TS転移で地球人   作:木端妖精

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第五十九話 偶像

 銀白の気が立ち(のぼ)っている。

 対峙する私達の間には、歌詞の無い曲……限界突破×サバイバーがスローテンポで流れていた。

 それは、悟飯ちゃんが顔を上げて反応しているところを見るに、私だけに聞こえているものではないのだろう。

 アニメで挿入歌に使われていたような……なんだろう、これ……時折反応して、私の纏う気が揺らめいている。

 

「ん……!」

 

 ともあれ。

 この力なら、ブロリーに有効打を与えられる。

 私にでも弱らせる事くらいはできる。

 ──謙遜じゃない。卑屈になってるんじゃない。

 わかるんだ。今の私じゃ、ブロリーを倒しきる事はできない。

 その前に力尽きてしまうだろう、って。

 これも感覚の話。フィーリング。私って、戦いの天才だからね……!

 

「気が高まる……溢れる!」

「身勝手の極み……いくよ!」

 

 向こうも体表から気を湧き上がらせて、それを薄い球状にして纏った。あんなに薄いのに容易く地面が削られて綺麗な断面を覗かせるのに、気合いを入れるために声を出す。

 空間中に響き渡る激しい曲調に、意識のほんの一欠けらを向ける。

 何かと思えば、自動で奏でられる曲が別のものに変わっていた。

 

 究極の聖戦(バトル)。まさしく挿入歌として使われていた歌だ。

 私のカバーではなく元々の人が歌っているものに、反応する人は誰もいなかった。

 聞こえてないんじゃなくて、そんな余裕はないってだけ。

 ……私の気分で変わってるんだろうか、これ。

 

「うおおおおお!!!」

 

 浮き上がることなくその場で全方位に光弾を飛ばし始めるブロリーに、私達は短距離に散って第一波を避けると、誰からともなく走り出した。

 私も地を蹴って飛び出していく。風の中に溶け込むように、真正面からやってきた気弾を擦り抜けて。

 体の前面すれすれを滑っていく気弾が私の体を染めあげて、もう一つを泳ぐように避ければ背中の上を滑っていって。

 

「ぐぅうおおおおおあああ!!!」

「っ!」

 

 一つ一つが当たれば即退場級のパワーを秘めたものを避ける事数回。ブロリーは大地を震撼させる雄叫びと共に纏っていた膜をパージした。急速に巨大化するそれがエネルギーを失いながらも迫ってくる。

 

「波ぁああ!!」

 

 左後方から放たれた一点集中のかめはめ波が爆発波を押し留め、右前方を行く悟飯ちゃんが放った魔閃光が大きな亀裂を走らせる。

 ここまでお膳立てされれば十分だ。

 

「はっ!」

 

 足から飛び込んで緑の障壁を割り砕いていく。

 そのまま着地して滑り、勢いが死なないうちに再び駆け出す。

 

「キィ! でぇえい!!」

 

 半球状に削れた地面の前に下り立ったブロリーは、気弾を一発私に投げつけると、避ける先を予測するようにもう一発……大きなものを放った。

 小さい光弾を撃つ印象のある彼にしては、バランスボール大のそれは異質だ。上下逆転、頭足を入れ替え、伸ばした両手の先に生み出した光球で一発目の気弾の上を滑り、着地しつつそう評価する。

 直後に私の胸元へ飛び込んできた大き目の気弾を受ける事も弾く事もせず、すれすれを抜け様に表面を撫でる。

 ぐんと腕が引っ張られて、踏ん張る片足を軸に半回転。手の平に吸着する光弾を、思い切り手を引き抜いて猛回転させる。

 前へ進む力を回転に費やしてその場にとどまるそれへ一歩踏み込んで、緩く拳を握った腕を振りかぶる。

 

「イレイザー──」

 

 力を入れて強張る腕を振り抜けば、接触した気弾がたわみ、跳ね返っていく。

 

「──キャノン!」

 

 緩やかな螺旋の軌道でブロリーの元に戻ったイレイザーキャノンが、次弾を放とうとしていた彼の胸で爆発した。

 

「グゥ!?」

 

 自分の力でならより多くのダメージが通るのか、目に見えて怯んでいる。

 

「グゥア!」

 

 けど復帰が速い。集めていた気を散らしてもいない。

 パワータイプに見えるけど、ブロリーって案外技巧派だよね……!

 

「スローイング──」

 

 舌を巻きつつ、黒煙に紛れて放たれた気弾をさっきと同じ要領で絡めとり、今度は回転の勢いを乗せてアンダースローで投げ返す。地面すれすれ、私の体も宙に浮いて横回転。

 

「──ブラスター!」

「ぬぐぅあ!!」

 

 まともにヒットして仰け反るブロリー。爆発の余波が着地直後の足元を駆け抜けていく。

 

 流れる髪を引き連れて走る。 緩く膝を折って飛び上がる。

 

 性懲りもなく放たれる気弾の全てを投げ返し打ち返し、跳ね返してなお、私の勢いは止まらない。

 動作を繰り返せばそれだけ動きは最適化されて、もはや気功波カウンターは極まった。

 

「ぬうう!」

 

 いくら撃ち込んでも返されるだけと理解したのか、苛立たし気に腕を振るって構えた彼は、私を待ち構えその手で捕まえる事にしたようだ。殴るでも蹴るでもなく捕まえる気なんだと、なぜか読み取れた。

 空気が引き込まれていく。もうほとんど腕も足も動かず、仁王立ちに近い状態になった私は、先行して体が動くのに意識が置いていかれる感覚を再び味わった。

 

「おおおぅ!!?」

 

 やや前傾姿勢になったのは自分でやった事だけど、ブロリーの体表面に数十の拳撃を打ち込んでへこませたのは意識の外。思考が追いついた時には到達するどころか追い越していて、ブロリーに背を向けている状態だった。

 

「ぐぎぃ! 殺してやる、殺してやるぞ!!」

 

 緩やかに振り返れば、彼は攻撃した私よりも間近に迫った悟空さんを優先しているようだった。

 真正面から取っ組み合い、体格差から押し込まれた悟空さんが、上体を沈ませられた勢いのまま膝を突き上げてブロリーの顎を打つ──。

 

「ふっ」

 

 その瞬間に合わせて、影法師がブロリーの背に襲い掛かる。

 残像にも似た意思のかたまり。悟空さんの気質を持ち、殺気を放つそれがコマ送りで現れて。

 

「ぬがああ!!!」

 

 反応して背を震わせたブロリーは、ゴガァン! と顎を打ち抜かれて大きく仰け反った。手応えを噛みしめる悟空さんのむっとした口元がかっこよくて、私も真似してむっとしておく。

 けれど、それ以上私ができる事はないみたいで、体は動かなかった。動く気にもならなかった。

 時間制限もあるんだから早く倒さなきゃいけないのに! と、一瞬生まれた小さな焦りは瞬く間に鎮められて、心が安定する。

 

「だぁらぁ! でりゃあ! ずぇりゃあ!!」

「ぐ! ぐうう、カカロットォォ!!!」

 

 強連撃脚。演武のように交互に繰り出される蹴りがブロリーの体を打ち、押しこんでいく。

 迫る背中を見上げつつ、悟空さんの攻撃に合わせて悟空さんの影を放ち、ブロリーに襲い掛からせる。

 もちろん私から飛び出るそれに攻撃の術はないし、はっきりとした形もない。けど悟空さんを目の敵にする彼は気配に反応してしまうらしく気を取られて、結果的に無防備となった肉体を打たれて押されている。

 ……ごめんなさい!

 

「クズがぁ!!」

「うぐっ!」

 

 同じ手は何度も通用しない。そんなのわかっていたし、悟空さんに集中したブロリーを狙うべきだと判断したものの、いざ影に反応しなくなったブロリーが悟空さんを殴り落とすのを見ると心臓がきゅっとしてしまった。

 同時に、大きな金髪の襟足、根元へめり込んでいく膝の、その衝撃に体が揺れる。

 

「がっはぁぁああ!!?」

「んっ」

 

 体幹を崩して不格好になったブロリーの頭を蹴りつけて宙返り。その蹴撃には微動だにしない。

 当然だ。私が最初の掌底で彼の体を浮かせられたのも、その後の攻撃も全てカウンターで構成されていたからだった。

 向こうのパンチに合わせて伸ばした腕を置いておけば、自分の力で勝手につっかかってくれたし、彼の体表面をべこべこにした攻撃だって、私の拳撃全てに反応して打ち返そうとブロリーが拳を振るい続けたからだ。向こうが反撃した数だけカウンターを打ち込んだ。全部、向こうの力を利用していただけなのだ。

 

 私自身の戦闘力が上がってるわけじゃないから、普通に攻撃したんじゃダメージは通らない。

 でもそれは、私だけの話。今みたいに他の人の攻撃に合わせて隙を作らせれる事ができれば、誰の攻撃でも有効打になるだろう。

 もっとも、実のところそれができるのは悟空さんが攻撃しているときだけのようだったし、もう通用しそうにもないのだけれど。

 

「ぐあああ!」

「ふやぁあ!」

 

 父を救うべく蹴りかかった悟飯ちゃんが顔を掴まれて壁にぶち込まれた。そのまま光弾ごと沈んでいくのに、眺める事しかできない。

 気を引くくらいしたいんだけど、上手いこと体が動いてくれなかった。行こう、って思考すると少しは動けるんだけど、いや、今は動く時じゃない、って判断しちゃってて、結局一歩も進めない。

 

「ゥあらあ!」

「グウ! ふはははは!!!」

 

 逆立ちするようにして再びブロリーの顎を蹴り上げた悟空さんは、笑いながら押し返されるのにバク転して離脱した。振り下ろしのパンチを叩いて避け、視線を逸らさないままこちらへ回避して、トントンと地面を蹴って後退してくる。

 合わせて私も後退する。そうすればブロリーは勢いよく振り返り、私達目掛けて気を纏った突進を敢行してきた。

 

 曲がりくねった道を抜け、目前で粉砕されていく崖に、降り注ぐ瓦礫を避けつつ広い場所へ出て。

 重低音を響かせて着地したブロリーに、私達も靴裏を地に擦り付け嫌な音を発しながら急停止。

 腕を広げて立つブロリーは、笑みを浮かべて余裕そうだ。対してこちらは、息を荒げる悟空さんに、静かながら体力の消耗を感じている私に……あんまり状況は良くない。

 でも悪い訳でもない。戦い続ければ十分勝てると私の直感が告げている。

 その鍵は、やはり悟空さんだ。

 

 ブロリーを倒しきれないうちに私は倒れるだろう。そんな気がする。

 そうしたら、私が意識を保っている意味なんてないので、全部の力を悟空さんに渡す。

 ある程度ダメージを与えたブロリーならば、そして悟空さんの粘り強さなら必ず勝利を掴み取れるだろう。

 

「……」

「……」

 

 あれほど猛々しく獰猛なのに、ブロリーは、止まる時は止まる。

 笑みを浮かべたまま立つだけの彼に、緊張ばかりが高まっては、技の影響で静まっていく。

 いつの間にか、ラディッツやターレスが離れた位置で構えていた。どこ行ってたか知らないけど、加勢してくれるなら願ったりかなったり……ウィローちゃんはどこ? 粉々になっちゃったりしてないよね……。

 

「あ……」

 

 ひょこ、と崖のでっぱりからシャモが顔を覗かせた。

 なんでそんな所にいるのか、子供ばかりが三人。音に惹かれてか出てきてしまって、私達の注目を集めた。

 あっ、と声を発して指さした先は私だった。笑顔を浮かべているところから、私が食料を持ってきた人間だと認識できたのだろう。光輝いてるというのによくわかったものだ。

 

「惑星シャモから連れてこられた奴隷どもか……」

 

 顔を下ろして呟くブロリーに微かな違和感を抱く。今、シャモ達に視線を向けているブロリーは、直前までどこを見ていた……?

 はっとして空を見上げれば、遠くに浮かぶ一つの星。たぶんあれは、シャモ星──。

 

「キィ!」

 

 鋭い呼気と共に放たれた光弾が昇っていく。戦いの最中だというのに、その残虐性を遺憾なく発揮したブロリーの行動に悟空さんは呆気に取られているようだった。

 だから私が動いた。垂直に飛び上がり、光弾の軌道上に割り込んで弾く。

 さすがに力の向き的に投げ返すのは不可能だった。思い切り力を込めた腕で場所も考えずに払い除けるのが精いっぱい。

 

「ぐっう!!」

 

 腕が痺れて固まってしまうのに泣きそうになる。

 いったぁ……! なんでもない気弾に見えるのに、すっごい密度のやつだった!

 地表で光のドームを作るそれに、息つく暇もなく追加の光弾が飛んでくる。私が防いだのを見たブロリーが極悪な笑みを浮かべて片手を突き出し、不定期にエネルギー弾を発射し始めたのだ。

 

「こっの、ばっかやろ……!!」

 

 腕を振り回し、足を振り回し、次々と送り込まれていく光弾を弾いて落とす。

 あああ、キリがない! 腕も足も痛い! 絶対痣だらけになってる……!

 

「ぼうっと見てないで手伝いなさい!」

「お、おう!」

 

 馬鹿みたいになんにもしないで見上げてるだけのラディッツとターレスを怒鳴りつければ、悟空さんまで「(わり)ぃ!」って反応してしまった。ご、悟空さんはいいんですよ! あいつらだけ! あいつらだけだから! 悟空さんはいいの!

 

「奴を止めろ!」

「さっさとあんな化け物ぶっ倒してくれよ!」

 

 揃って昇ってきた二人が私の代わりに光弾を弾いてくれるのに──腕焼けてるけど平気なの?──やっと一息つけた。

 シャモ達を見下ろせば、怯えてはいるようだけど無事だった。良かった……。

 空中で安定して動けるようになった後も私が光弾を投げ返さなかったのは、あの子達の身を案じてだ。万が一爆発の余波に触れれば消し飛んでしまうだろうから。

 ブロリー相手に他所に心配を向けている余裕があるのかって言われちゃうと弱いんだけど、できる限り命は助けたい。こればっかりは性分だ。

 

「ブロリー!」

「フン! カカロット!!」

 

 気弾の連射は、悟空さんが突撃することで止めてくれた。でも一対一だと分が悪すぎる。未だ元気が有り余るブロリーは、拳同士を衝突させてすぐに悟空さんを殴り飛ばした。

 

「ふっ」

 

 呼吸を安定させ、意識を集中させて飛び込んでいく。顔を上げたブロリーが丸太のような腕を振るってラリアットを仕掛けてくるのを利用して平手を食らわせ、余すことなく力の全てを返す。

 破裂音と共に地面から足を浮かせるブロリーが表情を歪めるのは、自らの力に私の力も乗っているからだ。彼に比べれば微力とはいえ、私だって容易く鋼鉄を粉砕できるパワーの持ち主。カウンターで返す力+私の力で、着実にダメージを蓄積させていく。

 

 ついでとばかりにおっきな出っ張り……喉ぼとけを殴りつけようかと思ったけど、何もせず着地した。体は意味のない行動だと判断したみたい。無駄に隙を晒すだけだと。

 だいぶん遅れて私もそう思った。そんなのやったって無傷で反撃されるだけだっただろうね。

 

「ぐうう、ぐあああ!!」

「ふぅぅ……!」

 

 直立した状態のままブロリーを見上げて拳撃乱舞。反対に覗き込む形で圧力をかけ、流星群のように両手によるパンチを降り注がせてくる彼と激しく打ち合う。

 いや、ただの一度も拳同士がぶつかる事はない。ただただ彼だけが打撃を受けて顔を歪ませていく。

 苛立ちが募れば募る程、怒りでヒートアップする程降り注ぐ拳は激しさを増し、空気を揺るがし、明らかにパワーが増している。その分跳ね返る威力も高まっていって、自分で自分の首を絞めている事はわかっているのだろう、忌々しげに唸り声をあげている。

 ただ、こっちだってかなり無理をしている。自動で回避反撃してくれるこの技だけど、それってつまり私にはいつ失敗するかわかったもんじゃないからね! っとと、平静を乱せば失敗率は高まってしまう。クールにならないと……。

 

「っ!」

 

 チッと頬を掠る熱に、やや眉が寄った。

 腕が熱を持って辛い。体が強張ってきている。反った背中が軋んで、風に翻弄される髪が頭皮を引っ張って痛いし、それのせいで体勢を崩しそうで鬱陶しい。

 こっちは限界が近づいているというのに、向こうは体力に限りなんてないみたいにどんどん押し込んでくる。

 もう、こいつ……私、きついってのに……!

 

「ぅあっ!」

「! オオオ!!!!」

 

 ついにその時が訪れた。片足から力が抜けて崩れ落ちてしまったのだ。

 一転して嗜虐的に口角を吊り上げたブロリーが痛打を与えようと拳を振りかぶるのに焦る。

 致命的な失敗に泣き顔になってしまうのがわかる。怯えてしまって柔く開いた口が閉じられなくなって、引っ込めた両手は開きも握りもしない中途半端な状態で胸の両脇に逃げ込んでしまって。

 

 そんな私にさえ容赦なく振り下ろされた拳に沿って飛び上がり、その鼻面に膝を突き刺す。

 

「だぁおう!?」

 

 弾かれた彼の体は倒れることなく後退し、でも大ダメージを与えられたようで、顔を押さえたままドシンドシンと距離をとっていった。私は、澄ました顔をして軽やかに降り立った。

 

「ふっ」

「!! ぬううう!!!」

 

 吐息とともに微笑む。捩れて二の腕にかかる肩紐を直しながらブロリーと向き合えば、指の隙間から私の表情を目の当たりにした彼は歯を剥いて悔しがった。

 女の子だからって舐めてるよね? だから弱る演技にあっさりと引っかかるんだよ。私だってそんなヤワじゃないんだよ?

 

「ぐ、ぐ、ぐ、ガアア……!!」

「ふぅー……」

 

 息を吐くと、熱が抜けていく感覚がして、すぐにまた体が熱くなる。呼吸による排熱がおっつかない。そのうえ、なぜだかあんまり汗を掻けていないせいで体の中は灼熱地獄だ。なのに心臓はいつもと同じ調子でビートを刻み、頭の中は冷静そのもの。

 

 ブロリーは、まだ悶えている。予想以上に効果的な反撃ができたみたいだった。 

 なんだっけ、トドメを刺そうとしている瞬間が一番無防備、だっけ。

 さっきので私を仕留めるつもりだったんだろうな。だから思わぬ反撃を受けてあそこまでダメージを受けてるんだ。……私、幼くてなんの力も持ってない、怯える女の子の演技が一番得意なの。……私の素に近いというか、素そのものだから。

 

「ぐがああああ!! うおおおお!!」

 

 腕を振り抜き、怒りに暴れるブロリーの気持ちは手に取るように分かった。

 一見か弱い私にここまでいいように攻撃されるのが癪に障るみたい。自分の攻撃が空ぶるのも我慢ならないんだって。

 頭を抱えて無茶苦茶に振り回していた彼は、両腕をだらんと垂らして「ごはー」と呼吸し始めた。

 

「……んん」

 

 なんか……嫌な予感がするんだけど、攻撃の予兆を感じ取れない限りこっちから仕掛ける事はできないから、待ちに徹するしかない。

 

「ぐ、があああ!!!」

 

 俄かに気が荒くなった彼が天へと叫び、不気味に頭を振り動かしている。

 じわりじわりと気が上昇を始めている……けど、それだけならここまでの戦いと同じだ。

 

「おおおおおお!!! うぉおおおぉおお!!!」

 

 噴き上がる黄金の光にスパークが混じり始める。

 気が爆発的に高まったりはしていないから、超サイヤ人2に目覚めた、って事はなさそうだけど……それでも危機感が強まるのに、ブロリーの体がぼこりと膨れた。

 ぎょっとして言葉を失う。

 

「おお、うがあああ!!」

 

 苦しげな雄叫びとともにぼこりぼこりと筋肉が膨れ上がり、体積が増えて……ああ、と納得した。

 思うように戦えない彼は、先程トランクスがやってみせた形態を真似始めたらしい。

 元々筋肉がみっちり詰まっていた肉体は一回り巨大化して、普通の人間じゃ見られないくらいの筋肉男になってしまった。

 

 感じられる気は凄まじい上昇をしているけど……正直がっかりだった。

 あのブロリーがそんな変身に頼るなんてね……。

 見てすぐモノにするのは流石だけど、それでは私には勝てないよ。

 

 汗を流し、息を荒げて私を見る彼に、諭すように声をかける。

 

「そんなパワーに頼った変身じゃ」 

 

 顔を掴まれていた。

 言葉を続けられずに地面に叩き込まれていた。

 

「──……!?」

 

 沈んでいく体に押し退けられた地面が左右に広がって盛り上がっていく。

 遅れて、攻撃を受け流すための手が出た。とっくにやられてしまっているというのに、今さら。

 

「くはっ──……!」

 

 さらに遅れて痛みが背中から伝わってきて、圧迫される肺に息を吐き出してしまう。

 

「ぐははははあ!!」

「ぅくっ!」

 

 顔を掴まれたまま持ち上げられて、地面から引き抜かれる。その勢いを借りて肘を突き上げてやろうとしたんだけど、肥大した筋肉に阻まれて手が届かなかった。

 太い指の隙間から見えるブロリーの顔が上にずれていく。手を放されて落ちて──鳩尾を抉るように拳が入るのに、くの字に折れて吹き飛ぶ。

 

「がっ、あっ、あ!」

 

 体がバラバラになってしまいそうな衝撃だった。

 痛いとかそういう次元じゃなくて、意識が刈り取られそうになるのに必死に抗っているうちに地に落ちる。

 ぶつけた後頭部から冷たいものが広がるのに歯を食いしばって立ち上がり、震えが押さえられない腕を無理矢理持ち上げて構える。

 今襲われたらひとたまりもない。だから無理矢理に体勢を整えたんだけど、様子見をしていた周りの子達がブロリーを押し留めてくれたみたいだった。

 

「ぐあ!?」

「カカロ、うおお!?」

 

 悟空さんとターレスがほとんど同時にやられた。順番に、ではなく同時。

 何あの俊敏さ……パワー特化形態じゃないの、あれ……!?

 う、く、落ち着け……! 心を乱したら、きっとこの変化が終わってしまう。

 身勝手の極みなら必ず反撃できるはずだから……!

 

「ごっはぁ!」

 

 腕を広げて走り出した怪物はまっすぐ私へ向かってくる。

 上空から飛び込んできたラディッツを薙ぎ倒した彼は、その時点でぐんとスピードを上げて──。

 

「っうあ」

「ぜぇえい!!」

 

 反応する間もなく顔を殴り抜かれていた。

 その動作と結果を知覚したのは、ゆっくりと体が倒れこんでいく時だった。

 パンチが見えなかった。考えるより先に動いてくれるはずの体は、辛うじて相手の腕をほんの少し押し上げるだけに終わっていた。

 無意識が追いついてない。追いつけない。

 い、いや、まだ!

 

 自分の力を信じて踏みとどまる。足裏で擦れる地面の感覚を噛みしめて、拳を握り締めて構える。

 

「死ねぇい!」

「く、くううっ……!!」

 

 乱暴に振るわれた拳に、声を発して諸々の感情を発散しつつ捌く。接触した腕の肌が擦り切れて血が飛ぶ。

 骨の芯まで響く衝撃に鈍痛を感じながらも、剛腕をいなすこと、それ自体は成功した。

 だというのにすぐさま第二撃が襲い掛かってくる。

 

「くっ、ふうう!」

 

 悪魔の笑い声とともに繰り出される拳の数々は、私の体に傷を残しながらも逸れていく。

 それが限界だった。攻撃を貰わないよう動くのが限界で、反撃なんかできなかった。

 こいつ、気だけじゃない! 技もスピードも大幅にアップしている。なに、この、変身は……!?

 

「冗談じゃっ……ないよ!」

 

 速いし、重いし、止まらないし……!

 摩擦熱で腕があっつくなってるし、笑い声に威圧して足が震えそうだし、正直巨体の怖さが半端ないし……!

 

「ふひひ! ぐははははは!!」

「うやぁあああ!!」

 

 大口開けて笑い上戸なブロリーに、心が乱れたせいか数瞬変化が消えかけた。銀の光が途切れて、すぐに湧き上がってくる。でも、一秒にも満たない時間のそれでかなり劣勢になってしまった。

 具体的にいうと、掠るだけに留めていた腕とがっちり噛み合う感じになってしまって、一発ごとのダメージをよりダイレクトに受け取るようになってしまった。

 

「負けらんない……!! 負けるかぁっ……!!」

 

 それでもまだ直撃は貰ってない。速く、鋭く、打ち合うたびにこの技に磨きがかかって適応していく。

 けどそれは向こうも同じなんだ。戦いの中で成長するサイヤ人の、その権化であるブロリーの成長速度は目を見張るものがある。

 ただでさえギリギリなのにほんのわずかずつ拳撃の速度が上がっている。前傾してきている。じりじりと足を摺り寄せてきている。

 これがっ……! これが、正真正銘の、本物の天才ってやつなんだ……!!

 

「おめぇ、まだ上があんのか!?」

 

 超頑丈な悟空さんだけが復帰して、でも私達に割り込めないでいて、さらに一回り筋肉を膨れさせるブロリーに驚愕する。

 うそ、でしょっ……!? 圧が、パワーがさらに増して、完全に押し切られ始めた。

 

「うああっ!!」

 

 捌き損ねた腕がもう片一方ごと弾かれてバンザイの形で仰け反ってしまう。

 薄めた視界に向かってくる拳が見えて、やばいと焦りたいのに、技の影響で心は静まったまま冷静に迫るそれを見つめてしまう。

 

 ゴ、と空気を穿つとは思えない硬質な音を鳴らして腋の真横を突き抜けるパンチに、煽られそうになった体を必死に地面に繋ぎ止める。

 

 は、外した……? この至近距離で……?

 それとも身勝手の極みがさらなる進化を遂げて、こんな姿勢でも避けられるようになったの……!?

 

「ガァウ!!」

「ぃ、ぎ!?」

 

 どっちも間違いだった。

 ブロリーは攻撃を外した訳でもなかったし、私が避けられた訳でもなかった。

 単に彼は攻撃の手段をパンチから別のものへ変えただけだった。

 打ち込んだ拳ごと迫ってきた彼の頭に、頭突きだって思って衝撃に備えて目をつぶれば、右肩に熱が走った。

 肩というより、首と肩の間。柔らかい部分。

 

「グウウウ!!」

 

 唸り声が私の体を直接震わせる。滲む唾液が肌に染み込んで、噛み切られた肩紐が落ちて。

 

「あっ、あっ、あぐぁあああ!!?」

 

 噛まれていた。その歯で、がっちりと食いつかれていた。

 当然そこで終わるはずもなく、肌を破る歯に血が噴き出して、バキバキと骨が噛み砕かれていく。

 

「いやあああ!!!」

「ガフッ!! グフ!!」

「あ゛! あ゛か゛!!」

 

 ゴリゴリと歯を擦られるたびに神経を直接刺激されてるみたいな激痛が体の中を駆け抜けて、手の先や末端に力が入らなくなってしまう。跳ねる体に腕を回されて、逃げられない状態で顎に力を籠められるのに、目を見開いたまま叫んだ。

 拘束を免れた片手で髪を掴んで引っ張っても、喰らいついた彼は離れない。殴りつけても、爪を立てても、口周りを真っ赤に染めて私の肩を食い千切ろうとしている。

 痛みに泣き叫ぶ私に、咀嚼するように歯を動かしているブロリーの笑みがどんどん深くなっていく。

 

「や゛め゛っ、ひっぎ!!?」

「ブロリー!!」

 

 深い所まで入り込んだ異物に、とうとう変化が解けてしまった。それでも反射で勝手に動く体に成すがままになるしかなくて、そんな時に悟空さんの声がした。

 低空飛行で突っ込んできた彼が、ブロリーの足を刈ろうと蹴りつけたのだ。けど、微かに揺れるだけで体勢を崩す事さえなくて。

 振動が首に伝わって、声の限り叫ぶ。そのうちに息が続かなくなって、酸素を求めて喘ぐ。

 

「ぐはは!」

「あ゛っ!!」

 

 拘束を解かれたと思ったら、私を噛んだまま首だけ動かして持ち上げた彼は、そのまま頭を振って私を放り投げた。

 当然受け身なんか取れずに地面に落ちて、悶絶する。

 ずたずたにされた肌が痛い。手で押さえそうになってしまって、慌ててやめる。きっと触ったら死んでしまう。それぐらいに刺すような痛みが続いていて、外聞もなく嗚咽を漏らして泣きながら地面を這って距離を取る。

 

「う、う、ううう……!」

 

 優しい気を発して肩に当て、治癒を促進させる。こんなのツバをつけておくのと変わんない民間療法だけど、やらないよりはマシだ……!

 

「くそっ! 元気玉しかねぇ……!」

「カカロットォ! くたばりぞこないめぇ!!」

「うぐっ!!」

 

 私が離脱してしまった事で、ブロリーの相手を悟空さん一人でする羽目になってしまった。

 ……起死回生の一手を決めようとしているみたいだけれど、執拗について回るブロリーから逃れられず、地に叩きつけられたり壁へ殴りつけられたりとやられ放題だった。

 

「ナシコ!」

 

 シュ、と真横へウィローちゃんが現れる。

 彼女もボロボロだった。服は焼け焦げてて肌着が見えてるし、その肌着だって襤褸切れだし、体の怪我も増えている。

 

「すまん、少し居眠りをしていた……!」

「ふ、ぃっ……!」

 

 言うが早いか私の傍らに膝をついて肩の傷に手をかざす彼女に、気を発して治療されているらしいのに声を漏らす。

 

「真似事だがな、多少の回復は見込めるはずだ……すまない、ナシコよ……こんなになるまで戦っていたというのに、わたしは……!」

「い、いいよ、謝らなくたって。ウィローちゃんが悪いわけではないし……ブロリーがやばいだけだよ」

「……ああ。あんな化け物がこの世に存在するなど想像したこともなかった……!」

 

 少し遠くで交戦する……ううん、一方的にやられている悟空さんを見るウィローちゃんの横顔は、小刻みに震えていた。彼女も恐怖を感じているのかもしれない。

 

「ちょっと、手、借りるね……」

「な、おい、ナシコ!」

 

 ウィローちゃんのおかげでだいぶん痛みが和らいだので、悪いけど手を支えにさせてもらって立ち上がる。

 おそるおそる肩に触ってみれば、綺麗な歯形がついていた。あと、犬歯のあたりに穴が空いてるっぽい。ぬるぬると指が血で滑るのに顔を顰めつつ、ちょっと腕を揺らしてみて、ビキリと痛みに硬直するのに唇を噛んだ。

 でも、意外と、なんだけど……そんなに外傷はないっぽい……? あんなにがぶがぶされたのに。ウィローちゃんの治癒的な何かの効果が凄かったのだろうか。

 

「何を馬鹿なことを……!」

「ごめんね、おばかで……でもやらなくちゃ」

 

 悟空さんができないっていうなら、なら、無理を押してでも、私がやるしかない……。

 元気玉を……作るしかない!

 

「その、体でか……?」

「うん。やるよ、私……アイドルだから」

 

 私を形作る、ナシコの根底である、私を表す記号。

 夢と希望と笑顔を届けるために存在するのがアイドルだから、いつだって私、笑顔で頑張らなくちゃ。

 

 静かに浮かび上がる。

 悟空さんの苦痛の声が響くのに怯みながらも、高い位置へ。

 

 両手を空に……っぅあ、う、う、いたいぃ……!

 

「ひっ、く……! ふうう……!」

 

 痛む肩を無理矢理に持ち上げて、気力で姿勢を維持する。

 それから、この宇宙に息づく全ての生命体へ……そこに存在するあらゆるものへ語り掛ける。

 

「この宇宙のために……私達のために、あなたたちのために……お願い。ありったけを……」

 

 体力の続く限り、全部の力を。

 ありったけを、分けて欲しい。

 

「んっ……!」

 

 私の声に応えてすぐさま気が集ってくるのにうなる。

 ぐんぐん集ってくるものは、埃くらい小さい欠片から自動車くらいの大きさのものまでさまざまで、それがこの宇宙の隅々から送り込まれてくる。

 距離なんて関係ないってばかりに、ひっきりなしに、どんどんと。

 それだから、そう時間をかけずに元気玉は完成した。青白い光の玉の大きさは、かつてナメック星で作られた超元気玉に匹敵するくらいだろうか。

 

「あ、ウィローちゃ、ありがとっ」

「ん……!」

 

 私の声は、当然彼女にも届いていて、空に手を上げて可能な限りの元気を渡してくれる彼女に感謝を述べる。

 そして、それでわかった。元気玉はまだ完成してない。明らかにまだまだ巨大化して、あっちからこっちから大きな玉が飛んできては元気玉に合併していく。

 

「う、う……」

 

 腕がびりびりと震えて、怪我が痛む。でも、今制御を手放す訳にはいかない。せっかく集めた元気が散っちゃう!

 たぶんだけど、さっきの元気玉じゃ、ブロリーは倒しきれない。今のぼろぼろの私が吸収しても同じことだ。

 だから考えたんだけど、このまま集まる元気に任せて肥大したものを、体力的にも肉体的にも限界な私が吸収したとしてもブロリーを倒せるレベルに至るまで待とうと思う。

 

「……けど!」

 

 崖壁を削り、悟空さんが嵐のような拳を受けてめり込んでいっている。強烈な一撃を受けて血を吐いている。

 このままじゃ、私が作り切る前に悟空さんが殺されてしまう……!

 誰か、動ける人は……! ううん、誰でもいい訳じゃない。悟空さんとおんなじくらい強くて、戦えるような人じゃなくちゃ……!

 

「サイヤ人のォー! 王子はァー! このオレだぁーーっっ!!」

「ベジータ!」

 

 空の彼方から声を響かせて飛んできたベジータが、果敢にブロリーに挑みかかっていく。

 ヘタレてたけど、奮起したんだ。彼ならもしかしたら、粘ってくれるかも……!

 

「ふぉお!?」

 

 ラリアットを受けてそのまま遠方に見える岩盤に叩きつけられるベジータに、そっと視線を外す。

 何十メートルも壁に穴をあけて埋まる悟空さんが零れ落ちて、地面にぶつかる直前に浮いて、私の方へやって来た。

 でも、私に声をかけることもなく、手も足も垂らしたまま私に背を向けてブロリーの方を見据えた。

 傷だらけの背中が雄弁に物語っている。守ってやるからさっさと元気玉を完成させろ、って。

 

「……ふ、ぅっ……」

 

 目をつぶって、ん~~って震える。

 

「っはぁ……ふぅ」

 

 だって、あの。

 せな、背中……かっこい……!

 

「……ふぇ?」

 

 お口半開きでぽけーっと悟空さんを眺めていれば、ベジータをやっつけたブロリーが凄まじい勢いで戻ってきて悟空さんを襲い始めた。パワーもスピードも半端じゃないその攻撃を、悟空さんは避けに徹する事で凌いでいる。それでも何度か掠ったりヒットしたりして危うい場面があって、見てるだけの私がひやひやしてしまう。

 

 だけどそうやって彼に注目する事で腕の痛みを無視できた。姿勢を維持できて、ひっきりなしにやってきては元気玉に合体していくみんなの力を支える事ができた。

 けどっ、さすがに惑星くらいの大きさになってくると間抜け面してるわけにもいかなくなって、一回気付いちゃうと到底制御できる規模じゃないとわかってしまった。

 

「ちょ、ちょ、ちょ!?」

 

 がくがくと震える腕に、痛みさえ忘れて慌てて制御に集中する。

 ……いや、無理だから! なにこれ! でっか! でっかい!

 あ、あ、やばい、やばいよっ、こんなのここで制御できなくなっちゃったら、大爆発起こしちゃう!

 ……っ!? え、ま、まだあるの?  やだっ、で、でかすぎっ、ちょっちょまっ、そ、そんなの私の体に入んないよ!?

 やば、なのにまだまだ送られてくるっ、ぐっ、うくっ、や、待って、まってまってもうむりっ……!

 たす、悟空さっ、たすけて悟空さんっ!

 

「元気玉が作れないっっ!!」

 

 渾身の大声に振り返った悟空さんは、でもブロリーの相手で手一杯。

 だったら、こっちから!

 彼へ腕を向け、元気玉を私へ落とす。

 ぐんぐん吸収して楕円の形に歪んだ元気玉には、ようやっと力の供給が止まったみたいだった。

 恐ろしいのはその大きさと密度だ。片手からぐんぐん入り込んでくる気が一気に私の傷を癒し、体力を補い、内側から食い破ろうと溢れ出す。

 

 それを、悟空さんへ向けて発射する。

 目に見えない気を吸い込んだ傍から、収まりきらない気を悟空さんへ分け続ければ、程なくして彼の許容量に達したのか、これ以上は送れない感じがして、実際に追い詰められた悟空さんがブロリーの拳を受け止めて──。

 

「うぎっ!」

「!? な、なにィ!?」

 

 ごう、と黄金の光を逆噴射してブロリーの勢いを完全に受け止めた悟空さんが、拳を弾いて距離を詰める。

 凄まじいまでのパワーの発露に、集まった元気のほぼすべてを私と彼の体に収める事ができた事にほっとした。

 しかも、分けたおかげかなんなのか、前みたいに限界ギリギリで気が球体として広がってしまう事もなく、ただただ体表面から噴出するのに留まっている。

 

「ふぅっ、はあっ」

 

 空を見上げれば、初期の元気玉ほどの大きさの光が残っている。

 痛む片腕を撫で、なんとかそれも受け取ろうともう片方だけで支える。

 せっかく宇宙のみんながくれた力だもん。一つも零さず受け取りたいよ。

 

「おいで……」

 

 はち切れそうな体を無理くり動かして、腕を広げて迎え入れる。

 ゆっくりと降ってくる光球は、きらきらとした光を振りまいて幻想的で、またその尋常でない密度に力強さを感じさせられた。

 

「ん……」

 

 抱き締めるように、間近まできた元気を受け止めようとして。

 ブンッと数百倍に膨れ上がるのに固まってしまった。

 なんか、濃い紫色に染まった元気が、密度……めっちゃ密集してるっぽいのに全然力を感じ取れない感じになって降ってくる。

 

「はぇえええ!?」

 

 勝手に入り込んでくるよくわかんない元気に開きっぱなしの口から奇声が上がる。

 な、なんだろこれっ、あの、ちょっと、私もう限界! 限界なんですけど!?

 

「うひゃああああ!!」

 

 あっつくて、でも頼もしくて、私に応えてくれる私の味方の気だから、なんとか私は粉々にならずにすんだ。

 全部全部ぜーんぶ受け入れて、抱き締めて、私の力に変えていく。

 顎を持ち上げれば、光の粒子となって空気に解けた肌着とスカートと下着が、紫色の気で構成されたものに入れ替わっていく。

 

 青と黒の縞模様の柔らかい素材のシャンプーハットみたいなのが頭からすっぽり嵌まってきて首にかかり、胸周りはスポブラみたいなのできゅっと締められて胸がちょっと苦しい。

 青布の腰巻に、黒にダイヤの柄の前掛けに、これまた青くゆったりしたズボン。

 ……お尻の部分に尻尾か何か用の穴が空いてるっぽいのを手で探って見つけて、下着丸見えじゃない? って勘付いて、うえーってなった!

 

「グゥオオオオ!! カカロットォォォ!!!」

 

 気を取り直し、猛るブロリーの下へ飛んでいく。

 パラパラと散る光の欠片は澄んだ水色。クリアーな気が溢れ出して止まなくて、どこか達観した気分になってしまう。

 限界まで注がれた力を抑え込む悟空さんの表情は苦し気で、同時に自信満々って感じですっごく格好良かった。

 もはやどれだけ巨大な拳も蹴りも、悟空さんには通用しない。気圧されて仰け反るブロリーの前に、悟空さんと並んで対峙する。

 

「キィィ!!」

 

 濃厚な殺気を発するブロリーを、不思議と怖いとは思えなくなっていた。

 本当に、不思議な気分だった。体いっぱいに力が満ちているのに、清々しくて……。

 ブロリーのことも、許せてしまえるような気がした。

 

「許せねぇ!!」

「グゥ……! でやぁ!!」

 

 でも、悟空さんが許さないなら私も許さない。

 ブロリーは暴れすぎた。仲間を酷く傷つけたし、あまりにも凶暴すぎる。

 いつの間にか間近に迫るグモリー彗星に照らされて、私達はぶつかり合った。

 

「ごめんねっ!」

「ぐぉ!?」

 

 悟空さんの拳と私の拳が鏡合わせでブロリーの腹を貫く。

 そのまま気を注ぎ込むようにして突き飛ばすように離れれば、体中に亀裂を走らせたブロリーは自らの気に肉体を破壊しつくされ、耐えられなくなって崩壊を始め──。

 

「バぁカぁなぁああああ!!!!?」

「っ!」

 

 制御できない力に体を暴れさせながら輝いて、星の終わりのように大爆発を巻き起こした。

 

「オラたちのパワーが勝ったぁあああああ!!!!」

 

 光と衝撃から顔を庇った私は、類稀なる強敵を打ち破った歓喜の雄叫びをあげる悟空さんと一緒に地面へと落ちていった。

 同時に、私や悟空さんから零れて降り注ぐ元気の源が、星に生命をもたらしていく。

 広がる緑の絨毯に受け止められて、ようやく私達は一息つけたのだった。

 

 

 

 

 

 その後。

 私達は、少し荒れてしまった新惑星ベジータ……ううん、名も無き星を探索して、各地に倒れていた仲間達を集め、シャモの仮設集落で休憩させてもらった。

 

 

「ひゃあー、うんめぇー! 生き返るぅー!」

「まったく、今度ばかりはどうなる事かと思ったぞ。なあカカロット……食べかすを飛ばすんじゃあない!!」

 

 シャモ達に与えるために持ってきた食料が、私達のお腹に収まっていく。

 仙豆を使い果たした以上、何はともあれ食事を取らなければ動く事さえままならなかったのだ。

 ……でもね、あのね。

 ご飯食べれば回復するサイヤ人と違って、単なる地球人である私は、お腹が苦しくなるばかりで全然疲労も体力も回復しないの。

 

 ちなみに、私はあの変な格好からいつもの感じの服装に戻っている。

 ……元気玉吸収の変化が解けた瞬間に衣服が光となって解けて消えていった時はこの世の終わりかと思った。

 幸い、汚れや血を落としたりするためにウィローちゃんと湯浴みしようとしていたところだっから他に誰にも見られなかったけど……見られてたら引きこもりになってたかもしんない。

 そして、いつもの服はウィローちゃんがピッコロから少し習ったという魔術でピピッと出してくれた、というわけ。

 ……いつの間にピッコロさんとそんなに仲良くなってたんだろ。

 

 それから、グモリー彗星はあらかじめ昔に、衝突する予定の星の中に『新惑星ベジータ』と呼ばれたものがある場合、傷つけず避けて通るようドラゴンボールでお願いしておいてあったので、あれは単なる綺麗な彗星だった。

 

「いえーい!」

 

 食事中、私がじーっと見つめているのを気付いた悟空さんがピースサインを飛ばしてくるのに、右見て左見て後方確認して……あっあっわ、私に向けてるんだ!?

 

「ぴぴ、ぴ、ぴ〜す……え、えへへ」

 

とっても恥ずかしくなりながらも、ゆるゆるピースをお返ししたのでした……。

 

 

……。

セルをやっつけて、平和な世の中を取り戻したら、その時はめいっぱい手合わせしてくれよな、と肩ポンされて、リアルに10分ほど動けなくなっちゃうナシコちゃんなのでした……。

め、めでたしめでたしっ!




TIPS
・身勝手の極意 超
その姿が孫悟空が変身したものと酷似しているのは、ナシコのイメージのためである
実はナシコが技を発動させようと歌い始めたその時から身勝手の極意は発動していたのだ
見た目に変化の無いそれが身勝手の極意 (いのり)である
解除された際、またはされる前から反動があるのだが、ブロリーにこてんぱんにされていたため感じ取れなかった

・伝説の超サイヤ人(第三段階)
トランクスを真似てパワー特化形態になったブロリー
筋肉が肥大している癖にスピードは落ちるどころか倍増している
戦闘力は超サイヤ人第三段階にならって3割増し
25億4800万

・限界突破孫悟空
元気玉のエネルギーを吸収した超サイヤ人の孫悟空
戦闘力は20億ほど加算されて、31億5000万

・プレゼンター -破壊-
この第7宇宙からありったけの元気を集めて吸収したナシコの最強形態
ただしこの姿になるにはある条件があり、ただ元気玉を吸収するだけではなれない
扱う気はクリアなものに変化している

あまり大きな数字は出したくないのだが、元気玉と諸々の気を吸収したので
おおよそ150億ほどになっていたのではないかと思われる

・崩滅拳-ディーヴァ-
神の気を拳に宿して攻撃する、純粋なる破壊

・グモリー彗星
本来到着は翌夕方以降だったのだが雰囲気に合わせてフライング登場してきた
空気の読める良い彗星

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