TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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たったひとりの最終決戦?
第四十三話 兆


『これですべてが変わる──』

 

 星の海に、たったひとりの声が響く。

 

『このオレの運命──』

 

 おびただしい数の異星の兵士に取り囲まれ、戦士は笑う。

 

『カカロットの運命──』

 

 未来。

 どこか遠い惑星。別の宇宙。

 綺麗な緑の原のその上で、対峙するふたつの影。

 

『そして、きさまの運命も──!』

 

 その右手に全ての力を終結させて、サイヤの戦士は仇敵を見上げた。

 巨大円盤型宇宙船の、上部ハッチを開けてゆっくりと浮かび上がって来た、浮遊ポッドに悠々と腰かけるこの宇宙の帝王。

 

 睥睨する怪物の目に映っているのは、滑稽な反逆者か、無謀な猿か、忌々しい絶対敵か。

 尖った黒髪を揺らし、額に巻いた血染めの布の鉢がねに、野生的な感情を露わにするサイヤ人の戦士。

 緑の戦闘服はこれまでの戦いで至る所を損傷し、右肩から胸にかけては完全に壊れて露出している。

 怪我の数も両手両足の指の数では足りないほどだ。満身創痍と言ってもいい。

 それでもバーダックは嗤っていた。ここまで来て、帝王が目の前にいて、誰も邪魔をしないならば──運命は、変わるのだから。

 

『──だめだよバーダック! このままじゃころされちゃうよ!』

 

 突如として淡い光が戦士のたもとに現れる。

 ぼんやりとした光の中に艶やかな黒髪が揺蕩って、宇宙に溶けるような色合いの、ドレスに似た民族衣装を身に着けた小柄な少女が、懇願するように戦士の胸へ縋りついた。

 

『ね? みて……?』

 

 翡翠の瞳を潤ませて半透明の羽を上下させた少女に、ぴくりと戦士の頬が震えた。

 脳裏に過ぎる光景。

 それはほんの少し先の未来。

 

 場所は宇宙。時は不明。

 数千の戦闘服を纏った男達が、たった一人を囲んで、しかし誰もが一点を見上げている。

 やがて陽光が差し込むように橙色に染め上げられた数多の生命が光の中に蒸発していく。

 その中にはバーダックの姿もあった。有象無象と同じように、壮絶な光の中へと消えていく。

 

『わかった? もうやめよう? にげなくちゃ……』

 

 戦士の顔を手で挟み、息のかかる距離で目を合わせてくる少女こそが、今の未来を予知させた張本人。

 不思議な力を持つ民が住まう小惑星フェアリアを攻め滅ぼした際に、最後まで抵抗したフェアリアの巫女ティエトリーチェだ。

 当初は自分の一族の敵討ちを目的に憑りついて、悪夢のように滅亡の未来を見せ続ける事で苦しめてきたティエトだったが、実際に滅亡に向かい始め、生き足掻く戦士にいつの間にか心を寄せていた。こんなにも生きてと願い悲しむほどに。

 たった一人この宇宙に取り残されるのがイヤだったのかもしれない。もう帰る星もないのだから。

 ほんの僅か縁が残った人間に執着してしまうのも、まだ子供である彼女には仕方のないことなのかもしれない。

 

 戦士は、揺るがない。

 鈴の鳴るように吐息して、透明な涙で頬を濡らす少女を乱暴に押し退けて、見向きもしない。

 今見せられた自分の最期。その未来さえ変えようとしているのだ。

 

『ここでたたかわなくたって……!』

 

 また別の世界が見えた。

 金と水色。

 馴染みのない色合いの光がせめぎ合っている。

 

 ──カカロット……。

 

 息子の姿に、初めて反応をみせたバーダック。

 彼の息子はつい先ほどに母星を出たばかりの赤子だ。

 だが今見た未来では十分に成長し、自分の年を追い越しているようにも見えた。

 

 雰囲気は違うが、今倒そうとしている帝王がその身を金に染めた姿と、息子が髪を青く染め、水色の光を揺らめかせている姿。この二人が対峙し、やがてぶつかり合う光景を瞳の奥に映したバーダックは、一度は収まった笑みをより深くして浮かべた。

 

『バーダックがにげたって、あなたのこどもがあいつをたおしてくれるんだよ。だから、ね? ……にげようよ。こんなたたかい……いみがないよ……!』

 

 腕に縋りつくフェアリアの少女をそのままに、ゆっくりと顔を上げたバーダックは、とうに覚悟を決めていた。

 ──そいつは、上等じゃあねぇか……。

 どのように転んでもサイヤ人があの帝王を地獄へと引きずり下ろす。

 今まで見てきた予知する白昼夢の中で最高の未来だった。

 

『これで──』

 

 必死にやめさせようと引っ張る非力な少女などあってないようなもの。

 すべてを宿した腕を振りかぶったバーダックが、帝王へと宣言する。

 

『──最後だーーッッ!!』

 

 未来への咆哮は、彼方に膨れ上がった太陽に飲み込まれた。

 やがて迫りくる熱量に飲み込まれ、意識が闇へ還っていく。

 散々悪事を働いてきた宇宙の悪魔に相応しい最期。

 

 腕に重しをつけたまま、サイヤの戦士は堕ちていく。

 やがて惑星に衝突した光球は地表を焼き尽くしながら突き進み、核を破壊し、爆発を巻き起こした。

 

 まるで最初からそこに何もなかったかのように……この日、惑星ベジータは消滅した。

 

 

 

 

 なんか、あれだね。

 戦うのって楽しいね。

 

「つああ!」

 

 そんな暢気な事を考えつつウィローちゃんの猛攻を捌く私。

 別に喧嘩とかしてる訳じゃない。……たまにするけど。今は、彼女を怒らせたりはしてない。ただ重力室で特訓してるだけだ。

 といっても、この一週間、特にお仕事が忙しかったので休日はずーっとお布団の中に引き籠ると決め込んでいたんだけど、ウィローちゃんが可愛くおねだりしてきたのであえなく出動とあいなったのである。

 うーん、この子私の扱い心得すぎてない? 100トンの重さとなってあったかオフトゥンにしがみ付いていた私を連れ出すほどのあまあま囁きにうるうる上目遣いの、舌ったらずなお願いの仕方……うへへ、無理無理、抗えませんって!

 

 でもその内容が戦うってのは、なんだかなあ。

 もうちょっとさ、お洋服買いに行くとかさ、背伸びしてコスメ物色に行くとかさ、デートとか……色々あるじゃん?

 よりにもよって戦闘訓練なんだもん。とほほだよ……スパークリングも無しって縛りもあるしさー。

 なのでノーマル上限1億な私で、戦闘力2億ちょっとのウィローちゃんと戦わなければならないのでし、た!

 

「ん!」

 

 振り抜いた拳の先でウィローちゃんが掻き消えるのに、左斜め下へ超速回転、肘打ちを置いとけば瞬間移動してきたウィローちゃんとごっつんこ。

 体勢を崩した彼女へ蹴りを放てばさっと避けられて、うーん、やっぱりこれだけ戦闘力差があるとスピードがおっつかないよ。

 

「……今のは、確実に意識の隙をつけたはずだったのだが」

 

 距離を離していったん手を止めたウィローちゃんが不思議そうに語り掛けてくる。

 そういう戦い方うまいよねー。虚を突くというか、そこでやるんだって感じのさ。

 私の前に超サイヤ人のターレスとラディッツも1対1ずつでウィローちゃんとやってたんだけど、攻防の最中や距離を離したその瞬間に瞬間移動で死角から攻撃されて、凄いやり辛そうにしてた。

 

「なぜ反応できる」

「いや、なぜとか言われてもなー」

 

 ……なぜ? って自分でも首を傾げちゃう。

 さらりと流れた髪を指で挟んでくりくりと弄りながら、何回か投げかけられた問いを反復する。

 すなわち、あれ。

 いやわかんないけど、なに?

 

「……確信した。あまり戦った姿を記録していなかったから今までわからなかったが」

 

 ふー、と吐息したウィローちゃんに、あ、今のもったいな! 間近で見たかったなーなんて思いつつ静聴する。ウィローちゃんも自分の話を遮られるのを嫌ってるからね。茶化すと機嫌を損ねてしまう。頑固だから、ただ謝るだけじゃ機嫌直してくんないんだよな~。

 

「お前には天性の戦闘センスがあるようじゃ」

「そーなの?」

「そうなの。現にナシコよ、お前は難なく不意打ちに対応できている。その体捌きも理にかなっているし、十全に力を発揮している」

 

 こくりと頷いたウィローちゃんが、なんかやたらめったら褒めてくれるのに照れちゃう。

 なにそれー、そんなに褒めたってスマイルしか出ないぞー?

 

「戦闘中の思考が卓越し逸脱しているタイプか?」

「さー?」

「ワイルドセンスが卓越しているタイプか?」

「どーだろー?」

 

 もにょもにょ考察するウィローちゃんに、そーゆーの興味ないので髪の毛弄りつつ空返事する。

 まあ、私に才能があったりするなら嬉しいけどさ。強いに越したことないし。

 でもそういうの、今まで実感した事ないんだよね。

 ナシコつよーい! ってノリで思う事はあっても、自分にセンスがあるとか、だから実力が伸びまくってるんだーとか思った事ない。

 あ、でも戦闘力は伸びてるよ、一応ね。今1000万。メタルクウラ達との戦いがいい経験になったのかなー。

 通常状態で出せる最大パワーが1億で、スパークリングすれば40倍の4億でーす。これ強いんかな……やっぱわかんないや。

 

「孫悟空のように理詰めの戦士ではないだろうことは確かだな」

「りづめ……?」

 

 ん、それは、戦闘中に色々考えてるってこと? ……悟空さんが?

 えー、そんなイメージは……あるなあ。わりと悟空さんって戦略家というか、色々考えて戦う人だと思う。

 もちろんそこに経験や本能をプラスして、最強なのだ。

 

「ナシコは……」

「私はまあ、なんも考えてないけど」

「で、あろうな」

 

 戦ってる最中にあれしよこれしよなんて複雑な事を考える余裕はない。

 余裕で戦える相手でもそういうの考えらんないとは思うけどね。

 

「なるほど、地球人の天才戦士という訳か……」

「でなけりゃあオレ達戦闘民族が形無しだぜ?」

 

 下の方で観戦してるラディッツとターレスがお話してるのに耳を傾ける。

 と、二人がこっちを見上げた。ウィローちゃんが指で誘って呼び寄せてるみたい。

 

「今度は3人でかかる。限界までやるぞ」

「ええー……疲れるのやだよぉ」

 

 せっかくの休日なのに、へとへとになるまで戦うなんて女の子のすることじゃないよー。

 でも三人ともやる気満々なのでした。もう超化してる。んじゃ私も……。

 

「ナシコは変身するな」

「ええー!」

 

 なんと、超サイヤ人相手でもまだスパークリング縛りをしろというご指示が出た。

 そういうならそうするけどさー……さすがに無理だよー。

 

「ゆくぞ!」

「応!」

「覚悟しろナシコ!」

 

 抗議する間もなく散開してかかってくるみんなに、ここでかわい子ぶりっ子してもだめかなーと思いつつ構える。ていうかなんか私怨混じってない? この機会にぼこぼこにしよって考えてない? 許さんからなあ……!

 あ、一回低い姿勢で構えたけど、とりやめて仁王立ちする。腕を下ろした自然体。気も噴出させずに体表面にのみ留める。

 揺らめき立つこの静かなる闘志は、悟空さんの真似っこ~。といってもずっと未来のね、身勝手の……えー、極みだっけ。身勝手の極みのイメージです。

 

「どぉりゃあ!!」

「死に晒せぇ!!」

 

 だってほら、この戦闘力差じゃ避けるに徹した方が良さそうだしね。

 というわけでひょいひょい避けちゃう。

 気で動きを捉え、視線や動作で先読みして、音でも反応して嵐のようなパンチに蹴りを最小限の動きで避けていく。

 へへーん、なんか上手くいくもんだね! 結構避けれてる避けれてる……いつもだったらこんなの焦っちゃって声も漏れるけど、今は息も乱れないし、特にいつもと変わりない感じ。

 

「む……これはいったいどういう訳だ……」

「なにがー?」

 

 ウィローちゃんの独白にお返事する余裕だってある。

 なんだろなー、さっきは色々考えたフリしていたけど、実際は特に何も考えず感覚頼りなんだよね。

 それでこうして避け続けられるんだから、ほんとに私ってば天才戦士なのかも!

 

「ふぎゃ!?」

 

 とか調子乗ってたらクリーンヒット!

 痛いのでスパーク散らして足振り回す。物凄い勢いで吹っ飛んでいった二人がそれぞれ壁にぶつかって落ちた。

 ああ、ごめん。思わずやっちゃった。

 

「……気のせいか」

「うー、お腹痛い……ねぇウィローちゃん、まだやんないとだめー……?」

 

 殴られた部分をすりすりしながら聞けば、少し考えた彼女は、じゃあ休んでいいよって言ってくれた。

 良かった良かった……もうしんどいよー。戦いたくなーい。

 

「お前には驚かされるばかりだよ」

「ほえ?」

 

 床に下りて伸びをしていたら、ウィローちゃんが傍に寄ってきてそう言った。

 そう? 私はウィローちゃんがいつの間にかメイドさん作ってた事の方が驚きだよ。

 研究所に遊びに行ったらさ、ロボットじゃなくてメイド服着た女の子がお掃除してたの!

 

 びっくりして色々お話したら、ウィローちゃんに作られた掃除ロボットだという事が判明した。

 研究を手伝う目的でもあったみたい。いくらウィローちゃんが天才といっても、物理的に手が足りなくなることもあるみたいだったしね。うちの男連中は理系じゃないのでまーったく役に立たないのだ。

 私? 私はいるだけでウィローちゃんを癒せるからさいつよでーす。

 

 ちなみにさっきの「ほえ?」は可愛いと思ってやってるお返事です。

 ウィローちゃんは最初恥ずかしいからやめろって言ってたけど、今はもう咎めるのを諦めてる様子。

 そしてみんなには大人気である。あざといのはわかってても可愛さには抗えない感じ。

 さすが私だぜ!

 

 

 

 ひとくちアイドルのコーナーです!

 

 このコーナーは、普段の私のアイカツ!(※アイドル活動の意)をお伝えする時間。

 ちょっとだけだけどね。私がお仕事してる姿も見て貰おうと思ってさ。

 

「ご、ごめんなさいっ」

「わわわ私達っ大事な用事がありますのでっっ」

「すみ、すみませっ、へぅっ!」

 

 あ……。

 走り去っていく後輩の女の子達に、がっくり肩を落とす。

 先輩風吹かせて面倒見ようと思ったんだけど、逃げられちゃった。

 なんでー。無敵の可愛さを誇るナシコから、どうしてみんな逃げちゃうの……?

 新人の子は緊張しまくってても相手してくれるのに、しばらくするとあーいう感じになっちゃうの。

 なんでかなぁ……やっぱり私がコミュ障だからかな……。

 

 あーもうやめやめ! こんなコーナーは破綻だはたーん!

 いいよもう。私は孤高の美少女アイドル……ウィローちゃんがいるから寂しくないもんね!

 

「……生ける伝説扱いなのを知らんのか」

「えー、なにそれ。聞いたことないや」

 

 休憩時間にウィローちゃんとカッフェでスイーツをキメていると、そんなことを言われた。

 伝説……? 私の耳には入ってないなあ。大袈裟じゃない?

 確かに人気はあるけどね、まだまだそこまでって感じはしない。所感だけど。

 

「お前の自己評価が高いのか低いのかわからぬ……」

「めちゃ高いよ! ちょー自信満々!」

 

 んふー! と鼻息荒く胸を張れば、無言で紙ナフキンを手に取った彼女に口元を拭かれた。

 おーせんきゅー。クリームついてたみたいだね。

 

 でもさ、伝説って言えば、それはウィローちゃんなんだよね。

 なんたって容姿の元がそうなんだし。

 ていうか実力も知名度もある訳だし。

 

「ウィローちゃんこそ伝説そのものだった……」

 

 神妙な顔でそう言えば、呆れたように溜め息をつかれてしまった。

 そのままスイーツをやっつけにかかるのに、ひーんとウソ泣きする。

 無視するなんてひどいよー!

 

 ……でも、沈黙も心地良いもの。

 私とウィローちゃんは最高のコンビだからね!

 

 




TIPS
・鉢がね
もちろん、戦士バーダックの身に着ける布に鉄は仕込まれていない
だが鉄の意志がそこに存在するのだ
友への誓いが、そこにあるのだ

(きざし)
実はナシコは戦いの天才だった……とか
でもこの宇宙、天才なんて珍しい存在でもない
大切なのはその才能を活かせるかどうかである!(ドヤ)

・伝説のアイドル
そりゃ10年常にトップを走り続けてればそうなる
子供の頃から知ってる人もいるわけで
というか大人だったり子供だったりする人間が伝説にならない訳がないのだ

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