空狩少女のヒーローアカデミア   作:布団は友達

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三話「悔しい時はたこ焼き」

 

 蒼空の下の大号令が轟いた。

 

『スタ――――――ト!!』

 

 会場に整列していた生徒が一斉に駆け出す。

 捉把は出口が隘路であり、人数から競い合って出る際に誰よりも前に出る為には先行する場所へ行かざるを得ないと了解していた。想定していた以上に決河の勢い、誰もが戦略的な譲歩を知らない野性的なスタートダッシュ。序盤から鎬を削る生徒の熱気に、開始直後から会場の熱はさらに一段と高まる。

 轟然と出口へ向かう生徒の頭を踏み台に跳躍し、一人の女子生徒は先頭に降り立つ。強かに先頭付近でスタート前に控えて走行していた轟も瞠目する。目前に揺らぐ灰色の頭髪が、生気を取り戻して薄紅色を咲かせた。解説席で相澤が密かに笑う。

 先頭に躍り出たのは、髪色を復活させた空狩捉把。以前と異なるのは、獣の耳の耳介、その先端が茶色である事。何に起因した変化であるかは不明だが、明らかに様子が一変した。

 捉把は猛然と先頭を突っ切る。

 猛追する轟は、此所で後方の足場へと地面を凍土に変換した。出口から溢れた者達は、足を地面に氷結されて身動きを封じられてしまった。必死に抵抗するが、強固に固定されている。完全なる妨害、最初から仮借無い攻撃だった。

 しかし、その弊害を飛び越えて来るのは、襲撃戦を共に乗り越えた生徒達である。勝己が爆破で俊敏な空中移動を繰り出し、先頭二名の背中を追跡した。続く者達も、其々の手法で壁を跳び越えるが、誰よりも注目を集めたのは出久である。

 以前なら”個性“の反動で重傷必至だった筈が、力は抑制されているとはいえ、今や超人的身体能力を発揮し、勝己の背後に付いていた。無論、直近は危険と断じて低い前傾姿勢、隣に並走するのを目指して足を前に捻り出す。

 先方の捉把は、背後の気配を窺いつつ力走を止めない。約4㎞――種目は障害物とあらば、いずれは足を阻む物が出現する。それに備えていなければ、それこそ普通科の男子生徒の予言通り、足下を掬われて堕ちるのは自明の理。轟とも距離を引き伸ばして行く捉把だったが、眼前に突如として立ち塞がる巨影に顔を上げた。

 

『さあ、第一関門――ロボ・インフェルノ!!』

「……初めて見る奴だ」

 

 入試試験で0pの仮想敵と遭遇しなかった捉把としては、この聳え立つロボの姿は初見だった。入試試験の説明で予め受けていたが、捉把の脳内では既に忘却の海底に沈澱している。大量の仮想敵が足場を封鎖し、捉把の前に群がった。

 刹那の当惑――しかし、捉把は地面を蹴った。峻険たる霊峰の斜面すら駆け上がる羚羊、脚部をその生態を変化させ、巨大仮想敵の体を踏み台に跳躍し続け、文字通りその頭上を駆ける。更にそこで待ち伏せしていた小さな敵の攻撃には、能力を解除した状態で躱して前進を続けた。

 順調に抜けていく捉把だったが、足場から押し寄せる冷気に戦慄を覚え、咄嗟に飛び上がった。足場だった巨大仮想敵の半身が氷によって凍結し、捉把の過去位置まで氷が張っている。

 予想以上に迅い轟の速度に驚きつつ、捉把は全力疾走を再開した。敵の頭から飛び降り、地面に着地した時には、轟は隣を追い過ぎる。今度は捉把が追跡者として、轟を追走した。

 

「そういや、おまえが居たんだった」

「酷いね、私の印象はそんなに薄かったかな?」

「そんな事は無い――クソ親父が見てるからな」

「……成る程、なら尚更君に勝利の栄光は譲れない」

 

 捉把と轟が全力を懸ける。

 その足が第二関門へと突入した。

 地下深くまで穿たれた崖には、幾つか点々と柱の如く建ち、足場となる地点があった。其々が綱で連結されていた。今度は純粋な機動力を奪う難路にも、二人は動じない。

 捉把は『空間』を発動し、轟が渡る先の地点に立つ。目を瞠る彼の前で、長い猫爪を出して綱を切断した。落下運動が始まる直前で、轟は綱の断面同士を氷結し、余裕綽々と捉把が立っていた場所まで辿り着く。

 先程と同じ手法で瞬間移動を繰り返し、捉把は轟の妨害を継続するが、一向に止められる気配は無い。

 二人の首位争奪戦を特に見詰めるのは、解説の相澤と観戦席からモニターで観察するヒーロー。中でも爛々とした瞳を輝かせ、鍛え抜いた鎧の如き肉体を更に猛火を纏う周囲のヒーローとは風格も桁違いな存在感――No.2ヒーロー・エンデヴァー。

 特に轟への執念深い眼光は、それこそ目から火を吹かんばかりの威勢である。しかし、その目は時折その横を走る捉把に向けられた。二つの強力な“個性”と、卓越した才能。周囲とは一線を画する轟焦凍に比肩する存在に、素直な好奇心を懐く。

 自宅で姉と会話をする息子の声に聞き耳を立てていた際、クラスメイトに同じく“個性”婚の生徒が居たと聞いた。あの強“個性”が二つも偶然に併さる訳が無い、話題の人物が彼女であるとは即座に理解し得た。

 

「複合……焦凍と同じか、面白い小娘だ」

 

 エンデヴァーの相に狂気の炎が逆巻く。

 

 一転して、捉把と轟は第三関門へ到達していた。追随を許さぬ圧倒的な二人の驀進に、付いて来れる人間は錚々いない。

 今度は平坦な地面が設けられた地勢。しかし、解説のプレゼントマイク曰く、この場所には無数の地雷が仕掛けられており、それを判別して足場を選び進むのだという。捉把は目の鋭さに於いて自信はあるが、確かに速度を抑えて走らなければならない。轟も足下を睨んで走る。

 ――しかし、背後から轟々と爆破を連続して行い、空中移動でまたしても先頭に食い付いたのは勝己だった。捉把と轟の間を突き抜ける。

 

「俺には関係ねぇ!てめぇ、宣戦布告する相手を間違ってんじゃねぇぞ!」

「喋ってないで走るんだよ、勝己くん」

「だから、んでてめぇはキレてんだコラァッ!!」

 

 首位を争う人数が三名に増員された中、背後の地面が盛大に爆ぜる風に吹き飛ばされかける。危うく転倒しかけたのを踏み堪えた直後、頭上を切り裂いて前に出た人影を見咎めた。勝己以上に強力な“個性”を宿した生徒がまさか居たとは思いも依らず、今まで隠していたのは何者か。

 捉把は顔を上げて、喫驚に唖然とする。

 三人を振り抜いたのは、緑谷出久だった。勝己は片腕を氷結されながらも、片手の爆破で速度を維持し、後続の加速に繋がる事を厭うても仕方無いと轟は前方を氷結させて滑走する。

 捉把もまた上の体操着の脱いだ。下はチューブトップとなっており、肩や臍を大きく露出していた。最近は成長中なのか、胸の深い谷すら覗いており、観客席から響き上がる不埒な歓声と、包帯の下で嘆息する相澤。ヒーローは絶句すらしていた。エンデヴァーは依然として実力だけを量る。

 肩部から両翼を出し、空気を叩いて氷面の上を滑空した。三人の後ろになってしまったが、彼女もまだ諦観していない。会場の入口に近づくが、トンネルの先へまず最初に飛び込んだのは――

 

『さァ……この結果を誰が予想したァ!?第一種目を一位で通過したのはこの男――緑谷出久だッ!!!!!』

 

 勝己と轟も到着。捉把は四位であった。

 ふと、出久の視線の先を見遣ると、そこにかつての訓練で時間を共にしたオールマイトのマネージャー八木が居る。拳を握って示し合わせる二人は、並々ならぬ歓喜と強い想いを感じた。

 捉把もまた解説席を見上げて、相澤に手を振る。包帯の下で表情は窺えなかったが、頷いた挙動を見るに「取り敢えず、よくやった」との事だろう。本来ならば首位になった姿を提供する腹積もりだったが、敢えなく野望は潰えてしまった。しかし、まだ優勝はある、捉把はライバルとして出久を再認識した。

 捉把は腰に両手を置いて、出久の前に立った。

 

「してやられたよ、さすが出久くん」

「あ、ありが――ちょっ、空狩さん!?」

「うん?」

「てめぇ、何だそのカッコは!?」

「え?」

「……着るか?」

「?自分のがあるから大丈夫だよ、ありがとう」

 

 口々に捉把の姿に反応する上位三名。

 カメラまでもが捉把へとズームアップしていた。見目麗しい美少女が晒す素肌、年からは見えない筈の妖艶な雰囲気に誰もが釘付けとなっている。男子勢の注意を受け、襟を開いたままで着衣した。勝己はまだ不満げに見ていた。

 

「何さ、まさか見たかったの?」

「……何でもねぇ」

「後で“中”を見せてあげるよ、勝己くん……なら」

「てめっ……キチガイか、あ!?」

「ふふ、冗談だよ」

 

 脱落者を除き、全員が到着して暫ししてから、ミッドナイトが現れた。捉把はまたしても勝己の両目を手で塞ぐ。

 第二種目は騎馬戦。

 四人以上で騎馬を組み、上に乗る頭目が順位に振り分けられたポイントの鉢巻の総てをチームから託される。後は名の通り、騎馬で鉢巻争奪戦である。

 チーム決めの時間となり、捉把が誰と結託するか否か、個々の戦力も考え勘案していると背後から肩を叩かれた。

 

「お前、組んでるヤツは?」

「ん?いや、まだだけど――」

 

 その時、捉把の意識が暗転した。

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

「――あれ、これは……?」

 

 次に意識が戻れば、騎馬戦は終了していた。

 三位で通過している、自分はいつしか心操チームという名義で第二種目をクリア。何事かと周囲に視線を奔らせれば、尾白やその他の人物は困惑や屈辱に震えている。ふと、その一団の中で悠々と構えているのは、あの大胆不敵な普通科の男子生徒だった。

 彼は捉把の隣を通り過ぎる際、肩を叩いた。

 

「お疲れさん、良い働きっぷりだったよ」

「…………」

 

 呆然とする捉把は、整列した生徒に加わった。

 第三種目は――戦闘。勝己の凶相がより凶悪に変貌する。轟はふと、捉把の表情が芳しくない事を察する。尾白が辞退を申し出る事すら耳に入っていなかった。説明を終え、其々の対戦表が画面に映される。

 捉把は望洋と自分の物だけを確かめ、観客席の方へと戻った。

 

「何をされたんだろう……?」

 

 あの男子生徒――心操とは、何者か?

 捉把の対戦相手は、強力な電撃を発する“個性”を持った上鳴。対策は既に脳内で完成しているが、それよりも心操の危険さに意識が傾く。

 とぼとぼと観戦席に向かう途上で、曲がり角から凄まじい熱気を放射する巨漢が現れた。道を妨害された彼女は、渋々と道脇に身を退けるも、一向に男は動かない。

 見上げた捉把は視界にそのヒーローを捉え……

 

「……どちら様でしょうか?」

「No.2ヒーローと言われている、エンデヴァーだ」

「何か用でも?」

「あぁ、先ほどの戦いを見て思ったんだが、空狩捉把――将来、轟焦凍の相棒にならないか?」

 

 捉把は唐突な提案に首を傾げた。

 しかし、相手の反応に構わずエンデヴァーは再開する。

 

「我が悲願を遂げるのはアイツだ、必ずや遣り遂げる。いずれはNo.1の座を恣にするだろう……そこで君だ」

「私……ですか?」

「あぁ、その強力な“個性”。焦凍の全力には敵わずとも、将来的に有望だ。さて、どうだ?」

 

 捉把は無表情、しかし暫し困惑した。

 突然出現した男性がNo.2を名乗り、息子の相棒を提案する。この奇観が第三者ならば兎も角、当事者となっては恐ろしくすらある。

 

「別に構いませんが、気分に拠りますよ」

「何だと、気分じゃ駄目だ!!確り答えろォ!!」

「取り敢えず、落ち込んでるので後にして下さい。悔しい時はたこ焼きと決めているので」

「おい、待て貴様ァ!!」

 

 捉把はその場を走り去った。

 

 

 

 

 

 ~おまけ~

 

 

 

「――という訳で、たこ焼きを温めて下さい」

「貴様、先刻の話を憶えているか?」

「ええ、将来は息子さんの嫁に欲しいという話ですよね」

「焦凍に結婚は早い!!焦凍ォォォオ!!」

「違いましたか」

 

 買った後のたこ焼きを持って、エンデヴァーと共に観客席に居た。彼の“個性”で満足な食感が出る好みの具合までたこ焼きを焼き直させる。

 エンデヴァーは交換条件と捉えて応じていたが、本人に飄々と躱されて益々噴火していた。

 

「エンデヴァーさん、熱いので離れて下さい」

「何だと!!?」

「あ、たこ焼きはあと二十秒お願いします」

「焦凍ォォォオ!コイツは何なんだァァァア!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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