TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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第八話 強襲! 超銀河アイドル!!

 

「大興奮でしたね!」

 

 とは、第23回天下一武道会が終わった後のタニシさんの言葉。

 

 一般人である彼女にとって、今回たまたま赴いたあの場所で見聞きした事は驚きと未知の連続で、彼女の世界は大きく広がった事だろう。

 目に見えない攻防、よく俺がやってる気功波に舞空術、多彩な技。

 ついには神の登場ときて、さらには天津飯が気功砲で地面に開けた穴に避難する際、彼らとともに行動した一体感は普通じゃ得られない経験だっただろう。

 俺も、自分が物語に関わるだけじゃなく、大切な人が自分の大好きなストーリーに触れてくれる事が何より嬉しかった。

 

 しかし、あれほど暴虐の嵐に見舞われて笑顔でいられるタニシさんの精神的タフさは凄い。

 死の恐怖とかは感じなかったんだろうか、と思いつつ彼女と話していれば、ピッコロの超爆発波の際にほんの少し漏らしちゃってた事が判明した。

 ……わーお。

 

 そんなシモのお話もできるくらい、今回の件で俺とタニシさんの仲は深まった。

 やはり「ふれー! ふれー! まーじゅにあ!」「がんばれがんばれそんごくー!」と一緒になって応援旗を振り回しまくったのが大きかったのかな。

 

 ファン心理というか……あの時の俺とタニシさんは一心同体だった。ピッコロは自分に向けられた思いがけない声援にちょっと戸惑ってたけど。でも悟空さんは嬉しそうにしてたな。自分を応援してくれる人がいるって事にじゃなくて、ピッコロにも声援がある事を。

 

 きっと、悟空さんだけが応援されてピッコロは恐れられるだけっていうアウェーな空間じゃ、フェアじゃないって思ったんだろうな。彼らしい思考だ。

 ……いや、直接聞いた訳じゃないから、あってるかどうかはわかんないんだけども。

 

 ちなみに悟空さんとチチがくっついた時のために用意しておいたクラッカーは、使った時滑った感満載だったものの回りの歓声に救われた。

 アイドルとしてのパフォーマンスは大得意だけど、囃し立てるとか、盛り上げるとかは素の自分じゃ無理みたい。そういう系は苦手なんだと改めて気づいた。苦い思い出である。

 

 しかし、結婚、結婚ねえ。

 俺はアイドルだから結婚なんかしない、というよりできない。

 というのは、ううん、言い訳に過ぎないかな。

 いい年通り越して結婚適齢期なんてぶっちぎってる俺だけど、この容姿と肩書きなら嫁の貰い手はいくらでもいるだろう。

 

 しかし俺の心を掴める男がいるとは思えないので、たぶん俺は生涯独身。

 それでいいよ。誰が好き好んで男に抱かれるか。ホモかよ。

 

 と、俺は悟ったような思考をしていたのだけど、恋に恋する乙女なタニシさんは武道会での電撃結婚に触発されてか、恋愛話やら婚活話をよく振ってくるようになった。興味のない話題ほど地獄に思える事はないぞ。

 つらい。

 

 

 

 

 最近は歌って躍るだけじゃなく、トークに演技にと多方面に進出するアイドルナシコ。

 リポーターの真似事したり、ゆるキャラになったり、野球の始球式に出たり。まあ色々やって、忙しい忙しいと動き続けているうちにあっという間に5年もの時が経っていた。

 

 前回の三年間より時間的猶予は多かったはずなのに、今回の方が時の流れが速く感じられて、まっったくと言っていいほど悟空さん達と関わる事ができなかった。

 

 ブルマさんとは、やはり頻繁に連絡を取り合っている。宇宙にまで名が届かんばかりのアイドルと初期の初期から知り合いだっていうのは、結構彼女の自尊心を満たすみたい。

 それはそれで嬉しい。俺が彼女達に何かしらの影響を与えられる事は、俺の自尊心だって満たす。

 

 ただ、5年も経てば、さすがに俺もいい年だ。現在転移当初から数えて43歳、前世含めれば63歳だ。

 見た目だって完全に大人の女になってしまった。ライブの時の明るい私とは打って変わって、目元の涼しげなクールな美人さん。……って、自分でいうのもなんだけど。

 

 体はまだ若いとはいえ、胸はもうオバサンだった時と同じくらいの大きさに達している。

 重くはないが……いちいち邪魔だし、うざったい。要らないんだよなあ、こういうの。

 

 でも、俺が自分のおっぱいを疎ましがってるのはタニシさんには絶対に内緒。

 恵まれない彼女の前でそんな素振りを見せたら百年の友情だって殺意に変わってしまう事請け合いだ。

 いいじゃん、まな板。俺はそっちの方が好きなんだけどなあ。

 

 こんなだから彼氏もできないんだ、もう一生結婚できないんだって嘆きつつお酒を(あお)る彼女に付き合って酔っ払えるようになるまでにはあと一年必要か……。短いようで長い。

 はぁー、はやく俺も酔えるようになってこの愚痴を聞き流せるようになりたいよう。

 

 

 

 

 ガーリックJr.がドラゴンボール使っていたのを見たから太陽に投げ飛ばしてやった。

 お前俺がせっかくやる気だしたってのに何やってくれちゃってんの。

 ブルマさんから借りたドラゴンレーダーが泣いてるんですけど。

 永遠に死と再生を繰り返してろばーかばーか。

 

 もういい。今日は疲れたから帰って風呂入って寝る。

 って、悟飯ちゃんが取り残されてるよ。

 悟空さんがマッハで飛んできてるみたいだから、彼がくるまで相手してあげよう。

 

 ほーら、べろべろばー。アイドルのナシコちゃんだぞー。

 ……うわあ、凄い戸惑われた。精神年齢見誤ったな。

 落ち込んでいると、逆に悟飯ちゃんに慰められてしまった。

 これじゃどっちが御守りしてんのかわかんないね。

 

 悟飯ちゃん攫ったと勘違いされて悟空さんにめっちゃ睨まれたのがトラウマになりそうな今日この頃。

 この後めちゃくちゃ涙で枕濡らした。

 

 

 

 

 地方巡業してたら隕石降ってきた。

 ……隕石じゃなくてポッドじゃん!?

 これは……ふっふっふ、なんたる偶然か。前々から温めていた作戦を実行せよとの神様の思し召しかな?

 そうと決まればちゃちゃっとお仕事終わらせてカメハウスまでひとっ飛びしなくちゃ!

 

 

 

 

 やってきましたカメハウス。

 能天気な俺と違って、小島には緊迫した雰囲気が満ちていた。

 

 ラディッツ発見。見事なMハゲである。でも髪はもっさもっさしてるね。顔埋めたい。髪質固そうだけど。

 建物の陰に身を隠しているピッコロも上空からなら丸見えで、ついでに家の壁に突き刺さってるクリリンの足も良く見えた。

 

「! また警戒信号か……故障してやがる」

 

 スカウターを弄ったラディッツが忌々しげに吐き捨てたその瞬間に悟空が仕掛けた。

 が、膝蹴りを腹に受けて倒れてしまう。

 戦闘力の差が如実に表れているな……。

 

 ラディッツが悟飯ちゃんを脇に抱え、高笑いを上げながら飛んでいくのを見下ろしつつ、こっそりとついて行く。

 これからの作戦においてスカウターに探られてはたまらないから、極限まで気を抑えての移動になるため、ラディッツに追いつく事ができずすぐ見失ってしまった。

 が、気のコントロールができない彼の気配は駄々漏れだ。ちょっと探れば居場所なんて手に取るようにわかったので、そちらへ飛んでいく。

 

 ……あっ、今下をカカロットとピッコロが通ってった!

 俺ももう少し急がないと、戦いを見逃してしまうぞ!

 

 

 

 

「魔貫光殺砲ォーーーーッッ!!」

「ぢぎっ……ぢっ、ぢぎしょぉおおお……!!」

 

 動きを止めるために羽交い絞めにしていた悟空さん諸共、螺旋を伴う光線がラディッツを貫く。

 こうなる事を知っていて高みの見物をしていたのだけど、悟空さんの『やり切った』って笑顔を見てると、なんともいえない気持ちが胸を満たした。

 

 ピッコロがラディッツへと近付いていく。その最中に交わされる、一年後に現れる二人のサイヤ人の事。ドラゴンボールの事。

 ……これで悟空さんの修行フラグが立ち、そしてナッパとベジータがここへ来る事が確定した。

 さて、と……そろそろ俺の出番かな。

 

「さ、さらに強い戦士が……!」

「ひっひっ……一年の間に、せいぜい楽しんでおくんだな……しょ、所詮貴様らは」

「! むおっ!?」

 

 話を遮るように放った光弾が、とどめを刺そうと腕を振り上げていたピッコロの真横に着弾した。

 凄まじい土煙と風が巻き起こる中に髪を押さえて飛び込んでいく。

 悪いがラディッツは貰った!

 

 顔を顰めて倒れ伏す弱虫兄貴の尻尾を掴もうとして、不意に何かが俺の腕に触れた。

 

「ずあっ!」

「ひゃあ!?」

 

 こっ、これはピッコロの腕!

 伸ばされた腕に掴まれて煙の中から引き出された俺は、空中で体勢を整えて着地し、素早く状況を確認した。

 ……あーら、ピッコロさんってばきっちり俺を視認してるじゃないか……まいったなあ。

 

「な、なにものだ、きさま……! こいつの仲間か!」

「…………」

 

 だが、こういう事態は予想済みだ。

 万が一にも俺がナシコであるとわからないようにきっちり地味子に変装してきた。これで何食わぬ顔してナシコの時に会いに行けるぞ。

 ……?

 あ、あああっ!? 「誰だ!」と問われた時のための台詞は考えてなかったあ!?

 ど、ど、どうしよう。どうすればいい?

 

 ええい、こうなったら!

 

「ふっふっふ……」

「何がおかしい……!」

 

 笑って乗り切れ大作戦を実行したら、めっちゃ睨まれた。

 ピッコロ、頭に血管浮かせまくって今にも攻撃を仕掛けてきそうだ。怖い。ちびりそう。

 だが、映画やドラマで培ってきた俺の演技力を舐めちゃいけないぜ。なんとか取り繕って、何か、何か台詞を考えなくちゃ!

 

「ッ……!」

 

 ザッと一歩踏み出し、両手を広げてみせれば、気圧されたようにピッコロが息をのんだ。

 にまり。口の端を吊り上げ、眼鏡のレンズ越しに彼の顔を見据える。

 ここらへん、全部ノリである。人間ノリの良い方が勝つのだ。

 ついでに頭に浮かんだ台詞を吐いて逃亡する事にしよう。

 

「私の名は、セル。……人造人間だ」

「!」

 

 渾身の若本ヴォイスを真似た自己紹介(似てない)にピッコロが目を見開いて驚愕し、しかし人造人間とはいったい何かがわからず戸惑っているうちに、そっと両手を自身の額に当てる。

 

「太陽拳っ!!」

「ぐわあっ!?」

 

 カアッと世界が光で満ち、その隙に俺は気を探ってラディッツの位置を特定し、舞空術で飛び立つと共に彼の戦闘服を引っ掴んで攫った。

 ピッコロは目を押さえて悶えている。あれなら追って来れないだろう。

 

 とりあえずは第一関門突破。

 さて、お次は勧誘と洒落込もうか。


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