TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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2024/04/13
ろくに会話もせず悟空が面々を受け入れているのが違和感凄かったので加筆しました


フリーザ編
第十七話 いざ、ナメック星へ!


 どうしよう、最近ウィローちゃんに冷たい目で見られるの、癖になってきちゃったかもしんない。

 きらきら輝いて、いかにも純粋そうな目で呆れたように見られると、なんかわかんないけど背中がぞくぞくってするんだよね。

 ……危ない扉を開きそうだ。

 

「なんの話だ……」

 

 おっと。急いで家に戻って旅行鞄を取ってきて、その足でラディッツとターレスを回収して話し合いの場を設けたは良いものの、思考が駄々漏れだったせいでラディッツにまで呆れた眼差しを送られてしまった。ターレスの方はー……表情は変わってない。ふっ、どうやら彼は俺の理解者のようだ。

 

「ラディッツ、ナメック星行くよ!」

「は? ……わかった」

 

 一瞬呆けた顔をしたラディッツは、しかしすぐに良いお返事をした。うん、やっぱり事前に話はしてたみたいだ。ちょっと記憶に自信がなかったが、ラディッツがすぐに頷いたって事はそうだろう。グッジョブ俺。

 

「ナメック星? 惑星の侵略でもするのか」

「いや、そんな物騒な事はしないよ」

 

 ターレスが疑問を投げかけてくるのに首を振る。

 そうだそうだ、ラディッツに説明していてもターレスにはまだだった。

 目的やら何やらを纏めて話さなければ。ええと、何から言えばいいんだろう。

 

「ナメック星ってのは、ドラゴンボールを作ったナメック星人の母星で、あ、ドラゴンボールっていうのは七つ揃えればなんでも願いが叶えられる不思議な玉でね」

「ほう?」

 

 ドラゴンボールの説明も必要か、と一言加えると、ターレスが興味を示した。誰でも気になるか。

 それはこの地球にもあったが、前にサイヤ人の生き残りが来た時にこの星のナメック星人がやられてしまって、連動してドラゴンボールが使えなくなったこと、死んだ者を復活させるためにナメック星に行く事を話した。

 

「なぜオレ達まで連れて行く?」

「それは、まあ……フリーザ様倒しに行こうぜ、みたいな?」

「……? どういう意味だ」

 

 腕を組んで怪訝な顔をする彼に、なんて言ったものかなぁと考えを巡らせる。

 ええと、ナメック星にフリーザ様がいるのを違和感なく伝えるためには……そうだ、悟空さんが出発する事になった理由が使えそうだ。

 

「先にナメック星に向かった仲間(・・)から連絡がきて、どうやらそこに願いを叶えようと目論むフリーザ様とその軍団が現れたらしいんだ」

「そうか……ようやく読めたぜ。なぜお前がオレを手下に加えたのか、なぜ生き残りのサイヤ人がお前と共にいるのか」

 

 オレ達サイヤ人を集めて、フリーザの野郎をぶっ倒そうって算段だった訳だ。

 獰猛な笑みを浮かべたターレスがそう言った。

 ……いや、ラディッツは雑用してくれる人が欲しかったから引き入れただけで、君はなんとなく仲間にしただけなんだけど……そう思って協力的になってくれるならいいか。実際ナメック星に行くって事はフリーザ様とぶつかるって事だし、間違ってはいない。

 

 まあ、彼ら、主にラディッツを連れて行く本当の理由は最長老様に潜在能力を解放してもらってお手軽パワーアップをしようと思ったからなんだけども。

 

「待て待て! フリーザだと? 貴様勝算はあるのか!」

「んー、まあ」

 

 拳を握りしめて焦ったように言うラディッツに言葉を濁す。

 正直勝てないよな。ウィローちゃんに計ってもらった俺の戦闘力って138万だったし……神精樹の実食べたからもうちょっと上がってるかもしれないけど、それでもフリーザ第三形態に勝てるかも怪しい。

 

 せめて俺が界王拳使えたら良い勝負ができたかもしれないが、あいにく俺は死ねないので界王様に会いに行く機会がなく、習得できていない。

 悟空さんに習おうにも彼は今日まで入院してたわけだし。そもそも彼に修行をつけてもらおうなんて畏れ多くて無理だ。

 

 俺の潜在能力が解放されたとして、6000万とか1億2千万とかいくとは思えない。

 しかしだからといって行かないという選択肢はない。

 せめてみんなを蘇らせるお手伝いくらいはしたいって思ったんだ。

 俺が何もしなくてもそうなるのはわかってるけど、なんにもしないで待ってるなんてのは我慢ならない。

 

 迷惑とかは考えない。やりたい事をやらせてもらおう。

 大丈夫、やるからには、原作よりもっともっと良い結果にしてみせるからね。

 

「そういう話なら手を貸すぜ。元々オレの狙いはフリーザの首だ。それがちょっと早まっただけになる」

「チッ、貴様フリーザの恐ろしさを知らんのか……」

「知ってるさ。だから神精樹によって力を蓄えていた。もっとも、今回はその女に邪魔されたがな」

「なんだと……? まさか。街を滅茶苦茶にしたのは貴様か!?」

 

 あー、都壊滅の元凶を知ったラディッツが憤っている。気持ちはわかるけど、今は急がなくちゃいけない時だ。喧嘩されるのは困る。

 

「落ち着いてラディッツ。そういうのは宇宙船に入ってからやって」

 

 ブリーフ博士から連絡がきてから、すでに結構時間が経ってしまっている。一刻もはやく出発したがってるだろう悟空さんに現在進行形で迷惑をかけちゃってるのだ、俺達は。

 ていうか、彼の出発が遅れると原作より悪い結果になってしまうかもしれない。俺のせいで!

 

「しかしナシコよ、お前に怒りはないのか! こいつがお前の友や勤め先に被害を」

「怒ったけど! 悟空さんがこてんぱんにしてくれたからもういいの!」

「なに、カカロットが?」

 

 ラディッツの腕を取ってぐいと引っ張ると、そう問いかけられたのでもうとっちめてあると伝える。それで罪がちゃらになる事はないだろうけど、弟が事態を収束させたと知ったラディッツが、そのやられた当人を見れば、ターレスは面白くなさそうな顔をしていた。

 

「ナメック星に行くには悟空さんと一緒の宇宙船に乗る事になってるから、言いたい事があるならそこで! はやく行こう!」

「わ、わかった! わかったから引っ張るな、腕が千切れるだろう!」

 

 千切らないよ。ちょっと抱き付いて引っ張ってるだけなんだから。

 

 

 

 

 

 

 カプセルコーポレーションへやって来た。

 建物は半壊しているが、敷地内には草木が生い茂り、瓦礫などは見当たらない。撤去作業は既に終わっているのだろう。黒猫が寛いでいるあたり、かなり平和な雰囲気だった。

 庭に巨大な白黒の球体が設置されていた。あれが悟空さんが乗っている宇宙船だろう。

 

「すみません、お待たせしました!」

「おお、ナシコちゃん」

 

 その足下に待っていたブリーフ博士とその奥様の前に駆けつければ、博士はいつも通りの表情で挨拶してきたので会釈を返す。奥様が飲み物を勧めてきたので、受け取ってそのままラディッツに渡した。飲んでる暇はないけど受け取らざるを得なかったので……でも飲まないのは失礼だから、代わりに飲んでもらおうと思って。この動きも大概失礼だとは思うけど。

 

「いつでも出発できるよ。おおい、悟空君、同乗者が来たぞー」

「ああー! はやく乗ってきてくれー!」

 

 ブリーフ博士が開けっ放しの扉に向かって叫べば、すぐに声が返ってきた。言われた通り急いで乗る事にしようとして……博士と奥様が揃って俺の後ろに視線を送っているのに気が付いた。

 ターレスの顔が悟空さんにそっくりだから見てるんだろうけど、これは説明しなくてもいいか。さっさと乗り込もう。

 

「うおっと」

「わ」

「ああ、すみません。失礼します」

 

 入り口に足をかけたところで、中からウーロンとプーアルが出てきた。船内の方を見ていたので危うくぶつかりそうになり、素早く謝りつつ船内へ入り込む。

 

 中は広くて全体的に白く、中央に一本柱が立っていて、その根元に管理コンピュータや複数の椅子があった。俺達が一緒に行くと聞いてブリーフ博士が増設してくれたのだろう。

 ジョッキに口をつけていた悟空さんは、入ってきた俺を見ると「誰だ?」って顔をした。……なんで同行者にいきなり致命傷与えるのかなあこの人は。

 しかし、柔和な顔は直後に険しく歪められた。

 

「おめぇはターレス!」

「ようカカロット。さっきぶりだな」

 

 カン、カンと音を立てて乗り込んできたターレスが俺の横に立ち、偉そうに腕を組む。悟空さんは警戒を露わに戦闘態勢に入ってしまった。

 どうしよう、なんて言って矛を収めて貰おうか。

 

 

「おめぇはオラがぶっ倒したはずだ」

 

「ところが、そこの女に拾われ、手下にされてな。ここに連れてこられたのだ」

 

「どういう事だ」

 

「今のところお前と争う気はないって事さ。フリーザを倒しに行くんだろう? 目的は同じだ。なら、ここは一つ手を組もうじゃないか」

 

「おめぇは許さねぇと言ったはずだ!」

 

「おいおい、そう邪険にするなよ。オレ達は生き残ったサイヤ人の僅かな仲間、仲良くしようや」

 

「言ったろ、オラは地球育ちだ!」

 

 

 あわわ。

 なぜかは知らないがターレスは悟空さんに友好的に接しようとしてくれているみたいだけど、肝心の悟空さんの気が治まらない。今にも殴りかかってきそうだ。

 

「おい、時間が押してるんじゃないのか?」

「む……おめぇは……」

 

 と、ここでラディッツがのっそりとやってきて出発を促した事で、悟空さんの気が逸れたらしい。そうだった、こんな話をしてる場合じゃねえと俺達に背を向け、一番前の席に座り込んで機械に触り始めた。

 

 エンジンが始動したのか、全体が振動しだすのに僅かに体勢を崩してターレスの腕を掴んでしまった。

 む、根付いてるみたいにがっしりしてて全然動じてない。それはラディッツも同じようで、つまり驚いて転びそうになったのは俺だけ……。

 

「おめぇ達がついてくるのはわかった。けど余計な事したら――」

 

 機械に手を這わしたままこっちを振り向いて何事か言おうとした悟空さんは、ポチッとボタンを押した事によって宇宙船が発射した影響で「いいー!?」と言葉の続きを不思議な声に変えた。

 この急激なGにさすがのターレスも体勢を崩し、それに体重を預けたままだった俺は手を滑らせ、ずべしゃっと床に顔を打ち付ける羽目になった。凄く痛い。泣きそう。

 

 宇宙船はあっという間に地球外に出たのか船内が暗くなり、ぱ、ぱぱっと自動で照明がついて船内は夜の明るさになった。

 

「ふわー、びっくりしたぁ! それで、えーと……」

「あの!」

 

 ようやく余韻が消えたので鼻の頭を押さえつつ立ち上がり、勇気を振り絞って声を出す。

 ──と、悟空さんの視線がこっちに向いて、心臓が跳ね上がった。

 うわああ、緊張する……! でも説明しなきゃ……ご挨拶しなきゃ……!

 

「ぁあのっ、わた、私たち……」

 

「……」

 

「わた、わたし……ぇと、」

 

 睨むような眼差しに気後れして、彼を不安にするような真似をしている現状にひどい罪悪感を抱いて、血の気が引いていく。

 言葉にならない何かを必死に絞り出そうとしていたけど、ついには立ち眩みもして崩れ落ちそうになったところをラディッツに支えられた。

 

「もういい、オレが話す。おい、カカロットよ。オレ達には目的があり、お前と同乗させてもらうよう博士に取り次いだんだ」

「……察するに、その目的はオラじゃなさそうだ……。うん、やっぱりそうだ、おめぇからは悪い気をまったく感じねぇ……それにそっちの奴も、とびきり善の気を持ってる……」

 

 何より、とんでもなく強そうだ……。

 

 なにごとか呟く悟空さんが微かに震えて*1見えるのは、体の不調が見せる錯覚だろうか。

 

「ああ。少なくともオレやこいつがお前に危害を加える事はないと約束する。それと……チッ、戦闘民族サイヤ人にあるまじき言葉ではあるが……すまなかった、カカロット」

 

「……あの時のことだな? 悟飯をさらったのは確かに許せねぇけど、決着はついた。それにこないだはクリリンたちを手伝ってくれたみたいだし、その謝罪は受け取っとく」

 

「……驚いたな……お前、まるきり大人じゃないか……しっかりした大人に成長したんだな……!」

 

「お、おう?」

 

「お前の息子達に手を貸したのもこちらの勝手な事情だ、気にする必要はない。ただ、今回の旅に同行させて貰う事を許してほしい」

 

「……礼儀正しいんだな……なんかオラのイメージとちがうな……」

 

「それはお互い様だ」

 

 

 ううん、気のせいか、説明とか丸投げしたラディッツが悟空さんと談笑している気がする……うらやましい……。

 

「そいで、これがわからねぇんだけどよ……おめぇはなんでいるんだ?」

 

「賭けの結果さ。こちらのお嬢さんに『カカロットが勝ったら仲間になれ』と喧嘩を売られてな……結果は御覧の通りだ」

 

「そうか……。……オラまだおめぇの事は許しちゃいねえって言いたかったんだけど……それなら、オラは目をつぶることにする。それよかとっとと修行しなくっちゃな……頼むから悪さだけはしねぇでくれよ」

 

「そいつはお嬢様次第さ」

 

「なら安心だ。たぶんだけど、そいつはオラの思ってるより数段は強そうだしな……」

 

 ……。

 

 ……あ、お話終わった? もうだいじょぶそ? 深呼吸していい?

 すーはー、すーはー、ふー。吐きそう。動悸が止まんない。すごいやばい感じ。

 

 

 話の成り行きは正直まったくぜんぜんわかんないんだけど、ラディッツがしっかり説明してくれたのか、はたまた悟空さんは修行を優先したいのか、俺達の横の広いスペースへと移動すると、柔軟体操を始めた。……こっちを気にする素振りが全然ない。

 

「それで? ナシコさんとやらよ、オレはどうすればいい」

「え? ああ、うーん……とりあえず俺達もなんか、こう、てきとーになんかしようか」

「……」

 

 いきなり話を振られたのでなんとか返事をすれば、凄い見下すような顔をされた。うわー凄い、「こいつ何も考えてないんだな」って思ってるのが手に取るようにわかる!

 

「おい貴様、ターレスと言ったな。その女にまともさを期待しない方が良いぞ」

「ちょっ、何言ってんのお前!」

「そのようだ。オレはオレで好きにやらせてもらうさ」

 

 ああもう、ラディッツが変な事を言うから、ターレス勝手に歩いてっちゃったじゃん!

 こういう時は俺がびしっと言ってやんなきゃ、ちゃんと仲間になれないかもしんないのに、もー!

 

「おーい、今から重力を……とりあえず10倍くらいにすっから、気を付けてくれー」

「あっ、あ、ひゃい!」

 

 壁際に寄って天井を見上げたりしているターレスの背を目で追っていれば、急に悟空さんが声をかけて来た。俺に対してではなく全体に向けての発言なんだろうけど、心臓が跳ね上がるくらいびくっとしてしまった。

 

 ずん、と体全体に負荷がかかる。服や靴がきゅっと締まるような感覚。

 でもサイヤ人の母星である惑星ベジータと同じ重力ならば、俺達にはなんともない。

 俺達の様子を見て、「じゃ、もう少しあげっぞ」と悟空さんが言った直後に同じような感覚がやってきて、隣に立っていたラディッツが「ぐっ」と呻いて僅かに膝を折った。

 

「に、二十倍でも結構きちーな! くっ……こりゃ、徹底的に鍛え直さねぇとベジータっちゅー奴を越えるのは難しいだろーな……!」

 

 ズッシズッシと歩いてきて、その場に倒れ込むようにして腕立てを始めた悟空さんから視線を外し、隣で重力に抗っているラディッツを見る。

 

「だってさ」

「ぐくっ、わ、わかっている! 俺もやればいいんだろうやれば!」

 

 ターレスや俺がケロッとしているのはわかっているのだろう、歯を食いしばりながら悔しげに答えたラディッツは、俺が促すより早く自主的に体を動かし始めた。

 くそー、越えてやる、ベジータなんぞ越えてやるぞ、なんて呟いたりしてる。あはは、健気だ。

 何かしてやりたくなったので、どれ、俺が修行を手伝ってやろう、と背中に乗ったら潰れてしまった。うーん、駄目か。

 

「こ、殺す気か貴様……!」

「……もう少し頑張りましょう」

 

 まるで俺が重すぎるから潰れたのだ、みたいな雰囲気を発していたので、手伝うのはやめにする事にした。

 いいよ、俺はターレスと話して親睦を深めてくるから、一人でやってろ。

 

 

 

 

 

 

「ところでよ、さっきの……フリなんとかっちゅうんはどういう奴なんだ?」

「へっ!? え、う」

 

 宇宙に出てから数時間。ターレスに俺のこれまでの地球でのアイ活(アイドル活動)と地球の良さを語って聞かせていれば、20倍の重力に慣れてきたのか、腕や肩を回しながら悟空さんが近付いてきた。

 途端にガチガチに固まってしまう俺の体。ああー、やばい、緊張する!

 

 以前にも増して大人になった孫悟空さんは凛々しさや格好良さが天元突破している。なのに表情から優しい気質が溢れだしているから、ああー、拝みたい。拝み倒したい。ファンなんです、サインください!

 

 そんな事したら引かれ……はしないだろうけど、いやされるかもしんないけど、どっちにせよ醜態は見せたくないしがっつきたくもないので何もしない。……何もできない、が正しい。動け、動けってんだよこのぽんこつ! どうかアンドロイドじゃないってのを見せてやりたい。

 ……駄目だー、頭のなかぐちゃぐちゃでどうにもなんない。

 

 ていうかこれから数日間はこの宇宙船で悟空さんと一つ屋根の下かー……、はぁー……昔夢見てた、四六時中粘着する、が今叶ってるんだな。

 幸せすぎて窒息するかもしれない。

 

「なあ、大丈夫かおめぇ」

「ひっ!? あひぇっ、わたっ、あ、はぃっ、へうぅ」

 

 ああああ!

 ちょっと思考に耽ってたら、悟空さんの顔がすぐ近くに!

 

 無理無理、駄目だしんどい耐えられない。憧れの人なんだよ英雄なんだよ、格好良いんだよ、まともに目を合わせる事もできないよ!

 冷や汗だらだらで手の内もびっしょりだ。必死に目を逸らしつつ、それでも彼は俺に話しかけてるんだからとなんとか返事をした。全然ダメダメだったけど!

 

 幸い悟空さんはコミュ障を相手にしても嫌な顔一つしないでいてくれる人種なので俺の心に追加ダメージは無かったが、近くにいられるとそのご威光に身を焼かれて継続ダメージが与えられてしまうのだ! だからもう逃げていいかな!?

 

「変な奴だなー」

 

 あ……へんなやつ認定された。

 しにたい。

 

「けど、どうやらすげぇ奴みたいだな。20倍の重力にびくともしやしねぇ……なあ、ちょっとオラに付き合ってくんねぇか?」

「え、つっ、つつ、つきあう、ですか!? うぇ、その、アイドルはそっ……の、」

「?」

 

 付き合う。それはあの、恋愛というやつ。ではなくて。修行にって意味なんだろうけど。

 話す声が涙声になっちゃってるの、自分でもよくわかるくらいで、勝手にがくがく震える足をなんとか留めようとスカートの布を握り締めていれば、「いや、やっぱいいや。オラ、基礎から鍛え直そうって思ったばかりだったかんなぁ」と急に提案を取り下げられた。それから、一歩離れられた。

 距離が開いて少しだけ緊張が緩和され、ほっとしたのも束の間。……ひょっとして今の、気を遣われた?

 ……悟空さんに気を遣わせるくらい俺の口下手って酷いの?

 

「フリーザは、オレ達サイヤ人の母星を破壊した宇宙の帝王さ」

 

 俺を見かねた訳ではないんだろうけど、ターレスが代わりに悟空さんに話しかけた。

 

「母星を……すっげぇ悪いヤツなんだな。強ぇんか?」

「ああそうだ。オレ達が徒党を組もうが敵うかはわからない、まったく忌々しいお方だ」

「おめぇがそこまで言う奴か……どうやら、向こうは相当大変な状況みたいだな。クリリン達、無事でいてくれよ……!」

 

 両拳を握り締めて汗を流す悟空さんに、俺も気を引き締めて、頑張って緊張を抑え込んだ。

 みんなを蘇らせるため、みんなの手伝いをするためにここに来たんだ。悟空さんとまともに話せないようじゃ何もできない。

 頑張って話せるようにならないと!

 

 

 

 ……数日経っても無理でした。

 

 

 

 

 

 

「あーもう、あーもう、あーもう!」

 

 バスルームにて、贅沢に風呂を泡立たせ、ジャージャーとシャワーを垂れ流しつつ乱暴に頭を洗っていた俺は、苛立ち紛れに体を洗うのに移行して、胸の合間に手を滑らせた。駄肉が柔らかく形を変えるのに苛立ちが加速する。

 

「悟空さんに失望された、悟空さんに失望された、悟空さんに……! ああ~~もう! なんで! 女子力! 磨かなかったの!!!」

 

 ボディソープまみれの手で体中を擦りながら叫べば、割と広めの浴室にうわんうわんと反響した。

 この、馬鹿みたいに胸だけでかい超絶美少女アイドルが何をしたのかと言うと、よりにもよって悟空さんを落胆させてしまったのだ!

 

 この宇宙船に積まれているたんまりの食糧。

 男ばかり詰め込まれた宇宙船にいる紅一点。

 

 この二つの要素を並べれば、誰しも答えに辿り着くだろう。

 悟空さんが

 

『オラ料理なんかできねぇからさ、おめぇがいてくれて助かったぞ! いや~メシん時が楽しみだ!』

 

 って言ってくれた数日前。

 いやいや、一人に負担をかけるのはよくないので料理係はローテ―ションしましょ! と、拙い口調でなんとか説得してその場を逃れた俺は、問題を先送りにするだけの大馬鹿者だった。

 

 一日目のラディッツは案の定料理なんかできない野生人で、「なんだよ兄ちゃん飯作れねえのか」と頬杖つきながら言った悟空さんが「ならお前がやってみろ」とコック帽(なぜかあった)を押し付けられて二日目の料理人に選ばれたものの案の定で、「やっぱオラには無理だ。頼むよ~もうオラ腹ペコなんだ。えーと……なんて名前だったかなおめぇ」と帽子が俺にパスされたのがいまさっき、つまりは引き続き二日目の夜。

 

 数度目の致命傷を受けてふらふらになりつつも台所に辿り着き(まさか名前を知られてないとは思わなかった。ナシコです、とちゃんと自己紹介できた俺、偉い。死後は天国に行けるだろう)、腕によりをかけて出した渾身の男料理。

 

「おめぇ女なのに料理できねぇんか……」

 

 うきうきした表情で食卓についた悟空さんが一口食べた後に言った台詞がこれである。

 不肖ナシコ、恥ずかしながらガチ泣きしてしまいました。『うわああん!』みたいなのじゃなくて『えぐっ、ひっ、ぃい、っ、っぇ』みたいなの。

 申し訳なくて情けなくてどうしようもなかったんです。ほんともう、あの、駄目で。

 

 でも、俺の作った自分でもクソ不味いなと思える料理を悟空さんは完食してくれたので彼は神。実際後に超サイヤ人ゴッドになるし、今の内に崇めておこうと思って跪いたら「なんか、やだおめえ」って言われてしまった。生きててごめんなさい。

 

「黙ってればクールな美人に見えるんだ、それならカカロットのやつも気味悪がったりせんだろう」

 

 とアドバイスだか悪口なんだかよくわからない事を囁いてくれたラディッツには肩パンをプレゼントした。俺が美少女なのはズノー様じゃなくたってみんな知ってるよ! でも悟空さんには美しいも醜いも関係ないじゃん!

 

 逃げ出すようにお風呂に入って、黙々と頭洗ってたら悲しみがぶり返してきて、泣きそうになるのを治めるために声に出して感情を発散させ……。

 そして、今に至る。

 

「失敗した失敗した失敗した……っぷぅ。うぇ、洗剤口の中に入ったぁ……」

 

 後悔に溺れていれば泡が口内に侵入してきてしまった。ごしごし口元を拭うと余計に苦い。顔をしかめつつ一度湯船に沈み込んで、あふれるお湯に溜め息を零す。

 

 まあ、俺の嘆きはぶっちゃけどうでもいいんだ。

 肝心なのは、ターレスと俺が、ひいては悟空さんが仲良くなれるか、なのだから。

 あと、ちゃんと修行して強くなれるのかどうか、も。

 

 この二日、悟空さんは基礎訓練が終わると、戦闘力の近いラディッツと組み手を始めた――どういう流れでそうなったのかはわからなかったが、気が付けばやってた――ので、観察する事にした。

 兄らしく強者らしく振る舞っていたラディッツが珍しく格好良く見えたので応援してみたんだけど、界王拳を使われてあっさりやられたのでがっかり。やはりラディッツはラディッツだ。うーん、安心感あるな。あとでからかいついでに慰めてやろう。

 

 俺やターレスとも組手を求める悟空さんにまごついているうちにターレスが乗って戦い始め、数十倍の重力下で激しくぶつかり合った。

 そんな光景がこの宇宙船の日常になっている。二日繰り返しているのだから、同じ顔が殴り合っているのはもう見慣れてしまった。

 

 

 えらく素直に従うし大人しいターレスだけど、こうして俺の言う事を聞いてくれる理由がぼんやりと見えてきた。俺の強大な……自分でいうのもなんかあれだけど、強いパワーを感知しているのと、同じサイヤ人と共にいられるのと、ついでに悟空さんとやり合えるからみたい。

 地球で、格下だと思っていた悟空さんに不思議な技で負けたのがよっぽど悔しかったのだろう。嬉々として組み手をする姿は、あんまり悪い奴には見えなかった。

 

 そうして戦い合ううちに気を許したのだろう、いつしか悟空さんはラディッツを「兄ちゃん」と呼び、ターレスともわだかまりなく接しているようだった。かなりさっぱりとした人だからこそこうなったのだろう。俺だったらこうはいかないだろうな。

 

 ちなみに俺はといえば、つい先ほどの夕食の時間まで悟空さんが名前さえ知らなかったのを考慮してくれればどういう関係かはすぐわかるだろう。

 まことに残念な事に、ほぼ他人だ。

 

 それは俺が女で彼が男だから、とか、そういう理由ではもちろんない。

 単に俺が中々彼に近付けていないだけである。むしろ避けてしまっている。

 

 どうしても、どーしても駄目なのだ。

 悟空さんを前にすると頭の中が真っ白になって、自分が何を喋ろうとしていたのかを忘れてしまう上に、些細な事に恐怖や羞恥心を覚えて過剰に反応してしまう。

 そんな情けない姿は見られたくないし、見て欲しくない。万が一にも否定的な事を言われたらと思うと怖くてたまらなくなる。

 

 今日も今日とて彼と一言も会話せずに就寝時間となった。

 悟空さんはもう少し修行を続けるらしく、一人操縦室に残って体を動かしていた。

 

 その下の階が居住区というか、寝床だ。

 

「ラディッツどうしよー、悟空さんとお話しできないよ……」

「……の、ようだな」

 

 ポニーテイルに纏めた髪になんとなく触れてしっとりとした感覚を楽しみつつ、ラディッツに泣きつく。

 布団をかぶって寝ようとしていたラディッツは、最初背中をこちらに向けていたものの、ごろんと俺の方を向いてそう答えてくれた。

 ちなみに寝床は布団四枚が四角く隙間なくくっつけられているので、結構距離が近い。電気を消していても顔が見えるくらいだ。

 

「どうやったって無理だ。諦めろ」

「そんな事言わないでよー。ね、ね、おねがぁい、何か良い方法考えて?」

「そう、言われてもな。……性格を治せとしか言えん」

「……そんな事言わないでよー。ねぇー、おねがぁい」

 

 無理な事を言うラディッツにちょっとイラッとしたので、さっきと同じ口調と声音で話しかけたら露骨に顔を顰められた。何か案を言うまで永遠に同じ言葉を繰り返す気だな? だって。

 うん、そのつもりです。

 

「はぁ……。なんだ、その……」

「なになに?」

「……要は話ができればいいんだろう。姿が見えない位置から話しかければいいんじゃないか」

 

 お、案外真面目に考えて答えてくれたみたい。その案はたしかに良いけど、失礼じゃないかな? 姿を見せずに話しかけるなんて。なんか俺が偉そうに見えるからやだな。

 と言う訳でその案はボツ!

 

「はぁぁぁ……なら……アイドルモードにでもなれ。他は知らん、寝る」

「待って、待って! そう簡単にアイドルモードになれる訳ないじゃん!」

 

 深い深い溜め息を吐いたラディッツが投げやりに言うのに、慌てて手を振って否定する。

 たしかにアイドルの俺なら緊張も何もなく悟空さんに話しかけられるだろうけど、任意でできたら苦労はしない。

 だってあれは、ステージ衣装を着たりライブ前のちょっと興奮した状態でないとスイッチが入らないものなのだ。なろうと思ってなれるもんじゃない。

 

 そう訴えたかったのだが、すでにラディッツは俺に背を向けて寝に入ってしまっている。これ以上の安眠妨害は流石にかわいそうだ。

 だから無い知恵絞って自分でも考えてみたんだけど、なーんにも思いつかないんだなこれが。

 

 なので、ラディッツの言った通りアイドルモードになるしかないかなと思って、やってみる事にした。

 今がライブ前だと思い込もうとしてみたり、形から入るべきか、と髪型をサイドポニーに直してみたり、そういう言葉遣いを小声でしてみたり。

 

「あ、あ。……んっ」

 

 試行錯誤すること数十分、なんとなく胸のエンジンに火が付き始めた気がした。

 ざわざわと騒めく胸。若々しくときめいて、世界が明るくなったように錯覚するこの感覚は、スイッチの入った証。

 ……なんだ、任意でなんて絶対無理って思いこんでたけど、できちゃったみたい!

 

「そうと決まればさっそく……!」

 

 ぱっと立ちあがり、その勢いのまま操縦室へと突貫する。

 身近に感じてた彼とお話する機会、逃す訳にはいかないよっ!

*1
武者震い




TIPS
・ナシコの体重
平均よりちょっと(※1)重い
プロフィールにはほんの少しだけ(※2)サバを読んで書いている

・※1
この場合の「ちょっと」とは地球と惑星ベジータの重力差ほどを表す

・※2
この場合の「少しだけ」とはメカフリーザの前に現れた謎のイケメンが戦闘力を抑えていた時くらいのふり幅を指す

・胸囲
平均よりちょっと大きい
プロフィールにはほんの少しだけ逆サバを読んで書いている

・アイドルモード
この状態になると興奮状態になってちょっと(※1)積極性が増すんだ

・悟空
ナシコは「こっちの事を気にしてない」「さっぱりしてるからだろう」と推測したが
全然そんな事はなくバリバリ警戒しているしめちゃくちゃ険悪な雰囲気だった
時間もないし、ブリーフ博士が招いた女性に付き従っているようにも見えたから、ひとまず事情を推察するのを後回しにしただけ

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