TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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ちょっと長くなっちゃったので分割


人造人間編
第三十二話 vs魅惑のビーナス


 青く澄んだ世界をゆく。

 光は遠く海面から注いで、白い砂原や海藻なんかを照らし出す。

 私は、そんな綺麗な海の中をのびのびと泳いでいた。

 

 ぽこぽこ空気を漏らしながら、長い手足で水を掻き、青い魚の群れの横を通り抜ける。

 岩の影の、鮮やかな珊瑚から顔を覗かせた小さい子に手を振って、大きな軌道でUターン。

 水に流れる髪の重さが心地良い。

 

 今日は、雑誌の撮影でリゾート地に来ていた。

 もちろん大人の私のお仕事だ。小っちゃい自分が大好きな私といえど、水着映えするのは大人の方だってくらいわかってるんだけどね。それでもちょっと納得いかないところがあったり。

 だってウィローちゃんも一緒してるけどさー、あっちはちゃんと可愛いやつ着せてもらってるんだもん! 私だって子供の姿でいたいのにー!!

 

 それにさ、それにさ、私なんてビキニなんだよ!? こっぱずかしくてたまんないよ! いい加減慣れたら? って自分でも思うけど、肌を見せるの苦手で仕方なくって……はぁあ~……。

 お仕事なので仕方なーく大人モードなナシコです。

 

 この黒ビキニはスタンダードなやつだけど、ちょっと布が小さい気がする。サイズも微妙に小さいような。胸が突っ張ってる感じするもん。でも「取り換えてください」とは言えないコミュ力よわよわな私……。

 

 あ、でもねでもね、髪を編み込んでもらって美人さんにしてもらったんだ~。やっぱりナシコはかわいい! 子供だったらもーっと可愛いんだけど。でも泳ぐときは体おっきい方が水の流れをたくさん感じられるから、大人ナシコを維持してるわけ。

 髪は、今は解いて楽にしてる。編んだままだと魚が引っかかったりするんだよね。

 

 はー、しかし、あれ。やっぱ水着って超恥ずかしいよね……。

 いやらしい視線も集めやすいし、私、そういうの苦手。

 男だったからさ、気持ちはわからなくもないけどさー……不躾にジロジロ見たりさ、ねっとりした目つきで舐め回すように見られるのは、覚悟しててもキツいものがあるよ……。これって私だけなのかなー。他の女の子は平気なのかな?

 

 ぷくー、と息を吐き出して、のぼっていく泡を見送る。

 恥ずかしくたって、写真の撮影はちゃんと完遂したよ! ナシコえらい。

 自分へのご褒美にはちみつたっぷりのパンケーキを食べさせてあげたいね。

 

 撮影はねー、普通に撮るのは慣れっこ……いや羞恥心は幾つになっても消えないけど、大丈夫でー……でもね、攻めたポーズちょうだい、とか言われても困っちゃうんだよね。私そういうのわかんないのー。今までずーっと言われた通りにしかポーズとってこなかったからね!

 

 んや、今までだって何度も「自分で考えてポーズ決めて」みたいなこと言われたのはあったんだけど、まあ、無理だよね……。すっごく子供っぽくなっちゃったり、逆に過度にえっちになっちゃったりして駄目だしされまくるのだ。それがいや。否定されるの嫌いなの。だからいっそ動かないようにしてカメラマンさんが諦めるのいつも待ってるんだよね。

 

 でも今日は頑張って他のアイドルさんの写真集見て研究したポーズを取ってみた。チャームポイントは腋~。ま、大人なナシコじゃ魅力は80%減だけど、カメラマンさんはオッケー出してくれたから大丈夫でしょ。いつものよーに見惚れられちゃって思うように撮影終わんなかったから、疲れちゃった。

 そういう諸々の不満や疲れを癒すため、こうして自由に泳ぎ回っているのだ。

 

「ぷうっ。きゃっほぉーう!」

 

 ドルフィンジャンプで海上に跳ねて、矢のように海へ潜っていく。

 一瞬浴びた太陽の熱で暖まった肌があっという間に水流に冷やされて、んー、この感触、さいっこう!

 

 ふかーいところに潜ると体中に圧力がかかるその感覚がきもちいー。水圧で胸がぐんにょりするのも結構気持ちいいの。持たざるものにはわからない感覚だろうなーってちょっと優越感。こういうの考えてるの、ウィローちゃんには秘密ね! あの子まったく気にしてないようでいてめちゃくちゃ気にしてるから!

 私の写真確認しながら自分の胸に手を当ててるの目撃しちゃって、ちょー気まずかったのだ……。

 

 ウィローちゃんはあの姿で認知されてるから、突然に胸を盛ったりはできないからね……あんまり容姿を変えるのもイメージ変えちゃって駄目だし。その点大人にも子供にもなれる私が羨ましいっぽい。

 わっかんないなー。胸なんかない方が世界は平和なのに。きっと全王様だってそう言うよ~。

 

「~♪」

 

 頭の中に曲を流しながら、ゆったり水の世界を楽しむ。

 強くなった恩恵か潜水時間もうんと伸びたから、何十分だって潜ってても平気!

 でも、そろそろいったん上がろうかな。喉乾いちゃった。

 

「ふぃー。えっほ、ほいしょ」

 

 沖合にある小さな岩場のでこぼこに手をかけて(のぼ)り、その上に用意されたビーチチェアに腰かけて寝そべる。

 傍らの丸テーブルに置かれたグラスを手に取り、ストローに吸い付く。

 んー、レモンスカッシュのしゅわしゅわが喉を焼く~! 酸味も良い具合。

 グラスの縁に差してある輪切りのレモンを抜き取って、ぱくり。

 

「うむー、しゅっぱい!」

 

 ちゅ、ちゅってリップ音をたてながら唇に挟んだレモンを抜いて、グラスに戻す。

 疲労回復にはこういうのが一番だよね~。んー、ごくらくごくらく♡

 

「……んふー」

 

 ふと、見られてる気配がした。

 浜の方。やらしいのとは違った、鋭い視線。

 それは、今日私達を担当してくれたカメラマンさんの、ベストショットを付け狙う歴戦の戦士の如き眼差しだった。

 もう撮影は終わってるのに、まだカメラ回してるんだよね。あの人とは結構付き合い長いんだけど、こういう、オフの時の自然な姿も収めたいんだって。

 

 人と喋るの苦手だから、抗議する気も起きなくて好きにさせてあげてる。

 ちゃーんと意識しないで自然体でいてあげるナシコ、人付き合いのできる良い女だぜ~。

 

 のびーっと手足を上下に伸ばして、それから立てた膝に手を這わせ、お腹から胸へ撫で上げる。

 唇に指を当てて、ちょいっと流し目。

 ……あっ、今のは違くて、あのっ、人の目を意識してかわいこぶりっこした訳じゃなくてね!

 や、やっぱり見られてるとわかると、なんかそういう感じになっちゃうんだよね……! 自然体ってムズカシー。

 

 パラソルを動かして日を遮る。

 背中の下敷きになった髪をちょっと引き出して、改めて仰向けになって、お腹に両手を乗せる。

 運動して火照った体を撫でる風が涼しくて、むにゃむにゃってなった。

 だんだん眠気がのぼってくるよー……。この後はお仕事ないし……ひと眠りしちゃおっかなー。

 

「────……んぁ?」

 

 不意に巨大な気を感知して、手をついて体を起こす。

 寝ぼけまなこを擦りながら体を傾けて空を見上げる。

 遠い空の向こうに、邪悪な気配があった。

 

「……」

 

 でっかいのが、二つ。

 これはたぶん、あれだ。

 あの、……なんだ。

 

「ズズ……んー」

 

 じゅるじゅるとレモンスカッシュを飲み切って、テーブルの上にグラスを戻す。

 ……何しようとしたんだっけ。

 髪の毛を掻き上げてみても全然わかんないけど、動こうと思ったのは確かだから、パラソルを抜き取って肩に当てる。でっかい傘みたい。

 

「あ、そだ。トランクス親子襲来だ」

 

 パンツが来るんだ。へー、夏だったんだね、パンツが来るのって。

 うん、もうフリーザが敵ではないって言っても、ここで向かわなきゃアイドルじゃないよね。

 って訳で海にダイブ!

 

 閉じたパラソルを構えて水中を突き進み、浜に戻る。

 ぴょんと飛び出し、身震いして水気を飛ばす。ついでに一瞬気を噴出させて体を乾かす。

 関係者で賑わう浜をきゅったんきゅったんサンダルを鳴らして駆け抜ける。

 

「あっナシコちゃん! この後オフだよね? どう、ホテルで食事でも」

「ぁっあのすみ、あの、はい!」

「っとと、お急ぎかぁ」

 

 にゅっと前を遮るように出てきたカメラマンさん……そういえば名前なんていうんだったか、愛想笑いでご挨拶する。今急いでるのでごめんなさい~。

 パシャリと撮られるのに、お仕事熱心だなーと思いつつウィローちゃんの姿を探して走る。

 

「ああ、いたいた。ウィローちゃーん!」

「ナシコか。なんだ、そんなものを持って」

 

 白い屋根の大きなテントの下、白いチェアーの傍に立っていたウィローちゃんは、私を認めるとじとっとした目つきになった。

 

「あー、あ、パラソル? なんだろこれ。なんか持ってきちゃった」

「ぼけぼけだな。さっきの気を感じたか。……戦いに行く気だろう」

「うん」

 

 そそ。ウィローちゃんはどうするのかな。

 

「わたしは行けない。タニシがダウンしてるからな」

「熱中症? 大丈夫ですかー」

「やめんか。お前が囁くと病状が悪化する」

 

 チェアに寝そべってるのはタニシさんだ。お目目ぐるぐるしてる。

 でも私が囁いたらにへら~って笑い出した。悪化なんてしないじゃん!

 どうしたのか聞けば、ついさっき立ち眩みを起こしちゃったんだって。

 ……うん、じゃあ彼女はウィローちゃんに任せるとしよう。

 

「行ってくるね」

「心配はしていない。みんなにはわたしから挨拶をしておく。そのまま家に戻るなら、部屋の片づけをしておけ」

「ふぁ~い」

 

 傍の長机からパーカー水着を取ってくれたウィローちゃんにてきとーにお返事して羽織る。白地のこれは、撮影前に着てたやつ。

 お洒落意識で前を閉めないようにしようと思ったんだけど、胸にかかってると違和感凄いので前を開いて、でもちょっとこれじゃあだらしないかなーと思って少しだけチャックを閉めてみた。

 

「そいじゃね、ウィローちゃん。水着似合ってるよ!」

「…………くっ」

 

 駆け出しながらセパレートの水玉かわいーよーって褒めたら、なんでか悔し気に顔を背けられた。

 切り揃えられた金髪が揺れて、優し気な目が細められる綺麗なお顔に、胸がきゅんきゅんする。さすが伝説のアイドル……! その表情参考にさせてもらうねっ!

 

「とりゃ!」

 

 気を纏って飛び上がる。はためくパーカーと髪に、パラソルの布地。

 ぽんと前へ投げたパラソルが戻ってくるのを掴み取って、槍のように持って荒野へ急ぐ。

 

 

 

 

 目的地へついたのは、どうやら私が最後みたいだった。

 

「みなさんお揃いで~」

「出やがったな、クソガ、は?」

 

 とりあえず挨拶しながら降りて行けば、気でわかっていたのだろう、みんなこっちを見上げていて……なんか、ぽかんって顔してた。

 悪態をつこうとしたっぽいベジータも組んでいた腕が解けかけて間抜け面を晒している。あはは、なにその顔~。

 クソガキって言おうとしてたっぽいから、大人なナシコだったのにびっくりしたのかな?

 

「な、ナシコ、なのか……?」

「あっ、は、はぃ……」

 

 天津飯に問いかけられて、そうよーとお返事する。アガッちゃうのはご愛敬。もう誰も気にしてないし、私も気にしない。ドキドキしちゃうから気にしないなんて無理なんだけどね! 胸に手を押し当てて深呼吸。ううー、こうして見ると鍛え上げられた肉体を持つ天津飯、ワイルドな武道家って感じで格好いいなあ。つるつるの頭も全然みっともなくないの。ステーサムみたいな感じ!

 

「あ……」

「……、……。」

「なんで水着……」

 

 私が大人に戻れるのを知ってるのは、よく遊びに行ってる悟飯ちゃんちの二人と、うちの子達と、私のファンのクリリンくんくらいかなー。ヤムチャも知ってたぽい? 一瞬視線が胸に向いてきたの、わかっちゃうんだよねー。思わずってだけでやらしい感じはしなかったので、許してあげよう。いちいち気にしてたらきりないしね。

 

「こら」

「痛ででっ!?」

 

 ヘリの傍にいたブルマさんがヤムチャの耳を引っ張って注意する。そっか、まだこの頃はカップルやってたんだ。ベジータはまだ独り身かー。

 

「なんてカッコで来てんのよ、あんたは」

「えへへ、ぁの、撮影があったので……」

 

 不満げなブルマさんに指を突っつき合わせて……は、片手にパラソル持ってるのでできないので、誤魔化し笑いで乗り切る。

 抜けてきたの? の問いに、首を振る。それから、悟飯ちゃんの下へ寄っていってご挨拶。

 

「こんにちは、悟飯ちゃん。おとついぶりだねー」

「は、はい、ナシコお姉さん……」

「およ? ……ありゃりゃ」

 

 腰を屈めて頭撫でてあげたら、俯いちゃってもじもじしちゃった。うん? ひょっとして照れてる?

 悟飯ちゃんも成長してるんだなあ。お姉さんの水着姿にドキッとしちゃったの? あんまり大人の姿じゃ会わないから、慣れてないだけかな。

 「いいなあ、悟飯のやつ……」ってクリリンが呟くのが聞こえた。君は近いうちにお嫁さん貰えるでしょ。18号……きつい感じの美人さん。また私の苦手なタイプっぽい。DBワールド、気の強い女の子多すぎて困っちゃうよなー。

 

「前を閉じろ。みっともないぞ」

 

 ターレスと並んで立つラディッツが注意してくるのに、ふふんと得意げにする。

 ラディッツの言う「みっともない」は女性的な魅力を振りまくなって意味なの、知ってるもんね。ようするに可愛すぎるぞって褒めてるんでしょー。もう、ラディッツってば上手なんだから。

 ところでターレス、またシェフの格好してるのはなんで? ブルマさんちでパーティでもやってたの?

 

 でも、ここら辺ははっきり覚えてるんだけど、フリーザの気を感知して集まってくる前はベジータ達って焼肉やってたよね。……ひたすら焼肉焼く係にでも任命されたのかな。あんまりターレスとブルマさんが絡んでるの見た事ないから違うだろうけど。

 

「お出ましだぜ!」

「!」

 

 余裕そうなベジータの声に、揃って空を見上げれば、巨大な円状の宇宙船が降ってくるところだった。

 結構距離があるのにここまで風が吹き荒んできて、巻き起こる土埃に、パラソルを前に広げてガードする。土が布に当たる音で耳が痒くなってしまった。

 最初にベジータが飛び出していくのに、慌てて私も続く。遅れて他の面々も飛び立ってきた。

 

「ベジータ!」

「ふっふっふ……!」

 

 ベジータに声をかけるも、なんかえらく上機嫌で届いてないっぽい。

 もー! 物事には段取りってものがあるんだよ! ……あ、そっか、ベジータも超化できるようになってるから、フリーザ様に見せびらかしたいんだ? なんかかわいいじゃん。

 でもメカフリーザはパンツが倒すんだから、でしゃばるんじゃない!

 

「ん……?」

「あいつ……!? ボクをコケにした女だ……! 地球人だったのか……!!」

 

 ぞろぞろと異星の兵士達を引き連れ、巨大な宇宙船を背にして立つメカフリーザとコルド大王。そうして並び立つとフリーザ様の小ささが際立つ。コルド大王がでかすぎるだけな気もするけれど。

 目を血走らせたフリーザ様の視線が突き刺さるのに、小さく体が震えた。ん、私のこと覚えてるんだ? そいつは光栄なことだね。

 

「よう、フリーザ。ずいぶん醜い姿になったじゃないか」

「ふん、たかがベジータが言ってくれるね。ま、いいよ。今のボクは機嫌が良いんだ」

 

 下り立ってすぐ挑発し始めるベジータの背後に私も下りる。

 さらに後ろに続々と下りてくるみんなに、コルド大王が反応した。

 

「なんだフリーザ、サイヤ人はほとんど滅ぼしたのではなかったのか。随分生き残りがいるようだが……」

「っ、それもスーパーサイヤ人共々、今日で絶滅させるつもりだよ、パパ」

「そいつは大きく出たもんだな……誰を倒すって?」

 

 得意満面とはこのことだろうか。ニッコニコで「誰を」と言いつつも親指で自分を差したベジータは、次には力み始めていた。

 足元が揺れ、立ち上るように風が吹く。煽られた髪が持ち上がるのを手で押さえて、額に血管を浮かべるその横顔を眺める。

 グゴゴゴ……。空気の震える音。圧力を伴う気の嵐が、ベジータへと引き込まれていく。

 ……変身まで長くない? 好都合だけどっ。

 

「ま……まさか……!?」

「……? これがフリーザの言っていた……?」

「はぁあッッ!!」

 

 ドギャウ、と黄金の気が噴出する、その前にパラソルを広げてベジータを隠す。

 ちょっと、焦っていた。

 だってあの、これ、違う。

 流れが違うんだもん!

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 シュウシュウと猛る金の輝きは、その全てがパラソルの内側に隠されている。

 周囲にはパタパタとはためくパーカーの音だけがあって……要するに、なんか、妙な沈黙が場を支配していた。

 ど、どうしよう。あの、パンツどこ? ちょっと私達、早く来すぎちゃったのでは……?

 

「きさま、なんのつもりだ……!」

「…………」

 

 せっかくのお披露目を邪魔されて怒り心頭に睨みつけてくるベジータに、必死に考えを巡らせる。

 ああ、でも、私こういうアクシデントとか咄嗟にっていうの苦手なんだよね……!

 えっと、えっと、超サイヤ人はここにもいたという事だ……? いやこれは違う。早いし、私が言う事じゃないし、あう、あうあう、うぇ~~!

 

「ふん!」

「フリーザぁ、超サイヤ人がお望みらしいなぁ?」

 

 胸を打つような重々しい圧力が背後から連続で発せられるのに、勝手に視線が明後日の方向に向いてしまう。ラディッツもターレスも揃って超化してしまったらしい。

 あーあ、もうしーらない。さっさと来ないパンツが悪いのだ。

 パラソルを閉じて傍らに刺す。歩み寄ってきてベジータに並んだ二人に驚愕したのは、フリーザだけではなかった。

 

「き、きさまらぁ……!!?」

「うん? どうした王子様よ。何かおかしなもんでも見たような顔をして」

「超サイヤ人など珍しいもんでもなかろう」

「……!? …………!!?」

 

 なんだろ、ベジータの顔色が凄い勢いで点滅してる。

 もしかして今この地球上で超サイヤ人は自分一人とでも思っていたのだろうか。

 なんかそうっぽいなあ……驚きようが半端じゃない。

 

「ふ、フフフ……! す、スーパーサイヤ人が何人束になろうと、パワーアップしたボクには勝てないよ!」

「チィィッ! ──本当かどうか、試してみるか? ええ!?」

「おいおい王子様よお、自分一人でやるつもりかよ。オレにも一枚噛ませてくれや」

「きさまらの出る幕ではない。フリーザ程度俺一人で充分だ」

 

 口々に好き勝手を言うサイヤ連中に、フリーザ様はぶっとい血管を額に浮かべてどんどん気を上げ始めている。

 あっちこっちからスカウターの爆発音が聞こえてきて……うん、でもまあ、恐ろしくはないよね。

 

「じゃあ何か! そのガキでさえフリーザを倒せるとでも言うつもりか!」

「ん? んー、ゴールデンでもないフリーザ様なんて敵じゃないよね」

「おい、また不吉な事言いだしたぞ……」

「忘れろ」

「ぎっ……き、きさまら~……! さっきから聞いていれば、こ、このフリーザをどこまで苛立たせるつもりだッ!!」

 

 なんか言い合ってたラディッツ達から飛び火してきたので答えたら、何故かフリーザ様の怒りがこっちに向くのを感じられた。

 両拳を顔下で握りしめて震えるフリーザ様が口角を上げるのに、パラソルを引き抜いて肩にかつぐ。

 

「喜べ……! 地球人類絶滅の記念すべき一人目は、お前だーーッッ!!」

「おお」

 

 ほとんど声を裏返らせて叫び、地面を爆破する勢いで突進してきたメカフリーザが、引き絞った手刀を放ってくる。

 こう間近で見てみると、覚えてるメカフリーザの姿と結構違う事に気付いた。

 特徴的な頭の変化以外に、下半身が完全に機械化してる。瀕死の状態で宇宙空間を生き延びたフリーザ様でも、流石に切り離された下半身まではそのしぶとさを発揮できなかったようだ。

 

「──!? ……お゛っ゛」

 

 特に力むこともなくスパークリングに移行して、体から発されるスパークをそのままに閉じたパラソルの先端をメカフリーザの生身の胸へ突きつける。

 気で強化した得物は容易くその体を貫いて、ていうか勝手に向こうから貫かれに来て、棒越しに内臓を突き破っていく生々しい感触が伝わってくるのに眉を寄せる。

 

「うぇえ……」

「なっ……あっ……!?」

 

 すっごい気持ち悪いんだけど……こんな事なら避けちゃって戦うのはみんなに任せればよかった。

 なんて嘆いても時間は巻き戻らないので、ていっとパラソルを開いてトドメを刺す。

 

「おああ!? そ、そんな……!?」

 

 肉体が破裂して上半身と下半身に泣き別れたその体が落ち行く中で、開いた傘の表面から放たれた気功波が一片残さず飲み込んで蒸発させた。

 ついでに後ろにたむろしてたフリーザ軍も宇宙船ごと9割方爆散して、だいぶんばつの悪い顔をするはめになった。

 うおー、殺しちゃったよ……クウラ様倒した時点で今さらな話だけど、殺しは後味が悪くてたまらない。……手を合わすくらいはしておこう。南無。地獄で暴れたりするなよー……。

 

「んだよ、うちのわがまま姫がぶっ殺しちまったじゃねぇか」

「チィッ、言い争っている場合ではなかったか……!」

「な、なんだとぉ……!? ふ、ふざけやがって!! なぜあの女があれほどのパワーを持っているんだ!!」

 

 いや、なんでとか言われても。普通に修行したからだよ。

 しいて言うなら、超サイヤ人二人と組手したりできたのが良かったのかな。常時スパークリングを保つ修行は、なったって気性が荒くなったりしないから大して意味はなかったけど、スムーズに移行できるようになった。そいでもってこの夏に基礎戦闘力が600万まで達する事が出来たのだ。

 

 しかしこの夏、体重は1キロ増えました……ダイエットは失敗だよう。ターレスが美味しいもの作るのが悪い! ついついおかわりしちゃうんだもん。あとさ、子供な私じゃわかりにくかったけど、大人の私、なんか少し肉体に変動がある気がするんだよね。不老なはずなのに、お腹にお肉ついてる気がするというか、胸も大きくなっているような……気のせいだと思いたい。もっぱらダイエットは胸を萎ませたいからやってるんだよ……効果実感できた事ないけど。

 

「わ、我が息子フリーザをこうもあっさりと……! ま、まさか……!」

 

 ドッと着地したコルド大王が、片膝をついて慄く。

 やっぱりその視線は私に向いていて、小首を傾げた。

 

「この惑星近辺で消息を絶ったクウラは、ま、まさか……お、お前が……!?」

「ああ、うん。確かにクウラ様は私が倒したけど」

 

 私が、というか、私達が、だけどね。みんなのおかげで勝てた戦いだった。

 

「!!」

 

 思った以上に驚愕を露わにするコルド大王に、歩み寄る。

 もうついでだしコルド大王もやっつけちゃおうと思って。

 でもさすがに殺すのはなー……悪人だけど……でもうちの子に殺させたりさせるくらいなら、私がやった方が良いかなーって。

 

「ま、待て! お、お前、いや、な、名はなんという!?」

「え? えと、ナシコですけど」

「そうか、良い名だ……生まれついての強者の名だ……!! ナシコよ、我が息子に代わってワシの娘とならんか? 宇宙最強は我が一族にこそ相応しい……どうだ!!?」

 

 ああ、そういえばコルド大王って追い詰められると勧誘しだすんだっけ。

 うわあ、やり辛い……戦う意思を見せない者を殺すのはやっぱ無理だよ、これ……。

 

「『丁重にお断りする』」

「な……あ……!!」

 

 片腕のみで腕を組み、閉じたパラソルを振って構える。

 と、一歩引いたコルド大王は、すぐさま足を戻して手を広げた。

 攻撃の予兆ではない。彼にはもはや、戦う意思がない。

 ……ん、それはちょっと語弊があるか。

 

「ざ、残念だ……我が娘になれば素晴らしい毎日が待っていたというのに……ところで、す、素晴らしい武器だな……? あのフリーザの体をいとも容易く貫いたそれを手に取ってみたい……ちょっと貸して、見せてもらえんだろうか?」

「……いいけど」

 

 武器、と言われて首を傾げ、その視線がパラソルに向いているのに気付いて納得する。

 ああ、これを武器と認識したんだ? 変なの。別にいいよ、これくらいあげる。

 明らかにほっとした顔で私が投げ渡したパラソルを掴み取ったコルド大王は、矯めつ眇めつしながら感心した風に頷いた。

 

「これが地球最強の武器か? 環境だけでなく文明も整っていたというわけだな」

「……ありがとうございます?」

「礼はいらん……なにせ今から貴様は、この武器でワシに殺されるからだ!!」

 

 槍のように構えたパラソルを引き絞り、コルド大王が猛る。

 これはギャグなんだろうか。笑ってあげた方がいいのかな……。

 

「おい、何をごちゃごちゃとくっちゃべっていやがる! コルド! 貴様の相手はこのオレだ!」

 

 本気で悩んだんだけど、行動に移す前にベジータがコルド大王を殺してしまった。

 いや、本人に殺す気はなかったみたいで、勢い余ってその胸をぶち抜いてしまった事に悔し気に歯ぎしりをしていた。大方力を見せつけるようにして甚振ったりしたかったのだろう。

 もはや息絶えているコルド大王をエネルギー波で消し飛ばしたベジータは、汚れた腕を振りながら、地面を転がるパラソルを踏み折った。

 

「す、すげぇ……ナシコちゃんも信じられないくらい凄かったけど、や、やっぱりベジータもすげぇ……!」

「じ、次元が違いすぎるぜ……!」

「そうなの? ふーん……ナシコー! かっこよかったわよー!」

 

 ヤムチャに抱かれて連れてこられていたらしいブルマさんの声に小さく手を振って返しながら、私は、自分の中で増大する焦りにどうしていいかわからなくなってしまっていた。

 残党狩りに飛び立つベジータに、ラディッツとターレス。

 フリーザ軍の兵士は雑魚とはいえ、地球の人々にとっては驚異的なことには変わりない。一人残らず殲滅する気なのだろう。

 それに参加する気にはなれなかった。あんまり気の進まない作業なのもあるけど、それ以上に、まさかって思いが強くて。

 

 ……悟空さんも来なければ、パンツも来ない。

 まさか、もしかして……だけど。

 私が今生きてる時代って、絶望の未来の方?

 

「……どうしよ」

 

 どうしようもこうしようもない。

 今すぐ、何か考えなくちゃ。

 そうは思いつつも、足元がぐらぐらする感覚になんにも考えられなくなってしまうのだった……。




TIPS
・ナシコ(夏のビーナス編)
黒いビキニに白いパーカー水着。
陽ざしに煌めく白い肌。熱に流れる黒い髪。
ボリュームたっぷりのお胸に、太ももの付け根の内側にちょこんとほくろ。
天下一を目指して日々研鑽をつむナシコのはっちゃけサマーモード、ここに爆誕!

基礎戦闘力は600万
スパークリングで2億4000万

・フリーザ(真夏のメカニカル編)
魅惑に大人に大胆に決めるナシコに対抗し、宇宙の帝王もイメージチェンジ。
太陽光にギラギラ輝く鈍色のボディ。殺意を秘めた赤い双眸。
夏に向けてシェイアップし、絞った体はかつてより遥かにパワーアップを遂げている。
もはや敵などいないと不敵に笑う、笑顔が素敵な期待のニューフェイス。

フルパワーよりパワーアップしているらしい
よって戦闘力は1億3000万

・コルド大王(サマーバケーション編)
薄布のマントは少し攻め攻めのアダルティな水着。
外宇宙からやってきたダンディズム溢れる脅威の男。
夏の一番星はワシに決まりだ!

フリーザよりも上、とする記述もあるが、フリーザをこそ一族最強と称している
フリーザもまた自分が宇宙一であると発言している
よって戦闘力は1億とする

・ウィロー(背伸びのサマービーチ編)
子供水着でちょこんとチャーム。かわいさ満点、でもカッコ良い系。
別に自分のボディが嫌いなわけではない。わけではないが。
ナシコのわがままボディ(死語)がちょびっと羨ましい。
時に見せびらかし、時にうりうりと押し付けてきて、無自覚に魅力をアピールする
にくったらしいお肉など、このウィローには必要ない……ないのだ!




トランクスイケメンクス編
イケメンすぎるんですよ……イケメンすぎるんですよ、ボクは!!
え……パンツだなんて、おれは別に、そんな……
アハッ☆

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