戦姫絶唱シンフォギア オーバーロードっ!   作:昼寝魔

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第1話

 ……最後にお会いできて嬉しかったです。お疲れ様です」

 

 

 YGGDRASIL(ユグドラシル)が世界の一つ、ヘルヘイムのグランデラ沼地の奥深く

 ナザリック地下大墳墓の円卓に響く声

 その言葉を最後に、彼へ仲間からの声は届くことは無かった

 

 なぜ、こんなことになったのだろうか

 

 ナザリック最奥、玉座の間にて

 ぐるぐるとそんな考えが頭の中を回っていた

 

 モモンガはギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド長だ

 

 今日はまさに人生を捧げたと言っていいユグドラシルのサービス終了日である。だが、傍にはそれを惜しみながら共に最期を過ごす仲間はいない

 そう思うと胸の奥を焼き尽くすような感情でいっぱいになる

 

 

 ふと、視界の隅に映る時計に目をやる

 

 23:57

 

 あと3分

「それで全ては終わる、か……」

 

 幻想の終わり。そして明日からの毎日に、モモンガはため息をついた

 

 23:59:35、36、37 ……

 

 最後に向け、数えだす

 

 

 23:59:48、49、50 ……

 

 

 目を閉じ、覚悟し

 

 

 

 23:59:58、59 ───

 

 

 

 幻想の終わりを───

 

 

 

 

00:00:00  ………………1、2、3

 

 

 

 

「……ん?」

 時間は過ぎたはずなのに違和感を覚えた

 

 目を開け、周囲見る

 見慣れた自分の部屋は戻ってきておらず。ユグドラシルの玉座の間から変わってはいなかった

「……どういう、!?」

 

 

 

 

 瞬間

 

 

 

 

 目 の 前 に は

 

 

 

 

黒 い 、 黒 い 、 黒 い 渦

 

 

 

 

 意 識 は 伸 ば さ れ

 

 

 

 

 そ し て

 

 

 

 

「っ!?!!? 、モモンガ様ッ!!」

 

 

 

 

 

や わ ら か い か ん し ょ く

 

 

 

 

だ れ か が だ き つ い て く る

 

 

 

 

だ が う ず は と ま ら ず

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、孤独なる妄執の魔王は、ついぞ玉座に戻ることは無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、そこは薄明るい(・・・・)路地裏

 

「──な、何が起こったんだ……」

 

 頭がフラフラする

 

 まともに考えが定まらない

 

 ここは、外、だろうか? 

 

 そこで、()はある事実に気が付き、顔を蒼白に染め上げた

 

 先程まで、部屋でVRゲームをしていたのだ

 

 

 

 

 

 今、自分はフィルターを付けていない(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「ヒッ!!??!?」

 

 まずい、まずい、まずい! まずい! マズいっ!!! 

 

(し、死ぬっ!! ど、どこかっ、何処かに入らなきゃっッッ!!?)

 

 慌てて口を、手で塞ぐ

 やらないよりはマシだろうが意味はほとんどないだろう

 

 だが、同時にある事に気がつく

 

「呼吸が苦しくない……?」

 

 それに、余りにも明るい、空は常に化学薬品の厚い雲により暗くなっていた筈だ。空を見上げてみれば、建物の隙間から覗くその景色は、悟に突き付けられたさらに信じられない事だった

 

 

 

 青い、空

 

 

 

 自分が住んでいた地域であるはずがない景色

 

 いや、今の地球で見ることができるのは、ある場所以外では考えられないだろう。もし、考えられるとするならば、その例外とは大きなスクリーンに映し出された、偽りの青空であり、だとするならば

 

「アーコロジーの中……」

 声が震える、背筋も凍るようだ

 

 自分の身に起きた異変も怖いが、それ以上に、この場所に存在してしまっていることに恐怖する

 

 何が起こったんだ、自分はただ、サービス終了を迎えるゲームで、愛するギルドのNPCらと共に終焉を見届けていただけだ

 

「う、うぅ…………」

 突然聞こえた呻き声に驚き、声の元を確かめる

 そこには艶やかな黒髪を伸ばし、幼さを残す、つい最近何処かで見たような顔し、汚れひとつない肌をした少女が倒れ込んでいた

 

 

 全 裸 で

 

 

「うぇえっっ!??!?!」

 つい奇声まで上げてしまう

 

 これは事案ではないだろうか

 

 アーコロジーの外に住むような見窄らしい姿ではない。裸だが明らかに身分の高そうな手入れされた見た目だ

 

 自分はアーコロジーに無断で侵入した罪だけではなく、高貴な少女を誘拐して裸に剥いた罪まで付いてきてしまうのだろうか。なんだか一度に色んな事が起こりすぎて頭が回らない

 

 そういえばなんだか寒いな

 

 思考を逸らしたくてついそんな事を思った

 

 自分の身体に目を向ける

 

 汚れのない白い肌、真っ白い艶やかな髪、白魚のような手、大きな胸、引き締まった腰、カモシカのような足

 

「??????????????????????」

 

 わからない

 

 

 なにこれ

 

 

 えぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……!」

「ぴゅぃっ!?」

 あまりの事に思考停止していると、路地の表と思しき方向から声を掛けられた

 

 視線を向けると、綺麗な服を纏った黒髪の少女

 

 間違いない

 

 アーコロジーの人間だっ

 

「な、にゃ、にゃんでしょうっ!!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「ひゃいっ!!」

 

 逆らってはいけない、無視してもいけない、ちゃんと答えないと、こ、更生(終了)施設にっ

 

「あの、なんで、は、裸なんでしょう?」

「はいっ! き、気がついたらこんな格好で、こ、ここっ、ここに居ましたっッ!!」

 

 少女は困惑しているようだ

 全裸の賎民(・・)がこんなところに居たらそう思うのは当然だろう

 

「お願いしますっ! 殺さないでください!! 私は本当に、気が付いたら、ここにっ、ここに居たんです!!!」

 サッとアスファルトの地面に土下座し命乞いをする

 通じるのかは分からない、けど死にたくない

 

 アーコロジーに無断で侵入した人間の末路は悲惨な物だと聞いている

 

 無断で侵入する者などテロリストくらいだからだ

 

 死にたくない、死にたくない!!! 

 

「えっ、ええ!?」

 

 驚かれた

 やはりダメなのだろうか、更生()しかないのだろうか。そう絶望していると、少女は少し考えた後、こちらに向けて言い放った

 

「と、取り敢えず、毛布か何かを持ってくるので少し待っていてください!」

 

 そう言って少女はかなりの速さで走り去って行った

 

 顔から血の気が失せる

 何かヤバいクスリをキメた薬物中毒者が発狂しないように取り敢えず安心させて警備員を呼びに行くんだろう

 

 自分自身でも先程の胡散臭い弁明は無茶だと思った

 

 終わりだ

 

 悪い方へ悪い方へと考えが転がる

 

 絶望しながら、ここで逃げても更に酷い事にしかならないだろうと諦め、建物の壁に寄りかかりながら項垂れているといつの間にか先程の少女は戻ってきていた

 

 しかし、警備員は連れてきている様子はなく、その腕には綺麗な毛布が二つ抱えられていた

 

「あのっ、取り敢えず、すぐそこに知り合いの女の人がやっているお店があるので、その子と一緒に来てくださいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況を飲み込めないまま、しかし逆らうのもダメだろうと思い、言われた通り毛布を被り気絶していた子を抱え少女の言う「知り合いの店」に着いた。店主と思しき方には事前に何か伝えていたのか、何か不憫なものを見る目を向けられながら店の居住スペースに上げてもらえた

 

 違和感が酷い、普通全裸の()を介抱しに、毛布を取ってきて、「知り合いの店」に連れてくるだろうか

 

 それに店の中にある物も見慣れない物ばかりだった、最新の物だから、と言う意味ではない。まるで、"旧時代"の物ばかりを集めた骨董屋にも思える

 

 少女を怒らせないように注意しながら尋ねる

 

「あの、貴女方は、アーコロジーにお住まいの方、ですよね?」

「……アーコロジー?」

 

 そうして得られた情報は驚くべき事だった

 

 彼女らはアーコロジーを知らなかった

 

 それも当然だった

 

 今は201X年

 

 自分がいた2138年からざっと120年も前の、まだ人類が汚染されきっていない地球に住んでいた時代だったからだ




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