TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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第二十八話 無意味な覚醒

「──……ぐくっ、く……!!」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

「く、ぐうう……!」

 

 首を絞めつけるものをどうにもできないまま、ぴくんぴくんと体が揺れる。

 手も足も全然動かせない。あえぐ事すらできなくて、意識を繋ぐので精いっぱい。

 力の抜けた体じゃなんにも感じられないから、ベジータの声もずっと遠くに聞こえた。

 

「ぐ、……く……!!」

「どうしたベジータ。撃たんのか?」

「うっ……おおお!! うるさい!! この……!!!」

 

 ベジータが突き出した手の前で輝く光弾が視界を染め上げて、でも、気のせいか、いつまで経ってもそれが放たれない。

 曖昧な意識じゃどれくらい時間が経っているのかわかんないけど……もう、けっこー、そのままなような……?

 それに、なんだか、だんだん光が弱まっていってる気がする。

 はは、これはいよいよ、私の方がヤバいのかも……。

 

「……!!! なぜだっ……!! なぜ撃てん……!! なぜだぁーっ!!!」

 

 ガシンと拳を握って光弾を消し去ったベジータが、自らの拳に汗を滴らせてうなる。

 ずいぶん遅れて、彼が攻撃を取りやめたのだと──それも、その理由が『私が盾にされているから』なのだとわかった。

 

「ク、フハハハハ! こいつは嗤えるぜ。戦うために生まれたサイヤ人にそんな情があったとはな?」

「こ、こんなはずは……こんな、あ、あのガキの事などどうでもいいはずだ……!!?」

 

 クウラ様が笑うのに合わせて体が上下に揺れる。ほんの微かに尻尾が緩んだ瞬間があって、でも、抜け出せるような隙じゃなかったけど、無意識的にんぐっと酸素を補給できた。

 閻魔様の方までいっちゃってた私の魂が大急ぎで帰ってきてくれて少しずつ視界のもやが晴れていく。

 

 やはりベジータは、攻撃をやめていた。わなわなと震えるのみで、もうその意思もないみたい。

 と、不意に視線が合って、それまで怒りに満ちていたベジータの顔から何もかもが抜け落ちた。

 ぽかーんとした顔。こんな大ピンチな時じゃなければ指差して大笑いしたくなるような間抜けな顔。

 

「っ、っっ、っけう、な、なれるよっ!!」

「!?」

 

 何か言ってやりたくなったので尻尾を引き剥がしにかかりつつ足を暴れさせ、なんとかちょっとだけ気道を確保できたので叫ぶ。それだけで頭の奥が白んで、視界が明滅した。

 うああ、くらくらする……! 絶対酸素足りてないよこれ……!

 

「べじっ、べじーたはなれる! すぱっ、さい、人にっ……!」

「……! 何を喚いていやがる……とっとと抜け出しやがれ!!」

 

 うわっ。人がせっかく元気づけてやろうと思ったのに、なぜか怒りを取り戻したベジータが青筋を浮かべて怒鳴りつけてきた。

 揺れが酷くなる。そのたびに強めに首が締まってうっ、うって意識せず変な声が出た。クウラ様、よっぽどおかしくて笑ってるみたいだ。

 

 ベジータは絶対に超サイヤ人になれる。当たり前だ。なんたってベジータなんだから!

 というかなれるの知ってるしっ! むしろ超サイヤ人じゃないベジータの方が馴染み薄いし!

 目をつぶって力を振り絞る。なんとか酸素を確保して、体中使って発声する。

 すべては彼の覚醒のために──!

 

「ベジ──」

「だまれぇーっっ!!」

「っ……! だまらない! ベジータは──」

「だまれだまれだまれーーっっ!!!」

 

 っ!

 あ、あ、こ、こいつ~~!!

 このナシコちゃんが、死にそうになってるのに応援しようとして、が、頑張ってるのに……この野郎~~~~!!

 もう怒った!! いいよ、ベジータには期待しない。超サイヤ人も必要ない。自力でなんとかするから!!

 

「サイヤ人の誇りを見せてみろ! どしたぁ! おめぇの力はその程度か!!」

 

 それはそれとして、抵抗ついでにベジータをおちょくる。

 大声出すと力入るからってのもあるけど、単純に、ベジータにキレたのだ。

 もう許さねぇ。徹底的にプライド蹴りつけてやる!

 そんでもってクウラ様も私が倒しちゃって、マウント取りまくってやる……!!

 

「……!! ……ッ!!」

「おめぇはサイヤ人の誇り高き王子だもんなぁ!」

 

 歯が砕けそうなほどに噛み合わせて超振動するベジータが、怒気とも何ともつかない声らしきものを発するのに、効いてる効いてると気分を良くする。

 続けててきとうに何か言おうとして、ドッと視界が揺れるのに空気が漏れた。

 

「が、あっ……!!」

「やかましいガキだ」

 

 脇腹を殴られたみたいだ。ノーガードなせいで衝撃が半端なくて、一瞬圧迫された中身が破裂しちゃったんじゃないかってくらいの痛みに、体が石みたいに硬直した。

 ベジータが目を見開くのが潤んだ視界に見えた。激痛に耐えるために目を閉じたからそれ以上はなんにも見えなかったけど、なんかベジータまで殴られたような顔してた。

 

「うおおおおお!!」

「はぁああああ!!」

「……死にぞこないの猿どもか」

 

 と、慣れ親しんだ二つの気が飛び掛かってくるのに気付いた。

 目を開けようとしてぶん回されるのに身を固くする。

 あだっ、あだだっ、なんかぶつかってる!!

 

「ナシコを、放せぇ!」

「はぁっ、はぁっ、クソが……!!」

 

 揺れが収まったのでちょいと薄目をすれば、やっぱりラディッツとターレスだった。

 二人とも片膝をついて肩で息をしている。でも怪我らしい怪我はなくなってて、仙豆で復活したのだとわかった。

 当然瀕死復活によるパワーアップもしてるみたいだけど、超化もできないんじゃクウラ様には届きっこない。

 でも、あれ、あれだな。これなんか、あれ。

 囚われのお姫様みたいだね。

 

「うげっ!」

 

 とか考えてたらもう一発殴られた。

 知覚できたからなんとか気で強化してダメージ軽減できたものの、痛いのに変わりはない。

 クウラ様が容赦なさすぎて泣けてくる……!

 

「あう、あうう……!!」

「──!」

 

 知らず、お腹が跳ねるのにつられて体が動いてしまう。 

 痛いのが飽和しすぎて頭おかしくなりそう……! 足を擦り合わせて痛いの誤魔化そうとしても全然和らがないし……!!

 

「ぎっ!」

 

 ふと、爆発的な気の高まりに動きを止める。

 ラディッツが、黄金の気を噴き上がらせていた。

 それは隣で力んでいるターレスも同じで、まるで二人ともが揃って超サイヤ人に覚醒したみたい。

 

「だぁあ!!」

 

 でも違った。二人とも金髪にはなってないし、白目まで剥いて、膨れ上がった力に振り回されるようにして突進してきた。

 その姿には見覚えがあった。

 あれは……たぶん、悟空さんが、スラッグの映画でなっていた……!

 

「ふん」

「!?」

「な、お……!!」

 

 二人の拳を、クウラ様は両手のそれぞれでがっしりと受け止めてしまった。

 強大な気のぶつかり合いの影響で足元が削れて沈下し始め、視界がどんどん下がっていく。

 ていうか、私、三人に挟まれてるせいでめっちゃ髪とか服とか荒ぶってるんだけど……!

 

 力比べなどするつもりも……いや、する必要もなかったのだろう。クウラ様は、グシャリと二人の拳を潰してしまった。

 

「ぐあああ!!?」

 

 腕を抱え上げて叫ぶラディッツに、膝をついて蹲るターレスに、へたりこんで愕然としているベジータ。

 ベジータは、突然に強くなった二人があっさりやられた事に動揺しているのか、汗まで流している。

 

「ふっ、んっ、んん~~!!」

 

 このままじゃ、二人とも殺されてしまう。

 私がなんとかしなきゃって暴れても、やっぱり尻尾は解けなくて、どころかキュッと締まるのに苦しくなる。

 

「情けないサルヤロウ共だ。オレに対抗できたのは地球人だけ、それもまだほんの子供とはな……」

「ぐ、う、おお……!!」

 

 悶える二人の気はかなり落ちてしまっていて、もはや戦える状態ではなさそうだった。

 つまらなそうに鼻を鳴らしたクウラ様が尻尾を動かして、私と顔を合わせてくる。

 

「きさまとの戦いもこれまでだ」

「っ……」

 

 差し向けられた二本指が私の胸に狙いを定めて、紫の光を発し始める。

 うあ、やばい、やばいやばい!!

 二人の心配をしている場合じゃなかった。私なんか、直接生死を握られていたのだ。とどめなんかいつでも刺せる状態だった……!

 

「さらばだ」

「ぃやっ……!」

 

 なんとか抜け出そうとめちゃくちゃに動こうとして、一言投げかけられただけで硬直してしまった。

 頭の中が恐怖でいっぱいになって、ガチガチになっちゃってなんにもできない。

 

(みんな、ごめん……! 私がちゃんとしてたら、備えることだってできたはずなのに……!!)

 

 後悔なんてしたって、なんにもならない。

 死ぬのが怖いのも、痛いのが嫌なのも、もうどうでもいい。

 

 悔しい……! くやしいんだよ……!

 私達が、こんなところで、終わりだなんて……っ!

 

 目を閉じる。まなじりから溢れた涙が、零れた。

 頬を伝う雫が尻尾を滑って地面に落ちる。

 ぴちょんと、やけにはっきりと水音が聞こえた。

 

 

「クウラァーーッッ!!」

 

 ぶわ、と膨らんだ風に背中を押されたのは、その時だった。

 

「……?」

 

 流れる私の髪の中で顔を上げたクウラ様が、浮き上がり始める。

 円状に削れていた場所から外へ出ると、夜闇が白い光に照らされているのが見えた。

 

「ぐ、う、うおおおお!!」

 

 あいにくクウラ様と向き合う形の私には見えないけれど、そうやって気を高めているのはベジータのようだった。

 ただがむしゃらに白い光を噴出させて、無理矢理にでも超サイヤ人に至ろうとしているみたいで。

 感じる気には、信じられないほどの怒りが内包されていた。

 

「クソッ────────タレがぁあああああ!!!!」

 

 でもそんなんじゃ、いくらやったって、超サイヤ人には至れ……?

 ……クウラ様が目を見開いている。

 夜闇が、金の光に晴らされている。

 

 ああ……まさか。

 

「なんだ、あの変わりようは……まさか」

 

 まさか、ベジータ……。

 

「まさか、貴様……!?」

 

 光が収まっていく。

 でも、この特徴的な、シュインシュインって音に覚えがないはずがない。

 

「こいつは良い気分だぜ……どんどん力が湧いてきやがる」

 

 どうしてかはわからないけど、ベジータは超サイヤ人になれたみたい……。

 忌々し気に顔を歪めたクウラ様によって横へ放り捨てられて地面を転がる。

 かへっけへっと咳込む。喉の奥が鉄の味に満ちてて、いやになる。

 ああ、お腹、痣になっちゃってたらどうしよう……なんて暢気な心配しちゃうのは、安心しちゃったからだろうか。

 

 ザ、ザ……。靴音を鳴らして歩む、伝説の戦士。

 自信に満ちた顔でクウラ様を見据えるベジータに、もう大丈夫なんだって、私達は助かるんだ、って、緩く息を吐き出した。

 

 

 

 

「うおおお!!」

 

 最初に仕掛けたのはクウラ様だった。

 雄叫びを上げ、全開で突っ込んでいくその拳を、ベジータは微動だにせず掴み取った。

 突撃の体勢で止められたクウラ様がいくら押しても引いても動かない。

 

「ぐ、ぎゃああ!!?」

 

 そのうちに腕を握り潰されそうになって大慌てで腕を払い、後退した。

 地に足をつけたクウラ様が激しく肩を上下させる。だらんと垂れた両腕が、次第に震え始める。

 

「お、おのれ……!」

「──」

「お!」

 

 瞬時に距離を詰めたベジータがクウラ様を殴り飛ばした。

 遅れてドゴォンと重々しい音が鳴り響いて、風の圧が体を撫でていく。

 すげぇ……とどこかでクリリンの声がした。

 

「どうした、クウラサマよお。こんなものか?」

「おのれ……おのれぇええ!!」

 

 地面を爆破する勢いで戻って来たクウラ様は、ベジータの前に着地すると、腕を振って怒りを露わにした。明らかに、優劣が決している。お互いそれがわかっているのだろう、ベジータは余裕綽々としてご満悦だ。

 

「……、……。」

「つまらねぇぜ、フリーザの兄貴がどれほどのものかと思えば、この程度とはな」

「……ふ、クックック」

 

 肩を震わせて笑い始めるクウラ様に、ベジータは片眉を吊り上げた。

 

「何を笑っていやがる。恐怖で頭がおかしくでもなったのか」

「……いいことを教えてやろう」

 

 違う。

 そうじゃない。ああ、そうじゃなかった。

 

「あと一回」

「……?」

「あと一回、オレは弟より多く変身できるんだ」

「──!?」

 

 突きつけられた、人差し指を立てた手の意味をそこで理解したベジータは、組んでいた手を解いて動揺した。

 今の台詞は、フリーザ様の段階的な変身の恐怖を思い起こさせるには十分だったのだろう。

 それでも超サイヤ人に覚醒した勢いを借りてか、ベジータは威勢を取り戻した。

 

「は、ハッタリだ! それ以上の変身があるはずがないっ!!」

「フハハハ」

「……! あ……ああ……!!」

 

 否定しながらもクウラ様の言葉が真実であるとどこかでわかってしまっているのだろう、ベジータには、もはや余裕はなかった。

 私だって、知っていても、これ以上があるなんて信じたくない。

 だって今でさえクウラ様の戦闘力はフリーザ様の100%を超えてるんだよ……? 変身したら、どうなるかなんて……!

 

 空へ昇っていったクウラ様が、欠けた月を背にして腕を、足を広げ、力を籠め始める。

 変身の予兆に、地面が微かに揺れ始めて、小さな石の欠片や何かがふわりと浮く。

 

 ピピピピ、とどこかで計測音がした。

 今度のそれは長かった。だって、月明かりを受けてもこもこと変貌を遂げるクウラ様の気は、どんどん上がり続けているからだ。いつまで経っても終わらない。

 

 ドォン、とお腹に響く音がするたびに、クウラ様の姿が変わっていく。

 両肩の白い外骨格が盛り上がって輪のようになり、腕や足の外骨格からはヒレのようなものが伸びて、腕も太ももも二回りほど肥大化し、私にとっては元々巨体だったその体は倍以上に伸びた。

 

 目が消え、真っ赤に染まった双眸が妖しく光る。

 

「──さあ、始めようか……!」

 

 不敵な笑みが、カシュンと競り上がった外骨格のマスクに隠された。

 誰かが恐怖の声を漏らす。

 気がでかすぎて、もはや抵抗する気にもなれなかった。

 

「戦闘能力、4億7000万……」

「なっばっ、そ、そんな……!?」

 

 少し離れたところでクウラ様を見上げるウィローちゃんが呆然として呟くのに、思わず反応してしまった。

 よ、4億……!? なにそれ、な、なにそれっ!

 そ、そんなの、かないっこないじゃん!?

 

「く、クソッタレェー!!」

 

 黄金の気を噴出させて飛び上がったベジータが──地に倒れていた。

 空には肘打ちでもしたような体勢のクウラ様がいて……まったく、動きが見えなかった。遅れて風圧が広がり、土や石が舞い上がっては落ちていく。私の膝の上にもいくつかぽとぽとと降ってきたけれど、気にする余裕なんかなかった。

 

「カハッ、が、あぐ……!」

 

 なんとかといった様子で立ち上がったベジータは、引け腰になってしまっていた。

 息も荒く震える顔を上げて空を仰ぎ、ガチガチと歯を鳴らす。

 

「す、超サイヤ人は……! て、天下無敵じゃ、なかったのか……!?」

「フハハハハ! 当たり前だ。スーパーサイヤ人などオレの敵ではない!」

 

 くんっと腕を上げたクウラ様によって、どこかの地面が盛り上がって、その振動がここまで届いてくる。

 

「オレが宇宙最強だ!」

 

 ガシッと手を握られるのに、それだけでベジータが吹き飛ばされた。

 三回ほどバウンドしてうつぶせに倒れた彼は、ほんの僅か指の先で土を掻いただけでもう立ち上がろうとしなかった。

 ……立ち上がれなんか、しないんだろう。

 クウラ様が、これほど圧倒的だなんて思わなかっただろうから。

 

 だってクウラ様って、映画じゃ超サイヤ人の悟空さんにダメージらしいダメージなんか与えられず、一方的にボコボコにされてたんだよ……? こんなのおかしいじゃん……!

 あっさり倒されるはずなのに……どうして……?

 

「もはや、これまでか……」

 

 うなだれて呟くウィローちゃんに、辺りを見回す。

 クリリン。ヤムチャ。天津飯。悟飯ちゃんに、ピッコロさんに、ラディッツに、ターレス。

 衣服がボロくなっていたり、血の跡が滲んでいたりするそれぞれを見て、誰にも戦う意思がないのに、息を呑む。

 みんな、心が折れてしまったみたいだった。それほどまでに、最終形態になったクウラ様の存在感は大きかった。

 

「……ふ」

 

 笑みが浮かぶ。

 やけっぱちな感じの、でも、そうじゃないやつ。

 それをばっちり見られていたようで、クウラ様がこちらを見下ろすのが見えた。

 でも何もしてこない。腕を組み、高みの見物の姿勢に入った。

 

「ほう? まだ何か抵抗したいようだな。いいだろう、見せてみろ」

「チッ、いい気になりやがって……!」

 

 忌々し気に舌打ちしたのはピッコロさんだ。彼と悟飯ちゃんが、私の下に駆け寄って来た。

 ウィローちゃんとクリリンも遅れてこっちへ集まって来る。

 

「おい、何か考えがあるんだろう。そんな顔をしてるぜ」

「ナシコお姉さん……」

 

 鋭いピッコロさんに、頷いてみせる。

 もちろん、策はある。

 いや、今思いついたやつだけど、これならクウラ様くらいなら普通に倒せる感じの。

 

「な、なんだよナシコちゃん、そういうのがあるならはやくやってくれればいいのにさ」

 

 相当疲れているのだろう、空元気を出すみたいに笑うクリリン。

 悟飯ちゃんの顔がぱあっと明るくなるのに癒されながらも、私は一度、大きく息を吸って、吐き出した。

 

「これだけはやりたくなかった……やったら、絶対ナシコ死んじゃうもの……」

「えっ!?」

「……なるほど。それほどの技か」

 

 だろうな、って感じで納得するピッコロさんを見上げる。

 冷静な表情は、とても戦う意思を無くしてしまっているようには見えなくて、でも、気が沈み切ってしまっているのは確かだった。

 ピッコロさんでさえこうなのだ。だからやっぱり、私があれをやるしかない。

 

「お願いがあります。みんなには、時間を稼いでほしい……」

「何をするつもりかは知らんが、引き受けよう。悔しいが、今はきさまに頼るほかはなさそうだ……」

 

 このピッコロ様ともあろうものが、一度ならず二度までも足手纏いに甘んじるとはな……。

 心底口惜しそうなピッコロさんは、それでいて、ちょっとは私に心を預けてくれてるみたいだった。

 そういうのに勇気を貰える。やる気がわいてくる。

 

「やろうとしてるのは、元気玉です。……元気を集め始めたら、きっとクウラさ、クウラは攻撃を仕掛けてくると思うので……その妨害を」

「元気玉か! ……で、でも」

「……はい」

 

 その技なら、と表情を明るくさせたクリリンは、しかし消沈して悟飯ちゃんと顔を見合わせた。

 フリーザでさえ倒しきれなかった元気玉で、それ以上の怪物を倒せるのか? だって。

 うん。倒せるよ。

 

「とにかく、お願いします」

「ナシコよ、死ぬというのはどういう事だ」

 

 あ、ウィローちゃん。

 細めた目で見据えられるのに、柔く微笑む。

 そういうの、今気にしないでいいよ。どの道やんなくちゃなんないんだからさ、説明させないで?

 

「…………死ぬな。死んでくれるな」

「ごめんね」

「………………」

 

 泣きそうな顔をして、もう一歩私へ近づいたウィローちゃんは、私の腰へ腕を回してそっと密着させると、ほっぺたをくっつけてきた。柔らかくて熱い感触。震える息遣いが髪を伝って届く。

 数秒、そうした後に体を離す。そのまま背を向けられたから、どんな顔してるかはわからなかったけど、その方が良い。

 私は、敢えてとびきりの笑顔を浮かべておいた。

 

「わたしだけでは1秒も稼げない。ラディッツとターレスにも働いて貰うとしよう」

「……」

「お前達も死ぬ気でかかれ」

「言われなくともそうさせてもらうぜ」

「あ、ああ……」

 

 それだけ言って、ウィローちゃんは蹲る二人の下に駆け出してしまった。

 入れ違いにやってくるヤムチャと天津飯へ、クリリンと悟飯ちゃんが説明してくれるのを見つつ、少しずつ浮き始める。

 コキコキと首を鳴らしたピッコロさんが見上げてくるのを見返して、できるだけ力強くみえるように頷いた。

 

 両手を上げる。

 月明かりを受けて、冷たい空気を吸って、最後に一度、クウラ様を見上げる。

 

 今はまだ傍観してくれている、月下の帝王。

 甘くはない彼の事だから、みすみす私の行為を見逃してくれるはずもないだろうけど……。

 

 どうか、動いてくれるなよ。

 

 そう願わずにはいられなかった。




・ラディッツとターレス
それぞれ戦闘力300万と350万にアップ

・疑似超サイヤ人状態
戦闘力はざっくり25倍くらいかな

・ベジータ覚醒
この頃のベジータはまだ極悪人で、残忍で冷酷なサイヤ人だ
穏やかな心などまだ芽が出たばかり。育ってなんていなかったはずなのだが……

ナシコに抱っこされた際、密着してしまった事でナシコに対する親愛度が強制的に爆上げされ
死の淵から甦った際に一番最初に見たナシコの顔に、"死の淵から甦るたびなんか色々パワーアップする"サイヤ特性が合わさって、ナシコに限っては諸々カンストしてしまった
限定的ではあるが心穏やかで、ある程度の戦闘力があるという条件を満たしたので超化と相成ったのである

ベジータは 称号"お姫様抱っこされて目覚めた伝説の戦士"を得た

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