んでいた腕を失っていた。

 手刀で切り飛ばされたのだ。ベジータは……尻尾を鍛えていたために、かつての俺のように力が抜けるなんて事はなかった!

 

 そうまでされて、三つ目は倒れなかった。妙な形に固めた片手をベジータの顔に向けると、「気功砲!!」という掛け声とともに尋常でない気を放ったのだ!!

 まともに食らえば大ダメージは免れない。なにせ至近距離だ、最初からどんな技か知っているならともかく、あれでは防御が間に合わない。

 だというのに。

 

「良い風だ、よくやったと褒めてやる。こいつは褒美だ」

「む、無念――」

 

 チャオズと同様、三つ目も粉々に砕け散った。

 そこでようやく俺達はベジータに到達したのだ。

 ナメック星人であるピッコロはともかく、仲間の死に動揺の激しい地球人どもは散々だった。

 

 ハゲチビ――クリリンが横へ弾き飛ばされ、ピッコロが繰り出した足を切り飛ばされ、鋭い連撃を叩き込もうとしたロンゲ――ヤムチャが瞬時に背後に回り込んだベジータの肘打ちを受けて地面に沈み、ぴくりとも動かなくなった。

 

 そしてこの俺も、繰り出す拳も蹴りも全て受け止められ、避けられ、視界から消えた奴の気を追って放ったフルパワーエネルギー波はあっさり弾かれ。

 たった一撃……! ただそれだけで、俺は立ち上がる事すらできず、無様に腹を抱えて蹲る事になった。

 

 数秒。それだけの短い時間で こうまで圧倒されちゃあ……ぷ、プライドなんて気にする暇もないぜ、ちくしょうが!

 

「ヤムチャさああああん!!」

 

 爆発音が聞こえた。

 気の動きからするにあの野郎、既に動けなかったヤムチャを蹴り飛ばし、気弾を飛ばして爆発させやがった!!

 クリリンが放った気功波も、奴の前じゃ突風くらいのもんだったのだろう。弾かれた気が地面に当たって揺らすだけで……俺達は、打つ手無しになった。

 

「ちきしょう……ちきしょうっ! 悟空ーーーー!! 早く来てくれぇええええ!!!」

「うるさいハゲだ。次は貴様を甚振ってやるとするか。その次はそこのガキ、それからナメック星人、最後にラディッツ……お前を消し飛ばしてやるぜ」

「ぐ、く……くそぉ……!」

 

 死刑宣告に勝手に体が震えだす。

 こ、これほどまでに奴と俺達とで力の差があるとは……!

 勝てる、そう思っていた一時間前の俺を殴り飛ばしたい気分に駆られたが……この化け物をここへ連れて来た事に後悔はない!

 ……都から離れるのが最優先だったからな……!

 

「う、うあ、ああ……!」

「くっくっく……どうした? カカロットのガキ……かかってこいよ」

「ご、悟飯……逃げろ、悟飯……!」

 

 ナメック星人がのろのろと這って動くのを感じながら、俺も腕をついてどうにか身を起こそうとした。

 だが受けたダメージは半端なものではなく、痛みに体が硬直した一瞬で腕から力が抜けて倒れてしまった。

 

「う、うわあああああ!!」

「!?」

 

 爆発的な気の高まりを感じて、思わず痛みも忘れて顔を上げた。

 ちょうど、あのガキがベジータの頭を蹴り抜いているところだった。

 な、何が起こった!?

 

「がっ!? な、なんだこの力は!」

「お前なんか! お前なんかー!!」

「ぐああ!」

 

 完全な不意打ちだったのか、ベジータは防戦一方になり、だが防ぎきれずダメージを受けて後退している。

 

 ――そうか!

 あのガキは感情によって大きく戦闘力が上下する!

 仲間をやられ、自身もまた脅威に晒された事によって理性のタガが外れたのだ!

 

 拳の連撃でベジータの野郎を吹き飛ばしたガキ――悟飯が額に両手を重ね当て、凄まじいエネルギーを集中させた。

 なんというパワーだ……! 先程のベジータの光線がカスみたいに思えるほどの、恐ろしい気だ!!

 

「魔閃光ぉーーーーっ!!」

「うあっ、お、おおおーーッッ!!」

 

 だがベジータの方が一歩上手だった。

 奴は恐怖に濡れた声を発しながらも気弾を放って一瞬光線を押し留めると、素早く飛び上がって避けやがったのだ!

 奴が下り立った時には悟飯の気はガタ落ちしていて、もはや怯えるただのガキに成り果てていた。

 

「はーっ、はーっ! ……こ、このクソガキがぁ……! このベジータ様に恐怖を感じさせただとぉ……!?」

「ひっ、あ、ああ……!」

「やはり地球人との混血は危険だ……ここで消し飛ばしてやる!!」

 

 左腕を突き出したベジータは、言うや否や巨大なエネルギー弾を作り出し、それを悟飯に向けて放った。

 地面を削って迫る光に、あのガキは避ける素振りも見せず無意味に腕を上げるだけで、何もできていない……こ、このままでは!

 

「ごはぁああん!!」

「!!」

 

 ふっと、緑色の影がガキの前へ現れた。

 両腕を広げて庇うように立つのは、ピッコロ――。

 

「うぐっ!」

 

 激しい風と光に腕で顔を庇う。

 それが止んだ時には、既にピッコロは虫の息で倒れていた。

 そして、傍にしゃがんだ悟飯と何事か交わした奴は……死んだ。

 

「ぴ、ピッコロさぁん……」

 

 もはや怒りも嘆きも戦闘力には繋がらないようだ。項垂れた悟飯は戦う意思を捨てちまっている……。

 そ、そんなでは、ベジータのいい的だ!

 

「順番が変わってしまったか。まあいい、カカロットのガキ、今度こそお前の」

「気円斬!!」

「息の――なっ!?」

 

 これまでか、と思った時、あのハゲチビがいつの間にか立ち上がり、鋭い気をベジータに投げた。

 

「あっ……! く、くそぉっ!」

 

 だがそれも、伏せて避けられてしまった。絶望感に身を包まれ……いや、諦めている場合ではない!

 

「ずあっ!」

「! ちぃっ!」

 

 奴が伏せている今がチャンスだ、と光弾を放つも、跳ね上がるようにして避けられてしまった。

 くそ、判断が遅すぎたようだ……! も、もはやこれまでか……!

 

「どいつもこいつもこのベジータ様をコケにしやがって……!」

 

 キッ、と睨まれると、体が硬直してまったく動けなくなってしまった。

 あれだけ啖呵を切ってここに来たってのに、今さら動けなくなるとは……お、俺はやはり弱虫のままなのか……! 何一つ変わっちゃいないのか……!?

 

「死にやがれぇーっ!!」

「っ!」

 

 ドッと空気を爆発させ、ベジータが突っ込んできた。

 真正面からだからこそ見えたそれに、しかし対処の術はない。

 終わった――!

 

 スローな視界の中、やっと持ち上がった腕は迎撃のためでなく、自身を庇うために構えられる。

 宇宙一の強戦士族ともあろうものが、攻撃よりも守りを選んだのだ! 自分で自分に反吐を吐きたくなったが、もはやそれをする時間すらない。

 

 自らの腕で塞がった視界が最期に見る光景になるとは……っ!!

 

 ゴウ、と強い風が俺の体を包み込んだ。

 

 

 

「なっ、貴様どこから!?」

 

 だが、思うような衝撃は襲ってこなかった。

 何者かが俺の前へ立ち、ベジータの攻撃を受け止めていたからだった。

 

「どこって、私のステージからだよ」

 

 ベジータの腕を掴んで止めているのは、な、ナシコ……? ナシコがなぜここに……!? まだフェスとやらの時間は終わっていないはず。それがどうしてここにいるのだ!

 

 俺を一瞥したナシコは、空いている手をベジータの胸に当てた。

 

「うおああ!!?」

 

 勢いなど皆無に等しかったのに、それだけでベジータの野郎は吹っ飛んでいきやがった。こうして改めて目にすると思う。や、やはり凄まじい戦闘力だ、と……!

 だがやはり解せん。どうしてここに……?

 

「ん」

「う!? ……お、おお」

 

 困惑する俺に、奴はいつものように俺へ手の平を向けて気を分け与えてきた。

 少しダメージが抜けてようやく立ち上がれるようになれば、即座にその疑問をぶつける。

 

「お、お前……す、ステージはどうした……!」

「んー……抜けてきちゃった」

「抜けた、だと!?」

 

 思わず痛みも疲労も忘れて奴の顔を見た。

 アイドルである事に強いこだわりを持つお前が"抜けてきた"だと!? 馬鹿なありえん! アイドル馬鹿であることが奴の存在意義のはずなのに!

 

「ぬ……!」

 

 しかし喉まで込みあがった言葉のすべては、ナシコの瞳がいつも以上に濡れているのを見て飲み込んだ。

 

「……アンコールに応えなかったのって初めてかも。ファンのみんなより、ラディッツくんを優先しちゃった」

 

 あれほど括っていたアイドルである自分より、俺を助けに来る事を優先した、か。

 ……情けなくて涙が出そうだぜ。そんな事は、させたくなかった。

 

「ラディッツくんは下がってて。ここに来ちゃったからには、私もきちんと戦うから」

「あ、ああ……お前、その喋り方……」

 

 まだアイドルモードなのか、弱々しい笑みを浮かべたナシコが俺の前に立った。

 だが……俺と修行する時のような強さはまったく感じられない。

 逆に、ただの突風で消し飛んじまいそうな儚さしかなく、俺の背を冷たいものが滑っていった。

 

「お、おのれぇ~! ふざけやがってぇ!!」

「むおっ!? 奴め、フルパワーになってやがる!?」

 

 激昂するベジータが気の光を纏い、今にも光線を放とうと構えている。逆にナシコはその場から動かず、ただ少しだけ腕を広げた。

 これほどのパワーは今まで感じた事がない。それを受け止める気なのか、ナシコは!

 俺を背にしているためか、それとも自分の戦闘力を信じ切っているのか……だが、いくら戦闘力が高くとも、あんなものを真正面から受けてしまえばダメージは免れんはずだ!

 

「こいつで粉々になりやがれ!!」

 

 ろくに気を高めもせず立っているナシコにお構いなしに、フルパワーのベジータが光線を放つ。

 

「な、ナシコォ!」

 

 思わず奴の名を呼んでしまった。迫りくる光に照らされた奴の横顔はあまりにも頼りなく、ただ一人の女でしかないと感じさせられて、そう思った時には覚悟を決めていた。

 先程のナメック星人の焼き直しになるが、俺がナシコの盾になるしかあるまい!

 

「――む!?」

 

 そうして俺が動き出そうとした時、空から降ってきたもう一つの凄まじいエネルギー波がベジータの放つ光線にぶつかって、諸共消滅した。

 

「なっ、なんだとぉ!?」

 

 驚いたのは俺だけではない。自分のフルパワーを打ち消されたベジータも当然驚愕し、今の気の出所を辿って空を見上げた。

 カカロットの野郎が降ってきたのは、それとほぼ同時だった。

 ――そうか、カカロット……願い玉で甦ったんだな!!

 

「貴様、カカロットだな! 何しにきやがった!!」

「…………」

 

 青筋を立てて怒鳴ったベジータは、同時に再び光線を放った。だが、なんという事か、カカロットは事もなげにそれを払い除けてしまったのだ!

 遠方に着弾した光線が爆発を巻き起こし、風が地面を撫ぜていく中、カカロットはそれまでの怒りを露わにした表情をすっと無くすと、纏っていた赤い光も霧散させた。

 

「せ、戦闘力1万6000……どうなってやがるっ……!」

 

 先ほど咄嗟に拾い上げに行ったのだろう、スカウターを装着しながらそう言ったベジータの声にぎょっとしてカカロットを見れば、奴は自分の息子とクリリンとかいうハゲを助け起こしているところだった。

 い、1万6000だと……!? こ、この俺を大きく超えていやがる。カカロットの身に何があったというのだ!?

 

「ヤムチャ……天津飯……餃子……みんなやられちまったんか」

 

 わなわなと震えるベジータをまるでいもしないように扱いながら、カカロットが俺達の方を向く。

 

「おめぇ達……どうやらみんなと一緒に戦ってくれてたみたいだな」

「悟空さん……」

「ん? ……どこかで会った事あったか?」

 

 思わずと言った様子で呟いたナシコは、カカロットの反応に肩を落とした。理由はいまいちわからないが落ち込んでいるらしい。こんな時だってのに、その軽い動きに憤りを覚えて後頭部を叩いてやろうかと思ってしまった。

 

「おめぇ達も、後はオラに任せて下がっててくれ」

「なんだとぅ!? カカロット、貴様まさか、このオレを倒せるだなどとは思っていないだろうな!?」

「さあな。それはやってみなくちゃわからねえさ」

 

 息子とクリリンを離れさせ、ベジータの方へ悠々と歩むカカロットには何か秘策があるように見えた。

 それにしても、い、1万6000か……な、何をどうしたらこの一年で戦闘力400とちょっとからそうなるんだ。

 フルパワーならば8000ほどにまで達するようになって喜んでいた俺が、ば、馬鹿みたいだぜ……!

 

「ん、う」

 

 ……その身に秘める怒りにあてられたのか、ナシコが俺の横まで下がってきた。しょげた横顔は相変わらず弱々しく、やはり戦える人間には見えない。

 もはや手を出せるような雰囲気ではない、と小声で告げられたが……それには俺も同意見だぜ。

 く、悔しいが、加勢しようにもただの足手纏いにしかならないだろう……それはどうしてか回復しているカカロットのガキや、あの地球人も同じことだ。

 

 俺は、場所を変えるために飛んで行った二人のサイヤ人を、ただ見送る事しかできなかった。

 

 

 

 

 戦いの結末は、まさか、カカロットの勝利だった。

 信じられん事に、弟はあのベジータに勝ってみせた。

 

『落ちこぼれだって必死で努力すりゃあ、エリートを超えることもあるかもよ』

 

 そう言って仲間と共に奮闘し、力の限り戦う姿に、オレは……。

 ボロクズになりながらうめくしかなかった。

 

 カカロットが一人で戦うのを見ているだけなどできん、オレも加勢する!!

 ──そうして力及ばずベジータに敗れた……その結果、だったら格好もついたんだが……。

 残念ながらこのオレが頭から地面に突き刺さっていたのは、単にベジータの出したパワーボールを見てしまい大猿になって理性を失い、ナシコの奴にボコられたからにすぎない。

 

 だから実際のところ、カカロットが一体どうやってベジータに勝ったのかは知らない。

 ナシコならば知っているだろうが、「参加しちゃった跳ね返しちゃった触っちゃった」と顔を赤くしたり青くしたりしているのを見るに使い物にならなそうだった。なんの話をしとるんだお前は……。

 

 ……なあおい、ナシコさんよ。

 テンパッているのはわかるが足を掴んで飛んで帰ろうとするな。

 せめて伸びているカカロットに挨拶の一つでもさせてくれ。

 でないとプライドを押しのけて奴を認める気持ちも霧散してしまいそうなんだ。

 

 と、地上で恐る恐るといった様子でこちらを見ている連中……クリリン、カカロットのガキ、知らん剣士、そしてカカロット……いや、カカロットは痛みに眉をしかめながらも、朗らかにこちらに手を振ろうとしていた。

 

 カカロットめ……親父に似おって、と苦手に思いそうになっていたが、やはりとことん甘い奴のようだ。

 あれほどの強さを持ちながら能天気な姿には腹が立つ。

 だが……なぜだろうな。それでも、奴を……見て、この胸の内に湧く嬉しさや、悔しさ……親父に抱いていたのにも似た感情を、悪いものとは思えなかった。

 

 ……荷物のように運ばれる姿での別れでなければ本当によかったんだがな!!




話の顛末が書かれていなかったので少し加筆しています。

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