空狩少女のヒーローアカデミア   作:布団は友達

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おお、これがハーメルン……!!


プロローグ:入学前
一話「アイスこそ至高」


 人類の超能力発現が普及し、それらは“個性”と一語に納められ、以降は常識の如く、さも生来から持ち合わせぬ者は欠陥品とでも謂われてしまう超常現象が当たり前の世界となった。

 強力且つ神秘的な力を有した人間は、力を個々の信念、私欲の為に行使するようになり、時に超能力社会黎明期には体制が不安定だった所為もあって、抑止力となる法律なども確立しない不安定な時代に、一種の界隈では専ら他者を考慮しない悪党の身に堕ちる者が居た。

 

 そんな彼等を止めるべく、目には目を、歯には歯を、超能力には超能力――かの復讐法ではないが、対抗策としては同等の力が必要だった。

 故に、次第に悪党を抑止する存在が立ち上がり、いつしかそれは公職として認められ、皆の羨望を浴びる英雄の形となった。

 これこそ、現代で言う――『ヒーロー』である。

 

 時代は経過し、悪党もヒーローも跳梁跋扈する世。町中でのビル倒壊や拉致事件も日常茶飯事、互いに拮抗する正邪の働きは、しかし一向に鎮まる気配を見せない。

 しかし、ある時に一人の圧倒的ヒーローが現れ、瞬く間に仄暗く社会の底に燻る悪意の火焔を消し去り、火種の再発を最小限に留める存在へとなった。

 今は誰もが識るヒーロー――我等が『オールマイト』だ。

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 中学三年の夏――。

 

 帰宅途中の少女は、家電製品売場の窓から覗くテレビの画面で、近所で発生した連続強盗殺人事件の犯人による被害状況を放送するニュースを見た。

 心強い抑止力が存在したとて、やはり人の悪意はいつの時代も消えない。無感動に画面を見詰めながら棒アイスを咥え、ソーダ味を噛み締める。

 いつまでも窓の前に立ち止まった彼女を、道を通行する皆が見遣る。茹だる暑さ、地面から蒸し上げられるような暑さに疲労の蓄積は加速する中で、少女は汗一つすら掻いていない。

 いや、視線を集めるのは、偏に彼女の容貌ゆえなのだろう。

 

 薄紅のストレートショートに整えられた頭髪は、寝癖なのか何本か自由に毛先が跳ねている。同色の瞳は興味があるのか無いのか、テレビを凝視していた。

 空いた片手には、黒い猫耳の形がある帽子を持つ。恐らく、店までは熱中症対策として被っていたのだろう。

 夏の日射に当てられてなお、日焼けすら無く、寧ろ透き通って見てる白皙の素肌。

 倦怠感で微かに瞼を伏せたつり目がちだが、口や鼻は小作りで鼻梁の整い、だらしなく棒アイスを咥え、笑顔を振り撒けば周囲を誘惑する可憐な面貌。

 少女の無表情さや色白の肌が相俟って、精緻な人形なようであった。

 服装は大胆に、というよりは衆目を全く意に介さない本人の性格が顕著に表れていた。臍や腹部を晒したノースリーブのクロップドTシャツ、レギンスにサンダルの姿は完全に寝間着であるが、肉置きは平均的といえど所作の一つずつが艶やかで異性の気を惹く。

 本人は意図しておらず、下心満載の視線も把握していない。

 しかし、間の抜けていて、しかし艶麗な外貌とは別に、注視を募らせるのは頭頂部でぴくぴくと動く獣の耳。三角の形の耳介は、尖端が白く頭髪の中では目立つ。猫と思われる細身の尻尾もまた、本人の感情を代弁しているのか、だらしなく垂れ下がる。

 

 路傍に屯していた男達が、誰が遊びに誘うか、その手法などについて詮議している。遂に作戦実行に動いた男達は、不意に発見した優良物件たる少女に狙いを定めて歩み寄った。

 少女の肩に手を置いて、一人が笑顔で話し掛ける。

 

「やあ、お嬢さん一人?」

「…………?」

 

 所謂ナンパを受けた当の本人――少女は、周囲を一度だけ見渡してから、小首を傾げて自分を指差した。頑固にも、会話を求める相手を前にして、アイスを口から放す積もりは無いらしい。

 マイペースな彼女に苦笑しつつ、それでも男達は挫けず攻勢に出る。

 

「良かったら、一緒に遊ばない?ご飯も奢――」

「アイス以上は存在しない」

 

 無表情だが、どこか生き生きと断言する少女。

 溶けたアイスを心惜しげに眺めてから、早々に齧りまくり、ソーダ味に閉じ込められていた骨子であった棒を暴く。

 

「……なら、良い店、知ってんだぜ?案内しようか?」

「そうだよ、俺らと来たら楽しいよ」

「どうよ、どうよ?」

 

 逃がすまじと、男は詰め寄る。

 良い店……少女はぽつりと呟き、顎に手を当てて思案顔になる。目前の男の秘めた下品な心なぞ感知しておらず、純粋にアイスのみにしか趣向が無い。尻尾が悩ましげに『?』の形を作る。

 あと一歩と考え、強引に連行せんと肩に手を添えて催促しようと男が歩く。

 

 ――その寸前で、背後の空気が炸裂音を立てた。

 空気が爆ぜた音、瞬間的な閃光。男達がびっくりして振り向けば、鬼の形相で佇む(ヴィラン)――否、少年が掌中で“個性”を小さく、何度も爆裂させていた。

 

 それこそ、自身の“個性”でも直撃したかの如し爆発頭の無造作な乱髪。前髪の下で鋭く細められた三白眼は、およそ一般人が発せられる類いではない殺意を孕んでいる。本来ならば端整な面差しも、これでは台無しだ。

 タンクトップにカーゴパンツ、サンダル姿だが、鍛えられた筋肉は憤怒の感情に血管を浮き立たせていた。

 

 男達が怖気を震って後退りする中、少女が片手を挙手して挨拶する。すると、少年が忌々しげに舌打ちした。

 

「てめぇ、どこそこほっつき歩くなッてんだろが!」

「貴方のペットじゃない。私を飼いたくば、養える程の経済力と……その犯罪者面を矯正してから来て、勝己くん」

「ああン!?喧嘩売ってンのかテメェ!!!」

 

 男達が隙を見て逃走したのも知らず、怒号を響かせて躙り寄る少年――爆豪勝己は、片手のビニール袋を少女の胸に突き付けた。

 

「頭の血管が心配……でもなかった。そのままご臨終して下さ――痛い痛い頭を摑まないでニャン」

「媚びて今さら猫ぶってんなクソが、無表情だと効果ねえっつの。それがアイスを奢って貰ったヤツの態度かよ、アァン?」

 

 アイアンクローから解放された少女は、自身の頭を押さえて頭蓋の調子を確かめると、ふむと頷いて歩き出した。

 勝己が渋々とその隣を歩き始める。ふと、彼は横で動く猫耳を見た。……楽しい時の反応だ。

 その視線を訝った少女は、振り向いて首を小さく傾げた。

 

「触りたい?」

「思ってもねぇんだよ、爆発したろか」

「良いよ……勝己なら、私……」

「ちょっ、おまっ、はぁぁあ!!?」

 

 少女が目を潤ませ、勝己の体に寄り添う。両手を彼の胸に置き、一度だけ見上げてから頬擦りする。急接近に狼狽する彼の様子などお構い無しであった。

 蠱惑的な彼女の体温と体の柔らかさに、勝己は口の開閉を繰り返していた。平時の罵倒癖で跳ね返すところだが、少女相手では全てが無効になる。

 逡巡の末、躊躇いがちに耳に手を伸ばす。

 

「――うん、やはり男は単純だね」

 

 無機質な少女の声、それと同時に体が離れる。

 また無表情で歩き出す相手に、呆然とする勝己だったが、自分が弄ばれていたと察して、手中で連続爆破を行いながら、凶相で走り出す。

 少女は無表情、しかし、白い肌がわずかに蒼褪めた。……やり過ぎた、との後悔である。少女も足を稼働させ、全力疾走で逃れんとする。

 

「待てやクソ女ァア!!いっちょテメェの根本から躾てやらぁ!!」

「私を飼い慣らした積もりなら、勘違いも甚だしいぞ爆殺王」

「てめッ……俺が密かに考えてたヒーロー名を――」

「悲しいよ、知り合いが刑務所なんて。私は面会には行かないよ」

「俺は敵じゃねぇぇええ!!」

「お務め御苦労様です」

 

 力走する少女と猛追する少年の画。

 勝己の友人である二人組は、夏休みの情景としてこれを何度も見ていた。喫茶店のオープンテラスの席に腰掛けて、それをいつものように見送る。

 

「凄ぇ煽るな、捉把(そくは)のやつ」

「てか爆豪がぶっ殺す言えないの、アイツだけだもんな」

 

 疾駆する少女――捉把を見て、二人は頷いたのだった。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 二人が知り合ったのは、今年の春である。

 今や巷で有名なヘドロ事件にて、幼馴染の少年の活躍に、無自覚な焦燥などで荒んでいた勝己が、気晴らしに拉麺店にて強烈な辛味を注文した時だった。飯が来るまで、とカウンター席で苛立ちながら水を飲んでいた彼は、ふと隣で食事する少女を見た。

 何やら、自分が先程頼んだ品に悪戦苦闘であるらしく、無表情だが顔色は赤く、箸を止めて見下ろしていた。

 ざまぁねぇ、と嗤っていたが、突如として横から麺を数本箸で取った少女は、勝己の口許に運ぶ。慌てて回避した彼が睨むと、彼女が途方に暮れた顔だった。

 

『物欲しそうに見ていたのに』

『……今は気分が良くねぇ、絡んでくんならぶっ殺すぞ』

『君、確か……そう、ヘドロに脳まで汚染されて言動にまで影響があったなんて。傷は深い、か……』

『はァん!?殺されてぇってんなら、正直に言えやクソカスがぁ!』

 

 キレっキレの面罵の最中に、口内に麺を叩き込まれて勝己は閉口する。少女が嫣然と微笑み、箸を引いていく。中学校では才能の塊と継承されるが、さしもの勝己でさえ理解が追い付かぬ状況だった。

 少女は麺の終端から飛び散った汁で汚れた彼の口許をティッシュで拭う。

 

『美味しい?』

『…………おう。?ッて何してんだゴラァァァアッ!!』

『まだ動かないで』

『!!?』

 

 急に真剣な眼差しの彼女に射竦められ、停止した勝己は為されるがまま、口を拭かれた。

 少女が再度笑った。――が、それは嘲笑の類いである。

 

『面白いね、君』

『殺す、これは俺の決定事項だ。絶対ぇ爆殺する!!』

『服だけ爆発で破いて、私を美味しく頂戴する心算か』

『んな器用な爆撃がある訳ねぇだろうが!?』

 

 ふっ、と少女が笑った。

 

『出来ないの?見かけ倒しだね』

『クソが、出来るわボケ!!!』

『今はやめてね。あとおじさん、追加注文で警察をお願い。ここに敵予備軍がいます』

『『注文、警察一丁ッ!!』』

『呼ぶなクソがぁぁッッ!!!』

 

 これを始点に、紆余曲折を経て勝己は捉把と町で度々遭遇し、彼女に振り回されている。

 また、勝己が自身の志望と同じ私立雄英高校を目指し、勉強している事も知って、捉把が家に押し入って勉強会を催し、強制的に彼を教師役に就かせて日々受験勉強に励んでいる。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

「爆豪にも春が来たんだな」

「聞こえたら殺され――っぶねぇ!!」

 

 聞いていた爆豪が“個性”で放ったゴミが弾丸と化し、頭を掠めて行く。

 

「一般人に攻撃とは、貴方は本当にヒーロー志望?」

「その減らず口、今すぐ潰したらァ!!」

「口で?」

「んなッ……!?」

「ぷっ」

「殺す!!」

 

 商店街を賑わせる二人を見送る人々が苦笑した。

 彼等は予感もしていないだろう。

 この二人――否、これから二人が出会い、共に学んで行く仲間達が、未来のヒーロー界を大きく震撼させる存在に成長するとは考えてもいない。

 

 これはそんな面子の一人――空狩(そらがり)捉把(そくは)の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~おまけ~

 

 

 

捉把「捕まった、さすが勝己くん」

 

 彼の自宅に到着する頃には、首根っこを摑まれた捉把が居た。肩で呼吸をする勝己とは違い、敗北感すら滲ませぬ涼しげな顔である。

 およそ捕まったとは思えぬ緊張感の無さであった。

 

勝己「てめ……足だけは……早ぇ……クソが……」

 

捉把「そうだね、少なくとも勝己くんよりは。これから勉強会第二回戦を始めるにあたって、それでも私を追い詰めたんだから、ご褒美あげるよ」

 

 勝己がまたキレる前に、膝に手を付いて前傾姿勢の彼の汗ばんだ額に口付けをした。

 唖然として、暫くして顔が真っ赤になる。

 

勝己「テメェ……絶対ぇ他ではやんなよ」

 

捉把「え、駄目なの?私の母さんはよくやってたけど」

 

勝己「どうやら、テメェのクソみてぇな脳みそを一回ぶちまけてから、積め直さなくちゃなんねぇみてぇだなァ……!!」

 

捉把「???どうし――あ、やめて、それやめて」

 

 爆豪家に悲鳴が轟いた。

 

 

 

 

 

 




処女作です。
批判なども受け付けております、宜しくお願い致します。
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